説明

ウォータジェット型のポンプならびにその運転方法

【課題】超高真空範囲にまで及ぶ真空を発生させることができる簡単に構成されるポンプを提供する。
【解決手段】ウォータジェット型のポンプ(2)が、超高真空を発生させるためのシステム(1)の一部である。このポンプ(2)は、イオン流体(F)によって高速にて通流される少なくとも1つのポンプ室(11)を含む。ポンプ室(11)は流体(F)のためにノズル開口(3a)を備えたノズル(3)で終端している第1の入口通路(3)と、流体出口通路(5)とを有する。ポンプ室(11)の第2の第2の入口通路(4)が、真空にすべき高真空室(10)に接続されている。この高真空室(10)から第2の入口通路(4)を介して通流する流体噴流によりガスが吸い込まれ、流体噴流と一緒にガスがポンプ室(11)から排出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体によって1つの流れ方向(s)に通流可能なポンプ室を有する高真空、特に超高真空を発生するためのウォータジェット型のポンプに関する。このポンプ室は、
ポンプ室内に突出しかつノズル開口で終端している流体用の少なくとも1つの第1の入口通路と、
流れ方向に見てノズル開口の向かい側に配置されている流体用の少なくとも1つの出口通路と、
ポンプ室に開口しかつ被真空空間に接続されるべき少なくとも1つの第2の入口通路と、
を含む。
【0002】
更に、本発明は、このようなポンプを運転するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
超高真空を発生させるために、ターボ分子モータ、クライオポンプ、ソープションポンプ、スライドベーンポンプ、容積型ポンプ及びジェットポンプが使用される。ジェットポンプとしては、ウォータジェットポンプ、又は液体としてオイルを基礎とするポンプが使用される。これらのポンプによっては、使用される液体の蒸気圧の範囲内にある真空圧力しか到達できない。従って、公知のウォータジェットポンプ及びオイルポンプは、低真空発生のための粗引きポンプとしてしか使用できず、特に超高真空の発生のためには、例えばターボ分子ポンプのような後段に置かれるポンプによって補足されなければならない。このようにして構成されるポンプシステムは、複雑で高価であり、メンテナンス費用がかかる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、超高真空範囲にまで及ぶ真空を発生することができる簡単に構成されるポンプを提供することにある。特に、磨耗なしに低コストにてポンプを運転することができ、かつ簡単な手段でできるだけ良好な超高真空を発生できるようにするために、できるだけ少ない部品を有し、とりわけ可動部品の少ない又は可動部品のないポンプを提供することを課題とする。更に、本発明の課題は、このようなポンプを運転するための簡単な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は、ポンプに関しては請求項1の特徴事項により解決され、ポンプを運転するための方法に関しては請求項11の特徴事項により解決される。
【0006】
本発明によるポンプ及び方法の有利な実施形態は、それぞれに割り当てられた従属請求項からもたらされる。対等位にある請求項の特徴事項は、それぞれに割り当てられた従属請求項の特徴事項と組合せ可能であり、或いはとりわけ複数の割り当てられた従属請求項の特徴事項とも組合せ可能である。
【0007】
高真空の発生、特に超高真空の発生のための本発明によるポンプは、ウォータジェットポンプもしくは相応タイプのポンプの如くに構成されている。このために、本発明によるポンプは、流体によって1つの流れ方向に通流可能な少なくとも1つのポンプ室を含む。このポンプ室は、ポンプ室内に突出しかつノズル開口において終端している流体用の少なくとも1つの第1の入口通路を有する。更に、このポンプ室は、流れ方向に見てノズル開口の向かい側に配置されている流体用の少なくとも1つの出口通路を有する。更に、このポンプ室は、ポンプ室に開口しかつ被真空空間に接続されるべき少なくとも1つの第2の入口通路を有する。本発明によれば、このようなポンプのために、流体としてイオン流体が設けられる。
【0008】
本発明によるポンプの好ましい実施形態においては、第1の入口通路において予め定められた速度及び/又は予め定められた圧力でイオン流体を移送するための手段が設けられていて、これらの手段は、特に少なくとも1つの移送ポンプを含む。
【0009】
このポンプが閉じられた流体循環路に接続されているか、又はこの流体循環路内に組み込まれていて、この流体循環路が、少なくとも1つの第1の流体入口通路において流体圧を発生させるための移送ポンプと、ガス排出のための逆止弁を有する貯蔵タンクとを含み、この貯蔵タンクが少なくとも1つの流体出口通路と移送ポンプとに接続されているとよい。
【0010】
ポンプのために設けられるべきイオン流体が液体及び/又は液体−ガス混合物であるとよい。場合によっては流体として相応のガスを使用してもよい。
【0011】
この場合に、このポンプにおいて、被真空空間の圧力が、使用されるイオン液体、特にイオン液体の蒸気圧に依存して調整可能であることが望ましい。
【0012】
イオン流体としては、硫酸イオン、硫酸水素イオン、アルキル硫酸イオン、チオシアン酸イオン、リン酸イオン、ホウ酸イオン、テトラキスハイドロジェンスルファトボレートイオン又はケイ酸イオンを含有する流体が選ばれるとよい。
【0013】
更に、超高真空室と少なくとも1つの入口通路との間でのガス交換もしくはガス搬出のために、少なくとも1つの第2の入口通路が超高真空室に接続されていることが好ましい。このガス交換によって、超高真空室において、10-7〜10-12mbarの圧力範囲にある超高真空が発生可能である。
【0014】
好ましい実施形態においては、超高真空室の圧力が、使用されるイオン液体、特にイオン液体の蒸気圧に依存する。
【0015】
他の好ましい実施形態においては、少なくとも1つの第1の流体入口通路及び/又は少なくとも1つの第2の入口通路及び/又は少なくとも1つの流体出口通路がそれぞれ少なくとも1つの管の形で構成されている。
【0016】
本発明によるポンプ運転方法は、このポンプのポンプ室を通流する流体噴流を発生するステップと、その流体噴流によってポンプ室内において及び/又はポンプ室内へガスを吸い込むステップと、その流体噴流によりポンプ室からガスを排出するステップとを含む。これらのステップが上述の順序で同時に連続的に又は相次いで脈動的に行なわれるとよい。
【0017】
運転方法の好ましい実施形態においては、このポンプの相応の構成により、いわゆるベンチュリ効果が利用される。それによりポンプ室における流体の高い流速を達成し、それにより第2の入口通路における非常に高い負圧を達成することができ、その負圧によって、接続された被真空空間において、超高真空範囲にまで及ぶ相応の高真空をもたらすことができる。
【0018】
全般的に本発明の基礎をなすのは次の着想である。即ち、特別に構成されたジェットポンプにおいて液体のようなイオン流体を使用することによって、かかる流体の低い蒸気圧により簡単に、確実に、磨耗なしに且つ安価に、多数のポンプシステムを必要とすることなしに良好な超高真空を発生させることができるという着想である。
【0019】
本発明による運転方法については、本発明によるポンプに関連した前述の利点がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に従って構成されたジェットポンプにより超高真空を発生させるための構成を示す非常に簡略化された図を示す。
【図2】ポンプ室の部分拡大図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下において、図面の図1及び図2に基づいて、従属請求項の特徴事項による有利な発展的構成を有する本発明の実施形態を更に詳細に説明するが、しかし本発明はこれに限定されるものではない。
【0022】
図1には、とりわけ超高真空HVを発生させるためのシステム1の構成が示されている。システム1は、第1の流体入口通路3と第2の入口通路4と流体出口通路5とを有するポンプ2を含む。ポンプ2は閉じられた流体循環路9内に組み込まれていて、この流体循環路9は流体Fとしてイオン液体を使用する。ポンプはウォータジェットポンプの如き働きをするが、それの作動媒体は水ではなく、イオン液体又は相応の液体−ガス混合物である。
【0023】
液体循環路9においては、流体Fの流れ方向がsで示されている。流れ方向に関して、ポンプ2の前段に移送ポンプ6が接続されていて、この移送ポンプは、ポンプ2の手前における流体循環路9の少なくとも1つの管部材9aにおいて高い流体圧力を発生する。そのようにして、高い流速及び/又は高い内部流体圧力を有する流体Fが、移送ポンプ6から配管系の管部材9aを介してポンプ2に向けて送り出される。そこでは流体Fが第1の流体入口通路3を介してポンプ2のポンプ室11の中に入る。このために、その入口通路の長さの一部は、ポンプ室内に突き出ていて、そこにおいてノズル開口3aを有するノズルとして構成されている(図2参照)。ここで流体は強く加速される。この加速は、ノズルの相応の構成に基づいて、いわゆるベンチュリ効果に従って行なわれる。流体流速は、例えば10倍乃至100倍もしくは1000倍にされる。この流体流速は音速まで可能である。流速は、ノズル直前の流体圧力と、第1の流体入口通路3の管直径に対するノズル直径の比に依存する。ノズルの開口3aから高速にて流れ出る流体噴流は、例えばガス分子との衝突及びポンプ室内のガスにおける摩擦による渦巻とによって、ポンプ室11内に存在するガスの一部を引き込む。流体の流れに引き込まれたガス分子は、ノズル開口3aの向かい側にある流体出口通路5のところでポンプ室11から流体Fと一緒に流れ出る。
【0024】
ポンプ室11から流体出口通路5を介して流れ出た流体Fは、配管系の管部材9bを介して貯蔵タンク7に導かれる。そこに流体Fが集められ、一緒に引き込まれたガス分子は流体から抜けて逆止弁8を介して周辺へ、又は他の貯蔵タンクへ放出される。集められた流体は、貯蔵タンク7から配管系の他の管部材9cにより移送ポンプ6に供給可能であり、それにより、配管系内に、閉じられた流体循環路9がもたらされる。
【0025】
ポンプ2のポンプ室11内では、流体Fに一緒に引き込まれて運び去られるガス分子が、ポンプ2のポンプ室11の第2の入口通路4のところに負圧をもたらす。高真空室10は、配管系12、例えば特殊鋼配管を介して、ポンプ室11の第2の入口通路4に接続されている。それにより、高真空室10とポンプ室11との間においてガス交換もしくはガス輸送が行なわれ得る。ポンプ室11内で発生する負圧は、高真空室10内の高いガス圧からポンプ室11内の低いガス圧へ向けてガスを流れさせるガス流をもたらす。圧力均衡が生じたときにはじめて、即ち高真空室10とポンプ室11とに等しい圧力が存在するときにはじめて、超高真空室10とポンプ室11との間のガス交換がもはや行なわれなくなる。そのようにして、超高真空室10とポンプ室11との間のガス交換が、高真空室10内の圧力低下をもたらす。即ち、高真空室10からガスがポンプ室11へ排出される。
【0026】
上述の方法により高真空室10内には、少なくとも使用される流体Fの蒸気圧にほぼ相当するガス圧もしくは当該圧力を有する真空を発生させることができる。本発明に従ってポンプ2の作動媒体としてイオン流体を使用することによって、高真空ガス圧を達成することができ、即ち10-7〜10-12mbarの超高真空範囲にまで達する高真空室10内の高真空を達成することができる。
【0027】
本発明によるポンプに適したイオン流体は、例えば2000年に発行された刊行物「“Angewandte Chemie”、112巻」の第3926〜3945頁から公知である。それによれば、一般に、このような流体として、低温において、特に100℃以下の温度において非分子のイオン特性を有する溶融塩である液体が考慮される。本発明によるポンプにおいて使用するためのこのようなイオン液体の格別に有利な特性は、これらが、(通常の使用温度において)殆ど測定できない蒸気圧を持っていることにある。従って、被真空空間において、使用される液体の蒸気圧に相当する真空状態を達成することができる。このポンプの運転時には液体が殆ど気化されないので、吸い込まれたガスは容易にこの液体から分離することができる。
【0028】
少なくとも主成分(即ち、50体積%よりも多い成分)として、硫酸イオン、硫酸水素イオン、アルキル硫酸イオン、チオシアン酸イオン、リン酸イオン、ホウ酸イオン、テトラキスハイドロジェンスルファトボレートイオン又はケイ酸イオンを含む流体F(液状又は2相の液体−ガス混合物)が特に適している。
【符号の説明】
【0029】
1 超高真空を発生させるシステム
2 ポンプ
3 第1の入口通路
3a ノズル開口
4 第2の入口通路
5 出口通路
6 移送ポンプ
7 貯蔵タンク
8 逆止弁
9 流体循環路
9a,9b,9c 管部材
10 高真空室
11 ポンプ室
12 配管システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体(F)によって1つの流れ方向(s)に通流可能なポンプ室(11)を有する、高真空、特に超高真空を発生させるためのウォータジェット型のポンプ(2)であって、前記ポンプ室(11)が、
ポンプ室(11)内に突出しかつノズル開口(3a)において終端している流体(F)用の少なくとも1つの第1の入口通路(3)と、
流れ方向(s)に見てノズル開口(3a)の向かい側に配置されている流体(F)用の少なくとも1つの出口通路(5)と、
ポンプ室(11)に開口しかつ被真空空間(10)に接続されるべき少なくとも1つの第2の入口通路(4)と、
を備え、
流体(F)としてイオン流体が使用されることを特徴とするポンプ。
【請求項2】
第1の入口通路(3)において予め定められた速度及び/又は予め定められた圧力を有するイオン流体(F)を移送するための手段が設けられていることを特徴とする請求項1記載のポンプ。
【請求項3】
前記手段として少なくとも1つの移送ポンプ(6)が設けられていることを特徴とする請求項2記載のポンプ。
【請求項4】
ポンプ(2)が閉じられた流体循環路(9)に接続されていて、この流体循環路(9)が、少なくとも1つの第1の流体入口通路(3)内において流体圧を発生させるための移送ポンプ(6)と、ガス排出のための逆止弁(8)を有する貯蔵タンク(7)とを含み、貯蔵タンク(7)が少なくとも1つの流体出口通路(5)と移送ポンプ(6)とに接続されていることを特徴とする請求項3の記載のポンプ。
【請求項5】
イオン流体(F)が、液体、又は、液体−ガス混合物であることを特徴とする請求項1乃至4の1つに記載のポンプ。
【請求項6】
被真空空間(10)の圧力が、使用されるイオン液体、特にイオン液体の蒸気圧に依存することを特徴とする請求項5記載のポンプ。
【請求項7】
イオン流体(F)が、硫酸イオン、硫酸水素イオン、アルキル硫酸イオン、チオシアン酸イオン、リン酸イオン、ホウ酸イオン、テトラキスハイドロジェンスルファトボレートイオン又はケイ酸イオンを含有することを特徴とする請求項1乃至6の1つに記載のポンプ。
【請求項8】
被真空空間(10)が、少なくとも1つの入口通路(4)と超高真空室(10)との間におけるガス交換のための超高真空室(10)であることを特徴とする請求項1乃至7の1つに記載のポンプ。
【請求項9】
超高真空室(10)において、10-7〜10-12mbarの圧力範囲にある超高真空が発生可能であることを特徴とする請求項1乃至8の1つに記載のポンプ。
【請求項10】
少なくとも1つの第1の流体入口通路(3)及び/又は少なくとも1つの第2の入口通路(4)及び/又は少なくとも1つの流体出口通路(5)がそれぞれ少なくとも1つの管(9aもしくは12もしくは9b)の形で構成されていることを特徴とする請求項1乃至9の1つに記載のポンプ。
【請求項11】
a)ポンプ(2)のポンプ室(11)を通流する流体(F)の噴流(s)を発生するステップと、
b)その流体噴流によってポンプ室(11)内において及び/又はポンプ室(11)内へガスを吸い込むステップと、
c)その流体噴流によりポンプ室(11)からガスを排出するステップと、
を有する請求項1乃至10の1つに記載のポンプ(2)を運転するための方法。
【請求項12】
ステップa)乃至c)がa)乃至c)の順序で同時に連続的に又は相次いで脈動的に行なわれることを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項13】
ベンチュリ効果を利用することを特徴とする請求項11又は12記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−527397(P2011−527397A)
【公表日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517045(P2011−517045)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際出願番号】PCT/EP2009/054320
【国際公開番号】WO2010/003707
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】