説明

インプラント

【課題】インプラントに、バイオフィルムの形成ならびに血栓の形成をともなう血液凝集の活性化を強力に低減した表面を装備する。
【解決手段】インプラント基材が、コーティング材料の薄層でコートされていることを特徴とするインプラントであって、該コーティング材料が、周期系のIV A族の1種以上の金属(M)、窒素(N)および酸素(O)の化合物を含み、該コーティング材料において2〜45%の体積が、大きさが(0.4nm)3〜(50nm)3の範囲のボイドにより形成され、残部体積は、周期系のIV A族の金属:窒素:酸素が1:(0.1〜1.7):(0.1〜1.7)である組成物からなり、式MNxy(式中x、y=0.1〜1.7)を有する材料となっていることを特徴とする、インプラントによって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文に示された種類のインプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な人工材料が、診断および治療(カテーテル、プローブ、センサー、ステント、人工心臓弁、気管内のチューブ等)の為に短期間または相対的に長期間のインプラントとして人体に導入されている。これらのインプラントのための該材料の選択は、インプラントのある機能を保証することを必要とする安定性および外形に依存する。該機能をなすこれらの要求を満たすため、これらの材料が生体適合性であるかどうかという事実に満足のいく顧慮をすることがしばしば不可能である。それゆえに、これらのインプラントが血液および組織と適合性があるコーティングにより作られる該材料を改良することが有益である。凝集系を少ない程度のみで活性化し、内在性の防御反応をほとんど生じない、従って、インプラントの表面上の血栓およびバイオフィルムの付着物を減らすようなコーティングが要求される。コーティングは、例えば、血管プロテーゼ、ステントまたは人工心臓弁等、直接血流に導入されるすべての材料に有益であるが、例えば心臓ペースメーカーもしくは細動除去器等の組織に接触する多くのインプラント、または例えば、胆管ドレーン、それぞれ尿および脳脊髄液を排出するカテーテル等の体液に接触する他の全てのインプラント、または気管内の蘇生チューブ等にも有益である。インプラントの血液適合性はこれらの表面の性質により明白に影響される。血栓の形成を避けるために(「抗トロンボゲン形成」)、例えば、ほとんどない深度の粗さは、それぞれ、血液および凝集系の活性化に関与するものの血球組成物の付着および破壊を妨げるために必要である。さらに、凝集−特異的タンパク質とインプラント表面の間の直接の電荷交換過程を避けなければならない。
【0003】
これらの要求を満たす心臓弁の共通材料として熱分解性炭素から作られたコーティングを使用することは公知である。さらに、凝集−特異的タンパク質とインプラント表面の間の電荷交換過程を妨げるために、インプラントコーティングとして半導体材料、例えば、SiC:H等の使用が公知である(A.Bolz,M.Schaldach,「ハイブリッド構造化によるインプラントのヘム適合性最適化(Haemocompatibility opimisation of implants by hybrid structuring)」,Med.& Biol.&Comput.,1993,31,123−130頁)。さらに、コーティングとしてTi6Al4Vを使用することが公知である(I.Dion,C.Baquey,J.−R.Monties,P.Havlik,「Ti6Al4V合金のヘム適合性(Haemocompatibility of Ti6Al4V alloy)」,Biomaterials,4巻,1993,122−126頁)。大多数のプラスチックもポリマー化学の分野で非接着性の表面を製造するために研究されている。そのうえこの分野では、該問題点は未だに満足に解決されていない(R.F.Brady Jr.,「非粘着性末端になること(Coming to an unsticky end)」,Nature,368巻,1994,16−17頁)。
【0004】
炭素コーティングおよび多孔性の構造を有するインプラントは表面の性質をなす要求を満たすが、それらは、固体の占有されていない段階への占有された価電子帯様段階のトンネルにより生じた電子移動が、血液中のフィブリノーゲンの切断を導くという欠点を有する。生じたフィブリンモノマーは重合し、非可逆的血栓に導く。ルチルセラミックスから作られたインプラントはこれらの電荷交換過程を妨げるが、高い製造コストのため、それらは一連の製造のために用意されなかった。アモルファス炭素(SiC:H)から作られたコーティングを有するインプラントは安価な手段で製造することができるが、この材料の欠点は、ある適用への高い耐久性を有さないことにある。この材料は、現実に、付加的な問題点として基材の高い加熱を必要とするCVD法により製造され、そのために、熱感受性の基本材料の多くに対して適用をより困難にする。さらに、この材料は固定したバンドギャップおよび低い伝導度を有する。両方の性質は、血栓を防止するよりむしろ血栓の形成を導く。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】A.Bolz,M.Schaldach,「ハイブリッド構造化によるインプラントのヘム適合性最適化(Haemocompatibility opimisation of implants by hybrid structuring)」,Med.& Biol.&Comput.,1993,31,123−130頁
【非特許文献2】I.Dion,C.Baquey,J.−R.Monties,P.Havlik,「Ti6Al4V合金のヘム適合性(Haemocompatibility of Ti6Al4V alloy)」,Biomaterials,4巻,1993,122−126頁
【非特許文献3】R.F.Brady Jr.,「非粘着性末端になること(Coming to an unsticky end)」,Nature,368巻,1994,16−17頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
それゆえに、本発明の目的は、前記種類のインプラントに、バイオフィルムの形成ならびに血栓の形成をともなう血液凝集の活性化を強力に低減した表面を装備することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本目的は請求項1記載のインプラントにより達成される。好適な態様は従属請求項に従う。さらに、該問題点は請求項17の特徴により解決される。
【0008】
本発明の意味するインプラントは動物もしくはヒトの体に埋め込まれるか、またはそれぞれ相対的に長期基準および短期基準にそれらの中に挿入されるかまたは動物もしくはヒトの体に取り付けられることができる全ての装置または全ての手段が含まれる。以下の例が述べられる:カテーテル、プローブ、センサー、ステント、人工心臓弁、気管内のチューブ、心臓のペースメーカー等。
【0009】
インプラントをコーティングするための材料、即ち、コーティング材料は、周期系のIV A族の1種以上の金属、窒素および酸素を(0.4nm)3〔=0.064nm3〕から(50nm)3〔=125000nm3〕、好ましくは(0.4nm)3から(20nm)3の大きさの範囲のボイド(void)で形成される体積の2〜45%、好ましくは10〜43%、特に好ましくは20〜35%で含む。しばしば文献(例えば、John A.Thornton,スプッター−蒸着コーティングの微小構造(The microstructure of sputter−deposited coatings),J.Vac.Sci.Technol.A4 (6),1986,3059−3065頁)に記載され、カラムナーフィルムグロース(Kolumnares Schichtwachstum gebildet)により形成されるギャップは、これらのボイドにより示されない。したがって、それは、関係するカラム間の公知のギャップではなく、むしろ、これらのカラム内のボイドである。これらの真のボイドは、本発明に特異的な性質を生じる。コーティング材料の残部体積(98〜55%、好ましくは90〜57%、特に好ましくは80〜65%)は、1:(0.1〜0.7):(0.1〜1.7)、好ましくは1:(0.4〜1.2):(0.1〜1.2)のような周期系のIV A族の金属:窒素:酸素の組成を有する。材料の式はMNxyであり、「M」は周期系のIV A族の金属であり、xおよびyは、それぞれ0.1〜1.7の値を示す。前記の比はそれぞれ粒子数および分子比に関連する。周期系のIV A族の金属は、チタニウム、ジルコニウムまたはハフニウムまたは2種もしくは3種の金属の混合物であり、好ましくはチタニウムである。
【0010】
ボイドの大きさに関しては、それらは、より低い範囲で生じる、即ち、それらは好ましくは(15nm)3以下が好ましい。材料の「残部体積」は、好ましくは、MNx(x=0.7〜1.2)、MOx(x=0.7〜1.2)、M−O系のマグネリ相(MnO2n-1)、MO2、M2N(ここで、M=周期系のIV A族の金属)ならびに周期系のIV A族の金属の炭素化合物の約0〜30%、好ましくは0.5〜5%からなる群より選ばれる1種以上の化合物からなる。これらの好ましく付加的に含有された炭素化合物により、コーティングの使用可能なスペクトラムが拡張し、安定性は増加し、それは、例えば尿カテーテルの場合に示された。不純物として少量のチタニウムカーバイドは、通常妨害しないが、それらは該コーティングのより安価な製造を許容する。化学層が好ましくは、結晶型またはアモルファス型中のコーティング材料に存在してもよいという可能性は、血液の血球成分の付着および破壊を妨げ、そのため凝集系の関与する活性化が妨げられる。それゆえにコーティング材料が血栓の形成を妨げる、即ち、「抗トロンボゲン形成」性質を示す。
【0011】
ボイドのフラクタルサイズ分布を導く可能性は、使用されるもの、例えば、ペースメーカー電極のような表面の本質的な拡張を許容する。より大きな表面は電気的なインピーダンスの低下および従ってより長いペースメーカーバッテリーの供給寿命を許容する。
【0012】
さらに、コーティング材料は好ましくは、0.0709nmのX線波長の屈折率の有効部分が、0.9999984〜0.9999973の範囲であることを含む。コーティング材料の質量密度は、なるべくなら3.5〜5.4g/cm3、好ましくは3.7〜4.5g/cm3、さらに好ましくは3.8〜4.2g/cm3の範囲である。
【0013】
周期系のIV A族の金属に加えて、コーティング材料は付加的な金属としてニオビウム、タンタル、タングステン、モリブデンまたはそれらの合金も含んでよく、それはコーティングの腐食耐性に有利な効果を有する。
【0014】
該材料が水素を含む可能性(溶解しているかまたは好ましくは結合型で)は、アモルファス層中において自由結合が飽和する事実を導く。これは生体適合性により好ましい電子状態分布をもたらす。
【0015】
コーティングの厚さは好ましくは3nm〜3mm、より好ましくは10nm〜2mm、特に好ましくは30〜71nmの範囲である。
【0016】
コーティングは好ましくは、比抵抗が30〜30000μΩ.cm、好ましくは100〜6000μΩ.cm、特に好ましくは2000〜3000μΩ.cmの範囲を有する。比抵抗は、問題点なしで、ボイドフラクションまたはボイドポーションの選択により調整されうる。ボイドなしの材料の比抵抗に基づいて、ボイドが添加される時、それは増加する。例えば、ボイドポーションが3%である時、TiN0.980.2の比抵抗は70μΩ.cmであり、ボイドポーションが40%である時、650μΩ.cmの値に増加する。
【0017】
コーティングはインプラントとして適する基材上の薄層として配置される。この基材は、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン(PUR)、ポリエチレン(PE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)またはDACRONR等のプラスチックまたはモリブデン、銀、金、銅、アルミニウム、タングステン、ニッケル、クロム、ジルコニウム、チタニウム、ハフニウム、タンタル、ニオビウム、バナジウム、鉄もしくはそれらの混合物もしくはその合金等の金属から作られてもよい。薄層として形成されたコーティングは、好ましくは、その粗さが平均レベルからの偏差のランダムな分布により特徴付けられる粗い基材表面上に付けられ、この分布の標準偏差は0〜1500nm、好ましくは、40〜120nmの範囲である。
【0018】
コーティングは、1種以上の酸化物、好ましくはSiO2、TiO2、ZrO2、HfO2、Al23、Y23、ニオビウム酸化物、モリブデン酸化物、タングステン酸化物およびタンタル酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種のさらに薄い層でさらにコートされてもよい。
【0019】
好ましい態様において、増加した接着力をもたらす中間層が、基材とコーティングの間に提供される。この中間層は金属、好ましくは、クロム、銅、ニッケル、モリブデン、タンタル、ニオビウム、銀またはこれらの金属の合金、あるいは半導体を含有する。
【0020】
特にインプラントを固定するが生理的な表面の形成を誘導することにも役に立つ内在性の細胞のグローイング−イン(growing−in)は、材料表面の組成によりコントロールすることができる。表面コーティングは、異なる外形を有する多くの異なる基本材料(基材)、例えば、金属、プラスチック等に応用されうる。本発明によるインプラントの特に有利な点は、安価な製造ならびに選ばれた方法の機能として、コーティングがそれらの特別な構造のために加熱に耐性でない材料に応用することもできるという事実により示される。
【0021】
コーティングはCVD法とPVD法の両方の手段により作られるが、特に好ましくはPVD法による。
【0022】
とりわけ、下記の工程が本発明のインプラントの製造に適している。:周期系のIV A族の金属をインプラントとして適切な基材上に蒸着するが、酸化物、窒化物またはカーバイド化合物がN2、O2、CH4などの気体類および/または希ガス類の少なくとも1種を含有するガス雰囲気を維持することにより形成する。
【0023】
この関係において、加熱可能または冷却可能な基材上の金属粒子の伝導性は全気圧ptot、蒸着率r、基材温度Tsubおよび金属源とボイドの体積フラクションが2〜45体積%であり、その大きさが(0.4nm)3〜(50nm)3の範囲である基材間に存在する距離1を通じてコントロールされる。下記のように製造パラメーターを選択した:
− Tsub=−5〜400℃
− 1=0.01〜1.5m
− 導入した気体N2およびO2の分圧比:
(PN2/PO2)=1〜2000,
− Ptot=2×10-5hPa〜4×10-2hPaならびに
− r=0.01〜60ナノメーター/s。
【0024】
製造工程のために、ボイドポーションが予測できるように製造パラメーターを調整する必要がある。これは下記の手法によってなされうる:下記を、好ましくは100〜220℃の範囲の基材温度および好ましくは0.5〜1.2mの範囲の蒸気源と該基材の距離1に適用する:
K=Ptot・r/1=(1〜3)・10-4 mBar nm/smおよび全気圧Ptotが0.7×10-3hPa〜2×10-2hPaである場合、34%のボイド体積フラクションを達成するであろう。
【0025】
K=Ptot・r/1=(0.2〜0.5)・10-4 mBar nm/smの範囲に選択がなされたとき、20%のボイド体積フラクションが達成される。
【0026】
20〜34%間の体積フラクションが下記の等式によるKの大きさを選ぶことにより調整されてもよい:
K=((0.04〜0.2)所望のボイドポーション−0.7)・10-4 mBar nm/sm。
【0027】
このように、割合r、全気圧Ptotおよび距離1の両方によって本発明の材料に所望のボイドポーションを得る可能性がある。
【0028】
類推によって、以下に示すように、該層におけるボイド体積フラクションは、好ましくは250〜400℃の範囲の基材温度、および好ましくは0.5〜1.2mの範囲の1に対して制御されうる:例えば、
K=(6〜8)・10-4 mBar nm/smおよび2×10-2hPa〜4×10-2hPaの範囲のPtotである場合、40%のボイド体積フラクションが、達成される。K=(0.8〜1.9)・10-4 mBar nm/smの範囲でKが選ばれた場合、ボイドの体積フラクションは20%になる。体積フラクションの20〜40%の間に値を実現するために、Kは等式:
K=((0.12〜0.31)・所望のボイドポーション−0.4)・10-4 mBar nm/sm
に従って選ばれなければならない。
【0029】
その間にある体積フラクションは、それぞれの場合において、リニアーインターポレーションにより決定されることができる。小さいボイド体積フラクション(2〜20%)は、0.01〜0.1nm/sの小さい割合および10-4〜2×10-4mBarの低い気圧で達成される。かなり大きいボイドポーション(40%を超える)は、4×10-2を越える高い全気圧により達成される。:これらの気圧では、材料は遊離化合物として存在する。コーティングは前記のインプラントとして適する基材上でもたされる。
【0030】
プラスチックインプラントの場合、Tsubは、もちろん、プラスチックが変化しないように、すなわちTsubは好ましくはプラスチックの変形温度より5〜20ケルビン以下であるように選ばれなければならない。
【0031】
コーティングは、この分野に精通する者にとって常識として、通常の真空蒸着で基材に蒸着される。
【0032】
以前使用された材料と比較して、コーティング材料の有利な点は、特に、異なる状態(金属性、誘電性)の間に変化する可能性があることにある。結果として、材料の組成は体細胞、血液タンパク質成分または微生物をひきつける、あるいは遠ざける性質を持つように調整することができる。
【0033】
該材料は、所望のように体積フラクションが増加または低下してもよいボイドポーションを有する。ボイドポーションによって、バンド構造は化学組成を変えること無しに要求へ適合させうる。このように、コーティング材料の肯定的な性質は、ボイドの大きさが(50nm)3を超えると非常に急速に失われる。さらに、ボイドポーションのよく計算された選択により生細胞のグローイング−インもしくは接着を減少または増加させることができる。この関係について、(0.4nm)3〜(50nm)3の範囲の前記記載のボイドに加えて、コーティングは(500nm)3を超える、より大きいボイドも含むことが好ましい。このことは、一定の細胞構造中でのインプラントのグローイング(Einwachsen)またはコートされた表面上での細胞のグローイング(Anwachsen)をも支持する。このことは、コートされるインプラント材料(すなわち、基材)が、粗い表面を有してもよいという事実により支持される。表面の粗さは、0〜1500μmの間であることが好ましい。
【0034】
他の有利な点は、該材料が貯蔵物質、好ましくは今度は材料より絶えず放出される凝集を阻害する物質または抗生物質により供給されうる事実にある。
【0035】
本発明のインプラントの表面コーティングは、前記材料が体積電荷の形成がフィブリノーゲンを活性化することを妨げる伝導率を有するため、特に有利である。さらに、前記コーティング材料はフィブリノーゲンからインプラントへの空間電流を許さない状態の電子密度を有する。本性質もフィブリノーゲンの活性化を妨げる。前記材料のこれらの肯定的な性質は、2つの方法により調整される:一方は、請求の範囲内のボイドを変えることにより、もう一方は、化学組成を変えることによる。両方の可能性は、コーティングの状態の電子密度が血液中のタンパク質の状態のエネルギーレベルにあることを達成するために役に立つ。さらに該コーティングが凝集特異的タンパク質およびインプラント表面の間に生じる電荷交換過程を防ぐような方法で開発することが好ましいことを証明する。
【0036】
該インプラントは動物またはヒトの体への埋め込みまたは短期および/または長期の導入または接着に使用されうる。
【0037】
本発明を、図を参考としてさらに詳しくここで述べる:
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、インプラントのコーティングを通した断面図を示す。
【図2】図2は、気管内のチューブの6つのコーティングのUPSスペクトルを示す。
【図3】図3は、水に対する、TiNxyの三つの改良物の接触面の写真を示す(式中、x=1.0およびy=1.1であるが、ボイドポーションは変化する)。(a)において、ボイドポーションは40%であり、(b)において、それは22%であり、(c)においては、それは3%である。接着性質はボイドポーションによりコントロールされる。
【0039】
本発明を、実施例を参考としてさらに詳しくここで述べる。
【実施例】
【0040】
実施例1:
基本材料チタニウムから作られた心臓弁プロテーゼの表面をTiNxy(x=1.2およびy=0.6;弾性反跳検出(ERD)で測定した)のコーティングでコートした。以下に示すパラメーターを選択し、反応エバポレーションによりコーティングを製造した: 基材温度=250℃、エバポレーターと基材間の距離=45cm、分圧比(N2対O2)=1500;全圧=7×10-4hPa;蒸着率=0.2nm/s。
【0041】
コーティング材料中のボイドポーションは、およそ28%であり、ボイドの大きさは(0.6nm)3〜(0.9nm)3の間であった。
【0042】
図1は、コートされた心臓弁プロテーゼを通した断面図を示し、(1)は基本材料の表面を示し(2)はコーティングを示す。コーティング(2)は3μmの厚さを有する。
【0043】
実施例2
6つの気管内のチューブをコートした。下記のパラメーターの選択により、反応エバポレーションによってコーティングを製造した:基材温度=250℃、エバポレーター(金属源)と基材間の距離=45cm;全圧=7×10-4hPa;蒸着率=0.2nm/s。供給された気体の分圧比(N2対O2)を変化させた。
【0044】
コーティング材料のボイドポーションはおよそ24%であり、ボイドの大きさは(0.6nm)3〜(0.9nm)3の間であった。
【0045】
図2に示したUPSスペクトルを、6つのコーティングから作成した。
【0046】
グラフ(1):x=0.5およびy=1.4であるTiNxyのコーティングは、弾性反跳検出(ERD)で測定した。分圧比(N2対O2)は120であった。
【0047】
グラフ(2):x=0.9およびy=1.2であるTiNxyのコーティングを、弾性反跳検出(ERD)で測定した。分圧比(N2対O2)は500であった。
【0048】
グラフ(3):x=0.9およびy=0.8であるTiNxyのコーティングを、弾性反跳検出(ERD)で測定した。分圧比(N2対O2)は900であった。
【0049】
グラフ(4):x=0.9およびy=0.2であるTiNxyのコーティングを、弾性反跳検出(ERD)で測定した。分圧比(N2対O2)は1200であった。
【0050】
グラフ(5):x=1.4およびy=0.3であるTiNxyのコーティングを、弾性反跳検出(ERD)で測定した。分圧比(N2対O2)は1600であった。
【0051】
グラフ(6):x=1.5およびy=0.15であるTiNxyのコーティングを、弾性反跳検出(ERD)で測定した。分圧比(N2対O2)は2000であった。
【0052】
グラフ(2)〜(6)に基づくコーティングは、明らかに、伝導率と相関するFermiレベルを示す。
【0053】
実施例3
TiNxy(x=1.0およびy=1.1)の3つの異なるコーティング材料を、真空蒸着によって気管内のチューブに適用し、3つのコーティングの接触面の写真を作成した。結果は図3に示す。(a)は40%のボイドポーションを有する試料の写真であり、(b)は22%のボイドポーションを有する試料のものであり、(c)は3%のボイドポーションを有する試料のものである。
【0054】
コーティングの製造のために選ばれたパラメーターは:
− 40%のボイドポーションを有する試料においては:
金属源と基材間の距離=70cm
基材温度Tsub=300℃
分圧比(PN2/PO2)=1200
蒸着率r=0.01nm/s
全気圧=2×10-2hPa
(0.8nm)3〜(2.8nm)3の間のボイドの大きさを生じた。
− 22%のボイドポーションを有する試料においては:
金属源と基材間の距離=70cm
基材温度Tsub=300℃
分圧比(PN2/PO2)=1200
蒸着率r=0.25nm/s
全気圧=8×10-4hPa
(0.6nm)3〜(0.9nm)3の間のボイドの大きさを生じた。
− 3%のボイドポーションを有する試料においては:
金属源と基材間の距離=70cm
基材温度Tsub=300℃
分圧比(PN2/PO2)=1200
蒸着率r=0.7nm/s
全気圧=2×10-4hPa
(0.4nm)3〜(0.8nm)3の間のボイドの大きさを生じた。
【0055】
図3に示したように、コーティングの接着性質はボイドポーションを変化させることによりコントロールしうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インプラント基材が、コーティング材料の薄層でコートされていることを特徴とするインプラントであって、該コーティング材料が、周期系のIV A族の1種以上の金属(M)、窒素(N)および酸素(O)の化合物を含み、該コーティング材料において2〜45%の体積が、大きさが(0.4nm)3〜(50nm)3の範囲のボイドにより形成され、残部体積は、周期系のIV A族の金属:窒素:酸素が1:(0.1〜1.7):(0.1〜1.7)である組成物を含み、式MNxy(式中x、y=0.1〜1.7)を有する材料となっていることを特徴とする、インプラント。
【請求項2】
コーティング材料が下記の1種以上の化合物:
− x=0.7〜1.2であるMNx
− x=0.7〜1.2であるMOx
− M−O系のマグネリ相(Mn2n-1
− MO2
− M2
[式中、Mは周期系のIV A族の金属である]を含むことを特徴とする、請求項1に記載のインプラント。
【請求項3】
コーティング材料が周期系のIV A族の金属の炭素化合物の少量を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載のインプラント。
【請求項4】
化合物が結晶型またはアモルファス型でコーティング材料中に生じることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項5】
0.0709nmの波長のX線に対するコーティング材料の屈折率の実部が、0.9999984〜0.9999973の範囲であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項6】
コーティングの質量密度が3.5〜5.4g/cm3の範囲であることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項7】
周期系のIV A族の金属に加えて、ニオビウム、タンタル、タングステン、モリブデンまたはこれらの金属の合金も含まれることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項8】
コーティング材料が水素を含有することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項9】
基材上のコーティング材料の層の厚さが3nm〜3mmの範囲であることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項10】
比抵抗が30〜300000μΩcmの範囲であることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項11】
コーティング材料を、粗い基材表面上に薄層として適用することを特徴とし、その粗さが、平均レベルからの偏差のランダムな分布および、0〜1500μmの分布範囲の標準偏差により特徴付けられる、請求項1から10までのいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項12】
該薄層が、SiO2、TiO2、ZrO2、HfO2、Al23またはY23、並びにニオビウム酸化物、モリブデン酸化物、タングステン酸化物またはタンタル酸化物からなる群より選ばれる1種以上の酸化物からなる少なくとも1種のさらなる薄層でコートされることを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項13】
少なくとも1種のさらなる薄層が、好ましくは金属または半導体から作られ、基材およびコーティング間に導入されることを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項14】
コーティング材料を、モリブデン、銀、金、銅、アルミニウム、タングステン、ニッケル、クロム、ジルコニウム、チタニウム、ハフニウム、タンタル、ニオビウム、バナジウム、鉄およびそれらの混合物またはそれらの合金からなる金属性基材上に適用させることを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項15】
コーティング材料を、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン(PUR)、ポリエチレン(PE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)またはDACRONRからなるプラスチック基材に適用させることを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項16】
(0.4nm)3〜(50nm)3の範囲のボイドに加えて、コーティング材料が(500nm)3より大きいボイドも有することを特徴とする、請求項1から15までのいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項17】
動物またはヒトの体への埋め込み、導入または接着のための、請求項1から16までのいずれか1項に記載のインプラントの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−152447(P2011−152447A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−103651(P2011−103651)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【分割の表示】特願平8−525306の分割
【原出願日】平成8年2月22日(1996.2.22)
【出願人】(508114100)ティノックス アクチエンゲゼルシャフト (2)
【氏名又は名称原語表記】Tinox AG
【住所又は居所原語表記】Wilhelmstrasse 25, D−80801 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】