説明

ウェザーストリップ用材料及びウェザーストリップ

【課題】滑性、耐磨耗性、耐熱性、耐候性、さらには均一な艶消し効果に優れ、高分子弾性体材料からなる基材シートに対する優れた接着性や可とう性、帯電防止効果も付与された優れた性能の表皮処理層の形成が可能であり、さらに、温暖化ガス削減の観点からも有用なウェザーストリップ用材料の提供。
【解決手段】高分子弾性体材料に被覆および/または含浸させて、他部品と摺接する摺接部に表面処理層を形成するためのウェザーストリップ用材料であって、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂と、平均重合度5,000〜10,000のジオルガノポリシロキサンおよび/または粘度が100〜10,000CSのシリコーンオイルを含有してなる樹脂組成物であるウェザーストリップ用材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や建築物などのドアや窓まわりなど、ボディと部品との隙間から風や雨などが侵入することを防ぐための高分子弾性体材料からなる帯状のシール部品の表面処理層の形成材料として有用な、樹脂組成物材料に関する。より詳しくは、高分子弾性体材料を基材とするウェザーストリップの、他部品と摺接する摺接部に表面処理層を形成した場合に、該表面処理層が、特に、滑性、耐摩耗性、耐熱性、耐候性に優れたものとなり、しかも環境保全性にも資する有用な材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車や建築物の、グラスラン、ドアウェザーストリップ、ボディサイドウェザーストリップ、インサイドシール、アウトサイドシールなどのウェザーストリップの形成材料としては、クロロプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリルゴム、EPDMゴムなどの高分子弾性体材料が用いられている。そして、これらの表面には、滑性、耐摩耗性、離型性、耐熱性、耐水性、耐候性などの性能を持たせるため、塗布または含浸などの方法によって表面処理層を形成することが行われている。
【0003】
このような処理層を形成する材料として、熱硬化性ポリウレタン樹脂にシリコーンオイルを添加したもの(特許文献1参照)や、熱硬化性ポリウレタン樹脂にオルガノポリシロキサンを含有したもの(特許文献2参照)や、ウレタンプレポリマーとシリコーンオイル、疎水性シリカ、ポリイソシアネートからなるもの(特許文献3参照)などの塗料が種々提案されている。
【0004】
一方、最近における環境問題の高まりから、環境対策に積極的に取り組むメーカーが多くなっており、環境保全性に優れた材料を用いて製品を構成する動きがある。このため、例えば、前記塗料に使用する有機溶剤から特定の溶剤(トルエンなど)を選択しない検討や、有機溶剤の代わりに水系樹脂を使用してVOC(揮発性有機化合物)排出量をできるだけ抑制する検討も盛んに行われている(特許文献4参照)。しかし、現在の地球規模での環境保全性にはまだ不十分である。
【0005】
非特許文献1、2に見られるように、二酸化炭素を原料とするポリヒドロキシポリウレタン樹脂については以前から知られているが、その応用展開は進んでいないのが実情である。それは同種系の高分子化合物として対比される、ポリウレタン系樹脂に比べ、その特性面で明らかに劣るからである(特許文献5、6参照)。
【0006】
また、近年増加の一途をたどる二酸化炭素に起因すると考えられる地球の温暖化現象は、世界的な問題となっており、二酸化炭素の排出量低減は、全世界的に重要な課題である。さらに、枯渇性石化資源(石油)問題の観点からも、バイオマス、メタンなどの再生可能資源への転換が世界的潮流となっている。
【0007】
上記したような背景下、再び、前記したポリヒドロキシポリウレタン樹脂が見直されている。すなわち、この樹脂の原料である二酸化炭素は、容易に入手可能、かつ、持続可能な炭素資源であり、さらに、二酸化炭素を原料とするプラスチックは、温暖化、資源枯渇などの問題を解決する有効な手段となり得るからである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】N.Kihara,T.Endo,J.Org.Chem.,1993,58,6198
【非特許文献2】N.Kihara,T.Endo,J.Polymer Sci.,PartA Polmer Chem.,1993,31(12),2765
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭56−4408号公報
【特許文献2】特開平8−225670号公報
【特許文献3】特開平8−109349号公報
【特許文献4】特開2008−56772号公報
【特許文献5】米国特許第3,072,613号公報
【特許文献6】特開2000−319504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況下、自動車や建築物のウェザーストリップに、塗布または含浸などの方法によって設けられる表面処理層を、特に、滑性、耐摩耗性、耐熱性および耐候性などの基本特性に優れると共に、地球規模での環境保全性を持った環境対応製品とできれば、非常に有用である。
したがって、本発明の目的は、ウェザーストリップを構成する高分子弾性体材料の、他部品と摺接する摺接部に表面処理層を形成するための材料が、環境保全性にも資する材料でありながら、形成した表面処理層が、滑性、耐摩耗性、耐熱性、耐候性に優れたものとなる有用な材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、高分子弾性体材料に被覆および/または含浸させて、他部品と摺接する摺接部に表面処理層を形成するためのウェザーストリップ用材料であって、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂と、平均重合度5,000〜10,000のジオルガノポリシロキサンおよび/または粘度が100〜10,000CSのシリコーンオイルを含有してなる樹脂組成物であることを特徴とするウェザーストリップ用材料を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、自動車や建築物のウェザーストリップの基材である高分子弾性体材料の、他部品と摺接する摺接部に表面処理層を形成するための材料が、環境保全性にも資する材料でありながら、形成した表面処理層が、滑性、耐摩耗性、耐熱性、耐候性に優れたものとなる有用な材料の提供が達成される。より具体的には、本発明では、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂と、平均重合度5,000〜10,000のジオルガノポリシロキサンおよび/または粘度が100〜10,000CSのシリコーンオイルを含有した組成物を用いるため、形成した表面処理層が、基本特性に優れたものとなることは勿論、その原料に、地球温暖化ガスとされている二酸化炭素を利用できるため、地球環境保全の観点からも有用な材料、および、該材料を用いてなる環境対応製品の提供が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】エポキシ化合物(商品名:エピコート828、ジャパンエポキシレジン社製)の赤外吸収スペクトル。
【図2】5員環環状カーボネート化合物の赤外吸収スペクトル。
【図3】5員環環状カーボネート化合物のGPC溶出曲線。移動相:THF、カラム:TSK−Gel GMHXL+G2000HXL+G3000HXL、検出器:IR。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
本発明のウェザーストリップ用材料は、高分子弾性体材料に被覆および/または含浸させて、他部品と摺接する摺接部に表面処理層を形成するための材料であって、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂と、平均重合度5,000〜10,000のジオルガノポリシロキサンおよび/または粘度が100〜10,000CSのシリコーンオイルを含有してなる樹脂組成物であることを特徴とする。特に、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が、5員環環状カーボネート化合物とアミン化合物との反応から誘導された樹脂であることが好ましい。
【0015】
本発明で好適に使用される5員環環状カーボネート化合物は、下記[式−A]で示されるように、エポキシ化合物と二酸化炭素とを反応させて製造することができる。さらに詳しくは、エポキシ化合物を、有機溶媒の存在下または不存在下、および触媒の存在下、40℃〜150℃の温度で常圧または僅かに高められた圧力下、10〜20時間、二酸化炭素と反応させることによって得られる。
【0016】

【0017】
本発明で使用するエポキシ化合物としては、例えば、次の如き化合物が挙げられる。
【0018】

【0019】

【0020】

【0021】

【0022】

【0023】

【0024】

【0025】

【0026】

【0027】

【0028】

【0029】

【0030】

【0031】

【0032】

【0033】

【0034】

【0035】

【0036】
以上、列記したエポキシ化合物は、本発明において使用する好ましい化合物であって、本発明はこれらの例示の化合物に限定されるものではない。従って、上述の例示の化合物のみならず、その他、現在市販されており、市場から容易に入手し得る化合物は、いずれも本発明において使用することができる。
【0037】
先に述べたように、本発明で好適に使用される5員環環状カーボネート化合物は、エポキシ化合物と二酸化炭素とを反応させて製造することができるが、該反応において使用される触媒としては、下記に挙げるような、塩基触媒およびルイス酸触媒が挙げられる。
【0038】
上記塩基触媒として、塩基触媒としては、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの第三級アミン類、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロオクタンおよびピリジンなどの環状アミン類、リチウムクロライド、リチウムブロマイド、フッ化リチウム、塩化ナトリウムなどのアルカリ金属塩類、塩化カルシウムなどのアルカリ土類金属塩類、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライドなどの四級アンモニウム塩類、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどの炭酸塩類、酢酸亜鉛、酢酸鉛、酢酸銅、酢酸鉄などの金属酢酸塩類、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの金属酸化物、テトラブチルホスホニウムクロリドなどのホスホニウム塩類が挙げられる。
【0039】
ルイス酸触媒としては、例えば、テトラブチル錫、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫オクトエートなどの錫化合物が挙げられる。
【0040】
上記触媒の量は、エポキシ化合物50質量部当たり、0.1〜100質量部、好ましくは0.3〜20質量部とすればよい。上記触媒の使用量が0.1質量部未満では、触媒としての効果が小さく、100質量部を越えると最終樹脂の諸性能を低下させる場合があるので好ましくない。しかし、残留触媒が重大な性能低下を引き起こすような場合は、純水で洗浄して、残留触媒を除去する構成としてもよい。
【0041】
エポキシ化合物と二酸化炭素の反応においては使用できる有機溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。また、これら有機溶剤と他の貧溶剤、例えば、メチルエチルケトン、キシレン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、シクロヘキサノンなどの混合系で使用してもよい。
【0042】
本発明で用いるポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、下記[式−B]で示されるように、以上の如くして得られた5員環環状カーボネート化合物と、アミン化合物とを、有機溶媒の存在下、20℃〜150℃の温度下で反応させることで得られる。
【0043】

【0044】
上記反応に使用するアミン化合物としては、ジアミンが好ましく、従来ポリウレタン樹脂の製造に使用されているものがいずれも使用でき、特に限定されない。例えば、メチレンジアミン、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン;フェニレンジアミン、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−メチレンビス(フェニルアミン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン;1,4−シクロヘキサンジアミン、4,4’−ジアミノシクロヘキシルメタン、1,4’−ジアミノメチルシクロヘキサン、イソホロンジアミンなどの脂環族ジアミン;モノエタノールジアミン、エチルアミノエタノールアミン、ヒドロキシエチルアミノプロピルアミンなどのアルカノールジアミンなどが挙げられる。
【0045】
以上列記したアミン化合物は、本発明において使用する好ましい化合物であって、本発明はこれらの例示の化合物に限定されるものではない。従って、上述の例示の化合物のみならず、その他現在市販されており、市場から容易に入手し得る化合物は、いずれも本発明において使用することができる。
【0046】
また、本発明で用いるポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、その数平均分子量(GPCで測定した、標準ポリスチレン換算値)が、2,000〜100,000の範囲のものが好ましく、より好ましくは5,000〜70,000のものである。
【0047】
本発明において、上記ポリヒドロキシポリウレタン樹脂に配合するジオルガノポリシロキサンとしては、平均重合度5,000〜10,000のものであるが、これは、直鎖状の流動性のないゴム状シリコーンであり、容易に市場から入手可能である。平均重合度がこのような範囲であるオルガノポリシロキサン(シリコーン)は高粘度であるため、本発明のウェザーストリップ用材料によって形成した皮膜では、皮膜表面へのシリコーンの配向(ブリード)が緩やかに進むと考えられる。本発明者らは、そのため、基材である高分子弾性体材料の他部品と摺接する摺接部に、本発明のウェザーストリップ用材料を被覆および/または含浸させて表面処理層を形成するための材料として用いることで、長期間に亘っての性能維持が可能になったものと推論している。市販されているものとしては、例えば、信越化学工業(株)製のシリコーンオイルの高粘度シリーズなどがあり、これらをいずれも使用できる。具体的には、KF96H−6,000cs、KF96H−1万cs、KF96H−12,500cs、KF96H−3万cs、KF96H−5万cs、KF96H−6万cs、KF96H−10万cs、KF96H−30万cs、KF96H−50万cs、KF96H−100万csが挙げられる(以上、商品名)。中でも、KF96H−6,000cs〜KF96H−5万cs、より好ましくはKF96H−1万cs〜KF96H−3万csを用いるとよい。
【0048】
また、本発明では、上記ジオルガノポリシロキサン(シリコーン)に加えて、動粘度が100〜10,000CSの範囲の粘度の低いシリコーンオイルをポリヒドロキシポリウレタン樹脂に配合してもよい。上記高粘度のシリコーンに加えて、このような粘度の低いシリコーンオイルを少量添加することで、皮膜表面へのシリコーンの配向(ブリード)を制御できるため、シリコーン材料の選択の幅を広げることができる。高粘度のシリコーンに対する低粘度のシリコーンオイルの使用量としては、100:3〜20程度とすることが好ましい。該シリコーンオイルとしては、本発明で使用するポリウレタン樹脂の合成の際に用いられる架橋剤であるポリイソシアネートと反応する活性水素基を有しているものでも、有していないものでもよい。なお、本発明においてCSとは、ストークスの100分の1のセンチストークス[cSt]を意味する。
【0049】
本発明のウェザーストリップ用材料である樹脂組成物を構成する、上記したようなジオルガノポリシロキサンおよび/またはシリコーンオイルは、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂100質量部に対して、1〜100質量部、好ましくは3〜70質量部、より好ましくは、10〜30質量部の範囲で添加するとよい。該添加量が1質量部未満では添加した効果が小さ過ぎ、一方、添加量が100質量部を超えると塗膜が弱くなる傾向があるので好ましくない。
【0050】
また、本発明のウェザーストリップ用材料である樹脂組成物には、形成した処理層表面の艶消し、磨耗性・滑性の向上のため、艶消剤を添加するとよい。具体的には、有機系微粉末および/または無機系微粉末を、添加剤として、一種または二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0051】
この場合に使用する有機系微粉末としては、特に制限されるものではなく、例えば、アクリル樹脂粒子、スチレン樹脂粒子、スチレン−アクリル樹脂粒子、フェノール樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、アクリル−ポリウレタン樹脂粒子、ポリウレタン樹脂粒子、ポリエステル樹脂粒子、ナイロン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、ポリエチレン樹脂粒子などを使用することができる。これら粉末は、その平均粒径が、1〜50μmの範囲のものが好ましい。また、形成した塗膜の表面性向上および艶消性が特に優れることから、粒子の形状は、球状または略球状のものが実用上好ましい。
【0052】
また、無機系微粉末としては、例えば、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、クレー、アルミナ、シリカ、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、カーボンブラック、酸化チタン、モリブデン、水酸化マグネシウム、ベントナイト、黒鉛などが挙げられる。これら粉末の平均粒径は10μm以下であれば本発明の目的に即するが、できるだけ小さい粒径の粉末であるほうが、より好ましい。
【0053】
上記に挙げたような艶消剤の添加量は、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂100質量部に対して1〜150質量部、好ましくは3〜60質量部とするとよい。1質量部未満では艶消効果が充分に得られず、一方、150質量部を越えると塗膜の機械物性が大きく低下する傾向があるため好ましくない。
【0054】
前記したように、本発明のウェザーストリップ用材料を構成するポリヒドロキシポリウレタン樹脂の特に好ましいものとしては、5員環環状カーボネート化合物とアミン化合物との反応から誘導された樹脂が挙げられる。このような構成の本発明のウェザーストリップ用材料で高分子弾性体表面に表面処理層を形成すると、上記反応によって生成される水酸基が、高分子弾性体に対して更なる性能の向上をもたらす。すなわち、水酸基は親水性を有しているため、高分子弾性体材料に対しての接着性を向上させるとともに、従来品では達成できなかった帯電防止効果を得ることができ、静電気によるホコリやゴミの付着防止効果も期待できる。そして、樹脂中の水酸基と、架橋剤などとの反応を利用して表面処理層を形成すれば、さらなる表面の、耐熱性、耐摩耗性、耐薬品性の向上を図ることができる。
【0055】
本発明で用いるポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、水酸基価が20〜300mgKOH/gであることが好ましい。すなわち、水酸基含有量が上記範囲未満であると、二酸化炭素削減効果が十分とは言い難くなり、一方、上記範囲を超えると、高分子化合物としての諸物性が不足したものとなる傾向がある。
【0056】
上記で説明したポリヒドロキシポリウレタン樹脂と添加剤とを含む樹脂組成物である、本発明のウェザーストリップ用材料を用いて高分子弾性体材料に被覆および/または含浸させて形成される皮膜は、上記樹脂組成物をそのまま使用することで得ることができるが、架橋剤を用いることで架橋被膜とすることもできる。この場合に用いる架橋剤としては、少なくとも樹脂の構造中の水酸基と反応するような架橋剤はすべて使用でき、特に限定されない。例えば、アルキルチタネート化合物やポリイソシアネート化合物が挙げられるが、従来ポリウレタン樹脂の架橋に使用されている公知の架橋剤が好ましい。例えば、下記のような構造式のポリイソシアネートと他の化合物との付加体などが挙げられる。
【0057】

【0058】

【0059】

【0060】

【0061】
また、本発明の、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂と添加剤とを含有してなる樹脂組成物には、ウェザーストリップの基材である高分子弾性体に付与して表面処理層を形成する場合における、接着性や、塗膜の成膜性の向上のために、さらに、従来公知の各種バインダー樹脂を混合して使用することができる。この際に使用するバインダー樹脂としては、上記のポリイソシアネート付加物などの架橋剤と化学的に反応し得るものが好ましいが、反応性を有していないものでも本発明では使用することができる。
【0062】
これらのバインダー樹脂としては、ウェザーストリップの表面処理に従来から用いられているバインダー樹脂が使用でき、特に限定されない。例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリブタジエン樹脂、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、セルロース樹脂、アルキッド樹脂、変性セルロース樹脂、フッ素樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂などを使用することができる。また、これらのバインター樹脂を併用する場合、その使用量は、本発明の樹脂組成物100質量部に対して、バインダー樹脂が5〜90質量部、より好ましくは、10〜60質量部程度を添加するとよい。
【0063】
また、本発明の材料である、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂と添加剤とからなる樹脂組成物には、さらに、必要に応じて、塗面調整剤、流動性調整剤、紫外線吸収剤、分散剤、沈降防止剤などの各種塗料用添加剤を配合してもよい。
【0064】
本発明の材料である、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂と添加剤とからなる樹脂組成物を、ウェザーストリップ用基材である高分子弾性体に、被覆および/または含浸することで、基材の所望の位置に表面処理層を形成することができる。この際、乾燥後の厚みが10〜100μm程度になるように塗布し、乾燥後、50〜150℃程度の温度で加熱処理することで、ウェザーストリップ用材料上に皮膜が形成される。
【0065】
本発明のウェザーストリップ用材料は、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂と、ジオルガノポリシロキサンおよび/または粘度が100〜10,000CSのシリコーンオイルとを含有してなるが、該樹脂組成物を用い、高分子弾性体の所望の位置に表面処理層を形成することで、滑性、耐磨耗性、耐熱性、耐候性、さらに好ましい形態では、均一な艶消し効果にも優れたウェザーストリップが得られる。それと共に、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中の水酸基が、基材である高分子弾性体と界面で強く相互作用するので、形成された表面処理層は、基材に対して優れた接着性や可とう性、および帯電防止効果が付与されたものとなる。また、本発明で使用するポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、その合成の際に、樹脂中に二酸化炭素を取り入れることができるので、温暖化ガス削減の観点からも有用な、従来品では到達できなかった環境保全対応のウェザーストリップの提供を可能とする。
【実施例】
【0066】
次に、具体的な製造例および実施例および比較例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の各例における「部」および「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0067】
<製造例1>(5員環環状カーボネート化合物の製造)
攪拌機、温度計、ガス導入管および還流冷却器を備えた反応容器中に、下記式Aで表される2価エポキシ化合物100部、N−メチルピロリドン100部およびヨウ化ナトリウム1.5部を加え、均一に溶解させた。その後、炭酸ガスを0.5リッター/分の速度でバブリングしながら、80℃で30時間加熱攪拌させた。上記で使用した2価エポキシ化合物は、ジャパンエポキシレジン(株)製のエピコート828(商品名、エポキシ当量187g/mol)であり、図1にその赤外吸収スペクトルを示した。
【0068】

【0069】
反応終了後、得られた溶液を、300部のn−ヘキサン中に、300rpmで高速攪拌しながら徐々に添加した。その後、生成した粉末状生成物を、フィルターでろ過、さらにメタノールで洗浄し、N−メチルピロリドンおよびヨウ化ナトリウムを除去した。粉末を乾燥機中で乾燥し、白色粉末の5員環環状カーボネート化合物(1−A)を118部(収率95%)得た。
【0070】
得られた生成物の赤外吸収スペクトル(堀場製作所 FT−720)では、図2に示したように、910cm-1付近の原料のエポキシ基由来のピークが、生成物ではほぼ消滅し、1,800cm-1付近に原料には存在しない環状カーボネート基のカルボニル基の吸収が確認された。また、生成物の数平均分子量は、図3に示したように、414mgKOH/g(ポリスチレン換算、東ソー;GPC−8220)であった。得られた5員環環状カーボネート化合物(1−A)中には、19%の二酸化炭素が固定化されていた。
【0071】
<製造例2>(5員環環状カーボネート化合物の製造)
製造例1で用いた2価エポキシ化合物Aの代わりに、下記式Bで表わされる2価エポキシ化合物を用いた以外は、製造例1と同様に反応させ、白色粉末の5員環環状カーボネート化合物(1−B)121部(収率96%)を得た。原料の2価エポキシ化合物Bとして、東都化成(株)製のYDF−170(エポキシ当量172g/mol)を用いた。
【0072】

【0073】
生成物は、製造例1の場合と同様に、赤外吸収スペクトル、GPC、NMRで確認した。得られた5員環環状カーボネート化合物(1−B)中には、20.3%の二酸化炭素が固定化されていた。
【0074】
<製造例3>(5員環環状カーボネート基化合物の製造)
製造例1で用いた2価エポキシ化合物Aの代わりに、下記式Cで表わされる2価エポキシ化合物を用いた以外は、製造例1と同様に反応させ、無色透明の液状5員環環状カーボネート化合物(1−C)を111部(収率86%)得た。原料の2価エポキシ化合物Cとして、ナガセケムテックス(株)製のEX−212(エポキシ当量151g/mol)を用いた。
【0075】

【0076】
生成物は、製造例1の場合と同様に、赤外吸収スペクトル、GPC、NMRで確認した。得られた5員環環状カーボネート基化合物(1−C)中には、22.5%の二酸化炭素が固定化されていた。
【0077】
<実施重合例1〜3>(ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造)
製造例1〜3で得られた、5員環環状カーボネート基化合物をそれぞれ用いて、下記のようにして、実施例で用いるポリヒドロキシポリウレタン樹脂を合成した。攪拌機、温度計、ガス導入管および還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、該容器内に、製造例1〜3で得られた5員環環状カーボネート化合物、さらに液の固形分が35%になるようにN−メチルピロリドンを加え、均一に溶解した。次に、表1に記載のアミン化合物を所定当量加え、90℃の温度で10時間攪拌し、アミン化合物が確認できなくなるまで反応させた。得られたポリヒドロキシポリウレタン樹脂の性状は表1に記載の通りである。
【0078】

【0079】
<比較重合例1>(ポリエステルウレタン樹脂)
下記のようにして、比較例で用いるポリエステルウレタン樹脂を合成した。攪拌機、温度計、ガス導入管および還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、該容器内に、平均分子量約2,000のポリブチレンアジペート150部と、1,4−ブタンジオール15部とを、200部のメチルエチルケトンと、50部のジメチルホルムアミドからなる混合有機溶剤中に溶解した。その後、60℃でよく攪拌しながら、62部の水添加MDIを、171部のジメチルホルムアミドに溶解したものを徐々に滴下し、滴下終了後、80℃で6時間反応させた。
この溶液は固形分35%で3.2MPa・s(25℃)の粘度を有していた。この溶液から得られたフィルムは、破断強度45MPaで、破断伸度480%を有し、熱軟化温度は110℃であった。
【0080】
<比較重合例2>(ポリカーボネートポリウレタン樹脂)
下記のようにして、比較例で用いるポリカーボネートポリウレタン樹脂を合成した。比較重合例1と同様にして、平均分子量約2,000のポリカーボネートジオール(宇部興産(株)製)150部と、1,4−ブタンジオール15部とを、200部のメチルエチルケトンと50部のジメチルホルムアミドからなる混合有機溶剤中に溶解した。その後、60℃でよく攪拌しながら、62部の水添加MDIを、171部のジメチルホルムアミドに溶解したものを徐々に滴下し、滴下終了後、80℃で6時間反応させた。この溶液は、固形分35%で1.6MPa・s(25℃)の粘度を有していた。この溶液から得られたフィルムは、破断強度21MPaで破断伸度250%を有し、熱軟化温度は135℃であった。
【0081】
<実施例1〜6、比較例1〜4>
実施重合例1〜3、比較重合例1〜2の各ポリウレタン樹脂を使用して、表2に記載の配合で塗料を作成し、実施例1〜6および比較例1〜4の各ウェザーストリップ用材料とした。また、これらの塗料を、EPDMゴムシート上にエアースプレーガンを用いて塗工した後、100℃で10分間乾燥させて20μmの皮膜を形成した。得られた塗膜面を有するEPDMゴムシートを、各ウェザーストリップ用材料によって形成した表面処理層(塗膜面)を評価するための測定用試料とした。
【0082】
上記で得られたウェザースリップ材料および各測定用試料について、静止摩擦係数、動摩擦係数、接触角、接着性、磨耗耐久性、耐候性などを以下の方法でそれぞれ測定し、実施例及び比較例の材料について評価した。評価結果を表2にまとめて示した。
【0083】
(静止摩擦係数、動摩擦係数)
各ウェザーストリップ用材料(塗料)の、ガラス部材との静止摩擦係数、動摩擦係数を表面性試験機(新東科学製)で評価した。
【0084】
(接触角)
上記で得た測定用試料の皮膜部分における水の接触角を、接触角計(協和界面化学社製)で測定し、各ウェザーストリップ用材料からなる塗膜面の水の接触角とした。
【0085】
(接着性)
上記で得た測定用試料の皮膜部分に対して、碁盤目セロハンテープによる剥離試験を行って、各ウェザーストリップ用材料からなる塗膜面の接着性を、下記の基準で評価した。
○;良好(塗膜面に剥離部分がない)
×;不良(塗膜面に剥離部位がある)
【0086】
(磨耗耐久性)
上記で得た測定用試料の皮膜部分に、9.8Nの荷重を加えたガラス板を当接し、該ガラス板を往復運動させることによる塗膜の裂傷などが生じるまでの往復運動回数を、表面性試験機(新東科学製)で測定した。そして、得られた往復運動回数で、各ウェザーストリップ用材料からなる塗膜面の磨耗耐久性を評価した。
【0087】
(耐候性試験)
サンシャインカーボンアーク耐候試験機(スガ試験機)を用い、上記で得た測定用試料の皮膜部分にパネル温度83℃で200時間照射後、その塗膜面の状態を目視で観察し、各ウェザーストリップ用材料からなる塗膜面の耐候性を、下記の基準で評価した。
3:表面状態変化なし
2:表面状態少し変化あり
1:大きな変化及び白化現象
【0088】
(環境対応性)
各ウェザーストリップ用材料(塗料)中における二酸化炭素の固定化の有無によって、○×で評価した。
【0089】

【0090】

【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明によれば、ウェザーストリップ用材料を、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂および添加物を含有してなる樹脂組成物を用いて成形することにより、滑性、耐磨耗性、耐熱性、耐候性、さらには均一な艶消し効果に優れる皮膜の形成が可能となると共に、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の水酸基が基材シートと界面で強く相互作用することによる、優れた接着性や可とう性、および帯電防止効果が付与された優れた性能の皮膜を得ることができる。また、本発明で提供するウェザーストリップ用材料は、二酸化炭素を樹脂中に取り入れたものであるため、温暖化ガス削減の観点からも優れたものであり、従来品では到達できなかった環境保全対応の製品となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子弾性体材料に被覆および/または含浸させて、他部品と摺接する摺接部に表面処理層を形成するためのウェザーストリップ用材料であって、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂と、平均重合度5,000〜10,000のジオルガノポリシロキサンおよび/または粘度が100〜10,000CSのシリコーンオイルを含有してなる樹脂組成物であることを特徴とするウェザーストリップ用材料。
【請求項2】
前記ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が、5員環環状カーボネート化合物とアミン化合物との反応から誘導された樹脂である請求項1に記載のウェザーストリップ用材料。
【請求項3】
前記5員環環状カーボネート化合物が、エポキシ化合物と二酸化炭素を反応させて得られる請求項2に記載のウェザーストリップ用材料。
【請求項4】
前記ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が、二酸化炭素を1〜25質量%含有してなる請求項1乃至3のいずれか1項に記載のウェザーストリップ用材料。
【請求項5】
前記樹脂組成物が、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂100質量部に対して、平均重合度5,000〜10,000のジオルガノポリシロキサンおよび/または粘度が100〜10,000CSのシリコーンオイルが1〜100質量部の割合で配合されてなる請求項1乃至4のいずれか1項に記載のウェザーストリップ用材料。
【請求項6】
前記樹脂組成物が、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂100質量部に対して、有機系微粉末および無機系微粉末から選ばれる一種または二種以上の組み合わせからなる添加剤が1〜150質量部の割合で配合されてなる請求項1乃至5のいずれか1項に記載のウェザーストリップ用材料。
【請求項7】
前記樹脂組成物が、さらに、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂以外のバインダー樹脂を含んでなる請求項1乃至6のいずれか1項に記載のウェザーストリップ用材料。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のウェザーストリップ用材料を高分子弾性体材料に被覆および/または含浸させて、他部品と摺接する摺接部に表面処理層が形成されてなるウェザーストリップであって、表面処理層が、ウェザーストリップ用材料中のポリヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中の水酸基と反応する架橋剤で架橋されて形成されていることを特徴とするウェザーストリップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−246499(P2011−246499A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109842(P2010−109842)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【出願人】(000238256)浮間合成株式会社 (99)
【Fターム(参考)】