説明

インフレーションフィルムの製造装置、製造方法およびそれを用いて得られる超高分子量ポリオレフィンインフレーションフィルム

【課題】極限粘度[η]が10dl/gを超える超高分子量ポリオレフィンを原料とした場合であっても、フィルム外観が優れ、耐摩耗性に優れたフィルムを高い生産性を保持して成形出来、成形時の破膜回数を著しく抑制した状態で連続運転が可能なインフレーションフィルムの製造装置、製造方法、インフレーションフィルムを提供する。
【解決手段】第1スクリューを備えた押出機と、前記第1スクリューと独立して回転する第2スクリューと、前記第2スクリュー先端に連結され前記第2スクリューと共に回転するマンドレルと、前記マンドレルが挿通されるアウターダイと、前記第2スクリューの内部及びマンドレルの内部に延在してなる気体流路とを具備してなり、第2スクリューのフライト部の厚さが0.1mm以上2.5mm以下で、フライト基部のRが0.1mm以上2.5mm以下であるインフレーションフィルムの製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフレーションフィルムの製造装置、製造方法およびそれを用いて得られる超高分子量ポリオレフィンインフレーションフィルムに関するものであり、より詳しくは、従来技術では製造が困難とされていた極限粘度[η]が10dl/gを超えて25dl/gまで、特に11dl/gないし15dl/gの超高分子量ポリオレフィンを原料とし、引張強度等の力学的性質や、膜厚等を幅広い範囲にわたって調整できるインフレーションフィルムを製造するための装置、製造方法およびそれを用いて得られる強度物性の優れたインフレーションフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
高分子量ポリオレフィンは、汎用のポリオレフィンに比べ、耐衝撃性、耐摩耗性、耐薬品性、引張強度等に優れており、エンジニアリング樹脂、フィルムなどとしてその用途が拡がりつつある。しかしながら、高分子量ポリオレフィン、とくに極限粘度[η]が10を超える超高分子量ポリオレフィンは、汎用のポリオレフィンに比較して溶融粘度が極めて高く、流動性が悪いために、高分子量ポリオレフィン単体では、従来使用されてきた汎用ポリオレフィン用の成形機での成形加工が困難である。
【0003】
超高分子量ポリオレフィンを原料とする成形技術としては、例えば、いずれも本出願人の出願にかかる下記の各特許文献が提案されている。
【特許文献1】特開平9−183156号公報
【特許文献2】特開平11−10729号公報
【特許文献3】特開平11−300826号公報
【特許文献4】特開2004−314414号公報
【0004】
特許文献1は、超高分子量ポリオレフィンを押出機で溶融し、第1スクリューを備えた押出機と、前記第1スクリューと独立して回転する第2スクリューと、前記第2スクリュー先端に連結された前記第2スクリューと共に回転するマンドレルと、前記マンドレルが挿通されるアウターダイと、前記第2スクリューの内部及びマンドレルの内部に延在してなる気体流路とを具備してなり、少なくともL/D(L:入口部から出口部までのスクリューダイの長さ、D:スクリューダイ出口におけるアウターダイの内径)が5で、前記押出機の先端に設けられたスクリューダイとを備えた装置を用いて押し出した後、溶融状態のチューブ状フィルムの内部に気体を吹き込み、膨比及び縦延伸倍率を共に7以上にすることを特徴とするインフレーションフィルムの製造方法・装置並びにそれを用いて得られたインフレーションフィルムが提案されている。
【0005】
この特許文献1においては、原料の超高分子量ポリオレフィンは極限粘度[η]が5dl/g以上と記載されているが、実質的には、極限粘度[η]が10dl/g以上になると、分子量を低下させることなく、破膜やフィルムの外観上において、必ずしも、好適なフィルムが得られにくく成る場合があることが判明した。
【0006】
また、特許文献2には、原料の極限粘度[η]が4ないし10dl/gの超高分子量ポリオレフィンを特定の温度条件下でインフレーション成形することにより、成形時に分子量の低下を抑制せしめ、引張強度などの優れた物性を有するインフレーションフィルムを得ることが開示されている。しかしながら、この方法によって優れた物性を有するインフレーションフィルムを得ることができるのは、原料の超高分子量ポリオレフィンは極限粘度[η]の上限がせいぜい10dl/gまでであり、10dl/gを超える超高分子量ポリオレフィンにこの技術を適用しても、成形が困難であり、物性の好適なインフレーションフィルムは得られない。
【0007】
また、特許文献3に開示された技術も、原料の超高分子量ポリオレフィンの重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)が3.5以上であるが、その極限粘度[η]は4ないし10dl/gであり、特定の温度条件下で薄膜のインフレーションフィルムを成形することにより、分子量を低下させずに好適な機械的物性のインフレーションフィルムを得ることができるものであるが、この場合も、原料超高分子量ポリオレフィンの極限粘度[η]が10dl/gを超えた場合には、成形が困難になる場合がある。
【0008】
更に、特許文献4には、高分子量ポリオレフィンを押出機で溶融し、ついでマンドレルが押出機の第1スクリューと独立して回転する第2スクリューをもつスクリューダイから押し出した後、この押出しにより成形された溶融状態のチューブ状フィルムの内部に気体を吹き込むことを特徴とするインフレーションフィルムの製造方法において、第2スクリュー、マンドレル、アウターダイのいずれかに表面滑性化処理を施すことにより、成形速度を早くする方法が提案されている。
【0009】
しかしながら、この方法においても、原料が極限粘度[η]が10dl/gを超える超高分子量ポリオレフィンは、溶融粘度が高いために、これを押し出すためには、成形温度を上げざるを得なくなる傾向にあり、その結果として、樹脂が劣化しやすくなり、したがって、極限粘度[η]が低下する傾向がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述したように、極限粘度[η]が10dl/gを超えるような超高分子量ポリオレフィンは、機械的物性が極めて優れていることが知られているものの、その原料である超高分子量ポリオレフィンの溶融粘度の高さが災いして優れた製造方法が確立されていなかったという技術的課題が存在している。
【0011】
そこで、本発明の目的は、極限粘度[η]が10dl/gを超える超高分子量ポリオレフィンを原料とした場合であっても、フィルム外観が優れ、耐摩耗性に優れたフィルムを高い生産性を保持して成形出来、成形時の破膜回数を著しく抑制した状態で連続運転が可能なインフレーションフィルムの製造装置、製造方法、並びに、それを用いることによって得られた物性に優れたインフレーションフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、かかる技術的課題を踏まえて、その解決を図るべく研究を重ねた結果、第1スクリューを備えた押出機と、前記第1スクリューと独立して回転する第2スクリューと、前記第2スクリュー先端に連結され前記第2スクリューと共に回転するマンドレルと、前記マンドレルが挿通されるアウターダイと、前記第2スクリューの内部及びマンドレルの内部に延在してなる気体流路とを具備してなるインフレーションフィルムの製造装置を用いて、第2スクリューのフライト部の厚さと、第2スクリューのフライト基部のRを特定のものにすることにより、従来技術では成形が困難であった、極限粘度[η]が10dl/gを超える超高分子量ポリオレフィンであっても、フィルム外観や耐摩耗性に優れたフィルムを高い生産性を保持して成形することが出来、かつ、成形時の破膜回数を著しく抑制した状態で連続運転が可能なインフレーションフィルムを成形可能にすることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明によれば、第1スクリューを備えた押出機と、前記第1スクリューと独立して回転する第2スクリューと、前記第2スクリュー先端に連結され前記第2スクリューと共に回転するマンドレルと、前記マンドレルが挿通されるアウターダイと、前記第2スクリューの内部及びマンドレルの内部に延在してなる気体流路とを具備してなり、かつ、
第2スクリューのフライト部の厚さが0.1mm以上2.5mm以下、
第2スクリューのフライト基部のRが0.1mm以上2.5mm以下、
であることを特徴とするインフレーションフィルムの製造装置が提供される。
【0014】
また、本発明によれば、前記マンドレルの下部(M1)とマンドレルの上部(M2)の直径の比(M2/M1)が0.9以上1.0以下である上記インフレーションフィルムの製造装置が提供される。
【0015】
また、本発明によれば、インフレーションフィルムが極限粘度[η]が10dl/gを超え25dl/g以下である超高分子量ポリオレフィンからなる上記インフレーションフィルムの製造装置が提供される。
【0016】
また、本発明によれば、上記製造装置を用いて、極限粘度[η]が10dl/gを超え25dl/g以下の超高分子量ポリオレフィンを第1スクリューを備えた押出機で180℃ないし220℃の温度範囲で溶融し、次いでスクリューダイから押し出した後、溶融状態のチューブ状フィルムの内部に気体を吹き込むことを特徴とするインフレーションフィルムの製造方法が提供される。
【0017】
また、本発明によれば、超高分子量ポリオレフィンの極限粘度[η]が11dl/gないし15dl/gである上記インフレーションフィルムの製造方法が提供される。
【0018】
また、本発明によれば、上記製造方法によって製造された極限粘度[η]が10dl/gを超え25dl/g以下の超高分子量ポリオレフィンインフレーションフィルムが提供される。
【0019】
また、本発明によれば、上記製造方法によって製造された極限粘度[η]が11dl/gないし15dl/gの超高分子量ポリオレフィンインフレーションフィルムが提供される。
【0020】
また、本発明によれば、3mm以上の平均欠陥数が1個/m2以下である上記超高分子
量ポリオレフィンインフレーションフィルムが提供される。
【0021】
また、本発明によれば、厚さが50ないし100μmである上記超高分子量ポリオレフィンインフレーションフィルムが提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明の超高分子量ポリオレフィンのインフレーションフィルムの製造装置によれば、溶融粘度が高いために従来技術では成形が困難であった、たとえば、極限粘度[η]が10を超えるような超高分子量ポリオレフィンであっても、フィルム外観や耐摩耗性に優れたフィルムを高い生産性を保持して成形することが出来、かつ、成形時の破膜回数を著しく抑制した状態で連続運転が可能なインフレーションフィルムを成形可能にする製造装置を提供することができる。
【0023】
かかる効果は、請求項1に規定した製造装置において、第2スクリューのフライト部の厚さを0.1mm以上、2.5mm以下に設定し、且つ、第2スクリューのフライト基部のRを0.1mm以上、2.5mm以下に構成したことに起因するものであり、かかる規定の重要性は、後述する実施例の結果からも明らかに理解される。
また、上記請求項1の構成において、更に、マンドレルの下部(M1)とマンドレルの上部(M2)の直径の比(M2/M1)を0.9以上、1.0以下にすることにより上記効果がより一層顕著になる。
【0024】
本発明は、極限粘度[η]が10dl/g以下の超高分子量ポリオレフィンであっても摘要可能であるが、従来の製造装置では成形が困難であった極限粘度[η]が10dl/gを超える超高分子量ポリオレフィンにおいて良好に適用出来る点において、従来技術とは明確にその顕著性が認識されるものである。
【0025】
また、本発明の製造方法によれば、上記装置を用いて、超高分子量ポリオレフィンを第1スクリューを備えた押出機で180℃ないし220℃の温度範囲で溶融し、次いでスクリューダイから押し出した後、溶融状態のチューブ状フィルムの内部に気体を吹き込むことによって、フィルム外観や耐摩耗性に優れた超高分子量ポリオレフィンのインフレーションフィルムを高い生産性を保持して成形することが出来、かつ、この製造方法によれば、成形時の破膜回数を著しく抑制した状態で連続運転が可能であるという特徴がある。
また、上記製造方法によって得られたインフレーションフィルムは、3mm以上の平均欠陥数が1個/m2 以下という優れた特性を有している。
【0026】
本発明によって得られる、インフレーションフィルムは、外観性に著しく優れており、且つ、超高分子量ポリオレフィンが本来有する耐摩耗性等の物性を保持しながら、フィルム厚みが50ないし100μmという極めて薄いフィルムとすることが出来るため、例えば、サイロ、ホッパー、シュート等のライニング材、アルカリ電池、リチウムイオン電池、鉛蓄電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等の非水電解質電池および電解質電池セパレータ、ロール、パイプ、鋼管等の被覆用収縮フィルム、食品包装用の包装フィルム、包装用パック、包装用容器、ヘルメット、セイルボード、スキー滑走面等のスポーツ用品、スライディングテープ、スラストワッシャー、すべりシート、ガイド、ドクターナイフ、カセットテープライナー、カセットテープ用スリットシート、耐極低温性袋、熱収縮性フィルム、低温保存用バック、包装用テープ、高強度延伸糸用原糸、コンデンサーフィルム、絶縁フィルム、回路基板用フィルム、ポリオレフィン被覆ゴムロール、食品充充填パック、血液パック、スプリットヤーン、登山用ロープ、織布、延伸テープ、血小板凍結防止用フィルター、帆布、防爆シート、切傷防止用保護衣、安全手袋、重布、電気ケーブル、テンションメンバー、スピーカー振動板、装甲板、レーダードーム、不織布、、合成紙、屋外展示物用印刷紙、航空便用封筒、水分吸収剤、酸素吸収剤等の包装材料、通気性包装体、滅菌・殺菌包装材料、医療用基布、医療用器具の包装材料、水分調節物品のシール・包装、分離膜、各種フィルター等のろ過材、フィルターの担持体、農業用ハウス、マルチフィルム等の農業用フィルム、グリーンフィルム、エレクトレットフィルム、ハウスラップ等の建築用資材等の広汎な用途に対応が可能である。
【0027】
本発明におけるフィルム欠陥とは、二次スクリューのフライト部分の融着不良を主原因として発生する平面ではない部分であり、例えば、襞状の凹凸部等である。このフィルム欠陥は、パリソン部では目視で判別出来ない場合もあるが、引き取り速度や膨比をあげることにより、チューブ状のフィルム内面側に存在する欠陥が拡大し、目視で確認されるに至る。外面側は正常であり、成形中に破膜しなければ通常の使用は大きな問題はないが、引張強度等には悪影響を及ぼす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明にかかる超高分子量ポリオレフィンのインフレーションフィルムを製造するための装置である。
図2は、本発明のインフレーションフィルムの製造装置に於ける、第2スクリューのフライト部とフライト基部を図示した説明図であり、図3は、マンドレル下部(M1)とマンドレル上部(M2)を図示した説明図である。
【0029】
本発明のインフレーションフィルムの製造装置は、第1スクリュー3を備えた押出機1と、前記第1スクリュー3と独立して回転する第2スクリュー21と、前記第2スクリュー21先端に連結され前記第2スクリュー21と共に回転するマンドレル23と、前記マンドレル23が挿通されるアウターダイ22と、前記第2スクリュー21の内部及びマンドレル23の内部に延在してなる気体流路24とを具備してなるものであり、かかる製造装置において、最大の特徴は、第2スクリュー21のフライト部の厚さが0.1mm以上、2.5mm以下であり、かつ、第2スクリューのフライト基部のRが0.1mm以上、2.5mm以下に構成されている点にある。
【0030】
第2スクリューのフライト部とフライト基部の構成は図2に示されている。
第2スクリューの形状を上記のごとく構成することによって、極限粘度[η]が10dl/gを超える超高分子量ポリオレフィンであっても、耐摩耗性や外観を損ねることなく超高分子量ポリオレフィン本来の優れた物性を保持したインフレーションフィルムが得られることは、従来技術からは到底予測出来なかったことであり、この点にこそ、本発明の効果の顕著性が存在する。
【0031】
さらに、本発明においては、前記マンドレル23の下部(M1)とマンドレル23の上部(M2)の直径の比(M2/M1)(図3参照)が0.9以上、1.0以下であることによって上記インフレーションフィルムの物性がよりすぐれたものになる。
【0032】
上記製造装置における上記以外の構成について説明する。
アウターダイ入口部20Aからスクリューダイ出口20Cまでの長さ(L)と、スクリューダイ出口20Cにおけるアウターダイ22の内径(D)との比、つまり、スクリュダーイのL/Dは5以上、好ましくは5ないし70、より好ましくは10ないし30に構成されている。L/Dを値を好適に設定することにより、ダイから押出されたチューブ状フィルムの内部に空気を吹き込んだ際にチューブが均一に膨らみ、破れたりすることなく良好なフィルムを得ることが出来る。
【0033】
一方、L/Dの上限は、特に限定されないが、実用上70以下が好ましい。L/Dが30以下のスクリューダイを用いた場合は、ダイ内の溶融樹脂に歪みが残留することによりチューブが破れたりすることが少なく、良好なフィルムを安定的に得られるために、より好ましい。なお、スクリューダイのL/Dは生産性と相関関係があり、L/Dが大きい方が成形速度を上げることができる。
【0034】
チューブ状フィルムの内部に吹き込む上記の気体は通常空気であるが、窒素等を用いてもよい。また、溶融状態のチューブ状フィルムの内部に気体を吹き込む場合には、横方向(TD)の厚み均一性、引張強度、衝撃強度等の機械的物性を向上させる観点から、膨比は5倍以上が好ましい。特に好ましくは6倍以上である。またフィルムの白濁、破裂現象が生じないようにすることを考慮すれば、20倍以下が好ましく、特に好ましくは10倍以下である。
膨比とは、スクリューダイ出口における膨張前のチューブの円周長さと、膨張後のチューブの円周長さとの比をいい、縦延伸倍率とは、ダイからの樹脂の流出速度(線速度)に対するピンチロールの引き取り速度の比をいう。
【0035】
なお、本発明においては、上記特許文献4におけるように、第2スクリュー、マンドレル、アウターダイのいずれかに表面滑性化剤を施して、高吐出量で樹脂を押し出しても圧力を過大にすることなく安定した押し出しが出来るようにすることも出来るが、とくにこのような手段を採択しなくても、超高分子量ポリオレフィンの溶融押出しが安定して行なうことができる。
【0036】
本発明においては、バルーン(膨張チューブ)が揺れて縦方向(MD)、横方向(TD)の厚みが不均一になること、機械的特性にバラツキが生じないこと等を考慮すれば、縦延伸倍率を4倍以上にすることが好ましい。さらに好ましくは5倍以上、特に好ましくは6倍以上である。また製造中にフィルムの破裂が起きないようにすることを考慮すれば、
該縦延伸倍率は50倍以下が好ましく、特に30倍以下とすることが好ましい。
【0037】
膨張させたフィルムの冷却は、フィルムの外部をブロアー(送風機)を具備したエアーリングから均一に吹き出されるエアーによって行うか、またはフィルムに密着する水冷あるいは空冷式の冷却リングによって行うこともできる。冷却後のフィルムは常法、すなわち、安定板で次第に折りたたまれ、次にピンチロールで2枚合わせのフラットなフィルムになり、製品巻取機に巻き取られる。
なお、本発明によって得られたフィルムは、予めヒートセットしておくことにより熱収縮率を10%未満程度に下げることができる。
【0038】
本発明における超高分子量ポリオレフィンの極限粘度[η]とは、デカリン溶媒中135℃で測定した極限粘度[η]を意味するものであり、その範囲は、10dl/gを超え、25以下であり、好ましくは、11dl/gないし15dl/gであるが、10dl/g以下の極限粘度[η]を有する超高分子量ポリオレフィンに適用することも可能である。
【0039】
本発明で用いられる超高分子量ポリオレフィンとは、エチレン、プロピレンおよび炭素数4ないし8のα−オレフィンを、例えばチーグラー系触媒を用いたスラリー重合により、単独もしくは二つ以上の組み合わせで重合して得られる。好ましい共重合体はエチレンと少量のプロピレンもしくは炭素数4ないし8のα−オレフィンの単独ないし二つ以上の組み合わせによる共重合体である。エチレン共重合体の場合、共単量体の量は5モル%以下が好ましい。
これらの中で特に好ましいのはエチレンの単独重合体である。超高分子量ポリエチレンは、直鎖状の分子構造を有しているので、成形されたインフレーションフィルムを延伸加工することにより、さらに高強度、高弾性の繊維とすることが可能である。
【0040】
本発明のインフレーションフィルムの製造装置は、押出機に連結されるスクリューダイ20の構成にも特徴がある。すなわち、第1スクリュー3とは別個に第2スクリュー21を備えており、この第2スクリュー21先端に連結されたマンドレル23が第2スクリューの回転と共に回転するように構成されており、しかも、押出機の第1スクリューと第2スクリューとが任意の回転数で独立して回転し、第2のスクリューの回転数を第1スクリューの回転数よりも低く設定できるようになっている。この構成を有することによって、インフレーションフィルムの引張強度、衝撃強度等の力学的性質や、縦延伸倍率、膜厚等を幅広い範囲にわたって調整できるようになる。
【0041】
また、このインフレーションフィルムの製造装置には、マンドレル23の先端に安定棒26を設けることにより、パイプ状に押出された溶融状態の超高分子量ポリオレフィンの、エアーリングから吹き出されるエアーの圧力による横揺れが防げるので、膨張したフィルムの膜厚精度が一層向上する。
押出機1は、溝付シリンダー2と、圧縮比が1ないし2.5、好ましくは、1.3ないし1.8の範囲の第1スクリュー3とを有しており、この第1スクリュー3の先端部には、トーピド10がネジによって連結されている。このトーピド10は、第1スクリュー3の先端部で樹脂が滞留するのを防ぐため、円錐状に形成することが好ましい。
【0042】
また、トーピド10の先端、すなわち、溶融樹脂の流れ方向下流側には、スクリューダイ20が、その軸線をトーピド10の軸線方向と直交する方向へ向けた状態で設けられている。このスクリューダイ20は、トーピド10と対向する位置に第2スクリュー21を備えており、この第2スクリュー21は、駆動手(図示せず)によって、第1スクリュー3とは、独立に回転されるようになっている。
【0043】
また、第2スクリュー21は、略円柱状のスペースが形成された中空状のアウターダイ22を備えており、このアウターダイ22のスペースにマンドレル23が挿通されている。上記中空状のアウターダイ22は、図1の上方へいくに従って、次第に縮径していてもよいし、縮径していなくてもよい。
このマンドレル23は第2スクリュー21の先端部(上端部)に固着されており、第2スクリュー21と共に回転されるようになっている。
【0044】
また、第2スクリュー21の内部及びマンドレル23の内部に設けられている気体流路24は、第2スクリュー21の下端から金属シャフトを通って安定棒26の先端まで形成されている。
【0045】
なお、上記インフレーションフィルムの製造装置では、溝付きシリンダー2の溝部2Aにより、超高分子量ポリオフィン粉末が押出機前方へ安定して供給されるようになっている。
スクリューダイ20の流路は前述の如く、基本的には、スクリューダイ出口20Cに向かって流路面積が狭くなる、いわゆるテーパダイであるが、スクリューダイ上端部(20Cより上部)は、流路面積が変化しない、いわゆるストレートであることが成形品の寸法精度および寸法安定性を高度に保持することができるので好ましい。
スクリューダイ20の下流側には、スクリューダイ20から押し出されたパイプ状のパリソン30をエアリング25で冷却した後、気体流路24を通して、空気等の気体により膨比5倍以上に膨張させ、厚さ10ないし1000μm、好ましくは50ないし100μmのインフレーションフィルム31とし、それを折り畳んだ後引取る安定板、ピンチロール、引取機(いすれも図示せず)等、公知のインフレーションフィルム成形機が具備する装置を備えている。
【0046】
上記インフレーションフィルムの製造装置の押出機1から押出された溶融樹脂は、スクリューダイ20の第2スクリュー21に受け止められる。また、上記第2スクリュー21の回転数は押出機1の図1に示す圧力計11で示される圧力の値が一定範囲となるように設定されている。スクリューダイ20から押出された溶融状態のパリソン30は、押出し速度よりも速い速度で引き取られる。次いで、気体流路を経て安定棒の先端から放出される気体により所定の膨比に膨張されてインフレーションフィルムが得られる。
【0047】
また、本発明においては、上記製造装置を用いて、超高分子量ポリオレフィンを第1スクリュー3を備えた押出機1で180℃ないし220℃の温度範囲、好ましくは180℃ないし200℃で溶融し、次いでスクリューダイから押し出した後、溶融状態のチューブ状フィルムの内部に気体を吹き込むことによってインフレーションフィルムを製造するものである。
この方法によって、極限粘度[η]が10を超え25dl/g以下、好ましくは11dl/gないし15dl/gの超高分子量ポリオレフィンを原料とするインフレーションフィルムを超高分子量ポリオレフィンの物性を低下させることなく、且つ、外観を損じることなく製造することができる。
【実施例】
【0048】
以下に実施例に基づいて本発明を説明する。この実施例は、本発明の好適な態様を説明するためのものであり、本発明がこれに限定されるものではない。
【0049】
<実施例1>
図1に示したインフレーションフィルムの製造装置を用いて下記の条件で超高分子量ポリオレフィン製のインフレーションフィルムを製造した。
装置の仕様
押出機の第1スクリュー外径60mmφ;
スクリュー有効長さ1800mm;
フライトピッチ50mm一定;
スクリュー圧縮比1.5;
押出機に対して立設してなるスクリューダイ有効長さ800mm(L/D=9);
ダイ出口アウターダイ内径90mmφ;
マンドレルの上部の直径(M2)84mmφ;
マンドレルの下部の直径(M1)89mmφ;
第2スクリューと接続するマンドレルの下部の直径(M1)とマンドレルの上部の直径
(M2)の比(M2/M1)が0.94;
スクリューダイの第2スクリュー外径110mmφ;
第2スクリュー有効長さ200mm;
フライトピッチ62mm一定;
第2スクリューのフライト厚さ1.5mm;
第2スクリューのフライト基部のRが1.5mm;
第2スクリュー圧縮比1.0;
安定棒の外径60mmφ;
安定棒長さ800mm;
第2スクリュー内部、マンドレル内部及び安定棒シャフト内部に延在してなる18mmφの気体流路、安定板、ピンチロール及び製品巻取機を具備してなる。
【0050】
<インフレーションフィルムの製造>
超高分子量ポリエチレンとして、三井化学株式会社製「ハイゼックスミリオン・240ME」、[η]:14.5dl/g、融点:136℃、及び嵩密度:0.47g/cm3 の粉末樹脂を用い、図1に示す押出機、ジョイント部(J)、ダイ基部(D1)及びダイ先端部(D2)の設定温度を各々200℃、180℃、170℃、160℃にし、第1スクリュー回転数を12rpm、第2スクリュー回転数を1.3rpmに設定し、ピンチロールで0.9m/minの速度で引取りながら、第2スクリュー内部、マンドレル及び安定棒シャフトの内部に延在してなる18mmφの気体流路から圧搾空気を吹込んで、パリソンをアウターダイ内径90mmφの6.4倍に膨らませて(膨比)、折り幅890mm、厚み80μmからなる超高分子量ポリエチレン製インフレーションフィルムを安定して製造した。
【0051】
<実施例2>
上記装置において、
ダイ出口アウターダイ内径105mmφ;
マンドレルの上部の直径(M2)97mmφ;
マンドレルの下部の直径(M1)89mmφ;
第2スクリューと接続するマンドレルの下部の直径(M1)とマンドレルの上部の直径
(M2)の比(M2/M1)が1.09;
に変更する以外は上記気仕様の装置を使用し、第1スクリュー回転数を27rpm、第2スクリュー回転数を1.5rpmに設定し、引取速度を2.7m/min、膨比を6.3倍、折り幅1040mm、厚み90μmにした以外は実施例1の条件で超高分子量ポリエチレン製インフレーションフィルムを成形した。
【0052】
<実施例3>
実施例1に示した装置において、第2スクリューのフライト厚さを2.0mm、第2スクリューのフライト基部のRを2.0mmにした以外は実施例1の条件で高分子量ポリエチレン製インフレーションフィルムを成形した。
【0053】
<実施例4>
超高分子量ポリオレフィンとして、極限粘度[η]11.5dl/g、融点:136℃、嵩密度:0.47g/cm3 の粉末樹脂を用い、実施例3の仕様の装置で、引取速度を1.6m/min、膨比を6.3倍、折り幅を890mm、厚みを60μm、とした以外は、実施例3の条件で超高分子量ポリエチレン製インフレーションフィルムを成形した。
【0054】
<比較例1>
第2スクリューのフライト厚さ3.0mm;
第2スクリューのフライト基部のRが3.0mm;
マンドレルの上部の直径(M2)82mmφ;
マンドレルの下部の直径(M1)89mmφ;
第2スクリューと接続するマンドレルの下部の直径(M1)とマンドレルの上部の直径
(M2)の比(M2/M1)が0.92;
に設定する以外は実施例1の装置を使用し、引取速度を約1.4m/min、膨比を6.3倍、折り幅を890mm、厚みを100μmにした以外は実施例1の条件で超高分子量ポリエチレン製インフレーションフィルムを成形した。
【0055】
<比較例2>
第2スクリューのフライト厚さ5.0mm;
第2スクリューのフライト基部のRが5.0mm;
マンドレルの上部の直径(M2)95mmφ;
マンドレルの下部の直径(M1)80.5mmφ;
第2スクリューと接続するマンドレルの下部の直径(M1)とマンドレルの上部の直径
(M2)の比(M2/M1)が1.18;
に設定する以外は実施例2の装置を使用し、引取速度を1.6m/min、膨比を6.3倍、折り幅を1040mm、厚みを150μmにした以外は実施例2の条件で超高分子量ポリエチレン製インフレーションフィルムを成形したが、短時間での破膜が頻発し、連続的にフィルムを取得することができなかった。
【0056】
<比較例3>
図1に示す押出機、ジョイント部(J)、ダイ基部(D1)及びダイ先端部(D2)の設定温度を各々360℃、200℃、180℃、160℃にし、第1スクリュー回転数を8rpm、ダイ2スクリュー回転数を0.8rpmに設定した以外は実施例1と同様な装置を使用し、引取速度を1.0m/min、膨比を6.3倍、折り幅を890mm、厚みを60μmにした以外は実施例1と同様な条件で超高分子量ポリエチレン製インフレーションフィルムを成形した。
以上の実施例及び比較例の結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
実施例及び比較例において得られたサンプルの各種物性等の測定条件は下記の通りである。
(1)原料の極限粘度[η]及び成形後フィルムの極限粘度[η]:ASTM D402 0−2001に基づき、デカリン中、135℃で測定した。
(2)短時間フィルム破膜の有無:引取り速度及び膨比の設定が終了した後、フィルムの 一部に欠陥が発生し、かつ1分以内にフィルムが破断し、連続フィルムとならない場 合を「有」、破断しない場合を「無」とした。
(3)フィルム欠陥数:フィルム面において、短径3mm以上の欠陥数を目視で測定した 数を言い、サンプルは、チューブ状フィルム3m長さのフィルムを5回切り出し測定 し、単位面積当たりの換算値を平均してフィルム欠陥数とした。本発明においてフィ ルム欠陥数とは、図4における顕微鏡写真の模式図に示した状態欠陥を意味する ものであり、フィルム欠陥数が0.2個未満を良好と判断した。
(4)成形後のフィルム膜厚は、JIS Z1702:1994に準じ、以下の条件で測 定された値である。
測定装置:東洋精機株式会社製測厚器 デジシックネステスター 検出能力1μm (検出精度)2μm
測定方法:チューブ状フィルムの円周方向(TD)を等間隔に10点測定し、その 平均値を厚みとした。
圧子:5mmφ;
荷重:125g;
測定圧:0.637kg/cm2
温度:23℃;
(5)成形後のフィルムの砂摩耗量は、セイワ技研製砂摩耗試験機を使用した。試験方法 は、試験片を砥粒(鉄粉と砂の混合物)と水の混ざったスラリー中で回転させ、試験 片の摩耗による重量斑質量を測定した。試験槽(タンク)に砥粒2.6kgと水3k gを入れ、スラリーを作り、試験片を治道(回転羽根)に取り付け、タンク内にセッ トした。試験機を1600回転/時で3時間回転させた後の、試験片の重量損失量を試験前後の質量差から求めた。n=2で測定し、平均値を採用した。
試験条件は以下のとおりである。
・試験温度:25℃
・試験回転数:1600rpm
・試験時間:3時間
・試験片取り付け開口度:45°
・試験片取り付け位置:タンク底部と試験片の隙間3cm
・砥粒:モランダム[JISR6001−98(A−43)]
・試験片形状:25(w)×75(l)×3(t)mm
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、原料である超高分子量ポリオレフィンの溶融粘度の高さに起因して、従来の製造装置では成形が困難であった、極限粘度[η]が10dl/gを超える超高分子量ポリオレフィンを、優れた物性を保持したまま、耐摩耗性で外観の優れたフィルム等の成形品に成形することを可能ならしめたものであるため、極限粘度[η]の高い超高分子量ポリオレフィンでも、その優れた物性を活かした成形品を得ることができる点で、高強度や優れた物性が求められる極めて広汎な分野において、利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係るインフレーションフィルム製造装置の断面図である。
【図2】本発明のインフレーションフィルムの製造装置に於ける、第2スクリューのフライト部とフライト基部を図示した説明図である。
【図3】本発明のマンドレルの下部(M1)とマンドレルの上部(M2)を図示した説明図である。
【図4】本発明の実施例と比較例における「フィルム欠陥」状態を示す顕微鏡写真の模式図である。
【符号の説明】
【0061】
1 押出機
3 第1スクリュー
20 スクリューダイ
21 第2スクリュー
22 アウターダイ
23 マンドレル
24 気体流路
26 安定棒
27 防風筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1スクリューを備えた押出機と、前記第1スクリューと独立して回転する第2スクリューと、前記第2スクリュー先端に連結され前記第2スクリューと共に回転するマンドレルと、前記マンドレルが挿通されるアウターダイと、前記第2スクリューの内部及びマンドレルの内部に延在してなる気体流路とを具備してなり、かつ、
第2スクリューのフライト部の厚さが0.1mm以上2.5mm以下、
第2スクリューのフライト基部のRが0.1mm以上2.5mm以下、
であることを特徴とするインフレーションフィルムの製造装置。
【請求項2】
前記マンドレルの下部(M1)とマンドレルの上部(M2)の直径の比(M2/M1)が0.9以上1.0以下である請求項1記載のインフレーションフィルムの製造装置。
【請求項3】
インフレーションフィルムが極限粘度[η]が10dl/gを超え25dl/g以下の超高分子量ポリオレフィンからなる請求項1又は2記載のインフレーションフィルムの製造装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項記載の製造装置を用いて、極限粘度[η]が10dl/gを超え25dl/g以下である超高分子量ポリオレフィンを第1スクリューを備えた押出機で180℃ないし220℃の温度範囲で溶融し、次いでスクリューダイから押し出した後、溶融状態のチューブ状フィルムの内部に気体を吹き込むことを特徴とするインフレーションフィルムの製造方法。
【請求項5】
超高分子量ポリオレフィンの極限粘度[η]が11dl/gないし15dl/gである請求項4記載のインフレーションフィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項4記載の製造方法によって製造された極限粘度[η]が10dl/gを超え25dl/g以下の超高分子量ポリオレフィンインフレーションフィルム。
【請求項7】
請求項5記載の製造方法によって製造された極限粘度[η]が11dl/gないし15dl/gの超高分子量ポリオレフィンインフレーションフィルム。
【請求項8】
3mm以上の平均欠陥数が1個/m2 以下である請求項6または7記載の超高分子量ポリオレフィンインフレーションフィルム。
【請求項9】
厚さが50ないし100μmである請求項6ないし8のいずれか1項記載の超高分子量ポリオレフィンインフレーションフィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−296483(P2008−296483A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146078(P2007−146078)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】