説明

エキシマレーザで用いるレーザショットファイルを計算する方法および装置

本発明は、エキシマレーザで用いるレーザショットファイルを計算する方法および装置に関し、この方法および装置は、所望のアブレーションプロファイルに関する情報を提供する工程と、所望のアブレーションプロファイルのショット密度を計算する工程と、エキシマレーザのレーザショットをグリッド位置に配置するためにコスト関数を用いる工程とを備え、所望のアブレーションプロファイルの計算されたショット密度に基づいて閾値が決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にディザリングアルゴリズムを用いて、エキシマレーザで用いるレーザショットファイルを計算する方法および装置に関する。本発明は、レーザーアブレーションによって目のレーザ治療を行う際または特注のコンタクトレンズ若しくは眼内レンズ(IOL)を製造する際のレーザショットファイルの適用に特に適している。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、熱的効果が低減された視力矯正用エキシマレーザシステムに関するものである。これは特に、近視、遠視および乱視の矯正等といった様々なタイプの矯正を行うために、目から組織を除去するためのエキシマレーザシステムを制御する装置および方法に関する。開示されている一実施形態では、このエキシマレーザシステムは、1ショット当たりの治療面積の範囲が比較的大きい、比較的大きなスポットサイズを提供する。このような大きいスポットサイズを用いる場合、ショットは一般的に、互いに「隣接する」のではなく重なって、特定の点での所望の程度のアブレーションを生じる。重なったショットの結果を計算するために、或るアルゴリズムが用いられる。治療面積にわたって配分された一定の大きなスポットサイズを用いる治療パターンを計算するための1つの方法で、ディザリングアルゴリズムが用いられている。具体的には、矩形ディザリング、円形ディザリング、およびライン毎に配向されたディザリングが参照されている。ショットをディザリングするための様々な任意の方法を用いて、治療面積にわたって点在する一定のスポットサイズで所望の程度のアブレーションに矯正するためのショット配列が作成される。各配列には、個々のグリッド位置間のグリッド幅が一定なグリッドが用いられる。通常は連続した形状である所望の形状のアブレーションプロファイルを、公知のディザ法を用いて、整数の離散型密度分布に移さなければならない。ここで、連続したプロファイルは計画されたアブレーションを表わし、整数の離散型密度分布は、アブレーション用のフライングスポット方式の一連のレーザパルスを表わす。残存構造、即ち、計画されたプロファイルと達成されたプロファイルとの差は、最小限に抑えられなければならない。基本的には数値的に厳密解を求めることができるが、これは妥当な時間内にはできない。従って、この目的で、ディザリングアルゴリズムが用いられる。プロファイルを所与のグリッド上に離散化させる。このアルゴリズムは、コスト関数またはメリット関数を用いて、グリッドの各位置に対してショットを配置するか否かを決定する。この決定では、通常、グリッドの少数の近傍位置のみが考慮される。このディザリングアルゴリズムでは、実際のスポットサイズを考慮する必要がなく、計算時間が節約される。1回のレーザショットのアブレーションで除去されるショット量がわかっていればよい。しかし、或る条件下では、公知のディザリングアルゴリズムを用いると、プロファイルの一部、例えば、隣接する次のショットが離れ過ぎている低密度領域に、アーチファクトが生じる。アーチファクトは、ほぼ全ての位置にショットが配置される高密度領域でも生じ得る。ショットが配置されない位置も、少数の近傍位置のみが必要という前提では、距離が大き過ぎる。
【0003】
ディザリングアルゴリズムの一般的背景については、デジタル画像処理に関する特許文献2を参照されたい。これは特に、誤差拡散、ディザリングおよび過変調法を用いて、連続階調画像をデジタル的に多階調化する方法に関する。均一であるべき領域において、複数の黒または白の出力画素が連なって形成される虫状のアーチファクトが生じ得る問題が参照されている。特許文献2では、これらの公知の方法が詳細に説明されているが、これは完全に異なる技術分野に関するものである。その他の違いとして、公知のレーザプリンタシステムは、1インチ当たりのドット数として与えられる各固定された解像度を用いている。即ち、1インチ当たりのドット数が高いほど、良好な解像度が得られる。更に、公知のレーザプリンタでは、或る一点にドットが2回以上当たっても、黒さが増すことはないので、ドット間の重なり合いおよび接触の問題はない。むしろ、画像を生成するために、画像の特定の局所領域に、特定のグレーレベルに対応する数のドットを与えることにより、特定のグレーレベルを有する局所領域を生じることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,090,100号明細書
【特許文献2】米国特許第6,271,936Bl号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、計画されたプロファイルと達成されたプロファイルとの差が最小限に抑えられた、屈折矯正エキシマレーザで用いるレーザショットファイルを計算する方法および装置の提供を目的とする。この目的は、特許請求の範囲に記載された特徴によって解決される。
【0006】
例えば近視を矯正するための所望のアブレーションプロファイルは、治療ゾーンの中心部に最大ショット密度を有し、治療ゾーンの周縁部に沿って最小ショット密度が存在する。従って、治療ゾーンの中心部に適用されるレーザショット数は、他のサブエリアにおける、特に治療ゾーンの縁部に沿ったレーザショット数より高い。
【0007】
例えば遠視の矯正では、治療ゾーンの中心部に最小ショット密度が存在する。一方、このアブレーションプロファイルは、治療ゾーンの周縁部に沿って、より高いレーザショット数を要する。
【0008】
本発明は、一般的に、任意のアブレーションプロファイルに適用可能であり、それぞれ異なるショット密度を有するサブエリアを調べて、最大ショット密度を有するサブエリアおよび/または最小ショット密度を有するサブエリアが決定される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一般的概念は、所与のアブレーションプロファイルを所与のグリッド上に離散化する際に、エキシマレーザのレーザショットを配置するために用いるディザリングアルゴリズムを適合させるという考えに基づくものである。このディザリングアルゴリズムは、コスト関数を用いて、グリッドの各位置について、ショットを配置するか否かを決定する。具体的には、まず、所定の所望のアブレーションプロファイルを得るためのショット密度が計算される。所望のアブレーションプロファイルの計算されたショット密度に応じて、ショット計算のためのコスト関数で用いられる動的閾値を用いて、ディザリングアルゴリズムを適合させる。
【0010】
本発明の好ましい実施形態によれば、閾値は、所望のアブレーションプロファイルの最小ショット密度および/または最大ショット密度に応じて、2つ以上の異なる閾値から選択される。一般的に、低いショット密度を有する所望のアブレーションプロファイルに対しては、より低い閾値が用いられる。高いショット密度を有する所望のアブレーションプロファイルに対しては、より高い閾値が用いられる。
【0011】
本発明の好ましい実施形態によれば、第1の閾値は、アブレーションプロファイルの最大ショット密度の0%〜20%の範囲内の値である。或いはまたはそれに加えて、第2の閾値は、最大ショット密度の20%〜80%の範囲内の値である。或いはまたはそれに加えて、第3の閾値は、最大ショット密度の80%〜100%の範囲内の値である。
【0012】
本発明の更に好ましい実施形態によれば、3つを超える異なる閾値が用いられ、より好ましくは、閾値「TV(x,y)」とショット密度「D(x,y)」との関係は次の式(1)に従う。
【0013】
TV(x,y)=f(D(x,y)) (1)
閾値「TV(x,y)」と「D(x,y)」とは、次の式(2)に従う線形関係を有するのがより好ましい。
【0014】
TV(x,y)=a・D(x,y) (2)
式中、「a」は0<a≦1.5の範囲内の正の係数であり、「x」および「y」は計算対象のグリッド位置の座標である。
【0015】
各グリッド位置に対する閾値は、密度関数に対応して設定されるのが好ましい。閾値は、個々のグリッド位置における密度関数の値に等しいまたは近い値に設定されるのがより好ましい。
【0016】
閾値は、個々のグリッド位置における密度関数の値の少なくとも80%〜110%の範囲内の値であるのが好ましく、90%〜100%の範囲内の値であるのがより好ましい。従って、式(1)の係数「a」は、0.8〜1.1の範囲内の値であるのが好ましく、0.9〜1.0の範囲内の値であるのがより好ましい。a=1のときに最良の結果が達成され得る。
【0017】
次式により、単一のレーザショットのアブレーション量VShotおよび所与の幅Gを用いて、グリッド位置P(x,y)の周囲のサブエリア内の局所的ショット密度D(x,y)が、それぞれのサブエリア内のアブレーションプロファイルz(x,y)から計算される。
【0018】
D(x,y)=z(x,y)*G/VShot (3)
好ましい実施形態によれば、エキシマレーザのレーザショットのグリッド位置への配置を計算するために、ディザリングアルゴリズムが用いられる。ディザリングアルゴリズムで用いられるグリッドの最適化されたグリッド幅を決定することにより、ディザリングアルゴリズムが所望のアブレーションプロファイルに適合される。グリッド幅を最適化するためのこの態様のより詳細な説明については、本願と同時係属の「屈折矯正エキシマレーザで用いるレーザショットファイルを計算する方法および装置(Method and apparatus for calculating a laser shot file for use in a refractive excimer laser)」という名称の特許出願を参照されたい。
【0019】
好ましい実施形態によれば、次式により、プロファイルの最大値zmax(x,y)および所望の最大密度Dmax(x,y)に対するグリッド幅が求められる。
【数1】

【0020】
所与のグリッド幅を用いて、式3により、所望のプロファイルの最小値の周囲の局所的ショット密度が計算される。グリッド幅は、式4を用いて計算されるのが好ましい。2つの例を用いて、動的閾値の影響を説明する。第1の例として、+4ジオプターの矯正が所望される約5.5mmの治療ゾーンを用いた治療を選択する。この遠視矯正は、中心部の周囲の環状部に沿って、アブレーションの最大値を有する。所望の深さは約26μmである。一般的な治療用エキシマレーザを用いて結果を達成するには、約445回のレーザショットが必要である。環状部に沿った約18%のショット密度を得るために、98μmのグリッド幅が選択される。この例では、アブレーションは一定の閾値を用いて計算されている。アブレーションの第2の例でも、治療ゾーンは5.5mmであり、矯正は+4ジオプターである。所望の最大深さも約26μmであり、約445回のレーザショットが必要である。第2の例では、動的閾値が用いられる。第2の例では、アブレーションを計算する際に動的閾値を用いることの長所が示される。
【0021】
更に好ましい実施形態によれば、所望のアブレーションプロファイルは少なくとも2つのアブレーションサブプロファイルに分割される。各アブレーションサブプロファイルに対してそれぞれのショット密度が計算され、各アブレーションサブプロファイルの計算された密度にそれぞれ基づき、それぞれのグリッド幅が決定される。各サブプロファイルは、動的閾値を用いて計算される。従って、所望のアブレーションプロファイルのコントラストが高過ぎる、即ち、最大ショット密度と最小ショット密度との差が高過ぎる場合には、対応するレーザショットファイルを生じる各アブレーションサブプロファイルに対してそれぞれ異なるグリッド定数、即ちグリッド幅を用いて、レーザショットファイルの計算を2回以上行うのが好ましい。その後、この2つ以上のレーザショットファイルを組み合わせて単一のレーザショットファイルにすることができる。
【0022】
本発明によれば、配置が計算されたレーザショットは、レーザショットシーケンスを得るためのソート工程で更に処理される。ソートは、いかなる熱的効果も回避すべきことを考慮して行われる。即ち、2回の連続したレーザショットは、治療ゾーン内の互いに或る距離だけ離れた異なるグリッド位置に配置されるのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1A】一定の閾値を用いた第1の試験でのレーザスポットの配置を示す図
【図1B】計画されたプロファイルと達成されたプロファイルとを図1Aの横軸に沿った断面として示す図
【図1C】計画されたプロファイルと達成されたプロファイルとを図1Aの縦軸に沿った断面として示す図
【図2A】本発明の好ましい実施形態による動的閾値を用いた第2の試験でのレーザスポットの配置を示す図
【図2B】計画されたプロファイルと達成されたプロファイルとを図2Aの横軸に沿った断面として示す図
【図2C】計画されたプロファイルと達成されたプロファイルとを図2Aの縦軸に沿った断面として示す図
【図3】ディザリングアルゴリズムを用いたレーザパルスパターンの計算のフロー図
【図4】近傍誤差値の重み付けに用いられ得る重み付け係数を有するサブグリッドの例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0024】
例として、図面を参照し、本発明を更に説明する。
【0025】
図1A、図1Bおよび図1Cは、屈折治療用の一般的なエキシマレーザを用いて、5.5mmの径を有する治療ゾーン内で1mmの径を有するレーザスポットを用いて、約+4ジオプターの値を有する遠視を矯正するための、エキシマレーザで用いるレーザショットファイルのシミュレーション計算を示すものである。この第1のシミュレーション試験では、グリッド幅は98μmである。従って、隣接する2つのグリッド点間の距離は98μmである。この例では、グリッド点は複数の横列および縦列に配置されている。このアブレーションを達成するために、合計445回のレーザショットが用いられる。単一のショットのアブレーション量に依存して、得られる治療は、上記の約+4ジオプターの屈折を有すると期待される。図1Aは、445回のレーザショットの各々の中心位置を示しており、これらは、「+」の印で示されたグリッド位置の1つにそれぞれ関連付けられている。図1Aの右上の角には、98μmのグリッド幅を有するグリッドが模式的に示されている。図示されているレーザショットの各中心位置は、このグリッドのグリッド点上に配置されている。図1Bには、所望のアブレーションプロファイル、即ち、各X位置に対するアブレーション深さ(単位はμm)が破線で示されている。アブレーション深さは、治療ゾーンの環状部における約−2および+2のX位置で約26μmであり、中心部および両側では小さくなっている。中心部では、アブレーション深さはほぼ0である。図1Bには更に、シミュレーションされた結果のアブレーションプロファイルが、図1Aの点0−0を通る横軸に沿った断面として連続した線で示されている。同様に、図1Cには、所望のアブレーションプロファイルが、図1Aの点0−0を通る縦軸に沿った断面として破線で示されている。図1Cには更に、結果のアブレーションプロファイルが、図1Aの点0−0を通る縦軸に沿った断面として連続した線で示されている。図1において、この例では5.5mmの径を有する治療ゾーン内の平均ショット密度は、約18%である(図1A)。個々のレーザショットの中心位置は、X方向に±2.7mmおよびY方向に±2.7mmの範囲内に配置されている。
【0026】
図2A、図2Bおよび図2Cは、動的閾値を用いた以外は図1A、図1Bおよび図1Cと同様の、第2の試験の結果を示すものである。具体的には、この試験では、ショット密度D(x,y)を閾値TV(x,y)として用いている。従って、上記式(2)の係数「a」はa=1として選択されている。
【0027】
第1の試験では、一定の閾値を用いることで、アブレーション下部における、レーザショット位置のライン状の配置のようなアーチファクトが生じている(図1A)。例えば、図示されるように、底部の水平方向のラインに沿って近接した距離で配置されたグリッド位置に、幾つかのレーザショットが配されている。この底部の水平方向のラインからより大きい距離に配置されたグリッド位置に、更なるレーザショットが配されている。従って、レーザショットは均等に配されておらず、その結果、所望のアブレーションプロファイルからのずれが生じている(図1C参照)。
【0028】
第1の試験の図と第2の試験の図とを比較すると、第2の試験の結果のアブレーションプロファイルの方が良好であることが示されている。即ち、結果のアブレーションプロファイルの曲線が、所望のアブレーションプロファイルの曲線により良好に沿っている(図2Bおよび図2C参照)。特に、図1Cには、結果のアブレーションプロファイルが所望のアブレーションプロファイルからずれていることが示されている。即ち、所望のアブレーションプロファイルの右側の部分に関して、ずれが存在する。ディザリングアルゴリズムは、結果のアブレーションプロファイルの一部にアーチファクトを生じ、これは、個々のグリッド位置に対するレーザショットの計算の順序に依存し得る。ショット密度に勾配がある領域で、ショットがずれる。このずれは、所望のアブレーションの深さに依存する。更に、「虫」と呼ばれアーチファクトが生じ得る。
【0029】
ディザリングアルゴリズムを用いると、入力パラメータは、レーザショットのショット量および所望のアブレーションプロファイルである。ディザリングアルゴリズムはビーム径とは独立して作用するので、ビーム径を考慮する必要はない。ディザリングアルゴリズムは、出力としてレーザショットファイルを提供する。具体的には、エキシマレーザのレーザショットのグリッド位置への配置のために、ディザリングアルゴリズムが用いられる。各グリッド位置に対してレーザショットを配置するか否かを決定するために、コスト関数を用いるのが好ましい。本願明細書では、この決定は、所与のグリッド位置の近傍のグリッド位置に1回以上のレーザショットを配置するか否かに関して行われるのが好ましい。特許文献1に開示されているようにディザリングアルゴリズムを用いるのが好ましい。
【0030】
以下、図3を参照し、好ましいディザリングアルゴリズムを説明する。図3には、誤差拡散の一例を表わすフローチャートが示されている。このディザリングアルゴリズムは、誤差拡散の概念に基づくものである。誤差拡散のステップの前に、例えば、所望される患者の目の矯正またはコンタクトレンズ若しくはIOLの修正に基づき、所望のアブレーションプロファイルが計算される。このプロファイルは、特定のグリッド幅を有するグリッド内に格納される。例えば、このグリッドは、15mmの面積をカバーする256×256個の値を有する。誤差拡散は、そのグリッド内の1つの縁部で開始され、そこからライン毎に続けられ得る。
【0031】
最初のステップS1では、式1を用いてアブレーションプロファイルおよびグリッド幅が決定され、グリッドの縁部の1つにおける一点に、アクティブなディザ位置が設定される。必要に応じて、所望のグリッド幅が計算される。このアクティブなディザ位置は、処理中のグリッド内の実際の位置を表わす。
【0032】
次のステップS2では、アクティブなディザ位置に対する所望のアブレーション値が得られる。ステップS3では、この所望のアブレーション値がスケーリング係数fで乗算される。スケーリング係数fは、異なるサイズのレーザパルスと配置ステップ即ちグリッド幅とを考慮に入れたものである。具体的には、この位置における所望のショット密度を得るために、スケーリング係数は次式のように計算される(式3参照)。
【0033】
f=(グリッド幅)/VShot
上述の15mmの面積をカバーする256×256個の値を有するグリッドでは、グリッド幅は15mm/256=58μmである。従って、レーザビームが送られ得る最小の正方形の面積は(58μm)である。従って、レーザパルスの重なりを考慮するために、計算されたパルス数が減らされる。
【0034】
次のステップS4では、アクティブなディザ位置に対するスケーリングされた所望のアブレーション値に、重み付き近傍誤差が加算される。これらの重み付き近傍誤差は、既に処理された隣接するグリッド点の誤差の重み付き合計であるのが好ましい。その例については後述する。
【0035】
次のステップS5では、得られた値が所定の閾値より大きいか否かが判定される。従って、個々のグリッド点に対する値と隣接するグリッド点の重み付き誤差との合計が、この閾値と比較される。値が動的閾値T(x,y)を超えない場合には、ステップS9に進む。値が閾値より大きい場合には、ステップS6で、このグリッド位置に対してレーザパルスが設定される。上記の密度の値から1つのレーザパルスが減算される。次に、ステップS7で、新たな値が依然として閾値より大きいか否かが判定される。新たな値が動的閾値より大きい場合には、ステップS8で、ショットのオーバーフローの誤差が生じていると判定される。換言すれば、1つのグリッド位置に、より多くのレーザパルスを設定することが必要になった場合には、アルゴリズムはエラーで停止しなければならない。式4で計算されたグリッド幅を用いれば、このエラーを回避できる。この例示的な誤差拡散の実装例では、各グリッド位置に対して最大で1回のレーザパルスが許可される。
【0036】
一方、新たな値が動的閾値を超えない場合には、ステップS9で、この新たな値がこの特定のグリッド位置に対する誤差として格納される。これは、更なるディザ位置に関する計算のために近傍位置を処理する際に用いられる。
【0037】
次のステップS10で、そのラインが完了したか否かが判定される。完了していない場合には、ステップS11で、同じライン内の次の点がアクティブな位置として選択され、上述の処理が繰り返される。そのラインが完了している場合には、ステップS12で、新たなラインが存在するか否かが判定される。存在する場合には、ステップS13で、新たなラインの最初の点がアクティブな位置として選択され、上記の処理が繰り返される。新たなラインが存在しない場合には、ステップS14で処理が終了する。上述のグリッド点の誤差は、特定のグリッド点におけるアブレーションの誤差を表わす。処理された各グリッド点のこの誤差は、所望のアブレーション値と重み付き近傍誤差との合計からレーザパルスのアブレーションの深さを引いたものである(その位置に対してレーザパルスが設定されている場合)。
【0038】
図4は、近傍のグリッド点の誤差の重み付けの一例を示す。具体的には、図4は、7×7個のグリッド点のサブグリッドを示しており、中央にアクティブなディザ位置が示されている。この場合には、重み付け関数は、8/距離として決定される(距離はグリッド点の単位で測定される)。次に、誤差の合計を、用いられている全重み付け係数の合計である70.736で除算することによって正規化する。図4からわかるように、空白の位置は未処理のグリッド位置を示す。従って、所与のグリッド位置にレーザパルスを設定しなければならないか否かを決定する前に、隣接するグリッド点の処理中に生じた誤差を、そのグリッド点に対する理論上のアブレーション値に加算しなければならない。近傍のグリッド点の誤差は、アクティブなグリッド点に単純に加算されるのではなく、距離に応じた重み付きで加算される。図4には個々の重み付け係数が示されている。尚、これは単に、周囲の誤差を合計するための、良好に機能することがわかっている1つの可能な方法である。
【0039】
尚、上述のディザリングアルゴリズムは、単に本発明を用いるための一例である。
【0040】
その後、別個のソートアルゴリズムを用いて、レーザショットシーケンスが決定され得る。ソートは、熱的効果を回避するために行われ得る。従って、任意の2回の連続したレーザショットは、互いから或る距離だけ離れた2つのグリッド位置に配置されるのが好ましい。
【0041】
4回のショット毎に1回のレーザショットが最初のショットと同じ領域内に配置されるのが好ましい。
【0042】
上述の本発明の開示および記載は、本発明を例示および説明するためのものであり、本発明の範囲を逸脱することなく、構成および動作方法が変更され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エキシマレーザで用いられるレーザショットファイルを計算する方法であって、
所望のアブレーションプロファイルに関する情報を提供する工程と、
ディザリングアルゴリズムを用いる工程と、
を備え、
前記レーザショットファイルを計算するために動的閾値を用いることにより、前記ディザリングアルゴリズムが前記所望のアブレーションプロファイルに適合されることを特徴とするレーザショットファイル計算方法。
【請求項2】
前記所望のアブレーションプロファイルを所与のグリッド上に離散化するために前記ディザリングアルゴリズムを用いる工程と、
各グリッド位置について、前記エキシマレーザのレーザショットを該グリッド位置に配置するか否かを決定する工程と
を更に備えることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ディザリングアルゴリズムが、コスト関数を用いて、各グリッド位置について前記エキシマレーザのレーザショットを該グリッド位置に配置するか否かを決定することを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記所望のアブレーションプロファイルを得るためにショット密度を計算する工程を更に備え、該所望のアブレーションプロファイルの該計算されたショット密度に応じて前記動的閾値が定められることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記所望のアブレーションプロファイルに応じて2つ以上の異なる閾値が用いられることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
低いショット密度を有する所望のアブレーションプロファイルに対して第1の閾値が用いられ、および/または、高いショット密度を有する所望のアブレーションプロファイルに対して第2の閾値が用いられ、該第1の閾値は該第2の閾値より低いことを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記第1の閾値は前記所望のアブレーションプロファイルの最大ショット密度の0%〜20%の範囲内の値であり、および/または、前記第2の閾値は該最大ショット密度の20%〜80%の範囲内の値であり、および/または、第3の閾値は該最大ショット密度の80%〜100%の範囲内の値であることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記閾値TV(x,y)と前記所望のアブレーションプロファイルの前記ショット密度D(x,y)とが次式
TV(x,y)=f(D(x,y))
に従う関係を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記閾値TV(x,y)と前記所望のアブレーションプロファイルの前記ショット密度D(x,y)とが次式
TV(x,y)=a・D(x,y)
に従う線形関係を有し、式中、aは0<a≦1.5の範囲内の係数であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記閾値が、前記ショット密度の値に等しいまたは近い値に設定されることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記所与のグリッドのグリッド幅が、前記所望のアブレーションプロファイルの前記計算されたショット密度に基づいて決定されることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
所与のグリッド位置にショットを配置するか否かを決定する前記工程において、該所与のグリッド位置の近傍のグリッド位置に関する対応する決定が考慮されることを特徴とする請求項2〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
1つの所望のアブレーションプロファイルを2つ以上のアブレーションサブプロファイルに分割し、各アブレーションサブプロファイルのショット密度を計算し、該各アブレーションサブプロファイルの該計算されたショット密度に基づきそれぞれのグリッド幅を決定する工程
を更に備えることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記配置が計算されたレーザショットをソートする工程を更に備えることを特徴とする請求項2〜13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記エキシマレーザが、0.5mm径〜3.5mm径の固定されたスポットサイズのレーザビームを提供することを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
エキシマレーザで用いられるレーザショットファイルを計算する装置であって、
所望のアブレーションプロファイルに関する情報を提供する手段と、
ディザリングアルゴリズムを用いる手段と
を備え、
前記レーザショットファイルを計算するために動的閾値を用いることにより、前記ディザリングアルゴリズムが前記所望のアブレーションプロファイルに適合されることを特徴とするレーザショットファイル計算装置。
【請求項17】
前記ディザリングアルゴリズムを用いる際に、前記所望のアブレーションプロファイルを所与のグリッド上に離散化する手段と、
各グリッド位置について、前記エキシマレーザのレーザショットを該グリッド位置に配置するか否かを決定する手段と
を更に備えることを特徴とする請求項16記載の装置。
【請求項18】
前記ディザリングアルゴリズムが、コスト関数を用いて、各グリッド位置について前記エキシマレーザのレーザショットを該グリッド位置に配置するか否かを決定することを特徴とする請求項17記載の装置。
【請求項19】
前記所望のアブレーションプロファイルを得るためにショット密度を計算する手段を更に備え、該所望のアブレーションプロファイルの該計算されたショット密度に応じて前記動的閾値が定められることを特徴とする請求項16〜18のいずれか1項記載の装置。
【請求項20】
前記所望のアブレーションプロファイルに応じて2つ以上の異なる閾値を選択する手段
を更に備えることを特徴とする請求項16〜19のいずれか1項記載の装置。
【請求項21】
低いショット密度を有する所望のアブレーションプロファイルに対して第1の閾値が選択され、および/または、高いショット密度を有する所望のアブレーションプロファイルに対して第2の閾値が選択され、該第1の閾値は該第2の閾値より低いことを特徴とする請求項20記載の装置。
【請求項22】
前記第1の閾値は前記所望のアブレーションプロファイルの最大ショット密度の0%〜20%の範囲内の値であり、および/または、前記第2の閾値は該最大ショット密度の20%〜80%の範囲内の値であり、および/または、第3の閾値は該最大ショット密度の80%〜100%の範囲内の値であることを特徴とする請求項21記載の装置。
【請求項23】
前記閾値TV(x,y)と前記所望のアブレーションプロファイルの前記ショット密度D(x,y)とが次式
TV(x,y)=f(D(x,y))
に従う関係を有する前記閾値を決定する手段
を更に備えることを特徴とする請求項16〜22のいずれか1項記載の装置。
【請求項24】
前記閾値TV(x,y)と前記所望のアブレーションプロファイルの前記ショット密度D(x,y)とが次式
TV(x,y)=a・D(x,y)
に従う線形関係を有し、式中、aは0<a≦1.5の範囲内の係数である、前記閾値を決定する手段
を更に備えることを特徴とする請求項16〜22のいずれか1項記載の装置。
【請求項25】
前記閾値を、前記ショット密度の値に等しいまたは近い値に設定する手段
を更に備えることを特徴とする請求項24記載の装置。
【請求項26】
前記所望のアブレーションプロファイルの前記計算されたショット密度に基づき、前記所与のグリッドのグリッド幅を決定する手段
を更に備えることを特徴とする請求項16〜25のいずれか1項記載の装置。
【請求項27】
所与のグリッド位置にショットを配置するか否かを決定する前記手段が、該所与のグリッド位置の近傍のグリッド位置に関する対応する決定に関する情報を用いることを特徴とする請求項17〜26のいずれか1項記載の装置。
【請求項28】
1つの所望のアブレーションプロファイルを2つ以上のアブレーションサブプロファイルに分割する手段と、
各アブレーションサブプロファイルのショット密度を計算する手段と、
各アブレーションサブプロファイルの前記計算されたショット密度に基づきそれぞれのグリッド幅を決定する手段と
を更に備えことを特徴とする請求項16〜27のいずれか1項記載の装置。
【請求項29】
前記配置が計算されたレーザショットをソートする手段
を更に備えることを特徴とする請求項17〜28のいずれか1項記載の装置。
【請求項30】
前記エキシマレーザが、0.5mm径〜3.5mm径の固定されたスポットサイズのレーザビームを提供することを特徴とする請求項16〜29のいずれか1項記載の装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−545349(P2009−545349A)
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−522237(P2009−522237)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【国際出願番号】PCT/EP2007/057782
【国際公開番号】WO2008/015175
【国際公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(506121788)テクノラス ゲーエムベーハー オフタルモロギッシェ システム (6)
【Fターム(参考)】