説明

エアマッサージ器

【課題】 部位に応じた圧力グラデーションを簡易な構成で実現したエアマッサージ器を提供する。
【解決手段】 第1給排気孔71a(すなわち、第1エアチャンバ21a)へは給気孔63からの圧縮空気が全量供給されるが、第2〜第5給排気孔71b〜71e(すなわち、第2〜第5エアチャンバ21b〜21e)へは、第2〜第5漏出溝74b〜74eからその一部が漏洩することにより、減量された圧縮空気が供給される。第2〜第5漏出溝74b〜74eはその順に深さが深くなるように設定されているため、第2漏出溝74bから〜第5漏出溝74eに向けて圧縮空気の漏洩量が大きくなり、第1エアチャンバ21a〜第5エアチャンバ21eに向けて圧力が段階的に低くなる圧力グラデーションが形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腕部や脚部に対するエアマッサージに供されるエアマッサージ器に係り、詳しくは部位に応じた圧力グラデーションを簡易な構成で実現する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
腕部や脚部における血液やリンパ液の循環を促す装置として、長手方向に沿って配列された複数のエアチャンバを有するスリーブと、所定の給排順序をもって各エアチャンバに対して圧縮空気を給排するマッサージ器本体とを備えたエアマッサージ器が存在する(特許文献1,2参照)。このエアマッサージ器は、圧縮空気を給排することで各エアチャンバを順に膨張/収縮させて圧迫力を加え、例えば指先側から上腕側に向けて血液やリンパ液を押し流すように作動する。マッサージ器本体には、圧縮空気供給源であるエアポンプの他、各エアチャンバに圧縮空気を分配する圧縮空気分配機構が内蔵されている。
【0003】
圧縮空気分配機構としては、電子制御装置によって複数の電磁弁を開閉制御する電磁弁式(特許文献1参照)や、各エアチャンバに対応する給排気ポートが穿設されたステータを用いたロータリバルブ式(特許文献2参照)が採用されている。エアマッサージ器では、例えば、指先側のエアチャンバから上腕側のエアチャンバに向けて圧力が段階的に低くなるように圧力グラデーション(圧力勾配)を設けることが望ましく、その方法として、特許文献1では圧力センサの検出信号に基づいて電磁弁の開閉時間を制御し、特許文献2ではステータの各給排気ポートの径を変化させることでエアチャンバに対する圧縮空気の流量を変化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−58647号公報
【特許文献2】特開2000−42067号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の装置は、多数の電磁弁や圧力センサを必要とする他、開閉時間の制御に複雑な制御回路が必要となることから、装置の構造が複雑になって製造コストも増加する問題があった。一方、特許文献2の装置は、比較的簡素な構造ではあるものの、ステータの加工に係る以下のような問題を有していた。すなわち、給排気ポートはドリル刃等の切削工具を用いて穿孔されるが、その断面積が径の自乗に比例することから、加工時における切削工具の微少な振れによって圧縮空気の流量が所期の値より遙かに大きくなることがあった。例えば、切削工具の振れによって給排気ポートの内径が4mmから4.1mmに大きくなった場合、断面積は約5%(0.63mm)も増加して適正な流量(すなわち、エアチャンバの圧力)が得られなくなってしまう。また、1つのステータの給排気ポートを穿孔するために複数本の切削工具を必要とするため、自動工具交換機構あるいは多軸ヘッドを備えた高価な加工機械が必要となるとともに、加工に要する時間も長くなることが避けられなかった。また、最適な流量を得るためには、径が0.01mm刻みで異なる一般的ではない(入手困難かつ高額な)切削工具が必要となり、製造コストが更に上昇する問題もあった。
【0006】
本発明は、上記状況に鑑みなされたものであり、部位に応じた圧力グラデーションを簡易な構成で実現したエアマッサージ器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、長手方向に沿って配列された複数のエアチャンバを有するスリーブと、圧縮空気を供給する圧縮空気供給源と、所定の給排順序をもって各エアチャンバに対する圧縮空気の給排を行う圧縮空気給排手段とを備えたエアマッサージ器であって、圧縮空気が供給された際における圧力を前記エアチャンバ間で異ならせるべく、少なくとも1つのエアチャンバに供給される圧縮空気が、圧縮空気漏出手段によって所定の漏出量をもって外部に漏出されることを特徴とする。
【0008】
また、第2の発明は、第1の発明に係るエアマッサージ器において、前記圧縮空気給排手段は、それぞれのエアチャンバに対応する給排気ポートが端面に形成されたステータと、前記ステータの前記端面に相対回転自在に摺接し、前記給排気ポートに前記圧縮空気供給源からの圧縮空気を導入する圧縮空気導入孔と、前記給排気ポートから圧縮空気を排出する圧縮空気排出孔とを有するロータとを有し、前記圧縮空気漏出手段は、前記ステータの前記端面に刻設され、前記給排気ポートと外部とを連通させる圧縮空気漏出溝であることを特徴とする。
【0009】
また、第3の発明は、第1または第2の発明に係るエアマッサージ器において、前記圧縮空気漏出溝が複数の給排気ポートに対して形成されるとともに、各圧縮空気漏出溝の深さが異なることにより、前記漏出量が前記給排気ポート間で変化することを特徴とする。
【0010】
また第4の発明は、第1または第2の発明に係るエアマッサージ器において、前記圧縮空気漏出溝が複数の給排気ポートに対して形成されるとともに、各圧縮空気漏出溝の溝幅が異なることにより、前記漏出量が前記給排気ポート間で変化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、例えば、圧縮空気漏出手段による漏出量を給排気ポート間で異ならせることで、給排気ポートの径を同一にしても圧力グラデーションを設けることが可能となり、加工設備の簡素化や加工工数の低減等を実現できる。また、ステータに圧縮空気漏出溝を刻設するものでは、切削工具(バイト等)を用いることで圧縮空気漏出溝を容易に形成でき、切り込み深さや切り込み幅を変化させることで漏出量を容易かつ高精度に設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係るエアマッサージ器の全体構成を示す斜視図である。
【図2】実施形態に係るマッサージ器本体の概略構成図である。
【図3】実施形態に係るロータリ弁の分解斜視図である。
【図4】実施形態に係るロータリ弁の縦断面図である。
【図5】実施形態に係るステータの後面図である。
【図6】実施形態に係るロータの前面図である。
【図7】実施形態の作動説明図である。
【図8】実施形態の作動説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明に係るエアマッサージ器の実施形態を詳細に説明する。なお、ロータリ弁やその構成部材については、図3中の左上を前側として説明する。
【0014】
[実施形態]
≪実施形態の構成≫
<全体構成>
図1に示すように、エアマッサージ器1は、マッサージ器本体10とスリーブ20とコネクタユニット30とから構成されている。マッサージ器本体10の外郭には、圧力計11や強さ調整ダイヤル12、タイマ13、コネクタ接続口14が設けられている。また、スリーブ20は腕用であり、長手方向に沿って配列された第1〜第5エアチャンバ21a〜21eと、各エアチャンバ21a〜21eに形成されたソケット22とを有している。また、コネクタユニット30は、マッサージ器本体10のコネクタ接続口14に接続されるコネクタ部31、スリーブ20の各ソケット22に接続されるブッシュ32、コネクタ部31と各ブッシュ32とを接続するチューブ33を有している。
【0015】
図2に示すように、マッサージ器本体10には、電動式のエアポンプ41やロータリ弁50、ニードル弁42(強さ調整機構)、リリーフ弁43が内蔵されている。エアポンプ41から吐出された圧縮空気は、ニードル弁42によって調圧された後にロータリ弁50に流入し、コネクタユニット30を介して各エアチャンバ21a〜21eに供給された後、所定時間経過した後に各エアチャンバ21a〜21eからコネクタユニット30およびロータリ弁50を介して排出される。
【0016】
<ロータリ弁>
図3,図4に示すように、ロータリ弁50は、弁本体51、ステータ52、ロータ53、ギヤドモータ54、押付スプリング55(圧縮コイルスプリング)等から構成されている。弁本体51は円筒形状を呈しており、前述のコネクタ接続口14が前端に形成されるとともに、エアポンプ41からのエア供給ホース(図示せず)が接続する導入管61が側面に突設されている。また、弁本体51はその内部に中間仕切62を有しており、この中間仕切62には、導入管61から流入した圧縮空気をステータ52の軸心に導く給気孔63と、コネクタ接続口14に形成された第1〜第5給排気ポート64a〜64e(図4には、第3〜第5給排気ポート64c〜64eのみを示す)をステータ52に形成された第1〜第5給排気孔71a〜71e(図4には、第3給排気孔71cのみを示す)に連通させる第1〜第5連通孔65a〜65e(図4には、第3連通孔65cのみを示す)とが穿設されている。
【0017】
ステータ52は円板形状を呈しており、図5にも示すように、上述した給排気孔71a〜71eと軸心に穿設された給気孔72とを有している。ステータ52の後端面には、図3,図5に示すように、図中上方に形成された排気溝73が形成されるとともに、第2〜第5給排気孔71b〜71eから外周縁に向けて第2〜第5漏出溝74b〜74eが放射状に刻設されている。各給排気孔71a〜71eおよび排気溝73は、等角度間隔(60°間隔)に設置されている。第2〜第5漏出溝74b〜74eは、同一の溝幅(本実施形態では、1mm)を有するとともに、その順に深さが深くなるように設定されており、各深さは、第2漏出溝74bが0.5mm、第3漏出溝74cが1.0mm、第4漏出溝74dが1.5mm、第5漏出溝74eが2.0mmに設定されている。本実施形態の場合、ステータ52は樹脂(エンジニアプラスチックス)を素材としており、各給排気孔71a〜71eは同一径のドリル刃によって穿孔され、各漏出溝74b〜74eはその切込深さを変えることによって同一の切削工具(バイト)によって刻設されている。
【0018】
ロータ53は円柱形状を呈しており、図6にも示すように、ステータ52の給気孔72と各給排気孔71a〜71eとを連通させる連通溝81と、ステータ52の各給排気孔71a〜71eと所定の角度範囲で重なる円弧状の排気溝82とが前端面に形成されるとともに、排気溝82と外部とを連通させる排気孔83(貫通孔)が軸方向にそって穿設されている。また、ロータ53には、図3,図4に示すように、ギヤドモータ54のドライブピン91(シャフト92)が係合するスロット93と、押付スプリング55が嵌入する底付きのスプリング孔94とが形成されている。
【0019】
ギヤドモータ54は、モータ本体95内に図示しない減速ギヤを収納してなるシンクロナスモータであり、マッサージ器本体10の作動時において、2.4〜3.0rpmの回転速度をもってシャフト92が図7中で左回転する。図3に示すように、ギヤドモータ54のシャフト92はモータ本体94の軸心に対してオフセットしており、ロータリ弁50の組立状態において、ギヤドモータ54と弁本体51との間隙から圧縮空気が排出される。なお、ギヤドモータ54に代えて、ステッピングモータやサーボモータ、減速ギヤを内蔵したDCモータ等、低速運転が可能なモータを採用してもよいし、その回転速度も適宜設定可能である。
【0020】
押付スプリング55は、ギヤドモータ54のシャフト92とロータ53のスプリング孔94との間に介装され、所定の付勢力をもってロータ53の前端面をステータ52の後端面に押し付ける。
【0021】
≪実施形態の作用≫
エアマッサージ器1の使用にあたり、使用者は、スリーブ20を腕に装着し、マッサージ器本体10にコネクタユニット30を接続した後、各チューブ33の先端のブッシュ32を各エアチャンバ21a〜21eのソケット22に接続する。次に、使用者は、強さ調整ダイヤル12やタイマ13を適宜セットしてマッサージ器本体10を起動させる。すると、図2に示すように、エアポンプ41が作動を開始して圧縮空気を吐出し、この圧縮空気がロータリ弁50を介してスリーブ20の各エアチャンバ21a〜21eに順次給排される。
【0022】
すなわち、図7(a)〜(f)に示すように、ロータ53が左回転すると、連通溝81によって連通されることにより、白抜きの矢印で示すように給気孔72からの圧縮空気がステータ52の第1〜第5給排気孔71a〜71e(すなわち、第1〜第5エアチャンバ21a〜21e)に順番に流入する。流入した圧縮空気は、ロータ53が所定角度(本実施形態では、80°程度)回転し、排気溝82と第1〜第5給排気孔71a〜71eとが連通されることにより、黒塗りの矢印で示すように排気孔83から外部に排出される。なお、図7(f)に示すように、第1〜第5エアチャンバ21a〜21eへの圧縮空気の供給が行われると、所定時間が経過するまでの間は連通溝81によって給気孔63と排気溝73とが連通されるため、各エアチャンバ21a〜21eへの圧縮空気の供給が停止される。
【0023】
図8(a)〜(e)に示すように、第1給排気孔71a(すなわち、第1エアチャンバ21a)へは給気孔72からの圧縮空気が全量供給されるが、第2〜第5給排気孔71b〜71e(すなわち、第2〜第5エアチャンバ21b〜21e)へは、第2〜第5漏出溝74b〜74eからその一部が漏洩することにより、減量された圧縮空気が供給される。そして、前述したように第2〜第5漏出溝74b〜74eはその順に深さが深くなるように設定されているため、第2漏出溝74bから〜第5漏出溝74eに向けて圧縮空気の漏洩量が大きくなり、第1エアチャンバ21a〜第5エアチャンバ21eに向けて圧力が段階的に低くなる圧力グラデーションが形成される。
【0024】
本実施形態では、このような構成を採ったことにより、比較的安価な加工機械を用い、かつ比較的簡単な工作手順を採りながら、精度の高い圧力グラデーションを有するエアマッサージ器を製造できるようになった。
【0025】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態は腕用のスリーブを有するエアマッサージ器に本発明を適用したものであるが、脚用のスリーブを有するものにも当然に適用可能である。また、上記実施形態では、圧縮空気漏出手段としてステータの端面に刻設された漏出溝を採用したが、マッサージ器本体の給排気ポートに漏出溝を設けるようにしてもよいし、ステータやマッサージ器本体、コネクタユニットに径や個数の異なる漏出孔を設けるようにしてもよい。また、上記実施形態では指先側から上腕側に向けて圧力が低くなるように圧力グラデーションを設定したが、中間部位の圧力を高める(あるいは、低める)ような設定としてもよい。また、上記実施形態では各漏出溝間で深さを異ならせるようにしたが、深さを同一にして溝幅を異ならせるようにしてもよく、この場合には切削工具(バイト)を溝幅方向に移動させながら複数回の切り込みを行えばよい。また、マッサージ器本体やスリーブ、コネクタユニット等の具体的構成や形状等についても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 エアマッサージ器
10 マッサージ器本体
20 スリーブ
21a〜21e エアチャンバ
30 コネクタユニット
50 ロータリ弁
51 弁本体
52 ステータ
53 ロータ
61 導入管
63 給気孔
64a〜64e 給排気ポート
65a〜65e 連通孔
71a〜71e 給排気孔
72 給気孔
74b〜74e 漏出溝
81 連通溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿って配列された複数のエアチャンバを有するスリーブと、圧縮空気を供給する圧縮空気供給源と、所定の給排順序をもって各エアチャンバに対する圧縮空気の給排を行う圧縮空気給排手段とを備えたエアマッサージ器であって、
圧縮空気が供給された際における圧力を前記エアチャンバ間で異ならせるべく、少なくとも1つのエアチャンバに供給される圧縮空気が、圧縮空気漏出手段によって所定の漏出量をもって外部に漏出されることを特徴とするエアマッサージ器。
【請求項2】
前記圧縮空気給排手段は、
それぞれのエアチャンバに対応する給排気ポートが端面に形成されたステータと、
前記ステータの前記端面に相対回転自在に摺接し、前記給排気ポートに前記圧縮空気供給源からの圧縮空気を導入する圧縮空気導入孔と、前記給排気ポートから圧縮空気を排出する圧縮空気排出孔とを有するロータと
を有し、
前記圧縮空気漏出手段は、前記ステータの前記端面に刻設され、前記給排気ポートと外部とを連通させる圧縮空気漏出溝であることを特徴とする、請求項1に記載されたエアマッサージ器。
【請求項3】
前記圧縮空気漏出溝が複数の給排気ポートに対して形成されるとともに、各圧縮空気漏出溝の深さが異なることにより、前記漏出量が前記給排気ポート間で変化することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載されたエアマッサージ器。
【請求項4】
前記圧縮空気漏出溝が複数の給排気ポートに対して形成されるとともに、各圧縮空気漏出溝の溝幅が異なることにより、前記漏出量が前記給排気ポート間で変化することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載されたエアマッサージ器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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