説明

インフレータ用ゲル状伝火薬

【課題】 価格、ガス発生剤に対する着火性、異音発生、広範な温度領域における作動の確実性等の課題を解決できるインフレータ用ゲル状伝火薬の提供。
【解決手段】 シリコーンオイル5〜35質量%と過塩素酸塩65〜95質量%を含有するインフレータ用ゲル状伝火薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ装置に使用するインフレータ用ゲル状伝火薬に関する。
【背景技術】
【0002】
インフレータ用の伝火薬としては、B/KNOが汎用されている。B/KNOは燃焼時の発熱量が大きく、ガス発生剤に対する着火性が良い点で優れているが、激しく燃焼して、瞬時に焼尽してしまうため、着火性の低いガス発生剤を着火させる場合には充分ではない。また、B/KNOは高価であり、製造コスト低減の観点からは好ましくない。
【0003】
ニトログアニジンを含む伝火薬は、製造コストを引き下げることができるが、B/KNOと比べると発熱量が小さいため、ガス発生剤に対する着火性の点で問題がある。
【0004】
異音発生の問題については、ゴム状の伝火薬を用いることで解消できるが、ゴム状の伝火薬は、環境温度の影響を受けやすいため、広範な温度領域(−40〜105℃)で作動の確実性等を評価する必要のあるインフレータ用伝火薬としては、満足できるものではない。
【特許文献1】US 2005/0235863 A1
【特許文献2】特開2000−86376号公報
【特許文献3】特開2002−12493号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、価格、ガス発生剤に対する着火性、異音発生、広範な温度領域における作動の確実性等の課題を解決できるインフレータ用ゲル状伝火薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、課題を解決するための手段として、
シリコーンオイルと過塩素酸塩を含有するインフレータ用ゲル状伝火薬、
シリコーンオイルの含有量が5〜35質量%で、過塩素酸塩の含有量が65〜95質量%である請求項1記載のインフレータ用ゲル状伝火薬、
シリコーンオイル10〜40質量%、過塩素酸塩50〜85質量%及び含窒素化合物3〜30質量%を含有するインフレータ用ゲル状伝火薬、
を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のインフレータ用ゲル状伝火薬は、燃焼温度が高く、燃焼熱が大きいため、ガス発生剤に対する着火性が良い。また、ゲル状であるために異音が発生することがなく、B/KNOと比べると安価である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のインフレータ用ゲル状伝火薬は、シリコーンオイルと過塩素酸塩の2成分系にすることができる。
【0009】
本発明で用いるシリコーンオイルは公知のものであり(例えば、特許文献1の〔0016〕〜〔0019〕参照)、ストレートシリコーンオイルと変性シリコーンオイルのいずれも用いることができるが、ストレートシリコーンオイル(例えば、ポリジメチルシロキサン)が好ましい。
【0010】
シリコーンオイルは、伝火薬をゲル状にするため、粘度が100〜20,000cm/sの範囲のものが好ましく、より好ましくは500〜10,000cm/sの範囲のものである。
【0011】
本発明で用いる過塩素酸塩としては、アンモニウム、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれたカチオンを含む過塩素酸塩を挙げることができる。このような過塩素酸塩としては、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸マグネシウム、過塩素酸バリウム等を挙げることができる。これらの中でも燃焼後の残渣発生量が少ないことから、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸マグネシウム又はこれらの混合物が特に好ましい。
【0012】
シリコーンオイルの含有量は、5〜35質量%が好ましく、より好ましくは10〜30質量%、更に好ましくは15〜25質量%である。
【0013】
過塩素酸塩の含有量は、65〜95質量%が好ましく、より好ましくは65〜85質量%、更に好ましくは70〜80質量%である。
【0014】
本発明のインフレータ用ゲル状伝火薬は、上記したシリコーンオイルと過塩素酸塩に加えて、更に含窒素化合物を含む3成分系にすることができる。含窒素化合物を含有することにより、ガス発生効率(mol/100g;ガス発生剤100g当たりの発生ガスのモル数を表す。)が高くなり、着火時の初期圧力が高くなるため、ガス発生剤に対する着火性も向上されるので好ましい。
【0015】
含窒素化合物としては、テトラゾール誘導体、グアニジン、炭酸グアニジン、ニトログアニジン、ジシアンジアミド、ニトロアミノグアニジン及びニトロアミノグアニジン硝酸塩から選ばれるものを挙げることができる。
【0016】
テトラゾール誘導体は、テトラゾール、5―アミノテトラゾール、5,5’−ビ−1H−テトラゾール、5−ニトロアミノテトラゾール、5―アミノテトラゾールの亜鉛塩、5−アミノテトラゾールの銅塩、ビテトラゾール、ビテトラゾールカリウム塩、ビテトラゾールナトリウム塩、ビテトラゾールマグネシウム塩、ビテトラゾールカルシウム塩、ビテトラゾールジアンモニウム塩、ビテトラゾール銅塩及びビテトラゾールメラミン塩等を挙げることができる。
【0017】
シリコーンオイルの含有量は、10〜40質量%が好ましく、より好ましくは15〜40質量%、更に好ましくは15〜35質量%である。
【0018】
過塩素酸塩の含有量は、50〜85質量%が好ましく、より好ましくは55〜80質量%、更に好ましくは60〜75質量%である。
【0019】
含窒素化合物の含有量は、3〜30質量%が好ましく、より好ましくは5〜20質量%、更に好ましくは7〜15質量%である。
【0020】
本発明のインフレータ用ゲル状伝火薬は、所定量のシリコーンオイルと過塩素酸塩、更に場合により所定量の含窒素化合物を混合して得ることができる。
【0021】
本発明のインフレータ用伝火薬は、公知のガス発生剤を有する各種インフレータ、例えば、各種乗り物の運転席のエアバック用インフレータ、助手席のエアバック用インフレータ、サイドエアバック用インフレータ、インフレータブルカーテン用インフレータ、ニーボルスター用インフレータ、インフレータブルシートベルト用インフレータ、チューブラーシステム用インフレータ、プリテンショナー用インフレータに適用できる。
【実施例】
【0022】
実施例及び比較例
表1に示す各成分を混合して、実施例のインフレータ用ゲル状伝火薬と比較例の伝火薬を得た。これらの伝火薬について、下記の各試験を行った。結果を表1に示す。
【0023】
(1)燃焼温度
理論計算に基づくものである。
【0024】
(2)燃焼熱(cal/g)
理論計算に基づくものである。
【0025】
(3)発生ガス効率
発生ガス効率は、単位mol/100gは組成物100g当たりの発生ガスのモル数を表す。
【0026】
(4)分解開始温度(℃)
TG−DTAで熱分析を行い、分解温度を検知した。昇温速度は10℃/min、サンプル量1〜2mg、アルゴン雰囲気下で測定を行い、TGで重量減少を開始する温度を分解開始温度とした。
【0027】
(5)摩擦感度(N)、落槌感度(cm)
JIS K4810−1979の火薬類性能試験法に基づく摩擦感度と落槌感度を試験した。
【0028】
【表1】

【0029】
*1:商品名KE1031A(信越化学社製)
*2:商品名KE1031(信越化学社製)
*3:商品名KF-96(信越化学社製)
*4:商品名KF-96H(信越化学社製)
NQ:ニトログアニジン
BHTN:ビテトラゾールアンモニウム塩




【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンオイルと過塩素酸塩を含有するインフレータ用ゲル状伝火薬。
【請求項2】
シリコーンオイルの含有量が5〜35質量%で、過塩素酸塩の含有量が65〜95質量%である請求項1記載のインフレータ用ゲル状伝火薬。
【請求項3】
シリコーンオイル10〜40質量%、過塩素酸塩50〜85質量%及び含窒素化合物3〜30質量%を含有するインフレータ用ゲル状伝火薬。




【公開番号】特開2008−127220(P2008−127220A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−310995(P2006−310995)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】