説明

ウレタン塗膜防水用下張りシート用表面材

【課題】 建築物の屋上等において用いられる、コンクリート下地とウレタン塗膜防水層との間に積層されるウレタン塗膜防水用下張りシートにおいて、ウレタン塗膜防水層との接着強度を向上させるとともに、表面材とシート部の接着強度を向上させる。
【解決手段】 ウレタン塗膜防水用下張りシートは、上方から(コンクリート下地に貼付した際、表面となる側から)ポリウレタン樹脂層1、基材フィルム層2、PE樹脂層3、不織布等の繊維状物4、改質アスファルト層5及び自己粘着層6が順次積層されている。ポリウレタン樹脂層は、有機溶剤に溶解したポリウレタン樹脂をグラビアロールで塗布することにより積層されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の屋上等において設けられる防水層に関し、更に詳しくは防水層に使用されるウレタン塗膜防水材を施工するための下張りシート用の表面材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物の屋上には雨水等の浸入を防止するために防水層が設けられており、この防水層を設けるための防水工法の一つとしてアスファルト防水熱工法がある。このアスファルト防水熱工法は、コンクリート等の下地面に、有機溶剤又はエマルジョン系のアスファルトプライマーを0.2〜0.4kg/m塗布し、このアスファルトプライマーが乾燥した後に、溶融釜で加熱溶解したJIS K2207に規定された防水工事用アスファルトを流し込んで覆うものである。
【0003】
しかしながら、このアスファルト防水熱工法は実績もあり、信頼性の高い工法であるが、コンクリート等の下地にアスファルトプライマーを塗布する前に、コンクリート等の下地が充分に乾燥していることが必要である。すなわち、この乾燥が不十分であると、下地と防水層との間の接着力が充分に得られないために、防水層が下地から剥離したり、また太陽熱等により下地から水蒸気が発生し、防水層に著しいフクレが発生したりするという不具合があった。このため下地が充分に乾燥するための養生期間が必要であり、新築建築の場合は完全に乾燥するのに約3ヶ月もの養生期間が必要である。また、梅雨時の雨の多い時期では新築でない場合であっても下地の充分な乾燥が難しく、防水施工に要する工期が長引くことになり、工期が遅れることとなってコスト的にも高価となる問題があった。さらに、防水工事用アスファルトを加熱溶融する際、バーナー等によって加熱するため火災や火傷等の危険性があり、更にはアスファルトからの煙や臭気により、都市等の住宅密集地では苦情が多発するという問題があった。
【0004】
このため、近年このような問題点を解決するため、改質アスファルト系の防水シートをコンクリート下地に貼り着けることが行われており(特許文献1、2、3参照)、また、アスファルト系の防水シートの表面にウレタンの塗膜防水層を形成する複合防水工法が行われるようになってきた。例えば、改質アスファルト系の防水シートに下地に接着する自己粘着層を部分的に設け、自己粘着層のない空間部が互いに連通するような凹部を形成するようにして下地に貼り、下地から発生した水蒸気が連通部を通って、外部に逃げるようにしてフクレを防止し、下地が完全に乾燥していなくとも防水工法が出来るようにして工期を短縮し、改質アスファルト系の表面にウレタン塗膜を形成するものである。
【0005】
ところで、改質アスファルト系の防水シートの表面にウレタン塗膜を形成させた場合、防水シートとウレタン塗膜の接着が弱いために、強固な防水層を長期間維持することが困難であった。そこで、施工現場で防水シートにプライマー処理を施したり、防水シートの表面に不織布や網状シート等の繊維質シートを積層したり、鉱物の粉粒を付着させたりして、防水シートとウレタン塗膜の接着性を向上させていた。
【0006】
しかしながら、上述した接着性を向上させる方法は、いずれも問題があり好ましいものではなかった。すなわち、プライマー処理するという方法では、現場でプライマー処理という作業が一工程増えることになり、施工効率が低下する問題があった。また、繊維質シートを積層する方法では、防水シートの表面が吸水性となり、防水シートの表面が吸水した状態ではウレタン塗膜を形成しても強固な接着が得られないものであり、さらに、吸水した水が太陽熱で蒸発して水蒸気となり、ウレタン塗膜層のフクレの原因となる。したがって、雨が降った場合は、防水シートを充分な時間をかけて乾燥させる必要があるので、降雨が予想される場合は、施工を延期しなければならず、施工の進展に影響を及ぼすという問題があった。鉱物の粉粒を付着させる方法では、付着粒子とウレタン塗膜成分液との濡れ性が悪く、付着粒子間にウレタン塗膜成分が侵入しにくいという問題があった。
【0007】
またウレタン塗膜防水材の技術が向上し、吹き付けタイプのウレタン防水材が近年急速に普及してきた。この場合直径8cm程度のホースをウレタン塗膜防水用下張りシート上にて引きずるように工事が進められる。表層不織布のタイプは耐摩耗性に弱く、フィルムのような毛羽立たない表層が求められるようになってきた。鉱物の粉粒を付着させる方法では、付着粒子とウレタン塗膜成分液との濡れ性が悪く、付着粒子間にウレタン塗膜成分が侵入しにくいという問題があった。
【0008】
【特許文献1】特開平11−152859号公報
【特許文献2】特開平11−236752号公報
【特許文献3】特開平10−315377号公報
【特許文献4】特許第2597490号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は以上の問題点を解決し、課題は施工現場での処理工程も増えず、雨天等の天候にも左右されず、又近年普及してきたウレタン吹き付け用のホースをウレタン塗膜防水用下張りシート上を引きずっても毛羽立たず、如何にウレタン塗膜防水材との接着を強固にするかにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述した課題を鋭意検討した結果、基材フィルム層にウレタン塗膜と接着性の優れたポリマー樹脂層を設けることにより解決することを見出して、本発明を完成するに至った。
【0011】
請求項1に係るウレタン塗膜防水用下張りシート用表面材は、基材フィルムの片面に有機溶剤に溶解したポリウレタン樹脂をグラビアロールで塗布したことを特徴として構成されている。
【0012】
請求項2に係るウレタン塗膜防水用下張りシート用表面材は、前記基材フィルムがポリウレタン樹脂との易接着性を付与されたPETフィルムであることを特徴として構成されている。
【0013】
請求項3に係るウレタン塗膜防水用下張りシート用表面材は、前記基材フィルムのポリウレタン樹脂が積層された面と反対の面に押出しPE樹脂によって寒冷紗、織物、不織布等の繊維状物が積層されたことを特徴として構成されている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係るウレタン塗膜防水用下張りシート用表面材においては、基材フィルム層の表面にポリウレタン樹脂層が設けられているので、その上に施工されるウレタン塗膜防水材と強固に接着し、ウレタン塗膜防水材が剥がれることはない。
【0015】
更に、ポリウレタン樹脂層が、有機溶剤に溶解したポリウレタン樹脂をグラビアロールで塗布することにより積層されているので、印刷スピード同様に120m/minの速度で形成することが出来、生産性に優れている。又、表面に不織布等の繊維状物がなく平滑なので、雨水があった場合でも水分を拭き取るだけで施工することが出来、近年普及してきたウレタン吹き付け用のホースを引きずっても毛羽立たず、問題なく、効率的にウレタン塗膜防水材を施工できる。
【0016】
請求項2に係るウレタン塗膜防水用下張りシート用表面材に於いては、前記基材フィルムがポリウレタン樹脂との易接着性を付与されたPETフィルムを用いているので、ポリウレタン樹脂層を強固に積層することが出来る。
【0017】
請求項3に係るウレタン塗膜防水用下張りシート用表面材に於いては、前記基材フィルムのポリウレタン樹脂が積層された面と反対の面に、押出しPE樹脂によって、寒冷紗、織物、不織布等の繊維状物が積層されているので、溶融された改質アスファルトを積層することが出来、ウレタン塗膜防水用下張りシートとすることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
基材フィルムは、PEフィルム、PPフィルム、PETフィルム等を用いることができるが、PEフィルムやPPフィルムは力が加わると伸び易く、加工適性上からは伸びがなく、耐熱性の高いPETフィルムが最適である。基材フィルム層の厚みは、ポリウレタン樹脂層を強固に積層できれば充分であり、一般的に商品化されている12μm以上であれば特に制限されないが、コストの点から12μmが好ましい。
【0019】
また、基材フィルムは、ポリウレタン樹脂層との接着性を向上させるために易接着処理することが好ましい。易接着処理はコロナ処理機でコロナ処理を行い、接着に寄与する官能基(−COOH基、−CHO基、−OH基)を導入して易接着性を付与する。コロナ処理は30W・分/m以上が望ましく、好適には40W・分/m〜100W・分/mである。
【0020】
又、PETフィルムにポリウレタン樹脂と接着し易い樹脂もしくはコート剤をコートしたフィルムでも良く、更にポリウレタン樹脂と接着し易い樹脂もしくは成分をPET樹脂と共押出しした後、MD、TD方向に夫々2.5〜5.0倍二軸延伸後、熱固定されたPETフィルムでも良い。
【0021】
ポリウレタン樹脂層に用いるポリウレタン樹脂は、ジイソシアネートとジオールの重付加反応で作られる。ジイソシアネートとしてはTDI(トルレンジイソシアネート)やIPDI(イソフォロンジイソシアネート)が用いられ、ジオールとしては長鎖のポリエーテルやポリエステルが用いられる。
【0022】
ポリウレタン樹脂層を基材フィルム層に積層するには、有機溶剤に溶解したポリウレタン樹脂をグラビアロールで塗布することにより、又はポリウレタン樹脂をビヒクルとして含有する溶剤型のインキをグラビアロールで塗布することにより行う。有機溶剤としては一般的にトルエン、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコール等の混合溶剤が用いられ、ポリウレタン樹脂の濃度は、10〜30%が好ましい。濃度が10%未満であると、グラビアロールで塗布した時に塗布量が少なくなり防水ウレタンとの接着が悪くなる。また、30%を超えると、基材フィルムとポリウレタン樹脂層とからなる積層フィルムをロール状に巻いた時に、ブロッキングを起こしたり、また、有機溶剤に溶かした濃度が高くなると粘度も高くなるので、グラビアロールで塗布する適性粘度から外れることになる。
【0023】
ポリウレタン樹脂層の厚みは、0.3μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましい。ポリウレタン樹脂層の厚みが0.3μ未満であると、防水ウレタンと充分な接着性を得られない。ポリウレタン樹脂層の厚みは、基材フィルムへの塗布量で調整することができる。グラビアロールはそのスクリーン線数によって基材フィルムに転移する塗布量が異なってくるので、濃度とスクリーン線数から0.5μm以上の厚みの塗布量とすることが必要である。表1にヘリオ彫刻(スタイラス角度130度)によるスクリーン線数と版深と転移量との関係を示す。
【0024】
【表1】

例えば、ポリウレタン樹脂の濃度が10%であれば、厚み0.5μm(0.5g/m)以上の塗布量を得るためには、0.5g/0.1=5.0g/m、ウエットが必要となり、スクリーン線数200線より小さなスクリーン線数が選ばれる。
【0025】
ポリウレタン樹脂が塗布された基材フィルムは乾燥工程で乾燥される。風量は60〜80m/minとし、熱風温度は60〜80℃、乾燥スピード80〜120m/minで乾燥される。
【0026】
以上のようなポリウレタン樹脂層が積層された基材フィルムのポリウレタン樹脂層と反対の面に、改質アスファルト層、連通した凹部を有する自己粘着層が積層されている。
【0027】
また、この自己粘着層には、連通した凹部を有しているが、この凹部は、コンクリート下地から発生した水蒸気を外部へ逃がすことができれば、その形状は特に限定されない。
【0028】
基材フィルム層に改質アスファルト層と自己粘着層とを積層するには、例えば、基材フィルムにPE樹脂を押出しながら不織布を貼合し、この不織布面にポリマー改質アスファルトを押出しながら厚さ0.8mm〜1.0mmになるように改質アスファルト層を積層する。
【0029】
不織布の目付量は改質アスファルト層の積層のためには、10g〜50g/mでも良いが、ウレタン防水用下張りシートの補強のためには30g〜200g/mを用いる。
【0030】
次に、この改質アスファルト層に、溶かした粘着用改質アスファルトを連通した凹部を形成するように部分的に押出して自己粘着層を積層する。
【0031】
本発明のウレタン塗膜防水用下張りシート用表面材の層構成を図1に、それを用いたウレタン塗膜防水用下張りシートを図2に示す。
【0032】
図1に示すウレタン塗膜防水用下張りシート用表面材は、上方(ウレタン塗膜防水材と接触する面)からポリウレタン樹脂層1、基材フィルム層2、PE樹脂層3、寒冷紗、織物、不織布等の繊維状物4が順次積層されている。
【0033】
図2に示すウレタン塗膜防水用下張りシートは、更に改質アスファルト層5、自己粘着層6が積層され、自己粘着層6には、連通した凹部7が形成されている。
【実施例】
【0034】
版胴にヘリオの電子彫刻で彫られた(スタイラス角度130度、スクリーン線数150線)ベタ印刷用のグラビアロールを、中島精機エンジニアリング(株)製「GX−3−4」の印刷機にセットし、インキ用のポリウレタン樹脂をトルエン(40%)+MEK(40%)+IPA(20%)の混合溶剤に溶かし、粘度ザーンカップNO.3で17秒のポリウレタン溶液を調整した。この時ポリウレタン樹脂の濃度は15%であった。一方、易接着処理されたPETフィルムの易接着面にコロナ処理60W・分/mをかけ、厚さ12μm、巾1000mm、長さ1000mをセットし、その易接着処理面にスピード100m/min、熱風温度70℃、風量75m/minの条件で塗布を行った。このときポリウレタン溶液の転移量は表1から9.0g/m、ウエットとなる。濃度が15%なのでポリウレタンの塗布量は9.0g×0.15=1.35g/mドライとなる。
【0035】
このポリウレタン樹脂の塗布面と反対の面にPE樹脂を押出しながらPEの不織布を積層した。次に、このPE不織布層にポリマー改質アスファルトを押出しながら厚さ0.9mmで改質アスファルト層を積層し、さらに、このポリマー改質アスファルト層に溶かした粘着用改質アスファルトを連通した凹部を形成するようにして厚さ0.5mmの自己粘着層を積層し、ポリウレタン樹脂層/PETフィルム層/PE樹脂層/PE不織布層/ポリマー改質アスファルト層/自己粘着層からなるウレタン塗膜防水用下張りシートを作製した。
【0036】
次にこのウレタン塗膜防水用下張りシートを厚さ100mmのコンクリートを打設し、打設5日後の未だ完全に乾燥せず中に水分が残っているコンクリートの表面に、自己粘着層が接するように被せ、圧力をかけながら貼着した。
【0037】
そして、このウレタン塗膜防水用下張りシートの表面(ポリウレタン樹脂層)にJISA6021ウレタンゴム系1類に規定される防水材を厚さ1.3mmになるように塗布し、次いで更に1.3mm、計2.6mmになるように塗布して塗膜防水層を形成し、複合防水層とした。
【0038】
これを自然の天候下に放置し、3ケ月後、6ケ月後の外観を観察したが、いずれの場合も塗膜防水層が防水シートから剥がれることが無く、また手で剥がそうとしても剥離させることは出来なかった。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】ウレタン塗膜防水用下張りシート用表面材
【図2】ウレタン塗膜防水用下張りシート
【符号の説明】
【0040】
1 ポリウレタン樹脂層
2 基材フィルム層
3 PE樹脂層
4 寒冷紗、織物、不織布等の繊維状物
5 改質アスファルト層
6 自己粘着層
7 連通した凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの片面に有機溶剤に溶解したポリウレタン樹脂をグラビアロールで塗布したことを特徴とするウレタン塗膜防水用下張りシート用表面材。
【請求項2】
前記基材フィルムがポリウレタン樹脂との易接着性を付与されたPETフィルムであることを特徴とする請求項1記載のウレタン塗膜防水用下張りシート用表面材。
【請求項3】
前記基材フィルムのポリウレタン樹脂が積層された面と反対の面に押出しPE樹脂によって寒冷紗、織物、不織布等の繊維状物が積層されたことを特徴とする請求項1又は2記載のウレタン塗膜防水用下張りシート用表面材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−133671(P2008−133671A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321041(P2006−321041)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(594146180)中本パックス株式会社 (40)
【出願人】(592034489)新興産業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】