説明

ウォームギヤ装置の製造方法

【課題】ウォームギヤ装置の低寿命化、部品点数の増加、及び製造コストの高騰化を抑えることができ、且つ転がり軸受がウォーム軸に対して軸線方向に沿って相対的に変位することを好適に阻止することができるウォームギヤ装置の製造方法を提供する。
【解決手段】ウォーム軸104と前記ウォーム軸104を回転自在に支持するための転がり軸受として構成された第1軸受106とを備えるウォームギヤ装置10の製造方法において、前記第1軸受106の内輪118を前記ウォーム軸104に圧入して固定する圧入工程と、前記ウォーム軸104に圧入した前記内輪118に対して前記第1軸受106の転動体122と外輪120とを組み付ける組付工程とを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォーム軸と前記ウォーム軸を回転自在に支持するための転がり軸受とを備えるウォームギヤ装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動モータの回転駆動力をピニオン軸に伝達することにより、運転者の操舵を補助する電動式パワーステアリング装置が広汎に利用されている。
【0003】
この種の電動式パワーステアリング装置は、前記電動モータの回転駆動力を減速して前記ピニオン軸に伝達する減速機構(ウォームギヤ装置)を備えている。
【0004】
図11に示すように、ウォームギヤ装置300は、一般的に、電動モータの駆動により回転するウォーム軸302と、ピニオン軸304に一体回転可能に設けられて前記ウォーム軸302の螺旋歯306に噛合する歯308を有するウォームホイール310と、ギヤハウジング312に設けられた状態で前記ウォーム軸302を回転自在に支持する転がり軸受314とを有する。
【0005】
このように構成されるウォームギヤ装置300では、前記転がり軸受314は、予め組み立てられた状態(内輪316と外輪318との間に転動体320を装着した状態)で前記ウォーム軸302に形成された装着部322に軽圧入されている。
【0006】
しかしながら、この場合、前記転がり軸受314の内輪316と前記装着部322との結合力が比較的弱いため、電動モータの回転駆動力をウォーム軸302及びウォームホイール310を介してピニオン軸304に伝達する際に、前記ウォームホイール310からウォーム軸302の軸線方向に沿った反力が該ウォーム軸302に作用して、前記転がり軸受314がウォーム軸302に対して軸線方向に沿って相対的に変位することがある。そうすると、前記転がり軸受314がウォーム軸302の装着部322から抜け出ることがある。
【0007】
このような不都合を解消する方法としては、前記転がり軸受314と前記装着部322との圧入締め代を大きく設定することにより該転がり軸受314と該装着部322との結合力を大きくする方法が挙げられる。
【0008】
しかしながら、この場合、前記装着部322及び前記転がり軸受314には適当な寸法公差があるため、転がり軸受314を装着部322に圧入した状態で該転がり軸受314の内輪316が径方向外側に過度に押し広げられることがある。そうすると、転がり軸受314の径方向において転動体320と外輪318(内輪316)との間の隙間が無くなり該転動体320が内輪316と外輪318の両方に接触するため、転がり軸受314の予圧が大きくなり過ぎる。その結果、転動体320に生じる摩擦力が増大し、転がり軸受314(ウォームギヤ装置300)の寿命が短くなってしまう。
【0009】
また、別の方法として、図12に示すように、例えば、ウォーム軸302の装着部322の端部に環状の溝324を形成しておき、該装着部322に転がり軸受314を軽圧入した後に、該溝324に止め輪326を配置して加締めることにより、該転がり軸受314がウォーム軸302に対して軸線方向に沿って相対的に変位することを阻止する方法が挙げられる。しかしながら、この場合、転がり軸受314の寿命の低下を抑えることはできるが、ウォームギヤ装置300の部品点数及び製造工数が増大してしまう。
【0010】
ウォームギヤ装置の部品点数を削減したものとして、ウォーム軸の両端部に周方向に沿った軌道溝を形成し、ケーシングに圧入固定された外輪と前記軌道溝との間に転動体を転動自在に介在させることにより、転がり軸受の内輪を省略する技術的思想が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−112637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述した特許文献1のようなウォームギヤ装置では、ウォーム軸に軌道溝を形成する必要があり該ウォーム軸が特殊品となるためウォームギヤ装置の製造コストが高騰化してしまう。
【0013】
本発明は、このような課題を考慮してなされたものであり、ウォームギヤ装置の低寿命化、部品点数の増加、及び製造コストの高騰化を抑えることができ、且つ転がり軸受がウォーム軸に対して軸線方向に沿って相対的に変位することを好適に阻止することができるウォームギヤ装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
[1] 本発明に係るウォームギヤ装置の製造方法は、ウォーム軸と前記ウォーム軸を回転自在に支持するための転がり軸受とを備えるウォームギヤ装置の製造方法において、前記転がり軸受の内輪を前記ウォーム軸に圧入して固定する圧入工程と、前記ウォーム軸に圧入した前記内輪に対して前記転がり軸受の転動体と外輪とを組み付ける組付工程と、を行うことを特徴とする。
【0015】
本発明に係るウォームギヤ装置の製造方法によれば、転がり軸受の内輪をウォーム軸に圧入する圧入工程の後に、該内輪に対して転動体と外輪とを組み付ける組付工程を行うため、圧入工程において、内輪とウォーム軸との圧入締め代を大きく設定した状態で該内輪を該ウォーム軸に圧入した場合であっても、該内輪の拡径度合いに応じて該内輪に組み付ける転動体と外輪を容易に変更することができる。これにより、圧入された転がり軸受がウォーム軸に対して軸線方向に沿って相対的に変位することを抑えることができると共に、該転がり軸受の予圧が大きくなり過ぎること(転動体に生じる摩擦力が必要以上に増大すること)を防止することができる。よって、ウォームギヤ装置が低寿命化することもない。
【0016】
また、このようにして製造されたウォームギヤ装置では、内輪とウォーム軸との結合力を高めることができ、転がり軸受がウォーム軸に対して軸線方向に沿って変位することを阻止するための止め輪等を設ける必要がないため、部品点数が増加することはない。さらに、該ウォームギヤ装置では、ウォーム軸に軌道溝を形成する必要も無いため、製造コストの高騰化を抑えることができる。
【0017】
[2] 上記のウォームギヤ装置の製造方法において、前記ウォーム軸に圧入された状態の前記内輪の径方向に沿った寸法を取得する寸法取得工程を前記圧入工程と前記組付工程との間に行い、前記組付工程では、前記寸法取得工程にて取得された前記内輪の前記寸法に対応した外径を有する転動体と該寸法に対応した径方向に沿った寸法を有する外輪とを前記内輪に対して組み付けてもよい。
【0018】
このような方法によれば、ウォーム軸に圧入された状態の内輪の径方向に沿った寸法を取得し、取得された該内輪の前記寸法に対応した外径の転動体と該寸法に対応した径方向に沿った寸法を有する外輪とを前記内輪に対して組み付けるので、転がり軸受の径方向において転動体と外輪(内輪)との間に所定の隙間を設けて転がり軸受の予圧を適度な大きさにすることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、転がり軸受の内輪をウォーム軸に圧入した後に該内輪に対して転動体と外輪とを組み付けるため、ウォームギヤ装置の低寿命化、部品点数の増加、及び製造コストの高騰化を抑えることができ、且つ転がり軸受がウォーム軸に対して軸線方向に沿って相対的に変位することを好適に阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る製造方法によって製造されたウォームギヤ装置が組み込まれた電動式ステアリング装置の模式図である。
【図2】図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】図2に示す第1軸受とその周辺部分の拡大断面図である。
【図4】図3に示す第1軸受の一部破断斜視図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るウォームギヤ装置の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図6】第1軸受の内輪のみをウォーム軸の第1装着部に圧入する工程を説明するための一部省略断面図である。
【図7】図7Aは第1装着部に圧入された内輪の軌道径d3を説明するための一部省略断面図であり、図7Bはオーバーピン法による軌道輪d4の求め方を説明するための一部省略断面図であり、図7Cは第1装着部に圧入された内輪の外径d5を説明するための一部省略断面図である。
【図8】第1装着部に圧入された内輪に複数の転動体と外輪とを組み付ける様子を説明するための斜視図である。
【図9】第1装着部に圧入された内輪に複数の転動体と外輪とが組みつけられた状態を示す断面図である。
【図10】一対の保持器と一対のシールド部材の組み付けを説明するための斜視図である。
【図11】従来技術に係るウォームギヤ装置の構成を説明するための一部省略断面図である。
【図12】図11に示すウォーム軸に止め輪を取り付けた例について説明するための一部省略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係るウォームギヤ装置の製造方法について好適な実施形態を例示し、添付の図面を参照しながら説明する。
【0022】
先ず、本発明の一実施形態に係るウォームギヤ装置の製造方法によって製造されたウォームギヤ装置10が組み込まれた電動式パワーステアリング装置(以下、単にステアリング装置12と称する。)について説明する。
【0023】
図1に示すように、ステアリング装置12は、いわゆるピニオンアシスト型のステアリング装置として構成されており、運転者が操作する操向ハンドル(ステアリングホイール)14と、前記操向ハンドル14に接続されたステアリング軸部16と、前記ステアリング軸部16に連結された操舵ギヤ機構18と、前記運転者の操舵を補助するための操舵アシスト部20と、前記操舵ギヤ機構18に連結された左右一対の操向輪22L、22Rと、車速センサ24と、電子制御ユニット(ECU)26と、バッテリ28とを備える。
【0024】
ステアリング軸部16は、操向ハンドル14に接続された第1ステアリング軸30と、前記第1ステアリング軸30にユニバーサルジョイント(自在継手)32を介して接続された中間ステアリング軸34と、前記中間ステアリング軸34にユニバーサルジョイント(自在継手)36を介して接続された第2ステアリング軸38とを有する。
【0025】
第2ステアリング軸38は、ステアリングコラム40に固着された軸受42によって回転自在に支持されている。第2ステアリング軸38には、該第2ステアリング軸38に作用する操舵トルクを検出するトルクセンサ44が設けられている。トルクセンサ44の検出信号は電子制御ユニット26に出力される。トルクセンサ44としては、例えば、磁歪式トルクセンサが用いられる。
【0026】
操舵ギヤ機構18は、第2ステアリング軸38に対して同軸となるように接続されたピニオン軸46と、前記ピニオン軸46の先端側に設けられたピニオンギヤ48と、前記ピニオンギヤ48に噛合するラックギヤ50を備えたラック52と、前記ラック52と前記各操向輪22L、22Rとを接続する左右一対のタイロッド54L、54Rと、前記ピニオンギヤ48及び前記ラック52を収容するギヤボックス56とを有する。ピニオン軸46は、ステアリングコラム40に固着された軸受58とギヤボックス56に固着された軸受60とによって回転自在に支持されている。
【0027】
図2に示すように、操舵アシスト部20は、モータ部62と、前記モータ部62の回転駆動力を前記ピニオン軸46に伝達するためのウォームギヤ装置10とを有する。モータ部62は、モータケース64と、前記モータケース64内に配設された環状のステータ66と、前記ステータ66内に配設されたロータ68と、前記モータケース64が取り付けられる支持部材70とを有する。
【0028】
ステータ66は、積層鉄心72と、前記積層鉄心72に設けられたインシュレータ74と、前記インシュレータ74を介して前記積層鉄心72に巻回されるコイル76とを含む。コイル76は、ケーブルハーネス78を介して電子制御ユニット26(図1参照)に電気的に接続している。
【0029】
ロータ68は、モータケース64に固着された軸受80と支持部材70に固着された軸受82とによって回転自在に支持されている。ロータ68のうちステータ66に対向する外周面には、複数のマグネット84が配設されている。
【0030】
支持部材70の一端部には、Oリング86が装着された状態でモータケース64の他端部が取り付けられている。支持部材70には、ロータ68の回転数を検出する回転数センサ88が軸受82に近接して設けられている。この回転数センサ88の検出信号は、ケーブルハーネス90を介して電子制御ユニット26に出力される。支持部材70の他端部には、Oリング92が装着された状態で後述するギヤハウジング94の一端部が複数の締結ねじ(締結部材)93にて締結されている。
【0031】
ウォームギヤ装置10は、ギヤハウジング94と、ピニオン軸46に一体回転可能な状態で固定される芯金部96を有して環状の歯車として構成されるウォームホイール98と、前記ウォームホイール98の歯100に噛合する螺旋歯102を有するウォーム軸104と、前記ギヤハウジング94の内壁面に設けられて前記ウォーム軸104を回転自在に支持する第1軸受106と第2軸受108とを有する。
【0032】
ギヤハウジング94、ステアリングコラム40、及びギヤボックス56は、一体的に構成されている(図1参照)。ウォーム軸104の一端部は、該ウォーム軸104の軸線がロータ68の軸線上に位置した状態で、該ロータ68の他端部にセレーション嵌合している。これにより、ロータ68の回転駆動力をウォーム軸104に対して円滑且つ確実に伝達させることができる。
【0033】
ウォーム軸104は、該ウォーム軸104の一端側に形成された一定外径の第1装着部110と、前記第1装着部110と前記螺旋歯102の間に形成された第1フランジ112と、前記螺旋歯102の他端に形成された第2フランジ114と、前記第2フランジ114よりも他端側に形成された一定外径の第2装着部116とを含む。
【0034】
図3及び図4に示すように、第1軸受106は、転がり軸受として構成されており、内輪118と、前記内輪118を囲繞する外輪120と、前記内輪118と前記外輪120との間に配設された複数の転動体122と、これら転動体122を前記内輪118の周方向に沿って等間隔離間した状態で転動可能に保持する一対の保持器124と、前記内輪118と前記外輪120との間の空間に異物等が混入することを防止するための一対のシールド部材126とを含む。
【0035】
内輪118は、第1フランジ112に当接した状態で第1装着部110に圧入して固定されている。内輪118の外周面には、その周方向に沿って円弧状の軌道溝(転動面)128が形成され、外輪120の内周面には、その周方向に沿って円弧状の軌道溝(転動面)130が形成され、これら軌道溝128、130に複数の転動体122が転動可能に配設されている。外輪120は、固定ねじ(固定部材)132によってギヤハウジング94に固定されている。具体的には、外輪120の他端面をギヤハウジング94に形成された段差部134に当接させた状態で前記固定ねじ132を締め付けることにより該外輪120をギヤハウジング94に固定している。固定ねじ132は、例えば、ギヤハウジング94の内壁面に螺合した状態(締め付けた状態)で、その一端部を加締めることにより回り止め処置が施されている。
【0036】
このように、第1軸受106の内輪118がウォーム軸104の第1装着部110に圧入して固定されると共に外輪120が固定ねじ132によってギヤハウジング94に固定されているので、例えば、ロータ68の回転方向を切り替えた際にウォームホイール98からウォーム軸104にその軸線方向に沿った反力が作用した場合であっても、ウォーム軸104が軸線方向に沿って移動することはない。よって、伝達トルクに変動が生じたり、ウォーム軸104が移動して打撃音が発生したりすることを好適に抑えることができる。また、内輪118と第1装着部110との間に隙間がないため、ウォーム軸104が振動して作動音が発生することも抑えられる。
【0037】
第2軸受108は、転がり軸受として構成されており、第2フランジ114に非接触の状態で第2装着部116に設けられた内輪136と、ギヤハウジング94の内壁面に軽圧入して固定された外輪138と、前記内輪136と前記外輪138との間に配設された複数の転動体140とを含む。
【0038】
電子制御ユニット26は、トルクセンサ44の出力信号、回転数センサ88の出力信号、及び車速センサ24の出力信号に基づいて、目標モータ電流を演算し、該目標モータ電流をモータ部62のコイル76に通電するための駆動電圧(PWM信号)をモータ部62に印加する。
【0039】
また、電子制御ユニット26は、実際にコイル76に通電された実モータ電流を該電子制御ユニット26に設けられた図示しない電流センサにて検出し、該電流センサにて検出された実モータ電流と目標モータ電流とが一致するようにPI制御を行うことによりモータ部62に動力を発生させる。バッテリ28は、電子制御ユニット26に電力を供給する。
【0040】
以上のように構成されたステアリング装置12では、電子制御ユニット26がモータ部62を駆動制御してロータ68を回転駆動すると、該ロータ68の回転駆動力が、ウォーム軸104及びウォームホイール98を介してピニオン軸46に減速した状態で伝達されるため、運転者の操舵負荷を軽減することができる。
【0041】
次に、ウォームギヤ装置10の製造方法について主に図5〜図10を参照しながら説明する。図5に示すように、先ず、第2軸受108を予め組み立てた状態(内輪136と外輪138との間に複数の転動体140を装着した状態)で、該第2軸受108の外輪138をギヤハウジング94の他端側の内壁面に軽圧入して固定する(ステップS1)。
【0042】
続いて、ピニオン軸46に一体回転可能に固定されたウォームホイール98をギヤハウジング94内に配設する(ステップS2)。
【0043】
その後、図6に示すように、第1装着部110、第1フランジ112、螺旋歯102、第2フランジ114、及び第2装着部116が形成されたウォーム軸104の第1装着部110に第1軸受106を構成する内輪118のみを圧入して固定する(ステップS3)。
【0044】
このとき、圧入締め代は、比較的大きく設定され、例えば、ウォーム軸104の回転時にウォームホイール98からの反力が作用した場合であっても、該内輪118がその軸線方向に沿って該ウォーム軸104に対して相対変位しない程度の大きさに設定される。
【0045】
これにより、操向ハンドル14がハンドルロックエンドまで回転した時にウォームホイール98とウォーム軸104との間にモータ慣性力による衝撃荷重が作用した場合でも、内輪118が軸線方向に沿ってウォーム軸104に対して相対的に変位しないようにすることができる。
【0046】
ここで、圧入締め代は、該圧入締め代をδ、第1装着部110の外径をd1、内輪118の内径をd2とした場合、δ=d1−d2(d1>d2)の式で得られる値のことをいう。
【0047】
その後、第1装着部110に圧入されることで径方向外側に拡径(膨張)した内輪118の軌道径d3を取得する(ステップS4、図7A参照)。このステップS4では、例えば、所定の測定器を用いて内輪118の軌道径d3を直接的に測定してもよいし、第1装着部110に圧入された内輪118の軌道溝128に測定用基準ピン(円筒部材又は玉部材)142を配置し、いわゆるオーバーピン法によってオーバーピン径d4を測定して軌道径d3を算出してもよい(図7B参照)。
【0048】
なお、このステップS4では、図7Cに示すように、第1装着部110に圧入された状態の内輪118の外径d5を測定しても構わない。要は、圧入により拡径した内輪118の径方向に沿った寸法を取得することができればよい。
【0049】
次に、図8に示すように、ステップS4にて取得された内輪118の軌道径d3(外径d5)に対応する外径を有する複数の転動体122と、該軌道径d3(外径d5)に対応する軌道径(外径)を有する外輪120を該内輪118に対して組み付ける(ステップS5)。
【0050】
具体的には、図9に示すように、内輪118に複数の転動体122と外輪120とを組み付けた状態で、内輪118の径方向における転動体122と外輪120(内輪118)との間隔Lが所定値となるように、所定の外径を有する複数の転動体122と所定の軌道径(外径)を有する外輪120を選択して内輪118に組み付ける。
【0051】
そして、図10に示すように、一対の保持器124を複数の転動体122に対して組み付けた後に、一対のシールド部材126を内輪118及び外輪120に対して組み付ける(ステップS6)。これにより、第1軸受106のウォーム軸104の第1装着部110への組み付けが完了する。
【0052】
続いて、第1軸受106が圧入されたウォーム軸104の他端部をギヤハウジング94の他端側の内壁面に軽圧入されている第2軸受108の内輪136の内腔に挿入し、該ウォーム軸104の第2装着部116を第2軸受108の内輪136に配設する(ステップS7)。このとき、第1軸受106を構成する外輪120の他端面はギヤハウジング94の段差部134に当接する。なお、該第2軸受108を構成する内輪136と第2装着部116との間には、若干の隙間が形成されている。
【0053】
その後、固定ねじ132をギヤハウジング94に締め付けることによって第1軸受106の外輪120を該ギヤハウジング94に固定する(ステップS8)。そして、ギヤハウジング94内に配設されたウォーム軸104の一端部をモータ部62のロータ68の他端部にセレーション嵌合し、該ギヤハウジング94と支持部材70とを締結ねじ93にて締結する(ステップS9)。この段階で、本実施形態に係るウォームギヤ装置10の製造が完了する。
【0054】
本実施形態によれば、第1軸受106の内輪118のみをウォーム軸104の第1装着部110に圧入して固定する圧入工程(ステップS3)と、該第1装着部110に圧入した該内輪118に対して複数の転動体122と外輪120とを組み付ける組付工程(ステップS5)とを行うことによりウォームギヤ装置10を製造している。
【0055】
そのため、前記圧入工程において、内輪118と第1装着部110の圧入締め代を大きく設定した状態で該内輪118を該第1装着部110に圧入した場合であっても、該内輪118の拡径度合いに応じて該内輪118に組み付ける複数の転動体122と外輪120を容易に変更することができる。これにより、圧入された内輪118(第1軸受106)がウォーム軸104に対して軸線方向に沿って相対的に変位することを抑えることができると共に、該第1軸受106の予圧が大きくなり過ぎること(転動体122に生じる摩擦力が必要以上に増大すること)を防止することができる。よって、ウォームギヤ装置10が低寿命化することもない。
【0056】
また、このようにして製造されるウォームギヤ装置10では、内輪118と第1装着部110との結合力を高めることができ、第1軸受106がウォーム軸104に対して軸線方向に沿って変位することを阻止するための止め輪等を設ける必要がないため、部品点数が増加することはない。さらに、従来技術のように、ウォーム軸104に軌道溝を形成する必要も無いため、製造コストの高騰化を抑えることができる。
【0057】
本実施形態によれば、前記圧入工程の後に、第1装着部110に圧入された内輪118の径方向に沿った寸法(軌道径d3又は外径d5)を取得する寸法取得工程(ステップS4)を行い、該寸法に対応した外径を有する複数の転動体122と該寸法に対応した径方向に沿った寸法(軌道径又は外径)を有する外輪120とを該内輪118に対して組み付けているので、第1軸受106の径方向において転動体122と外輪120(内輪118)との間に所定の隙間を設けて該第1軸受106の予圧を適度な大きさにすることができる。
【0058】
本発明は、上述した実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることは当然可能である。
【0059】
例えば、ウォームギヤ装置10は、ステアリング軸部16に対して装着されるようにしてもよい。すなわち、例えば、ウォームホイール98の芯金部96を第1ステアリング軸30に一体回転可能に固定してもよい。
【0060】
また、本発明に係るウォームギヤ装置の製造方法は、電動式パワーステアリング装置に組み込まれるウォームギヤ装置の製造方法に限定されることはなく、種々のウォームギヤ装置の製造に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0061】
10…ウォームギヤ装置 12…電動式パワーステアリング装置
62…モータ部 68…ロータ
94…ギヤハウジング 96…芯金部
98…ウォームホイール 102…螺旋歯
104…ウォーム軸 106…第1軸受(転がり軸受)
108…第2軸受 110…第1装着部
116…第2装着部 118…内輪
120…外輪 122…転動体
124…保持器 126…シールド部材
132…固定ねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウォーム軸と前記ウォーム軸を回転自在に支持するための転がり軸受とを備えるウォームギヤ装置の製造方法において、
前記転がり軸受の内輪を前記ウォーム軸に圧入して固定する圧入工程と、
前記ウォーム軸に圧入した前記内輪に対して前記転がり軸受の転動体と外輪とを組み付ける組付工程と、
を行うことを特徴とするウォームギヤ装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のウォームギヤ装置の製造方法において、
前記ウォーム軸に圧入された状態の前記内輪の径方向に沿った寸法を取得する寸法取得工程を前記圧入工程と前記組付工程との間に行い、
前記組付工程では、前記寸法取得工程にて取得された前記内輪の前記寸法に対応した外径を有する転動体と該寸法に対応した径方向に沿った寸法を有する外輪とを前記内輪に組み付けることを特徴とするウォームギヤ装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−113427(P2013−113427A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263162(P2011−263162)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】