エアバッグ用基布及びエアバッグ装置
【課題】エアバッグの気密性を確保しつつ、エアバッグ用基布全体の軽量化を図る。
【解決手段】自動車用エアバッグ装置に用いるフロントパネル1が、断面形状のアスペクト比a/bが1.5以上8以下である複数の扁平糸101を当該扁平方向が略揃うように束ねて断面扁平形状とした扁平繊維束100からなり、リヤパネル2が、断面形状が略円形の複数の通常糸を束ねて断面略円形とした通常繊維束からなる。扁平繊維束100は、製織時において、付与張力を制御することにより、複数の扁平糸101の扁平方向を略揃えている。
【解決手段】自動車用エアバッグ装置に用いるフロントパネル1が、断面形状のアスペクト比a/bが1.5以上8以下である複数の扁平糸101を当該扁平方向が略揃うように束ねて断面扁平形状とした扁平繊維束100からなり、リヤパネル2が、断面形状が略円形の複数の通常糸を束ねて断面略円形とした通常繊維束からなる。扁平繊維束100は、製織時において、付与張力を制御することにより、複数の扁平糸101の扁平方向を略揃えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の衝突時に膨張展開して乗員の安全を確保するエアバッグ本体を備えたエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のエアバッグ装置は運転席用エアバッグ装置、助手席用エアバッグ装置、サイドエアバッグ装置、カーテンエアバッグ装置等など各種のエアバッグ装置が使用されている。
【0003】
一般に、それらエアバッグ装置に使用されているエアバッグ(エアバッグ本体)は、所定の展開性能を確保するために気密性の高い基布を縫製した袋体で構成されており、未展開の通常収納時には折り畳まれた状態で保持されている(例えば、特許文献1参照)。また、エアバッグ本体の基布には気密性を確保するための様々な加工を施すことが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2001−277977号公報
【特許文献2】特許第3480585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記エアバッグ装置を構成する各部分は、基布を含め、車載部品である以上、常に軽量化が求められている。特に、近年の省エネルギ、地球環境保護の観点から、燃料消費量を減らすためにも車載部品のより一層の軽量化が求められつつある。特に、エアバッグ装置自体、その性質上、非常時にのみ使い切り形式で作動するものであって通常時には全く機能しないものであることからも、軽量化は重要である。
【0006】
エアバッグ用基布の軽量化を図る場合には、最も有効であるのは、その製職された繊維束(=複数の糸すなわちフィラメントから構成される)の本数を減らすことである。しかしながら、繊維束の数を減らすとその分基布の織物構造が粗となるため、インフレータから流入した圧力流体が外部へ漏れやすくなる可能性があった。
【0007】
本発明の目的は、エアバッグの気密性を確保しつつ、エアバッグ用基布全体の軽量化を図ることができるエアバッグ用基布及びエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1の発明は、自動車用エアバッグ装置に用いるエアバッグ用基布であって、断面形状のアスペクト比が1.5以上8以下である複数の扁平糸を、当該扁平方向が略揃うように束ねて断面扁平形状とした扁平繊維束を有することを特徴とする。
【0009】
エアバッグ用基布は、インフレータ側から流入した圧力流体によって膨張展開を行うが、このとき流入した圧力流体の一部は、基布を膨張展開した後、基布の織り構造の隙間から外部へと漏れだす。ここで、基布を構成する繊維束が、複数の扁平糸を当該扁平方向が略揃うように束ね、断面扁平形状となっている場合には、上記織り構造が比較的密に詰まっていることから、エアバッグの気密性を確保できる。
【0010】
本願第1発明においては、上記断面扁平形状の繊維束では圧力流体の漏れ出しが減少可能であることを利用することで、基布の展開性能を通常程度としつつ、繊維束数を通常より減少させることができる。これにより、気密性を確保しつつ、その間引いた扁平形状の繊維束の分、エアバッグ用基布全体の軽量化を図ることができる。また繊維束が扁平形状であることにより、エアバッグ全体の体積を減少しコンパクト化できる効果もある。
【0011】
第2発明は、上記第1発明において、断面形状が略円形の複数の通常糸を束ねて断面略円形とした通常繊維束を有することを特徴とする。
【0012】
基布全体を扁平糸を用いた扁平繊維束とすると大きなコスト増大を招くが、重要な部分等一部のみを扁平繊維束とし、他の部分は通常繊維束とすることにより、コスト増大を最小限に抑制することができる。また、扁平繊維束部分は通常繊維束部分よりも折り畳みやすい性質を備えることにより、エアバッグ装置への収納時の折り畳み態様に合致させて扁平繊維束領域を配設しておくことにより、基布の折り畳み作業が容易に行え、作業効率が向上する効果もある。
【0013】
第3発明は、上記第1又は第2発明において、互いに直交する方向に延設する第1繊維束及び第2繊維束とを製織して構成され、前記扁平繊維束は、前記第1繊維束及び前記第2繊維束のうち少なくとも一方に含まれることを特徴とする。
【0014】
互いに直交する第1及び第2繊維束(いわゆる経糸と緯糸)の少なくとも一方に扁平繊維束を含むことにより、当該第1又は第2繊維束について、繊維束数を通常より減少させ、エアバッグ用基布全体の軽量化を図ることができる。
【0015】
上記目的を達成するために、第4発明は、断面形状のアスペクト比が1.5以上8以下である複数の扁平糸を、当該扁平方向が略揃うように束ねて断面扁平形状とした扁平繊維束を有する扁平繊維基布を備えたエアバッグと、このエアバッグを膨張展開させるための圧力流体を噴出するインフレータとを有することを特徴とする。
【0016】
インフレータから噴出された圧力流体はエアバッグに流入しエアバッグを膨張展開させるが、このとき流入する圧力流体の一部は膨張展開後基布の織り構造の隙間から外部へと漏れだす。ここで、基布を構成する繊維束が、複数の扁平糸を当該扁平方向が略揃うように束ね、断面扁平形状となっている場合には、上記織り構造が比較的密に詰まっていることから、インフレータから流入した圧力流体の上記漏れ出しは少ない傾向となる。
【0017】
本願第4発明においては、上記断面扁平形状の繊維束では圧力流体の漏れ出しが減少可能であることを利用することで、基布を備えたエアバッグの展開性能を通常程度としつつ、繊維束数を通常より減少させることができる。これにより、エアバッグの気密性を確保しつつ、その間引いた扁平形状の繊維束の分、エアバッグ用基布全体の軽量化を図ることができる。また繊維束が扁平形状であることにより、エアバッグ全体の体積を減少しコンパクト化できる効果もある。
【0018】
第5発明は、上記第4発明において、前記エアバッグは、断面形状が略円形の複数の通常糸を束ねて断面略円形とした通常繊維束を備えた通常繊維基布と、前記扁平繊維基布とを縫製して形成されるとともに、前記圧力流体の噴出による膨張展開時に、運転者側に前記扁平繊維基布が位置し、フロントガラス側に前記通常繊維基布が位置するように配置されていることを特徴とする。
【0019】
相対的に漏れが少ない扁平繊維基布を運転者側に位置させ、相対的に漏れが多い通常繊維基布をフロントガラス側に位置させ、運転者側とフロントガラス側で漏れ特性を異ならせることにより、ベントホールを設けることなく運転者側により素早く展開させ、迅速かつ確実な運転者の保護を行うことができる。
【0020】
第6発明は、上記第4発明において、前記エアバッグは、前記圧力流体の噴出により、自動車の車室の側部上方から略下方に展開可能なカーテンエアバッグであり、前記扁平繊維エアバッグ用基布が、膨張展開方向と略直交方向に前記扁平繊維束を備えていることを特徴とする。
【0021】
扁平繊維束は通常繊維束よりも折り畳みやすい性質を備えることにより、カーテンエアバッグの収納時の折り畳み態様に合致させて、車室の側部上方から略下方への膨張展開方向と略直交方向(言い換えれば略水平方向)に扁平繊維束を配設しておくことにより、カーテンエアバッグ製造時の基布の折り畳み作業が容易に行え、作業効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、エアバッグの気密性を確保しつつ、エアバッグ用基布全体の軽量化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0024】
本発明の第1の実施形態を図1〜図12により説明する。本実施形態は、本発明を運転者用のドライバーズエアバッグに適用した場合の実施形態である。
【0025】
図1は、本実施形態のエアバッグ用基布を用いたエアバッグを備えたエアバッグ装置の概略構造を表す縦断面図である。図2はエアバッグの取り付け構造を示す図1中要部構造の分解斜視図である。
【0026】
これら図1及び図2において、このエアバッグ装置は、折り畳まれたエアバッグ9と、このエアバッグ9を膨張展開させるための圧力流体(ガス)を噴出するインフレータ24と、このインフレータ24を取り付けるための略プレート状のリテーナ20とを有している。
【0027】
エアバッグ9は、モジュールカバー32によって覆われている。このモジュールカバー32にはエアバッグ9が膨張する際に開裂するテアライン34が設けられており、リベット(図示略)等を介し上記リテーナ20の脚片部20aに連結、固定されている。またエアバッグ9の開口4の周縁部は、金属ワッシャ35を介し、リテーナ20とリング状のエアバッグ取付具(エアバッグ基布取付用金属部材)26との間に挟持されている。
【0028】
リテーナ20は、その中央に上記インフレータ24の挿入用の開口22が設けられており、インフレータ24の先頭側24aが上記開口22を通って差し込まれるとともにフランジ24bがリテーナ20の裏側面に重ね合わされるように配置されている。フランジ24bは、上記エアバッグ取付具26、金属ワッシャ35、及びエアバッグ9とともにボルト28によって貫通されており、このボルト28にナット30が螺合されることによってリテーナ20に対し連結、固定されている。
【0029】
図3(a)及び図3(b)は、上記エアバッグ9の製作方法を示す分解斜視図である。
【0030】
これら図3(a)及び図3(b)において、上記エアバッグ9は、一方側の基布(=リヤパネル)2を他方側の基布(=フロントパネル)1と貼り合わせるようにした後(図3(a))、それらの周縁部を、縫合糸3によって縫合することで構成されている(図3(b))。このとき、リヤパネル2には、インフレータ24挿入用の前述の開口4が設けられている。このとき、本実施形態では、フロントパネル1は、断面扁平形状の扁平繊維束を有する扁平繊維基布(詳細は後述)であり、リヤパネル2は、断面形状が略円形の複数の通常糸を束ねて断面略円形とした通常繊維束を備えた通常繊維基布(詳細は後述)となっている。
【0031】
なお、樹脂コートタイプのエアバッグとする場合には、エアバッグ9は表裏逆の状態で完成させることから、リヤパネル2のフロントパネル1側(図3(a)中の下側)及びフロントパネル1のリヤパネル2側(図3(a)中の上側)に当該樹脂コーティングが施される。
【0032】
図4は、上記のようにして貼り合わせたエアバッグ9の平面図であり、図5は図4中V−V断面による横断面図である。
【0033】
これら図4及び図5に示すように、リヤパネル2には、前述の周縁部における縫合糸3に加え、その周縁部から上記開口4近傍まで、縫合糸3a,3b,3c,3dによって縫合されている。また上記周縁部の縫合糸3は、図5に示すようにリヤパネル2及びフロントパネル1を貫通して設けられている。このとき、上記開口4の縁部からは切込状のスリット10が延設されている。なお、図4及び図5中に二点鎖線で示すように、強度補強のための公知のあて布(補強布)Bを用いてもよい。
【0034】
図6は、エアバッグ9の折り畳み方法を説明するための説明図である。
【0035】
エアバッグ9を折り畳む際は、まず、エアバッグ9を平たく延ばす(図6(a)なおこの状態のエアバッグを9Aとする)。次に、このエアバッグ9Aを両側から葛折り状に折り返すことにより、細長い中間折り畳み体9Bとする。図6(d)がこの中間折り畳み体9Bの上面図であり、図6(c)は図6(d)中のC−C側面図であり、図6(b)は図6(d)中B−B断面による横断面図である。
【0036】
その後、この中間折り畳み体9Bを、折り返し線がその幅方向になるように複数回折り畳む(この例では葛折り状)ことにより、最終折り畳み体9Cとする。図6(f)はこの最終折り畳み体9Cの上面図であり、図6(e)は図6(f)のE−E断面による横断面図である。
【0037】
図7は、エアバッグ開口の近傍部分を裏返しにする工程を表す断面図である。上記のようにして最終折り畳み体形状とされたエアバッグ9Cは、まず図7(a)のように、開口4の縁部を裏返しにするように二点鎖線の矢印のように折り返す。これにより、図7(b)に示す完成された折り畳み体形状のエアバッグ(完成品)9となる。このエアバッグ9にあっては、リヤパネル2のうち開口4の近傍部分11がフロントパネル1及びリヤパネル2の折り畳み部分12を包囲した形状となっている(上記した図1も参照)。そして、開口4を備えたリヤパネル2が膨張展開時にフロントガラス側に位置するように、フロントパネル1が膨張展開時に乗員(運転者)側に位置するように、配設される。
【0038】
上記基本構成のエアバッグ9において、本実施形態の最大の特徴は、基布の少なくとも一部(この例ではフロントパネル1の全繊維束)に、断面扁平形状の扁平繊維束を有する扁平繊維基布を用いたことにある。すなわち、フロントパネル1は、通常のこの種の基布と同様、互いに直交する方向に延設する第1繊維束(いわゆる経糸)と第2繊維束(いわゆる緯糸)とが製織されて構成されており、これら第1繊維束及び前記第2繊維束のうち少なくとも一方(この例では第2繊維束)を扁平繊維束としたものである。以下、この扁平繊維基布の詳細について説明する。
【0039】
図8は、上記扁平繊維束の断面形状の一例を表す横断面図である。図示のように、扁平繊維束100は、断面形状のアスペクト比が1.5以上8以下である複数の扁平糸101を、当該扁平方向が略揃うように束ねて断面扁平形状とすることによって構成されている。
【0040】
図9(a)及び図9(b)は、それぞれ、上記扁平繊維束100を構成する扁平糸101の単糸断面形状の一例を表す横断面図である。扁平糸101は、図9(a)の例では横断面楕円形形状、図9(b)の例では横断面形状が向かい合う辺が平行である楕円形である。このとき、扁平率(=アスペクト比;長軸aと短軸bの長さの比)は1.5〜8であり、好ましくは2〜6である。扁平率が1.5未満では円断面糸に近く、扁平断面糸を用いた効果、すなわち、低通気性と柔軟性、収納性を兼備する布帛(基布)を得ることができなくなる。一方、扁平率が8を越えると、扁平断面糸を用いる効果が飽和するばかりか、高強度、高タフネス繊維を良好な品位で安定に製糸することが難しくなるからである。
【0041】
なお、上記以外の形状であっても、長軸と短軸が上記の関係を満たすものであれば、長方形、菱形、繭型のような左右対称型は勿論、左右非対称型でもよく、あるいはそれらの組み合わせ型でもよい。これらの場合の長軸および短軸とは楕円形の長径、短径に相当するものであり、単糸断面形状において重心を通る重心線を引き、その最も長い線分をもって長軸と定義する。また、その長軸に対し垂直方向における最も長い線分を短軸とする。さらに、更に上記を基本型として、本発明の効果を損ねない範囲で突起や凹み、或いは中空部が存在しても良い。
【0042】
図10は、上記扁平糸101を用いた扁平繊維束100を用いて、上記フロントパネル1を製造するシステムの概略構造を表す概念図である。
【0043】
図10に示すように、このシステムでは、予め扁平糸101がロール等に巻回された複数の巻出し装置102よりそれぞれ扁平糸101が巻き出され、これらが張力付与機構103(詳細は後述)によって1つの束になるように近接収束されて1つの扁平繊維束100となる。このようにして形成された多数の扁平繊維束100がフロントパネル1を形成するための第2繊維束(緯糸)として公知の製織機104へ導入され、別途供給された第1繊維束(経糸)としての通常繊維束105(断面形状が略円形の複数の通常糸を束ねて断面略円形としたもの)と製織されて織物106(フロントパネル1を裁断して切り出すための素材)が形成され、さらに巻き取り側の駆動ローラ107によって引っ張るように駆動されて図示しない巻き取り装置へと巻き取られる。巻き取られた織物106を所定形状に裁断することによってフロントパネル1を得ることができる。
【0044】
図11は、上記張力付与機構103の詳細要部構造を表す斜視図である。図11に示す張力付与機構103において、一対のテンションロール151,151の外周側をそれぞれ逆向きに巻き付けるようにして上記扁平糸101が掛け渡される(図示せず)。上記テンションロール151,151はそれら両ロール151,151の軸心を結んだ線が首を振るように作動可能に構成され、この動作によって上記扁平糸101に付与する張力の値を変化できるようになっている。また送出フレーム153には、上記張力制御のための駆動力を発生するACサーボモータ154が設けられており、このサーボモータ154の駆動力は送出ギヤボックス155内のウォーム減速機(図示せず)にて所定の減速比に減速されてワープビームピニオン156及びワープビームギヤ157へ伝達され、これによって最終的に上記テンションロール151,151が上記首振り(回動)動作を行う。なおこのときのこの首振り(回動)動作は、テンションレバー152の回動動作を介してセンサ(ロードセル)158によって検出される。
【0045】
図10に戻り、上記センサ158による検出信号(張力検出信号)は、制御装置159に入力されており、制御装置159はこの検出信号に基づき、上記サーボモータ154及び前述の駆動ローラ107の駆動モータ160のフィードバック制御を行い、例えば図示しない操作手段からの操作指令信号に基づき、扁平糸101及び扁平繊維束100に付与される張力を制御する。これにより、上記製織機104へ供給されるときには、バラバラとなっている各扁平糸101の扁平方向が強制的に略揃えられ、かつ横断面形状が扁平形状となった扁平繊維束100を確実に生成するようになっている。
【0046】
以上のように構成した上記エアバッグ装置において、自動車の衝突等によってインフレータ24がガスを噴出作動すると、エアバッグ9が膨張を開始し、モジュールカバー32がテアライン34に沿って開裂し、エアバッグ9が乗員の前方に膨張するようになっている。この場合、エアバッグ9のフロントパネル1のうち開口4と反対側の部分13(図1も参照)がまず膨らみ、続いて、リヤパネル2の近傍部分11に包囲されたフロントパネル1及びリヤパネル2の折り畳み部分12が折り畳み部分12,12同士の間の通路を通って裏返しになりながら膨張する。この結果、図12に示す通り、完全に膨張したエアバッグ9は、内外反転した状態となり、前述した縫合糸3による縫合部分はエアバッグ9の内側に配置されることになる。そして、通常繊維基布であるリヤパネル2がフロントガラス側に位置し、扁平繊維基布であるフロントパネル1が乗員(運転者)側に位置するように展開する。
【0047】
このような膨張展開時、インフレータ24からエアバッグ9内に流入した圧力流体の一部は、フロントパネル1やリヤパネル2を膨張展開した後、それらパネル1,2の織り構造の隙間から外部へと漏れだす。
【0048】
ここで、本実施形態では、フロントパネル1を構成する扁平繊維束100が、複数の扁平糸101を当該扁平方向が略揃うように束ねて断面扁平形状となっており、上記織り構造が比較的密に詰まっているため、上記圧力流体の漏れ出しが少ない傾向となる。そこで、このような漏れ出しが少ない傾向を利用して、扁平繊維束100を備えたフロントパネル1の繊維束数を通常より減少させても、フロントパネル1の展開性能を通常程度に維持することが可能となる。この結果、その間引いた扁平繊維束100の分、フロントパネル1全体の軽量化を図ることができる。また扁平繊維束100が扁平形状であることにより、エアバッグ9全体の体積を減少しコンパクト化できる効果もある。
【0049】
また、本実施形態では特に、相対的に漏れが少ない扁平繊維基布を備えたフロントパネル1を運転者側に位置させ、相対的に漏れが多い通常繊維基布を備えたリヤパネル2をフロントガラス側に位置させ、運転者側とフロントガラス側で漏れ特性を異ならせている。これにより、リヤパネル2側に通常設けられるベントホールを設けることなく、エアバッグ9を運転者側により素早く展開させ、迅速かつ確実な運転者の保護を行うことができる。
【0050】
本発明の第2の実施形態を図13〜図16により説明する。本実施形態は、本発明をカーテンエアバッグに適用した場合の実施形態である。上記第1の実施形態と同等の部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0051】
図13は本発明の一実施形態によるエアバッグ用基布を備えたカーテンエアバッグを有するカーテンエアバッグ装置を、自動車に取り付けた状態を説明する図である。
【0052】
図13において、自動車(車両)201の室内の天井部と側面部との交叉隅部に、カーテンエアバッグ装置が取り付けられている。このカーテンエアバッグ装置は、自動車のルーフサイドレール202に取り付けられ、乗員の頭部を自動車201の側面衝突時や横転時等に保護するエアバッグ220と、このエアバッグ220の後端部側よりエアバッグ220にガスを供給するインフレータ210と、衝突を検知してインフレータ210に点火信号を送る検知センサ(図示せず)と、上記インフレータ210とエアバッグ220の後端側とをCピラー213に固定するブラケット211及びボルト212とを有している。
【0053】
なお、カーテンエアバッグ220の取り付け箇所はルーフサイドレール202に限定されるものではなく、Aピラー215、Bピラー214、Cピラー213等であってもよい。
【0054】
図14(a)は、カーテンエアバッグの詳細構造を表す一部断面で表す斜視図であり、図14(b)はそのカーテンエアバッグ本体221を抽出して示す図である。
【0055】
これら図14(a)及び図14(b)において、カーテンエアバッグ220は、細長い略楕円柱形断面形状を呈するようにつづら折り状に折り畳まれたカーテンエアバッグ本体221と、該カーテンエアバッグ本体221を覆うカバー(被覆部材)222を有する。
【0056】
カーテンエアバッグ本体221からは、上方に耳状の取付部223が突設され、この取付部223にボルト等の留付具の挿通孔224が設けられている。この取付部223は、被覆部材222の上面部に設けられた細長いスロット(スリット状開放口)225を通って被覆部材222の上方に延出している。被覆部材222の一方の側面には、カーテンエアバッグ本体221の折り畳み体の長手方向に一列に所定間隔をあけて開口226が設けられており、この開口226を通して被覆部材222の外部からカーテンエアバッグ本体221を目視観察しうるようになっている。
【0057】
なお、カーテンエアバッグ本体221の一端側にはインフレータ210からのガスの導入口(図示略)が設けられるか、又はインフレータ210の挿入口(図示略)が設けられている。また、上記カーテンエアバッグ220は、通常は車両内装材によって覆われている(図示せず)が、この車両内装材はカーテンエアバッグ本体221が膨張するときに断裂したりあるいは車室側に開き出したりしてカーテンエアバッグ本体221が車室内に膨張することを許容するようになっている。
【0058】
図15(a)は、図14中XV−XV断面による横断面図である。
【0059】
図15(a)及び前述の図14(a)において、カーテンエアバッグ本体221の折り重ね面は略水平方向となっている。そのため、カーテンエアバッグ本体221の折り目や折り重ねにより生じる筋状部分がカーテンエアバッグ本体221の折り畳み体の側面に現われている。
【0060】
また、被覆部材222は、細長い帯状の基布を筒状とし、縫合糸222aによって長手方向の両縁部同士を結合したものである。筒状とされた被覆部材222内にカーテンエアバッグ本体221の折り畳み体が導入され、カーテンエアバッグ220とされる。
【0061】
図15(b)は、図15(a)に示す構造のエアバッグ作動時(詳細は後述)における膨張状態を表す図である。
【0062】
図15(b)において、カーテンエアバッグ本体221は、2枚のエアバッグ用基布221a,221bを重ね合わせ、周縁部を縫合糸221cによって縫合し結合することによりバッグ形状(袋状)としたものである。
【0063】
縫合糸221cは、カーテンエアバッグ本体221が膨張するときには断裂する強度のものとなっている。なお、この縫合糸221cによる縫合の代りに接着や融着などの結合手段を採用してもよい。また、膨張したときのカーテンエアバッグ本体221の厚みが過大とならないようにしたり、あるいはカーテンエアバッグ本体221内にガス通路又は小室を形成したりするために、基布221a,221bの周縁以外の中央側部分同士が縫合等により結合されてもよい。
【0064】
上記構成において、自動車201の衝突時に検知センサによりインフレータ210に点火されてインフレータ210が作動してガスがインフレータ210よりエアバッグ220のエアバッグ本体221に放出されると、エアバッグ本体221は図13中2点鎖線221’で示すように車両のドアに沿って膨張を開始し、被覆部材222を破って展開し、カーテンのように室内の窓などの側面部材に沿って下方に展開し、乗員の頭部や肩等の上半身を受け止める。
【0065】
図16は上記のように展開した状態のエアバッグ本体221′を表す図である。
【0066】
図16において、エアバッグ本体221′のエアバッグ用基布221a,221bは第1繊維束322(いわゆる経糸)と第2繊維束323(いわゆる緯糸)とが製織されている。そして、本実施形態の最大の特徴は、それら第1繊維束322及び第2繊維束323の一部(この例では第2繊維束323のうち基布221a,221bの折り畳み箇所一帯の複数の繊維束)に、断面扁平形状の扁平繊維束323Aを設けたことにある。
【0067】
これら扁平繊維束323Aは、詳細な図示及び説明を省略するが、上記第1の実施形態の扁平繊維束100とほぼ同様の構成を備え同様の手法で製織されたものであり、断面形状のアスペクト比が1.5以上8以下である複数の扁平糸101を、当該扁平方向が略揃うように束ねて断面扁平形状とすることによって構成されている。そして、エアバッグ製造時におけるエアバッグ本体221を折り畳む工程において、バッグを所定の順序で展開できるようにそれら扁平繊維束323Aのある領域にて折り畳まれ、その折り畳んだエアバッグ本体221が被覆部材222に収納して拘束又は形状保持されているものである。
【0068】
図示のような膨張展開時、インフレータ210からエアバッグ220内に流入した圧力流体の一部は、基布221a,221bを膨張展開した後、それら基布221a,221bの織り構造の隙間から外部へと漏れだす。
【0069】
ここで、本実施形態では、基布221a,221bの第2繊維束323のうち一部(この例では基布221a,221bの折り畳み箇所一帯に位置する複数の繊維束)を断面扁平形状の扁平繊維束323Aとしており、この扁平繊維束323Aが、上記第1の実施形態の扁平繊維束100と同様、複数の扁平糸101を当該扁平方向が略揃うように束ねて断面扁平形状となっており、上記織り構造が比較的密に詰まっているため、上記圧力流体の漏れ出しが少ない傾向となる。そこで、このような漏れ出しが少ない傾向を利用すれば、それら複数の扁平繊維束323Aの数を通常より減少させても、基布221a,221bからなるエアバッグ本体221の展開性能を通常程度に維持することが可能となる。この結果、その間引いた扁平繊維束323Aの分、基布221a,221b全体の軽量化を図ることができる。
【0070】
また、基布221a,221b全体を扁平糸101を用いた扁平繊維束323Aとすると大きなコスト増大を招くが、本実施形態では特に、一部のみを扁平繊維束323Aとし、他の部分は通常繊維束(繊維束323及び繊維束325)とすることにより、コスト増大を最小限に抑制することができる。
【0071】
また、本実施形態では特に、扁平繊維束部分が通常繊維束部分よりも折り畳みやすい性質を備えることを利用し、エアバッグ本体221のエアバッグ装置への収納時の折り畳み態様に合致させて扁平繊維束領域を配設している。すなわち、車室の側部上方から略下方への膨張展開するエアバッグ本体221の当該展開方向と略直交方向(言い換えれば略水平方向)に延設される緯糸323のうち当該折り畳み部分一帯に扁平繊維束323Aを配設している。これにより、カーテンエアバッグ製造時の基布221a,221bの折り畳み作業が容易に行え、作業効率を向上させることができる。またこの折り畳み領域(言い換えれば折り返し領域)が折れやすい扁平繊維束323Aであることにより、エアバッグ本体221A全体をコンパクト化できる効果もある。
【0072】
なお、上記第1及び第2実施形態は、本発明を運転席用エアバッグやカーテンエアバッグに適用したものであるが、これに限られず、助手席用エアバッグ、サイドエアバッグ、ニーエアバッグ、後席用エアバッグ等各種のエアバッグ用基布及びエアバッグの製造方法に適用することができる。また、自動車以外のエアバッグ用基布及びエアバッグの製造方法にも適用できる。また、エアバッグにも限られず、自動車以外の樹脂コート用基布及び樹脂コートなしの基布の製造方法にも適用できるとともに他の製織方法(例えば、エアージェット製織機、ラピエ製織機など)にも応用することが可能であり、さらに付属する部材(例えばテザー、ラッピング材、プロテクター、ディフューザ等)に応用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の一実施形態のエアバッグ用基布を用いたエアバッグを備えたエアバッグ装置の概略構造を表す縦断面図である。
【図2】エアバッグの取付構造を示す図1中要部構造の分解斜視図である。
【図3】エアバッグの製作方法を示す分解斜視図である。
【図4】エアバッグの平面図である。
【図5】図4中V−V断面による横断面図である。
【図6】エアバッグの折り畳み方法を説明するための説明図である。
【図7】エアバッグ開口の近傍部分を裏返しにする工程を表す断面図である。
【図8】扁平繊維束の断面形状の一例を表す横断面図である。
【図9】扁平繊維束を構成する扁平糸の単糸断面形状の一例を表す横断面図である。
【図10】扁平糸を備えた扁平繊維束を用いてフロントパネルを製造するシステムの概略構造を表す概念図である。
【図11】図10に示した張力付与機構の詳細要部構造を表す斜視図である。
【図12】エアバッグが十分に膨張した状態を示す断面図である。
【図13】本発明の一実施形態によるエアバッグ用基布を備えたカーテンエアバッグを有するカーテンエアバッグ装置を、自動車に取り付けた状態を説明する図である。
【図14】図13に示したカーテンエアバッグの詳細構造を表す一部断面で表す斜視図、及びそのカーテンエアバッグ本体を抽出して示す図である。
【図15】図14中XV−XV断面による横断面図、及びエアバッグ作動時における膨張状態を表す図である。
【図16】展開した状態のエアバッグ本体を表す図である。
【符号の説明】
【0074】
1 フロントパネル(扁平繊維基布、エアバッグ用基布)
2 リヤパネル(通常繊維基布、エアバッグ用基布)
3 縫合糸
9 エアバッグ
24 インフレータ
100 扁平繊維束
101 扁平糸
103 張力付与機構
210 インフレータ
220 エアバッグ
221 エアバッグ本体
221a,b エアバッグ用基布
322 第1繊維束(経糸)
323 第2繊維束(緯糸)
323A 扁平繊維束
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の衝突時に膨張展開して乗員の安全を確保するエアバッグ本体を備えたエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のエアバッグ装置は運転席用エアバッグ装置、助手席用エアバッグ装置、サイドエアバッグ装置、カーテンエアバッグ装置等など各種のエアバッグ装置が使用されている。
【0003】
一般に、それらエアバッグ装置に使用されているエアバッグ(エアバッグ本体)は、所定の展開性能を確保するために気密性の高い基布を縫製した袋体で構成されており、未展開の通常収納時には折り畳まれた状態で保持されている(例えば、特許文献1参照)。また、エアバッグ本体の基布には気密性を確保するための様々な加工を施すことが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2001−277977号公報
【特許文献2】特許第3480585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記エアバッグ装置を構成する各部分は、基布を含め、車載部品である以上、常に軽量化が求められている。特に、近年の省エネルギ、地球環境保護の観点から、燃料消費量を減らすためにも車載部品のより一層の軽量化が求められつつある。特に、エアバッグ装置自体、その性質上、非常時にのみ使い切り形式で作動するものであって通常時には全く機能しないものであることからも、軽量化は重要である。
【0006】
エアバッグ用基布の軽量化を図る場合には、最も有効であるのは、その製職された繊維束(=複数の糸すなわちフィラメントから構成される)の本数を減らすことである。しかしながら、繊維束の数を減らすとその分基布の織物構造が粗となるため、インフレータから流入した圧力流体が外部へ漏れやすくなる可能性があった。
【0007】
本発明の目的は、エアバッグの気密性を確保しつつ、エアバッグ用基布全体の軽量化を図ることができるエアバッグ用基布及びエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1の発明は、自動車用エアバッグ装置に用いるエアバッグ用基布であって、断面形状のアスペクト比が1.5以上8以下である複数の扁平糸を、当該扁平方向が略揃うように束ねて断面扁平形状とした扁平繊維束を有することを特徴とする。
【0009】
エアバッグ用基布は、インフレータ側から流入した圧力流体によって膨張展開を行うが、このとき流入した圧力流体の一部は、基布を膨張展開した後、基布の織り構造の隙間から外部へと漏れだす。ここで、基布を構成する繊維束が、複数の扁平糸を当該扁平方向が略揃うように束ね、断面扁平形状となっている場合には、上記織り構造が比較的密に詰まっていることから、エアバッグの気密性を確保できる。
【0010】
本願第1発明においては、上記断面扁平形状の繊維束では圧力流体の漏れ出しが減少可能であることを利用することで、基布の展開性能を通常程度としつつ、繊維束数を通常より減少させることができる。これにより、気密性を確保しつつ、その間引いた扁平形状の繊維束の分、エアバッグ用基布全体の軽量化を図ることができる。また繊維束が扁平形状であることにより、エアバッグ全体の体積を減少しコンパクト化できる効果もある。
【0011】
第2発明は、上記第1発明において、断面形状が略円形の複数の通常糸を束ねて断面略円形とした通常繊維束を有することを特徴とする。
【0012】
基布全体を扁平糸を用いた扁平繊維束とすると大きなコスト増大を招くが、重要な部分等一部のみを扁平繊維束とし、他の部分は通常繊維束とすることにより、コスト増大を最小限に抑制することができる。また、扁平繊維束部分は通常繊維束部分よりも折り畳みやすい性質を備えることにより、エアバッグ装置への収納時の折り畳み態様に合致させて扁平繊維束領域を配設しておくことにより、基布の折り畳み作業が容易に行え、作業効率が向上する効果もある。
【0013】
第3発明は、上記第1又は第2発明において、互いに直交する方向に延設する第1繊維束及び第2繊維束とを製織して構成され、前記扁平繊維束は、前記第1繊維束及び前記第2繊維束のうち少なくとも一方に含まれることを特徴とする。
【0014】
互いに直交する第1及び第2繊維束(いわゆる経糸と緯糸)の少なくとも一方に扁平繊維束を含むことにより、当該第1又は第2繊維束について、繊維束数を通常より減少させ、エアバッグ用基布全体の軽量化を図ることができる。
【0015】
上記目的を達成するために、第4発明は、断面形状のアスペクト比が1.5以上8以下である複数の扁平糸を、当該扁平方向が略揃うように束ねて断面扁平形状とした扁平繊維束を有する扁平繊維基布を備えたエアバッグと、このエアバッグを膨張展開させるための圧力流体を噴出するインフレータとを有することを特徴とする。
【0016】
インフレータから噴出された圧力流体はエアバッグに流入しエアバッグを膨張展開させるが、このとき流入する圧力流体の一部は膨張展開後基布の織り構造の隙間から外部へと漏れだす。ここで、基布を構成する繊維束が、複数の扁平糸を当該扁平方向が略揃うように束ね、断面扁平形状となっている場合には、上記織り構造が比較的密に詰まっていることから、インフレータから流入した圧力流体の上記漏れ出しは少ない傾向となる。
【0017】
本願第4発明においては、上記断面扁平形状の繊維束では圧力流体の漏れ出しが減少可能であることを利用することで、基布を備えたエアバッグの展開性能を通常程度としつつ、繊維束数を通常より減少させることができる。これにより、エアバッグの気密性を確保しつつ、その間引いた扁平形状の繊維束の分、エアバッグ用基布全体の軽量化を図ることができる。また繊維束が扁平形状であることにより、エアバッグ全体の体積を減少しコンパクト化できる効果もある。
【0018】
第5発明は、上記第4発明において、前記エアバッグは、断面形状が略円形の複数の通常糸を束ねて断面略円形とした通常繊維束を備えた通常繊維基布と、前記扁平繊維基布とを縫製して形成されるとともに、前記圧力流体の噴出による膨張展開時に、運転者側に前記扁平繊維基布が位置し、フロントガラス側に前記通常繊維基布が位置するように配置されていることを特徴とする。
【0019】
相対的に漏れが少ない扁平繊維基布を運転者側に位置させ、相対的に漏れが多い通常繊維基布をフロントガラス側に位置させ、運転者側とフロントガラス側で漏れ特性を異ならせることにより、ベントホールを設けることなく運転者側により素早く展開させ、迅速かつ確実な運転者の保護を行うことができる。
【0020】
第6発明は、上記第4発明において、前記エアバッグは、前記圧力流体の噴出により、自動車の車室の側部上方から略下方に展開可能なカーテンエアバッグであり、前記扁平繊維エアバッグ用基布が、膨張展開方向と略直交方向に前記扁平繊維束を備えていることを特徴とする。
【0021】
扁平繊維束は通常繊維束よりも折り畳みやすい性質を備えることにより、カーテンエアバッグの収納時の折り畳み態様に合致させて、車室の側部上方から略下方への膨張展開方向と略直交方向(言い換えれば略水平方向)に扁平繊維束を配設しておくことにより、カーテンエアバッグ製造時の基布の折り畳み作業が容易に行え、作業効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、エアバッグの気密性を確保しつつ、エアバッグ用基布全体の軽量化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0024】
本発明の第1の実施形態を図1〜図12により説明する。本実施形態は、本発明を運転者用のドライバーズエアバッグに適用した場合の実施形態である。
【0025】
図1は、本実施形態のエアバッグ用基布を用いたエアバッグを備えたエアバッグ装置の概略構造を表す縦断面図である。図2はエアバッグの取り付け構造を示す図1中要部構造の分解斜視図である。
【0026】
これら図1及び図2において、このエアバッグ装置は、折り畳まれたエアバッグ9と、このエアバッグ9を膨張展開させるための圧力流体(ガス)を噴出するインフレータ24と、このインフレータ24を取り付けるための略プレート状のリテーナ20とを有している。
【0027】
エアバッグ9は、モジュールカバー32によって覆われている。このモジュールカバー32にはエアバッグ9が膨張する際に開裂するテアライン34が設けられており、リベット(図示略)等を介し上記リテーナ20の脚片部20aに連結、固定されている。またエアバッグ9の開口4の周縁部は、金属ワッシャ35を介し、リテーナ20とリング状のエアバッグ取付具(エアバッグ基布取付用金属部材)26との間に挟持されている。
【0028】
リテーナ20は、その中央に上記インフレータ24の挿入用の開口22が設けられており、インフレータ24の先頭側24aが上記開口22を通って差し込まれるとともにフランジ24bがリテーナ20の裏側面に重ね合わされるように配置されている。フランジ24bは、上記エアバッグ取付具26、金属ワッシャ35、及びエアバッグ9とともにボルト28によって貫通されており、このボルト28にナット30が螺合されることによってリテーナ20に対し連結、固定されている。
【0029】
図3(a)及び図3(b)は、上記エアバッグ9の製作方法を示す分解斜視図である。
【0030】
これら図3(a)及び図3(b)において、上記エアバッグ9は、一方側の基布(=リヤパネル)2を他方側の基布(=フロントパネル)1と貼り合わせるようにした後(図3(a))、それらの周縁部を、縫合糸3によって縫合することで構成されている(図3(b))。このとき、リヤパネル2には、インフレータ24挿入用の前述の開口4が設けられている。このとき、本実施形態では、フロントパネル1は、断面扁平形状の扁平繊維束を有する扁平繊維基布(詳細は後述)であり、リヤパネル2は、断面形状が略円形の複数の通常糸を束ねて断面略円形とした通常繊維束を備えた通常繊維基布(詳細は後述)となっている。
【0031】
なお、樹脂コートタイプのエアバッグとする場合には、エアバッグ9は表裏逆の状態で完成させることから、リヤパネル2のフロントパネル1側(図3(a)中の下側)及びフロントパネル1のリヤパネル2側(図3(a)中の上側)に当該樹脂コーティングが施される。
【0032】
図4は、上記のようにして貼り合わせたエアバッグ9の平面図であり、図5は図4中V−V断面による横断面図である。
【0033】
これら図4及び図5に示すように、リヤパネル2には、前述の周縁部における縫合糸3に加え、その周縁部から上記開口4近傍まで、縫合糸3a,3b,3c,3dによって縫合されている。また上記周縁部の縫合糸3は、図5に示すようにリヤパネル2及びフロントパネル1を貫通して設けられている。このとき、上記開口4の縁部からは切込状のスリット10が延設されている。なお、図4及び図5中に二点鎖線で示すように、強度補強のための公知のあて布(補強布)Bを用いてもよい。
【0034】
図6は、エアバッグ9の折り畳み方法を説明するための説明図である。
【0035】
エアバッグ9を折り畳む際は、まず、エアバッグ9を平たく延ばす(図6(a)なおこの状態のエアバッグを9Aとする)。次に、このエアバッグ9Aを両側から葛折り状に折り返すことにより、細長い中間折り畳み体9Bとする。図6(d)がこの中間折り畳み体9Bの上面図であり、図6(c)は図6(d)中のC−C側面図であり、図6(b)は図6(d)中B−B断面による横断面図である。
【0036】
その後、この中間折り畳み体9Bを、折り返し線がその幅方向になるように複数回折り畳む(この例では葛折り状)ことにより、最終折り畳み体9Cとする。図6(f)はこの最終折り畳み体9Cの上面図であり、図6(e)は図6(f)のE−E断面による横断面図である。
【0037】
図7は、エアバッグ開口の近傍部分を裏返しにする工程を表す断面図である。上記のようにして最終折り畳み体形状とされたエアバッグ9Cは、まず図7(a)のように、開口4の縁部を裏返しにするように二点鎖線の矢印のように折り返す。これにより、図7(b)に示す完成された折り畳み体形状のエアバッグ(完成品)9となる。このエアバッグ9にあっては、リヤパネル2のうち開口4の近傍部分11がフロントパネル1及びリヤパネル2の折り畳み部分12を包囲した形状となっている(上記した図1も参照)。そして、開口4を備えたリヤパネル2が膨張展開時にフロントガラス側に位置するように、フロントパネル1が膨張展開時に乗員(運転者)側に位置するように、配設される。
【0038】
上記基本構成のエアバッグ9において、本実施形態の最大の特徴は、基布の少なくとも一部(この例ではフロントパネル1の全繊維束)に、断面扁平形状の扁平繊維束を有する扁平繊維基布を用いたことにある。すなわち、フロントパネル1は、通常のこの種の基布と同様、互いに直交する方向に延設する第1繊維束(いわゆる経糸)と第2繊維束(いわゆる緯糸)とが製織されて構成されており、これら第1繊維束及び前記第2繊維束のうち少なくとも一方(この例では第2繊維束)を扁平繊維束としたものである。以下、この扁平繊維基布の詳細について説明する。
【0039】
図8は、上記扁平繊維束の断面形状の一例を表す横断面図である。図示のように、扁平繊維束100は、断面形状のアスペクト比が1.5以上8以下である複数の扁平糸101を、当該扁平方向が略揃うように束ねて断面扁平形状とすることによって構成されている。
【0040】
図9(a)及び図9(b)は、それぞれ、上記扁平繊維束100を構成する扁平糸101の単糸断面形状の一例を表す横断面図である。扁平糸101は、図9(a)の例では横断面楕円形形状、図9(b)の例では横断面形状が向かい合う辺が平行である楕円形である。このとき、扁平率(=アスペクト比;長軸aと短軸bの長さの比)は1.5〜8であり、好ましくは2〜6である。扁平率が1.5未満では円断面糸に近く、扁平断面糸を用いた効果、すなわち、低通気性と柔軟性、収納性を兼備する布帛(基布)を得ることができなくなる。一方、扁平率が8を越えると、扁平断面糸を用いる効果が飽和するばかりか、高強度、高タフネス繊維を良好な品位で安定に製糸することが難しくなるからである。
【0041】
なお、上記以外の形状であっても、長軸と短軸が上記の関係を満たすものであれば、長方形、菱形、繭型のような左右対称型は勿論、左右非対称型でもよく、あるいはそれらの組み合わせ型でもよい。これらの場合の長軸および短軸とは楕円形の長径、短径に相当するものであり、単糸断面形状において重心を通る重心線を引き、その最も長い線分をもって長軸と定義する。また、その長軸に対し垂直方向における最も長い線分を短軸とする。さらに、更に上記を基本型として、本発明の効果を損ねない範囲で突起や凹み、或いは中空部が存在しても良い。
【0042】
図10は、上記扁平糸101を用いた扁平繊維束100を用いて、上記フロントパネル1を製造するシステムの概略構造を表す概念図である。
【0043】
図10に示すように、このシステムでは、予め扁平糸101がロール等に巻回された複数の巻出し装置102よりそれぞれ扁平糸101が巻き出され、これらが張力付与機構103(詳細は後述)によって1つの束になるように近接収束されて1つの扁平繊維束100となる。このようにして形成された多数の扁平繊維束100がフロントパネル1を形成するための第2繊維束(緯糸)として公知の製織機104へ導入され、別途供給された第1繊維束(経糸)としての通常繊維束105(断面形状が略円形の複数の通常糸を束ねて断面略円形としたもの)と製織されて織物106(フロントパネル1を裁断して切り出すための素材)が形成され、さらに巻き取り側の駆動ローラ107によって引っ張るように駆動されて図示しない巻き取り装置へと巻き取られる。巻き取られた織物106を所定形状に裁断することによってフロントパネル1を得ることができる。
【0044】
図11は、上記張力付与機構103の詳細要部構造を表す斜視図である。図11に示す張力付与機構103において、一対のテンションロール151,151の外周側をそれぞれ逆向きに巻き付けるようにして上記扁平糸101が掛け渡される(図示せず)。上記テンションロール151,151はそれら両ロール151,151の軸心を結んだ線が首を振るように作動可能に構成され、この動作によって上記扁平糸101に付与する張力の値を変化できるようになっている。また送出フレーム153には、上記張力制御のための駆動力を発生するACサーボモータ154が設けられており、このサーボモータ154の駆動力は送出ギヤボックス155内のウォーム減速機(図示せず)にて所定の減速比に減速されてワープビームピニオン156及びワープビームギヤ157へ伝達され、これによって最終的に上記テンションロール151,151が上記首振り(回動)動作を行う。なおこのときのこの首振り(回動)動作は、テンションレバー152の回動動作を介してセンサ(ロードセル)158によって検出される。
【0045】
図10に戻り、上記センサ158による検出信号(張力検出信号)は、制御装置159に入力されており、制御装置159はこの検出信号に基づき、上記サーボモータ154及び前述の駆動ローラ107の駆動モータ160のフィードバック制御を行い、例えば図示しない操作手段からの操作指令信号に基づき、扁平糸101及び扁平繊維束100に付与される張力を制御する。これにより、上記製織機104へ供給されるときには、バラバラとなっている各扁平糸101の扁平方向が強制的に略揃えられ、かつ横断面形状が扁平形状となった扁平繊維束100を確実に生成するようになっている。
【0046】
以上のように構成した上記エアバッグ装置において、自動車の衝突等によってインフレータ24がガスを噴出作動すると、エアバッグ9が膨張を開始し、モジュールカバー32がテアライン34に沿って開裂し、エアバッグ9が乗員の前方に膨張するようになっている。この場合、エアバッグ9のフロントパネル1のうち開口4と反対側の部分13(図1も参照)がまず膨らみ、続いて、リヤパネル2の近傍部分11に包囲されたフロントパネル1及びリヤパネル2の折り畳み部分12が折り畳み部分12,12同士の間の通路を通って裏返しになりながら膨張する。この結果、図12に示す通り、完全に膨張したエアバッグ9は、内外反転した状態となり、前述した縫合糸3による縫合部分はエアバッグ9の内側に配置されることになる。そして、通常繊維基布であるリヤパネル2がフロントガラス側に位置し、扁平繊維基布であるフロントパネル1が乗員(運転者)側に位置するように展開する。
【0047】
このような膨張展開時、インフレータ24からエアバッグ9内に流入した圧力流体の一部は、フロントパネル1やリヤパネル2を膨張展開した後、それらパネル1,2の織り構造の隙間から外部へと漏れだす。
【0048】
ここで、本実施形態では、フロントパネル1を構成する扁平繊維束100が、複数の扁平糸101を当該扁平方向が略揃うように束ねて断面扁平形状となっており、上記織り構造が比較的密に詰まっているため、上記圧力流体の漏れ出しが少ない傾向となる。そこで、このような漏れ出しが少ない傾向を利用して、扁平繊維束100を備えたフロントパネル1の繊維束数を通常より減少させても、フロントパネル1の展開性能を通常程度に維持することが可能となる。この結果、その間引いた扁平繊維束100の分、フロントパネル1全体の軽量化を図ることができる。また扁平繊維束100が扁平形状であることにより、エアバッグ9全体の体積を減少しコンパクト化できる効果もある。
【0049】
また、本実施形態では特に、相対的に漏れが少ない扁平繊維基布を備えたフロントパネル1を運転者側に位置させ、相対的に漏れが多い通常繊維基布を備えたリヤパネル2をフロントガラス側に位置させ、運転者側とフロントガラス側で漏れ特性を異ならせている。これにより、リヤパネル2側に通常設けられるベントホールを設けることなく、エアバッグ9を運転者側により素早く展開させ、迅速かつ確実な運転者の保護を行うことができる。
【0050】
本発明の第2の実施形態を図13〜図16により説明する。本実施形態は、本発明をカーテンエアバッグに適用した場合の実施形態である。上記第1の実施形態と同等の部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0051】
図13は本発明の一実施形態によるエアバッグ用基布を備えたカーテンエアバッグを有するカーテンエアバッグ装置を、自動車に取り付けた状態を説明する図である。
【0052】
図13において、自動車(車両)201の室内の天井部と側面部との交叉隅部に、カーテンエアバッグ装置が取り付けられている。このカーテンエアバッグ装置は、自動車のルーフサイドレール202に取り付けられ、乗員の頭部を自動車201の側面衝突時や横転時等に保護するエアバッグ220と、このエアバッグ220の後端部側よりエアバッグ220にガスを供給するインフレータ210と、衝突を検知してインフレータ210に点火信号を送る検知センサ(図示せず)と、上記インフレータ210とエアバッグ220の後端側とをCピラー213に固定するブラケット211及びボルト212とを有している。
【0053】
なお、カーテンエアバッグ220の取り付け箇所はルーフサイドレール202に限定されるものではなく、Aピラー215、Bピラー214、Cピラー213等であってもよい。
【0054】
図14(a)は、カーテンエアバッグの詳細構造を表す一部断面で表す斜視図であり、図14(b)はそのカーテンエアバッグ本体221を抽出して示す図である。
【0055】
これら図14(a)及び図14(b)において、カーテンエアバッグ220は、細長い略楕円柱形断面形状を呈するようにつづら折り状に折り畳まれたカーテンエアバッグ本体221と、該カーテンエアバッグ本体221を覆うカバー(被覆部材)222を有する。
【0056】
カーテンエアバッグ本体221からは、上方に耳状の取付部223が突設され、この取付部223にボルト等の留付具の挿通孔224が設けられている。この取付部223は、被覆部材222の上面部に設けられた細長いスロット(スリット状開放口)225を通って被覆部材222の上方に延出している。被覆部材222の一方の側面には、カーテンエアバッグ本体221の折り畳み体の長手方向に一列に所定間隔をあけて開口226が設けられており、この開口226を通して被覆部材222の外部からカーテンエアバッグ本体221を目視観察しうるようになっている。
【0057】
なお、カーテンエアバッグ本体221の一端側にはインフレータ210からのガスの導入口(図示略)が設けられるか、又はインフレータ210の挿入口(図示略)が設けられている。また、上記カーテンエアバッグ220は、通常は車両内装材によって覆われている(図示せず)が、この車両内装材はカーテンエアバッグ本体221が膨張するときに断裂したりあるいは車室側に開き出したりしてカーテンエアバッグ本体221が車室内に膨張することを許容するようになっている。
【0058】
図15(a)は、図14中XV−XV断面による横断面図である。
【0059】
図15(a)及び前述の図14(a)において、カーテンエアバッグ本体221の折り重ね面は略水平方向となっている。そのため、カーテンエアバッグ本体221の折り目や折り重ねにより生じる筋状部分がカーテンエアバッグ本体221の折り畳み体の側面に現われている。
【0060】
また、被覆部材222は、細長い帯状の基布を筒状とし、縫合糸222aによって長手方向の両縁部同士を結合したものである。筒状とされた被覆部材222内にカーテンエアバッグ本体221の折り畳み体が導入され、カーテンエアバッグ220とされる。
【0061】
図15(b)は、図15(a)に示す構造のエアバッグ作動時(詳細は後述)における膨張状態を表す図である。
【0062】
図15(b)において、カーテンエアバッグ本体221は、2枚のエアバッグ用基布221a,221bを重ね合わせ、周縁部を縫合糸221cによって縫合し結合することによりバッグ形状(袋状)としたものである。
【0063】
縫合糸221cは、カーテンエアバッグ本体221が膨張するときには断裂する強度のものとなっている。なお、この縫合糸221cによる縫合の代りに接着や融着などの結合手段を採用してもよい。また、膨張したときのカーテンエアバッグ本体221の厚みが過大とならないようにしたり、あるいはカーテンエアバッグ本体221内にガス通路又は小室を形成したりするために、基布221a,221bの周縁以外の中央側部分同士が縫合等により結合されてもよい。
【0064】
上記構成において、自動車201の衝突時に検知センサによりインフレータ210に点火されてインフレータ210が作動してガスがインフレータ210よりエアバッグ220のエアバッグ本体221に放出されると、エアバッグ本体221は図13中2点鎖線221’で示すように車両のドアに沿って膨張を開始し、被覆部材222を破って展開し、カーテンのように室内の窓などの側面部材に沿って下方に展開し、乗員の頭部や肩等の上半身を受け止める。
【0065】
図16は上記のように展開した状態のエアバッグ本体221′を表す図である。
【0066】
図16において、エアバッグ本体221′のエアバッグ用基布221a,221bは第1繊維束322(いわゆる経糸)と第2繊維束323(いわゆる緯糸)とが製織されている。そして、本実施形態の最大の特徴は、それら第1繊維束322及び第2繊維束323の一部(この例では第2繊維束323のうち基布221a,221bの折り畳み箇所一帯の複数の繊維束)に、断面扁平形状の扁平繊維束323Aを設けたことにある。
【0067】
これら扁平繊維束323Aは、詳細な図示及び説明を省略するが、上記第1の実施形態の扁平繊維束100とほぼ同様の構成を備え同様の手法で製織されたものであり、断面形状のアスペクト比が1.5以上8以下である複数の扁平糸101を、当該扁平方向が略揃うように束ねて断面扁平形状とすることによって構成されている。そして、エアバッグ製造時におけるエアバッグ本体221を折り畳む工程において、バッグを所定の順序で展開できるようにそれら扁平繊維束323Aのある領域にて折り畳まれ、その折り畳んだエアバッグ本体221が被覆部材222に収納して拘束又は形状保持されているものである。
【0068】
図示のような膨張展開時、インフレータ210からエアバッグ220内に流入した圧力流体の一部は、基布221a,221bを膨張展開した後、それら基布221a,221bの織り構造の隙間から外部へと漏れだす。
【0069】
ここで、本実施形態では、基布221a,221bの第2繊維束323のうち一部(この例では基布221a,221bの折り畳み箇所一帯に位置する複数の繊維束)を断面扁平形状の扁平繊維束323Aとしており、この扁平繊維束323Aが、上記第1の実施形態の扁平繊維束100と同様、複数の扁平糸101を当該扁平方向が略揃うように束ねて断面扁平形状となっており、上記織り構造が比較的密に詰まっているため、上記圧力流体の漏れ出しが少ない傾向となる。そこで、このような漏れ出しが少ない傾向を利用すれば、それら複数の扁平繊維束323Aの数を通常より減少させても、基布221a,221bからなるエアバッグ本体221の展開性能を通常程度に維持することが可能となる。この結果、その間引いた扁平繊維束323Aの分、基布221a,221b全体の軽量化を図ることができる。
【0070】
また、基布221a,221b全体を扁平糸101を用いた扁平繊維束323Aとすると大きなコスト増大を招くが、本実施形態では特に、一部のみを扁平繊維束323Aとし、他の部分は通常繊維束(繊維束323及び繊維束325)とすることにより、コスト増大を最小限に抑制することができる。
【0071】
また、本実施形態では特に、扁平繊維束部分が通常繊維束部分よりも折り畳みやすい性質を備えることを利用し、エアバッグ本体221のエアバッグ装置への収納時の折り畳み態様に合致させて扁平繊維束領域を配設している。すなわち、車室の側部上方から略下方への膨張展開するエアバッグ本体221の当該展開方向と略直交方向(言い換えれば略水平方向)に延設される緯糸323のうち当該折り畳み部分一帯に扁平繊維束323Aを配設している。これにより、カーテンエアバッグ製造時の基布221a,221bの折り畳み作業が容易に行え、作業効率を向上させることができる。またこの折り畳み領域(言い換えれば折り返し領域)が折れやすい扁平繊維束323Aであることにより、エアバッグ本体221A全体をコンパクト化できる効果もある。
【0072】
なお、上記第1及び第2実施形態は、本発明を運転席用エアバッグやカーテンエアバッグに適用したものであるが、これに限られず、助手席用エアバッグ、サイドエアバッグ、ニーエアバッグ、後席用エアバッグ等各種のエアバッグ用基布及びエアバッグの製造方法に適用することができる。また、自動車以外のエアバッグ用基布及びエアバッグの製造方法にも適用できる。また、エアバッグにも限られず、自動車以外の樹脂コート用基布及び樹脂コートなしの基布の製造方法にも適用できるとともに他の製織方法(例えば、エアージェット製織機、ラピエ製織機など)にも応用することが可能であり、さらに付属する部材(例えばテザー、ラッピング材、プロテクター、ディフューザ等)に応用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の一実施形態のエアバッグ用基布を用いたエアバッグを備えたエアバッグ装置の概略構造を表す縦断面図である。
【図2】エアバッグの取付構造を示す図1中要部構造の分解斜視図である。
【図3】エアバッグの製作方法を示す分解斜視図である。
【図4】エアバッグの平面図である。
【図5】図4中V−V断面による横断面図である。
【図6】エアバッグの折り畳み方法を説明するための説明図である。
【図7】エアバッグ開口の近傍部分を裏返しにする工程を表す断面図である。
【図8】扁平繊維束の断面形状の一例を表す横断面図である。
【図9】扁平繊維束を構成する扁平糸の単糸断面形状の一例を表す横断面図である。
【図10】扁平糸を備えた扁平繊維束を用いてフロントパネルを製造するシステムの概略構造を表す概念図である。
【図11】図10に示した張力付与機構の詳細要部構造を表す斜視図である。
【図12】エアバッグが十分に膨張した状態を示す断面図である。
【図13】本発明の一実施形態によるエアバッグ用基布を備えたカーテンエアバッグを有するカーテンエアバッグ装置を、自動車に取り付けた状態を説明する図である。
【図14】図13に示したカーテンエアバッグの詳細構造を表す一部断面で表す斜視図、及びそのカーテンエアバッグ本体を抽出して示す図である。
【図15】図14中XV−XV断面による横断面図、及びエアバッグ作動時における膨張状態を表す図である。
【図16】展開した状態のエアバッグ本体を表す図である。
【符号の説明】
【0074】
1 フロントパネル(扁平繊維基布、エアバッグ用基布)
2 リヤパネル(通常繊維基布、エアバッグ用基布)
3 縫合糸
9 エアバッグ
24 インフレータ
100 扁平繊維束
101 扁平糸
103 張力付与機構
210 インフレータ
220 エアバッグ
221 エアバッグ本体
221a,b エアバッグ用基布
322 第1繊維束(経糸)
323 第2繊維束(緯糸)
323A 扁平繊維束
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用エアバッグ装置に用いるエアバッグ用基布であって、
断面形状のアスペクト比が1.5以上8以下である複数の扁平糸を、当該扁平方向が略揃うように束ねて断面扁平形状とした扁平繊維束を有することを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項2】
請求項1記載のエアバッグ用基布において、
断面形状が略円形の複数の通常糸を束ねて断面略円形とした通常繊維束を有することを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項3】
請求項1又は2記載のエアバッグ用基布において、
互いに直交する方向に延設する第1繊維束及び第2繊維束とを製織して構成され、
前記扁平繊維束は、前記第1繊維束及び前記第2繊維束のうち少なくとも一方に含まれることを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項4】
断面形状のアスペクト比が1.5以上8以下である複数の扁平糸を、当該扁平方向が略揃うように束ねて断面扁平形状とした扁平繊維束を有する扁平繊維基布を備えたエアバッグと、
このエアバッグを膨張展開させるための圧力流体を噴出するインフレータとを有することを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項5】
請求項4記載のエアバッグ装置において、
前記エアバッグは、
断面形状が略円形の複数の通常糸を束ねて断面略円形とした通常繊維束を備えた通常繊維基布と、前記扁平繊維基布とを縫製して形成されるとともに、
前記圧力流体の噴出による膨張展開時に、運転者側に前記扁平繊維基布が位置し、フロントガラス側に前記通常繊維基布が位置するように配置されていることを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項6】
請求項4記載のエアバッグ装置において、
前記エアバッグは、前記圧力流体の噴出により、自動車の車室の側部上方から略下方に展開可能なカーテンエアバッグであり、前記扁平繊維エアバッグ用基布が、膨張展開方向と略直交方向に前記扁平繊維束を備えていることを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項1】
自動車用エアバッグ装置に用いるエアバッグ用基布であって、
断面形状のアスペクト比が1.5以上8以下である複数の扁平糸を、当該扁平方向が略揃うように束ねて断面扁平形状とした扁平繊維束を有することを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項2】
請求項1記載のエアバッグ用基布において、
断面形状が略円形の複数の通常糸を束ねて断面略円形とした通常繊維束を有することを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項3】
請求項1又は2記載のエアバッグ用基布において、
互いに直交する方向に延設する第1繊維束及び第2繊維束とを製織して構成され、
前記扁平繊維束は、前記第1繊維束及び前記第2繊維束のうち少なくとも一方に含まれることを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項4】
断面形状のアスペクト比が1.5以上8以下である複数の扁平糸を、当該扁平方向が略揃うように束ねて断面扁平形状とした扁平繊維束を有する扁平繊維基布を備えたエアバッグと、
このエアバッグを膨張展開させるための圧力流体を噴出するインフレータとを有することを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項5】
請求項4記載のエアバッグ装置において、
前記エアバッグは、
断面形状が略円形の複数の通常糸を束ねて断面略円形とした通常繊維束を備えた通常繊維基布と、前記扁平繊維基布とを縫製して形成されるとともに、
前記圧力流体の噴出による膨張展開時に、運転者側に前記扁平繊維基布が位置し、フロントガラス側に前記通常繊維基布が位置するように配置されていることを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項6】
請求項4記載のエアバッグ装置において、
前記エアバッグは、前記圧力流体の噴出により、自動車の車室の側部上方から略下方に展開可能なカーテンエアバッグであり、前記扁平繊維エアバッグ用基布が、膨張展開方向と略直交方向に前記扁平繊維束を備えていることを特徴とするエアバッグ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2006−306312(P2006−306312A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132825(P2005−132825)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(306009581)タカタ株式会社 (812)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(306009581)タカタ株式会社 (812)
【Fターム(参考)】
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