説明

エアレーション装置及びこれを備えた海水排煙脱硫装置、エアレーション装置の運転方法

【課題】散気膜のスリットにおいて析出物の発生を抑制・回避することができるエアレーション装置及びこれを備えた海水排煙脱硫装置、エアレーション装置の運転方法を提供する。
【解決手段】被処理水である海水103中に浸漬され、被処理水中に微細気泡を発生させるエアレーション装置120であって、空気122をブロア121A〜121Dにより供給する空気供給ラインL5と、前記空気供給ラインL5に介装され、供給する空気を50℃以下に冷却する冷却器131と、前記冷却された空気が供給されるスリットを有する散気膜を備えたエアレーションノズルとを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭焚き、原油焚き及び重油焚き等の発電プラントに適用される排煙脱硫装置の排水処理に係り、特に、海水法を用いて脱硫する排煙脱硫装置の排水(使用済海水)をエアレーションにより脱炭酸(曝気)するエアレーション装置及びこれを備えた海水排煙脱硫装置、エアレーション装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石炭や原油等を燃料とする発電プラントにおいて、ボイラから排出される燃焼排気ガス(以下、「ガス」と呼ぶ)は、該排ガス中に含まれている二酸化硫黄(SO2)等の硫黄酸化物(SOx)を除去してから大気に放出される。このような脱硫処理を施す排煙脱硫装置の脱硫方式としては、石灰石石膏法、スプレードライヤー法及び海水法等が知られている。
【0003】
このうち、海水法を採用した排煙脱硫装置(以下、「海水排煙脱硫装置」と呼ぶ)は、吸収剤として海水を使用する脱硫方式である。この方式では、たとえば略円筒のような筒形状を縦置きにした脱硫塔(吸収塔)の内部に海水及びボイラ排ガスを供給することにより、海水を吸収液として湿式ベースの気液接触を生じさせて硫黄酸化物を除去している。
上述した脱硫塔内で吸収剤として使用した脱硫後の海水(使用済海水)は、たとえば、上部が開放された長い水路(Seawater Oxidation Treatment System;SOTS)内を流れ排水される際、水路の底面に設置したエアレーション装置から微細気泡を流出させるエアレーションによって脱炭酸(爆気)される(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−055779号公報
【特許文献2】特開2009−028570号公報
【特許文献3】特開2009−028572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、エアレーション装置で用いるエアレーションノズルは、基材の周囲を覆うゴム製等の散気膜に小さなスリットが多数設けられたものである。一般的には「ディフューザノズル」と呼ばれている。このようなエアレーションノズルは、供給される空気の圧力により、スリットから略均等な大きさの微細気泡を多数流出させることができる。従来、ゴム製の散気膜の場合、スリットの長さは、1〜3mm程度である。
【0006】
このようなエアレーションノズルを用いて、海水中でエアレーションを連続して行うと、散気膜のスリット壁面やスリット開口近傍に、海水中の硫酸カルシウム等の析出物が析出し、スリットの間隙が狭くなったり、スリットを塞いだりする結果、散気膜の圧力損失を増大させ、散気装置に空気を供給するブロワ、コンプレッサ等の吐出手段の吐出圧高が発生し、ブロワ、コンプレッサ等に負荷がかかるという、問題がある。
【0007】
析出物の発生は、散気膜の外側に位置する海水が、スリットから散気膜の内側へ浸み込み、常時スリットを通過する空気に、長時間に亙って触れて乾燥(海水の濃縮)が促進され、析出に至っている、と推定される。
【0008】
本発明は、前記問題に鑑み、散気膜のスリットにおいて析出物の発生を抑制・回避することができるエアレーション装置及びこれを備えた海水排煙脱硫装置、エアレーション装置の運転方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、被処理水中に浸漬され、被処理水中に微細気泡を発生させるエアレーション装置であって、空気を吐出手段により供給する空気供給配管と、前記空気供給配管に介装され、供給する空気を50℃以下に冷却する冷却手段と、前記冷却された空気が供給されるスリットを有する散気膜を備えたエアレーションノズルとを具備することを特徴とするエアレーション装置にある。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、前記冷却手段の冷却媒体が海水であることを特徴とするエアレーション装置にある。
【0011】
第3の発明は、被処理水中に浸漬され、被処理水中に微細気泡を発生させるエアレーション装置であって、空気を吐出手段により供給する空気供給配管と、前記空気供給配管に介装され、供給する空気を第1の冷却温度以下まで冷却する冷却器と、海水中に浸漬され、海水により第2の冷却温度以下まで冷却空気を更に冷却する海水冷却器とを具備することを特徴とするエアレーション装置にある。
【0012】
第4の発明は、第1乃至3のいずれか一つの発明において、前記供給する空気に水分を付与する水分付与手段を有することを特徴とするエアレーション装置にある。
【0013】
第5の発明は、第1又は2のエアレーション装置を用い、吐出手段により供給された空気を40℃以下に冷却し、エアレーションノズルに冷却空気を供給することを特徴とするエアレーション装置の運転方法にある。
【0014】
第6の発明は、第3のエアレーション装置を用い、吐出手段により供給された空気を冷却手段により50℃以下に冷却し、その後海水冷却手段により空気を40℃以下に冷却し、エアレーションノズルに冷却空気を供給することを特徴とするエアレーション装置の運転方法にある。
【0015】
第7の発明は、第5又は6の発明において、前記吐出手段に導入する空気の大気状態に応じて、吐出手段の圧力及び冷却温度を制御して、空気を所定温度以下まで冷却し、冷却空気の相対湿度を100%以上にすることを特徴とするエアレーション装置の運転方法にある。
【0016】
第8の発明は、第5乃至7のいずれか一つの発明において、前記供給する空気に水分付与手段から水分を付与することを特徴とするエアレーション装置の運転方法にある。
【0017】
第9の発明は、海水を吸収剤として使用する脱硫塔と、前記脱硫塔から排出された使用済海水を流して排水する水路と、前記水路内に設置され、前記使用済海水中に微細気泡を発生して脱炭酸を行う第1乃至4のいずれか一つのエアレーション装置とを具備することを特徴とする海水排煙脱硫装置にある。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、エアレーション装置の散気膜のスリットにおいて析出物の発生を抑制・回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本実施例に係る海水排煙脱硫装置の概略図である。
【図2−1】図2−1は、エアレーションノズルの平面図である。
【図2−2】図2−2は、エアレーションノズルの正面図である。
【図3】図3は、エアレーションノズルの内部構造概略図である。
【図4】図4は、本実施例に係るエアレーション装置の概略図である。
【図5】図5は、本実施例に係る他のエアレーション装置の概略図である。
【図6】図6は、本実施例に係る他のエアレーション装置の概略図である。
【図7】図7は、本実施例に係る他のエアレーション装置の概略図である。
【図8−1】図8−1は、散気膜のスリットにおける、空気(飽和度の低い湿り空気)の流出と海水の浸入、及び濃縮海水の状況を示す図である。
【図8−2】図8−2は、散気膜のスリットにおける、空気の流出と海水の浸入、濃縮海水及び析出物の状況を示す図である。
【図8−3】図8−3は、散気膜のスリットにおける、空気の流出と海水の浸入、濃縮海水及び析出物(析出物が成長した場合)の状況を示す図である。
【図8−4】図8−4は、空気(相対湿度100%以上)の流出と海水の浸入状況を示す図である。
【図9】図9は、空気供給管に相対湿度100%の冷却空気を間欠的に供給する場合の、エアレーションノズルのスリットに浸み込んだ海水の塩分濃度の変化とエアレーション装置の運転状況を示す図である。
【図10−1】図10−1は、ブロア入口大気条件が気圧(大気圧)、気温(30℃)、相対湿度(55%)の場合に、ブロアから供給した空気を冷却器で冷却させた際の冷却器出口における空気の温度と相対湿度との関係を示す図である。
【図10−2】図10−2は、ブロア入口大気条件が気圧(大気圧)、気温(30℃)、相対湿度(65%)の場合に、ブロアから供給した空気を冷却器で冷却させた際の冷却器出口における空気の温度と相対湿度との関係を示す図である。
【図10−3】図10−3は、ブロア入口大気条件が気圧(大気圧)、気温(30℃)、相対湿度(75%)の場合に、ブロアから供給した空気を冷却器で冷却させた際の冷却器出口における空気の温度と相対湿度との関係を示す図である。
【図11−1】図11−1は、ブロア入口大気条件が気圧(大気圧)、気温(35℃)、相対湿度(55%)の場合に、ブロアから供給した空気を冷却器で冷却させた際の冷却器出口における空気の温度と相対湿度との関係を示す図である。
【図11−2】図11−2は、ブロア入口大気条件が気圧(大気圧)、気温(35℃)、相対湿度(65%)の場合に、ブロアから供給した空気を冷却器で冷却させた際の冷却器出口における空気の温度と相対湿度との関係を示す図である。
【図11−3】図11−3は、ブロア入口大気条件が気圧(大気圧)、気温(35℃)、相対湿度(75%)の場合に、ブロアから供給した空気を冷却器で冷却させた際の冷却器出口における空気の温度と相対湿度との関係を示す図である。
【図12−1】図12−1は、ブロア入口大気条件が気圧(大気圧)、気温(40℃)、相対湿度(55%)の場合に、ブロアから供給した空気を冷却器で冷却させた際の冷却器出口における空気の温度と相対湿度との関係を示す図である。
【図12−2】図12−2は、ブロア入口大気条件が気圧(大気圧)、気温(40℃)、相対湿度(65%)の場合に、ブロアから供給した空気を冷却器で冷却させた際の冷却器出口における空気の温度と相対湿度との関係を示す図である。
【図12−3】図12−3は、ブロア入口大気条件が気圧(大気圧)、気温(40℃)、相対湿度(75%)の場合に、ブロアから供給した空気を冷却器で冷却させた際の冷却器出口における空気の温度と相対湿度との関係を示す図である。
【図13】図13は、空気温度と水蒸気分圧との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例】
【0021】
本発明による実施例に係るエアレーション装置及び海水排煙脱硫装置について、図面を参照して説明する。図1は、本実施例に係る海水排煙脱硫装置の概略図である。
図1に示すように、海水排煙脱硫装置100は、排ガス101と海水103とを気液接触してSO2を亜硫酸(H2SO3)へ脱硫反応させる排煙脱硫吸収塔102と、排煙脱硫吸収塔102の下側に設けられ、硫黄分を含んだ使用済海水103Aを希釈用の海水103と希釈混合する希釈混合槽105と、希釈混合槽105の下流側に設けられ、希釈使用済海水103Bの水質回復処理を行う酸化槽106とからなるものである。
【0022】
海水排煙脱硫装置100では、排煙脱硫吸収塔102において海水供給ラインL1を介して供給される海水103の内の一部の吸収用の海水103を排ガス101と気液接触させて、排ガス101中のSO2を海水103に吸収させる。そして、排煙脱硫吸収塔102で硫黄分を吸収した使用済海水103Aを、排煙脱硫吸収塔102の下部に設けられている希釈混合槽105に供給される希釈用の海水103と混合させる。そして、希釈用の海水103と混合希釈された希釈使用済海水103Bは、希釈混合槽105の下流側に設けられている酸化槽106に送給され、酸化用空気ブロア121より供給された空気122をエアレーションノズル123により供給し、水質回復させた後、排水124として海へ放流するようにしている。
図1中、符号102aは海水103を上方に噴出させる液柱用の噴霧ノズル、120はエアレーション装置、122aは気泡、L1は海水供給ライン、L2は希釈海水供給ライン、L3は脱硫海水供給ライン、L4は排ガス供給ライン、L5は空気供給ライン、L6は浄化ガス101Aの排出ライン、L7は排水124の排出ラインである。
【0023】
このエアレーションノズル123の構成を図2−1、図2−2及び図3を参照して説明する。
図2−1は、エアレーションノズルの平面図、図2−2は、エアレーションノズルの正面図、図3は、エアレーションノズルの内部構造概略図である。
図2−1、図2−2に示すように、エアレーションノズル123は、基材の周囲を覆うゴム製の散気膜11に小さなスリット12が多数設けられたものであり、一般的には「ディフューザノズル」と呼ばれている。このようなエアレーションノズル123は、空気供給ラインL5から供給される空気122の圧力により散気膜11が膨張すると、スリット12が開いて略均等な大きさの微細気泡を多数流出させることができる。
【0024】
図2−1、図2−2に示すように、エアレーションノズル123は、空気供給ラインL5から分岐した複数(本実施例では8本)の枝管(図示せず)に設けられたヘッダ15に対して、フランジ16を介して取り付けられている。なお、希釈使用済海水103B中に設置される枝管及びヘッダ15には、耐食性を考慮して樹脂製パイプ等が使用されている。
【0025】
エアレーションノズル123は、たとえば図3に示すように、希釈使用済海水103Bに対する耐食性を考慮して樹脂製とした略円筒形状の支持体20を用い、この支持体20の外周を覆うようにして多数のスリット12が形成されたゴム製の散気膜11を被せた後、左右両端部をワイヤやバンド等の締結部材22により固定した構成とされる。
【0026】
また、上述したスリット12は、圧力を受けない通常の状態においては閉じている。なお、海水排煙脱硫装置100においては、常時空気122を供給しているので、常にスリット12は開放状態である。
【0027】
ここで、支持体20の一端20aは、ヘッダ15に取り付けた状態で空気122の導入を可能とすると共に、その他端20bは、海水103が導入可能に開口されている。
このため、一端20a側は、ヘッダ15及びフランジ16を貫通する空気導入口20cを介してヘッダ15内部と連通している。そして、支持体20の内部は、支持体20の軸方向の途中に設けた仕切板20dにより分割され、この仕切板20dにより空気の流通が阻止されている。さらに、この仕切板20dよりヘッダ15側となる支持体20の側面には、散気膜11の内周面と支持体20の外周面との間に、すなわち、散気膜11を加圧して膨張させる加圧空間11aへ空気122を流出させるための空気出口20e、20fが開口している。従って、ヘッダ15からエアレーションノズル123に流入する空気122は、図中に矢印で示すように、空気導入口20cから支持体20の内部へ流入した後、側面の空気出口20e、20fから加圧空間11aへ流出することとなる。
なお、締結部材22は、散気膜11を支持体20に固定するとともに、空気出口20e、20fから流入する空気が両端部から漏出することを防止するものである。
【0028】
このように構成されたエアレーションノズル123において、ヘッダ15から空気導入口20cを通って流入する空気122は、空気出口20e、20fを通って加圧空間11aへ流出することにより、最初はスリット12が閉じているため加圧空間11a内に溜まって内圧を上昇させる。内圧が上昇された結果、散気膜11は加圧空間11a内の圧力上昇を受けて膨張し、散気膜11に形成されているスリット12が開くことによって空気122の微細気泡を希釈使用済海水103B中に流出させる。
【0029】
図4は、本実施例に係るエアレーション装置の概略図である。図5は、本実施例に係る他のエアレーション装置の概略図である。図4に示すように、本実施例に係るエアレーション装置120Aは、被処理水である希釈使用済海水(図示せず)中に浸漬され、希釈使用済海水中に微細気泡を発生させるエアレーション装置であって、空気122を吐出手段であるブロア121A〜121Dにより供給する空気供給ラインL5と、空気122が供給されるスリット12を有する散気膜11を備えたエアレーションノズル123とを具備するものである。なお、酸化槽106に流入される希釈使用済海水103Bは図示を省略している。
また、空気供給ラインL5には、冷却器131及びフィルタ132が各々設けられている。これにより、ブロア121A〜121Dにより圧縮された空気122は冷却され、次いで濾過されている。冷却・濾過された空気122は、枝管L5A〜5H及びヘッダ15を介して空気供給を受ける全てのエアレーションノズル123で供給され、微細気泡が発生する。
なお、ブロアが4基あるのは、通常は3基で運転しており、その内の1基は予備としている。また、図示しないが、冷却器131及びフィルタ132は各々2基設けており、連続して運転する必要から、通常は片方のみで運転し、他方はメンテナンス用としている。
【0030】
本実施例に係る冷却器131では、海水103を用いて、供給する空気122の冷却を行うようにしている。この冷却の冷却温度は50℃以下、より好ましくは40℃以下とするのが良い。
【0031】
供給する空気を冷却手段131で冷却する際には、以下の諸条件を加味することで、相対湿度が100%を超える冷却空気を供給するようにしている。
具体的には、吐出手段であるブロア121に導入する空気の大気状態、及びブロアの出口圧力と出口温度に応じて、冷却器の冷却温度を制御して、空気を所定温度以下まで冷却し、冷却空気の相対湿度を100%以上としている。
【0032】
この際、ブロア121A〜121Dに供給する大気条件(空気の温度、相対湿度、及び気圧)が先ず重要となる。次いで、ブロアの昇圧条件と昇温条件が重要となる。この際ブロアは、いわゆる「ルーツブロア」と称されるもので、昇圧昇温過程で発生するドレンの除去装置が付いていない形式のものである。
【0033】
図10−1〜図10−3、図11−1〜図11−3、図12−1〜図12−3は、ブロア入口の大気条件をパラメタ(気圧を標準大気圧とし、気温と相対湿度をパラメタとしている)とした場合の冷却器出口における空気の温度と相対湿度との関係の一例を示す図である。
【0034】
図10−1は、ブロア入口大気条件が気圧(大気圧)、気温(30℃)、相対湿度(55%)の場合に、ブロアから供給した空気122を冷却器131で冷却させた際の冷却器出口における空気の温度と相対湿度との関係を示す図で、冷却器の出口圧力をパラメタとしている。冷却器出口の圧力を0.4barG、0.5barG、0.6barGと設定している(以下同様)。
【0035】
図10−2は、ブロア入口大気条件が気圧(大気圧)、気温(30℃)、相対湿度(65%)の場合に、ブロアから供給した空気122を冷却器131で冷却させた際の冷却器出口における空気の温度と相対湿度との関係を示す図で、冷却器の出口圧力をパラメタとしている。
【0036】
図10−3は、ブロア入口大気条件が気圧(大気圧)、気温(30℃)、相対湿度(75%)の場合に、ブロアから供給した空気122を冷却器131で冷却させた際の冷却器出口における空気の温度と相対湿度との関係を示す図で、冷却器の出口圧力をパラメタとしている。
【0037】
図10−1の供給する空気122の相対湿度が55%の場合には、冷却空気の相対湿度が100%となるのは、28℃以下であり、図10−2の供給する空気122の相対湿度が65%の場合には、冷却空気の相対湿度が100%となるのは、31℃以下であり、図10−3の供給する空気122の相対湿度が80%の場合には、冷却空気の相対湿度が100%となるのは、34℃以下となる。
【0038】
このように、ブロア入口の大気相対湿度が55%、65%、75%と上昇するにつれて、冷却器131での冷却度を少なくして、供給空気の相対湿度を100%とすることができる。
【0039】
同様に、図11−1は、ブロア入口大気条件が気圧(大気圧)、気温(35℃)、相対湿度(55%)の場合に、ブロアから供給した空気122を冷却器131で冷却させた際の冷却器出口における空気の温度と相対湿度との関係を示す図で、冷却器の出口圧力をパラメタとしている。
【0040】
図11−2は、ブロア入口大気条件が気圧(大気圧)、気温(35℃)、相対湿度(65%)の場合に、ブロアから供給した空気122を冷却器131で冷却させた際の冷却器出口における空気の温度と相対湿度との関係を示す図で、冷却器の出口圧力をパラメタとしている。
【0041】
図11−3は、ブロア入口大気条件が気圧(大気圧)、気温(35℃)、相対湿度(75%)の場合に、ブロアから供給した空気122を冷却器131で冷却させた際の冷却器出口における空気の温度と相対湿度との関係を示す図で、冷却器の出口圧力をパラメタとしている。
【0042】
図11−1の供給する空気122の相対湿度が55%の場合には、冷却空気の相対湿度が100%となるのは、33℃以下であり、図11−2の供給する空気122の相対湿度が65%の場合には、冷却空気の相対湿度が100%となるのは、36℃以下であり、図11−3の供給する空気122の相対湿度が75%の場合には、冷却空気の相対湿度が100%となるのは、39℃以下となる。
【0043】
同様に、図12−1は、ブロア入口大気条件が気圧(大気圧)、気温(40℃)、相対湿度(55%)の場合に、ブロアから供給した空気122を冷却器131で冷却させた際の冷却器出口における空気の温度と相対湿度との関係を示す図で、冷却器の出口圧力をパラメタとしている。
【0044】
図12−2は、ブロア入口大気条件が気圧(大気圧)、気温(40℃)、相対湿度(65%)の場合に、ブロアから供給した空気122を冷却器131で冷却させた際の冷却器出口における空気の温度と相対湿度との関係を示す図で、冷却器の出口圧力をパラメタとしている。
【0045】
図12−3は、ブロア入口大気条件が気圧(大気圧)、気温(40℃)、相対湿度(75%)の場合に、ブロアから供給した空気122を冷却器131で冷却させた際の冷却器出口における空気の温度と相対湿度との関係を示す図で、冷却器の出口圧力をパラメタとしている。
【0046】
図12−1の供給する空気122の相対湿度が55%の場合には、冷却空気の相対湿度が100%となるのは、38℃以下であり、図11−2の供給する空気122の相対湿度が65%の場合には、冷却空気の相対湿度が100%となるのは、41℃以下であり、図12−3の供給する空気122の相対湿度が75%の場合には、冷却空気の相対湿度が100%となるのは、44℃以下でとなる。
【0047】
ブロアに供給する空気は大気条件により春秋の場合と、夏場と冬場との場合では大きく変化するので、エアレーション装置を運転する際に、供給する空気122を冷却器131で冷却する際に、大気条件を計測し、相対湿度が100%を超える冷却空気122Aを供給することができるように予め求めた図10−1〜図12−3のような関係図より、冷却温度を制御する。
【0048】
図13は、空気温度と水蒸気分圧との関係図を示す図である。
図13中、実線は水蒸気の飽和蒸気圧曲線を示す。実線よりも上側領域は液相状態であり、下側領域は気相状態である。
図13では、ブロア入口における導入空気の状態として、気圧(標準大気圧)、気温(35℃)、相対湿度(65%)の場合(図中※)に、冷却器131の出口状態として、圧力(0.6barG)の際、冷却器131出口での空気の温度を55℃、45℃、35℃と変化させた場合のそれぞれの相状態と相対湿度を示す。
【0049】
図13に示すように、冷却空気122Aを例えば温度が55℃に冷却する場合には相対湿度37%であり、未飽和の状態である。これをさらに例えば45℃まで冷却すると、相対湿度が61%に上昇する。
また、この冷却空気の冷却を、例えば35℃まで冷却すると、相対湿度は103%と過飽和の状態となる。
【0050】
後述するように、冷却空気122Aの相対湿度を70%以上とすることで、エアレーションノズル123のスリット12での析出物の付着が抑制される。
よって、例えば、図13に示すような条件[気圧(大気圧)、気温(35℃)、相対湿度(65%)]の場合(図中※)、冷却器131の出口状態として、圧力(0.6barG)とする場合には、冷却器131での冷却温度を35℃とすることで、相対湿度は103%と過飽和の状態なり、析出物の析出の抑制が可能となり、スリット12の詰まりが防止され、散気膜11の圧力損失を防止することができる。
【0051】
供給される空気の水分量は気象条件により変動するので、必要に応じて図5に示すエアレーション装置120Bのように、真水タンク140から真水141を供給して、水分を補うようにしてもよい。
なお、真水141の代わりに、海水や水蒸気を供給するようにしてもよい。
【0052】
冷却媒体の海水103は、独立して海水をくみ上げてもよいが、図1に示す排煙脱硫吸収塔102に供給する海水103の一部を用いるようにしてもよい。
【0053】
図6は、本実施例の他のエアレーション装置120Cの概略図である。
図6に示すエアレーション装置120Cは、図4に示すエアレーション装置120Aにおいて、供給する空気122を第1の冷却温度以下まで冷却する冷却器131と、海水103中に浸漬され、該海水103により第2の冷却温度以下まで冷却空気122Aを更に冷却する海水冷却器133とを具備している。
【0054】
そして、ブロア121A〜121Dにより供給された空気122を先ず第1の冷却温度(例えば50℃)以下まで冷却器131にて冷却する。この場合、相対湿度は70%〜80%程度となる。
次いで、海水103中に浸漬された海水冷却器133により、冷却空気122Aをさらに第2の冷却温度(例えば40℃)以下まで冷却することで、相対湿度が約100%以下としている。この結果、析出物の析出の抑制が可能となり、スリット詰まりが防止され、散気膜11の圧力損失を防止することができる。
【0055】
水分付与手段は、空気に真水、海水、水蒸気を供給する以外に、ブロア入口近傍に水分を供給することで、付与するようにしてもよい。
【0056】
図7は、本実施例の他のエアレーション装置120Dの概略図である。
図7のエアレーション装置120Dでは、吐出手段であるブロア121A〜121Dの空気導入口近傍に水分143を供給する吸気スプレーノズル(図示せず)を設けている。この場合、水分143を吸気に添加し(水分は、ブロア本体に入る前に蒸発するようにする。)、ブロア出口側の冷却器131での冷却量を調整し、エアレーションノズル123のスリットを通過する空気を飽和湿り空気とする。
【0057】
すなわち、ブロア121A〜121Dにより加圧圧縮された空気122は、その温度が例えば100℃程度の高温となるが、この際、水分143を余分に供給することで供給される空気122は水分リッチの状態となる。その後、冷却器131により空気の温度を低下させると(例えば40℃)、空気122中の水分量には変化がないので、冷却された空気122の水分の飽和度(相対湿度)が増加することとなる。結果として、エアレーションノズル123のスリット12での空気は相対湿度が100%となり、吸気に添加する水の量を更に増やすと、水ミストを含む飽和湿り空気となり、気液二相の状態となる。
【0058】
また、ブロア121A〜121Dの入口側において、ブロアが吸込む大気の相対湿度が100%であっても、圧縮・冷却された結果、エアレーションノズル123のスリット12での空気の相対湿度が100%とならない場合もある。このような場合には、不足した水分143をブロア入口で補給すると、水分143が蒸発せずブロア内部に浸入するため、好ましくない。この場合は、ブロア121A〜121Dの出口側、あるいは冷却器131の後流側において、真水や海水等の水分を供給するようにすればよい。
【0059】
ここで、スリット12に析出物が析出するメカニズムを図8−1〜図8−3を用いて説明する。
図8−1は、散気膜のスリットにおける、空気(飽和度の低い湿り空気)の流出と海水の浸入、及び濃縮海水の状況を示す図である。図8−2は、散気膜のスリットにおける、空気の流出と海水の浸入、濃縮海水及び析出物の状況を示す図である。図8−3は、散気膜のスリットにおける、空気の流出と海水の浸入、濃縮海水及び析出物(析出物が成長した場合)の状況を示す図である。図8−4は、空気(相対湿度100%以上)の流出と海水の浸入状況を示す図である。
ここで、本発明において、スリット12とは、エアレーションノズル123の散気膜11に形成される切れ込みをいい、スリット12の間隙は空気が排出される通路となる。
この通路を形成するスリット壁面12aは、海水103が接触しているが、空気122の導入によって乾燥・濃縮され、濃縮海水103aとなり、その後スリット壁面12aに析出物103bが析出され、スリット12の通路を閉塞するものとなる。
【0060】
図8−1は、空気122の相対湿度(飽和度)が低い(例えば50〜70%)の場合であり、海水103の塩分濃縮が徐々に増加し、濃縮海水103aが形成される状況を示している。但し、海水の濃縮が始まっても海水の塩分濃度が概ね14%以下では、硫酸カルシウム等の析出はない。
【0061】
図8−2は、濃縮海水103aの一部において、局所的に海水の塩分濃度が14%を超えた部分に析出物103bが発生している状態である。この状態では析出物103bが僅かであるので、スリット12を空気122が通過する際の圧力損失が僅かに上昇するものの、空気122は通過可能である。
【0062】
これに対し、図8−3は、濃縮海水103aの濃縮が進行すると、析出物103bによる閉塞(プラッギング)状態となり、圧力損失が大きくなる状態である。なお、このような状態でも空気122の通路は残っているものの吐出手段にはかなりの負荷がかかるものとなる。
【0063】
よって、このような状態とならないように、図8−4に示すように、ブロアから供給される空気122を所定温度(例えば50℃)以下まで冷却することで、冷却空気122Aの相対湿度を100%近傍まで引き上げるようにしている。これにより、スリットでの析出物103bの発生を抑制・回避できるので、長期間に亙って安定した運転が可能となる。
【0064】
図9は、空気を一時的に冷却した場合の時間の経過と散気膜の圧力損失の変動の関係を示すグラフである。
図9に示すように、相対湿度が100%程度の空気を一時的に供給する場合は、一時的に冷却器131の冷却能力を向上させることになる。冷却温度は、50℃以下、より好ましくは40℃以下とする。相対湿度100%の飽和湿り空気を間欠的に導入(導入部分をピークで図示する)することで、メンブレンスリットに析出した硫酸カルシウム等の海水塩を定期的、間欠的に除去する運転が可能となる。
【0065】
この冷却の態様は、気象条件及び析出物の析出の状態に対応して適宜変更すればよく、大きく二つの態様がある。
【0066】
1) 第1の態様では、先ず、供給する空気122Aを50℃以下の所定の温度に冷却して、相対湿度を100%以上とすることで、常に水蒸気で飽和した湿り空気を散気膜に導入する。これにより、硫酸カルシウム等の析出がない操業が可能となる。
2) 第2の態様では、通常における空気122の冷却を50〜60℃程度とし、散気膜に供給する空気の圧損が上昇傾向となった際に、供給する空気122Aを50℃以下の所定の温度に冷却して、相対湿度を100%以上とすることで、湿り空気を散気膜に導入し、定期的、間欠的に、メンブレンスリットに析出した硫酸カルシウム等の海水塩の析出を除去する操業が可能となる。
【0067】
本実施例によれば、海水にエアレーションを行うエアレーション装置において、散気孔(メンブレンスリット)での海水成分や汚泥等の汚れ成分の析出によるプラッギングを防止できることとなるので、エアレーション装置の圧損上昇を防止でき、長期間に亙って安定して操業することができる。
【0068】
また、メンブレンスリットに析出する硫酸カルシウム等の海水塩の潮解性が顕著な場合には、冷却器出口での空気の相対湿度を100%以上にせずとも、概ね80%以上の未飽和の湿り空気となる様に、冷却器を作動(連続作動もしくは間欠作動)させることで、海水塩の析出抑制、除去が可能となる。
【0069】
以上、本実施例では被処理水として海水を例にして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば汚染処理における汚染水にエアレーションを行うエアレーション装置において、散気孔(メンブレンスリット)での汚泥成分の析出によるプラッギングを防止でき、長期間に亙って安定して操業することができる。
【0070】
以上、本実施例ではエアレーション装置として、チューブ型のエアレーションノズルを用いて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばディスク型や平板型のエアレーション装置や、セラミックス、金属(例えばステンレス製)の散気装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0071】
11 散気膜
12 スリット
100 海水排煙脱硫装置
102 排煙脱硫吸収塔
103 海水
103A 使用済海水
103B 希釈使用済海水
105 希釈混合槽
106 酸化槽
120、120A〜120D エアレーション装置
123 エアレーションノズル
131 冷却器
132 フィルタ
133 海水冷却器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水中に浸漬され、被処理水中に微細気泡を発生させるエアレーション装置であって、
空気を吐出手段により供給する空気供給配管と、
前記空気供給配管に介装され、供給する空気を50℃以下に冷却する冷却手段と、
前記冷却された空気が供給されるスリットを有する散気膜を備えたエアレーションノズルとを具備することを特徴とするエアレーション装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記冷却手段の冷却媒体が海水であることを特徴とするエアレーション装置。
【請求項3】
被処理水中に浸漬され、被処理水中に微細気泡を発生させるエアレーション装置であって、
空気を吐出手段により供給する空気供給配管と、
前記空気供給配管に介装され、供給する空気を第1の冷却温度以下まで冷却する冷却器と、
海水中に浸漬され、海水により第2の冷却温度以下まで冷却空気を更に冷却する海水冷却器とを具備することを特徴とするエアレーション装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つにおいて、
前記供給する空気に水分を付与する水分付与手段を有することを特徴とするエアレーション装置。
【請求項5】
請求項1又は2のエアレーション装置を用い、
吐出手段により供給された空気を40℃以下に冷却し、エアレーションノズルに冷却空気を供給することを特徴とするエアレーション装置の運転方法。
【請求項6】
請求項3のエアレーション装置を用い、
吐出手段により供給された空気を冷却手段により50℃以下に冷却し、その後海水冷却手段により空気を40℃以下に冷却し、エアレーションノズルに冷却空気を供給することを特徴とするエアレーション装置の運転方法。
【請求項7】
請求項5又は6において、
前記吐出手段に導入する空気の大気状態に応じて、吐出手段の圧力及び冷却温度を制御して、空気を所定温度以下まで冷却し、冷却空気の相対湿度を100%以上にすることを特徴とするエアレーション装置の運転方法。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれか一つにおいて、
前記供給する空気に水分付与手段から水分を付与することを特徴とするエアレーション装置の運転方法。
【請求項9】
海水を吸収剤として使用する脱硫塔と、
前記脱硫塔から排出された使用済海水を流して排水する水路と、
前記水路内に設置され、前記使用済海水中に微細気泡を発生して脱炭酸を行う請求項1乃至4のいずれか一つのエアレーション装置とを具備することを特徴とする海水排煙脱硫装置。




【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図8−3】
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【図8−4】
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【図9】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図10−3】
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【図11−1】
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【図11−2】
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【図11−3】
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【図12−1】
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【図12−2】
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【図12−3】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−236164(P2012−236164A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107682(P2011−107682)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】