説明

ウェイト算出方法、ウェイト算出装置、アダプティブアレーアンテナ、及びレーダ装置

【課題】 ウェイト制御による時空間適応信号処理方式において、ウェイト算出の計算量を削減し、かつSINR特性の性能劣化を抑制する。
【解決手段】 アダプティブアレーアンテナ21で得られたレーダパルスの目標反射信号を受信部22で受信検波し、データ蓄積部23の受信タイミングに沿った対応セル位置に記憶する。時空間適応信号処理部27のウェイト算出回路271において、不要波のみと想定されるセルのデータから共分散行列を演算して適応ウェイトを求め、ビーム合成回路272において、適応ウェイトによりアンテナ受信信号にウェイト制御を施して出力データとする。上記ウェイト算出には、ポスト−ドップラー処理を採用してSINR特性を向上させる。このとき、その処理で選択される全バンクについてウェイトを算出することで計算量を削減し、その選択において隣り合ったバンクをオーバーラップさせることでSINR特性の劣化を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェイト制御により、不要波を抑圧して目標からの反射信号を検出するレーダ装置に用いて好適なウェイト算出方法、そのウェイト算出方法を用いたウェイト算出装置、そのウェイト算出装置を採用したアダプティブアレーアンテナ、及びそのアダプティブアレーアンテナを組み込んだレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パルスレーダ装置では、より目標検出精度を向上させるために、アダプティブアレーアンテナを組み込んで、いわゆるアダプティブヌルステアリングを行うようになってきている。このアダプティブヌルステアリングは、アダプティブアレーアンテナにおいて受信信号の位相及び振幅にウェイト制御を施すことで、妨害波等の不要波が到来する方向の指向性が零(ヌル)になるように受信合成ビームを形成する処理である。このような用途に用いられるアダプティブアレーアンテナには、多数の遅延信号が到来する環境下やクラッタ及び妨害波等の不要波が存在する環境下においても、上記の受信合成ビームの形成が適正に行われるようにウェイト制御を行うことが求められている。
【0003】
そこで、アダプティブアレーアンテナにおいて、時空間適応信号処理(STAP:Space Time Adaptive Processing)方式を採用したウェイト制御方法が注目されている。この時空間適応信号処理方式は、SINR(Signal to Interference plus Noise Ratio)をより改善し、不要波の到来方向での指向性が零(ヌル)に近い良好なビーム形成を行い得るという特徴を有する。
【0004】
上記時空間適応信号処理方式では、以下のような処理が行われる。まず、複数(N)本、アレー状に配列されたアンテナ(素子アンテナ、すなわちチャンネル)によりレーダパルスの反射信号を受信し、その受信信号を、受信パルス幅に対応した幅のレンジ(距離)セル(range cell)が時間軸上に所定の長さで連なるように形成された、全処理レンジセルの対応セル位置に記憶する。そして、その記憶されたデータから、目標信号を含むと想定されるレンジセル(処理適用レンジセルという)を除いたレンジセル、すなわち不要波のみから形成されると想定されるセルのデータから共分散行列を演算する。最終的に、ビーム合成回路において、その共分散行列に基づき算出された適応ウェイトを用いて、アンテナ受信信号にウェイト制御を施す。
【0005】
この時空間適応信号処理方式におけるウェイト制御では、レンジセル毎のウェイト演算がウェイト算出回路において行われる。このウェイト演算の処理時間を削減するための処理として、非特許文献1に行列のランク(次数)を低減する処理が提案されている。この提案には、ドップラーフィルタ後のmバンクを選択した後にウェイト演算を行うポスト−ドップラー(Post-Doppler)処理や、ビームスペース処理を施した後にウェイト演算を行うビームスペース(beamspace)処理や、それらを複合したビームスペースポスト−ドップラー(beamspace Post-Doppler)処理が紹介されている。
【0006】
ところが、上記非特許文献1には、行列のランクを削減する処理方法が記載されているものの、目標のドップラー周波数に対するバンク選択方法に関しては記述がない。このため、ポスト−ドップラー処理を適用する場合には、試行錯誤的にバンクを選択せざるを得なかった。
【非特許文献1】J. R. Guerci, Space-Time Adaptive Processing for Radar, Artech House, Norwood, MA, 2003.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上述べたように、従来のレーダ装置に用いられるアダプティブアレーアンテナのウェイト制御による時空間適応信号処理方式において、不要波方向を零にするためのウェイト算出時にポスト−ドップラー処理を適用するに際し、目標のドップラー周波数に対して良好なSINR特性を得るバンク選択方法が不明であった。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたもので、ウェイト制御による時空間適応信号処理方式において、不要波方向を零にするためのウェイト算出時にポスト−ドップラー処理を適用するに際し、計算量を削減し、さらには目標のドップラー周波数に対して良好なSINR特性を得ることができるウェイト算出方法、ウェイト算出装置、アダプティブアレーアンテナ、レーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題を解決するために、本発明に係るウェイト演算方法は、アンテナを介して受信されるレーダパルスの目標反射信号を、時間軸上で所定距離相当の長さからなる複数の処理レンジセルに対して受信タイミングに沿った対応セル位置に記憶し、前記目標反射信号のMパルスに対してドップラーフィルタによるフィルタリング処理を施した後にm(m<M)バンクを選択するポスト−ドップラー処理を施し、前記複数の処理レンジセルに記憶された値を用いて前記目標反射信号の到来方向に対して不要波の到来方向が零になるように受信合成ビームを形成するための前記受信信号の位相及び振幅に対するウェイトを前記ポスト−ドップラー処理で選択するmバンク全てに対して計算することを特徴とし、さらに前記ポスト−ドップラー処理手段は、前記mバンクの選択に際して、m’(m’<m)バンク分隣り合ったバンクをオーバーラップさせることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るウェイト算出装置は、アンテナを介して受信されるレーダパルスの目標反射信号を、時間軸上で所定距離相当の長さからなる複数の処理レンジセルに対して受信タイミングに沿った対応セル位置に記憶する記憶手段と、前記目標反射信号のMパルスに対してドップラーフィルタによるフィルタリング処理を施した後にm(m<M)バンクを選択するポスト−ドップラー処理手段と、前記複数の処理レンジセルに記憶された値を用いて前記目標反射信号の到来方向に対して不要波の到来方向が零になるように受信合成ビームを形成するための前記受信信号の位相及び振幅に対するウェイトを前記ポスト−ドップラー処理で選択するmバンク全てに対して計算する計算部とを具備することを特徴とし、さらに前記ポスト−ドップラー処理手段は、前記mバンクの選択に際して、m’(m’<m)バンク分隣り合ったバンクをオーバーラップさせることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るアダプティブアレーアンテナは、複数の素子アンテナをアレー状に配列し、任意の方向に指向制御されてレーダパルスの目標反射信号を受信するアダプティブアレーアンテナであって、前記目標反射信号を、時間軸上で所定距離相当の長さからなる複数の処理レンジセルに対して受信タイミングに沿った対応セル位置に記憶する記憶手段と、前記目標反射信号のMパルスに対してドップラーフィルタによるフィルタリング処理を施した後にm(m<M)バンクを選択するポスト−ドップラー処理手段と、前記複数の処理レンジセルに記憶された値を用いて前記目標反射信号の到来方向に対して不要波の到来方向が零になるように受信合成ビームを形成するための前記受信信号の位相及び振幅に対するウェイトを前記ポスト−ドップラー処理で選択するmバンク全てに対して計算する計算部と、前記計算部で計算されたウェイトを適用ウェイトとして取り込み、前記目標反射信号に対するウェィト制御行って受信合成ビームを形成するビーム形成手段とを具備することを特徴とし、さらに前記ポスト−ドップラー処理手段は、前記mバンクの選択に際して、m’(m’<m)バンク分隣り合ったバンクをオーバーラップさせることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るレーダ装置は、複数の素子アンテナをアレー状に配列し、任意の方向に指向制御されてレーダパルスの目標反射信号を受信し、与えられた適応ウェイトにより前記目標反射信号に対するウェイト制御を行って受信合成ビームを形成するアダプティブアレーアンテナと、前記目標反射信号から、当該目標反射信号の到来方向に対して不要波の到来方向が零になるように受信合成ビームを形成するための前記受信信号の位相及び振幅に対するウェイトを算出して前記アダプティブアレーアンテナに供給するウェイト算出装置と、前記アダプティブアレーアンテナでウェイト制御が施された目標反射信号から目標を検出する信号処理装置とを具備し、前記ウェイト算出装置は、前記アダプティブアレーアンテナを介して受信されるレーダパルスの目標反射信号を、時間軸上で所定距離相当の長さからなる複数の処理レンジセルに対して受信タイミングに沿った対応セル位置に記憶する記憶手段と、前記目標反射信号のMパルスに対してドップラーフィルタによるフィルタリング処理を施した後にm(m<M)バンクを選択するポスト−ドップラー処理手段と、前記複数の処理レンジセルに記憶された値を用いて前記目標反射信号の到来方向に対して不要波の到来方向が零になるように受信合成ビームを形成するための前記受信信号の位相及び振幅に対するウェイトを前記ポスト−ドップラー処理で選択するmバンク全てに対して計算する計算部とを備えることを特徴とし、さらに前記ポスト−ドップラー処理手段は、前記mバンクの選択に際して、m’(m’<m)バンク分隣り合ったバンクをオーバーラップさせることを特徴とする。
【0013】
すなわち、本発明に係るウェイト算出方法では、目標反射信号の到来方向に対して不要波の到来方向を零になるようにするためのウェイト算出において、ポスト−ドップラー処理で選択する全バンクについてウェイト算出することで計算量を削減し、更にはウェイト算出に用いる、隣り合ったバンクをオーバーラップさせることで目標のドップラー周波数に対して良好なSINR特性を得る。
【0014】
また、本発明に係るウェイト算出装置では、上記のように、ポスト−ドップラー処理で選択する全バンクについてウェイト算出することで計算量を削減し、更にはウェイト算出に用いる、隣り合ったバンクをオーバーラップさせるウェイト算出方法を使用して、目標に対して良好なSINR特性を得る。
【0015】
また、本発明に係るアダプティブアレイアンテナでは、上記のように、ウェイト算出に時間短縮が可能なウェイト算出方法装置を採用して、良好な合成ビームを短時間に形成する。
【0016】
また、本発明に係るレーダ装置では、上記のように、合成ビームを短時間に形成することが可能なアダプティブアレイアンテナを組み込むことで、目標を迅速に捕捉する。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、ポスト−ドップラー処理で選択される全バンクについてウェイトを算出することで計算量を削減し、更にはウェイト算出に用いる、隣り合ったバンクをオーバーラップさせるようにしているので、ウェイト制御による時空間適応信号処理方式において、不要波方向を零にするためのウェイト算出に際し、計算量を削減し、さらには目標に対して良好なSINR特性を得ることのできるウェイト算出方法、ウェイト算出装置、アダプティブアレーアンテナ、レーダ装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
まず、前述の非特許文献1に記載されたウェイト演算の一手法としてのポスト−ドップラー(以下、Post-Dopplerと記す)処理について説明する。
【0020】
受信信号Xの到来方向の方向行列をA、また複素振幅ベクトルをS、平均0、分散σ2 で与えられる熱雑音をnとしたとき、受信信号Xは次の(1)式で表される。
【数1】

【0021】
また、間隔dxをなしてアレー状に配列されたN個の素子アンテナ#n(n:1〜N)により目標信号を受信したとき、受信周波数信号の波長をλ(Λ)、D個の到来目標信号d(d:1〜D)の到来方向を決めるステアリングベクトルa(θd )は、次の(2)式で表される。
【数2】

【0022】
また、空間系列に対する方向行列Aθは下記(3)式となる。
【数3】

【0023】
そこで、目標信号dの到来方向を決めるステアリングベクトルa(fd )は次の(4)式で示される。
【数4】

【0024】
このことから、時系列に対する方向行列A は下記(5)式で表される。
【数5】

【0025】
ここで、時空間ステアリングベクトルa(θd ,fd )よって、方向行列A(θ,f)は、次の(6)式
【数6】

【0026】
で表される時空間ステアリングベクトルa(θd ,fd )を用いて、下記(7)式で与えられる。
【数7】

【0027】
ここで、Post-Doppler処理は、Mパルスの受信データに対して、ドップラーフィルタによるフィルタリングを施した後にウェイト演算を行う処理である。このとき、バンク#l(l:0,…,M−1)を出力する(M×1)次元の変換ベクトルfm,lは、下記(8)式で定義される。
【数8】

【0028】
N素子の場合には、素子毎にドップラーフィルタを適用する必要があるから、(N×N)次元の単位行列IN×N を用いて、以下の(9)式に示す(N×NM)次元の変換行列Ωi に拡張される。
【数9】

【0029】
なお、(9)式において、(×)はクロネッカ積を、は複素共役を示す。
【0030】
非特許文献1に記載されているように、性能向上のために変換行列Ωi をmulti-bin化(多次元化)する。即ち、複数のバンクからの変換行列Ωi を行方向に結合した変換行列Ωを用いて共分散行列を算出する方式(以下、multi-bin Post-Dopplerと言う)を採用する。
【0031】
例えば、3-bin Post-Doppler(即ち、バンク数3)における(3N×NM)次元の変換行列Ωは、以下の(10)式のように定義される。
【数10】

【0032】
ここで、時刻kにおける(NM×1)次元の入力ベクトルをxk とすると、変換後の(3N×1)次元入力ベクトルxΩk は、変換行列Ωを用いて以下の(11)式のように定義される。
【数11】

【0033】
なお、multi-bin Post-Dopplerにおいては、変換後の入力ベクトルxΩk を用いて以下の(12)式のように共分散行列Rk の計算を行う。
【数12】

【0034】
例えば、Wiener Filterのウェイトwは、ステアリングベクトルsを用いて、以下の(13)式で算出される。
【数13】

【0035】
一例として、従来の3-bin Post-Dopplerの概念図を図1に、またWiner Filter適用時のドップラー周波数に対するSINR特性と3-bin Post-Doppler処理を適用した場合のSINR特性とを図2に比較して示す。
【0036】
図1において、N個のアンテナ素子で受けた受信信号(目標反射信号)は、遅延器(T)によってレンジセル毎のM信号に分割され、アンテナ素子毎にM−パルスドップラーフィルタでフィルタリング処理が施された後、3-bin Post-Doppler処理部にて、3バンクづつMグループ分が選択されてM個のウェイト計算部でグループ別にウェイト計算が行われる。図2では、N=8、M=16、サンプルデータ数128としたときの特性を示している。図から分かるように、ウェイト計算に従来のPost-Doppler処理を適用することで、バンク毎、すなわち上記の例では(M−1)回(=16回)の逆行列演算が必要であるが、良好なSINR特性を得られることが分かる。
【0037】
次に、Post-Doppler処理において、ウェイト計算に用いる全バンク分を出力する本発明の提案方式の概念図を図3に、またWiener Filter適用時のSINR特性と本発明方式を適用したPost-Doppler処理のSINR特性とを図4に比較して示す。図から分かるように、逆行列演算回数が前述と同様の例では、(int[(M−1)/3]+1)回(=6回)に削減され、計算時間が大幅に短縮可能である。但し、この場合は、SINR特性が特定のドップラー周波数で劣化する。
【0038】
そこで、本発明では、Post-Doppler処理においてウェイト計算に用いる全バンク分を出力することで計算量を削減しつつ、更にはウェイト計算に用いる、隣り合ったバンクをオーバーラップさせる。ここで、1バンクオーバーラップさせた場合の概念図を図5に、またその際のSINR特性を図6に示す。図から分かるように、Post-Doppler処理においてウェイト計算に用いる全バンク分を出力すると共に、ウェイト計算に用いる、隣り合ったバンクをオーバーラップさせる本発明の提案方式を採用することで、逆行列演算回数が前述と同様の例では(int[(M−1)/2]+1)回(=9回)に削減され、計算時間が大幅に短縮可能となる。これと同時に、SINR特性が改善され、良好なSINR特性が得られる。
【0039】
更に、従来のPost-Doppler処理と、Post-Doppler処理においてウェイト算出に用いる全バンク分を出力すると共に、ウェイト算出に用いる、隣り合ったバンクをオーバーラップさせる本発明を適用したPost-Doppler処理のSINR特性を図7に比較して示す。図から分かるように、本発明を適用したPost-Doppler処理方式は、計算量を大幅に削減しつつも、従来のPost-Doppler処理とほぼ同様のSINR特性が得られる。
【0040】
したがって、本発明のウェイト算出方法によれば、Post-Doppler処理においてウェイト算出に用いる全バンクを出力させることで計算量を削減することができ、更にはウェイト算出に用いる、隣り合ったバンクをオーバーラップさせることで、目標のドップラー周波数に対して良好なSINR特性を得ることができる。
【0041】
図8は本発明に係るウェイト算出装置の一実施形態を示すブロック図である。図8において、11はCPU(演算処理装置)である。このCPU11は、バス12を通じてプログラム記憶用ROM13、データ入出力インターフェース(I/O)14、データ一時記憶用RAM15に接続されている。ROM13には、上述の本発明に係わるウェイト算出方法に基づくウェイト算出プログラムが格納されており、処理開始が指示されると、CPU11はROM13からプログラムをロードし、データ入出力インターフェース14を介してデータを取り込んでRAM15に一時格納し、当該RAM15から適宜データを読み出して、ウェイト演算処理を実行し、得られたウェイト演算結果をインターフェース14から出力する。
【0042】
上記構成によるウェイト算出装置は、目標のドップラー周波数に対してSINR劣化を抑制する上記本発明に係るウェイト算出方法を使用するので、計算量を削減しつつ良好なSINR特性を得ることが可能である。そこで、このウェイト算出装置をアダプティブアレイアンテナに採用し、個々のアンテナ素子の入出力に対するウェイト算出を行わせる。これによれば、良好なSINR特性を有する合成ビームを短時間に形成することが可能となる。
【0043】
ところで、アダプティブアレイアンテナは、目標を捕捉するための合成開口レーダ装置等のレーダ装置に採用されている。そこで、上記のようにアダプティブアレイアンテナに本発明のウェイト算出装置を採用することで、良好なSINR特性を有する合成ビームを短時間に形成することが可能となるため、このアンテナを用いるレーダ装置にあっては、目標をより良好にかつ迅速に捕捉することができるようになる。
【0044】
上記レーダ装置の一例として、図9に本発明を適用した時空間適応信号処理におけるウェイト算出装置が組み込まれたレーダ装置の概略ブロック構成図を示す。図9において、21はN個のアンテナ素子でレーダパルスの反射信号を受信するアダプティブアレーアンテナである。このアンテナ21の各素子出力は、それぞれ受信部22で受信検波されてデータ蓄積部23に送られる。データ蓄積部23では、予め所定距離相当の長さの処理レンジセルに対応する記憶領域が用意されており、入力データは受信タイミングに沿った対応セル位置の記憶領域に順次記憶される。
【0045】
ここで、一部のアンテナ素子出力はリファレンス信号推定部24に送られ、受信信号の振幅・位相の基準として用いられる。励振部26は、リファレンス信号推定部24及びリファレンス信号生成部25を定期的に励振させて、所定距離相当のレンジセルそれぞれのウェイト算出のためのリファレンス信号を推定し生成する。
【0046】
また、上記データ蓄積部23の蓄積データは、時空間適応信号処理部27に送られる。この時空間適応信号処理部27は、ウェイト算出回路271において、目標信号を含むと想定されるレンジセルを除いたレンジセル、すなわち不要波のみから形成されると想定されるセルのデータから共分散行列を演算する。最終的に、ビーム合成回路272において、その共分散行列に基づき算出された適応ウェイトによりアンテナ受信信号にウェイト制御を施して出力データとする。
【0047】
上記構成の時空間適応信号処理方式におけるウェイト制御では、適応ウェイトを算出するために、ウェイト算出回路271において、レンジセル毎のウェイト演算が行われる。このウェイト算出回路271に先に述べたウェイト算出方法、すなわちPost-Doppler処理においてウェイト算出に用いた全バンク出力することで計算量を削減し、更にはウェイト算出に用いる、隣り合ったバンクをオーバーラップさせることでウェイトを算出する方法を採用する。これにより、良好なSINR特性を得ることが可能となる。
【0048】
尚、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】従来のウェイト算出方法として、非特許文献1に記載のPost-Doppler処理(3-bin)を適用した場合の処理の流れを示す概念図。
【図2】図1に示す非特許文献1に記載のPost-Doppler処理(3-bin)を適用した際のSINR特性をWiener FilterのSINR特性と比較して示す特性図。
【図3】本発明に係わるウェイト算出方法の一実施形態として、Post-Doppler処理(3-bin)において、3バンク分出力させる場合の処理の流れを示す概念図。
【図4】図3に示す本発明に係わるPost-Doppler処理(3-bin)を適用した際のSINR特性をWiener FilterのSINR特性と比較して示す特性図。
【図5】本発明に係わるPost-Doppler処理(3-bin)において、3バンク分出力させる方式で1バンクオーバーラップさせる場合の処理の流れを示す概念図。
【図6】図5に示す本発明に係わるPost-Doppler処理(3-bin)において3バンク分出力させる方式で1バンクオーバーラップさせた際のWiener Filter及びPost-Doppler処理(3-bin)のSINR特性を比較して示す特性図。
【図7】図5に示す本発明に係わるPost-Doppler処理(3-bin)において3バンク分出力させる方式で1バンクオーバーラップさせた際のWiener Filter及びPost-Doppler処理(3-bin)の従来方式とのSINR特性を比較して示す図。
【図8】本発明に係るウェイト算出装置の一実施形態を示すブロック図。
【図9】本発明を適用した時空間適応信号処理におけるウェイト算出装置が組み込まれたレーダ装置の概略構成を示すブロック図。
【符号の説明】
【0050】
11…CPU、12…バス、13…プログラム記憶用ROM、14…データ入出力インターフェース、15…データ一時格納用RAM、21…アダプティブアレーアンテナ、22…受信部、23…データ蓄積部、24…リファレンス信号推定部、25…リファレンス信号生成部、26…励振部、27…時空間適応信号処理部、271…ウェイト算出回路、272…ビーム合成回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナを介して受信されるレーダパルスの目標反射信号を、時間軸上で所定距離相当の長さからなる複数の処理レンジセルに対して受信タイミングに沿った対応セル位置に記憶し、
前記目標反射信号のMパルスに対してドップラーフィルタによるフィルタリング処理を施した後にm(m<M)バンクを選択するポスト−ドップラー処理を施し、
前記複数の処理レンジセルに記憶された値を用いて前記目標反射信号の到来方向に対して不要波の到来方向が零になるように受信合成ビームを形成するための前記受信信号の位相及び振幅に対するウェイトを前記ポスト−ドップラー処理で選択するmバンク全てに対して計算することを特徴とするウェイト算出方法。
【請求項2】
前記ポスト−ドップラー処理は、前記mバンクの選択に際して、m’(m’<m)バンク分隣り合ったバンクをオーバーラップさせることを特徴とする請求項1記載のウェイト算出方法。
【請求項3】
さらに、前記アンテナの素子数Nに対してビームスペース処理後のn(n<N)ビームを選択するビームスペース処理を併用することを特徴とする請求項1または2記載のウェイト算出方法。
【請求項4】
アンテナを介して受信されるレーダパルスの目標反射信号を、時間軸上で所定距離相当の長さからなる複数の処理レンジセルに対して受信タイミングに沿った対応セル位置に記憶する記憶手段と、
前記目標反射信号のMパルスに対してドップラーフィルタによるフィルタリング処理を施した後にm(m<M)バンクを選択するポスト−ドップラー処理手段と、
前記複数の処理レンジセルに記憶された値を用いて前記目標反射信号の到来方向に対して不要波の到来方向が零になるように受信合成ビームを形成するための前記受信信号の位相及び振幅に対するウェイトを前記ポスト−ドップラー処理で選択するmバンク全てに対して計算する計算部と
を具備することを特徴とするウェイト算出装置。
【請求項5】
前記ポスト−ドップラー処理手段は、前記mバンクの選択に際して、m’(m’<m)バンク分隣り合ったバンクをオーバーラップさせることを特徴とする請求項4記載のウェイト算出装置。
【請求項6】
前記ポスト−ドップラー処理手段は、前記アンテナの素子数Nに対してビームスペース処理後のn(n<N)ビームを選択するビームスペース処理を併用することを特徴とする請求項4または5記載のウェイト算出装置。
【請求項7】
複数の素子アンテナをアレー状に配列し、任意の方向に指向制御されてレーダパルスの目標反射信号を受信するアダプティブアレーアンテナであって、
前記目標反射信号を、時間軸上で所定距離相当の長さからなる複数の処理レンジセルに対して受信タイミングに沿った対応セル位置に記憶する記憶手段と、
前記目標反射信号のMパルスに対してドップラーフィルタによるフィルタリング処理を施した後にm(m<M)バンクを選択するポスト−ドップラー処理手段と、
前記複数の処理レンジセルに記憶された値を用いて前記目標反射信号の到来方向に対して不要波の到来方向が零になるように受信合成ビームを形成するための前記受信信号の位相及び振幅に対するウェイトを前記ポスト−ドップラー処理で選択するmバンク全てに対して計算する計算部と、
前記計算部で計算されたウェイトを適用ウェイトとして取り込み、前記目標反射信号に対するウェィト制御行って受信合成ビームを形成するビーム形成手段と
を具備することを特徴とするアダプティブアレーアンテナ。
【請求項8】
前記ポスト−ドップラー処理手段は、前記mバンクの選択に際して、m’(m’<m)バンク分隣り合ったバンクをオーバーラップさせることを特徴とする請求項7記載のアダプティブアレーアンテナ。
【請求項9】
前記ポスト−ドップラー処理手段は、前記アンテナの素子数Nに対してビームスペース処理後のn(n<N)ビームを選択するビームスペース処理を併用することを特徴とする請求項7または8記載のアダプティブアレーアンテナ。
【請求項10】
複数の素子アンテナをアレー状に配列し、任意の方向に指向制御されてレーダパルスの目標反射信号を受信し、与えられた適応ウェイトにより前記目標反射信号に対するウェイト制御を行って受信合成ビームを形成するアダプティブアレーアンテナと、
前記目標反射信号から、当該目標反射信号の到来方向に対して不要波の到来方向が零になるように受信合成ビームを形成するための前記受信信号の位相及び振幅に対するウェイトを算出して前記アダプティブアレーアンテナに供給するウェイト算出装置と、
前記アダプティブアレーアンテナでウェイト制御が施された目標反射信号から目標を検出する信号処理装置と
を具備し、
前記ウェイト算出装置は、
前記アダプティブアレーアンテナを介して受信されるレーダパルスの目標反射信号を、時間軸上で所定距離相当の長さからなる複数の処理レンジセルに対して受信タイミングに沿った対応セル位置に記憶する記憶手段と、
前記目標反射信号のMパルスに対してドップラーフィルタによるフィルタリング処理を施した後にm(m<M)バンクを選択するポスト−ドップラー処理手段と、
前記複数の処理レンジセルに記憶された値を用いて前記目標反射信号の到来方向に対して不要波の到来方向が零になるように受信合成ビームを形成するための前記受信信号の位相及び振幅に対するウェイトを前記ポスト−ドップラー処理で選択するmバンク全てに対して計算する計算部と
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項11】
前記ポスト−ドップラー処理手段は、前記mバンクの選択に際して、m’(m’<m)バンク分隣り合ったバンクをオーバーラップさせることを特徴とする請求項10記載のレーダ装置。
【請求項12】
前記ポスト−ドップラー処理手段は、前記アンテナの素子数Nに対してビームスペース処理後のn(n<N)ビームを選択するビームスペース処理を併用することを特徴とする請求項10または11記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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