説明

エアコンプレッサのピストン構造

【課題】エアコンプレッサのピストン構造にピストンピンやベアリングの冷却機能を持たせて動力ロスを軽減し耐久性を高める。
【解決手段】エアコンプレッサのピストン構造において、ピストン1の周面に設けられたウエアリング31に切欠き32を形成して、ピストンピン穴22を塞がないようにする。またピストン1の作動時にウエアリング31が回転しないように、ウエアリングをピン状の回転防止部材18で留める。このような構造によれば、ピストンピン21の内部が、ウエアリングの切欠き32を介してクランクケース側と導通できる。すなわち、切欠き32が熱の逃げ路となるため、作動時においてピストンピン21やその周囲を冷却できる。その結果、ピストンピン21を支持するベアリングやウエアリング31の熱変形を回避できるので、ベアリング25の耐久性を向上させることができる。また、熱膨張の影響を緩和できるので、従来生じていた動力ロスを軽減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアコンプレッサのピストン構造の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
図4は、従来のエアコンプレッサの内部構成を示す図である。
図5は、図4のエアコンプレッサで用いられるピストン57及びその周辺構造を示す拡大図である。
【0003】
従来より一般的に用いられているエアコンプレッサ(空気圧縮機)は、図4に示すように、回転軸51を駆動するモータ52と、該回転軸51を回転自在に支持する軸受53と、回転軸51の偏心位置に装着されたクランクのクランクピン55と、該クランクピン55の旋回運動に伴って往復運動するピストン57と、該ピストン57を摺動自在に収納するシリンダ9とを有している。
【0004】
旋回運動するクランクピン55と往復運動するピストン57とは、コネクティングロッド71を介して連結されている。クランクピン55とコネクティングロッド71との連結部分には、転がり軸受59が介在している。モータ52が駆動して回転軸51が回転するとクランクピン55が旋回運動し、その動力が軸受59とコネクティングロッド71を介してピストン57へ伝達され、その結果、ピストン57がシリンダ9内で往復運動する。
【0005】
シリンダ9内を往復運動するピストン57には、図5に示すように管状のピストンピン81が固設されている。当該ピストンピン81は、コネクティングロッド71の一端にある小径環状部73により、ベアリング83を介して回転自在に把持されている。かかるピストンピン81とベアリング83を介した連結構造により、コネクティングロッド71は、ピストン57に対し相対的に揺動することが可能である。したがって、モータ52の駆動に伴いコネクティングロッド71が揺動しても、ピストン57はシリンダ9内で軸方向を保ったまま往復運動することができる。
【0006】
シリンダ内で往復運動するピストン57の外周面には、図5に示すように、ピストンの周面を囲うウエアリング85が設けられている。当該ウエアリングは、ピストン57の外周とシリンダ9の内壁との間に介在している。ピストン57がシリンダ9内で往復運動するときには、ウエアリング85がシリンダ9の内壁上を摺動するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−120928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のピストン構造によれば、ウエアリング85は展開状態で図6(A)に示すような帯状の形態を有しており、これを図6(B)に示すように環状に丸めたものが、ピストン57の外周を囲うように設けられている。したがって、このようなウエアリング85をピストンに設けた場合には、図5に示すようにピストンピン81のピストンピン穴82(貫通穴)の両端開口部は、ウエアリング85によって塞がれることとなる。
【0009】
しかしながら、ピストン57の往復運動に伴いシリンダ9内では圧縮熱が発生するので、ピストンピン穴82を塞いだ構造では、加熱されたピストンピン81の熱の逃げ路がない。そのためピストンピン81の両端開口部を通じてウエアリング85が加熱され、図7に示すように、ピストンピン穴82に対向する位置において、ウエアリング85が熱膨張、熱変形してピン穴82の方向に陥没するといった問題が生じる。
【0010】
また、ウエアリング85はピストン57の往復運動に伴う振動等により回転するが、当該ウエアリング85の熱変形が初期の状態であれば(図7に示すような陥没状態に至る前であれば)、変形前と同様に回転する。ところが、その回転の際、当該変形分をかじりながら回転するので、ピストン57の摺動抵抗が大きくなるといった問題が生じる。
【0011】
また、ウエアリング85が熱変形して、図7に示すようにピストンピン穴82が完全に塞がれると、ピストンピン81の内部に熱がこもり、やがてベアリング83を熱変形させて軸受寿命を低下させるといった問題が生じる。さらに、この熱によりベアリング83内のグリスを劣化させるといった問題も生じる。
【0012】
また、ピストン57においてピストンピン81の両端は軸受部分84において支持されているものの(図5参照)、当該軸受部分84は他の部分に比して肉が厚い。そのため、作動に伴う圧縮熱によってピストン57が加熱されると、肉厚の大きい軸受部分84が他の部分に比してより大きく熱膨張する。その結果、ピストン外周のウエアリング85に作用する摺動抵抗が局部的に大きくなり、動力ロスが生じるといった問題がある。
【0013】
上述した従来技術の問題点に鑑み本発明の目的は、エアコンプレッサのピストン構造に、ピストンの冷却機能を持たせ、圧縮熱に起因する問題点を解消することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した本発明の目的は、シリンダ内を往復するピストンと、前記ピストンの周面側に設けられたウエアリングとを有しており、前記ウエアリングに、前記ピストンのピストンピン穴の両端を塞がないように、切欠きが形成してあることを特徴とするエアコンプレッサのピストン構造によって達成される。当該ピストン構造は、ウエアリングが回転しないように回転防止部材を有していることが好ましい。
【0015】
また上述した本発明の目的は、シリンダ内を往復するピストンを備えたエアコンプレッサのピストン構造において、前記ピストンのピストンピン穴の内部を、クランクケース側と導通させるための導通路を有することを特徴とするエアコンプレッサのピストン構造によって達成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明のピストン構造によれば、ピストンピンの内部が、ウエアリングに形成した切欠きを介してクランクケース側と導通している。したがって、ウエアリングの切欠きが熱の逃げ路となるため、作動時においてピストンピンを冷却し、ベアリングの温度を下げることができる。その結果、従来のピストン構造の如くピストンピンの内部に熱がこもり続けることがなく、ベアリングの熱変形を回避することができるので、ベアリングの耐久性を向上させることができる。
【0017】
また、ピストンピン及びその周囲を冷却することで、ピストン本体の熱膨張を緩和することができる。その結果、従来では肉厚の大きいピストンピン軸受部分がより大きく熱膨張して、ピストン外周のウエアリングに作用する摺動抵抗が局部的に大きくなり、動力ロスが生じるといった問題が生じていたが、本発明によればこのような局部的摺動抵抗を軽減し、熱膨張の影響を緩和できるので、従来生じていた動力ロスを軽減することが可能になる。
【0018】
また、ピストンピン穴に対向する位置において、ウエアリングには切欠きが形成してあり、加えて、回転防止部材によってウエアリングの回転が防止されるようになっている。これにより、ピストンピン穴がウエアリングによって塞がれることがないので、ピストンピンからの熱気に起因するウエアリングの熱膨張、熱変形を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るピストン構造を示す図である。
【図2】本発明に係るピストン構造の作用を示す図である。
【図3】図3(A)は、本発明のピストン構造が備えるウエアリングの展開状態を示す図である。図3(B)は、当該ウエアリングのピストンへの取付状態(丸めた状態)を示す図である。
【図4】従来のエアコンプレッサの内部構成を示す図である。
【図5】図4の従来のエアコンプレッサで用いられるピストン及びその周辺構造を示す拡大図である。
【図6】図6(A)は、従来のピストン構造が備えるウエアリングの展開状態を示す図である。図6(B)は、当該ウエアリングのピストンへの取付状態(丸めた状態)を示す図である。
【図7】従来のピストン構造において、圧縮熱に起因してウエアリングが熱膨張、熱変形して陥没し、ピストンピン穴を塞いでいる状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(エアコンプレッサのピストン構造)
図1は、本発明に係るピストン構造を示す図である。
図2は、本発明に係るピストン構造の作用を示す図である。
図3(A)は、図1及び図2のピストン1が備えるウエアリング31の展開状態を示す図である。図3(B)は、当該ウエアリングのピストンへの取付状態(丸めた状態)を示す図である。
【0021】
以下、添付図面に基づいて本発明の実施形態について説明する。
なお、ピストン構造以外の構成については、図4に示す従来のエアコンプレッサのものと同様である。
【0022】
図1及び図2に示すように、ピストン1は、シリンダ9内を往復運動して圧縮空気を生成するピストン本体12と、該ピストン本体の軸受部分14によって両端を保持された管状のピストンピン21と、シリンダ9内の圧縮室の気密を保持するピストンリング16と、ピストン本体12の周面を囲うように設けられたウエアリング31と、該ウエアリングの回転を防止するピン状の回転防止部材18と、を有している。
【0023】
シリンダ9内の圧縮室は、ピストン本体12の上部のピストンヘッドとシリンダヘッドとの間に形成される。ピストン1の下方側の非圧縮室(ピストン1による空気の圧縮が行われない領域)は、図4の従来構造と同様にクランクケース8の側に通じているので、非圧縮室にはクランクケース8を介して外気が流通するようになっている。
【0024】
ピストンピン21の両端は、ピストン本体12の軸受部分14によって保持されている(図2参照)。またピストンピン21は、コネクティングロッド71の一端にある小径環状部73により、ベアリング25を介して回転自在に把持されている。かかるピストンピン21とベアリング25を介した連結構造により、コネクティングロッド71は、ピストン1に対し相対的に揺動することが可能である。したがって、モータの駆動に伴いコネクティングロッド71が揺動しても、ピストン1はシリンダ9内で軸方向を保ったまま往復運動することができる。
【0025】
ピストン本体12の周面には、図1に示すように、ウエアリング31を所定位置に位置決めするための環状の上側段部41,下側段部42が設けられている。ピストン本体12の周面上であって上側段部41と下側段部42との間の凹状領域には、ウエアリング31が取付けられている。なお、段部41,42の周囲とシリンダ内壁との間には、一定のクリアランスが設けられており、作動時に段部41,42とシリンダ9が接触することはない。
【0026】
ウエアリング31は、低摩擦係数の摺動性材料から形成されており、ピストン本体12がシリンダ9に接触することなく往復動するようにガイドする役割を担う。当該ウエアリング31は、段部41,42によって上下方向の移動が規制されている。ピストン1の作動時には、ウエアリング31がシリンダ内壁面上を摺動してピストン本体12をガイドするため、該ピストン本体がシリンダ内壁に接触することはない。
【0027】
本発明において、ウエアリング31には、図3に示すように∩状の切欠き32が形成してある。ウエアリングの切欠き32は、図1に示すように、ピストンピン21のピストンピン穴22(貫通穴)と対向する位置に形成されている。そのため、ウエアリング31をピストン本体12に取付けた状態において、ピストンピン21の両端の開口部がウエアリング31によって塞がれることがない。
【0028】
上記説明のとおり本発明において、ピストンピン21のピストンピン穴22は、ウエアリング31によって塞がれていない。したがって、ピストンピン穴22は、∩状の切欠き32を介して、さらに下側段部42の周囲のクリアランスを介して、クランクケース8側に通ずる下方の非圧縮室と導通することができる。すなわち、本発明において、ウエアリング31の切欠き32は、ピストンピン穴22と非圧縮室側(クランクケース側)との間の導通路を形成している。
【0029】
ピストン本体12に取付けられたウエアリング31は、ピストン1の作動時に回転しないようにするために、ピン状の回転防止部材18によって固定されている。当該ピン状の回転防止部材18は、ピストン本体12に固設されている。これにより、作動時の振動等によりウエアリング31が回転して、ピストンピン穴22を塞ぐ事態が生じるのを防止することができる。
【0030】
なお、ウエアリング31を位置決めする環状の下側段部42において、ウエアリング31の切欠き32に対応する部分(図1に示す下側段部42の領域D)の全部又は一部を切り欠く態様も採用可能である。これにより、下側段部42によって導通性が阻害されるおそれがなく、ウエアリング31の切欠きと下側段部42の切欠きが一体となって導通路を構成するので、より効果的にピストンピン21やベアリング25を冷却することができる。
【0031】
(本発明のピストン構造による作用効果)
エアコンプレッサを作動させると、ピストン1の往復運動に伴いシリンダ9内で圧縮熱が発生し、それに伴いピストン1が加熱される。しかしながら、本発明のピストン構造では、図2に示すように、ピストンピン21の内部が、ウエアリング31に形成した切欠き32と、下側段部42の周囲のクリアランスを介してクランクケース側と導通している。したがって、ウエアリング31の切欠き32が熱の逃げ路となるため、作動時においてピストンピン21を冷却し、ベアリング25の温度を下げることができる。その結果、従来のピストン構造の如くピストンピン21の内部に熱がこもり続けることがなく、ベアリング25の熱変形を回避することができるので、ベアリング25の耐久性を向上させることができる。
【0032】
また、上記の如くピストンピン21及びその周囲を冷却することで、ピストン本体12の熱膨張を緩和することができる。その結果、従来では肉厚の大きい軸受部分14がより大きく熱膨張して、ピストン外周のウエアリング31に作用する摺動抵抗が局部的に大きくなり、動力ロスが生じるといった問題が生じていたが、本発明によればこのような局部的摺動抵抗を軽減し、熱膨張の影響を緩和できるので、従来生じていた動力ロスを軽減することが可能になる。
【0033】
また、ピストンピン穴22に対向する位置において、ウエアリング31には切欠き32が形成してあり、加えて、回転防止部材18によってウエアリング31の回転が防止されるようになっている。これにより、ピストンピン21からの熱気に起因するウエアリング31の熱膨張、熱変形を確実に防止することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 ピストン
8 クランクケース
9 シリンダ
12 ピストン本体
14 軸受部分
16 ピストンリング
18 回転防止部材
21 ピストンピン
22 ピストンピン穴(貫通穴)
25 ベアリング
31 ウエアリング
32 切欠き
41 上側段部
42 下側段部
51 回転軸
52 モータ
53 軸受
55 クランクピン
57 ピストン
59 転がり軸受
71 コネクティングロッド
73 小径環状部
81 ピストンピン
82 ピストンピン穴(貫通穴)
83 ベアリング
84 軸受部分
85 ウエアリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアコンプレッサのピストン構造において、
シリンダ内を往復するピストンと、
前記ピストンの周面側に設けられたウエアリングと、を有しており、
前記ウエアリングには、前記ピストンのピストンピン穴の両端を塞がないように、切欠きが形成してあることを特徴とするエアコンプレッサのピストン構造。
【請求項2】
前記ウエアリングが回転しないようにするための回転防止部材を有していることを特徴とする請求項1記載のエアコンプレッサのピストン構造。
【請求項3】
シリンダ内を往復するピストンを備えたエアコンプレッサのピストン構造において、
前記ピストンのピストンピン穴の内部を、クランクケース側と導通させるための導通路を有することを特徴とするエアコンプレッサのピストン構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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