説明

ウレタン変性水希釈性アルキド樹脂

多価アルコールA、オレフィン性不飽和カルボン酸B2を脂肪酸B1にグラフトしてなる変性脂肪酸B、グラフト化されていない脂肪酸C、及び多官能性イソシアネートDに由来する各部位を含むウレタン変性水希釈性アルキド樹脂ABCD、その製造方法、及び塗料用結合剤におけるその使用方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレタン変性水希釈性アルキド樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
アルキド樹脂は、オレフィン性不飽和カルボン酸、特にメタクリル酸のようなα−不飽和カルボン酸でグラフト化することによって、あるいはエステル化により重縮合条件下で反応しないか若しくは低度にしか反応しないが樹脂分子中に十分な数のアニオン性基を与えるアルカリ性化合物による中和後に親水性を付与する酸基を有するテトラヒドロフタル酸若しくはヒドロキシカルボン酸等のポリカルボン酸との共縮合によって、水希釈性となり得る。
【0003】
グラフトを有する脂肪酸がアクリル酸モノマーに由来するものである水希釈性アルキド樹脂は、とりわけEP0267562A、EPO0295403A及びEP0758365Aにより知られている。これら各文献に記載の技術によって実現された固形分の質量分率の最大値は約45%であった。また、固形分の最大質量分率と、親水性の改良の程度との間には関連性がある。親水性の改良の程度が低いほど、より高い質量分率が可能となり、塗膜の耐水性及び耐湿性が改善される一方で、水中へのアルキド樹脂の分散性が損なわれ、分散安定性が低減する。
【0004】
予め形成されたアルキド樹脂にオレフィン性不飽和カルボン酸をグラフトする場合、不飽和脂肪酸(「乾燥脂肪酸」)に由来する部位を優先的に攻撃すると、樹脂の乾燥挙動が損なわれる。2を超える官能性を有する化合物を用いたポリエステル形成中の共縮合は基本的に実現可能であるが、高粘度を有し、それゆえ容易に処理できる樹脂溶液を得るためにより多くの溶媒を用いて希釈する必要がある分岐鎖ポリマーを形成する可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、予期される用途に応じて親水性及び乾燥挙動を適合させ得る水希釈性アルキド樹脂、並びにこのようなアルキド樹脂の合成に適用されるプロセスを提供することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の完成に至る実験過程で、グラフト酸B2のカルボン酸基をエステル化させないように、グラフト化脂肪酸Bを多価アルコールAによって選択的にエステル化することができることが見出された。これらのグラフト化脂肪酸Bは、カルボキシル基に対するα位の炭素原子上に置換基を優先的に有するオレフィン性不飽和カルボン酸B2(例えば、メタクリル酸、エタクリル酸(2−メチレン酪酸又は2−エチルアクリル酸)、2−ビニルプロピオン酸及びチグリン酸(trans−2,3−ジメチルアクリル酸))を脂肪酸B1上にグラフトすることにより得られる。
【0007】
このグラフト化脂肪酸Bへのさらなる(半乾燥又は乾燥)脂肪酸Cの添加、及びアルコール混合物の組成の適切な選択により、A、B及びCからのポリエステル化によって得られるヒドロキシ官能性中間体ABCの乾燥挙動は、脂肪酸混合物の組成によって制御され、分岐はアルコールAの官能性によって制御される。中間体ABCを生成するプロセスにおけるエステル化は、エステル化される酸基の数に対応する程度で、この反応により形成される水を除去するように行われる。当然のことながら、これらの酸基のうち、グラフト分岐を形成するオレフィン性不飽和カルボン酸B2に結合される酸基は除外される。これにより、脂肪酸B1及び脂肪酸Cの酸基のみが選択的にエステル化され、B2の酸基はエステル化されない。
【0008】
驚くべきことに、ヒドロキシ官能性中間体ABCは、溶媒を添加することなしに多官能性イソシアネートDと反応し得ることが見出された。ここで、ABC中の残留カルボン酸基とイソシアネートとの反応により起こる脱カルボキシル化を伴うことなく、ウレタン結合の形成に伴ってヒドロキシル基のみがイソシアネート基に付加される。
【0009】
したがって、本発明は、ウレタン変性水希釈性アルキド樹脂ABCDであって、多価アルコールA、オレフィン性不飽和カルボン酸B2を脂肪酸B1にグラフトしてなる変性脂肪酸B、グラフト化されていない脂肪酸C、及び多官能性イソシアネートDに由来する各部位を含むことを特徴とするウレタン変性水希釈性アルキド樹脂ABCDに関する。
【0010】
本発明の別の実施形態において、多官能性イソシアネートDと反応させる前に中間体ABCのモル質量を増大させるために、中間体ABCと、ジカルボン酸若しくはトリカルボン酸E又はその無水物(例えば、無水フタル酸又は無水トリメリット酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水マレイン酸、アジピン酸、マロン酸、シュウ酸及びコハク酸、又はその無水物)とを反応させて、生成物ABCDEを得ることもできる。
【0011】
本発明はさらに、多価アルコールA、オレフィン性不飽和カルボン酸B2を脂肪酸B1にグラフト化することによって成る変性脂肪酸B、グラフト化されていない脂肪酸C、任意成分としてのジカルボン酸若しくはトリカルボン酸E又はそれらの無水物、及び多官能性イソシアネートDに由来する各部位を含むウレタン変性水希釈性アルキド樹脂ABCD又はABCDEを合成する方法に関する。以下、便宜上、生成物ABCDEについての説明は、重複する範囲で生成物ABCDの説明に含まれることとする。
【0012】
本発明方法によれば、第1の工程において、脂肪酸B1は、好ましくはカルボキシル基に対してα位に置換基を有するオレフィン性不飽和カルボン酸B2でグラフト化され、該置換基は、1〜8個の炭素原子を有する直鎖、分岐鎖又は環状アルキル基、及び該アルキル基の1つで適宜置換されていてもよい5〜10個の炭素原子を有するアリール基からなる群より選択される。グラフト化工程において、オレフィン性不飽和カルボン酸B2に加え、ラジカル共重合可能な他のオレフィン性不飽和モノマーB3を脂肪酸B1にグラフトしてもよく、このオレフィン性不飽和モノマーB3は、アクリル酸等のオレフィン性不飽和カルボン酸B31;マレイン酸モノメチル等の、脂肪族アルコールとオレフィン性不飽和ジカルボン酸とのモノエステルB32;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソブチル及び(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の、脂肪族アルコールとオレフィン性不飽和カルボン酸B31とのエステルB32;並びにマレイン酸ジメチル等の、オレフィン性不飽和ジカルボン酸のジエステル;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル及び(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル等の、二価アルコール及び多価アルコールと、B31として示されるオレフィン性不飽和カルボン酸とのヒドロキシ官能性エステルB33;並びにスチレン、p−メチルスチレン及びビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物B34;並びに酢酸ビニル、塩化ビニル及び(メタ)アクリロニトリル等の他のビニル化合物B35からなる群より選択される。
【0013】
第2の工程において、グラフト化脂肪酸Bは、反応中に形成される水を除去しながら、二価アルコール又は多価アルコールA、及びオレフィン性二重結合の最小含有量が1.97mol/kg(50cg/gのヨウ素価に対応する)であるグラフト化されていない脂肪酸Cとエステル化される。用いられる遊離体(educts)の物質量及び官能性は、縮合生成物が少なくとも1.1、好ましくは1.5〜3.0、特に好ましくは少なくとも1.9の平均ヒドロキシル官能性を有するように選択される。
【0014】
所望により、中間体ABCを次にジカルボン酸若しくはトリカルボン酸又はその無水物Eと反応させ、同様にヒドロキシ官能性である(ABC)E(式中、nは2又は3である)を形成する。
【0015】
本発明の別の実施形態において、中間体ABCのモル質量を増大させるために、多価アルコールAと、脂肪酸Cのエステルである植物油(例えば、ダイズ油、ヒマワリ油、ベニバナ油、アマニ油、ナタネ油及び綿実油)とのエステル交換を実施し、多価アルコールAの得られるモノエステルを、グラフト化脂肪酸B並びにさらなるジカルボン酸若しくはトリカルボン酸E又はそれらの無水物によってエステル化することもできる。この方法により、中間体(ABC)Eが得られる。
【0016】
第3の工程において、これらヒドロキシ官能性縮合生成物ABC又は(ABC)Eを、重付加によって多官能性イソシアネートDと反応させてウレタンを形成する。その後、付加物ABCDの残りのカルボキシル基を少なくとも部分的に中和し、中和した付加物を水相に転移させる。
【0017】
二価アルコール又は多価アルコールAは、3〜12個の炭素原子及び少なくとも2つのヒドロキシル基を有する脂肪族直鎖又は分岐鎖アルコール、例えば、エチレングリコール、1,2−及び1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、及びこれらに由来する他のエーテルアルコールである。好ましい多価アルコールは、グリセロール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジグリセロール、ジトリメチロールエタン及びジトリメチロールプロパン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、並びにソルビトール、マンニトール及びアラビトール等の糖アルコールである。
【0018】
グラフト化脂肪酸Bは、オレフィン性不飽和カルボン酸B2、さらには所望により上記のさらなるオレフィン性不飽和モノマーB3でグラフト化された脂肪酸B1に由来する。
【0019】
本発明に係る脂肪酸B1は、4〜24個の炭素原子を有する少なくともモノオレフィン性不飽和脂肪族モノカルボン酸である。これら不飽和脂肪酸のうち、ラウロレイン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、ガドレイン酸、エルカ酸及びリシノール酸、並びにリノール酸及びリノレン酸を例として挙げることができる。ダイズ油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、ヒマワリ油脂肪酸、ベニバナ油脂肪酸、ゴム種油脂肪酸(rubber seed oil fatty acid)及びトール油脂肪酸等の植物油から調製される脂肪酸の混合物を使用することもできる。
【0020】
オレフィン性不飽和カルボン酸B2は好ましくは、カルボキシル基に対してα位に置換基を有する。この置換基は、1〜8個の炭素原子を有する直鎖、分岐鎖又は環状アルキル基、及び当該アルキル基でさらに置換されていてもよい、5〜10個の炭素原子を有するアリール基からなる群より選択される。これらの酸が、少なくとも1つの遊離カルボキシル基、特に好ましくは最大1つのカルボキシル基を有することがさらに好ましい。これらの酸の例は、アクリル酸;メタクリル酸;ビニル酢酸;クロトン酸;及びイソクロトン酸;マレイン酸及びフマル酸、シトラコン酸、メサコン酸及びイタコン酸等のジカルボン酸;並びに、1〜20個の炭素原子を有する直鎖、分岐又は環状アルカノールを含むそれらのモノエステルであり、特に好ましくは、メタクリル酸、エタクリル酸、2−ビニルプロピオン酸及びチグリン酸等の、α位に置換基を有するモノカルボン酸である。最も好ましい酸はメタクリル酸である。しかし、アクリル酸単独で、又は好ましくはメタクリル酸と混合して使用することもできる。
【0021】
グラフト化されていない脂肪酸Cは、B1において挙げられたような不飽和脂肪酸から、またはカプロン酸、カプリル酸、2−エチルヘキサン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸及びリグノセリン酸等の6〜30個の炭素原子を有する飽和脂肪酸から選択され得る。さらに、脂肪酸Cはまた、綿実油脂肪酸、落花生油脂肪酸、ヤシ油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、パーム核油脂肪酸、オリーブ油脂肪酸、パーム油脂肪酸、ヒマシ油脂肪酸、ナタネ油脂肪酸、ベニバナ油脂肪酸、ダイズ油脂肪酸及びトール油脂肪酸等の、天然脂肪に基づく脂肪酸の混合物から選択され得る。同様に、ヒマワリ油脂肪酸又はダイズ油脂肪酸から成る異性化多価不飽和脂肪酸(共役脂肪酸)等の、二重結合が共役位置にある異性化脂肪酸を使用することもできる。
【0022】
本発明により使用される多官能性イソシアネートDは、芳香族及び脂肪族イソシアネート、好ましくはジイソシアネート、例えば、トルイレンジイソシアネート(TDI)、ビス−(4−イソシアネートフェニル)メタン(MDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、ビス−(4−イソシアネートシクロヘキシル)メタン(HMDI)、1,6−ジイソシアネートヘキサン(HDI)、及びイソホロンジイソシアネート(IPDI)から選択される。これらの混合物を使用してもよい。
【0023】
ジカルボン酸又はトリカルボン酸Eは、脂肪族直鎖、分岐鎖又は環状であってもよく、本来的に芳香族であってもよく、また、存在する範囲で、好ましくはフタル酸、トリメリット酸、テトラヒドロフタル酸、マレイン酸、アジピン酸、マロン酸、シュウ酸、コハク酸、及びこれらの無水物から選択され得る。
【0024】
本発明方法において、第1の工程では、脂肪酸B1又はかかる脂肪酸の混合物を、過酸化物等のラジカル開始剤の存在下、80℃〜160℃の温度において適宜溶液中で、オレフィン性不飽和カルボン酸B2、さらに所望によりモノマーB3でグラフト化する。グラフト化処理により起こる酸価の増大は、およそ80mg/g〜250mg/g、好ましくは100mg/g〜150mg/gの範囲内の追加である。
【0025】
酸価は、DIN EN ISO 2114(以前はDIN 53 402)に従い、分析すべき試料を中和するのに必要な水酸化カリウムの質量mKOHと、この試料の質量m(試料が溶液又は分散液である場合、試料の固形分の質量)との比率として定義される。通常単位は「mg/g」である。
【0026】
第2の工程において、第1の工程のグラフト化脂肪酸Bは、反応中に形成される水を除去しながら、多価アルコールAで、さらに所望によりオレフィン性二重結合の最小含有量が3.15mol/kg、好ましくは少なくとも4.73mol/kg(少なくとも80cg/g、好ましくは少なくとも120cg/gのヨウ素価に対応する)であるグラフト化されていない脂肪酸Cでエステル化される。用いられる遊離体(educts)の物質量及び官能性は好ましくは、縮合生成物ABCが少なくとも1.9、好ましくは少なくとも2.0の平均ヒドロキシル官能性を有するように選択される。好ましい三価アルコールを使用する場合、これは、(モノカルボン)脂肪酸の物質量(このSI単位は「mol」である)が三価アルコールと等しいことに相応する。さらなる(グラフト化されていない)脂肪酸Cが添加される場合、例として、脂肪酸1molに対して1molの三価アルコールを添加する必要がある。
【0027】
さらなる好ましい実施形態において、三価アルコールのモノエステルを、四価アルコールのジエステル又は六価アルコールのテトラエステルと混合させてもよい。これにより、アルキド中に導入される脂肪酸の量を増大させることができる。ここで乾燥脂肪酸を用いると、親水性に悪影響を及ぼすことなく、アルキドの油長を40%から最大60%まで増大させることができる。
【0028】
所望により、中間体ABCは、イソシアネートとの反応前に、多塩基酸、好ましくは二官能性酸又は三官能性酸Eと反応させ得る。この工程においてエステル交換が低度に抑えられることから、このエステル化は適宜チタンアルコキシド等の触媒の存在下で酸無水物によって最適に行われる。有色塩を形成しない触媒がここでは好ましい。この反応において添加される成分Eのカルボキシル基の数は、最大で中間体ABCのヒドロキシル基の数の50%であるものとする。この改良は、最終製品中のウレタン結合の量を、1%〜約25%のウレタン基(−O−CO−NH−)の質量分率の範囲に制限することができる。そのため、ヒドロキシ官能性である化合物(ABC)E(式中、nは2又は3である)が形成される。以下、これを便宜上ABCEと表す。
【0029】
第3の工程において、ヒドロキシ官能性縮合生成物ABC又はABCEを、重付加によって多官能性イソシアネートDと反応させてウレタンを形成する。ヒドロキシ官能性中間体は事実上オリゴマーであるため、これは、バルクで、すなわち、溶媒を添加することなく作用し得る。反応は、温度を最大で120℃まで上げることによって促進され得る。130℃を超える反応温度は、イソシアネートと、酸B2に残存しているカルボン酸基との間に起こる脱カルボキシル化反応を促進させることが見出された。一方、70℃未満の温度は、反応速度が遅すぎるため推奨されない。
【0030】
その後、付加物ABCD又はABCEDを中和して水相に転移させる。これは、アルカリ性水酸化物(水酸化リチウムが好ましい)等の塩基性化合物を用いて、好ましくは有機アミン又はアンモニア等の揮発性塩基を用いて行われる。水に溶解した塩基性化合物を反応生成物ABCD又はABCEDに添加して、この混合物を水中に移行させることができる。別の可能性としては、塩基性化合物を水に添加して、反応生成物を該塩基性化合物の攪拌水溶液中に供給することがある。要求される中和度は、脂肪酸及びアルコールの性質並びにグラフト化の程度に応じて決まり、好ましくは30%〜100%、特に好ましくは50%〜85%である。中和度は、酸基、すなわち中和された酸基及び中和されなかった酸基の総数に対する中和された酸基(酸アニオン)の比率である。35%〜55%、好ましくは40%〜50%の固形分の質量分率を有する水系結合剤分散液がこの技術によって調製され得る。
【0031】
本発明によるウレタン変性グラフト化アルキドABCD又はABCEDは、そのポリマー構造を用途に適合させることができるため、広範な特性を与える。これら樹脂から調製される結合剤は、木材から、皮、織物、紙及び厚紙、また金属、及び石、コンクリート又は石膏等の無機基材までの広範な基材用の塗料を調製するのに使用することができる。本発明のアルキド樹脂を用いて調製されるコーティングは、良好な接着性、高い可撓性、速乾性を示し、ほとんど変色しない。得られた親水性の改良の程度において、従来の技術に比べると耐水性及び耐湿性が改善された。
【0032】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
71gのアマニ油脂肪酸を反応器内に充填し、140℃に加熱した。55gのメタクリル酸イソブチル、10gのパラメチルスチレン及び35gのメタクリル酸から成るモノマー混合物を、4gのジ−tert−ブチルペルオキシドと共に連続的に8時間かけて添加した。その後、少なくとも99%のポリマーへの変換が達成される(これは固形分の質量分率により証明される)まで、混合物を140℃に維持した。最後に、反応混合物をキシレンで希釈した。この溶液は85%の固形分質量分率、及び203mg/gの酸価を有していた。
【実施例2】
【0034】
71gのアマニ油脂肪酸を反応器内に充填し、140℃に加熱した。60gのメタクリル酸イソブチル、10gのパラメチルスチレン及び30gのアクリル酸から成るモノマー混合物を、4gのジ−tert−ブチルペルオキシドと共に連続的に8時間かけて添加した。その後、少なくとも99%のポリマーへの変換が達成される(これは固形分の質量分率により証明される)まで、混合物を140℃に維持した。最後に、反応混合物をキシレンで希釈した。この溶液は85%の固形分質量分率、及び210mg/gの酸価を有していた。
【実施例3】
【0035】
230gの実施例2のグラフト化脂肪酸を、67gのトリメチロールプロパン及び70gのヒマワリ油脂肪酸と共に反応器に充填し、175℃に加熱した。約75mg/gの酸価となるまで、キシレンとの共沸蒸留によって水を除去しながら、エステル化条件の下で、この混合物を175℃の一定温度に維持した。その後、溶媒を全て減圧蒸留により除去した。30分以内に、30gのトルイレンジイソシアネートを70℃で添加すると、温度は発熱反応のために100℃まで徐々に上昇した。この温度で、シュタウディンガーインデックスが8.5cm/gとなるまで、反応を続けた。この実験を繰り返す際に必要であれば、付加的なジイソシアネートを添加し、シュタウディンガーインデックスが所望の値となった後には、残留遊離イソシアネートが残らないように注意した。その後、580mlの水及び15gの25%濃度のアンモニア水溶液を添加することによって固体樹脂を乳化し、37%の固形分質量分率、23℃及び10s−1の剪断速度で測定される9500mPa・sの動粘度、150nmの平均粒径、70mg/gの酸価、及び水中において10%濃度で測定された8.5のpHを有する結合剤の水性エマルジョンを得た。
【実施例4】
【0036】
200gの実施例1のグラフト化脂肪酸を、67gのトリメチロールプロパン、15gの異性化ヒマワリ油脂肪酸、及び55gの天然ヒマワリ油脂肪酸と共に反応器に充填し、175℃に加熱した。約75mg/gの酸価となるまで、キシレンとの共沸蒸留によって水を除去しながら、エステル化条件の下で、この混合物を175℃の一定温度に維持した。その後、溶媒を全て減圧蒸留により除去した。30分以内に、60gのイソホロンジイソシアネートを70℃で添加すると、温度は発熱反応のために100℃まで徐々に上昇した。この温度で、シュタウディンガーインデックスが8.5cm/gとなるまで、反応を続けた。この実験を繰り返す際に必要であれば、付加的なジイソシアネートを添加し、シュタウディンガーインデックスが所望の値となった後には、残留遊離イソシアネートが残らないように注意した。その後、480mlの水及び15gの25%濃度のアンモニア水溶液を添加することによって固体樹脂を乳化し、42%の固形分質量分率、23℃及び10s−1の剪断速度で測定される4500mPa・sの動粘度、65nmの平均粒径、55mg/gの酸価、及び水中において10%濃度で測定された8.2のpHを有する結合剤の水性エマルジョンを得た。
【実施例5】
【0037】
200gの実施例1のグラフト化脂肪酸を、67gのトリメチロールプロパン及び140gのヒマワリ油脂肪酸と共に反応器に充填し、175℃に加熱した。約65mg/gの酸価となるまで、キシレンとの共沸蒸留によって水を除去しながら、エステル化条件の下で、この混合物を175℃の一定温度に維持した。その後、溶媒を全て減圧蒸留により除去した。30分以内に、55gのトルイレンジイソシアネートを70℃で添加すると、温度は発熱反応のために100℃まで徐々に上昇した。この温度で、シュタウディンガーインデックスが8.5cm/gとなるまで、反応を続けた。この実験を繰り返す際に必要であれば、付加的なジイソシアネートを添加し、シュタウディンガーインデックスが所望の値となった後には、残留遊離イソシアネートが残らないように注意した。その後、610mlの水及び15gの25%濃度のアンモニア水溶液を添加することによって固体樹脂を乳化し、40%の固形分質量分率、23℃及び10s−1の剪断速度で測定される3500mPa・sの動粘度、120nmの平均粒径、52mg/gの酸価、及び水中において10%濃度で測定された8.8のpHを有する結合剤の水性エマルジョンを得た。
【実施例6】
【0038】
200gの実施例1のグラフト化脂肪酸を、67gのトリメチロールプロパン、15gの異性化ヒマワリ油脂肪酸、及び55gの天然ヒマワリ油脂肪酸と共に反応器に充填し、175℃に加熱した。約75mg/gの酸価となるまで、キシレンとの共沸蒸留によって水を除去しながら、エステル化条件の下で、この混合物を175℃の一定温度に維持した。その後、溶媒を全て減圧蒸留により除去した。30分以内に、30gのイソホロンジイソシアネートを70℃で添加すると、温度は発熱反応のために100℃まで徐々に上昇した。この温度で、シュタウディンガーインデックスが8.5cm/gとなるまで、反応を続けた。この実験を繰り返す際に必要であれば、付加的なジイソシアネートを添加し、シュタウディンガーインデックスが所望の値となった後には、残留遊離イソシアネートが残らないように注意した。その後、490mlの水及び15gの25%濃度のアンモニア水溶液を添加することによって固体樹脂を乳化し、40%の固形分質量分率、23℃及び10s−1の剪断速度で測定される3800mPa・sの動粘度、60nmの平均粒径、60mg/gの酸価、及び水中において10%濃度で測定された8.3のpHを有する結合剤の水性エマルジョンを得た。
【実施例7】
【0039】
200gの実施例1のグラフト化脂肪酸を、67gのトリメチロールプロパン、15gの異性化ヒマワリ油脂肪酸、及び55gの天然ヒマワリ油脂肪酸と共に反応器に充填し、175℃に加熱した。約75mg/gの酸価となるまで、キシレンとの共沸蒸留によって水を除去しながら、エステル化条件の下で、この混合物を175℃の一定温度に維持した。その後、溶媒を全て減圧蒸留により除去した。30分以内に、55gのトルイレンジイソシアネートを70℃で添加すると、温度は発熱反応のために100℃まで徐々に上昇した。この温度で、シュタウディンガーインデックスが8.5cm/gとなるまで、反応を続けた。この実験を繰り返す際に必要であれば、付加的なジイソシアネートを添加し、シュタウディンガーインデックスが所望の値となった後には、残留遊離イソシアネートが残らないように注意した。その後、5gの水酸化リチウム一水和物が溶解した470mlの水を添加することによって固体樹脂を乳化し、43%の固形分質量分率、23℃及び10s−1の剪断速度で測定される5300mPa・sの動粘度、53nmの平均粒径、55mg/gの酸価、及び水中において10%濃度で測定された8.3のpHを有する結合剤の水性エマルジョンを得た。
【実施例8】
【0040】
373gのダイズ油及び98gのペンタエリスリトールを、触媒として0.05gの水酸化リチウムを用いて260℃でエステル交換した。試料がエタノールに完全に溶解可能であり、単相を形成する場合、この混合物を180℃に冷却し、89gの無水フタル酸を添加し、5mg/gの酸価となるまで、エステル化を225℃で続けた。その後、43gの実施例1のグラフト化脂肪酸を160℃で添加し、この混合物を175℃に加熱した。この温度で、62mg/gの酸価となるまでエステル化を続け、形成された水をキシレンとの共沸蒸留によって除去した。その後、残留溶媒を全て減圧蒸留により除去した。30分以内に、85gのイソホロンジイソシアネートを70℃で添加すると、温度は発熱反応のために100℃まで徐々に上昇した。この温度で、シュタウディンガーインデックスが9cm/gとなるまで、実施例4と同様に反応を続けた。シュタウディンガーインデックスがこの所望の値となった後には、残留遊離イソシアネートが残らなかった。その後、1320mlの水及び53gのアンモニア(25%濃度の水溶液)を添加することによって固体樹脂を乳化し、42%の固形分質量分率、23℃及び10s−1の剪断速度で測定される8300mPa・sの動粘度、120nmの平均粒径、54mg/gの酸価、及び水中において10%濃度で測定された8.3のpHを有する結合剤の水性エマルジョンを得た。
【実施例9】
【0041】
56gのダイズ油及び40gのトリメチロールプロパンを、触媒として0.01gの水酸化リチウムを用いて260℃でエステル交換した。試料がエタノールに完全に溶解可能であり、単相を形成する場合、この混合物を180℃に冷却し、91gの無水フタル酸、47gのトリメチロールプロパン及び23gの安息香酸を添加し、3mg/gの酸価となるまで、エステル化を230℃で続けた。その後、202gの実施例1のグラフト化脂肪酸を160℃で添加し、この混合物を175℃に加熱した。この温度で、62mg/gの酸価となるまでエステル化を続け、形成された水をキシレンとの共沸蒸留によって除去した。その後、残留溶媒を全て減圧蒸留により除去した。30分以内に、36gのイソホロンジイソシアネートを70℃で添加すると、温度は発熱反応のために100℃まで徐々に上昇した。この温度で、シュタウディンガーインデックスが10.5cm/gとなるまで、実施例4と同様に反応を続けた。シュタウディンガーインデックスがこの所望の値となった後には、残留遊離イソシアネートが残らなかった。その後、617mlの水及び23.7gのアンモニア(25%濃度の水溶液)を添加することによって固体樹脂を乳化し、40%の固形分質量分率、23℃及び10s−1の剪断速度で測定される6600mPa・sの動粘度、140nmの平均粒径、57mg/gの酸価、及び水中において10%濃度で測定された8.4のpHを有する結合剤の水性エマルジョンを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタン変性水希釈性アルキド樹脂ABCDであって、多価アルコールA、オレフィン性不飽和カルボン酸B2を脂肪酸B1にグラフトしてなる変性脂肪酸B、グラフト化されていない脂肪酸C、及び多官能性イソシアネートDに由来する各部位を含むことを特徴とするウレタン変性水希釈性アルキド樹脂。
【請求項2】
ジカルボン酸若しくはトリカルボン酸E又はそれらの無水物に由来する部位をさらに含む請求項1に記載のウレタン変性水希釈性アルキド樹脂。
【請求項3】
前記オレフィン性不飽和カルボン酸B2が、カルボキシル基に対してα位に置換基を有しており、該置換基が、1〜8個の炭素原子を有する直鎖、分岐鎖又は環状アルキル基、及び5〜10個の炭素原子を有するアリール基からなる群より選択されたものである請求項1に記載のウレタン変性水希釈性アルキド樹脂。
【請求項4】
前記脂肪酸B1が、4〜24個の炭素原子を有する少なくともモノオレフィン性不飽和モノカルボン酸である請求項1に記載のウレタン変性水希釈性アルキド樹脂。
【請求項5】
前記のグラフト化されていない脂肪酸Cが、4〜24個の炭素原子を有する少なくともモノオレフィン性不飽和モノカルボン酸、及び6〜30個の炭素原子を有する飽和脂肪酸からなる群より選択されるものであり、該グラフト化されていない脂肪酸C又はその混合物が、二重結合の最小含有量3.15mol/kgを有している請求項1に記載のウレタン変性水希釈性アルキド樹脂。
【請求項6】
ウレタン基の質量分率が、前記樹脂ABCDの質量を基準として1%〜25%である請求項1に記載のウレタン変性水希釈性アルキド樹脂。
【請求項7】
前記ウレタン変性水希釈性アルキド樹脂の水性分散物中の中和度が30%〜100%である請求項1に記載のウレタン変性水希釈性アルキド樹脂。
【請求項8】
多価アルコールA、オレフィン性不飽和カルボン酸B2を脂肪酸B1にグラフトしてなる変性脂肪酸B、グラフト化されていない脂肪酸C、及び多官能性イソシアネートDに由来する各部位を含むウレタン変性水希釈性アルキド樹脂ABCDの水性分散物の製造方法であって、
脂肪酸B1をオレフィン性不飽和カルボン酸B2にグラフトする工程;
反応中形成される水を除去しながら、該グラフト化脂肪酸Bを、多価アルコールA及びオレフィン性二重結合の最小含有量が1.97mol/kgであるグラフト化されていない脂肪酸Cでエステル化する工程であって、該工程において用いる遊離体の物質量及び官能性が、縮合生成物が少なくとも1.1の平均ヒドロキシル官能性を有するように選択される工程;
これらのヒドロキシ官能性縮合生成物ABCを重付加によって多官能性イソシアネートDと反応させて各ウレタンを形成する工程;及び
前記付加物ABCDの残りのカルボキシル基を少なくとも部分的に中和すると共に、中和した付加物を前記水性相に転移させる工程を含むことを特徴とするウレタン変性水希釈性アルキド樹脂ABCDの水性分散液の製造方法。
【請求項9】
前記第2工程の前記縮合生成物ABCが、前記第3工程前に、ジカルボン酸若しくはトリカルボン酸又はその無水物Eと反応してヒドロキシ官能性である(ABC)E(式中、nは2又は3である)を形成する請求項8に記載のウレタン変性水希釈性アルキド樹脂ABCDの水性分散液の製造方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載のウレタン変性アルキド樹脂を、木材、皮、織物、紙、厚紙、金属及び無機基材をコーティングする塗料中の結合剤として使用する方法。

【公表番号】特表2008−531792(P2008−531792A)
【公表日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−557363(P2007−557363)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【国際出願番号】PCT/EP2006/001503
【国際公開番号】WO2006/092211
【国際公開日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(505456584)サイテク サーフェィス スペシャルティーズ オーストリア ゲーエムベーハー (16)
【Fターム(参考)】