説明

インフレーションフィルムの製造方法

【課題】エチレン−α−オレフィン共重合体からなる極めて強度の高いインフレーションフィルムの製造方法の提供。
【解決手段】エチレンから誘導される構成単位と炭素数3〜20のα−オレフィンから誘導される構成単位を含むエチレン−α−オレフィン共重合体インフレーション成形する方法であって、インフレーション成形機に備えられた環状ダイの樹脂吐出口の直径をDd、前記環状ダイの樹脂吐出口から当該環状ダイより押出されたバブルの直径が1.2×Ddである地点までの距離をH、前記バブルの最大径をDbとするとき、環状ダイの直径Ddと距離Hとが下記式(2)の関係を満たし、かつバブルの最大径Dbと環状ダイの直径Ddとが下記式(3)の関係を満たすインフレーションフィルムの製造方法。
η<1550×MFR-0.25−420:式(1)、
Dd×1.5<H<Dd×10:式(2)、
2≦Db/Dd≦10:式(3)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエチレン−α−オレフィン共重合体からなるインフレーションフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン系重合体からなるフィルムは、包装用、農業用、規格袋等幅広い分野で用いられている。特にエチレン−α−オレフィン共重合体からなるフィルムは強度に優れるため、種々の用途での利用が期待されている。しかしながらエチレン−α−オレフィン共重合体を押出し成形した場合には、装置(押出機)への負荷が大きく、長時間安定して製造することが困難であるという問題があった。
押出し成形した際に装置への負荷が小さいエチレン−α−オレフィン共重合体としては、特許文献1に開示されたような重合体が知られている。このようなエチレン−α−オレフィン共重合体を図1に示すような従来の方法でインフレーション成形して得られるフィルムは、強度に優れ、外観も良好であった。
【特許文献1】特開2004−292772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、インフレーションフィルムをラミネート用原反のような用途に用いる場合には、さらに強度に優れるフィルムが求められていた。
本発明は、エチレン−α−オレフィン共重合体からなる極めて強度の高いインフレーションフィルムの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち本発明は、エチレンから誘導される構成単位と炭素数3〜20のα−オレフィンから誘導される構成単位を含むエチレン−α−オレフィン共重合体であって、流動の活性化エネルギーが50kJ/mol以上であり、メルトフローレート(MFR;単位はg/10分である。)と190℃の剪断速度100rad/secにおける溶融粘度(η;単位はPa・secである。)とが下記式(1)の関係を満たすエチレン−α−オレフィン共重合体をインフレーション成形する方法であって、インフレーション成形機に備えられた環状ダイの樹脂吐出口の直径をDd、前記環状ダイの樹脂吐出口から当該環状ダイより押出されたバブルの直径が1.2×Ddである地点までの距離をH、前記バブルの最大径をDbとするとき、環状ダイの直径Ddと距離Hとが下記式(2)の関係を満たし、かつバブルの最大径Dbと環状ダイの直径Ddとが下記式(3)の関係を満たすインフレーションフィルムの製造方法である。
η<1550×MFR-0.25−420 式(1)
Dd×1.5<H<Dd×10 式(2)
2≦Db/Dd≦10 式(3)
【発明の効果】
【0005】
本発明のインフレーションフィルムの製造方法によれば、エチレン−α−オレフィン共重合体からなる極めて強度の高いインフレーションフィルムが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明で用いるエチレン−α−オレフィン共重合体は、エチレンから誘導される構成単位と炭素数3〜20のα−オレフィンから誘導される構成単位を含むエチレン−α−オレフィン共重合体である。
【0007】
エチレンから誘導される構成単位とは、単量体であるエチレンから誘導され、エチレン−α−オレフィン共重合体に含有される単位である。炭素数3〜20のα−オレフィンから誘導される構成単位とは、単量体である炭素数3〜20のα−オレフィンから誘導され、エチレン−α−オレフィン共重合体に含有される単位である。炭素数3〜20のα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン等が挙げられる。より好ましくは、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセンである。
【0008】
エチレンから誘導される構成単位の含有量は、エチレン−α−オレフィン共重合体の全重量(100重量%)に対して、通常50〜99重量%である。炭素数4〜20のα−オレフィンから誘導される構成単位の含有量は、エチレン−α−オレフィン共重合体の全重量(100重量%)に対して、通常1〜50重量%である。
【0009】
本発明で用いるエチレン−α−オレフィン共重合体は、上記のエチレンから誘導される構成単位および炭素数3〜20のα−オレフィンから誘導される構成単位以外の他の単量体から誘導される構成単位を含有していても良い。他の単量体としては、例えば、共役ジエン(例えばブタジエンやイソプレン)、非共役ジエン(例えば1,4−ペンタジエン)、アクリル酸、アクリル酸エステル(例えばアクリル酸メチルやアクリル酸エチル)、メタクリル酸、メタクリル酸エステル(例えばメタクリル酸メチルやメタクリル酸エチル)、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0010】
本発明で用いるエチレン−α−オレフィン共重合体として好ましくは、エチレンと炭素数4〜10のα−オレフィンとの共重合体であり、より好ましくは、エチレンと炭素数5〜10のα−オレフィンとの共重合体であり、さらに好ましくは、エチレンと炭素数6〜10のα−オレフィンとの共重合体である。例えば、エチレン・1−ヘキセン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体等が挙げられ、好ましくはエチレン−1−ヘキセン共重合体である。また、エチレンと炭素数6〜10のα−オレフィンと1−ブテンとの3元共重合体も好ましく、例えばエチレン−1−ブテン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−ブテン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−1−ブテン−1−オクテン共重合体等が挙げられ、より好ましくはエチレン−1−ブテン−1−ヘキセン共重合体である。
【0011】
本発明で用いるエチレン−α−オレフィン共重合体のメルトフローレート(MFR、単位はg/10分である。)は、通常0.01〜100であり、好ましくは0.05〜20であり、より好ましくは0.1〜5であり、さらに好ましくは0.1〜1である。
【0012】
本発明において、メルトフローレート(MFR;単位はg/10分である。)は、JIS K7210−1995に規定された方法に従い、190℃において、荷重21.18N(2.16Kg)で測定された値である。そして、上記のメルトフローレートの測定には、予め酸化防止剤を1000ppm配合した重合体を用いる。
【0013】
本発明で用いるエチレン−α−オレフィン共重合体の密度は、通常、890〜970kg/m3であり、JIS K6760−1981に規定された方法に従って、測定された値である。上記の密度として、好ましくは、本発明のエチレン−α−オレフィン共重合体から得られるフィルムの剛性と衝撃強度のバランスの観点から、905〜940kg/m3であり、より好ましくは907〜930kg/m3である。
【0014】
本発明で用いるエチレン−α−オレフィン共重合体は、長鎖分岐を有するような溶融張力に優れたエチレン−α−オレフィン共重合体であり、このようなエチレン−α−オレフィン共重合体は従来から知られている通常のエチレン−α−オレフィン共重合耐に比べて、流動の活性化エネルギーがより高い。
【0015】
このようなエチレン−α−オレフィン共重合体の流動の活性化エネルギー(Ea、単位はkJ/molである。)は、通常50kJ/mol以上である。従来から知られている通常のエチレン−α−オレフィン共重合体の流動の活性化エネルギーは、通常50kJ/mol未満であり、このような重合体を押出し成形に用いた場合には、押出機負荷の上昇や加工安定性の不良を招くなど押出加工性に劣る。
【0016】
本発明で用いるエチレン−α−オレフィン共重合体の流動の活性化エネルギー(Ea)として、より好ましくは55kJ/mol以上であり、さらに好ましくは60kJ/mol以上である。また、高温で溶融粘度を低下させずに十分な成形性を得るという観点や、外観良好なフィルムが得られるという観点から、Eaは、好ましくは100kJ/mol以下であり、より好ましくは90kJ/mol以下である。
【0017】
流動の活性化エネルギー(Ea)は、粘弾性測定装置として、Rheometrics社製Rheometrics Mechanical Spectrometer RMS−800を用いて、下記の条件(1)〜(4)で測定される各温度T(単位はKである。)における動的粘弾性データを、温度−時間重ね合わせ原理に基づいてシフトさせて190℃での動的粘度(η;単位はPa・secである。)の剪断速度(ω:単位はrad/secである。)依存性を示すマスターカーブを作成する際のシフトファクター(aT)のアレニウス型方程式から算出される数値であって、加工性の指標となるものである。
【0018】
各温度T(K)における動的粘弾性データの測定条件
(1)ジオメトリー:パラレルプレート、直径25mm、プレート間隔:1.5〜2mm
(2)ストレイン:5%
(3)剪断速度:0.1〜100rad/sec
(4)温度:190、170、150、130℃
また、サンプルには予めイルガノックス1076などの酸化防止剤を、適量(例えば1000ppm以上)配合し、測定はすべて窒素下で実施する。
【0019】
シフトファクター(aT)のアレニウス型方程式
log(aT)=Ea/R(1/T−1/T0
(Rは気体定数であり、T0は基準温度(463K)である。)
また、計算ソフトウェアには、Rheometrics社 Rhios V.4.4.4を使用し、アレニウス型プロットlog(aT)−(1/T)において、直線近似をした時に得られる相関係数r2が0.99以上であるときのEa値を、本発明のエチレン−α−オレフィン共重合体の流動の活性化エネルギーとする。
【0020】
本発明で用いるエチレン−α−オレフィン共重合体のメルトフローレート(MFR;単位はg/10分である。)と190℃の剪断速度100rad/secにおける溶融粘度(η;単位はPa・secである。)とは、式(1)の関係を満たすものである。
η<1550×MFR-0.25−420 式(1)
このようなエチレン−α−オレフィン共重合体は、押出し成形した際に押出機への負荷が小さく、加工安定性に優れるものである。
【0021】
本発明で用いるエチレン−α−オレフィン共重合体の190℃の剪断速度100rad/secにおける溶融粘度ηとは、前述の粘弾性測定において測定される剪断溶融粘度である。
【0022】
本発明で用いるエチレン−α−オレフィン共重合体が満たすメルトフローレート(MFR)と190℃の剪断速度100rad/secにおける溶融粘度ηとの関係は、式(1’)を満たすことが好ましく、式(1'')を満たすことがより好ましく、式(1''')を満たすことがもっとも好ましい。
η<1500×MFR-0.25−420 式(1’)
η<1450×MFR-0.25−420 式(1'')
η<1350×MFR-0.25−420 式(1''')
【0023】
本発明で用いるエチレン−α−オレフィン共重合体の分子量分布としては、好ましくは7.0〜25であり、より好ましくは7.5〜20であり、さらに好ましくは11〜17である。分子量分布が狭すぎる場合は、押出負荷が上昇して押出成形加工性が損なわれ、一方で、分子量分布が広すぎる場合は、フィルムの耐ブロッキング性が悪化する場合がある。上記の分子量分布とは、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定によって得られたポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)とを算出し、MwをMnで除した値(Mw/Mn)である
【0024】
鎖長分布曲線は、以下の条件(1)〜(6)で、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定によって得ることができる。
(1)装置:Water製Waters150C
(2)分離カラム:TOSOH TSKgelGMH−HT
(3)測定温度:145℃
(4)キャリア:オルトジクロロベンゼン
(5)流量:1.0mL/分
(6)注入量:500μL
【0025】
一般的に、エチレン−α−オレフィン共重合体のメルトフローレート(MFR)と溶融張力の間には関係があり、MFRが増大するにつれて、溶融張力が低下することが知られている。
本発明で用いるエチレン−α−オレフィン共重合体は、長鎖分岐を有するような溶融張力の高いエチレン−α−オレフィン共重合体であり、好ましくはメルトフローレート(MFR;単位はg/10分である。)と190℃における溶融張力(MT;単位はcNである。)とが下記式(4)の関係を満たすものである。
2×MFR-0.59<MT<40×MFR-0.59 式(4)
【0026】
従来のエチレン−α−オレフィン共重合体は、式(4)の左辺を通常満たさない。
溶融張力が低すぎると、押出加工性が悪化することがあり、溶融張力が高すぎると、高速での引取りが困難となることがある。
【0027】
本発明で用いるエチレン−α−オレフィン共重合体が満たすメルトフローレート(MFR)と溶融張力(MT)の関係は、式(4')を満たすことがより好ましく、式(4'')を満たすことが更に好ましい。
2.2×MFR-0.59<MT<25×MFR-0.59 式(4’)
2.5×MFR-0.59<MT<15×MFR-0.59 式(4'')
【0028】
上記の式(4)における溶融張力(MT;単位はcNである。)は、東洋精機製作所等から販売されているメルトテンションテスターを用いて、190℃、押出速度5.5mm/分のピストンで、直径2.09mmφ、長さ8mmのオリフィスから溶融樹脂ストランドを押し出し、前記ストランドを直径50mmのローラーを用いて毎分40rpm/分づつ回転速度を上昇させながら巻き取ったときに、前記ストランドが切れる直前の張力値である。
【0029】
本発明で用いるエチレン−α−オレフィン共重合体は、好ましくは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定によって得られた鎖長分布曲線を、少なくとも2つの対数正規分布曲線に分割して得られる対数正規分布曲線のうち、最も高分子量である成分に相当する対数正規分布曲線のピーク位置の鎖長Aと前記MFRとが下記式(5)の関係を満たすものである。
3.30<logA<−0.0815×log(MFR)+4.05 式(5)
【0030】
本発明で用いるエチレン−α−オレフィン共重合体が上記式(5)の関係を満たすと、溶融張力がより高く押出加工性により優れ、または、押出機負荷がより低く押出加工性により優れ、さらに得られるフィルムの外観に優れる。
【0031】
本発明で用いるエチレン−α−オレフィン共重合体が満たすメルトフローレート(MFR)と鎖長A(logA)の関係は、下記式(5')を満たすことがより好ましく、式(%'')を満たすことがさらに好ましい。
3.30<logA<−0.0815×log(MFR)+4.03 式(5’)
3.30<logA<−0.0815×log(MFR)+4.02 式(5'')
【0032】
鎖長分布曲線は、以下の条件(1)〜(6)で、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定によって得ることができる。
(1)装置:Water製Waters150C
(2)分離カラム:TOSOH TSKgelGMH−HT
(3)測定温度:145℃
(4)キャリア:オルトジクロロベンゼン
(5)流量:1.0mL/分
(6)注入量:500μL
【0033】
鎖長分布曲線の分割は以下のとおりに行う。
初めに、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定によって、鎖長Awの対数であるlogAw(x値)に対して重量割合dW/d(logAw)(y値)がプロットされた鎖長分布曲線を実測する。プロットデータ数は、連続的な分布曲線になるよう、通常少なくとも300以上ある。次に、上記のx値に対して、標準偏差0.30を有し、任意の平均値(通常、ピーク位置の鎖長Aに相当する。)を有する4つの対数正規分布曲線(x−y曲線)を任意の割合で足し合わることによって、合成曲線を作成する。さらに、実測された鎖長分布曲線と合成曲線との同一x値に対するy値の偏差平方和が最小値になるように、平均値と割合を求める。偏差平方和の最小値は、各ピークの割合がすべて0の場合の偏差平方和に対して通常0.5%以下になる。そして、偏差平方和の最小値を与える平均値と割合が得られたときに、4つの対数正規分布曲線に分割して得られる対数正規分布曲線のうち、最も高分子量である成分に相当する対数正規分布曲線のピーク位置の鎖長AからlogAが算出される。この最も高分子量である成分に相当する対数正規分布曲線のピークの割合は、通常10%以上である。
【0034】
長鎖分岐を有するようなエチレン−α−オレフィン共重合体は通常、190℃での特性緩和時間が長いが、長すぎることなく少し短めであると、溶融張力がより高く押出加工性により優れ、または、押出機負荷が低く押出加工性により優れ、さらに、フィルムの押出外観に優れる。
本発明のエチレン−α−オレフィン共重合体は、好ましくは、190℃での特性緩和時間(τ;単位はsecである。)と前記MFRとが下記式(6)の関係を満たすものである。
2<τ<8.1×MFR-0.746 式(6)
【0035】
本発明で用いるエチレン−α−オレフィン共重合体が満たすメルトフローレート(MFR)と特性緩和時間(τ)の関係は、下記式(6')を満たすことがより好ましく、式(6'')を満たすことがさらに好ましい。
2<τ<7.9×MFR-0.746 式(6’)
2<τ<7.8×MFR-0.746 式(6'')
【0036】
190℃での特性緩和時間(τ)は、粘弾性測定装置として、Rheometrics社製Rheometrics Mechanical Spectrometer RMS−800を用いて、下記の条件(1)〜(4)で測定される各温度T(単位はKである)における動的粘弾性データを、温度−時間重ね合わせ原理に基づいてシフトさせて190℃での動的粘度(η;単位はPa・secである。)の剪断速度(ω:単位はrad/secである。)依存性を示すマスターカーブを得たのちに、そのマスターカーブを下記のクロス式で近似する際に算出される数値である。
【0037】
各温度T(K)における動的粘弾性データの測定条件
(1)ジオメトリー:パラレルプレート、直径25mm、プレート間隔:1.5〜2mm
(2)ストレイン:5%
(3)剪断速度:0.1〜100rad/sec
(4)温度:190、170、150、130℃
また、サンプルには予めイルガノックス1076などの酸化防止剤を、適量(例えば1000ppm以上)配合し、測定はすべて窒素下で実施する。
【0038】
クロスの近似式
η=η0/[1+(τ×ω)n
(η0およびnはそれぞれ、特性緩和時間τと同様に、測定に用いるエチレン−α−オレフィン共重合体ごとに求められる定数である。)
また、マスターカーブの作成やクロス式近似のための計算ソフトウェアには、Rheometrics社 Rhios V.4.4.4を使用する。
【0039】
本発明で用いるエチレン−α−オレフィン共重合体のメルトフローレート比(MFRR)としては、流動性の観点から高いほどよく、60以上であると、押出負荷がより低く、押出加工性により優れる。
【0040】
上記のメルトフローレート比(MFRR)は、JIS K7210−1995に規定された方法に従い、190℃、荷重211.82N(21.60kg)で測定されたメルトフローレート値を、荷重21.18N(2.16kg)で測定されたメルトフローレート値で除した値である。なお、上記のメルトフローレート測定には、予め酸化防止剤を1000ppm配合した重合体を用いる。
【0041】
本発明で用いるエチレン−α−オレフィン共重合体の製造方法は、下記のメタロセン系オレフィン重合用触媒を用いて、エチレンとα−オレフィンとを共重合する方法である。
本発明で用いるエチレン−α−オレフィン共重合体の製造に用いられるメタロセン系オレフィン重合用触媒は、助触媒担体(A)、架橋型ビスインデニルジルコニウム錯体(B)、有機アルミニウム化合物(C)および電子供与性化合物(D)を接触させて得られる触媒であり、前記助触媒担体(A)はジエチル亜鉛(a)、2種類のフッ素化フェノール(b)と(c)、水(d)、無機化合物の粒子(e)および(f)トリメチルジシラザン(((CH33Si)2NH)を接触させて得られる担体である。
【0042】
2種類のフッ素化フェノール(b)と(c)として、好ましくはペンタフルオロフェノール、トリフルオロフェノールである。
無機化合物の粒子(e)として、好ましくはシリカゲルである。
【0043】
上記(a)、(b)、(c)、(d)各化合物の使用量は特に制限はないが、各化合物の使用量のモル比率を(a):(b):(c):(d)=1:x:y:zのモル比率とすると、x、yおよびzが下記の式(7)を満足することが好ましい。
|2−(x+y)−2z|≦1 式(7)
上記の式(7)における(x+y)として好ましくは0.01〜1.99の数であり、より好ましくは0.10〜1.80の数であり、さらに好ましくは0.20〜1.50の数であり、最も好ましくは0.30〜1.00の数である。
【0044】
また、(a)に対して使用する(e)の量としては、(a)と(e)との接触により得られる粒子に含まれる(a)に由来する亜鉛原子が、得られる粒子1gに含まれる亜鉛原子のモル数にして、0.1mmol以上となる量であることが好ましく、0.5〜20mmolとなる量であることがより好ましい。(e)に対して使用する(f)の量としては、(e)1gにつき(f)0.1mmol以上となる量であることが好ましく、0.5〜20mmolとなる量であることがより好ましい。
【0045】
架橋型ビスインデニルジルコニウム錯体(B)として、好ましくはラセミ−エチレンビス(1−インデニル)ジルコニウムジクロライド、ラセミ−エチレンビス(1−インデニル)ジルコニウムジフェノキシドである。
また、有機アルミニウム化合物(C)として、好ましくはトリイソブチルアルミニウム、トリノルマルオクチルアルミニウムである。
また、電子供与性化合物(D)として、好ましくはトリエチルアミン、トリノルマルオクチルアミンである。
【0046】
架橋型ビスインデニルジルコニウム錯体(B)の使用量は、助触媒担体(A)1gに対し、好ましくは5×10-6〜5×10-4molである。また有機アルミニウム化合物(C)の使用量として、好ましくは、架橋型ビスインデニルジルコニウム錯体(B)のジルコニウム原子モル数に対する有機アルミニウム化合物(C)のアルミニウム原子のモル数の比(Al/Zr)で表して、1〜2000である。
また、電子供与性化合物(D)の使用量は、有機アルミニウム化合物(C)のアルミニウム原子のモル数に対して、0.1〜10mol%である。
【0047】
重合方法として、好ましくは、エチレン−α−オレフィン共重合体の粒子の形成を伴う連続重合方法であり、例えば、連続気相重合、連続スラリー重合、連続バルク重合であり、好ましくは、連続気相重合である。
気相重合反応装置としては、通常、流動層型反応槽を有する装置であり、好ましくは、拡大部を有する流動層型反応槽を有する装置である。反応槽内に攪拌翼が設置されていてもよい。
【0048】
本発明で用いるエチレン−α−オレフィン共重合体の製造に用いられるメタロセン系オレフィン重合用触媒の各成分を反応槽に供給する方法としては、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガス、水素、エチレン等を用いて、水分のない状態で供給する方法、各成分を溶媒に溶解または稀釈して、溶液またはスラリー状態で供給する方法が用いられる。触媒の各成分は個別に供給してもよく、任意の成分を任意の順序にあらかじめ接触させて供給してもよい。
また、本重合を実施する前に、予備重合を実施し、予備重合された予備重合触媒成分を本重合の触媒成分または触媒として使用することが好ましい。
【0049】
重合温度としては、通常、共重合体が溶融する温度未満であり、好ましくは0〜150℃であり、より好ましくは30〜100℃である。
また、共重合体の溶融流動性を調節する目的で、水素を分子量調節剤として添加してもよい。そして、混合ガス中に不活性ガスを共存させてもよい。
【0050】
本発明で用いるエチレン−α−オレフィン共重合体は、長鎖分岐のようなポリマー構造を有すると考えられる。そして、長鎖分岐のようなポリマー構造としては、緊密に絡み合った構造が好ましいと考えられる。そして、そのような緊密に絡み合った構造によって、従来のエチレン−α−オレフィン共重合体よりも高い流動の活性化エネルギーが得られ、押出成形性がさらに向上すると考えられる。
【0051】
前述のように、長鎖分岐のようなポリマー構造が、緊密に絡み合った構造であると考えられるエチレン−α−オレフィン共重合体の流動の活性化エネルギー(Ea、単位はkJ/molである。)としては、低温で溶融張力を上昇させ、十分な成形性を得るという観点から、好ましくは、60kJ/mol以上であり、より好ましくは63kJ/mol以上であり、さらに好ましくは66kJ/mol以上である。また、高温で溶融粘度が低下させずに、十分な成形性を得るという観点や、フィルムの表面が荒れ、外観が損なわれないようにするという観点から、Eaは、好ましくは100kJ/mol以下であり、より好ましくは90kJ/mol以下である。
【0052】
本発明で用いる好ましいエチレン−α−オレフィン共重合体、すなわち、流動の活性化エネルギー(Ea)が60kJ/mol以上であるエチレン−α−オレフィン共重合体、または、上記式(7)または式(8)の関係を満たすエチレン−α−オレフィン共重合体であって、長鎖分岐のようなポリマー構造として緊密に絡み合った構造を有していると考えられるエチレン−α−オレフィン共重合体は、前記のメタロセン系オレフィン重合用触媒を用いて、水素の共存下でエチレンとα−オレフィンとを共重合した後に、次の連続押出造粒方法で混練する方法によって、製造することができる。
【0053】
方法の一つは、米国特許5、451、106号公報に記載されているUtracki等が開発した伸長流動混練(EFM)ダイを備えた押出機を用いて連続的にストランドを成形し、そのストランドを連続的にカットし、ペレットとして製造する方法である。また、方法の一つは、ギアポンプを有する異方向二軸スクリューを備えた押出機を用いて連続的にストランドを成形し、そのストランドを連続的にカットし、ペレットとして製造する方法である。後者は、スクリュー部からダイまでの間に滞留部があることが好ましい。
【0054】
本発明は、上記のようにして得られるエチレン−α−オレフィン共重合体を用いてインフレーション成形法によりフィルムを製造する方法である。インフレーション成形機としては環状ダイを備えた公知のインフレーション成形機を使用することができるが、図2のようなハイネック成形用の成形機であって、単段吹き出しエアリングを備えたものを用いることが好ましい。
【0055】
本発明のインフレーションフィルムの製造方法は、インフレーション成形機に備えられた環状ダイの樹脂吐出口の直径をDd、前記環状ダイの樹脂吐出口から当該環状ダイより押出されたバブルの直径が1.2×Ddである地点までの距離をH、前記バブルの最大径をDbとするとき、環状ダイの直径Ddと距離Hとが下記式(2)の関係を満たし、かつバブルの最大径Dbと環状ダイの直径Ddとが下記式(3)の関係を満たすインフレーションフィルムの製造方法である。
η<1550×MFR-0.25−420 式(1)
Dd×1.5<H<Dd×10 式(2)
2≦Db/Dd≦10 式(3)
ここで環状ダイの樹脂吐出口の直径Ddとはダイリップの外側の直径を示し、バブルの最大径Dbとはフィルムバブルの外径の最大値を示す。
また、Hは環状ダイ出口面に対して垂直方向の直線距離であり、インフレーション成形機の環状ダイが上向きの場合、Hは環状ダイ面からバブルの直径が1.2×Ddである地点までの高さに該当する。
Hの値の範囲は、好ましくは下記式(2−2)、さらに好ましくは下記式(2−3)である。
Dd×1.8<H<Dd×8 式(2−2)
Dd×2<H<Dd×5 式(2−3)
【0056】
本発明のインフレーションフィルム成形の過程において、環状ダイ出口で測定されるエチレン−α−オレフィン共重合体の温度は125℃〜160℃であることが好ましい。
また、インフレーションフィルム成形の過程におけるBUR(ブローアップ比:環状ダイの出口直径とブローアップ終了後のバブル直径の比)は2〜10の範囲である。BURの好ましい範囲は2.5〜8であり、さらに好ましくは3〜6である。
本発明の環状ダイのリップギャップは特に限定されないが、より優れたフィルム強度を得る観点から、0.5〜2(mm)が好ましく、0.7〜1.8(mm)がより好ましい。
本発明のインフレーションフィルムの製造方法においては、バブルの安定性を増すために公知の内部安定体を用いることが好ましい。
【0057】
本発明で用いるエチレン−α−オレフィン共重合体には、必要に応じて、他のエチレン系樹脂を配合してもよく、また、公知の添加剤を含有させてもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、耐候剤、滑剤、抗ブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、無滴剤、顔料、フィラー等が挙げられる。下記式(1)を満たすエチレン−α−オレフィン共重合体と他のエチレン系樹脂とを混合して用いる場合には、全樹脂重量中下記式(1)を満たすエチレン−α−オレフィン共重合体が70重量%以上となるようにする。
η<1550×MFR-0.25−420 式(1)
【実施例】
【0058】
次に、本発明を実施例によって説明する。
[1]評価方法
(1)MFR
JIS K7210−1995に規定された方法に従い、190℃において、荷重21.18N(2.16Kg)の条件によって測定した。
(2)ダートインパクト
ASTM D1709−75に従って測定した。A法を用いた。この値が高いほどフィルム強度に優れることを示す。
【0059】
実施例1
[触媒成分の調製]
(1)シリカの処理
窒素置換した撹拌機を備えた反応器に、トルエン24kgおよび窒素流通下で300℃において加熱処理したシリカ(デビソン社製 Sylopol948;平均粒子径=55μm;細孔容量=1.67ml/g;比表面積=325m2/g)2.8kgを入れて、撹拌した。その後、5℃に冷却した後、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン 0.91kgとトルエン 1.43kgの混合溶液を反応器の温度を5℃に保ちながら33分間で滴下した。滴下終了後、5℃で1時間、95℃で3時間攪拌した。その後、得られた固体生成物をトルエン 21kgで6回、洗浄を行った。その後、トルエンを 6.9kg加え、一晩静置した。
【0060】
(2)助触媒担体(A)の合成
上記で得られたスラリーに、50wt%のジエチル亜鉛のヘキサン溶液 2.05kgとヘキサン 1.3kgを投入し、攪拌した。その後、5℃に冷却した後、ペンタフルオロフェノール 0.77kgとトルエン 1.17kgの混合溶液を、反応器の温度を5℃に保ちながら61分間で滴下した。滴下終了後、5℃で1時間、40℃で1時間攪拌した。その後、H2O 0.11kgを反応器の温度を5℃に保ちながら1.5時間で滴下した。滴下終了後、5℃で1.5時間、55℃で2時間攪拌した。その後、室温にて50wt%のジエチル亜鉛のヘキサン溶液 1.4kgとヘキサン 0.8kgを投入した。5℃に冷却した後、3,4,5−トリフルオロフェノール 0.42kgとトルエン 0.77kgの混合溶液を、反応器の温度を5℃に保ちながら60分間で滴下した。滴下終了後、5℃で1時間、40℃で1時間攪拌した。その後、H2O 0.077kgを反応器の温度を5℃に保ちながら1.5時間で滴下した。滴下終了後、5℃で1.5時間、40℃で2時間、更に、80℃で2時間攪拌した。攪拌を停止し残量16Lまで上澄み液を抜き出しトルエン 11.6kgを投入し、攪拌した。95℃に昇温し、4時間攪拌した。得られた固体生成物をトルエン 20.8kgで4回、ヘキサン 24リットルで3回、洗浄を行った。その後、乾燥することで助触媒担体(A)を得た。
[予備重合触媒の調製]
予め窒素置換した内容積210リットルの撹拌機付きオートクレーブに、上記助触媒担体(A)0.55kgを投入し、常温常圧の水素として3リットルと、ブタン80リットルを仕込んだ後、オートクレーブを30℃まで昇温した。さらにエチレンをオートクレーブ内のガス相圧力で0.02MPa分だけ仕込み、系内が安定した後、トリイソブチルアルミニウム165mmolとラセミ−エチレンビス(1−インデニル)ジルコニウムジフェノキシド55mmolを投入して重合を開始した。32℃へ昇温するとともに、エチレンと水素を連続で供給しながらさらに50℃まで昇温し、合計で4時間の予備重合を実施した。重合終了後、エチレン、ブタン、水素ガスなどをパージして残った固体を室温にて真空乾燥し、上記助触媒担体(A)1g当り13gのポリエチレンが予備重合された予備重合触媒成分を得た。
【0061】
[重合]
上記で得た予備重合触媒成分を用い、連続式流動床気相重合装置でエチレンと1−ヘキセンの共重合を実施した。重合条件は、温度75℃、全圧2MPaエチレンに対する水素モル比は0.9%、エチレンに対する1−ヘキセンモル比は1.9%で、重合中はガス組成を一定に維持するためにエチレン、1−ヘキセン、水素を連続的に供給した。上記予備重合済触媒成分とトリイソブチルアルミニウムを連続的に供給し、流動床の総パウダー重量80kgを一定に維持するよう、平均重合時間4hr、21kg/hrの生産効率でエチレン−1−ヘキセン共重合パウダーを得た。得られたエチレン−1−ヘキセン共重合パウダーの物性値を表1に示す。
【0062】
[樹脂組成物の製造]
上記で得たエチレン−1−ヘキセン共重合パウダー75重量%とスミカセンE SP1520(日本エボリュー社製)25重量%とを混合し、さらに前記樹脂混合物に酸化防止剤(住友化学社製 スミライザーGP)を750ppmをブレンドしたものを、神戸製鋼所社製LCM50押出機を用いて、フィード速度50kg/hr、スクリュー回転数450rpm、ゲート開度50%、サクション圧力0.1MPa、樹脂温度200〜230℃条件で造粒することにより、エチレン系樹脂組成物を得た。
【0063】
【表1】

【0064】
[フィルム成形]
前記エチレン系樹脂組成物をトミー機械工業(株)製インフレーション成形機(環状ダイの樹脂吐出口の直径Dd:150(mm)、押出機スクリュー径:65(mm))にてフィルム成形した。
具体的には、エチレン系樹脂組成物を押出機に投入し、150(℃)の温度にて溶融混練して環状ダイに導き、環状のリップから押出した。リップギャップは1(mm)、押出量は50(kg/h)、BUR(Db/Dd)は3.6、Hは600(mm)であった。得られたフィルムの厚みは30(μm)であった。また、ダイ出口におけるエチレン系樹脂組成物の温度は153(℃)であった。
得られたフィルムの物性を表2に示す。
【0065】
比較例1
プラコー(株)製インフレーションフィルム成形機(環状ダイの樹脂吐出口の直径Dd:125(mm)、押出機スクリュー径:50(mm))を用い、Hが30(mm)の条件で成形を行った。リップギャップは0.8(mm)、加工温度は150(℃)、BUR(Db/Dd)は2.9であり、得られたフィルムの厚みは30(μm)であった。
【0066】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】従来のインフレーションフィルムの製造方法によるバブルの形状の断面図である。
【図2】本発明のインフレーションフィルムの製造方法によるバブルの形状の断面図である。
【符号の説明】
【0068】
1・・環状ダイ
2・・バブル
3・・環状ダイの樹脂吐出口の直径Dd
4・・バブルの直径が1.2×Ddである地点
5・・バブルの最大径Db
6・・距離H

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンから誘導される構成単位と炭素数3〜20のα−オレフィンから誘導される構成単位を含むエチレン−α−オレフィン共重合体であって、流動の活性化エネルギーが50kJ/mol以上であり、メルトフローレート(MFR;単位はg/10分である。)と190℃の剪断速度100rad/secにおける溶融粘度(η;単位はPa・secである。)とが下記式(1)の関係を満たすエチレン−α−オレフィン共重合体をインフレーション成形する方法であって、インフレーション成形機に備えられた環状ダイの樹脂吐出口の直径をDd、前記環状ダイの樹脂吐出口から当該環状ダイより押出されたバブルの直径が1.2×Ddである地点までの距離をH、前記バブルの最大径をDbとするとき、環状ダイの直径Ddと距離Hとが下記式(2)の関係を満たし、かつバブルの最大径Dbと環状ダイの直径Ddとが下記式(3)の関係を満たすインフレーションフィルムの製造方法。
η<1550×MFR-0.25−420 式(1)
Dd×1.5<H<Dd×10 式(2)
2≦Db/Dd≦10 式(3)

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−142685(P2006−142685A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−337013(P2004−337013)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】