説明

ウイルス感染の治療

本発明は、アポE141-149の直列反復に由来するポリペプチド及び医薬としてのそれらの使用に関する。前記ペプチドは、前記直列反復及びそれらの短縮型を含むことができ、前記については、少なくとも1つのロイシン(L)が、少なくとも4つの炭素原子及び少なくとも1つの窒素原子を含む側鎖を有するアミノ酸によって置換されている。そのようなペプチドはウイルス感染の予防および治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス活性を有するポリペプチド、その誘導体又は類似体、及び前記をコードする核酸に関する。本発明はさらに、前記のようなポリペプチド、誘導体、類似体又は核酸の医薬としての使用及び治療方法における使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
抗ウイルス剤はウイルス複製サイクルの6つの段階の1つを標的とすることができる。これらの段階は以下のとおりである:
1.ウイルスの細胞への付着;
2.侵入(又はウイルス膜と細胞膜との融合);
3.ウイルスの脱外被;
4.ウイルス核酸の複製;
5.子孫ウイルス粒子の成熟;及び
6.子孫ウイルスの細胞外液への放出。
これら6つの段階のうちで、複製(上記段階4)は、通常の抗ウイルス療法がもっとも効果的に影響を与える標的である。ウイルスの細胞への付着は、しかしながら薬剤が宿主細胞内に移行する必要がないために、より魅力的な標的であると主張することができる。しかしながら、前記は、具合のよい治療法が未だにほとんど開発されていない領域である。
【発明の開示】
【0003】
したがって本発明の目的の一つはウイルスの細胞への付着を調節する治療薬を提供することである。
リポタンパク質(LP)は血清及び他の細胞外液に存在する球状の巨大分子複合体であり、脂質及びタンパク質から成り、身体周囲の脂肪の輸送に必要である。リポタンパク質はそれらの密度にしたがって分類され、主要なクラスには高密度リポタンパク質(HDL)、低密度リポタンパク質(LDL)及び超低密度リポタンパク質(VLDL)がある。それらのタンパク質はアポリポタンパク質と称され、アポリポタンパク質A、B、C、D、E、F、G、H及びJを含む多くのものが報告されている。さらにまた、アポリポタンパク質A、B及びCのいくつかのサブタイプが記載されている。
LPとウイルスを連関させる種々の相互反応が記載されてきた。これらの反応のほとんどがウイルスとリポタンパク質との結合に関与し、ウイルスの感染性の減少をもたらすか、又は逆にウイルスが細胞内に侵入するための“ヒッチハイカー”の方法を提供する。さらにまた、いくつかのウイルスは、細胞に侵入する手段として、LPに対する細胞レセプター(例えばLDLレセプター)を利用する。ただしこれらのレセプターは、内因性抗ウイルス因子として細胞によって放出されることがある(例えば、VLDLレセプターの可溶型はHeLa細胞によって培養液中に放出され、ヒトのライノウイルス感染を阻害する)。さらにまた、ある種のアポリポタンパク質とウイルスタンパク質との間の直接結合もまたは報告されている。例えば、
a.C型肝炎ウイルスコアタンパク質はアポリポタンパク質AIIと結合する;
b.B型肝炎ウイルス表面抗原はアポリポタンパク質Hと結合する;さらに
c.サル免疫不全ウイルス(SIV)のgp32タンパク質及びヒト免疫不全ウイルス(HIV)のgp41タンパク質はアポリポタンパク質A1と結合する。
【0004】
発明者の研究室で行った実験によって、潜伏している単純ヘルペスウイルス1型(HSV1)の脳内の存在、及び特殊な遺伝子の特定の対立遺伝子座(APOE遺伝子のAPOE-e4対立遺伝子座)の保持は、アルツハイマー病(AD)発症リスクを増加させることが示された。APOE-e4保因者は単純ヘルペス病巣(前記は末梢神経系におけるHSV1の再活性化後に見出される病巣である)をいっそう惹起しやすいというまた別の発見とも合わせれば、これらの結果は、APOE-e4保因者はHSV1感染による損傷をいっそう受けやすいことを示唆し、さらにアポリポタンパク質Eとある種のウイルスとの相互作用の存在の可能性を示唆する(ただしそのような相互作用が必ずしも抗ウイルス作用を含むとは限らない)。HSV1とアポEとの相互作用の1つの可能な態様は、HSV1とアポEはともに、それらの最初の細胞結合部位としてその後に続く二次的レセプターとの結合前に細胞の硫酸ヘパリンプロテオグリカン(HSPG)分子を利用するというそれぞれ別個の発見と関連する。この発見は、HSV1とアポE含有LPとの間の競合がこれらHSPG部位において生じえる(それはウイルスの進入に影響を与えることができよう)という可能性をもたらす。
【0005】
アポリポタンパク質Eは、Tリンパ球の増殖の抑制を含む、免疫系に対する影響を有することが示された(おそらく脂質代謝におけるその役割とは無関係と思われる)。アポEの残基130−169から誘導された多数のペプチドとリンパ球との間の相互作用が調べられた(Clay et al., Biochemistry, 34:11142−11151 (1995))。アポE残基141−149から成る領域は特に重要であると予想される。そのようなペプチドの類似の相互作用が神経細胞株で報告されている。
WO94/04177は、脂質及び両親媒性ヘリックスペプチドを含む粒子の投与によって微生物により産生された毒素が除去され、細菌膜に対する作用を介して抗菌剤の効果が増強されえることを開示している。しかしながら、そのようなアポA由来ペプチド含有粒子が抗ウイルス薬として用いることができるということは提唱されていない。さらにまた粒子中のペプチドの投与(これは前記開示された開発の鍵となる要素である)によって、(粒子が投与前又は内因的に形成されるか否かにかかわらず)粒子のどちらかの成分のいずれかの抗ウイルス作用の効果的利用がもたらされるのかどうかは明らかではない。
【0006】
アポAから誘導された両親媒性ヘリックスペプチド(Ananatharamiah(Meth. Enz. 128:627-647 (1986))により記載された)は、ウイルス膜と細胞膜との融合を妨げ、さらに感染細胞の膜の融合を妨げることが示された(Srinivas et al., J. Cellular Biochem., 45:224-237 (1991))。前記ペプチドはまた、HSV1及びHIVのための融合の防止に有効であった(Owens et al., J. Clin. Invest. 86:1142-1150 (1990))。しかしながら、このペプチドは、HSV1の少なくとも細胞への付着に対しては全く影響を及ぼさなかった(Srinivas et al.上掲書)。
AzumaらはアポEのペプチド誘導体は、ゲンタマイシンの抗菌作用に匹敵する強力な抗菌作用を有することを報告した(Peptides 21:327-330 (2000))。アポE133−162がもっとも有効で、アポE134−155はほとんど効果をもたなかった。
上述の研究を考慮して、発明者は、アポE由来のペプチド(ヘリックスを形成する能力を有する)が抗ウイルス活性を有するか否かを判定するために実験を行った。彼は、アポEのペプチドフラグメント、アポE141-149の直列反復(すなわち2xLRKLRKRLL(配列番号:1))は実際に抗ウイルス作用を有することを見出した。発明者はいずれの仮説にも拘束されることを望まないが、このフラグメントはウイルス粒子と細胞との結合を防止し、プラーク減少アッセイ技術で測定したときウイルスの感染性の低下を生じると考えている。実施例1は、前記ペプチドが、ウイルス(例えばHSV1、HSV2及びHIV)に対してどのようにして効果を有するかを説明する。したがって、このペプチドは、ウイルスに直接適用されたとき、又は細胞の存在下でウイルスに適用されたときに有効である可能性があり、したがって、前記ペプチドを用いて遊離ウイルス粒子を、それらが標的細胞に到着するはるか前に不活化することができる。
【0007】
アポE141-149の直列反復(すなわち2xLRKLRKRLL(配列番号:1))について得られたデータを考慮して、発明者らはアポリポタンパク質の他のフラグメントを抗ウイルス活性について精査しようとした。
本発明の第一の特徴にしたがえば、配列番号:2のアポE141-149の直列反復又はその短縮型を含み、配列番号:2の少なくとも1つのロイシン(L)残基が、少なくとも4つの炭素原子及び少なくとも1つの窒素原子を含む側鎖を有するアミノ酸によって置換されていることを特徴とするポリペプチド、その誘導体又は類似体が提供される。
“配列番号:2のアポE141-149の直列反復”とは、アミノ酸配列:LRKLRKRLLLRKLRKRLLを有するペプチドを意味する。前記直列反復は本明細書ではアポE141-149dp又はアポE141-149rと称される。このペプチドにはまたコードGIN1又はGIN1Pが割り当てられる(式中、pはN末端の保護(例えばアセチル基による)及びC末端の保護(例えばアミド基による)を示す)。
“その短縮型”とは、配列番号:2の18merがアミノ酸の除去によりサイズが縮小されていることを意味する。アミノ酸の減少は、前記ペプチドのC又はN末端から残基が除去される場合でも、又はペプチドのコア内(すなわち配列番号:のアミノ酸2−17)から1つ又は2つ以上のアミノ酸が欠失する場合でもよい。
“その誘導体又は類似体”とは、アミノ酸残基が、類似の側鎖又はペプチド骨格特性を持つ残基(天然のアミノ酸、非天然のアミノ酸又はアミノ酸模倣体にかかわりなく)によって置換されていることを意味する。さらにまた、そのようなペプチドの末端は、アセチル又はアミド基と類似の特性を有するN及びC末端保護基によって保護されてあってもよい。
【0008】
発明者は、アポリポタンパク質由来のペプチド及びその誘導体の抗ウイルス活性を判定するために網羅的な実験を行った。アポE由来のペプチド及び誘導体に特に焦点を当てた。発明者らが驚いたことには、テストしたペプチドの大半がほとんど又は全く抗ウイルス作用をもたないことが判明した。驚嘆すべき例外は本発明の第一の特徴のペプチドであった。実施例2−7は、アポE141-149の直列反復及びアポリポタンパク質由来の他のペプチドと比較した本発明のペプチドの有効性を記載している。
発明者は、アポE141-149直列反復中のロイシンはトリプトファン(W)、アルギニン(R)又はリジン(K)で置換することができ、そのようなペプチドは驚嘆すべき抗ウイルス活性を有することを確認した。発明者は、これらのアミノ酸は少なくとも4つの炭素を含み、さらにまた窒素原子を含む側鎖を有することを認識した。したがって、本発明の第一の特徴のペプチドでロイシンの置換に用いられるアミノ酸は、トリプトファン(W)、アルギニン(R)若しくはリジン(K)又はそれらの誘導体であることが好ましい。
発明者は、少なくとも1つのLがWで置換されたペプチドは特別な抗ウイルス活性を有することを見出した。したがって、本発明の第一の特徴のペプチドは、配列番号:2のアポE141-149の直列反復又はその短縮型を含み、配列番号:2の少なくとも1つのロイシン(L)がトリプトファン(W)で置換されてあることを特徴とするポリペプチド、その誘導体又は類似体を含むことがもっとも好ましい。
【0009】
開発作業中に、発明者は、Wによる置換はペプチドのアルファヘリックス形成の可能性を高めることが予想されることに気付き、このことが、本発明の第一の特徴の化合物の抗ウイルス作用を説明できるかどうか考えた。しかしながら、前記の事象が本発明のペプチドの驚くべき効能の説明になるとは発明者は今は考えていない。なぜならば、又別の多数の置換がアルファヘリックス形成を高めると予想されるからである(例えば、Lが置換された種々のペプチドのアルファヘリックス形成の可能性の計算について表1を参照されたい)。しかしながら、へリックス形成の可能性(表1)は本発明のペプチドの抗ウイルス活性とは相関しない(実施例5を参照されたい)。





表1:種々のペプチドが、0.15MのNaClの水性緩衝液において37℃でアルファヘリックスを形成する分子の予想される割合(%)(AGADIR二次構造予測ソフトを使用、前記は以下から入手できる:http://www.emb1-heiderberg.de/Services/agadir/agadir-start.html)。

【0010】
発明者らはまた以下の事柄にも気付いた:
1.Wによる置換から得られる増加は非常に小さい(GIN 1p分子の0.51%がヘリックスを形成し、前記はW置換ペプチドの1.47%までわずかしか増加しない);及び
2.いずれの場合も、他の置換の多数がアルファヘリックスを形成する分子の割合を増加させると予想される。例えば、LをE又はAで置換することによって、アルファ-ヘリックス形成の可能性はW置換のそれを超えて増加する(それぞれ6.24%及び1.87%まで)。しかしながら、これらの両置換によって実際には抗ウイルス活性は失われた(例えば実施例3又は実施例5のペプチドGIN39を参照されたい)。
したがって、本発明の“L-置換”ペプチドについて、アルファヘリックス形成の可能性と抗ウイルス活性の強さとの間に相関性は存在しない。
本発明の第一の特徴のアミノ酸でL(ロイシン)を置換することによって、ペプチドの両親媒性が低下するので、本発明のペプチドの効能はいずれも極めて驚嘆すべきことである(表2はアミノ酸の一般に認められている疎水性の順番を示している)。当業者は、両親媒性のより高いペプチドを作製することによって抗ウイルス特性を付与しえるであろうと考えるかもしれない。したがって、配列番号:2の本発明の置換は予想に反してそれらの抗ウイルス活性の顕著な増加をもたらした。
表2:アミノ酸の疎水性
Phe>Leu=Ile>Tyr=Trp>Val>Met>Pro>Cys>Ala>Gly>Thr>Ser>Lys>Gln>Asn>His>Glu>Asp>Arg
【0011】
下記でさらに詳細に検討されるように、配列番号:2は、本発明の第一の特徴にしたがって、種々の多くの置換及び欠失により操作して、抗ウイルス活性を有するペプチドを製造することができる。しかしながら、本発明の第一の特徴のポリペプチドは、好ましくは少なくとも2つのW、R又はKによる置換を有し、より好ましくは、3つ又は4つ以上のW、R又はK置換を有する。
1つ又は2つ以上のLのW、R又はKによる置換の他に、少なくとももう1つのアミノ酸(好ましくは少なくとももう1つのロイシン残基)がアスパラギン(N)、チロシン(Y)、システイン(C)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、イソロイシン(I)、グルタミン(Q)又はヒスチジン(H)で置換されることが好ましい。特に好ましくは、そのようなさらに別の置換はY又はCによる。
前記置換されたポリペプチドは18のアミノ酸(又はその誘導体)を含み、それによって配列番号:2の完全長に一致することができる。しかしながら、驚くべきことに発明者らは、配列番号:2を基準にした短縮ペプチドもまた抗ウイルス薬として有効性を有することを見出した。したがって、好ましいペプチド又はそれらの誘導体は18未満のアミノ酸を有することができる。例えば、本発明の第一の特徴のいくつかのペプチドは、長さが17、16、15、14、13、12、11、10又はそれより小さいアミノ酸であってもよい。
【0012】
本発明のペプチド及びその誘導体は、好ましくは、ウイルスの増殖をIC50値が30μM又はそれ未満であるように阻害する効能を有する。IC50値は好ましくは20μM又はそれ未満、より好ましくは、IC50値は10μM又はそれ未満である。好ましいペプチドはウイルス種の間で同様なIC50値を有する。例えば好ましいペプチドは、HSV1、HSV2及びHIVの増殖阻害について同様なIC50値を有する。
当業者に公知の多数のアミノ酸変種を含む改変アミノ酸をアポE141-149の直列反復に代用として用いることができることは理解されよう。そのようなペプチドは、前記改変がその化学的特性を顕著に変化させないかぎり、なお抗ウイルス活性を有するであろう。例えば、R又はKの側鎖アミンの水素はメチレン基で置換することができる(-NH2→-NH(Me)又は-N(Me)2)。
本発明の第一の特徴の好ましいペプチドは以下のアミノ酸配列を有する:
(a)WRKWRKRWWWRKWRKRWW(配列番号:3);このペプチドは、全てのロイシンがトリプトファン残基によって置換されている、完全長の直列反復に一致する。本明細書ではこのペプチドをGIN7と称する。
(b)WRKWRKRWRKWRKR(配列番号:4);このペプチドは、全てのロイシンがトリプトファン残基によって置換された完全長の直列反復で、さらにアミノ酸9、10、17及び18の切り出しによって短縮された直列反復に一致する。このペプチドは、本明細書で言及するときはGIN32と称される。
(c)WRKWRKRWWLRKLRKRLL(配列番号:5);このペプチドは、一部のロイシンセットがトリプトファン残基によって置換された、完全長の直列反復に一致する。このペプチドは、本明細書で言及するときはGIN34と称される。
(d)WRKWRKRWWRKWRKRWW(配列番号:52);このペプチドは、9位のW残基が欠失した、配列番号:3に一致する。このペプチドは、本明細書で言及するときはMU58と称される。
(e)WRKWRKRWRKWRKRW(配列番号:53);このペプチドは、9、10及び18位のW残基が欠失した、配列番号:3に一致する。このペプチドは、本明細書で言及するときはMU59と称される。
(f)WRKWRKRWWFRKWRKRWW(配列番号:54);このペプチドは、10位のW残基がFで置換された、配列番号:3に一致する。このペプチドは、本明細書で言及するときはMU60と称される。
(g)WRKWRKRWFFRKWRKRFF(配列番号:55);このペプチドは、9、10、17及び18位のW残基がF残基で置換された、配列番号:3に一致する。このペプチドは、本明細書で言及するときはMU61と称される。
(h)WRKCRKRCWWRKCRKRCW(配列番号:56);このペプチドは、4、8、13及び17位のW残基がC残基で置換された、配列番号:3に一致する。このペプチドは、本明細書で言及するときはMU68と称される。
(i)LRKLRKRLLWRKWRKRWW(配列番号:57);このペプチドは、10、13、17及び18位のL残基がW残基で置換された、配列番号:2に一致する。このペプチドは、本明細書で言及するときはMU111と称される。
(j)LRKLRKRLLLRKLRKRWW(配列番号:58);このペプチドは、17及び18位のL残基がW残基で置換された、配列番号:2に一致する。このペプチドは、本明細書で言及するときはMU112と称される。
(k)LRKLRKRLLWRKWRKRLL(配列番号:59);このペプチドは、10及び13位のL残基がW残基で置換された、配列番号:2に一致する。このペプチドは、本明細書で言及するときはMU113と称される。
(l)WRKWRKRLLLRKLRKRLL(配列番号:60);このペプチドは、1及び4位のL残基がW残基で置換された、配列番号:2に一致する。このペプチドは、本明細書で言及するときはMU114と称される。
(m)WRKLRKRLLLRKLRKRLL(配列番号:61);このペプチドは、1位のL残基がW残基で置換された、配列番号:2に一致する。このペプチドは、本明細書で言及するときはMU115と称される。
(n)WRKWRKFFFRKWRKRWW(配列番号:62);このペプチドは、8、9及び10位のW残基がF残基で置換され、さらに7位のR残基が欠失した、配列番号:3に一致する。このペプチドは、本明細書で言及するときはMU116と称される。
(o)WRKWRKRWWFRKFRKRFF(配列番号:63);このペプチドは、10、13、17及び18位のW残基がF残基で置換された、配列番号:3に一致する。このペプチドは、本明細書で言及するときはMU117と称される。
(p)RRKRRKRRRRRKRRKRRR(配列番号:64);このペプチドは、全てのロイシンがアルギニン(R)残基によって置換された、完全長の直列反復に一致する。このペプチドは、本明細書で言及するときはMU16と称される。
(q)KRKKRKRKKKRKKRKRKK(配列番号:65);このペプチドは、全てのロイシンがリジン(K)残基によって置換された、完全長の直列反復に一致する。このペプチドは、本明細書で言及するときはMU18と称される。
【0013】
発明者はまた、単純な二量体より大きいアポE141-149の直列反復又はその短縮型を含む本発明のペプチドを利用することができることを認識した。例えば、三量体又はそれより多くの繰返しを含むペプチドを抗ウイルス薬として利用することができる。
本発明のさらに別の実施態様では、さらに別のアミノ酸が付加された、上記に定義したペプチドを含む抗ウイルスペプチドを合成することができる。例えば、1つ、2つ、3つ又は4つ以上のアミノ酸を配列番号:2から誘導されたペプチドのC又はN末端に付加することができる。又別には、前記ペプチドは、配列番号:1の9アミノ酸より長いペプチドの直列反復を含むことができる。そのようなペプチドは、配列番号:2のN末端、C末端及び/又は前記のアミノ酸の9番目と10番目の間に付加されたアミノ酸を有することができる。前記アミノ酸は配列番号:2のアミノ酸のC末端及び配列番号:2のアミノ酸の9番目と10番目の間に付加されるのがもっとも好ましい。続いてそのようなペプチドを、配列番号:2から誘導されるペプチドについて上記で述べたように改変することができることは理解されよう。例示すれば、WRKWRKRWWRWRKWRKRWWR(配列番号:66)は本発明のまた別の好ましいペプチドを表す。このペプチドは、全てのロイシンがトリプトファン残基で置換された、完全長のアポE141-150の直列反復(すなわちLRKLRKRLLRの直列反復(配列番号:67))に一致する。このペプチドは、本明細書で言及するときはMU83と称される。
【0014】
本発明の第一の特徴のアポE141-149の直列反復の誘導体開発中に、配列番号:2及びその変種の短縮型もまた驚くべき抗ウイルス活性を有することを認識した。これらには以下が含まれる:
LRKLRKRLLLRKLRK(配列番号:7);このペプチドは、残基16、17及び18が欠失した、完全長の直列反復の短縮型に一致する。このペプチドは、GIN1よりも短いこと、したがって製造が安価であるという利点を有する。このペプチドは本明細書で言及するときはGIN4と称される。
LRKLRKRLRKLRKR(配列番号:8);このペプチドは、アミノ酸9、10、17及び18の切り出しによって短縮させた、完全長の直列反復に一致する。このペプチドは本明細書で言及するときはGIN8と称される。
LRKLRKLRKLRKLRK(配列番号:9);このペプチドは、LRKモチーフの繰返しを含む、完全長の直列反復変種に一致する。このペプチドは本明細書で言及するときはGIN9と称される。
さらにまた、YRKYRKRYYYRKYRKRYY(配列番号:6)は抗ウイルス薬として有効であることが見出された。このペプチドは、全てのロイシン残基がチロシン残基で置換された、アポE141-149の完全長直列反復に一致する。このペプチドは本明細書で言及するときはGIN41と称される。
【0015】
本発明の第二の特徴にしたがえば、医薬として使用される本発明の第一の特徴のポリペプチド、その誘導体若しくは類似体、又は配列番号:6、7、8若しくは9のペプチドが提供される。
発明の第三の特徴にしたがえば、ウイルス感染治療用医薬の製造のための、本発明の第一の特徴のポリペプチド、その誘導体若しくは類似体、又は配列番号:6、7、8若しくは9のペプチドの使用が提供される。
本発明の第一の特徴のポリペプチド、その誘導体又は類似体の治療作用はまた、そのようなポリペプチド、誘導体又は類似体の活性を高める薬剤によって“間接的に”仲介されえることは理解されよう。本発明は、そのような薬剤の第一医薬用途を提供する。
したがって、本発明の第四の特徴によれば、医薬として使用される本発明の第一の特徴のポリペプチド、誘導体又は類似体の生物学的活性を高めることができる薬剤が提供される。
本発明のポリペプチド、誘導体又は類似体の生物学的活性を高めることができる薬剤は、多数の手段によってそれらの作用を発揮することができる。例えば、そのような薬剤は、そのようなポリペプチド、誘導体又は類似体の発現を増加させることができる。また別には、(又はそれに付け加えて)、そのような薬剤は、例えば前記ポリペプチド、誘導体又は類似体の代謝を低下させることによって、生物学的な系における本発明のポリペプチド、誘導体又は類似体の半減期を増加させることができる。
増大した生物学的活性のために、本発明の第一の特徴のポリペプチド、誘導体又は類似体は抗ウイルス剤として有用である。
【0016】
本発明の第一、第二及び第三の特徴のポリペプチド、誘導体又は類似体は、多数のウイルス感染の治療に用いることができる。前記ウイルスは任意のウイルスであり得るが、特にエンベロープをもつウイルスがよい。好ましいウイルスはポックスウイルス、イリドウイルス、トガウイルス又はトロウイルスである。より好ましいウイルスは、フィロウイルス、アレナウイルス、ブニヤウイルス又はラブドウイルスである。さらに好ましいウイルスはパラミクソウイルス又はオルソミクソウイルスである。ウイルスには好ましくはヘパドナウイルス、コロナウイルス、フラビウイルス又はレトロウイルスを含むことができると考える。好ましくは、前記ウイルスにはヘルペスウイルス又はレンチウイルスが含まれる。好ましい実施態様では、前記ウイルスは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒト単純ヘルペスウイルス2型(HSV2)又はヒト単純ヘルペスウイルス1型(HSV1)であろう。
本発明の第一、第二及び第三の特徴のポリペプチド、誘導体又は類似体を、単独療法として(すなわち本化合物のみを使用)又は抗ウイルス療法で用いられる他の化合物若しくは療法と併用して用いウイルス感染を治療することができる(前記他の化合物は、例えばアシクロヴィル、ガンシクロヴィル、リバビリン、インターフェロン、抗HIV薬(逆転写酵素のヌクレオシド、ヌクレオチド又は非ヌクレオチド阻害剤、プロテアーゼ阻害剤及び融合阻害剤を含む)である)。
前記ポリペプチド、誘導体又は類似体は予防薬(ウイルス感染の進行を防ぐ)として用いるか、又は目下の感染を治療するために用いることができる。
本発明のポリペプチドの誘導体には、in vivoで前記ポリペプチドの半減期を増減させる誘導体を含むことができる。本発明のポリペプチドの半減期を増加させることができる誘導体の例には、前記ポリペプチドのペプトイド誘導体、前記ポリペプチドのD-アミノ酸誘導体及びペプチド-ペプトイドハイブリッドが含まれる。
【0017】
本発明のポリペプチドは多数の手段(例えば生物学的な系におけるプロテアーゼ活性)によって分解に付されえる。そのような分解は前記ポリペプチドの生体利用性を制限し、したがってそれらの生物学的機能を達成する前記ポリペプチドの能力を制限するであろう。生物学的環境における安定性を強化させたペプチド誘導体を設計し製造する確立された広範囲の技術が存在する。そのようなペプチド誘導体は、プロテアーゼ介在分解に対する耐性の強化の結果として、改善された生体利用性を有することができる。好ましくは、本発明の使用に適したペプチド誘導体又は類似体は、前記が誘導されたペプチドよりもより強いプロテアーゼ耐性を有する。ペプチド誘導体及び前記誘導体が由来したペプチドのプロテアーゼ耐性は、周知のタンパク質分解アッセイの手段によって評価することができる。前記ペプチド誘導体及びペプチドのプロテアーゼ耐性の相対値を続いて比較することができる。
本発明のペプチドのペプトイド誘導体は、本発明の第一の特徴のペプチドの構造に関する情報から容易に設計することができる。市販のソフトを用いて確立されたプロトコルにしたがってペプトイド誘導体を開発することができる。
レトロペプトイド(全てのアミノ酸が逆の順序でペプトイド残基によって置き換えられている)はまた、アポリポタンパク質から誘導される抗ウイルスペプチドを模倣することができる。レトロペプトイドは、ペプチド又は1つのペプトイド残基を含むハイブリッドと比べたとき、リガンド結合溝において反対の向きで結合すると予想される。結果として、前記ペプトイド残基の側鎖は本来のペプチドの側鎖と同じ方向に向くことができる。
本発明のポリペプチドの改変形のまた別の実施態様はポリペプチドのD-アミノ酸型を含む。L-アミノ酸ではなくD-アミノ酸を含むペプチドの調製物は、正常な代謝プロセスによる前記薬剤の望ましくない分解を大きく低下させ、投与されねばならない薬剤量を減少させるとともにその投与頻度も減少させる。
【0018】
本発明のポリペプチド、類似体又は誘導体は、生物学的細胞が有利に発現することができる生成物である。
したがって、本発明はまた第五の特徴において、本発明の第一の特徴のポリペプチド、誘導体又は類似体をコードする核酸を提供する。
アポE141-149をコードする核酸は、DNA配列cttcgtaaacttcgtaaacgtcttctt(配列番号:10)を有し、一方、GIN1は、配列cttcgtaaacttcgtaaacgtcttcttcttcgtaaacttcgtaaacgtcttctt(配列番号:11)を有する。
本発明の第五の特徴の好ましい核酸は、本明細書でGIN4、7、8、9、32、34及び41と同定されたペプチドをコードし、以下のそれぞれ対応する配列を有する:
cttcgtaaac ttcgtaaact tcgtaaactt cgtaaacttc gtaaacttcg taaa(配列番号:16);
tggcgtaaat ggcgtaaacg ttggtggtgg cgtaaatggc gtaaacgttg gtgg(配列番号:12);
cttcgtaaac ttcgtaaacg tcttcgtaaa cttcgtaaac gt(配列番号:17);
cttcgtaaac ttcgtaaact tcgtaaactt cgtaaacttc gtaaacttcg taaa(配列番号:18);
tggcgtaaat ggcgtaaacg ttggcgtaaa tggcgtaaac gt(配列番号:13);
tggcgtaaat ggcgtaaacg ttggtggctt cgtaaacttc gtaaacgct tctt(配列番号:14);及び
tatcgtaaat atcgtaaacg ttattattat cgtaaatatc gtaaacgtta ttat(配列番号:15)。
当業者には、本発明の他の好ましいペプチドの核酸配列を容易に作製することができることは理解されよう。
【0019】
遺伝暗号の縮退により、本発明の第五の特徴の核酸配列は、本発明の第一の特徴のポリペプチド、その誘導体又は類似体をコードするコドンを提供する天然に存在するアポE遺伝子とは変化しえることは理解されよう。
本発明のポリペプチド、誘導体及び類似体は、そのような分子をコードする核酸配列の細胞による発現を含む技術によって投与することが有利な薬剤であることは理解されよう。そのような細胞による発現方法は、前記ポリペプチド、誘導体及び類似体の治療効果が長期にわたって要求される医薬的利用に特に適している。
したがって、本発明の第六の特徴によれば、医薬として使用される、本発明の第五の特徴の核酸配列が提供される。
前記核酸は好ましくは単離又は精製された核酸配列であろう。前記核酸配列は好ましくはDNA配列であろう。
前記核酸配列はさらに、その発現を制御及び/又は強化することができるエレメントを含むことができる。前記核酸分子は適切なベクターに収納して、組換えベクターを形成することができる。前記ベクターは、例えばプラスミド、コスミド又はファージでありえる。そのような組換えベクターは、本発明のデリバリー系において細胞を前記核酸で形質転換するために非常に有用である。
【0020】
組換えベクターはまた他の機能的エレメントを含むことができる。例えば、組換えベクターは、それらが細胞内で自律的に複製するように設計することができる。この事例では、核酸の複製を誘導するエレメントが組換えベクターに必要とされるであろう。また別には、組換えベクターは、ベクター及び組換え核酸分子が細胞のゲノムに組み込まれるように設計することができる。この事例では、標的とされる組み込みに有利な(例えば相同組換えによる)核酸配列が所望される。組換えベクターは又、クローニング過程で選別可能マーカーとして用いることができる遺伝子をコードするDNAを有することができる。
さらに前記組換えベクターはまた、遺伝子の発現を必要なように制御するためにプロモーター又は調節因子を含むことができる。
前記核酸分子は、治療される対象者の細胞のDNAに組み込まれる核酸であり得る(必ずしもというわけではないが)。未分化細胞が安定的に形質転換され、遺伝的に改変された娘細胞の産生をもたらす(この場合には、対象者における発現の調節が、例えば特別な転写因子又は遺伝子活性化因子により必要とされるだろう)。また別には、治療される対象者の分化細胞の不安定性又は一過性形質転換に有利なように、デリバリー系を設計することができる。この場合には、形質転換細胞が死んだとき又は前記タンパク質の発現が停止したときに(理想的には必要な治療効果が達成されたときに)DNA分子の発現が停止するので、発現の調節は前述の事例ほど重要ではない。
【0021】
前記デリバリー系は、前記核酸分子をベクター内に取り込むことなく対象者に前記分子を提供することができる。例えば、前記核酸分子はリポソーム又はウイルス粒子内に取り込むことができる。また別には、“裸の”核酸分子を対象者の細胞に適切な手段(例えば直接的エンドサイトーシスによる取り込み)によって挿入してもよい。
核酸分子は、トランスフェクション、感染、マイクロインジェクション、細胞融合、プロトプラスト融合又は弾道ボンバードメント(ballistic bombardment)によって、治療されるべき対象者の細胞に移すことができる。例えば、導入は、被覆金粒子による弾道トランスフェクション、核酸分子を含むリポソーム、ウイルスベクター(例えばアデノウイルス)、及び核酸分子を直接適用することによって直接的な核酸の取り込みを提供する手段(例えばエンドサイトーシス)によることができる。
本発明のポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体を単独療法(すなわち本発明のポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体のみを使用してウイルス感染を予防及び/又は治療する)で用いることができることは理解されよう。また別には、本発明のポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体を、付属物として、又は既知の療法と併用して用いてもよい。
【0022】
本発明のポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体を、種々の多くの形態を有する組成物中で、特に前記組成物が用いられる態様に応じて組み合わせることができる。したがって、例えば、前記組成物は散剤、錠剤、カプセル、液体、軟膏、クリーム、ゲル、ヒドロゲル、エーロゾル、スプレー、ミセル、経皮パッチ、リポソームの形態であるか、又は人間又は動物に投与することができる任意の他の適切な形態でありえる。本発明の組成物の賦形剤は、前記組成物が投与される対象者が十分に耐性を有し、さらに前記ポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体の標的組織へのデリバリーを可能にするように好ましくは適合されているものでなければならないことは理解されよう。
本発明のポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体を含む組成物は多数の方法で用いることができる。例えば経口投与は、錠剤、カプセル又は液体の形態で例えば経口的に摂取できる組成物中に前記化合物を収納することができる場合に要求することができる。また別には、前記組成物は血流中に注射によって投与することができる。注射は、静脈内(ボラス投与又は輸液)又は皮下注射(ボラス投与又は輸液)であろう。前記化合物は吸入によって(例えば鼻腔内から)投与してもよい。
【0023】
組成物は局所的使用を目的として製剤化してもよい。例えば、軟膏は皮膚、口若しくは性器内又はその周辺に塗布して特定のウイルス感染を治療することができる。皮膚への局所適用は皮膚のウイルス感染治療に、又は他の組織への経皮デリバリーの手段として特に有用である。膣内投与は性交により伝達される疾患(エイズを含む)の治療に有効である。
ポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体はまた徐放性又は遅放性装置内に取り込ませることができる。そのような装置は、例えば皮膚上に又は皮下に挿入し、数週間又は数ヶ月にさえわたって前記化合物を放出することができる。そのような装置は、本発明のポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体による長期治療が必要とされるとき、さらに通常頻繁な投与(例えば少なくとも毎日の注射)が必要とされるときに特に有利であろう。
必要とされるポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体の量は、その生物学的活性及び生体利用性(用いられるポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体の投与態様、及び前記ポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体が単独療法として又は併用療法として用いられるか否かに依存する)によって決定されることは理解されよう。投与頻度はまた、上述の要因及び特に治療される対象者の体内での前記ポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体の半減期によって影響されるであろう。
【0024】
投与されるべき最適用量を当業者は決定することができ、さらに前記最適用量は、使用される個々のポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体、調製物の濃度、投与の態様、及び症状の進行状況にしたがって変動するであろう。治療される個々の対象者に左右されるさらに別の要因が用量調節の必要をもたらすであろう。前記には対象者の年齢、体重、性別、食生活及び投与時期が含まれる。
当業者は、標的組織での前記ペプチドの必要用量及び最適濃度を、前記ペプチドの薬理学的動態及び特に実施例で提供されるIC50を基準にして算出することができることは理解されよう。
一般的に、本発明のポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体の0.01μg/kg体重から0.5g/kg体重の間の1日の用量を、使用される具体的なポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体に応じて、ウイルス感染の予防及び/又は治療のために用いることができる。より好ましくは、1日の用量は0.01mg/kg体重から200mg/kg体重、もっとも好ましくは約1mg/kgから100mg/kgである。
公知の方法、例えば製薬工業において(例えばin vivo実験、臨床試験などで)通常的に用いられるような方法を用いて、本発明のポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体の具体的な製剤及び正確な治療計画(例えばポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体の1日の用量及び投与頻度)を確立することができる。
【0025】
1日の用量は1回の投与として与えることができる(例えば毎日1回の注射)。また別には、使用されるポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体は1日に2回または3回以上の投与を必要とするかもしれない。一例として、本発明のポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体は、毎日2回(又は症状の重篤度に応じて3回以上)、1日25mgから7000mg(すなわち体重70kgと仮定して)の用量で投与することができる。治療を受ける患者は、最初の投与を起床時に続いて夕方に第二回目の投与を(2回投与計画の場合)、又はその後3若しくは4時間間隔で投与を受けることができる。また別には、徐放性装置を用いて、反復投薬の必要なく患者に最適用量を用いることができる。
本発明は、治療的に有効な量の本発明のポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体及び場合によって医薬的に許容できる賦形剤を含む医薬組成物を提供する。ある実施態様では、ポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体の量は約0.01mgから約800mgの量である。別の実施態様では、ポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体の量は約0.01mgから約500mgの量である。また別の実施態様では、ポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体の量は約0.01mgから約250mgの量である。また別の実施態様では、ポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体の量は約0.1mgから約60mgの量である。また別の実施態様では、ポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体の量は約0.1mgから約20mgの量である。
【0026】
本発明は、治療的に有効な量の本発明のポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体及び医薬的に許容できる賦形剤を一緒に含む医薬組成物を製造する方法を提供する。“治療的に有効な量”とは、本発明の第一の特徴のポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体の任意の量であって、対象者に投与されたときにウイルス感染の予防および/または治療を提供する量である。“対象者”は、脊椎動物、哺乳動物、家畜又はヒトである。
本明細書で用いられる“医薬的に許容できる賦形剤”は、医薬組成物の製剤化で有用な、当業者に公知の任意の生理学的賦形剤である。
好ましい実施態様では、前記医薬賦形剤は液体であり、医薬組成物は溶液の形態である。別の実施態様では、医薬的に許容できる賦形剤は固体であり、医薬組成物は散剤又は錠剤の形態である。さらに別の実施態様では、前記医薬賦形剤はゲルであり、組成物はクリームなどの形態である。
固体賦形剤は1つ又は2つ以上の物質を含むことができ、前記物質はまた、香料、滑沢剤、可溶化剤、懸濁剤、充填剤、研磨剤、圧縮補助剤、結合剤又は錠剤崩壊剤として機能することができる。前記はまた被包化物質であってもよい。散剤では、前記賦形剤は微細に分割された固体であって、微細に分割された活性なポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体と混合されている。錠剤では、活性なポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体は、必要な圧縮特性を有する賦形剤と適切な割合で混合され、所望の形状及びサイズに圧縮される。前記散剤及び錠剤は、好ましくは99%までの活性なポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体を含む。適切な固体賦形剤には、例えばリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、砂糖、ラクトース、デキストリン、デンプン、ゼラチン、セルロース、ポリビニルピロリジン、低温溶融ワックス及びイオン交換樹脂が含まれる。
【0027】
液体賦形剤は、溶液、懸濁液、乳濁液、シロップ、エリキシル及び加圧組成物の調製で用いられる。活性なポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体は、医薬的に許容できる液体賦形剤、例えば水、有機溶媒、両者の混合物又は医薬的に許容できる油若しくは脂肪に溶解又は懸濁することができる。液体賦形剤は他の適切な医薬的添加物、例えば可溶化剤、乳化剤、緩衝剤、保存料、甘味剤、香料、懸濁剤、膨張剤、着色剤、粘度調節剤、安定化剤、又は浸透圧調節剤を含むことができる。経口及び非経口投与を目的とする適切な液体賦形剤の例には、水(上記のような添加物、例えばセルロース誘導体、好ましくはカルボキシメチルセルロース溶液を部分的に含む)、アルコール(一価アルコール及び多価アルコール(例えばグリコール)を含む)及びそれらの誘導体、並びに油(例えば分別化ココナッツ油及び落花生油)が含まれる。非経口投与のためには、賦形剤はまた油状エステル、例えばオレイン酸エチル及びイソプロピルミリステートであろう。無菌液体賦形剤は、非経口投与を目的とした無菌液体組成物で有用である。加圧組成物のための液体賦形剤は、ハロゲン化炭化水素又は他の医薬的に許容できる発射薬であろう。
【0028】
無菌溶液又は懸濁液である液体医薬組成物は、例えば筋肉内、硬膜下腔内、硬膜外、腹腔内、静脈内及び特に皮下、脳内又は脳室内注射で利用することができる。ポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体は無菌固体組成物として製造することができ、前記を投与時に滅菌水、生理食塩水又は他の適切な無菌注射用媒体を用いて溶解又は懸濁させることができる。賦形剤は必要な不活性結合剤、懸濁剤、滑沢剤、香料、甘味剤、保存料、色素及びコーティングを含むことが意図される。
本発明のポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体は、無菌溶液又は懸濁液の形態で経口的に投与することができる。前記は、他の溶質又は懸濁剤(例えば溶液を等張にするために十分な生理食塩水又はグルコース)、胆汁塩、アラビアゴム、ゼラチン、モノオレイン酸ソルビタン、ポリソルベート80(エチレンオキシドと共重合させたソルビトールとその無水物のオレイン酸エステル)などを含む。
本発明のポリペプチド、薬剤、核酸又は誘導体はまた、液体又は固体組成物形態のどちらかで経口的に投与することができる。経口投与に適した組成物には、固体形(例えばピル、カプセル、顆粒、錠剤及び散剤)及び液体形(例えば溶液、シロップ、エリキシル及び懸濁液)が含まれる。非経口投与に有用な形態には無菌溶液、乳濁液及び懸濁液が含まれる。
本発明はさらに、単なる例示の態様で、以下の実施例及び図面を参考にしながら記載されるであろう。
【0029】
実施例1.
アポE141-149を用いて実験を実施して、ペプチドが抗ウイルス薬としての何らかの有効性を有しているか否かを確認した。
1.1 HSV1
図1及び表1は、抗HSV1活性についてのテストの典型的な結果を示している。前記アッセイは、24ウェルプレートのコンフルエントなVero細胞をウイルスと種々の量のペプチドを含む培養液で1時間処理し、続いてこの接種物を除去し、粘稠な“オーバーレイ”培養液(0.2%高粘度カルボキシメチルセルロースを含む)を添加することを含む。前記オーバーレイ培養液は、感染細胞の直ぐ隣の細胞の感染のみを許容する。2日間のインキュベーションとそれに続く固定及び染色の後で、感染細胞の小区画(又は“プラーク”)が可視化され、前記を数える。これらの各々は、1時間の接種中の単一細胞の感染に一致する。アポE141-149は、ほぼ20μMの濃度でプラーク数の40%の減少をもたらした。ペプチドはこの実験系で1時間存在していただけであることに留意されたい。
表1:アポE141-149dp又はアポE263-286とともにウイルスを接種した後のVero細胞におけるHSV1プラークの形成。未処理細胞の値には下線が付されている。

【0030】
1.2 HSV2
図2及び表2は、抗HSV2活性についてのテストの典型的な結果を示している。前記アッセイは、Vero細胞ではなくてHep-2細胞を用いたことを除いて、抗HSV1アッセイの場合のように実施した。アポE141-149は、ほぼ20μMの濃度でプラーク数の50%の減少をもたらした。改めて、このペプチドはこの実験系で1時間存在していただけであることに留意されたい。







表2:アポE141-149dp又はアポE263-286とともにウイルスを接種した後のHep-2細胞におけるHSV2プラークの形成。未処理細胞の値には下線が付されている。

【0031】
1.3 HIV
図3及び表3は、抗HIV活性についてのテストの典型的な結果を示している。前記アッセイは、HIV感染U937細胞を種々のレベルのペプチドの存在下で7日間インキュベートし、続いて細胞中のHIVタンパク質p24のレベルについて酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)技術を用いてアッセイすることによって実施した。アポE141-149は、20μMで感染性の95%低下をもたらした。アポE263-286は、20μMで感染性の20%低下をもたらしたが、前記は統計的有意には達しなかった。HIVに対する作用はより低濃度のペプチドで出現する。ただしこれは、ヘルペスウイルスによるプラーク減少アッセイではほんの1時間の接触に対して、ペプチドを細胞に7日間接触させたことによるのかもしれない。
表3:ELISAで測定したときの、急性感染U937細胞におけるアポE141-149dp及びアポE263-286によるHIV-1 p24産生阻害

1.1から1.3に表された結果は、アポE141-149dpがアポE263-286よりも有効であることを示している。
これらの結果を考慮して、発明者らは、アポリポタンパク質から生成した他のペプチドのテストを進め、そのようなペプチドが抗ウイルス活性を有するか否かを精査した(実施例2参照)。
【0032】
実施例2.
実施例1で報告した研究にしたがい発明者らによって得られた情報が与えられたので、アポリポタンパク質から誘導した多数のペプチドの抗ウイルス作用を判定するための実験を実施した。驚くべきことには、発明者らは、テストしたペプチドのうちほんの少数だけが抗ウイルス作用を有することを見出した(2.2参照)。そのようなペプチドは本発明のペプチドである。
2.1 材料と方法
2.1.1細胞培養:アフリカミドリザル腎(Vero)細胞を、アールの塩を含むイーグル最小必須培地(EMEM)に10%ウシ胎児血清(加熱不活化)、4mMのL-グルタミン及び1%(v/v)非必須アミノ酸の他にペニシリン及びストレプトマイシン(それぞれ100IU/mg及び100mg/mL)を補充したもの(10%EMEMと称する維持培養液)で維持した。細胞を37℃で5%CO2を含む空気による湿潤雰囲気中でインキュベートした。
採集に際して、単層培養をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、PBS中のトリプシンとともに30分インキュベートすることによって剥離し、その後、等容積の10%EMEMを添加することによってトリプシンを不活化し、500g(5分、4℃)で遠心した。細胞ペレットを10%EMEMに再懸濁させ、細胞の計測及び24ウェルプレートへの播種を行った。抗ウイルスアッセイの場合、0.5%のFCSのみを含む培養液(0.5%EMEMと称する)を用いた。
2.1.2ウイルス: HSV1ウイルスをVero細胞に感染させ、組織培養上清及び細胞溶解物から半純粋ウイルス懸濁液を調製することによって、3つの別々のHSV1ウイルス継代物を調製し、ウイルスのアリコットを-85℃で凍結した。ウイルス感染性は、溶融アリコットの段階希釈についてプラークアッセイを実施することにより判定した(pfu/mLで表した)。
2.1.3ペプチド:ペプチドは業者(AltaBioscience, University of Birmingham又はAdvanced Biomedical)から凍結乾燥形で入手し、5マイクロモルスケールで作製した。N-末端はアセチル基の付加によって保護し、C-末端はアミド基の付加によって保護した。
ペプチドの分子量は、フィンニガン(Finnigan)LASERMAT 2000 MALDI-飛行時間質量分析装置又はサイエンティフィック・アナリシス・グループMALDI-TOF質量分析計を用いてレーザー脱離質量分析により確認した。ペプチドのHPLC精製は、ヴァイダック(Vydac)分析用C-4逆相カラムにより、溶媒として0.1%TFA及び0.1%TFA/80%アセトニトリルを用い、又はいくつかのペプチドについてはACE C18逆相カラムにより、溶媒として0.05%TFA及び60%アセトニトリルを用いて実施した。ペプチドGIN7(配列番号:3)に関する典型的な質量分析データ及び高速液体クロマトグラフィー(HPLC)トレース(純度>95%)は図9及び10に示されている。
少量のペプチドを無菌エッペンドルフ試験管で秤量し、その後、十分な0.5%EMEMを添加して1.5mMのストック溶液を作製し、前記を小分けして-20℃で凍結した。
【0033】
2.1.4プラーク減少アッセイ:Vero細胞を10%EMEMに125,000細胞/ウェルで播種し、一晩インキュベートしてコンフルエントな単層培養物を得た。ペプチドを0.5%EMEMで希釈して最終所望濃度の2倍を得て、100μLアリコットを24ウェルプレートのために用いられるべき編成で96ウェルプレートに配置し、通常の0.5%EMEMを含むコントロールウェルもまた準備した。ウイルスストック(p3)を融解し、およそ100pfuが100μLに含まれるように0.5%EMEMで希釈した。各24ウェルプレートに別々に接種した。最初に100μLのウイルスストックを、96ウェルプレートに配置されたペプチド培養液又はコントロール培養液に添加した。これを接種前に37℃で10分間インキュベートした。コンフルエントなVeroを含む24ウェルプレートの4つのウェルから培養液を除去し、適切なウェルに200μLの接種物を添加した。いったん全てのウェルを処理したら、この24ウェルプレートをさらに60−80分インキュベートした。最後に、ペプチド含有接種物を除去し、1%のカルボキシメチルセルロースを含む1%EMEMの1mLを各ウェルに添加した。プレートをさらに22時間、又はいくつかの実験では40時間インキュベートし、その後オーバーレイを除去し、PBS中の10%のホルムアルデヒドを添加した。さらに1時間インキュベートした後、固定液を除去し、単層培養物を数回水道水で洗浄し、水に溶解させたカルボールフクシンで染色した。30分後に色素を除去し、プレートを数回水道水で洗浄した後風乾した。オリンパスLX70倒立顕微鏡を用いてプラークを数え、抗ウイルス作用は、各ペプチド濃度のコントロール値の百分率として表した。IC50はペプチド濃度に対する阻害作用のプロットから算出した。
2.1.5毒性試験:Vero細胞を96ウェルプレート中の10%EMEMに30,000細胞/ウェルで播種し、一晩インキュベートしてコンフルエントな単層培養物を得た。GINペプチドを0.5%EMEMで希釈して所望の最終濃度を作製し、100μlアリコットを別個の無細胞96ウェルプレートに配置し、その後Veroウェルプレートを取り、10%EMEMを除去し、ペプチドを含む0.5%EMEMを添加した。48時間インキュベートした後、1.5mg/mLのMTT溶液(0.5%EMEM中)を25μL/ウェルで添加し、プレートをインキュベーターに1時間戻した。最後に培養液をウェルから除去し、100μLのジメチルスルホキシド(DMSO)の添加により青色ホルマザン結晶を溶解させた。続いて得られた溶液の吸収を570nmで測定し、毒性作用を各ペプチド濃度についてコントロールの百分率で表した。可能な場合は、EC50をペプチド濃度に対する毒性作用のプロットから算出した。幸いなことに、40μMのペプチドを用いて2日間細胞を暴露したとき、毒性の徴候はテストした細胞株については全く見出されなかった。
【0034】
2.2結果
表4はGIN1、GIN1p及びGIN2−15として同定された16のペプチドについて得られたデータのまとめである。
表4:

【0035】
図4は、アポE141-149dp(GIN1と標識されている)はHSV1の感染性低下に関して良好な有効性を有することを示している。関連ペプチドGIN1p(N及びC末端が保護されているGIN)も同様な有効性を有する。
表4に示されているように、発明者らは他の多数の関連ペプチド(GIN2、GIN3、GIN4、GIN5、GIN6、GIN10、GIN11、GIN12、GIN13、GIN14及びGIN15として同定された)をテストし、それらはウイルス感染性を低下させる効能を全く又はほとんどもたないことが判明した。
さらにまた、驚くべきことに発明者は、テストしたペプチドの一部のセット(前記は本発明のペプチドである)が抗ウイルス剤として有効であることを見出した。図5は、GIN7と称されるペプチドが、HSV-1の感染性を低下させる効能をもつことを示している。
図6は、GIN8及びGIN9と称されるペプチドもまたHSV-1の感染性を低下させる効能をもつことを示している。
表5及び図4aは、アポE141-149dpペプチドと関連又は類似する多数のペプチド(表4aでGIN17−31と同定された)が、ウイルスの感染性を低下させる効能を全く又はほとんどもたないことを示している。発明者らは、これらの分子が抗HSV-1活性をもつであろうと期待してそれら分子を合理的に設計したし、当業者も表4に提示したデータから、そのようなペプチドが本発明の請求の範囲のペプチドと類似の効能を有すると期待したであろう。これらのペプチドがほとんど効果を示さなかったという事実は、特許請求の範囲の全てのペプチドの有用性をいっそう驚くべきものにしている。



表5:

【0036】
実施例3.
範囲を拡大したぺプチドでさらに別の実験を実施し、HSV-1に対する本発明のペプチドの作用を判定した。表6はGIN1p及びGIN7と称されるペプチドは抗HSV-1特性を有することを確認したが、一方、GIN32、34及び41と称されるペプチドもまた有効性を有していた。これらのペプチドの有効性は、テストした大半のペプチドがほとんど又は全く活性をもたないことが示されたので驚くべきことである。
図7は、HSV1の感染性に対するペプチドGIN7、GIN32、GIN34及びGIN1pの作用を比較及び図示している。























表6:

【0037】
実施例4.
実施例2に記載した実験と同様な実験を実施して、HIV感染に対する本発明のペプチドの有効性をテストした。
CD4及び適切なコレセプター(CCR5又はCXCR4)の両者を過剰発現しているグリオーマ細胞株NP2を10%FCS補充DMEMで維持した。48ウェルプレートの各ウェルに、2x104細胞を感染24時間前に播種し、37℃で増殖させた。続いて細胞を洗浄し、0.1から10μMの範囲の濃度のペプチドを含むDMEM/FCSで30分、37℃でインキュベートした。続いてHIV-1ストックの200フォーカス形成単位を各ウェルに添加し、細胞をさらに2時間37℃でインキュベートした。続いて細胞を2回PBSで洗浄し新しい培養液に置き換えた。3日間増殖させた後、細胞を冷メタノール/アセトンで固定し、HIV-1 p24の発現についてモノクローナル抗p24抗体、続いて二次抗マウス抗体β-ガラクトシダーゼ複合物を用いてin situで染色した。発現はX-Gal染色によって可視化し、感染中心は光学顕微鏡によって数えた。
本発明のペプチドはHSV-1及びHIVに対して類似の有効性を有することが判明した。
図8は、CCR5コレセプターを過剰発現しているNP-2グリオーマ細胞で増殖させた、HIV単離株SF162に対するペプチドGIN7の抗HIV作用を示している。
同様なデータが他のHIV株及び他の宿主細胞タイプについても得られた。特に注目すべきことは、GIN 1p(アポEdp)は、ここで用いた濃度(10μMまで)でこのペプチドに対してテストしたHIV株と細胞タイプの一つの組合せでは検出可能な抗HIV活性を示さなかった。このことは、本発明のW置換ペプチドは、HIVに対してGIN 1p(アポE141-149dp)よりも強力であることを示唆しているであろう。
【0038】
実施例5.
HSV-1に対する本発明のペプチドの有効性をテストするために、更なる実験を実施した。
5.1方法
用いた方法は、ペプチドをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に400μMストックとして調製した点を除いて、実施例1−4で記載した方法であった。
5.2結果
5.2.1完全なロイシン置換の影響:アポE141-149直列反復中のL残基の単一アミノ酸による完全置換の影響を調べるために実験を実施した。表7は、本発明のペプチドがHSV1の増殖を阻害する効能をもつことを示している(すなわちW、R又はKによる置換)。本発明の第一の特徴のペプチドは、驚くべきことにアポE直列反復(GIN1/MU10)よりも強力な効能を有する。
M、Y、F、I、Q、H又はNによる置換は(アポE直列反復に比して)ある程度の効能をもち、したがって本発明の更なる置換はこれらアミノ酸を含むことができることを特記することは興味深いことである。
E、A、D、S、V、T、G又はPによる置換は抗ウイルス活性を消失させた。
発明者らはいずれの仮説にも拘束されないが、小さな側鎖を持つアミノ酸による置換は抗ウイルス活性を消失させる傾向があるが、大きな側鎖を持つアミノ酸は抗ウイルス作用を維持する。しかしながら、本発明の第一の特徴によって定義したアミノ酸によるLの置換は驚くべき抗ウイルス活性を与える。












【0039】
表7:

【0040】
5.2.2更なるアポE由来ペプチドのテスト:発明者はさらに大きなペプチドライブラリーを構築し、どんなアポEペプチド誘導体が抗ウイルス活性を有するかを判定した。
表8は、多数のペプチド(配列番号:2をベースにしているが、本発明の第一の特徴のペプチドの定義から外れている)が抗ウイルス活性を全く又はほとんど持たないことを示している(例えばMU24−46)。MU43及びMU44は、それぞれネズミ及びウシのアポE141-149等価物の直列反復と一致し、MU46はアポE141-149(配列番号:1)と一致することに注意することは興味深い。
MU58−117について表8に提示したデータは、これらペプチドの各々(本発明のペプチドである)は良好な抗ウイルス活性を有しており、前記活性はアポE141-149dp(配列番号:2)の活性よりもはるかに優れていることを示している。













【0041】
表8:

【0042】
実施例6.
HSV2に対する本発明のペプチドの有効性をテストするために更なる実験を実施した。
6.1方法
プラークアッセイを実施した。本方法は、HSV2臨床単離株(リバプール大学のアンソニー・ハート(Anthony Hart)教授提供)を代わりに用いた点を除いて、HSV1プラークアッセイのために先行の実施例で記載したとおりであった(Vero細胞の使用を含む)。
6.2結果
HSV1に対して有効性を有することが判明した多数のペプチドをHSV2に対してもテストした。表9は、本発明のペプチドはHSV1及びHSV2に対して有効であったことを示している。このことは、これらペプチドがウイルスに対して広域スペクトル活性を有するであろうということを示している。









【0043】
表9:

【0044】
実施例7.
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に対する本発明のペプチドの有効性をテストするために更なる実験を実施した。本発明のペプチドの作用を、実施例4でテストした株と異なるHIV株に対してテストした。
7.1方法
ペプチド(前述のように調製)を50μLアリコットに希釈し、40,000細胞/ウェルのT細胞(C8166)と混合した。次に、HIV-1 111Bを感染多重度(MOI)0.01で添加し、前記混合物を37℃で5日間インキュベートした。シンシチウム(syncytia)形成は倒立顕微鏡を用いて視覚的に判定し、上清のウイルスgp120レベルは抗原捕捉にGNAを用いgp120 ELISAにより判定した。50μLのGNA(スノードロップ:Galanthus nivalis)で被覆した96ウェルプレートを洗浄し、続いて100μLのRPMI(10%ウシ胎児血清)で処理し1時間静置した。さらに洗浄した後、25μLの上清テストサンプルを感染コントロールサンプルと併せてウェルに添加した。全てのウェルを0.5%のエムピゲン(Empigen;ウイルス溶解に用いられる界面活性剤)で3時間処理して溶解させ、洗浄した後、50μLのヒト抗HIV血清を添加し、プレートを一晩インキュベートした。さらに洗浄した後、1000倍希釈の抗ヒトIgペルオキシダーゼ複合物の50μLを添加し、プレートを37℃で90分インキュベートした。最後の洗浄の後で、50μLのペルオキシダーゼ基質を各ウェルに添加し、プレートを10−30分インキュベートした。反応は25μLのH2SO4(2M)で停止させ、A450を測定した。
7.2結果
実施例4で提示したデータを補足するために更なるテストを実施して、本発明のペプチドはHSV1及びHSV2の両者と同様にHIVに対しても有効であることを示した。
GIN32(配列番号:4)はHIV増殖阻害に7.5μMのIC50を有した。この有効性はHSV1、HSV2及びHIVにおいて類似していた。このことによって、本発明のペプチドは広域の抗ウイルス作用を有することが確認される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例1に記載したように、HSV1の感染性に対するアポE141-149dp及びアポE263-286の作用を示す(点は4つまでの値の平均から得られた)。
【図2】実施例1に記載したように、HSV2の感染性に対するアポE141-149dp及びアポE263-286の作用を示す(点は4つまでの値の平均から得られた)。
【図3】実施例1に記載したように、ELISAによって測定した、急性感染U937細胞におけるアポE141-149r及びアポE263-286によるHIV-1 p24産生の阻害を示す(値は3つの実験の平均である)。アポE141-149dpはHIVに対して顕著な活性を示した(ANOVA, p<0.001)が、HIVに対するアポE263-286の活性は有意に達しなかった(ANOVA, 0.06<p<0.62)。
【図4】実施例2に記載したように、HSV1の感染性に対する4つのペプチド(GIN1、1p、2及び3)の作用を示す。
【図5】実施例2に記載したように、HSV1の感染性に対する4つのペプチド(GIN4−7)の作用を示す。
【図6】実施例2に記載したように、HSV1の感染性に対する4つのペプチド(GIN8−11)の作用を示す。
【図7】実施例2に記載したように、HSV1の感染性に対するペプチドGIN7、GIN32、GIN34及びGIN1pの作用の比較と説明を示す。
【図8】実施例4に記載したように、HIV単離株SF162(CCR5コレセプターを過剰発現するNP-2グリオーマ細胞で増殖)に対するペプチドGIN7の抗HIV作用を示す。
【図9】GIN7の典型的な質量分析データを示し、前記ペプチドが95%を超える純度を有することを示している。
【図10】GIN7の典型的なHPLCデータを示し、前記ペプチドが95%を超える純度を有することを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:2のアポE141-149又はその短縮型の直列反復を含み、配列番号:2の少なくとも1つのロイシン(L)残基が、少なくとも4つの炭素原子及び少なくとも1つの窒素原子を含む側鎖を有するアミノ酸によって置換されていることを特徴とする、ポリペプチド、その誘導体又は類似体。
【請求項2】
ロイシンを置換するために用いられるアミノ酸が、トリプトファン(W)、アルギニン(R)若しくはリジン(K)又はそれらの誘導体である、請求項1記載のポリペプチド、その誘導体又は類似体。
【請求項3】
ロイシンを置換するために用いられるアミノ酸が、トリプトファン(W)又はその誘導体である、請求項2記載のポリペプチド、その誘導体又は類似体。
【請求項4】
W、R又はKによる少なくとも2つの置換が行われている、請求項1から3のいずれか1項記載のポリペプチド、その誘導体又は類似体。
【請求項5】
少なくとも1つのさらに別のアミノ酸がアスパラギン(N)、チロシン(Y)、システイン(C)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、イソロイシン(I)、グルタミン(Q)、ヒスチジン(H)で置換されているか、又は欠失している、請求項1から4のいずれか1項記載のポリペプチド、その誘導体又は類似体。
【請求項6】
以下のアミノ酸配列を有する、請求項1から4のいずれか1項記載のポリペプチド、その誘導体又は類似体:WRKWRKRWWWRKWRKRWW(配列番号:3);WRKWRKRWRKWRKR(配列番号:4);WRKWRKRWWLRKLRKRLL(配列番号:5);YRKYRKRYYYRKYRKRYY(配列番号:6);WRKWRKRWWRKWRKRWW(配列番号:52);WRKWRKRWRKWRKRW(配列番号:53);WRKWRKRWWFRKWRKRWW(配列番号:54);WRKWRKRWFFRKWRKRFF(配列番号:55);WRKCRKRCWWRKCRKRCW(配列番号:56);LRKLRKRLLWRKWRKRWW(配列番号:57);LRKLRKRLLLRKLRKRWW(配列番号:58);LRKLRKRLLWRKWRKRLL(配列番号:59);WRKWRKRLLLRKLRKRLL(配列番号:60);WRKLRKRLLLRKLRKRLL(配列番号:61);WRKWRKFFFRKWRKRWW(配列番号:62);WRKWRKRWWFRKFRKRFF(配列番号:63);RRKRRKRRRRRKRRKRRR(配列番号:64);又はKRKKRKRKKKRKKRKRKK(配列番号:65)。
【請求項7】
アミノ酸が付加された、請求項1から6項のいずれか1項記載のポリペプチド、その誘導体又は類似体。
【請求項8】
アミノ酸が配列番号:2のN末端、C末端及び/又は9番目と10番目のアミノ酸の間に付加された、請求項8記載のポリペプチド、その誘導体又は類似体。
【請求項9】
WRKWRKRWWRWRKWRKRWWR(配列番号:66)を含む請求項8記載のポリペプチド、その誘導体又は類似体。
【請求項10】
ペプトイド類似体である、請求項1から9のいずれか1項記載のポリペプチド、その誘導体又は類似体。
【請求項11】
ペプチド/ペプトイドハイブリッドである、請求項1から10のいずれか1項記載のポリペプチド、その誘導体又は類似体。
【請求項12】
YRKYRKRYYYRKYRKRYY(配列番号:6)を含む、ポリペプチド、その誘導体又は類似体。
【請求項13】
LRKLRKRLLLRKLRK(配列番号:7)を含む、ポリペプチド、その誘導体又は類似体。
【請求項14】
LRKLRKRLRKLRKR(配列番号:8)を含む、ポリペプチド、その誘導体又は類似体。
【請求項15】
LRKLRKLRKLRKLRKLRK(配列番号:9)を含む、ポリペプチド、その誘導体又は類似体。
【請求項16】
医薬として使用される、請求項1から15のいずれかに記載の、ポリペプチド、その誘導体又は類似体。
【請求項17】
ウイルス感染治療用医薬の製造のための、請求項1から15のいずれか1項記載のポリペプチド、その誘導体又は類似体の使用。
【請求項18】
請求項1から15のいずれか1項記載のポリペプチド、その誘導体又は類似体の生物学的活性を高めることができる薬剤の、ウイルス感染治療用医薬の製造のための使用。
【請求項19】
ウイルス感染を予防及び/又は治療する方法であって、そのような治療を要する対象に、請求項1から18のいずれか1項記載のポリペプチド、その誘導体又は類似体の治療的に有効な量を投与することを含む、前記ウイルス感染の予防或いは治療方法。
【請求項20】
請求項1から15のいずれか1項記載のポリペプチド、その誘導体又は類似体をコードする核酸配列。
【請求項21】
医薬として使用される請求項20記載の核酸配列。
【請求項22】
ウイルス感染を予防及び/又は治療する方法であって、そのような治療を要する対象に、請求項20又は21記載の核酸配列の治療的に有効な量を投与することを含む、前記ウイルス感染の予防或いは治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2007−535910(P2007−535910A)
【公表日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544559(P2006−544559)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【国際出願番号】PCT/GB2004/005360
【国際公開番号】WO2005/058959
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(506203626)エイアイ2 リミテッド (6)
【Fターム(参考)】