説明

エアフィルタ用濾材

【課題】 オイル保持性を向上させ、エアフィルタの交換周期の延長を図る。
【解決手段】
アフィルタ用濾材であるウエット層用濾紙5Aは、繊維径が10〜50μmの天然繊維を主成分とした母材と、繊維径の平均が1μm以下のフィブリル化した微細天然繊維とからなっている。そして、上記母材は、上記微細天然繊維が4〜6重量%の配合比率で配合されている。これによって、通気抵抗への跳ね返りを抑えつつ、オイル保持性を向上させることができる共に、ダスト保持容量(DHC)を大幅に増大させることができる。そのため、エアフィルタの交換周期を長くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として自動車用内燃機関等のエアフィルタに用いられるエアフィルタ用濾材に関する。
【背景技術】
【0002】
吸気系部品の電子化に伴い、エアフローメータ、エアアシストインジェクタ等の吸気系部品への清浄な流体の導入が求められている。そこで、自動車用内燃機関等のエアフィルタに用いられるエアフィルタ用濾材としては、流体中の不純物微粒子を高効率で除去し、濾材の交換周期の長期化が図られたものが求められる。
【0003】
濾材の交換周期を長期化が図られたものとしては、濾紙にビスカスオイル等の油を含浸させたウエットタイプ(湿式)のものが多く用いられている。このようなウエットタイプの濾材は、油を含浸していることから繊維表面にポーラス(多孔質)なダストの層(ケーキ層)を形成するため、ダストに対する寿命が非常に長い。
【0004】
また、ダストを高効率で捕集するものとしては、特許文献1に開示されるように、濾材にガラス繊維を含有させたものや、特許文献2に開示されるように、芳香族ポリアミドをフィブリル微細有機繊維として濾材に配合したものが知られている。
【特許文献1】特開平8−323121号公報
【特許文献2】特開平2−99108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のウエットタイプの濾材をエアフィルタに適用した場合、空気流量の増加あるいはカーボンやダストによって生じる目詰まり等により濾材に対する圧力負荷が高くなると、濾材に含浸させたオイルが濾材からクリーンサイド側に持ち去られてしまう虞がある。
【0006】
また、特許文献1に開示された濾材をエアフィルタに使用した場合、濾材中にガラス繊維を含有していることから濾材に衝撃が加わると、ガラス繊維が折れて脱落し、吸気系部品に混入する虞や、濾材を廃棄する際に焼却処理を行っても減容されないため、取り扱いや廃棄に問題がある。
【0007】
そして、特許文献2に開示されるような濾材を使用した場合、ビスカスオイル等の油の保持力が低く、交換周期が短くなる虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明は、天然繊維を主成分とした母材と、フィブリル化した微細天然繊維とからなるウエットタイプのエアフィルタ用濾材において、繊維径が10〜50μmの上記母材に、繊維径の平均が1μm以下の上記微細天然繊維が、4〜6重量%の配合比率で配合されていることを特徴としている。
【0009】
そして、本発明の請求項2は、上記請求項1に記載のエアフィルタ用濾材において、上記微細天然繊維の繊維径は0.1〜0.01μmであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、通気抵抗への跳ね返りを抑制しつつ、濾材に含浸させたオイルのオイル保持性を大幅に向上させると共に、ダスト保持容量(DHC)を大幅に増大させることができる。これにより、エアフィルタの交換周期を長くすることができると共に、エアフィルタ下流側のエアフローメータ、エアアシストインジェクタ等の吸気系部品に濾材に含浸させたオイルの油滴を付着させることがなく吸気系部品の誤動作を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を詳細に説明する。
【0012】
図1は、自動車用内燃機関に用いられるエアフィルタ1の断面図であって、このエアフィルタ1は、プリーツ状に多数回折り曲げられた濾材2と、この濾材2の周囲に取り付けられた矩形状の枠体3と、から構成されている。このエアフィルタ1は、図示せぬエアクリーナのボディとカバーとの間に、上記枠体3が挟み込まれるようにして保持され、例えば矢印Aで示す方向に空気が通過する。
【0013】
図2は、上記濾材2の拡大断面図であって、この濾材2は、本発明に係るウエットタイプのエアフィルタ用濾材に相当する上流側のウェット層5と、ドライタイプの濾材からなる下流側のドライ層6との2層構造を有しており、上記ウェット層5には、ビスカスオイル等の油が含浸されている。上記のウェット層5及びドライ層6は、いずれも濾紙からなり、それぞれ抄紙した2枚の紙の層を、漉き合わせ法によって1枚に接合したものである。つまり、ウエット層5を構成する濾紙(後述するウエット層用濾紙5A)が、本願発明に係るウエットタイプのエアフィルタ用濾材である。
【0014】
尚、ウエット層5を構成するウエット層用濾紙5A及びドライ層6を構成するドライ層用濾紙6Aは、どちらも天然繊維により構成されている。
【0015】
そして、下流側の面つまりドライ層6の表面から、撥油剤となるフッ素樹脂を溶かし込んだフェノール樹脂をキスロール加工により塗布してあり、ドライ層6の表面からウェット層5に向かってほぼドライ層6の厚さ相当の深さまで撥油剤がフェノール樹脂とともに含浸されている。また、上流側の面つまりウェット層5の表面から、フッ素樹脂を含まないフェノール樹脂をキスロール加工により塗布してあり、ウェット層5の表面からドライ層6に向かってほぼウェット層5の厚さ相当の深さまで含浸されている。なお、ウェット層5に対する上記の油の含浸は、濾材2をヒダ折り加工した後に、ウェット層5側にスプレー等により油を塗布することによって行われる。
【0016】
ここで、ウエット層5は、主成分となる天然繊維からなる母材に対して、繊維の微細化処理が行われた微細天然繊維が所定量配合されたウエット層用濾紙5Aにより構成されている。
【0017】
上記微細天然繊維の径は、主成分となる天然繊維の径に対して、1/10以下であり、概ね1/10〜1/1000程度のオーダーで小さくなっている。
【0018】
天然繊維は、化学繊維に対してオイルの保持性が高いため、ウエットタイプの濾材に主体的に使用されているが、上記微細天然繊維を配合することで単位容積当たりの繊維表面積が大きくなり、さらにオイル保持性(オイル保持力)が向上する。
【0019】
天然繊維からなる上記母材は、パルプ(ウッドパルプ等)及びリンター(リンターパルプ)を主体とするものであり、坪量が120〜220g/m2、厚みが0.4〜1.2mm、ポアサイズが50〜120μm、繊維径が10〜50μmに設定されている。尚、ウッドパルプ等の一般のパルプはその繊維径が10〜50μm、リンターパルプはその繊維径が20μm前後である。
【0020】
一方、上記母材に配合される微細化処理が行われた上記微細天然繊維は、繊維径の平均が1μm以下となるように設定されている。具体的には、本実施形態では、上記微細天然繊維としては、高度に精製した純植物繊維を原料とし、超高圧ホモジナイザー処理(叩解)による強力な機械的剪断力を加え、ミクロフィブリル化したものであり、繊維径が0.1〜0.01μmのものとなっている。このような微細天然繊維としては、例えば、セリッシュ(ダイセル化学工業株式会社製)が上げられる。この他にも木材パルプを有機溶剤で直接分解して作られたセルロース繊維、例えば、リヨセル(登録商標)あるいはテンセル(登録商標)なども叩解機でフィブリル化することにより使用できる。
【0021】
そして、上記微細天然繊維は、ウエット層用濾紙5A(ウエット層5)中に4〜6重量%の配合比率で含まれるように、上記母材に配合されている。換言すれば、上記母材単体の単位容積当たりの繊維表面積に対して、ウエット層用濾紙5A(ウエット層5)の単位容積当たりの繊維表面積が10〜15倍となるように、上記微細天然繊維は上記母材に配合されている。本明細書における配合比率とは、重量%(重量比率)である。
【0022】
ここで、好ましくは、上記微細天然繊維を流れに対してウエット層5内の上流側に主体的に配置するとよい。すなわち、上記微細天然繊維を上記母材に配合するに当たっては、ウエット層用濾紙5Aの厚さ方向で上記微細天然繊維を偏在させ、エアフィルタ用濾材として使用される際に、上記微細天然繊維が主としてウエット層5の空気流れの上流側に偏って配置されていることが好ましい。換言すると、例えば、ウエット層用濾紙5Aの一方の面側(表面側)に、ウエット層用濾紙5Aの他方の面側(裏面側)よりも上記微細天然繊維が多く存在するように、ウエット層用濾紙5Aを形成し、エアフィルタ用濾材として使用される際に、ウエット層用濾紙5Aの一方の面がウエット層用濾紙5Aの他方の面よりも上流側に位置するように配置することが好ましい。
【0023】
図3は、上記微細天然繊維の上記母材への配合比率とウエット層用濾紙5Aにおける単位容積当たりの繊維表面積との相関関係を示している。尚、図3における縦軸は、上記微細天然繊維を配合しない上記母材単体における単位容積当たりの繊維表面積を基準(100%)として、この基準に対してどれだけ大きいかを比率で表しており、例えば縦軸における1000%は、上記母材単体の単位容積当たりの繊維表面積に対して、単位容積当たりの繊維表面積が10倍大きいことを表すものである。
【0024】
ここで、上記母材を構成するパルプ(ウッドパルプ等)の繊維径とリンターの繊維径は同一オーダーと見なせるので、単位容積当たりの繊維表面積の変化は、上記微細天然繊維の配合比率に依存すると見なせるものとする。
【0025】
図4〜図7は、上記母材に対する上記微細天然繊維の配合比率と各種特性とを対比させた特性線図である。そして、表1は、上記母材に対して上記微細天然繊維が、0%、5%、10%で配合されたときの各種特性をまとめたものであり、表1中に記載のPVAとは、ポリビニルアルコールである。
【0026】
また図8及び図9は、上記微細天然繊維が配合されたウエット層用濾紙5Aにおける単位容積当たりの繊維表面積と、各種特性とを対比させた特性線図である。
【0027】
図4に示すように、オイル保持力は、上記微細天然繊維の配合比率が高くなる程向上する。換言すれば、オイル保持力は、図8に示すように、上記微細天然繊維の単位容積当たりの繊維表面積が大きくなる程向上する。ここで、オイル保持力は、ウエット層用濾紙5Aに対して片側(ダストサイド)から所定量のカーボンを供給し、カーボンが供給された側から反対側(クリーンサイド)にウエット層用濾紙5Aに含浸させたオイルが飛散する圧力を、上記微細天然繊維が配合されていない場合を100%としたものである。
【0028】
一方、図5に示すように、通気抵抗は、上記微細天然繊維の配合比率に比例し、配合比率が高くなれば通気抵抗は増加してしまう傾向がある。換言すれば、通気抵抗は、図9に示すように、上記微細天然繊維の単位容積当たりの繊維表面積が大きくなる程大きくなる。
【0029】
また、図6、図7に示すように、カーボン寿命及びカーボン効率は、上記微細天然繊維の配合比率によって、ほとんど影響を受けることがない。
【0030】
このように、上記母材に対して上記微細天然繊維を配合する際には、オイル保持力に着目すれば上記微細天然繊維の配合比率が高いほど相対的に向上するが、通気抵抗に着目すれば上記微細天然繊維の配合比率が高いほど相対的に不利となる。
【0031】
上述したように、通気抵抗は、上記微細天然繊維の配合比率に比例し、上記微細天然繊維を6重量%を超えて配合することにより通気抵抗への跳ね返りが大きくなってくる。換言すれば、通気抵抗は、単位容積当たりの繊維表面積の大きさに比例し、上記微細天然繊維を配合していない上記母材単体における単位容積当たりの繊維表面積に対して、1500%(15倍)以上の繊維表面積になると通気抵抗への跳ね返りが大きくなってくる。
【0032】
また、オイル保持力は、上記微細天然繊維の配合比率に比例し、上記微細天然繊維を4重量%未満の配合とした場合にはオイル保持力が急激に減少しダスト保持容量(DHC)も減少することになる。換言すれば、オイル保持力は、単位容積当たりの繊維表面積の大きさに比例し、上記微細天然繊維を配合していない上記母材単体における単位容積当たりの繊維表面積に対して、1000%(10倍)未満の繊維表面積になるとオイル保持力が急激に減少しダスト保持容量(DHC)も減少することになる。
【0033】
そこで、本実施形態では、上記微細天然繊維を、上記母材に対して4重量%〜6重量%配合する。換言すれば、上記微細天然繊維を配合しない上記母材単体の単位容積当たりの繊維表面積に対して、単位容積当たりの繊維表面積が10〜15倍(1000〜1500%)となるように上記微細天然繊維を上記母材に配合する。
【0034】
これにより、通気抵抗の悪化を抑制しつつ、オイル保持力の向上を図ることができ、交換周期の長い(寿命の長い)エアフィルタを得ることができる。
【0035】
さらに、ウエット層5内の上流側に上記微細天然繊維を主体的に配置することにより、ウエット層5に含浸させたオイルは上流側となるウエット層5上層(表層)で保持され、ウエット層5の表面にケーキ層が形成され易くなり、ダスト保持容量(DHC)の向上が図られると共に、オイルの持ち去りを防止することができる。
【0036】
また、オイル保持力の向上に伴い、このようなエアフィルタの下流側のエアフローメータ、エアアシストインジェクタ等の吸気系部品に濾材に含浸させたオイルの油滴を付着させることがなくなり、吸気系部品の誤動作を防止することができる。
【0037】
ここで、上記母材に対する上記微細天然繊維の配合比率を一定としても、上記微細天然繊維の繊維径が大きくなれば、上記微細天然繊維が配合されたウエット層用濾紙5Aの単位容積当たりの繊維表面積の値は相対的に小さくなる。また、上記母材に対する上記微細天然繊維の配合比率を一定としても、上記母材を構成する天然繊維の繊維径が大きくなれば、上記母材単体における単位容積当たりの繊維表面積は相対的に小さくなる。
【0038】
つまり、上記母材に対する上記微細天然繊維の配合比率は、絶対的なものではなく、上記微細天然繊維の繊維径と上記微細天然繊維が配合される母材を構成する天然繊維の繊維径とに応じて相対的に決定されるものであり、繊維径が0.1〜0.01μmである本実施形態の上記微細天然繊維を、繊維径が10〜50μmの天然繊維からなる上記母材に配合する場合には、4%〜6%の配合比率で上記微細天然繊維を上記母材に配合するのが好適となる。
【0039】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る濾材を用いたエアフィルタの断面図。
【図2】濾材の拡大断面図。
【図3】微細天然繊維の母材への配合比率とウエット層用濾紙における単位容積当たりの繊維表面積との相関関係を示す特性線図。
【図4】母材に対する微細天然繊維の配合比率とオイル保持力との相関関係を示す特性線図。
【図5】母材に対する微細天然繊維の配合比率と通気抵抗との相関関係を示す特性線図。
【図6】母材に対する微細天然繊維の配合比率とカーボン寿命との相関関係を示す特性線図。
【図7】母材に対する微細天然繊維の配合比率とカーボン効率との相関関係を示す特性線図。
【図8】ウエット層用濾紙における単位容積当たりの繊維表面積とオイル保持力との相関関係を示す特性線図。
【図9】ウエット層用濾紙における単位容積当たりの繊維表面積と通気抵抗との相関関係を示す特性線図。
【符号の説明】
【0041】
2…濾材
5…ウェット層
5A…ウエット層用濾紙
6…ドライ層
6A…ドライ層用濾紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然繊維を主成分とした母材と、フィブリル化した微細天然繊維とからなるウエットタイプのエアフィルタ用濾材において、
繊維径が10〜50μmの上記母材に、繊維径の平均が1μm以下の上記微細天然繊維が、4〜6重量%の配合比率で配合されていることを特徴とするエアフィルタ用濾材。
【請求項2】
上記微細天然繊維の繊維径は0.1〜0.01μmであることを特徴とする請求項1に記載のエアフィルタ用濾材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−330911(P2007−330911A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−166825(P2006−166825)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(000151209)株式会社マーレ フィルターシステムズ (159)
【Fターム(参考)】