説明

イースト発酵食品の製造方法

【課題】 フラワーブリュー製パン法を利用し、薄力粉や中力粉を主原料にしても、ボリュームが大きく、外観が良好で、老化が遅く、且つ風味及び食感の良好なパン等のイースト発酵食品が得られる、イースト発酵食品の製造方法を提供すること。
【解決手段】 フラワーブリュー製パン法において、蛋白質含量が6.5〜10質量%の小麦粉を使用し、且つ液種として、製パンに使用する全小麦粉100質量部中の40〜50質量部の小麦粉、0.01〜0.07質量部のイースト、0〜0.6質量部の食塩及び40〜60質量部の水を用いて製造された液種を使用して、イースト発酵食品を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラワーブリュー製パン法を利用した、薄力粉や中力粉を主原料にしたパン等のイースト発酵食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
国内産普通小麦粉;アメリカ産ウエスタン・ホワイト、ソフトレッド・ウインター;オーストラリア産スタンダードホワイトを原料として製粉された小麦粉は、一般に薄力粉、中力粉と称され、その用途は菓子類や麺類の製造に限られ、これらがパン等のイースト発酵食品に使用される場合も、主原料はあくまで強力粉であり、薄力粉や中力粉の使用量は全小麦粉量の30質量%(以下、「質量%」を単に「%」と表示する)未満であるのが実状であった。
【0003】
これは、薄力粉や中力粉の蛋白質含量が一般に10%以下と少なく、しかもグルテンの質も軟弱なため、薄力粉や中力粉をそれ以上多量に使用すると、得られるパンが著しくボリュームの小さいものとなり、外観上の劣悪はもとより、老化が早く、日持ちのしないパサパサとした食感となってしまい、全く商品価値が認められなくなるからである。
【0004】
他方、薄力粉や中力粉を少量添加してイースト発酵食品を製造した場合には、歯切れが良くサクサクして口溶けの良い食感のものが得られる傾向がある。しかしながら、この特徴を製品に顕著に付与するためには、薄力粉や中力粉の使用量を50%以上の多量とする必要があるが、前述の理由によりこれは事実上不可能なことであった。
【0005】
本出願人は、先に、蛋白質含量の低い小麦粉を主原料にしたイースト発酵食品の製造方法を提案した(特許文献1参照)が、この方法は、中種製パン法を利用したものであり、フラワーブリュー製パン法を利用して薄力粉や中力粉等の蛋白質含量の低い小麦粉を主原料にしたイースト発酵食品の製造方法は見受けられない。
フラワーブリュー製パン法は、ボーリッシュ法或いは液種法(水種法)とも呼ばれ、中種法ほどの労力や設備をかけずに、ある程度機械耐性があり、老化の遅いパンを作ることができる等の利点を有している(非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平4−218327号公報
【非特許文献1】「新しい製パン基礎知識」(有)パンニュース社 昭和60年6月20日 5版発行、第160〜162頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、フラワーブリュー製パン法を利用し、薄力粉や中力粉を主原料にしても、ボリュームが大きく、外観が良好で、老化が遅く、且つ風味及び食感の良好なパン等のイースト発酵食品が得られる、イースト発酵食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々検討した結果、フラワーブリュー製パン法において、種量及びイースト量を特定することにより、上記目的を達成し得ることを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明は、フラワーブリュー製パン法において、蛋白質含量が6.5〜10%の小麦粉を使用し、且つ液種として、製パンに使用する全小麦粉100質量部(以下、「質量部」を単に「部」と表示する)中の40〜50部の小麦粉、0.01〜0.07部のイースト、0〜0.6部の食塩及び40〜60部の水を用いて製造された液種を使用することを特徴とするイースト発酵食品の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、薄力粉や中力粉等の蛋白質含量の低い小麦粉を主原料にしているにもかかわらず、粘弾性の良好な生地が得られ、ボリュームが大きく、外観が良好で、老化が遅く、且つ風味及び食感の良好なパン等のイースト発酵食品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のイースト発酵食品の製造方法を、その好ましい実施態様について詳述する。
フラワーブリュー製パン法は、前述したように、ボーリッシュ法或いは液種法(水種法)とも呼ばれる製パン法であり、中種製パン法と同様に発酵種を使用する製パン法である。中種製パン法との違いは、発酵種として含水量の多い液種(水種)を使用することである。
【0010】
本発明で使用する小麦粉は、蛋白質含量が6.5〜10%、好ましくは8〜10%の小麦粉である。蛋白質含量が多いと、歯切れや口溶けが悪くなり、蛋白質含量が少ないと、ボリュームが小さくなり、食感も悪くなる。
斯かる蛋白質含量の小麦粉としては、一般に薄力粉、中力粉と呼ばれる小麦粉が挙げられる。また、ソフトレッドホイート及びソフトホワイトホイート等の軟質小麦を原料として製粉された小麦粉は、蛋白質含量が一般に10%以下と低いので、これら軟質小麦を原料として製粉された小麦粉を用いることもできる。上記ソフトレッドホイートの例としては、国内産普通小麦粉、アメリカ産ソフトレッド・ウインター(SRW)等があり、上記ソフトホワイトホイートの例としては、アメリカ産ホワイトホイート(WW)、オーストラリア産スタンダードホワイト(ASW)等がある。
【0011】
上記の小麦粉の蛋白質含量は製パンに使用する全小麦粉の平均値であり、該平均値が上記範囲(6.5〜10%)内であれば、上記小麦粉としては、薄力粉、中力粉のみならず、強力粉を薄力粉や中力粉と併用することもできるが、強力粉との併用の場合、薄力粉及び(又は)中力粉の使用割合を50%以上とすることが好ましい。
【0012】
而して、本発明のイースト発酵食品の製造方法を実施するには、まず、上記蛋白質含量の小麦粉、イースト、水、及び必要に応じて食塩を用いて液種を製造する。
液種に使用する小麦粉量は、製パンに使用する全小麦粉100部中の40〜50部、好ましくは45〜50部である。小麦粉量が50部より多いと、得られるパン製品の体積が出にくいものとなり、また40部より少ないと、なめらかなパン生地にならず、得られるパン製品の風味、食感が劣ったものとなる。
【0013】
液種に使用するイースト量は、0.01〜0.07部、好ましくは0.035〜0.07部である。イースト量が0.07部より多いと、発酵臭(イースト臭)が強くなりすぎ、得られるパン製品の風味、食感が劣ったものとなり、また0.01部より少ないと、パン生地がべたつきやすくなり、得られるパン製品の風味、食感が劣ったものとなる。
水は、40〜60部配合するとよく、食塩量は、0〜0.6部である。
【0014】
液種を製造する際、必要に応じて、脱脂粉乳等の乳製品、砂糖等の糖類、油脂、マーガリン等の副材料を配合することもできる。
液種の製造方法は、フラワーブリュー製パン法の常法に従えばよいが、発酵条件は、好ましくは、温度20〜27℃、湿度60〜90%、発酵時間8〜24時間であり、より好ましくは、温度23〜25℃、湿度70〜80%、発酵時間10〜18時間である。
【0015】
次に、上記液種に、残余の原材料、即ち、残余量(50〜60部)の小麦粉、水、及び必要に応じてイースト、食塩、脱脂粉乳等の乳製品、砂糖等の糖類、油脂、マーガリン等の副材料を配合し、常法に従い混捏して生地を作成する。
液種に添加する残余の原材料としては、残余量(50〜60部)の小麦粉、0〜3部、好ましくは2〜3部のイースト、1.4〜2部の食塩及び3〜50部の水を配合する。
【0016】
生地作成後は、フラワーブリュー製パン法の常法に従い、フロアータイム、分割、ベンチタイム、成形、ホイロ、焼成の各工程を必要に応じて実施してイースト発酵食品を得る。
このようにして製造される本発明に係るイースト発酵食品は、必要に応じて冷蔵、チルド、冷凍保存することも可能である。
【0017】
本発明により製造されるイースト発酵食品の種類としては、食パン、フランスパン、ロールパン、菓子パン、ペストリー、中華まんじゅう等挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【実施例】
【0018】
次に本発明をさらに具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0019】
実施例1〜2及び比較例1〜3(液種における小麦粉使用量の変化)
表1に示す配合及び下記の工程により、食パンをそれぞれ製造した。これらの食パンについて、風味、食感、生地物性、製品形状、及びクラストを評価した。評価方法は、10名のパネラーに表2に示す評価基準に従って採点させ、その平均値を各製品の評価得点とした。それらの結果を表1に示す。なお、平均評価点が全ての評価項目において4.0以上のものを合格とし、以下の実施例及び比較例においても同様とした。
【0020】
実施例1〜2及び比較例2〜3の工程(ボーリッシュ法)
〔液種〕
ミキシング 低速2分 高速1分(生イースト、食塩は水で溶かして添加)
捏上げ温度 23℃
発酵温度及び湿度 27℃ 75%
発酵時間 15時間
〔本捏〕
ミキシング 低速2分 高速4分
捏上げ温度 25℃
発酵温度及び湿度 27℃ 75%
発酵時間 90分 パンチ30分
〔分割重量〕 240g
〔ベンチタイム〕 30分
〔成形〕 モルダー4mm
〔ホイロ〕 90分(32℃ 80%)
〔焼成〕 40分(200℃)
【0021】
比較例1の工程(速成法)
ミキシング 低速3分 中速3分 (マーガリン添加) 中速4分
捏上げ温度 25〜26℃
発酵温度及び湿度 27℃ 75%
発酵時間 30分
〔分割重量〕 240g
〔ベンチタイム〕 30分
〔成形〕 モルダー4mm
〔ホイロ〕 50分(38℃ 85%)
〔焼成〕 40分(200℃)
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
実施例3〜5及び比較例4〜9(生イーストの使用量の変化)
表3に示す配合とした以外は実施例1と同じ工程(ボーリッシュ法)により、食パンをそれぞれ製造した。これらの食パンについて、風味、食感、生地物性、製品形状、及びクラストを実施例1と同様にして評価した。それらの結果を表3に示す。
【0025】
【表3】

【0026】
実施例6〜12及び比較例10〜11(食塩の使用量の変化)
表4に示す配合とした以外は実施例1と同じ工程(ボーリッシュ法)により、食パンをそれぞれ製造した。これらの食パンについて、風味、食感、生地物性、製品形状、及びクラストを実施例1と同様にして評価した。それらの結果を表4に示す。
【0027】
【表4】

【0028】
実施例13及び比較例12〜15(製パン法の違いによる比較)
表5に示す配合及び下記の工程により、食パンをそれぞれ製造した。これらの食パンについて、風味、食感、生地物性、製品形状、及びクラストを実施例1と同様にして評価した。それらの結果を表5に示す。
【0029】
実施例13の工程(ボーリッシュ法)は、実施例1の工程(ボーリッシュ法)と同じである。比較例15の工程(速成法)は、比較例1の工程(速成法)と同じであり、比較例12の工程(熟成法)は、種の製造において生イーストを配合しない以外は実施例1の工程(ボーリッシュ法)と同じである。
【0030】
比較例13の工程(中種法)及び比較例14の工程(中麺法)
〔中種・中麺種〕
ミキシング 低速2分 中速1分
捏上げ温度 24℃
発酵温度及び湿度 24℃ 75%
発酵時間 15時間
〔本捏〕
ミキシング 低速3分 中速3分 (マーガリン添加) 中速2.5分
捏上げ温度 25〜26℃
発酵温度及び湿度 27℃ 75%
発酵時間 30分
〔分割重量〕 240g
〔ベンチタイム〕 30分
〔成形〕 モルダー4mm
〔ホイロ〕 50分(38℃ 85%)
〔焼成〕 40分(200℃)
【0031】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラワーブリュー製パン法において、蛋白質含量が6.5〜10質量%の小麦粉を使用し、且つ液種として、製パンに使用する全小麦粉100質量部中の40〜50質量部の小麦粉、0.01〜0.07質量部のイースト、0〜0.6質量部の食塩及び40〜60質量部の水を用いて製造された液種を使用することを特徴とするイースト発酵食品の製造方法。
【請求項2】
前記フラワーブリュー製パン法の本捏工程において、前記液種に、製パンに使用する残余の小麦粉、0〜3質量部のイースト、1.4〜2質量部の食塩及び3〜50質量部の水を配合する請求項1記載のイースト発酵食品の製造方法。
【請求項3】
前記の蛋白質含量が6.5〜10質量%の小麦粉が、軟質小麦を原料として製粉された小麦粉である請求項1又は2記載のイースト発酵食品の製造方法。