説明

インフレータおよびインフレータ用フィルタ材

【課題】フックメタルを巻き回すことで形成されたフィルタ材を用いた場合にも、フィルタ材をハウジングに容易に組付けることが可能で、かつフィルタ材とハウジングとの間の隙間からの作動ガスの流出を簡素な構成で確実に防止でき、これにより安価に製作が可能なインフレータを提供する。
【解決手段】インフレータ1Aは、ロワーケース3およびアッパーケース9からなるハウジングと、フィルタ材25とを備えている。フィルタ材25は、周縁に突起部が形成された開口部27を複数有する板状金属部材を巻き回すことで構成され、フィルタ材25の内部に位置する燃焼室20には、ガス発生剤21が収容されている。フィルタ材25は、軸方向の一方の端部を内側に向けて曲げることで形成された折り曲げ部28aを有しており、折り曲げ部28aは、ハウジングによってフィルタ材25が軸方向に挟み込まれることでハウジングに圧接している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に搭載される乗員保護装置に組み込まれるインフレータおよびこれに用いられるインフレータ用フィルタ材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に搭載される乗員保護装置として、エアバッグ装置が知られている。エアバッグ装置は、車輌等衝突時に生じる衝撃から乗員を保護するものであり、車輌等衝突時に瞬時にエアバッグを膨張・展開させることにより、乗員の体を受け止めるものである。インフレータ(ガス発生器)は、このエアバッグ装置に組み込まれ、車輌等衝突時にコントロールユニットからの通電によってスクイブ(点火器)を発火し、スクイブにおいて生じる火炎によりガス発生剤を燃焼させて多量の作動ガスを瞬時に発生させ、これによりエアバッグを膨張・展開させる機器である。
【0003】
種々あるインフレータのうち、自動車のステアリングホイールに装備される運転席用エアバッグ装置に特に好適に利用されるインフレータとして、短尺円柱状の外形を有するディスク型インフレータがある。ディスク型インフレータは、内部にガス発生剤やスクイブ等が収容された両端閉塞の短尺円筒状のハウジングを有しており、当該ハウジングの周壁に作動ガスを放出するためのガス放出口を有している。
【0004】
ディスク型インフレータにおいては、ガス発生剤が収容された燃焼室を径方向に取り囲むようにフィルタ材がハウジングの内部に収容されている。このインフレータ用フィルタ材は、作動ガス中に含まれるスラグ(残渣)を捕集する手段であるとともに、当該作動ガスが内部を通過することによってその温度を低下させる冷却手段でもある。
【0005】
フィルタ材としては、種々の構成のものが存在するが、その主たるものとして、金属線材や金属網材を環状に巻き回して形成したものや、金属線材や金属網材をプレス加工することによって環状に押し固めて形成したもの等が知られている。しかしながら、このように金属線材や金属網材を環状に巻き回したりあるいはプレス加工することによって環状に押し固めたりすることで形成されたフィルタ材は、重量が重くなってしまうといった問題やその製造が煩雑であるといった問題を有している。
【0006】
そのため、軽量化や製造の容易化の観点から、フィルタ材として、フックメタルと称される板状金属部材を巻き回すことで形成されたフィルタ材を利用することが提案されている(たとえば、特開2002−249017号公報(特許文献1)参照)。ここで、フックメタルとは、周縁に突起部が形成された開口部を複数有する板状金属部材のことである。
【0007】
このフックメタルを巻き回すことで形成されたフィルタ材においては、積層された複数の層の間に上述した突起部が位置することになり、この突起部の存在により、積層された上記複数の層の間に間隙部が形成される。そして、この間隙部と上述した開口部とによってフィルタ材の内部に迷路化した流路が形成されることになり、この流路を作動ガスが流動することにより、上述した作動ガスの冷却機能と作動ガス中に含まれるスラグの捕集機能とが効果的に発揮されることになる。
【0008】
また、ディスク型インフレータにおいて、何ら対策を講じていない場合には、作動時においてフィルタ材とハウジングとの間の隙間から作動ガスが一部流出してフィルタ材の内部を通過することなくガス放出口から作動ガスが放出してしまうおそれがあることが知られている。このような隙間からの作動ガスの流出が生じた場合には、所望の出力特性が得られないばかりでなく、作動ガスが十分に冷却されなかったり、インフレータから放出される作動ガス中に多くのスラグが含まれてしまったりする。
【0009】
上述の隙間からの作動ガスの流出を防止するために、一般的にディスク型インフレータにおいては、燃焼室を規定するフィルタ材の内周面とハウジングの内面とに沿うように金属製の流出防止部材を配置し、当該流出防止部材をフィルタ材の内周面とハウジングの内面とのそれぞれに圧接させる構成が採用されている(たとえば特開平10−287197号公報(特許文献2)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−249017号公報
【特許文献2】特開平10−287197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一般にフィルタ材は、ハウジングに対する安定的な固定の観点から、ハウジングの天板部と底板部とによって軸方向から挟み込まれることで固定される。このような挟み込みによるフィルタ材の組付け構造を採用した場合には、フィルタ材の軸方向の端面がハウジングの天板部と底板部のそれぞれに適度な圧力にて圧接した状態となる。
【0012】
ところが、上述したフックメタルを巻き回すことで形成されたフィルタ材は、その軸方向における剛性が高く、当該軸方向には容易には変形しない特徴を有している。そのため、当該フックメタルを巻き回すことで形成されたフィルタ材をインフレータのハウジングに適度な圧力にて圧接させた状態で固定するためには、フィルタ材やハウジングの外形寸法を高精度に管理する必要が生じる。しかしながら、このような高精度の寸法管理は、非常に困難を伴うものであり、歩留まりが悪化するといった問題や製造コストを圧迫するといった問題を生じさせる。
【0013】
また、上述した如くの流出防止部材を用いてフィルタ材とハウジングとの間の隙間からの作動ガスの流出を防止した場合には、ハウジングの天板部側および底板部側のそれぞれに上述した流出防止部材を配置することが必要になり、部品点数が増加したり組立て作業が煩雑化したりすることに伴って製造コストが増大する問題が生じる。
【0014】
したがって、本発明は、フックメタルを巻き回すことで形成されたフィルタ材を用いた場合にも、フィルタ材をハウジングに容易に組付けることが可能で、かつフィルタ材とハウジングとの間の隙間からの作動ガスの流出を簡素な構成で確実に防止でき、これにより安価に製作が可能なインフレータおよびこれに用いられるインフレータ用フィルタ材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に基づくインフレータは、ハウジングと、フィルタ材と、燃焼室と、スクイブとを備えている。上記ハウジングは、周壁部にガス放出口を有し、軸方向の両端が閉塞された短尺円筒状の部材にて構成されている。上記フィルタ材は、上記ハウジングの内部に位置し、周縁に突起部が形成された開口部を複数有する板状金属部材を巻き回すことで構成された中空円筒状の部材にて構成されている。上記燃焼室は、上記フィルタ材の内部に位置しており、当該燃焼室には、ガス発生剤が収容されている。スクイブは、上記燃焼室に面するように配設されている。上記フィルタ材は、軸方向の少なくともいずれか一方の端部を内側に向けて曲げることで形成された弾性力発現部を有している。上記弾性力発現部は、上記ハウジングの天板部および底板部によって上記フィルタ材が当該フィルタ材の軸方向に挟み込まれることにより、上記ハウジングの天板部および底板部の少なくともいずれか一方に圧接している。
【0016】
上記本発明に基づくインフレータにあっては、好ましくは、上記弾性力発現部が上記フィルタ材の上記端部を折り曲げて形成された折り曲げ部にて構成されている。
【0017】
上記本発明に基づくインフレータにあっては、好ましくは、上記弾性力発現部が上記フィルタ材の上記端部を湾曲させて形成された曲成部にて構成されている。
【0018】
上記本発明に基づくインフレータにあっては、好ましくは、当該インフレータがさらに破砕防止部材を備えている。上記破砕防止部材は、上記燃焼室と上記ハウジングの天板部または底板部との間に配置され、振動による上記ガス発生剤の破砕を防止する円盤状または円環状の部材にて構成されている。ここで、上記破砕防止部材は、好ましくは、上記弾性力発現部によって保持されている。
【0019】
本発明に基づくインフレータ用フィルタ材は、周縁に突起部が形成された開口部を複数有する板状金属部材を巻き回すことで短尺中空円筒状に構成されたものであり、インフレータのハウジングによって軸方向に挟み込まれて固定されるものである。上記本発明に基づくインフレータ用フィルタ材は、軸方向の少なくともいずれか一方の端部に、当該端部を内側に向けて曲げることで形成された弾性力発現部を有している。
【0020】
上記本発明に基づくインフレータ用フィルタ材にあっては、好ましくは、上記弾性力発現部が上記端部を折り曲げて形成された折り曲げ部にて構成されている。
【0021】
上記本発明に基づくインフレータ用フィルタ材にあっては、好ましくは、上記弾性力発現部が上記端部を湾曲させて形成された曲成部にて構成されている。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、フックメタルを巻き回すことで形成されたフィルタ材を用いた場合にも、フィルタ材をハウジングに容易に組付けることが可能で、かつフィルタ材とハウジングとの間の隙間からの作動ガスの流出を簡素な構成で確実に防止でき、これにより安価に製作が可能なインフレータおよびこれに用いられるインフレータ用フィルタ材とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態1におけるインフレータの模式断面図である。
【図2】図1に示すインフレータの要部拡大模式断面図である。
【図3】図1に示すフィルタ材の概略斜視図である。
【図4】図1に示すフィルタ材の表面部分の拡大斜視図である。
【図5】図1に示すインフレータの作動時の要部拡大模式断面図である。
【図6】本発明の実施の形態1の第1変形例に係るインフレータの要部拡大模式断面図である。
【図7】本発明の実施の形態1の第2変形例に係るインフレータの要部拡大模式断面図である。
【図8】本発明の実施の形態2におけるインフレータの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。以下に示す実施の形態においては、インフレータおよびインフレータ用フィルタ材として、いわゆるディスク型インフレータおよびこれに用いられるディスク型インフレータ用フィルタ材を例示して説明を行なう。
【0025】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるインフレータの模式断面図であり、図2は、図1に示すインフレータの要部拡大模式断面図である。また、図3は、図1に示すフィルタ材の概略斜視図であり、図4は、図1に示すフィルタ材の表面部分の拡大斜視図である。
【0026】
図1に示すように、本実施の形態におけるインフレータ1Aは、ロワーケース3およびアッパーケース9からなるハウジングと、スクイブ2と、エンハンサ(伝火薬)19と、ガス発生剤21とを主として備えている。
【0027】
ロワーケース3は、底板部4と周壁部5とを有する上面開口の有底筒状の形状を有しており、アッパーケース9は、天板部10と周壁部11とを有する下面開口の有底筒状の形状を有している。ハウジングは、これらロワーケース3とアッパーケース9とを組み合わせることで軸方向の両端が閉塞された短尺円筒状に構成されており、その内部に各種の構成部品を内包している。
【0028】
ロワーケース3およびアッパーケース9は、いずれもステンレス鋼や鉄鋼、アルミニウム合金、ステンレス合金等の金属製の部材にて構成されており、それぞれ一枚の板状または一片のブロック状の金属部材から、金型等を使用して鍛造加工、絞り加工、プレス加工等またはその組み合わせによって形成される。ロワーケース3およびアッパーケース9は、たとえば電子ビーム溶接やレーザー溶接、摩擦圧接等によって接合されている。
【0029】
ロワーケース3の底板部4の略中央部には、保持部6が形成されている。この保持部6は、スクイブ2を保持するための部位であり、当該保持部6に設けられた開口にスクイブ2を内側から挿入し、保持部6の先端に設けられたかしめ部7をスクイブ2側に向けてかしめることにより、スクイブ2がロワーケース3に固定されている。スクイブ2の端子ピン2bは、ハウジングの外部に露出しており、当該端子ピン2bには、スクイブ2とコントロールユニットとを電気的に接続するためのハーネスのコネクタ(図示せず)が接続可能である。
【0030】
スクイブ2は、火炎を発生させるための機器であり、点火部2aと上述の端子ピン2bとを有している。点火部2aは、金属製またはプラスチック製のスクイブカップを有しており、その内部に作動時において着火する点火薬とこの点火薬を燃焼させるための抵抗体(ブリッジワイヤ)とを含んでいる。端子ピン2bは、点火薬を着火させるために抵抗体に接続されている。抵抗体としては一般にニクロム線等の導電線が利用され、点火薬としては一般にZPP(ジルコニウム・過塩素酸カリウム)、ZWPP(ジルコニウム・タングステン・過塩素酸カリウム)、鉛トリシネート等の薬剤が利用される。
【0031】
スクイブ2と保持部6との間には、シール部材16が介在されている。シール部材16は、スクイブ2と保持部6との間に生じる隙間を気密に封止することによって後述するエンハンサ室18を密閉するためのものであり、スクイブ2を保持部6にかしめ固定する際に上記隙間に挿入される。シール部材16としては、十分な耐熱性および耐久性の材料からなるものを利用することが好ましく、たとえばエチレンプロピレンゴムの一種であるEPDM樹脂製のOリング等の樹脂部材が利用される。
【0032】
ロワーケース3の保持部6には、スクイブ2を覆うように有底筒状のエンハンサカップ14が固定されている。エンハンサカップ14の内部には、エンハンサ室18が形成されており、当該エンハンサ室18には、エンハンサ19が充填されている。エンハンサカップ14は、その内部に設けられたエンハンサ室18がスクイブ2の点火部2aに面するように保持部6に固定されている。より詳細には、エンハンサカップ14には、フランジ部15が設けられており、保持部6に設けられたかしめ部8によって当該フランジ部15がかしめられることにより、エンハンサカップ14が保持部6に固定されている。
【0033】
エンハンサカップ14は、ロワーケース3の保持部6に固定された状態において、その内部に設けられたエンハンサ室18を完全に密閉している。このエンハンサカップ14は、スクイブ2が作動することによってエンハンサ19が着火された場合にエンハンサ室18内の圧力上昇や発生した熱の伝導に伴って破裂または溶融するものである。なお、エンハンサカップ14の材質としては、アルミニウムやアルミニウム合金、プラスチック等が好適に利用される。
【0034】
エンハンサ室18に充填されたエンハンサ19は、スクイブ2が作動することによって生じた火炎によって点火され、燃焼することによって熱粒子を発生する。エンハンサ19としては、後述するガス発生剤21を確実に燃焼開始させることができるものであることが必要であり、一般的には、B/KNO3等に代表される金属粉/酸化剤からなる組成物などが用いられる。エンハンサ19は、粉状のものや、バインダによって所定の形状に成型されたもの等が利用される。バインダによって成型されたエンハンサの形状としては、たとえば顆粒状、円柱状、シート状、球状、単孔円筒状、多孔円筒状、タブレット状など種々の形状がある。
【0035】
ロワーケース3およびアッパーケース9からなるハウジングの内部の空間のうち、上述のエンハンサカップ14が配置された部分を取り巻く空間には、ガス発生剤21が収容される燃焼室20が位置している。より具体的には、上述のエンハンサカップ14は、ハウジングの内部に形成された燃焼室20内に突出して配置されており、このエンハンサカップ14の周面を囲うように燃焼室20が構成されている。
【0036】
ガス発生剤21は、スクイブ2によって点火されたエンハンサ19が燃焼することによって生じた熱粒子によって着火され、燃焼することによって作動ガスを発生させるものである。ガス発生剤21は、一般に燃料と酸化剤と添加剤とを含む成型体として形成される。燃料としては、たとえばトリアゾール誘導体、テトラゾール誘導体、グアニジン誘導体、アゾジカルボンアミド誘導体、ヒドラジン誘導体等またはこれらの組み合わせが利用される。具体的には、たとえばニトログアニジンや硝酸グアニジン、シアノグアニジン、5−アミノテトラゾール等が好適に利用される。また、酸化剤としては、たとえばアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、アンモニアから選ばれたカチオンを含む硝酸塩等が利用される。硝酸塩としては、たとえば硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等が好適に利用される。また、添加剤としては、バインダやスラグ形成剤、燃焼調整剤等が挙げられる。バインダとしては、たとえばカルボキシメチルセルロースの金属塩、ステアリン酸塩等の有機バインダや、合成ヒドロキシタルサイト、酸性白土等の無機バインダが好適に利用可能である。スラグ形成剤としては窒化珪素、シリカ、酸性白土等が好適に利用可能である。また、燃焼調整剤としては、金属酸化物、フェロシリコン、活性炭、グラファイト等が好適に利用可能である。
【0037】
ガス発生剤21の成型体の形状には、顆粒状、ペレット状、円柱状、ディスク状など様々な形状のものがある。また、成型体内部に孔を有する有孔状(たとえば単孔筒形状や多孔筒形状等)の成型体も利用される。これらの形状は、インフレータ1Aが組み込まれるエアバッグ装置の仕様に応じて適宜選択されることが好ましく、たとえばガス発生剤21の燃焼時においてガスの生成速度が時間的に変化する形状を選択するなど、仕様に応じた最適な形状を選択することが好ましい。また、ガス発生剤21の形状の他にもガス発生剤21の線燃焼速度、圧力指数などを考慮に入れて成型体のサイズや充填量を適宜選択することが好ましい。
【0038】
ガス発生剤21が収容された燃焼室20を取り巻く空間には、ハウジングの内周に沿ってフィルタ材25が配置されている。フィルタ材25は、中空円筒状の形状を有しており、ハウジングと同軸上に配置されている。ここで、フィルタ材25は、ハウジングの周壁部5,11と所定の距離もって離間して配置されている。
【0039】
図1および図2に示すように、フィルタ材25は、軸方向に沿って延びる筒状部26を有している。フィルタ材25の筒状部26には、複数の開口部27が設けられており、当該複数の開口部27を介して燃焼室20とフィルタ材25の外側の空間とが連通している。また、フィルタ材25の筒状部26は、その軸方向の一方の端部であるアッパーケース9の天板部10側の端部に折り曲げ部28aを有している。当該折り曲げ部28aは、筒状部26の上記アッパーケース9の天板部10側の端部を内側に折り曲げることで形成されており、その先端は、アッパーケース9の天板部10に圧接している。
【0040】
図3および図4に示すように、フィルタ材25は、フックメタルと称される開口部27を複数有する板状金属部材を巻き回すことで形成されたものである。上記複数の開口部27は、プレス加工することによって形成されたものであり、巻き回し後においてフィルタ材25の各層にわたって設けられている。なお好ましくは、図3に示すように、開口部27は、折り曲げ部28aには設けられない。
【0041】
ここで、筒状部26に形成された開口部27の周縁には、突起部29が形成されている。この突起部29は、上述した板状金属部材に開口部27を形成するためのプレス加工の際に形成されるものであり、プレス機の押し型によって切り起こされて形成されるものである。図示する如くの形状の突起部29を形成するためには、押し型として角錐状または円錐状のピンを用いることが好適である。
【0042】
上記突起部29の存在により、フィルタ材25の各層間には、図3に示す如くの間隙部30が形成されることになる。この間隙部30と開口部27とにより、フィルタ材25の内部には、フィルタ材25の内側の空間と外側の空間とを連通する迷路化された流路(図1および2参照)が形成されることになる。なお、フィルタ材25に設けられる突起部29の位置は、フィルタ材25の各層の内周面側であってもよいし、外周面側であってもよい。
【0043】
また、フィルタ材25においては、必要に応じてプレス加工後にローラを用いて切り起こされた突起部29を圧延することにより、図示する如く、突起部29を板状金属部材の表面に沿わせた形状とされていてもよい。このようにした場合には、突起部の29高さが一定に調節されることになり、各層間に形成される間隙部30の大きさを所望の大きさに均一化することができる。
【0044】
図1および図2に示すように、上述したフィルタ材25は、ロワーケース3とアッパーケース9とによって軸方向から挟み込まれることでハウジングに組付けられる。その際、上述した折り曲げ部28aは、アッパーケース9に突き当たることで弾性変形し、フィルタ材25の軸方向に弾性力を発現してアッパーケース9に圧接する弾性力発現部として機能する。これにより、フィルタ材25は、そのハウジングへの組付けの際に軸方向の長さが減じることになり、適度な圧力をもってロワーケース3の底板部4およびアッパーケース9の天板部10に圧接することになり、各部材間の寸法精度の誤差を許容して安定的にハウジングに対して固定されることになる。
【0045】
なお、フィルタ材25を構成する板状金属部材の厚みとしては、0.15mm以上0.3mm以下であることが好ましく、より好適には0.2mm以上0.25mm以下である。折り曲げ部28aの軸方向の大きさとしては、0.3mm以上10mm以下であることが好ましく、より好適には1.0mm以上5.0mm以下である。また、折り曲げ部28aの径方向の大きさとしては、0.3mm以上10mm以下であることが好ましく、より好適には1.0mm以上5.0mm以下である。また、折り曲げ角度としては、概ね15°以上75°以下であることが好ましく、より好適には30°以上60°以下である。
【0046】
図1に示すように、フィルタ材25に対面する部分のハウジングの周壁部11には、ガス放出口12が複数設けられている。このガス放出口12は、フィルタ材25を通過した作動ガスをハウジングの外部に導出するためのものである。当該ガス放出口12が設けられた部分のハウジングの周壁部11には、内側からシール部材13が貼付されることにより、燃焼室20の気密性が確保されている。このシール部材13としては、片面に粘着部材が塗布されたアルミニウム箔等が好適に利用される。
【0047】
燃焼室20のロワーケース3の底板部4側の端部には、フィルタ材25を支持するとともに、フィルタ材25とロワーケース3との間の隙間から作動ガスが流出することを防止するための流出防止部材23が配置されている。流出防止部材23は、ステンレス鋼や鉄鋼等の金属製の板状部材をプレス加工等することによって形成されたものであり、フィルタ材25の下端部分の内周面に当接する部位と、ロワーケース3の底板部4に当接する部位とを有する環状の部材からなる。ここで、流出防止部材23は、適度な弾性を有しており、フィルタ材25の内周面およびロワーケース3の底板部4のそれぞれに適度に圧接している。
【0048】
燃焼室20のアッパーケース9の天板部10側の端部には、当該天板部10および燃焼室20に収容されたガス発生剤21に接触するように円盤状のクッション材22aが配置されている。このクッション材22aは、成型体からなるガス発生剤21が振動等によって粉砕されることを防止する粉砕防止部材に相当し、好適にはセラミックスファイバの成型体や発泡シリコン等が利用される。当該クッション材22aは、折り曲げ部28aが形成された部分のフィルタ材25の端部に嵌め込まれており、当該折り曲げ部28aによって保持されている。このように構成することにより、ガス発生剤21自体が振動等によってクッション材22aの端部を介して燃焼室20の外部に移動し、ハウジングとフィルタ材25の間の隙間やハウジングとクッション材22aの間の隙間に侵入することが防止できる。
【0049】
本実施の形態におけるインフレータ1Aが搭載された車両が衝突した場合には、車両に設けられた衝突検知手段によって衝突が検知され、これに基づいてスクイブ2が作動する。エンハンサ室18に収容されたエンハンサ19は、スクイブ2が作動することによって生じた火炎によって点火されて燃焼し、多量の熱粒子を発生させる。このエンハンサ19の燃焼によってエンハンサカップ14は破裂または溶融し、上述の熱粒子が燃焼室20へと流れ込む。
【0050】
流れ込んだ熱粒子により、燃焼室20に収容されたガス発生剤21が着火されて燃焼し、多量の作動ガスを発生させる。燃焼室20にて発生した作動ガスは、フィルタ材25の筒状部26中を通過し、その際フィルタ材25によって熱が奪われて冷却されるとともに作動ガス中に含まれるスラグがフィルタ材25の筒状部26によって除去されてハウジングの外周縁部に流れ込む。ハウジングの内圧の上昇に伴い、アッパーケース9のガス放出口12を閉塞していたシール部材13による封止が破られ、ガス放出口12を介して作動ガスがハウジングの外部へと放出される。放出されたガスは、インフレータ1Aに隣接して設けられたエアバッグの内部に導入され、エアバッグを膨張・展開する。
【0051】
図5は、図1に示すインフレータの作動時の要部拡大模式断面図である。なお、図5においては、インフレータの作動前のアッパーケース9およびフィルタ材25の位置を鎖線を用いて示している。
【0052】
図5に示すように、インフレータ1Aの作動時においては、ガス発生剤21が燃焼することによって燃焼室20の圧力が高圧になることに伴い、アッパーケース9が外側に向けて変形する。その際、フィルタ材25の折り曲げ部28aは、予めアッパーケース9に圧接されているため、自身の有する弾性力に基づいて弾性変形し、アッパーケース9の変形に追従して移動する。
【0053】
このとき、フィルタ材25の折り曲げ部28aの先端は、アッパーケース9に圧接した状態が常に維持されることになるため、アッパーケース9が変形する際およびその変形後においてもフィルタ材25とアッパーケース9との間に隙間が生じることがない。したがって、フィルタ材25とアッパーケース9との間から作動ガスが流出することが防止でき、確実に作動ガスをフィルタ材25を経由させて外部へと放出することが可能になる。
【0054】
以上において説明した本実施の形態におけるインフレータ1Aおよびインフレータ用フィルタ材25とすることにより、フィルタ材25に設けた弾性力発現部としての折り曲げ部28aの作用により、フィルタ材25を軸方向からロワーケース3の底板部4およびアッパーケース9の天板部10で挟み込んで固定する際に、フィルタ材25の軸方向長さが僅かに減じ、かつフィルタ材25の軸方向端部がロワーケース3の底板部4およびアッパーケース9の天板部10のそれぞれに適度な圧力をもって圧接することになる。そのため、フィルタ材25やハウジング等の寸法精度の管理を通常よりも高めることなく、歩留まりよくフィルタ材25をハウジングに安定的に組付けることが可能となり、製造コストを抑制することができる。したがって、フックメタルを巻き回すことで形成されたフィルタ材を用いた場合にも、その組付けが容易でかつ製造コストが低く抑制可能なインフレータおよびこれに用いられるインフレータ用フィルタ材とすることができる。
【0055】
また、本実施の形態におけるインフレータ1Aおよびインフレータ用フィルタ材25とすることにより、インフレータ1Aの作動時においてフィルタ材25の折り曲げ部28aが常にアッパーケース9の天板部10に圧接した状態に維持されるようにすることができるため、フィルタ材25を経由することなく作動ガスがガス放出口12から放出されることが防止できる。すなわち、フィルタ材25に形成した折り曲げ部28aが作動ガスの流出を防止する流出防止部材として機能することになり、従来必要であった別部品からなる流出防止部材をハウジングの天板部10側に別途設ける必要がなくなる。したがって、部品点数を削減することができ、組付け作業も容易化するため、安価に高性能のインフレータを製作することが可能になる。
【0056】
加えて、本実施の形態におけるインフレータ1Aにおいては、ガス発生剤21が振動等によって粉砕することを防止するための粉砕防止部材としてのクッション材22aが上述したフィルタ材25の折り曲げ部28aによって保持された構成とされている。したがって、クッション材22aが安定的にハウジング内において固定されることになり、ガス発生剤21が粉砕することが確実に防止できるとともに、ガス発生剤21自体が燃焼室20から漏れ出すことも防止できる。
【0057】
図6および図7は、本実施の形態の第1および第2変形例に係るインフレータの要部拡大模式断面図である。
【0058】
図6に示すように、第1変形例に係るフィルタ材25Aにあっては、板状金属部材を巻き回した後にフィルタ材25Aの上端を所定の形状の型に挿入することにより、フィルタ材25Aの筒状部26の上端部に絞り加工を施し、これにより折り曲げ部28aを形成している。この場合、内側の層に形成された折り曲げ部の外周面が外側の層に形成された折り曲げ部の内周面に当接することになる。このように構成した場合にも、上述の本実施の形態におけるフィルタ材25とした場合と同様の効果を得ることができる。
【0059】
図7に示すように、第2変形例に係るフィルタ材25Bにあっては、弾性力発現部が、上述した折り曲げ加工による折り曲げ部28aではなく、湾曲させて形成された曲成部28bにて構成されている。この曲成部28bは、板状金属部材を巻き回すに先立ち、予め当該板状金属部材の上端を湾曲させておき、その後に板状金属部材を巻き回すことで形成が可能である。このように構成した場合にも、上述の本実施の形態におけるフィルタ材25とした場合と同様の効果を得ることができる。
【0060】
(実施の形態2)
図8は、本発明の実施の形態2におけるインフレータの模式断面図である。なお、上述の実施の形態1におけるインフレータ1Aと同様の部分については図中同一の符号を付し、その説明はここでは繰り返さない。
【0061】
図8に示すように、本実施の形態におけるインフレータ1Bにおいては、フィルタ材25の上端に折り曲げ部28aが形成されておらず、フィルタ材25の下端に折り曲げ部28aが形成されている。すなわち、折り曲げ部28aは、筒状部26のロワーケース3の底板部4側の端部を内側に折り曲げることで形成されており、その先端は、ロワーケース3の底板部4に圧接している。
【0062】
燃焼室20のアッパーケース9の天板部10側の端部には、フィルタ材25を支持するとともに、フィルタ材25とアッパーケース9との間の隙間から作動ガスが流出することを防止するための流出防止部材24が配置されている。流出防止部材24は、フィルタ材25の上端部分の内周面に当接する部位と、アッパーケース9の天板部10に当接する部位とを有する環状の部材からなり、フィルタ材25の内周面およびアッパーケース9の天板部10のそれぞれに適度に圧接している。
【0063】
燃焼室20のロワーケース3の底板部4側の端部には、当該底板部4および燃焼室20に収容されたガス発生剤21に接触するように円環状のクッション材22bが配置されている。当該クッション材22bは、折り曲げ部28aが形成された部分のフィルタ材25の端部に嵌め込まれており、当該折り曲げ部28aによって保持されている。このように構成することにより、ガス発生剤21自体が振動等によってクッション材22bの端部を介して燃焼室20の外部に移動し、ハウジングとフィルタ材25の間の隙間やハウジングとクッション材22bの間の隙間に侵入することが防止できる。
【0064】
フィルタ材25は、ロワーケース3とアッパーケース9とによって軸方向から挟み込まれることでハウジングに組付けられる。その際、上述した折り曲げ部28aは、ロワーケース3に突き当たることで弾性変形し、フィルタ材25の軸方向に弾性力を発現してロワーケース3に圧接する弾性力発現部として機能する。これにより、フィルタ材25は、そのハウジングへの組付けの際に軸方向の長さが減じることになり、適度な圧力をもってロワーケース3の底板部4およびアッパーケース9の天板部10に圧接することになり、各部材間の寸法精度の誤差を許容して安定的にハウジングに対して固定されることになる。
【0065】
このように構成した場合にも、上述の本実施の形態1におけるフィルタ材25を利用した場合と同様の効果を得ることができる。なお、上記構成とした場合の折り曲げ部28aの寸法、形状等は、上述した本発明の実施の形態1におけるそれと同様にすることが好ましい。
【0066】
以上において説明した本発明の実施の形態ならびにその変形例においては、板状金属部材を巻き回すことによって形成したフィルタ材の層の数を2層とした場合を例示して説明を行なったが、当該層の数は2層に限定されるものではなく、複数であれば何層に構成されていてもよい。また、上述した本発明の実施の形態ならびにその変形例においては、フィルタ材の軸方向端部の一方に弾性力発現部を設けた場合を例示して説明を行なったが、当然にフィルタ材の軸方向端部の両方に弾性力発現部を設けることとしてもよい。
【0067】
このように、今回開示した上記各実施の形態およびその変形例はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0068】
1A,1B インフレータ、2 スクイブ、2a 点火部、2b 端子ピン、3 ロワーケース、4 底板部、5 周壁部、6 保持部、7,8 かしめ部、9 アッパーケース、10 天板部、11 周壁部、12 ガス放出口、13 シール部材、14 エンハンサカップ、15 フランジ部、16 シール部材、18 エンハンサ室、19 エンハンサ、20 燃焼室、21 ガス発生剤、22a,22b クッション材、23,24 流出防止部材、25,25A,25B フィルタ材、26 筒状部、27 開口部、28a 折り曲げ部、28b 曲成部、29 突起部、30 間隙部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周壁部にガス放出口を有し、軸方向の両端が閉塞された短尺円筒状のハウジングと、
前記ハウジングの内部に位置し、周縁に突起部が形成された開口部を複数有する板状金属部材を巻き回すことで構成された中空円筒状のフィルタ材と、
前記フィルタ材の内部に位置し、ガス発生剤が収容された燃焼室と、
前記燃焼室に面するように配設されたスクイブとを備えたインフレータであって、
前記フィルタ材は、軸方向の少なくともいずれか一方の端部を内側に向けて曲げることで形成された弾性力発現部を有し、
前記ハウジングの天板部および底板部によって前記フィルタ材が当該フィルタ材の軸方向に挟み込まれることにより、前記弾性力発現部が、前記ハウジングの天板部および底板部の少なくともいずれか一方に圧接している、インフレータ。
【請求項2】
前記弾性力発現部が、前記フィルタ材の前記端部を折り曲げて形成された折り曲げ部にて構成されている、請求項1に記載のインフレータ。
【請求項3】
前記弾性力発現部が、前記フィルタの前記端部を湾曲させて形成された曲成部にて構成されている、請求項1に記載のインフレータ。
【請求項4】
前記燃焼室と前記ハウジングの天板部または底板部との間に配置され、振動による前記ガス発生剤の破砕を防止する円盤状または円環状の破砕防止部材をさらに備え、
前記破砕防止部材が、前記弾性力発現部によって保持されている、請求項1から3のいずれかに記載のインフレータ。
【請求項5】
周縁に突起部が形成された開口部を複数有する板状金属部材を巻き回すことで短尺中空円筒状に構成され、インフレータのハウジングによって軸方向に挟み込まれて固定されるインフレータ用フィルタ材であって、
軸方向の少なくともいずれか一方の端部に、当該端部を内側に向けて曲げることで形成された弾性力発現部が設けられている、インフレータ用フィルタ材。
【請求項6】
前記弾性力発現部が、前記端部を折り曲げて形成された折り曲げ部にて構成されている、請求項5に記載のインフレータ用フィルタ材。
【請求項7】
前記弾性力発現部が、前記端部を湾曲させて形成された曲成部にて構成されている、請求項5に記載のインフレータ用フィルタ材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−234843(P2010−234843A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82451(P2009−82451)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】