説明

ウォームホイール

【課題】構造が簡単であり、金属と樹脂との連結強度が高く且つクラックの発生を抑制することができるウォームホイールを提供する。
【解決手段】ウォームホイール1が環状のウォームホイール本体2を備え、ウォームホイール本体2が金属軸4をインサートして成形された環状の樹脂部6を備える。金属軸4の外周4aは、円筒面の一部である第1主面7と、第1主面7から径方向X1の外方へ突出する凸部8とを含む。凸部8は、第1凸湾曲部21と、第1凸湾曲部21を金属軸4の周方向Y1に挟んだ両側に配置された一対の第2凸湾曲部22と、各第2凸湾曲部22を第1主面7に接続し、第1主面7に所定の交差角度θで交差する一対の断面直線状部23とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はウォームホイールに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、金属製の歯部と、金属製の軸部と、それらの金属製の歯部および金属製の軸部を金型内にインサートして成形され、歯部および軸部を連結する樹脂部材とを備えるウォームホイールが提案されている。
特許文献2では、合成樹脂製のウォームホイールと金属製の軸とをセレーション結合する構造が提案されている。
【0003】
特許文献3では、金属製の保持体を金型内にインサートして樹脂製の歯部を成形するウォームホイールにおいて、保持体の外周面に波形状の凹凸を形成する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−112553号公報
【特許文献2】実開平5−16458号公報
【特許文献3】特開2002−145086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、金属製の歯部を用いることで耐久性を向上させ、また、金属製の歯部および金属製の軸部間に樹脂を介在させることで、歯打ち音を低減することができるという利点がある。
ところで、金属製の軸と樹脂部材との結合に関して、特許文献2のようなセレーション結合を用いた場合、高トルクの負荷を受けたときに、樹脂部材のセレーション部において、クラックを発生し易い。また、高トルクの負荷を受けたときに、樹脂部材の内周のセレーション部が削り取られて、空回りを生ずるおそれがある。
【0006】
一方、特許文献3のように、金属軸と樹脂部材との間を波形部付きの金属製の保持体で連結する技術を、特許文献1に適用した場合、構造が複雑となる。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、構造が簡単であり、金属と樹脂との連結強度が高く且つクラックの発生を抑制することができるウォームホイールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、外周(2a)に歯(3)が形成された環状のウォームホイール本体(2)と、前記ウォームホイール本体の内周(2b)に結合された外周(4a)を有する金属軸(4;4A;4B)と、を備え、前記ウォームホイール本体は、前記金属軸をインサートしての樹脂成形によって前記金属軸に固定された環状の樹脂部(6;6A;6B)を含み、前記金属軸の外周は、円筒面の一部である第1主面(7)と、前記第1主面から径方向(X1)の外方へ突出する凸部(8;8A;8B)と、を含み、前記樹脂部の内周(6b)は、前記第1主面に沿う第2主面(9)と、前記凸部に嵌合する凹部(10)と、を有し、前記凸部は、第1凸湾曲部(21)と、前記第1凸湾曲部を前記金属軸の周方向(Y1)に挟んだ両側に配置された一対の第2凸湾曲部(22;22A)と、各第2凸湾曲部を前記第1主面に接続し、前記第1主面に所定の交差角度(θ)で交差する一対の断面直線状部(23)と、を有し、各第2凸湾曲部と第1凸湾曲部とは、互いの接続部(24)において接線(CL1)を共有し、各第2凸湾曲部と対応する断面直線状部とは、互いの接続部(25)において接線(CL2)を共有し、前記第2凸湾曲部の曲率半径(R2)が、前記第1凸湾曲部の曲率半径(R1)よりも小さくされているウォームホイール(1)を提供するものである。
【0008】
なお、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素等を表すが、このことは、むろん、本発明がそれらの実施形態に限定されるべきことを意味するものではない。以下、この項において同じ。
請求項2のように、前記第1凸湾曲部および各前記第2凸湾曲部は、断面円弧状部であってもよい。
【0009】
請求項3のように、各前記第2凸湾曲部は、順次に連接された径の異なる複数の断面円弧状部(31,32,33)を含み、前記複数の断面円弧状部の曲率半径(Q1,Q2,Q3)は、断面直線状部に近づくにしたがって小さくされていてもよい。
請求項4のように、ウォームホイール中心(C1)を中心とし、前記凸部の突出方向の中央位置を通過する円周(P1)上において、前記樹脂部が占める周長が、前記金属軸が占める周長よりも長くされていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明は、下記のような知見に基づいてなされた。すなわち、金属軸の外周に、湾曲状の凸部を設ける場合において、金属軸に対する樹脂部の空回りを抑制できるのに必要な凸部の突出量を確保しつつ、且つクラックを抑制できる程度に凸部と金属軸の第1主面との交差角度を小さくするためには、曲率半径の大きな凸部を用いることが好ましい。この観点から、請求項1の発明では、曲率半径が相対的に大きい第1凸湾曲部を有する凸部を用いるが、仮に、第1凸湾曲部の両端を第1主面に直接接続した場合、交差角度がばらつくおそれがある。
【0011】
そこで、凸部の両端に設けられた断面直線状部が第1主面と交差するようにした。これにより、交差角度をクラックの発生を抑制できる角度に精度良く且つ容易に設定することができる。また、第1凸湾曲部の端部と対応する断面直線状部とは、両者に対して接線を共有する第2凸湾曲部を介して連接されるので、応力集中が生ずることを抑制することができる。
【0012】
また、インサート成形の最終段階で樹脂が硬化するときに熱収縮力が発生するが、これを相対的に大きい曲率半径を有する第1凸湾曲部によって主に受けることができるので、樹脂部に発生する熱収縮応力を低減することができる。この点からも交差部分からのクラック発生を抑制することができる。
また、金属製の軸部と樹脂部が直接嵌合するので、特許文献3のように金属製の保持体を介在させる場合と比較して、構造を簡素化することができる。
【0013】
請求項2の発明によれば、第1凸湾曲部および第2凸湾曲部が断面円弧状部であるので、製造し易い。
請求項3の発明によれば、第2凸湾曲部として順次に連接された径の異なる複数の断面円弧状部を用いるので、第1湾曲凸部の端部と対応する断面直線状部とを滑らかにに接続することができる。応力集中が生ずることを一層抑制することができる。
【0014】
請求項4の発明は下記のような知見に基づいてなされた。すなわち、請求項1〜3のように交差角度を精度良く所定の角度に設定して交差部分からのクラックを生じ難くしたウォームホイールを用いて、最弱部位を探すためのトルク負荷試験を実施したところ、クラックが発生する部位が、凸部の突出方向の中央位置に対向する樹脂部の部分となった。そこで、凸部の突出方向の中央位置を通過する円周上において、樹脂部が占める周長を金属軸が占める周長よりも長くすることで、樹脂部の実質的な強度を向上させて、全体としての耐クラック性を向上させた。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態のウォームホイールの部分断面正面図である。
【図2】軸方向に沿って切断されたウォームホイールの要部の断面図である。
【図3】ウォームホイール本体の樹脂部と金属軸との結合部分を拡大した断面図である。
【図4】図3の樹脂部と金属軸との結合部分をさらに拡大した断面図である。
【図5】本発明の別の実施形態のウォームホイールの要部の拡大断面図である。
【図6】本発明のさらに別の実施形態のウォームホイールの要部の部分断面正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下には、図面を参照して、本発明の実施形態を具体的に説明する。
図1は本発明の一実施形態のウォームホイールの部分断面正面図であり、図2は軸方向に沿って切断されたウォームホイールの断面図である。図1に示すように、ウォームホイール1は、外周2aに歯3が形成された環状のウォームホイール本体2と、ウォームホイール本体2の内周2bに結合された外周4aを有する金属軸4とを備えている。
【0017】
ウォームホイール本体2は、外周5a(ウォームホイール本体2の外周2aに相当)に歯3を複数周方向に並べて形成した環状の金属歯体5と、金属軸4および金属歯体5をインサートしての樹脂成形によって金属軸4および金属歯体5に固定された環状の樹脂部6とを備えている。
金属軸4の外周4aは、円筒面の一部である第1主面7と、第1主面7から径方向X1の外方へ突出する凸部8とを備えている。凸部8は複数設けられ、金属軸4の周方向Y1に等間隔に配置されている。一方、樹脂部6の内周6bは、第1主面7に沿う第2主面9と、凸部8に嵌合する凹部10とを備えている。
【0018】
金属歯体5の内周5bには、複数の結合歯11が周方向に等間隔に設けられており、各結合歯11は、円盤状をなし樹脂部6の外周6aにインサート成形により結合されている。
図2に示すように、結合歯11は、金属歯体5の軸方向Z1の中央部に設けられている。結合歯11の一対の側面11aは径方向X1に対して互いに逆向きに傾斜しており、一対の側面11a間の幅が径方向X1の内方に向かうにしたがって拡がるようになっている。
【0019】
図1および図2に示すように、樹脂部6の一対の側面6cのそれぞれには、複数の放射状に延びる凹溝12が形成され、隣接する凹溝12間に、放射状に延びるリブ13が設けられている。
樹脂部6と金属軸4との結合部分を拡大した断面図である図3に示すように、凸部8は、第1凸湾曲部21と、第1凸湾曲部21を金属軸4の周方向Y1に挟んだ両側に配置され、一端221が第1凸湾曲部21の対応する端部211に接続された一対の第2凸湾曲部22と、各第2凸湾曲部22の他端222を第1主面7に接続し、第1主面7に所定の交差角度θで交差する一対の断面直線状部23とを有している。
【0020】
樹脂部6と金属軸4との結合部分をさらに拡大した断面図である図4に示すように、各第2凸湾曲部22と第1凸湾曲部21とは、互いの接続部24において、接線CL1を共有している。また、各第2凸湾曲部22と対応する断面直線状部23とは、互いの接続部25において、接線CL2を共有している。
図3に示すように、第1凸湾曲部21および各第2凸湾曲部22は、断面円弧状部に形成されている。また、各第2凸湾曲部22の曲率半径R2が、第1凸湾曲部21の曲率半径R1よりも小さくされている。
【0021】
本実施形態によれば、下記の作用効果を奏する。金属軸4の外周4aに、湾曲状の凸部8を設ける場合において、金属軸4に対する樹脂部6の空回りを抑制できるのに必要な凸部8の突出量を確保しつつ、且つクラックを抑制できる程度に凸部8と金属軸4の第1主面7との交差角度を小さくするためには、曲率半径の大きな凸部8を用いることが好ましい。この観点から、本実施形態では、相対的に大きい曲率半径R1を有する第1凸湾曲部21を用いるが、仮に、第1凸湾曲部21の一対の端部211,212を第1主面7に直接接続した場合、交差角度θがばらつくおそれがある。
【0022】
そこで、凸部8の両端に断面直線状部23を設け、その断面直線状部23が第1主面7と交差するようにした。これにより、交差角度θをクラックの発生を抑制できる角度に精度良く且つ容易に設定することができる。
また、第1凸湾曲部21の各端部211,212と対応する断面直線状部23とは、両者21,23に対して接線CL1(CL2)を共有する第2凸湾曲部22を介して連接されるので、応力集中が生ずることを抑制することができる。
【0023】
また、インサート成形の最終段階で樹脂が硬化するときに熱収縮力が発生するが、これを相対的に大きい曲率半径を有する第1凸湾曲部21によって主に受けることができるので、樹脂部6に発生する熱収縮応力を低減することができる。この点からも交差部分からのクラック発生を抑制することができる。
また、金属軸4とウォームホイール本体2の樹脂部6とが直接嵌合するので、特許文献3のように金属製の保持体を介在させる場合と比較して、構造を簡素化することができる。
【0024】
また、第1凸湾曲部21および各第2凸湾曲部22が断面円弧状部であるので、製造し易い。
次いで、図5は本発明の別の実施形態のウォームホイールの要部を示している。図5を参照して、本実施形態が図3の実施形態と異なるのは、図3の実施形態の金属軸4の凸部8では、各第2凸湾曲部22が単一の断面円弧状部で構成されていたのに対して、図5の実施形態の金属軸4Aの凸部8Aでは、各第2凸湾曲部22Aが、順次に連接された径の異なる3つの断面円弧状部31,32,33で構成されている点である。
【0025】
断面円弧状部31,32,33の曲率半径Q1,Q2,Q3は、第1凸湾曲部21の曲率半径R1よりも小さく、また、断面円弧状部31、断面円弧状部32および断面円弧状部33の順で、断面直線状部23に近づくにしたがって小さくされている(Q1>Q2>Q3)。
本実施形態によれば、第1湾曲凸部21の端部211,212と対応する断面直線状部23とを滑らかに接続することができるので、樹脂部6Aに応力集中が生ずることを一層抑制することができる。なお、各第2凸湾曲部22Aを構成する断面円弧状部の数は、2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。
【0026】
次いで、図6は本発明のさらに別の実施形態のウォームホイールの要部を示している。図5に示すように、ウォームホイール中心C1を中心とし、金属軸4Bの凸部8Bの突出方向の中央位置を通過する円周P1上において、樹脂部6Bが占める周長が、金属軸4Bが占める周長よりも長くされている。
本実施形態によれば、凸部8Bの突出方向の中央位置を通過する円周P1上において、樹脂部6Bが占める周長を金属軸4Bが占める周長よりも長くしてあるので、樹脂部6Bの実質的な強度を向上させて、全体としての耐クラック性を向上させることができる。これは、交差角度θを所定の角度に精度良く設定して交差部分からのクラックを生じ難くしたウォームホイールを用いて、最弱部位を探すためのトルク負荷試験を実施したところ、クラックを発生する部位が、凸部8Bの突出方向の中央位置に対向する樹脂部6Bの部分であったという知見に基づく。
【0027】
本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の請求項記載の範囲内で種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0028】
1…ウォームホイール、2…ウォームホイール本体、2a…外周、2b…内周、3…歯、4;4A;4B…金属軸、4a…外周、5…金属歯体、5a…外周、6;6B…樹脂部、6b…内周、7…第1主面、8;8A;8B…凸部、9…第2主面、10…凹部、21…第1凸湾曲部、22;22A…第2凸湾曲部、23…断面直線状部、24,25…接続部、31,32,33…断面円弧状部、C1…ウォームホイール中心、CL1,CL2…接線、P1…円周、Q1,Q2,Q3…(断面円弧状部の曲率半径)、R1…(第1凸湾曲部の)曲率半径、R2…(第2凸湾曲部の)曲率半径、X1…径方向、Y1…周方向、Z1…軸方向、θ…交差角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に歯が形成された環状のウォームホイール本体と、
前記ウォームホイール本体の内周に結合された外周を有する金属軸と、を備え、
前記ウォームホイール本体は、前記金属軸をインサートしての樹脂成形によって前記金属軸に固定された環状の樹脂部を含み、
前記金属軸の外周は、円筒面の一部である第1主面と、前記第1主面から径方向の外方へ突出する凸部と、を含み、
前記樹脂部の内周は、前記第1主面に沿う第2主面と、前記凸部に嵌合する凹部と、を有し、
前記凸部は、第1凸湾曲部と、前記第1凸湾曲部を前記金属軸の周方向に挟んだ両側に配置された一対の第2凸湾曲部と、各第2凸湾曲部を前記第1主面に接続し、前記第1主面に所定の交差角度で交差する一対の断面直線状部と、を有し、
各第2凸湾曲部と第1凸湾曲部とは、互いの接続部において接線を共有し、
各第2凸湾曲部と対応する断面直線状部とは、互いの接続部において接線を共有し、
前記第2凸湾曲部の曲率半径が、前記第1凸湾曲部の曲率半径よりも小さくされているウォームホイール。
【請求項2】
請求項1において、前記第1凸湾曲部および各前記第2凸湾曲部は、断面円弧状部であるウォームホイール。
【請求項3】
請求項2において、各前記第2凸湾曲部は、順次に連接された径の異なる複数の断面円弧状部を含み、
前記複数の断面円弧状部の曲率半径は、断面直線状部に近づくにしたがって小さくされているウォームホイール。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項において、ウォームホイール中心を中心とし、前記凸部の突出方向の中央位置を通過する円周上において、前記樹脂部が占める周長が、前記金属軸が占める周長よりも長くされているウォームホイール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−61004(P2013−61004A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199345(P2011−199345)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】