説明

ウィンドデフレクタを有する自動車

【課題】車幅方向Wに長く延びた上枠部13と、その上枠部13に対して平行に延び、かつ該上枠部13よりも下方に位置する下枠部14と、上枠部13の車幅方向各端部15と下枠部14の車幅方向各端部17とにそれぞれ固定連結された一対の側枠部19とから構成されたほぼ矩形の枠体11と、その枠体11により区画された領域に配置され、外周の縁部が枠体11に固定されている網12とを有するウィンドデフレクタ9を備えた自動車において、走行時に風切音が発生することを阻止する。
【解決手段】ウィンドデフレクタ9の上枠部13の上端24と下端25との間の前面26を前方に突出した状態に湾曲形成して、その前面26を風が円滑に流れるようにする。また同様に、ウィンドデフレクタ9の側枠部19の外端27と内端28との間の前面29を前方に突出した状態に湾曲形成して、その前面29を風が円滑に流れるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の上部を構成するルーフに形成されたルーフ開口を閉鎖し又は開放するように前後方向に移動可能に車体に支持された可動ルーフと、ルーフ開口の前縁に沿って配置されたウィンドデフレクタとを有する自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
上述した可動ルーフを有する自動車において、その可動ルーフを最後方位置に移動させてルーフ開口を開放させた状態で自動車を走行させると、前方から流れてくる風が渦巻きながらルーフ開口から車室内に入り込み、これによって車室内にウィンドスロッブと称せられる不快な振動音が発生する。そこで、従来より、ルーフ開口の前縁に沿ってウィンドデフレクタを配置し、前方から流れてくる風をウィンドデフレクタによって大きく後方に飛ばし、その風が車室内に巻き込まれることを防止している(特許文献1参照)。かかるウィンドデフレクタは、ルーフ開口を開放した状態で、ルーフの上面よりも上方に突出した姿勢で使用される。
【0003】
上述したウィンドデフレクタは、従来より各種形態のものが提案され、かつ使用されている。そのうちの1つに、ほぼ矩形に形成された枠体と、その枠体により区画された領域に配置された網とから構成されたウィンドデフレクタが知られている(特許文献2参照)。このウィンドデフレクタの枠体は、当該ウィンドデフレクタの使用状態で、上側の位置を占め、かつ車幅方向に長く延びた上枠部と、その上枠部に対して平行に延び、かつ該上枠部よりも下方に位置する下枠部と、上枠部の車幅方向各端部と下枠部の車幅方向各端部とにそれぞれ固定連結された一対の側枠部とから構成されている。また、その枠体の上下の枠部と両側枠部とにより区画された領域に配置された網は、その周辺の縁部が枠体に固定されている。
【0004】
上述した形式のウィンドデフレクタを用いると、自動車の走行時に前方から流れてくる風を、そのウィンドデフレクタによって大きく後方に飛ばすことができると共に、前方から流れてくる一部の空気が網を通過し、その通過した空気が、ウィンドデフレクタの後方において、多数の小さな渦を形成する。かかる小さな多数の渦によって、ウィンドデフレクタの上を越えて流れた風が車室内に流入することを防止することができる。これにより、前方から流れてくる風が、渦巻きながらルーフ開口から車室内に流入することを、より確実に防止することができ、ウィンドスロッブの発生をより効果的に抑制することができる。
【0005】
ところが、本発明者の検討したところによると、枠体と網を有するウィンドデフレクタを用いただけでは、自動車の走行時に風切音が発生するおそれのあることが判明した。かかる風切音が発生すれば乗員に不快感を与える不具合を免れない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−90433号公報
【特許文献2】特表2008−508138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ルーフ開口を開放して自動車を走行させたとき、ウィンドスロッブの発生を効果的に抑えることができると共に、風切音の発生も効果的に抑制することのできるウィンドデフレクタを備えた自動車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するため、車体の上部を構成するルーフに形成されたルーフ開口を閉鎖し又は開放するように前後方向に移動可能に車体に支持された可動ルーフと、前記ルーフ開口の前縁に沿って配置されたウィンドデフレクタとを有し、該ウィンドデフレクタは、前記ルーフ開口が開放された状態で、前記ルーフの上面よりも上方に突出した姿勢で使用される自動車であって、前記ウィンドデフレクタは、その使用時の状態で上側の位置を占め、かつ車幅方向に長く延びた上枠部と、該上枠部に対して平行に延び、かつ該上枠部よりも下方に位置する下枠部と、前記上枠部の車幅方向各端部と下枠部の車幅方向各端部とにそれぞれ固定連結された一対の側枠部とから構成されたほぼ矩形の枠体と、該枠体により区画された領域に配置され、その縁部が該枠体に固定されている網とを具備する自動車において、前記ウィンドデフレクタの上枠部は、該ウィンドデフレクタが使用状態にあるときの上端と下端との間の前面が前方に突出した状態に湾曲形成されていることを特徴とする自動車を提案する(請求項1)。
【0009】
その際、前記ウィンドデフレクタの側枠部は、該ウィンドデフレクタが使用状態にあるときの車幅方向外側の外端と車幅方向内側の内端との間の前面が前方に突出した状態に湾曲形成されていると有利である(請求項2)。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ウィンドデフレクタの上枠部の前面が前方に突出した状態に湾曲形成されているので、自動車の走行時に前方から流れてくる風は、ウィンドデフレクタの上枠部に沿って滑らかに流れる。これにより、上枠部を越えて流れた風に渦ができることを防止できるので、風切音の発生を阻止し、ないしは効果的に抑制することができる。しかも、枠体に固定された網の効果も支障なく奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ウィンドデフレクタを有する自動車の概観斜視図である。
【図2】図1のII−II線拡大概略断面図である。
【図3】ウィンドデフレクタの拡大斜視図である。
【図4】図1のIV−IV線拡大断面図である。
【図5】従来のウィンドデフレクタを有する自動車の図2と同様な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態例を図面に従って説明し、併せて従来の欠点を図面に即してより具体的に明らかにする。
【0013】
図1はウィンドデフレクタを有する自動車の一例を示す斜視図であり、図2は図1のII−II線拡大概略断面図である。図における符号Frは自動車の前進方向を示し、符号Wは車幅方向を示している。本明細書及び特許請求の範囲における「前」又は「後」は、この前進方向Frを基準とした前後を意味する。
【0014】
図1及び図2に示すように、自動車の車体1、すなわちそのメインボデーの上部を構成するルーフ2には、ルーフ開口3が形成され、このルーフ開口3は、図1及び図2に矢印A,Bで示すように前後方向に移動可能に車体1に支持された可動ルーフ4によって閉鎖され、又は開放される。図1及び図2は、可動ルーフ4が最後方の開位置を占め、ルーフ開口3が開放されたときの状態を示している。なお、自動車の車室Rの前部は、車体1に固定されたウィンドシールド5により区画され、車室Rの後部は、車体1に固定されたリヤガラス6によって区画され、車体1の各側部には、サイドドア7,8が回動開閉自在に支持されている。
【0015】
上述のように、本例の自動車は、車体1の上部を構成するルーフ2に形成されたルーフ開口3を閉鎖し、又は開放するように前後方向に移動可能に車体1に支持された可動ルーフ4を有していると共に、ルーフ開口3を開放させて自動車を走行させたときにウィンドスロッブが発生することを防止するためのウィンドデフレクタ9を有している。図3は、ウィンドデフレクタ9を拡大して示す斜視図である。
【0016】
ウィンドデフレクタ9は、ルーフ開口3の前縁20に沿って配置されていて、図1及び図2に示したようにルーフ開口3を開放した状態で自動車を走行させるとき、ウィンドデフレクタ9はルーフ2の上面10よりも上方に突出した姿勢で使用される。このときのウィンドデフレクタ9の位置が、図2に示した使用位置である。
【0017】
上述のように、ウィンドデフレクタ9は、ルーフ開口3が開放された状態で、ルーフ2の上面10よりも上方に突出した姿勢で使用されるのであるが、かかるウィンドデフレクタ9は、特に図3に明示するように、車幅方向Wに延びるほぼ矩形の枠体11と、その枠体11により区画された領域に配置された網12とを具備し、該網12は枠体11に固定されている。
【0018】
より具体的に示すと、ウィンドデフレクタ9の枠体11は、図1乃至図3に示すように、そウィンドデフレクタ9の使用時の状態で上側の位置を占め、かつ車幅方向Wに長く延びた上枠部13と、その上枠部13に対して平行に延び、かつその上枠部13よりも下方に位置する下枠部14と、上枠部13の車幅方向Wにおける各端部15と下枠部14の車幅方向Wにおける各端部17とにそれぞれ固定連結された一対の側枠部19とから構成されている。かかる枠体11は例えば樹脂により構成されている。
【0019】
枠体11の内側に配置された網12は、例えば織物等から構成されている。また枠体11には、図2に示すように、その全周に亘ってスリット21が形成され、そのスリット21に網12の周辺の縁部がその全周に亘って挟み付けられ、例えば接着剤により、網12が枠体11に固定されている。
【0020】
図3に示すように、枠体11の下部には、同心状の一対のピン22が一体に突設され、その各ピン22は、車体1に固定された前後方向に延びるガイドレール(図示せず)に摺動可能に嵌合している。また、枠体11に形成された各孔16には、金属製の棒材より成るアーム23の先端部がそれぞれ回動自在に嵌合し、その各アーム23の後端18は、図2に示すように、車体1に直接又は図示していない取付部材を介して回動自在に嵌合している。また、各アーム23は、図示していないばねによって、図2に矢印Cで示した向きに回動付勢され、これによってウィンドデフレクタ9が図1乃至図3に示したように、立ち上がった使用時の姿勢、すなわち使用位置に保持される。
【0021】
可動ルーフ4を図1及び図2に矢印Aで示したように前方に移動させると、その可動ルーフ4が両アーム23を下方に加圧する。これにより、各アーム23は、その後端18を中心として図2に矢印Cで示した方向と逆の方向に回動し、これに伴ってウィンドデフレクタ9は、その下部が前方に移動しながら、図2に矢印Dで示した方向に回動し、可動ルーフ4が最も前方の閉位置に至ると、ウィンドデフレクタ9は、その可動ルーフ4の下方に折り畳まれ、可動ルーフ4によって覆い隠される。このときのウィンドデフレクタ9の位置が、その格納位置である。
【0022】
上述のように閉位置にもたらされた可動ルーフ4を再び図1及び図2に矢印Bで示した後方に移動させると、その動きに伴い、ウィンドデフレクタ9は、前述のばねの作用によって、該ウィンドデフレクタ9の下部が後方に移動しながら、図1乃至図3に示した使用位置に向けて図2に矢印Eで示した方向に回動し、可動ルーフ4が図1及び図2に示した開位置に至ったとき、ウィンドデフレクタ9も、図1乃至図3に示した使用位置に回動して停止する。
【0023】
上述したウィンドデフレクタ9の支持に関する構成と、これを回動させるための構成は、従来より周知であるため、これ以上の説明は省略する。
【0024】
ここで、図1及び図2に示したように可動ルーフ4を開位置にもたらしてルーフ開口3を開放すると共に、ウィンドデフレクタ9を図1乃至図3に示した使用位置にもたらして自動車を前進走行させると、前方から流れてきた風は、図2に符号S1を付した矢印で示すように、ウィンドデフレクタ9の前面に沿って流れ、次いでそのウィンドデフレクタ9の上端から剥離して、大きく後方に流れる。しかも、その風の一部の空気が網12を通過し、その通過した空気が図2に符号S2を付した矢印で示すように、多数の小さな渦を形成する。このため、ウィンドデフレクタ9の上端を越えて流れた風の一部S3が車室R内に流入しようとしても、その一部の風S3が、小さな多数の渦S2によって車室R内に流入することが阻止される。このようにして、風が渦巻きながらルーフ開口3から車室R内に流入することをより確実に防止することができ、ウィンドスロッブの発生をより効果的に抑制することができる。
【0025】
上述したウィンドデフレクタ9の構成自体は、従来のウィンドデフレクタと異なるところはない。その際、先にも説明したように、従来のこの種のウィンドデフレクタを用いて自動車を走行させると、風切音が発生するおそれがあり、その原因が次の点にあることが判明した。
【0026】
図5は、従来のウィンドデフレクタ9Aを備えた自動車の図2と同様な断面図である。図5に示すように、従来のウィンドデフレクタ9Aの枠体11Aを構成する上枠部13Aは、四角形の横断面形状を有している。このため、自動車の走行時に前方から流れてきた風が上枠部13Aに当って、その上枠部13Aを離れたとき、図5に符号Qを付して示したように渦が形成される。これにより不快な風切音が発生していたのである。従来のウィンドデフレクタ9Aの側枠部も四角形の横断面形状を有していたので、これによっても風切音が発生する欠点を免れなかった。
【0027】
そこで、本例のウィンドデフレクタ9の上枠部13と側枠部19は、次のように構成されている。
【0028】
図2に示すように、ウィンドデフレクタ9が使用状態にあるときの上枠部13の上端24と下端25との間の前面26は、前方に突出した状態に湾曲形成されている。上枠部13の横断面が翼形状に形成されているのである。このため、自動車の走行時に前方から流れてくる風は、符号S1を付した矢印で示すように、上枠部13の前面26を、これに沿って滑らかに流れ、その上枠部13の上端24を円滑に離れる。このため、上端24を離れた風が渦流となることはなく、風切音の発生が防止される。
【0029】
上述のように、本例のウィンドデフレクタ9の上枠部13は、そのウィンドデフレクタ9が使用状態にあるときの上端24と下端25との間の前面26が前方に突出した状態に湾曲形成されており、これによって風切音の発生を抑えることができるのである。
【0030】
また、図1のIV−IV線拡大断面図である図4に示すように、ウィンドデフレクタ9が使用状態にあるときの側枠部19の車幅方向外側の外端27と、車幅方向内側の内端28との間の前面29も、前方に突出した状態に湾曲形成されている。このため、自動車の走行時に前方から流れてくる風は、図4に符号S4を付した矢印で示すように、側枠部19の前面29を滑らかに流れ、その外端27を円滑に離れる。これにより、側枠部19の外端27を離れた風が渦流となることはなく、これによっても風切音の発生を防止することができる。図1に示した他方の側枠部も、図4に示した側枠部19と同じく形成され、これによっても風切音の発生が抑えられる。
【0031】
上述のように、本例のウィンドデフレクタ9の側枠部19は、そのウィンドデフレクタ9が使用状態にあるときの車幅方向外側の外端27と車幅方向内側の内端28との間の前面29が前方に突出した状態に湾曲形成されており、これによって風切音の発生が効果的に抑制されるのである。
【0032】
なお、ウィンドデフレクタ9の網12は、そのサイズが大きいと、風が網12を通過するとき、わずかな風切音が発生する。従って、網12のサイズを過度に大きくすべきではない。また、これとは逆に、網12のサイズが小さすぎると、その網12を通過した空気によって、ウィンドデフレクタ9に後方に多数の小さな渦が形成され難くなり、ウィンドデフレクタ9を越えた風が車室内に流入する不具合を阻止する効果が低下する。従って、網12を通過する風による風切音の発生を抑え、かつ網12を通過した空気によって、多数の小さな渦が効果的に形成されるように網12のサイズを定めることが望ましい。
【符号の説明】
【0033】
1 車体
2 ルーフ
3 ルーフ開口
4 可動ルーフ
9 ウィンドデフレクタ
10 上面
11 枠体
12 網
13 上枠部
14 下枠部
15,17 端部
19 側枠部
20 前縁
24 上端
25 下端
26 前面
27 外端
28 内端
29 前面
W 車幅方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の上部を構成するルーフに形成されたルーフ開口を閉鎖し又は開放するように前後方向に移動可能に車体に支持された可動ルーフと、前記ルーフ開口の前縁に沿って配置されたウィンドデフレクタとを有し、該ウィンドデフレクタは、前記ルーフ開口が開放された状態で、前記ルーフの上面よりも上方に突出した姿勢で使用される自動車であって、前記ウィンドデフレクタは、その使用時の状態で上側の位置を占め、かつ車幅方向に長く延びた上枠部と、該上枠部に対して平行に延び、かつ該上枠部よりも下方に位置する下枠部と、前記上枠部の車幅方向各端部と下枠部の車幅方向各端部とにそれぞれ固定連結された一対の側枠部とから構成されたほぼ矩形の枠体と、該枠体により区画された領域に配置され、その縁部が該枠体に固定されている網とを具備する自動車において、
前記ウィンドデフレクタの上枠部は、該ウィンドデフレクタが使用状態にあるときの上端と下端との間の前面が前方に突出した状態に湾曲形成されていることを特徴とする自動車。
【請求項2】
前記ウィンドデフレクタの側枠部は、該ウィンドデフレクタが使用状態にあるときの車幅方向外側の外端と車幅方向内側の内端との間の前面が前方に突出した状態に湾曲形成されている請求項1に記載の自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−218840(P2011−218840A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86776(P2010−86776)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】