説明

エアレススプレー塗装装置

【課題】塗料室内の塗料をノズルから安定して吐出することが可能なエアレススプレー塗装装置を提供する。
【解決手段】エアレススプレー塗装装置10においては、超音波振動を発生する振動子11、および振動子11に接続され、振動子11にて生じた超音波振動を伝達するホーン12、を有する超音波装置と、塗料を吐出するノズル16・16を有し、ホーン12の先端部12bに嵌装されるキャップ13と、を備え、ホーン12の先端部12bとキャップ13との間には、塗料を貯留する塗料室17が形成され、ホーン12の先端部12bでは、振動子11にて生じた超音波振動により直進流が発振され、発振された前記直進流により、ノズル16・16から塗料室17の塗料が吐出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧エアによらずに塗料を吐出するエアレススプレー塗装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エアレススプレー塗装装置の技術は公知であり、例えば特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1に記載のエアレススプレー塗装装置は、塗料を吐出するノズルが設けられた塗料室と、塗料を蓄える塗料タンクと、塗料タンク内の塗料を塗料室内へ圧送するポンプと、を備える。
前記エアレススプレー塗装装置は、ポンプの圧力によって、塗料タンク内の塗料を塗料室内へ送り、さらに塗料室内へ送った塗料をノズルから吐出する。
【0004】
前記ノズルから吐出される塗料について、高微粒化を図るためには、ノズルを小径化する必要がある。
しかし、ノズルを小径化(例えば、50ミクロン前後)すると、ノズル内での圧力損失が大きくなる。特に、塗料の粘度が高い場合は圧力損失がさらに大きくなる。また、一般的な圧力領域(例えば、2MPa〜3MPa)のポンプを用いる場合、圧力不足により、ノズルの出口周辺の負圧になる部分(壁面)に塗料が固着して、この固着した塗料が乾いて、ノズルをふさいでしまうことがある。従って、塗料室内の塗料をノズルから安定して吐出することが困難になるという問題が発生しうる。
【0005】
上記問題を解決するために、高い圧力(例えば、数10MPa)を供給可能なポンプを用いて、塗料の吐出圧力を高める方法が考えられる。
しかし、塗料の吐出圧力を高めると、塗料タンクと塗料室との接続に用いる管、ネジ部品その他の装置の構成部品について、高圧に耐えうるだけの強度等を備えた部品を用いる必要がある。従って、装置が大がかりになり、装置の製造コストが高騰するといった問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−248020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前述の問題点を解消するべく、簡単な構成かつ低コストで塗料室内の塗料をノズルから安定して吐出することが可能なエアレススプレー塗装装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載のエアレススプレー塗装装置においては、
超音波振動を発生する振動子、および前記振動子に接続され、前記振動子にて生じた超音波振動を伝達するホーン、を有する超音波装置と、
塗料を吐出するノズルを有し、前記ホーンの先端部に嵌装されるキャップと、を備え、
前記ホーンの先端部と前記キャップとの間には、塗料を貯留する塗料室が形成され、
前記ホーンの先端部では、前記振動子にて生じた超音波振動により直進流が発振され、
発振された前記直進流により、前記ノズルから前記塗料室内の塗料が吐出される。
【0009】
請求項2に記載のエアレススプレー塗装装置においては、
前記ノズルは、
前記ホーンの先端部と対向する位置において、前記直進流の発振方向に向けて形成されるとともに、
前記キャップの外周側に向かって縮径する形状を有し、かつ、前記キャップの内周面側の開口径が、前記キャップの外周面側の開口径よりも大きく構成される。
【0010】
請求項3に記載のエアレススプレー塗装装置においては、
塗料を貯留する塗料タンクと、
前記塗料タンク内に貯留される塗料を前記塗料室内に圧送するポンプと、を備え、
前記直進流により前記ノズルから塗料を吐出するときに、前記塗料タンク内の塗料を前記ポンプにより前記塗料室内に圧送する。
【0011】
請求項4に記載のエアレススプレー塗装装置においては、
前記キャップには、前記ポンプにより圧送される塗料の通路が形成され、
前記通路は、前記塗料室に接続される。
【0012】
請求項5に記載のエアレススプレー塗装装置においては、
前記ホーンには、前記ポンプにより圧送される塗料の通路が形成され、
前記通路の一端は、前記ホーンの外周面における非共振域に開口して、
前記通路の他端は、前記ホーンの先端部に開口する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡単な構成かつ低コストで塗料室内の塗料をノズルから安定して吐出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るエアレススプレー塗装装置の第一形態であるエアレススプレー塗装装置の概略構成図である。
【図2】図1の一部拡大図である。
【図3】本発明に係るエアレススプレー塗装装置の第二形態であるエアレススプレー塗装装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第一実施形態]
以下に、本発明に係るエアレススプレー塗装装置の実施の一形態であるエアレススプレー塗装装置10について、図面を参照して説明する。なお、図1〜図3に示す矢印Aは、後述するホーン12の軸方向を示す。
【0016】
エアレススプレー塗装装置10は、高圧エアによらずに塗料を吐出するものである。
図1に示すように、エアレススプレー塗装装置10は、超音波装置(振動子11およびホーン12)、キャップ13、塗料タンク14、ならびにポンプ(油圧ポンプ)15を備える。
【0017】
前記超音波装置は、振動子11、およびホーン12を備えている。
振動子11は、公知の超音波振動子であり、電圧をかけることにより伸び縮みする圧電素子(ピエゾ素子)、および上記圧電素子を両側から挟み込む金属製部材を有しており、交流電圧をかけることにより超音波振動を発生する。
振動子11には、ホーン12の基端部がネジにより締結されるなどして接続されている。ホーン12は、振動子11にて生じた超音波振動の振幅を増幅しつつ伝達する部材である。
【0018】
ホーン12は、全体的に円柱形状に形成されており、その軸方向の先端部が基端部よりも径が小さくなるように、その中途部にて縮径している。ホーン12の中途部には、径方向外側に突出するフランジ部12aが形成されている。フランジ部12aは、ホーン12の縮径部分よりも基端側に位置している。
【0019】
ホーン12の軸方向の先端部12bにはキャップ13が嵌装されており、ホーン12の軸方向の先端部12bはキャップ13により覆われている。
【0020】
キャップ13は、一端が閉塞された円筒形状に形成されており、ホーン12により支持されている。
キャップ13は、円盤形状の底壁部13a、および円筒形状の周壁部13bを備えており、底壁部13aにより周壁部13bの一端(図1における下端)が閉塞されている。
底壁部13aは、その内周面(図1における上面)の縁部が周壁部13bの一端にネジ等で固定されることにより、周壁部13bの一端を閉塞している。底壁部13aと周壁部13bとの間にはシール部材13cが介装されている。
【0021】
周壁部13bの他端部(図1における上端部)には、周壁部13bの外周側に突出する突出部13dが形成されている。また、周壁部13bの他端側には、平板形状の蓋部13eが突出部13dに対して対向配置されている。
【0022】
突出部13dと蓋部13eとの間には、ホーン12の中途部に形成されるフランジ部12aが位置しており、フランジ部12aをシール部材13f等を介して突出部13dと蓋部13eとで挟持することにより、キャップ13がホーン12に支持されている。
このように、ホーン12によりキャップ13を支持することで、ホーン12の軸方向の先端部12bがキャップ13の内部(底壁部13aの内周面と、周壁部13bの内周面に囲まれる空間内)に配置されることとなる。すなわち、ホーン12の軸方向の先端部12bは、キャップ13の内周面(底壁部13aの内周面、および周壁部13bの内周面)にて覆われている。
【0023】
ホーン12の先端部12bにおけるキャップ13に覆われている部分の外周面と、キャップ13の内周面との間には、塗料を貯溜する隙間(塗料室17)が形成されている。つまり、ホーン12の側面(外周面)と周壁部13bの内周面との間、およびホーン12の先端面(図1における下面)と底壁部13aの内周面との間には、塗料室17を構成する隙間が形成されている。塗料室17は上記シール部材13c・13f等によって密閉されている。
図1に示すように、周壁部13bには、その外周面と内周面との間を貫通する塗料通路13gが形成されている。塗料通路13gは塗料室17と連通しており、塗料通路13gを通じて塗料室17内に塗料を供給可能に構成されている。
【0024】
キャップ13の底壁部13aには、ノズル16・16が複数(図1には二つノズル16・16を示している)形成されている。
ノズル16は、底壁部13aを貫通する孔であり、ノズル16を通じて塗料室17内の塗料が吐出されるように構成している。
なお、底壁部13aにおいては、塗料室17と接する側の面を内周面と呼び、その裏側の面を外周面と呼ぶ。
【0025】
図2に示すように、塗料を吐出するノズル16は、テーパ部16a、および小径部16bを備える。
【0026】
テーパ部16aは、底壁部13aの内周面側に位置し、その径が外周面側へいくにつれてテーパ状に小さくなる形状を有する。テーパ部16aの小径側の端部には、小径部16bが連続して設けられている。小径部16bは、底壁部13aの外周面側に位置し、その径の大きさが、テーパ部16aの小径側の端部の径と同一の大きさに構成されている。
ノズル16においては、テーパ部16aの大径側の端部が底壁部13aの内周面に開口しており、小径部16bが底壁部13aの外周面に開口している。
すなわち、ノズル16は、底壁部13aの外周面側に向かって縮径する形状(テーパ部16a)を有し、かつ、底壁部13aの内周面側の開口径(テーパ部16aの大径側の端部の径)を、底壁部13aの外周面側の開口径(小径部16bの径)よりも大きく構成している。
【0027】
このように構成されるノズル16・16においては、塗料室17内の塗料がテーパ部16aから進入し、小径部16bを通じて底壁部13aの外周面側の開口から吐出される(図2の点線矢印参照)。
【0028】
小径部16bから塗料が吐出される際、吐出された塗料は液糸状に構成される。そして、この液糸が分断されて、表面張力で球状化して、微粒化する。
小径部16bの径は、所望の粒径と同等、もしくは所望の粒径よりも僅かに大きくなるように構成されている。従って、小径部16bから吐出された液糸は、その太さが、所望の粒径と同等、もしくは所望の粒径よりも僅かに大きくなる。本実施形態において、小径部16bの径は、例えば50ミクロン前後の小径に構成されている。
【0029】
ホーン12は、軸方向の先端部12bが、伝達される超音波振動の腹の位置(共振域)に配置されるような形状および寸法に形成されている。これにより、振動子11で発生した超音波振動がホーン12に伝達されるときに、ホーン12の先端部12bが、キャップ13に対して、ホーン12の軸方向に、超音波振動の周波数で振動する。例えば、ストロークが30ミクロン〜40ミクロン程度、周波数が20KHz前後で、先端部12bが振動する(図2の白抜き矢印参照)。
【0030】
図2に示すように、ホーン12の先端部12bは、塗料室17を介して、上記底壁部13aのノズル16・16と、ホーン12の軸方向に対向している。従って、ホーン12の先端部12bは、振動子11により軸方向に振動されると、ノズル16・16に近接離間する方向に振動する。
【0031】
また、ノズル16・16は、ホーン12の先端部12b(先端面)と対向する位置において、ホーン12の軸方向(振動方向)に向けて形成されている。従って、ホーン12の先端部12bの振動方向と、ノズル16・16の延在する方向(ノズル16・16による塗料の吐出方向)とが一致している。
【0032】
一方、図1に示すように、ホーン12の中途部に形成されるフランジ部12aは、軸方向に振動しない振動の節の位置(非共振域)に配置されている。
【0033】
塗料タンク14には、塗料が貯留されている。
塗料タンク14は、管18を介して塗料室17(塗料通路13g)と連通されている。管18は、一端が塗料タンク14に接続されており、他端が塗料通路13gにニップル19を介して接続されている。
【0034】
管18の途中部には、ポンプ15が設けられている。
ポンプ15が駆動されることにより、塗料タンク14内の塗料が、管18および塗料通路13gを通じて圧送されて、塗料室17内に供給される。
【0035】
図2に示すように、エアレススプレー塗装装置10は、塗料室17内に塗料が供給された状態で、振動子11によりホーン12の先端部12bを軸方向に振動することによって、ノズル16・16から塗料を吐出する。このとき、ホーン12の先端部12bでは直進流が、ホーン12の軸方向外側に向けて発振されて(図2の太線矢印参照)、この直進流の効果でノズル16・16から塗料が吐出される。
直進流は、ホーン12の先端部12b(振動面)が、振動子11にて生じた超音波振動により軸方向外側(ノズル16・16に近接する方向)に振動するときに塗料室17内の塗料を、ホーン12の軸方向外側に向けて押す力である。
【0036】
以上のように構成することで、エアレススプレー塗装装置10は、ホーン12の先端部12bから発振する直進流によって、塗料室17内の塗料をノズル16・16から安定して吐出することが可能である。
また、エアレススプレー塗装装置10は、ホーン12の先端部12bから発振する直進流によってノズル16・16から塗料を吐出するので、管18、ニップル19等の装置の構成部品について高圧に耐えうる特殊なものを用いる必要がない。従って、装置が大がかりで複雑なものにならず、装置の製造コストを低減可能である。
【0037】
また、上記したようにノズル16・16は、ホーン12の先端部12bと対向する位置において、ホーン12の軸方向(前記直進流の発振方向)に向けて形成されるとともに、キャップ13の外周側に向かって縮径する形状を有し、かつ、キャップ13の内周面側の開口径が、前記キャップ13の外周面側の開口径よりも大きく構成される(図2参照)。これにより、ノズル16・16が上記直進流を効率よく集約することが可能である。
【0038】
また、エアレススプレー塗装装置10は、前記直進流によりノズル16・16から塗料を吐出するときに、塗料タンク14内の塗料をポンプ15により塗料室17内に圧送することで、塗料を継続的に吐出することが可能である。
【0039】
また、エアレススプレー塗装装置10は、塗料通路13gをキャップ13に形成しており、例えばホーン12の先端部12bのような振動する箇所には形成していない。従って、ニップル19や管18が振動により破損することを回避でき、塗料タンク14内の塗料を塗料室17内に安定して供給することが可能である。
【0040】
[第二実施形態]
以下に、本発明に係るエアレススプレー塗装装置の第二実施形態であるエアレススプレー塗装装置20について、図面を参照して説明する。
なお、エアレススプレー塗装装置20について、エアレススプレー塗装装置10と同様の部材に対しては同一符号を付し、詳細な説明およびそれに付随する効果等の記載は省略する。
【0041】
図3に示すように、ホーン12には、塗料通路12cが形成されている。
塗料通路12cは、その一端がホーン12の側面(外周面)における非共振域(超音波振動の節の位置)に開口しており、その他端がホーン12の先端部12b(先端面)に開口している。
塗料通路12cの一端、すなわちホーン12側面の非共振域に形成される開口は、ニップル19を介して管18の他端に接続されている。
【0042】
ポンプ15が駆動されることにより、塗料タンク14内の塗料が、管18を通じて塗料通路12cへ圧送される。塗料通路12c内に圧送された塗料は、ホーン12の先端部12bから吐出されて、塗料室17内に供給される。
【0043】
以上のように、エアレススプレー塗装装置20は、ニップル19を介して管18と接続される塗料通路12cの一端側の開口をホーン12の非共振域に形成しており、例えばホーン12の先端部12bのような振動する箇所には形成していない。従って、塗料通路12cの一端に接続されるニップル19や管18が振動により破損することを回避でき、塗料タンク14内の塗料を塗料室17内に安定して供給することが可能である。
【符号の説明】
【0044】
10・20 エアレススプレー塗装装置
11 振動子
12 ホーン
12b ホーンの先端部
13 キャップ
14 塗料タンク
15 ポンプ
16 ノズル
17 塗料室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波振動を発生する振動子、および前記振動子に接続され、前記振動子にて生じた超音波振動を伝達するホーン、を有する超音波装置と、
塗料を吐出するノズルを有し、前記ホーンの先端部に嵌装されるキャップと、を備え、
前記ホーンの先端部と前記キャップとの間には、塗料を貯留する塗料室が形成され、
前記ホーンの先端部では、前記振動子にて生じた超音波振動により直進流が発振され、
発振された前記直進流により、前記ノズルから前記塗料室内の塗料が吐出される、
エアレススプレー塗装装置。
【請求項2】
前記ノズルは、
前記ホーンの先端部と対向する位置において、前記直進流の発振方向に向けて形成されるとともに、
前記キャップの外周側に向かって縮径する形状を有し、かつ、前記キャップの内周面側の開口径が、前記キャップの外周面側の開口径よりも大きく構成される、
請求項1に記載のエアレススプレー塗装装置。
【請求項3】
塗料を貯留する塗料タンクと、
前記塗料タンク内に貯留される塗料を前記塗料室内に圧送するポンプと、を備え、
前記直進流により前記ノズルから塗料を吐出するときに、前記塗料タンク内の塗料を前記ポンプにより前記塗料室内に圧送する、
請求項1または請求項2に記載のエアレススプレー塗装装置。
【請求項4】
前記キャップには、前記ポンプにより圧送される塗料の通路が形成され、
前記通路は、前記塗料室に接続される、
請求項3に記載のエアレススプレー塗装装置。
【請求項5】
前記ホーンには、前記ポンプにより圧送される塗料の通路が形成され、
前記通路の一端は、前記ホーンの外周面における非共振域に開口して、
前記通路の他端は、前記ホーンの先端部に開口する、
請求項3に記載のエアレススプレー塗装装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−251278(P2011−251278A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128874(P2010−128874)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(591274059)ランズバーグ・インダストリー株式会社 (38)
【出願人】(000110343)トリニティ工業株式会社 (147)
【Fターム(参考)】