説明

エキシマー特性を有する1,8−アリール置換ナフタレン誘導体及びこれを用いた有機EL素子

【課題】エキシマー特性を有する1,8−アリール置換ナフタレン誘導体及びこれを用いた有機EL素子の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で示されるエキシマー特性を有する1,8−アリール置換ナフタレン誘導体を用いた有機EL素子。


(式中、R〜Rは水素、重水素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基、アルキル部分が炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基であるアルコキシ基又はアルキルアミノ基、フッ素及びアセトキシ基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基であり、Arは、ピレニル基、4−(9−N−カルバゾリル)フェニル基、4−〔10−(9−フェニル)アントラニル〕フェニル基のいずれかである。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エキシマー特性を有する1,8−アリール置換ナフタレン誘導体及びこれを用いた有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明に係る1,8−アリール置換ナフタレン誘導体のうち、ピレニル基を有する化合物は公知であるが(非特許文献1)、有機EL測定例は記載されておらず、この化合物のエキシマー特性を利用して有機EL素子を作製することについては記載も示唆もされていない。
また、特許文献1にはナフタレンの1,8−位がπ共役部位で置換された類似化合物の有機EL測定例が記載されているが、発光スペクトルは不明であり、エキシマー特性に関する記述はない。さらに、本発明で用いるのと同じ構造の1,8−アリール置換ナフタレン誘導体に関する記載もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−14219号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】P.Wahl,C.Krieger,D.Schweitzer,H.A.Staab,Chem.Ber.117,260〜276(1984)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、エキシマー特性を有する1,8−アリール置換ナフタレン誘導体及びこれを用いた有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、次の1)〜4)の発明によって解決される。
1) 下記一般式(1)で示されるエキシマー特性を有する1,8−アリール置換ナフタレン誘導体を用いた有機EL素子。
【化1】

(式中、R〜Rは水素、重水素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基、アルキル部分が炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基であるアルコキシ基又はアルキルアミノ基、フッ素及びアセトキシ基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。Arは、下記式で示されるピレニル基、4−(9−N−カルバゾリル)フェニル基、4−〔10−(9−フェニル)アントラニル〕フェニル基のいずれかであり、R〜R14は水素、重水素、フッ素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基、アルキル部分が炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基であるアルキルアミノ基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基であり、R15〜R43は水素、重水素、フッ素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。)
【化2】

2) 前記1,8−アリール置換ナフタレン誘導体を発光層の発光材料に用いた1)記載の有機EL素子。
3) 前記1,8−アリール置換ナフタレン誘導体を発光層のホスト材料に用いた1)記載の有機EL素子。
4) 下記一般式(1)で示される1,8−アリール置換ナフタレン誘導体。
【化3】

(式中、R〜Rは水素、重水素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基、アルキル部分が炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基であるアルコキシ基又はアルキルアミノ基、フッ素及びアセトキシ基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。Arは、下記式で示される4−(9−N−カルバゾリル)フェニル基、4−〔10−(9−フェニル)アントラニル〕フェニル基のいずれかであり、R15〜R43は水素、重水素、フッ素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。)

【化4】

【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、エキシマー特性を有する1,8−アリール置換ナフタレン誘導体及びこれを用いた有機EL素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1で作製した1,8−ビス(ピレン−2−イル)ナフタレンの(BPyN)のH−NMRの全領域チャート。
【図2】実施例1で作製したBPyNのH−NMRの芳香族部位の拡大チャート。
【図3】実施例1で作製したBPyNのEI−Massスペクトルのチャート。
【図4】実施例2で作製した1,8−ビス〔4−(カルバゾール−9−N−イル)フェニル〕ナフタレンの(BCzPN)のH−NMRの全領域のチャート。
【図5】実施例2で作製したBCzPNのH−NMRの芳香族部位のチャート。
【図6】実施例2で作製したBCzPNのEI−Massスペクトルのチャート。
【図7】実施例3で作製した1,8−ビス〔4−(9−フェニルアントラセン−10−イル)フェニル〕ナフタレン(BPAPN)のH−NMRの全領域のチャート。
【図8】実施例3で作製したBPAPNのH−NMRの芳香族部位のチャート。
【図9】実施例3で作製したBPAPNのEI−Massスペクトルのチャート。
【図10】実施例1で作製したBPyNのDSCのチャート。
【図11】実施例1で作製したBPyNのTGAのチャート。
【図12】実施例2で作製したBCzPNのDSCのチャート。
【図13】実施例2で作製したBCzPNのTGAのチャート。
【図14】実施例3で作製したBPAPNのDSCのチャート。
【図15】実施例3で作製したBPAPNのTGAのチャート。
【図16】実施例1で作製したBPyNのHOMOの値を示すチャート。
【図17】実施例2で作製したBCzPNのHOMOの値を示すチャート。
【図18】実施例1で作製したBPyNのトルエン溶液中と薄膜状での紫外−可視吸収(UV−vis)及びフォトルミネッセンス(PL)の測定結果を示す図。
【図19】実施例2で作製したBCzPNの塩化メチレン溶液中と薄膜状での紫外−可視吸収(UV−vis)及びフォトルミネッセンス(PL)の測定結果を示す図。
【図20】実施例3で作製したBPAPNのTHF溶液中での紫外−可視吸収(UV−vis)及びフォトルミネッセンス(PL)の測定結果を示す図。
【図21】実施例14〜15の素子構造を示す図。
【図22】実施例14〜15の電流密度−電圧特性を示す図。
【図23】実施例14〜15の輝度−電圧特性を示す図。
【図24】実施例14〜15の電力効率−輝度特性を示す図。
【図25】実施例14〜15の電流効率−輝度特性を示す図。
【図26】実施例14〜15の外部量子効率−輝度特性を示す図。
【図27】実施例14のELスペクトルを示す図。
【図28】実施例15のELスペクトルを示す図。
【図29】実施例17〜20の素子構造を示す図。
【図30】実施例17〜20の電流密度−電圧特性を示す図。
【図31】実施例17〜20の輝度−電圧特性を示す図。
【図32】実施例17〜20の電力効率−輝度特性を示す図。
【図33】実施例17〜20の電流効率−輝度特性を示す図。
【図34】実施例17〜20の外部量子効率−輝度特性を示す図。
【図35】実施例17〜20のELスペクトルを示す図。
【図36】実施例21の素子構造を示す図。
【図37】実施例21の電流密度−電圧特性を示す図。
【図38】実施例21の輝度−電圧特性を示す図。
【図39】実施例21の電力効率−輝度特性を示す図。
【図40】実施例21の電流効率−輝度特性を示す図。
【図41】実施例21の外部量子効率−輝度特性を示す図。
【図42】実施例21のELスペクトルを示す図。
【図43】実施例22の素子構造を示す図。
【図44】実施例22の電流密度−電圧特性を示す図。
【図45】実施例22の輝度−電圧特性を示す図。
【図46】実施例22の電力効率−輝度特性を示す図。
【図47】実施例22の電流効率−輝度特性を示す図。
【図48】実施例22の外部量子効率−輝度特性を示す図。
【図49】実施例22のELスペクトルを示す図。
【図50】本発明の有機EL素子の構成例を示す図。
【図51】本発明の有機EL素子の他の構成例を示す図。
【図52】本発明の有機EL素子の他の構成例を示す図。
【図53】本発明の有機EL素子の他の構成例を示す図。
【図54】本発明の有機EL素子の他の構成例を示す図。
【図55】本発明の有機EL素子の他の構成例を示す図。
【図56】本発明の有機EL素子の他の構成例を示す図。
【図57】本発明の有機EL素子の他の構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
π共役分子はπ共役平面同士のスタッキングにより、孤立したπ共役分子が示す蛍光発光に比べて大きく長波長シフトしたエキシマー発光を示す。
そこで本発明者らは、このエキシマー発光を利用すると、大きい長波長シフトにより吸収のスペクトルとの重なりがないため、高い蛍光量子収率が期待できると考えた。また、エキシマー発光は特異な三重項状態を示すため、三重項−一重項変換による高効率蛍光材料及びホスト材料として期待できるほか、リン光用ホスト材料としても期待できると考えた。また、このようなエキシマー発光を効率よく有機EL素子に取り入れれば、更なる素子特性の向上が期待できると考えた。
そして、上記考えに基づいて鋭意検討した結果、本発明に係る前記一般式(1)で示されるエキシマー特性を有する1,8−アリール置換ナフタレン誘導体を発光層に用いることにより有用な有機EL素子が得られることを見出した。
また、前記一般式(1)で示される1,8−アリール置換ナフタレン誘導体は、単独で使用すれば発光材料として機能するが、ホスト材料として使用すれば、発光材料を効率よく発光させることができることを確認した。さらに、エキシマー形成をし易いことから、色度の微細加工が容易であり、照明などに使用した場合、演色性を高めることができることを確認した。したがって、本発明は工業的に極めて有用なものである。
【0010】
前記一般式(1)の化合物におけるR〜R43の炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基としては、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基などを例示することができる。
また、アルキル部分が炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基であるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ノルマルプロポキシ基、イソプロポキシ基、ノルマルブトキシ基、イソブトキシ基、ターシャリーブトキシ基などを例示することができる。
また、アルキル部分が炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基であるアルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、ノルマルプロピルアミノ基、ジノルマルプロピルアミノ基、メチルノルマルプロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、メチルイソプロピルアミノ基、ノルマルブチルアミノ基、ジノルマルブチルアミノ基、メチルノルマルブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、ジイソブチルアミノ基、メチルイソブチルアミノ基、ターシャリーブチルアミノ基、ジターシャリーブチルアミノ基、メチルターシャリーブチルアミノ基などを例示することができる。
【0011】
前記一般式(1)の化合物は、下記の反応により作製することができる。
【化5】

式中、R〜Rは水素、重水素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基、アルキル部分が炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基であるアルコキシ基又はアルキルアミノ基、フッ素及びアセトキシ基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。Arは、下記式で示されるピレニル基、4−(9−N−カルバゾリル)フェニル基、4−〔10−(9−フェニル)アントラニル〕フェニル基のいずれかであり、R〜R14は水素、重水素、フッ素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基、アルキル部分が炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基であるアルキルアミノ基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基であり、R15〜R43は水素、重水素、フッ素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。)
【化6】

【0012】
上記作製方法は、臭素化物とホウ酸エステルとのカップリング反応である。一般に鈴木カップリングと呼ばれる反応で、有機合成反応では良く用いられる手法である。反応で用いるパラジウム触媒は、反応系中で0価を示すものであれば特に限定されない。その例としては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)〔Pd(PPh〕、ビス[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム(0)、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)、ビス(トリ−tert−ブチルホスフィン)パラジウム(0)などが挙げられる。取り扱い易さからテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)が好ましい。
反応に用いる塩基については、無機物でも有機物でも特に限定されない。無機物としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムなどの炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどの炭酸水素塩、フッ化カリウムやフッ化セシウムなどのフッ化物、有機物しては、ナトリウムメチラートやナトリウムエチラートなどのアルコラート化合物、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンやターシャリーブチルアミンなどのアミン化合物などが例示できる。取り扱い易さから炭酸カリウムが好ましい。無機塩を使用する場合は、反応系での分散性を上げるために水溶液にして使用することが好ましい。
反応溶媒は、パラジウム触媒や使用する塩基と反応しないものであれば特に限定されるものではない。例示すれば、トルエンやキシレンのような芳香族系溶媒、1,4−ジオキサンや1,2−ジメトキシエタンのようなエーテル系溶媒などが使用できる。芳香族系溶媒の場合、メタノールやエタノールなどのアルコール系溶媒と併用してもよい。
【0013】
前記一般式(1)の化合物の具体例を例示する。なお、例示化合物においてメチル基は他のアルキル基例えばエチル基やプロピル基などと置き換えることができる。
【0014】
【化7】

【0015】
【化8】

【0016】
【化9】

【0017】
【化10】

【0018】
【化11】

【0019】
【化12】

【0020】
【化13】

【0021】
【化14】

【0022】
【化15】

【0023】
【化16】

【0024】
【化17】

【0025】
【化18】

【0026】
【化19】

【0027】
【化20】

【0028】
【化21】

【0029】
【化22】

【0030】
【化23】

【0031】
【化24】

【0032】
【化25】

【0033】
【化26】

【0034】
【化27】

【0035】
【化28】

【0036】
【化29】

【0037】
【化30】

【0038】
【化31】

【0039】
【化32】

【0040】
【化33】

【0041】
【化34】

【0042】
【化35】

【0043】
【化36】

【0044】
【化37】

【0045】
【化38】

【0046】
【化39】

【0047】
【化40】

【0048】
【化41】

【0049】
【化42】

【0050】
【化43】

【0051】
【化44】

【0052】
【化45】

【0053】
【化46】

【0054】
【化47】

【0055】
【化48】

【0056】
前記一般式(1)の化合物は高いエキシマー発光を示す。従って、発光材料として使用することができる。これらはいずれも蒸着又は塗布により層形成を行うのが望ましい。
また、前記一般式(1)の化合物は、エキシマー形成による発光を示す。また発光ドーパント用のホスト材料として使用することができる。これらはいずれも蒸着又は塗布により層形成を行うのが望ましい。
また、前記一般式(1)の化合物を有機EL素子の発光材料に使用する場合、適当なホスト材料と組み合わせて使用することができる。
【0057】
次に本発明の有機EL素子について説明する。
本発明の有機EL素子は、陽極と陰極間に複数層の有機化合物を積層した素子であり、発光層の発光材料として前記一般式(1)の化合物を含有する。
発光層は、発光材料とホスト材料から構成される。多層型の有機EL素子の構成例としては、陽極(例えばITO)/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極、ITO/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極、ITO/ホール輸送層/発光層/ホールブロック層/電子輸送層/陰極、ITO/ホール輸送層/発光層/ホールブロック層/電子輸送層/電子注入層/陰極、ITO/ホール注入層(正孔注入層)/ホール輸送層/発光層/ホールブロック層/電子輸送層/電子注入層/陰極等の多層構成で積層したものが挙げられる。また、必要に応じて陰極上に封止層を有していてもよい。
ホール輸送層、電子輸送層、及び発光層のそれぞれの層は、各機能を分離した多層構造であることが望ましい。またホール輸送層、電子輸送層はそれぞれの層で注入機能を受け持つ層(ホール注入層及び電子注入層)と輸送機能を受け持つ層(ホール輸送層及び電子輸送層)を別々に設けることもできる。
【0058】
以下本発明の有機EL素子の構成要素に関して、陽極/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極からなる素子構成を例として取り上げて説明する。
本発明の有機EL素子は、基板に支持されていることが好ましい。
基板の素材については特に制限はなく、例えば、従来の有機EL素子に慣用されているものが使用でき、ガラス、石英ガラス、透明プラスチックなどからなるものを用いることができる。
【0059】
前記陽極としては、仕事関数の大きな金属単体(4eV以上)、仕事関数の大きな金属同士の合金(4eV以上)又は導電性物質及びこれらの混合物を電極材料とすることが好ましい。このような電極材料の例としては、金、銀、銅等の金属、ITO(インジウム−スズオキサイド)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)などの導電性透明材料、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子材料が挙げられる。陽極はこれらの電極材料を、例えば蒸着、スパッタリング、塗布などの方法により形成することができる。陽極のシート電気抵抗は数百Ω/cm以下が好ましい。陽極の膜厚は材料にもよるが、一般に5〜1,000nm程度、好ましくは10〜500nmである。
【0060】
前記陰極としては、仕事関数の小さな金属単体(4eV以下)、仕事関数の小さい金属同士の合金(4eV以下)又は導電性物質及びこれらの混合物を電極材料とすることが好ましい。このような電極材料の例としては、リチウム、リチウム−インジウム合金、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム、アルミニウム−リチウム合金、アルミニウム−マグネシウム合金などが挙げられる。陰極はこれらの電極材料を、例えば蒸着、スパッタリングなどの方法により、薄膜を形成させることにより作製することができる。
陰極のシート電気抵抗は数百Ω/cm以下が好ましい。陰極の膜厚は材料にもよるが、一般に5〜1,000nm程度、好ましくは10〜500nmである。
本発明の有機EL素子の発光を効率よく取り出すために、陽極又は陰極の少なくとも一方の電極は透明又は半透明であることが好ましい。
【0061】
前記ホール輸送層は、ホール伝達化合物からなるもので、陽極より注入されたホールを発光層に伝達する機能を有している。電界が与えた2つの電極の間に正孔伝達化合物が配置されて陽極からホールが注入された場合、少なくとも10−6cm/V・秒以上のホール移動度を有するホール伝達物質が好ましい。本発明の有機EL素子のホール輸送層に使用するホール伝達物質は、前記の好ましい性能を有するものであれば特に制限はない。従来から光導電材料においてホールの電荷注入材料として慣用されているものや有機EL素子のホール輸送層に使用されている公知の材料の中から任意のものを選択して用いることができる。
【0062】
ホール伝達物質の例としては、銅フタロシアニンなどのフタロシアニン誘導体、N,N,N′,N′−テトラフェニル−1,4−フェニレンジアミン、N,N′−ジ(m−トリル)−N,N′−ジフェニル−4,4−ジアミノフェニル(TPD)、N,N′−ジ(1−ナフチル)−N,N′−ジフェニル−4,4−ジアミノフェニル(α−NPD)等のトリアリールアミン誘導体、ポリフェニレンジアミン誘導体、ポリチオフェン誘導体、及び水溶性のPEDOT−PSS(ポリエチレンジオキサチオフェン−ポリスチレンスルホン酸)などが挙げられる。
ホール輸送層は、これらの他のホール伝達化合物の一種又は二種以上からなる一層で構成されたものでよく、前記のホール伝達物質とは別の化合物からなるホール輸送層を積層したものでもよい。
【0063】
ホール注入材料の例としては、下記化学式で示されるPEDOT−PSS(ポリマー混合物)やDNTPDが挙げられる。式中のnは繰り返し単位数である。
【化49】

ホール輸送材料の例としては、下記化学式で示されるTPD、DTASi、α−NPD、TAPCなどが挙げられる。

【化50】

【化51】

【0064】
前記電子輸送層は、電子輸送材料からなるもので、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有している。電界が与えた2つの電極の間に電子輸送材料が配置されて陰極から電子が注入された場合、少なくとも10−6cm/V・秒以上の電子移動度を有する電子輸送材料が好ましい。該電子輸送材料は、前記の好ましい性能を有するものであれば特に制限はない。従来から光導電材料において電子の電荷注入材料として慣用されているものや有機EL素子の電子輸送層に使用されている公知の材料の中から任意のものを選択して用いることができる。
電子輸送材料の例としては、トリス(8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム錯体(Alq)のようなキノリン錯体、1−N−フェニル−2−(p−ビフェニルイル)−5−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,5−トリアジン(TAZ)のようなトリアジン誘導体、1,4−ジ(1,10−フェナントロリン−2−イル)ベンゼン(DPB)のようなフェナントロリン誘導体、フッ化リチウムのようなハロゲン化アルカリ金属などが挙げられる。
AlqとTAZの化学式を次に示す。

【化52】

【0065】
上記の他に、下記化学式で示されるトリアジン誘導体の電子輸送材料(TmPyPhTAZ、特開2007−137829号公報参照)やビスフェノール誘導体の電子輸送材料(tetra−pPyPhBP、特開2008−063232号公報参照)などを用いることもできる。
【化53】

【化54】

電子輸送層は、上記電子輸送材料の一種又は二種以上からなる一層で構成されたものでよいが、これらとは別の化合物からなる電子輸送層を積層したものでもよい。
【0066】
電子注入材料の例としては、下記化学式で示されるフッ化リチウム(LiF)や8−ヒドロキシキノリノラトリチウム錯体(Liq)、フェナントロリン誘導体のリチウム錯体(LiPB、特開2008−106015号公報参照)、フェノキシピリジンのリチウム錯体(LiPP、特開2008−195623号公報参照)が挙げられる。
【化55】

【0067】
本発明の有機EL素子の発光層では発光材料として前記一般式(1)の化合物を使用するが、任意のものを選択して前記一般式(1)の化合物と併用することができる。
併用する発光材料としては、ペリレン誘導体、ナフタセン誘導体、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体(例えばクマリン1、クマリン540、クマリン545など)、ピラン誘導体(例えばDCM−1、DCM−2、DCJTBなど)、有機金属錯体〔例えばトリス(8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム錯体(Alq)、トリス(4−メチル−8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム錯体(Almq)等の蛍光材料や、[2−(4,6−ジフルオロフェニル)ピリジル−N,C2′]イリジウム(III)ピコリレート(FIrpic)、トリス{1−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−1H−ピラゾラート−N,C2′}イリジウム(III)(Irtfmppz)、ビス[2−(4′,6′−ジフルオロフェニル)ピリジナト−N,C2′]イリジウム(III)テトラキス(1−ピラゾリル)ボレート(FIr6)、トリス(2−フェニルピリジナト)イリジウム(III)(Irppy)等のリン光材料〕などが挙げられる。
【0068】
発光層は、一般にホスト材料と発光材料(ドーパント)から形成される[Appl.Phys.Lett.,65 3610(1989)]が、前記一般式(1)の化合物はホスト材料なしでも発光材料として使用できる。ホスト材料を併用する場合の例としては、下記化学式で示される2−ターシャリーブチル−9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセン(TBADN)、2−メチル−9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセン(MADN)が挙げられる。ドーパントにリン光材料を併用する場合の例としては、下記化学式で示される4,4′−ジ(N−カルバゾリル)−1,1′−ビフェニル(CBP)、1,4−ジ(N−カルバゾリル)ベンゼン−2,2′−ジ[4″−(N−カルバゾリル)フェニル]−1,1′−ビフェニル(4CzPBP)等が挙げられる。

【化56】

前記一般式(1)の化合物の割合は、ホスト材料に対して好ましくは0.01〜40重量%であり、より好ましくは0.1〜20重量%である。
【0069】
本発明の有機EL素子は、ホール注入性をさらに向上させる目的で陽極と有機化合物の層の間に有機導電体から構成されるホール注入層を設けてもよい。ここで使用されるホール注入材料としては、前記一般式(1)の化合物の他に銅フタロシアニンなどのフタロシアニン誘導体、ポリフェニレンジアミン誘導体、ポリチオフェン誘導体、PEDOT−PSS(ポリエチレンジオキシチオフェン−ポリスチレンスルホン酸)などが挙げられる。
前記一般式(1)の化合物を含む有機EL素子のホール注入層、ホール輸送層の形成方法は特に限定されるものではなく、例えば乾式製膜法(真空蒸着法、イオン化蒸着法など)、湿式製膜法(溶媒塗布法:スピンコート法、キャスト法、インクジェット法など)を使用することができる。電子輸送層の製膜については、湿式製膜法で行うと下層が溶出する恐れがあるため乾式製膜法(真空蒸着法、イオン化蒸着法など)に限定される。素子の作製については上記の製膜法を併用しても構わない。
真空蒸着法によりホール輸送層、発光層、電子輸送層などの各層を形成する場合、真空蒸着条件は特に限定されるものではない。通常10−5Torr程度以下の真空下で50〜500℃程度のボート温度(蒸着原温度)、−50〜300℃程度の基板温度で、0.01〜50nm/sec.程度蒸着することが好ましい。正孔輸送層、発光層、電子輸送層の各層を複数の化合物を使用して形成する場合、化合物を入れたボートをそれぞれ温度制御しながら共蒸着することが好ましい。
【0070】
ホール注入層、ホール輸送層を溶媒塗布法で形成する場合、各層を構成する成分を溶媒に溶解又は分散させて塗布液とする。溶媒としては、炭化水素系溶媒(ヘプタン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等)、ケトン系溶媒(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、ハロゲン系溶媒(ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等)、エステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、アルコール系溶媒(メタノール、エタノール、ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等)、エーテル系溶媒(ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等)、非プロトン性溶媒(N,N′−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等)、水等が挙げられる。溶媒は単独で使用しても複数の溶媒を併用してもよい。
ホール輸送層、発光層、電子輸送層等の各層の膜厚は、特に限定されるものではないが、通常5〜5,000nmになるようにする。
【0071】
本発明の有機EL素子は、酸素や水分等の接触を遮断する目的で保護層(封止層)を設けたり、不活性物質中に素子を封入して保護することができる。不活性物質としては、パラフィン、シリコンオイル、フルオロカーボン等が挙げられる。保護層に使用する材料としては、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、光硬化性樹脂等がある。
【0072】
図50〜図57に、本発明の有機EL素子の好ましい構成例を示す。
図50は、基板1上に、陽極2、正孔輸送層5、発光層3、電子輸送層6及び陰極4を順次設けた構成のものである。これはキャリア輸送と発光の機能を分離したものであり、材料選択の自由度が増すために、発光の高効率化や発光色の自由度が増すことになる。
図51は、基板1上に、陽極2、ホール注入層7、ホール輸送層5、発光層3、電子輸送層6及び陰極4を順次設けた構成のものである。この場合、ホール注入層7を設けることにより、陽極2とホール輸送層5の密着性が高くなり、陽極からのホールの注入が良くなり、発光素子の低電圧化に効果がある。
図52は、基板1上に、陽極2、ホール輸送層5、発光層3、電子輸送層6、電子注入層8及び陰極4を順次設けた構成のものである。この場合、陰極4から電子の注入が良くなり、発光素子の低電圧化に効果がある。
図53は、基板1上に、陽極2、ホール注入層7、ホール輸送層5、発光層3、電子輸送層6、電子注入層8及び陰極4を順次設けた構成のものである。この場合、陽極2からホールの注入が良くなり、陰極4からの電子注入が良くなり、低電圧駆動に最も効果がある構成である。
【0073】
図54〜図57は有機EL素子の中にホールブロック層9を挿入した構成例である。
ホールブロック層は、陽極から注入されたホールあるいは発光層3で再結合により生成した励起子が、陰極4に抜けることを防止する効果を有し、有機EL素子の発光効率の向上に効果がある。ホールブロック層9については、発光層3と陰極4の間、発光層3と電子輸送層6の間、あるいは発光層3と電子注入層8の間に挿入することができる。好ましいのは発光層3と電子輸送層6の間である。
ホール輸送層5、ホール注入層7、電子輸送層6、電子注入層8、発光層3、ホールブロック層9のそれぞれの層は、一層構造であっても多層構造であってもよい。
なお、図50〜図57は、あくまでも基本的な素子構成であり、本発明の有機EL素子の構成はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0074】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0075】
実施例1
1,8−ビス(ピレン−2−イル)ナフタレン(BPyN)の合成
下記式に示す反応によりBPyNを合成した。合成に際しては、P.Wahl,C.Krieger,D.Schweitzer,H.A.Staab,Chem.Ber.117,260〜276(1984)を参考にした。

【化57】

50mL三口フラスコに、1,8−ジブロモナフタレン0.50g(1.75mmol)、ピレン−2−ボロン酸ピナコールエステル1.72g(5.25mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム〔Pd(PPh〕0.2g(0.175mmol)、2.0M−KCO10mL水溶液、トルエン100mLを窒素雰囲気下、85℃で24時間反応させた。シリカゲルカラムクロマトグラフィー精製(ヘキサン)により目的化合物を薄黄色結晶として得た(2.43g、収率65%)。
目的物の確認は、H−NMRとEI−Massスペクトルで行った。H−NMRの全体のチャートを図1に、芳香族部位の拡大チャートを図2に、EI−Massスペクトルのチャートを図3に示す。
H−NMR(400MHz,CDCl):δ7.26(d,J=9.2Hz,4H,Py−H5,9),7.29(d,J=8.72Hz,4H,Py−H4,10),7.52−7.54(m,8H,Py−H1,3,6,8),7.58−7.62(m,2H,Py−H7),7.66−7.67(dd,4H),8.10−8.13(dd,2H).EI−MS:m/z:calcd.For C4224[M]528.6 Found.529.
【0076】
実施例2
1,8−ビス〔4−(カルバゾール−9−N−イル)フェニル〕ナフタレン(BCzPN)の合成
【化58】

50mL三口フラスコに、1,8−ジブロモナフタレン0.052g(0.181mmol)、4−(カルバゾール−9−N−イル)フェニルボロン酸ピナコールエステル0.200g(0.542mmol)、トルエン10mL、エタノール5mL、2.0M−KCO 5mLを入れ、窒素バブリングを一時間行った。次いで、Pd(PPh0.042g(0.036mmol)を入れ、窒素気流下、85℃で攪拌した。24時間後、薄層クロマトグラフィー(展開溶媒ヘキサン)により1,8−ジブロモナフタレン(Rf:0.38)の消費を確認した後、反応混合物を室温に戻した。次いで、有機層をトルエンで抽出し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥、ろ別後、減圧下溶媒を留去した。次いで、ヘキサンを加え不溶な固体を回収した。次いで、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒トルエン)により分離精製し、白色固体0.020g(収率18%)を得た。
得られた白色固体は、EI−Massスペクトル、H−NMR、元素分析によりBCzPNであることを確認した。H−NMR全体のチャートを図4に、芳香族部位の拡大チャートを図5に、EI−Massスペクトルのチャートを図6に示す。また元素分析の結果を表1に示す。
【表1】

【0077】
実施例3
1,8−ビス〔4−(9−フェニルアントラセン−10−イル)フェニル〕ナフタレン(BPAPN)の合成
【化59】

1,8−ジブロモナフタレン(100mg,0.35mmol)、9−フェニルアントラセン−10−ボロン酸ピナコールエステル(472mg,1.05mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム〔Pd(dba)〕(32.04mg,0.035mmol)、トリシクロヘキシルホスフィン(PCy)(9.80mg,0.035mmol)、1.35M−KPO水溶液(4.0mL)、ジオキサン(10.0mL)を窒素雰囲気下で48時間還流させた。室温まで冷却し、水及びジクロロメタン(200mL)を加えて有機層を水洗した後、無水MgSOで乾燥させた。ヘキサン:ジクロロメタン(1:1)によりカラムクロマトグラフィー精製した後、ヘキサンより再結晶し薄黄色結晶として得た(123mg,収率45.0%)。目的物の確認はH−NMRとEI−Massスペクトルで行った。H−NMRの全体のチャートを図7に、芳香族部位の拡大チャートを図8に、EI−Massスペクトルのチャートを図9に示す。
H−NMR(400MHz,CDCl)δ8.07(dd,J=1.84,1.84Hz,2H),7.78(s,2H),7.72〜7.66(m,4H),7.59〜7.51(m,8H),7.46(d,J=7.8Hz,8H),7.39〜7.35(m,10H),7.21(s,2H),6.62(s,2H),5.85(s,2H)ppm.EI−MS:m/z:calcd.For C6240[M]784.98;Found.785.0.
【0078】
実施例4
実施例1で作製したBPyNの熱分析測定を行った。熱分析測定は、示差走査熱量測定〔Differential−scanning−calorimetry(DSC)〕と加熱重量減分析〔Thermogravimetry−analysis(TGA)〕を実施した。DSCはPerkin−Elmer−Diamond−DSC−Pyrisにより、TGAはSEIKO−EXSTAR−6000−TG/DTA−6200により、それぞれ窒素雰囲気下、昇温10℃min−1で行った。DSCのチャートを図10に、TGAのチャートを図11にそれぞれ示す。
DSCの結果から融点に相当するものが326℃付近に見られ、TGAの結果から5%分解開始温度が409℃付近であることが分かった。
【0079】
実施例5
実施例2で作製したBCzPNの熱分析測定を行った。熱分析測定はDSCとTGAを実施した。測定装置と測定方法は実施例4と同様である。
DSCの結果から融点に相当するものが306℃付近に見られ、TGAの結果から5%分解開始温度が417℃付近であることが分かった。DSCのチャートを図12に、TGAのチャートを図13にそれぞれ示す。
【0080】
実施例6
実施例3で作製したBPAPNの熱分析測定を行った。熱分析測定はDSCとTGAを実施した。測定装置と測定方法は実施例4と同様である。
DSCの結果から融点に相当するものが343℃付近に見られ、TGAの結果から5%分解開始温度が477℃付近であることが分かった。DSCのチャートを図14に、TGAのチャートを図15にそれぞれ示す。
【0081】
実施例7
実施例1で作製したBPyNのHOMOの値を大気下光電子収量分光測定法により求めた。測定に用いた装置は理研計器社製AC−3である。結果のチャートを図16に示す。
図16から、HOMOの値は5.98eVであることが分かった。
【0082】
実施例8
実施例2で作製したBCzPNのHOMOの値を大気下光電子収量分光測定法により求めた。測定に用いた装置は理研計器社製AC−3である。結果のチャートを図17に示す。図17から、HOMOの値は5.81eVであることが分かった。
【0083】
実施例9
実施例1で作製したBPyNのトルエン溶液中(1.0×10−5M)と薄膜状での紫外−可視吸収(UV−vis)及びフォトルミネッセンス(PL)の測定を行った。
紫外−可視吸収、PLスペクトル測定は、Shimadzu−UV−3150−UV−vis−NIR分光光度計及びFLUROMAX−4(Jobin−Yvon−Spex)蛍光分光計により行った。測定結果を図18に示す。
図18の注釈中、「UV(solution)」は、トルエン溶液中の紫外−可視吸収スペクトル、「UV(film)」は、薄膜状での紫外−可視吸収スペクトル、「PL(solution)」は、溶液中のPLスペクトル、「PL(film)」は、薄膜状でのPLスペクトル、「PL(pyrene)」は、ピレンモノマーの溶液中でのPLスペクトルである。
紫外−可視吸収スペクトルはピレンモノマーに特徴的な振動構造を300〜350nm(λmax=335nm)に示す一方で、蛍光スペクトルにおいては、ピレンモノマー特有の振動構造は示さなかった。最大発光波長はピレンモノマーの発光に比べ、486nmまで長波長シフトし、この発光はピレンエキシマーに由来している。薄膜での吸収は250〜450nmにブロードなバンドを示し、溶液に比べ10nm程度長波長シフトした。蛍光スペクトルでの最大発光波長は492nmであり、希薄溶液と同様なピレンエキシマーの発光を示した。
【0084】
実施例10
実施例2で作製したBCzPNの塩化メチレン溶液中(1.0×10−5M)と薄膜状での紫外−可視吸収(UV−vis)及びフォトルミネッセンス(PL)の測定を実施例6と同じ測定機器を用いて行った。測定結果を図19に示す。
図19の注釈中「UV(solution)」は、ジクロロメタン中の紫外−可視吸収スペクトル、「UV(film)」は薄膜状での紫外−可視吸収スペクトルを示す。また「PL(solution)」は、ジクロロメタン中のPLスペクトル、「PL(film)」は薄膜状でのPLスペクトルを示す。また「PL(9−phenylcarbazole)」は9−フェニルカルバゾール溶液中でのPLスペクトルを示す。
図19から分かるように、最大発光波長は9−フェニルカルバゾールの発光347nmに比べて404nmまで長波長シフトし、この発光はフェニルカルバゾールのエキシマーに由来している。
【0085】
実施例11
実施例3で作製したBPAPNのTHF溶液中(1.0×10−5M)での紫外−可視吸収(UV−vis)及びフォトルミネッセンス(PL)の測定を実施例6と同じ測定機器を用いて行った。測定結果を図20に示す。
図20の注釈中、「UV(solution)」は、THF中の紫外−可視吸収スペクトルを示す。また「PL(solution)」は、THF中のPLスペクトルを示す。「PL(9,10−diphenylanthracene)}は9,10−ジフェニルアントラセン溶液中でのPLスペクトルを示す。
図20から分かるように、ジフェニルアントラセン骨格の振動構造由来の吸収を300〜400nmに示した。蛍光スペクトルでは、振動構造は消失し、9,10−ジフェニルアントラセンに比べて17nm長波長シフトしたピークを427nmに示した。
【0086】
実施例12〜13
実施例1で作製したBPyNを、PMMA(ポリメチルメタクリル酸)にドープした膜(実施例12)及び下記式で示されるMADN〔2−メチル−9,10−ビスナフタレン−2−イル)アントラセン〕にドープした膜(実施例13)を作製し、BPyNの蛍光量子収率を測定した。測定装置は浜松フォトニクス製積分球を使用した。ドープ濃度は1wt%、3wt%、5wt%の3種類とした。PMMA薄膜中での結果を表2に、MADN共蒸着膜中での結果を表3に示す。
【化60】


【表2】

【表3】

【0087】
実施例14〜15
実施例1で作製したBPyNを、ノンドープ発光層に用いた有機EL素子を作製した。その素子構造を図21に示す。素子構成は次のとおりであり、いずれもガラス基板を用いている。
実施例14:ITO(陽極)/α−NPD(ホール輸送層、40nm)/BPyN(発光層、20nm)/BmPyPB(電子輸送層、40nm)/LiF(電子注入層、1nm)/Al(陰極、80nm)
実施例15:ITO(陽極)/TAPC(ホール輸送層、40nm)/BPyN(発光層、20nm)/BmPyPB(電子輸送層、20nm)/LiF(電子注入層、1nm)/Al(陰極、80nm)
電子輸送層には下記式で示されるBmPyPB〔3,3",5,5"−テトラ(ピリジン−3−イル)1,1′,3′,1"−ターフェニル〕を使用した。
【化61】

各素子の電流密度−電圧特性を図22に、輝度−電圧特性を図23に、電力効率−輝度特性を図24に、電流効率−輝度特性を図25に、外部量子効率−輝度特性を図26に、実施例14のELスペクトルを図27に、実施例15のELスペクトルを図28に示す。
また各素子の100cd/mと1000cd/mにおける電圧、電力効率、電流効率、外部量子効率を表4に示す。

【表4】

【0088】
実施例16、比較例1
実施例1で作製したBPyNをホスト材料として使用し、下記式で示される緑色蛍光ドーパントC545Tを1wt%、3wt%及び5wt%ドープした薄膜を作製し蛍光量子収率を測定した。比較のためMADN〔2−メチル−9,10−ビスナフタレン−2−イル)アントラセン〕をホスト材料に用いた薄膜を作製した。測定結果を表5に示す。
【化62】

【表5】

BPyNホストは、MADNホストに比べて高いPLQE(蛍光量子収率)を示した。特に5wt%での高濃度ドープ域において高い優位性を示した。
【0089】
実施例17〜20
実施例1で作製したBPyNをホスト材料とし、緑色蛍光ドーパントC545Tをドープした発光層を有する有機EL素子を作製した。以下のようにドープ濃度及び膜厚を変えたもの(実施例17〜20)を作製した。それらの素子構造を図29に示す。素子構成は次のとおりであり、いずれもガラス基板を用いている。
実施例17:ITO(陽極)/α−NPD(ホール輸送層、40nm)/BPyN:1wt%C545T(発光層、20nm)/BmPyPB(電子輸送層、40nm)/LiF(電子注入層、1nm)/Al(陰極、80nm)
実施例18:ITO(陽極)/α−NPD(ホール輸送層、40nm)/BPyN:3wt%C545T(発光層、20nm)/BmPyPB(電子輸送層、40nm)/LiF(電子注入層、1nm)/Al(陰極、80nm)
実施例19:ITO(陽極)/α−NPD(ホール輸送層、40nm)/BPyN:5wt%C545T(発光層、20nm)/BmPyPB(電子輸送層、40nm)/LiF(電子注入層、1nm)/Al(陰極、80nm)
実施例20:ITO(陽極)/TAPC(ホール輸送層、40nm)/BPyN:5wt%C545T(発光層、20nm)/BmPyPB(電子輸送層、40nm)/LiF(電子注入層、1nm)/Al(陰極、80nm)
それぞれの素子における電流密度−電圧特性を図30に、輝度−電圧特性を図31に、電力効率−輝度特性を図32に、電流効率−輝度特性を図33に、外部量子効率−輝度特性を図34に、ELスペクトルを図35に示す。
また、各素子の100cd/mと1000cd/mにおける電圧、電力効率、電流効率、外部量子効率を表6に示す。
【表6】

HTLとしてTAPCを用いた実施例20では、外部量子効率が6%を超え、単分子エキシマー分子BPyNがホスト材料として極めて高い有用性を示していることが分かる。公知の緑色蛍光ホスト材料のほとんどが、9,10−ジフェニルアントラセン骨格を有しており、BPyNは新規な非アントラセン系ホスト材料である。
【0090】
実施例21〜23
実施例2で作製したBCzPNを発光材料として発光層に用いた有機EL素子を作製した。それらの素子構造を図36に示す。素子構成は次のとおりであり、いずれもガラス基板を用いている。
実施例21:ITO(陽極)/TAPC(ホール輸送層、40nm)/BCzPN(発光層、20nm)/BmPyPB(電子輸送層、40nm)/LiF(電子注入層、0.5nm)/Al(陰極、80nm)
実施例22:ITO(陽極)/TAPC(ホール輸送層、40nm)/BCzPN(発光層、10nm)/BmPyPB(電子輸送層、40nm)/LiF(電子注入層、0.5nm)/Al(陰極、80nm)
実施例23:ITO(陽極)/TAPC(ホール輸送層、45nm)/BCzPN(発光層、5nm)/BmPyPB(電子輸送層、45nm)/LiF(電子注入層、0.5nm)/Al(陰極、80nm)
それぞれの素子における電流密度−電圧特性を図37に、輝度−電圧特性を図38に、電力効率−輝度特性を図39に、電流効率−輝度特性を図40に、外部量子効率−輝度特性を図41に、ELスペクトルを図42に示す。
また、各素子の1cd/mと100cd/mにおける電圧、電力効率、電流効率、外部量子効率、色度座標値(CIE)を表7に示す。

【表7】

実施例21では412nmに、実施例22と実施例23では402nmに最大発光波長を示した。実施例22において、CIE値は(0.170、0.045)と深い青色発光を示した。これら結果から、単分子エキシマー分子BCzPNが青色有機EL材料としての高い有用性を示していることが分かる。
【0091】
実施例24
実施例2で作製したBCzPNをホスト材料として下記式で示される青色蛍光発光材料4,4′−ビス{〔4−ジ(p−トリル)アミノフェニル〕β−エテニル}−1,1′−ビフェニル(DPAVBi)を6wt%ドープした発光層を有する有機EL素子を作製した。素子構造を図43に示す。
【化63】

素子構成は次のとおりであり、いずれもガラス基板を用いている。
実施例24:ITO(陽極)/TAPC(ホール輸送層、40nm)/BCzPN:6wt%DPAVBi(発光層、20nm)/BmPyPB(電子輸送層、40nm)/LiF(電子注入層、0.5nm)/Al(陰極、80nm)
この素子における電流密度−電圧特性を図44に、輝度−電圧特性を図45に、電力効率−輝度特性を図46に、電流効率−輝度特性を図47に、外部量子効率−輝度特性を図48に、ELスペクトルを図49に示す。
また1cd/m、100cd/m及び1000cd/mにおける電圧、電力効率、電流効率及び外部量子効率を表8に示す。
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の有機EL素子は、通常直流駆動の素子として使用できる。直流電圧を印加する場合、陽極をプラス、陰極をマイナスの極性として通常1.5〜20V程度印加すると発光が観察される。また本発明の有機EL素子は交流駆動の素子としても使用できる。交流電圧を印加する場合には、陽極がプラス、陰極がマイナスの状態になった時に発光する。本発明の有機EL素子は、例えば電子写真感光体、フラットパネルディスプレイなどの平面発光体、複写機、プリンター、液晶ディスプレイのバックライト、計器等の光源、各種発光素子、各種表示装置、各種標識、各種センサー、各種アクセサリーなどに使用することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 基板
2 陽極(ITO)
3 発光層
4 陰極
5 正孔(ホール)輸送層
6 電子輸送層
7 正孔(ホール)注入層
8 電子注入層
9 ホールブロック層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるエキシマー特性を有する1,8−アリール置換ナフタレン誘導体を用いた有機EL素子。
【化64】

(式中、R〜Rは水素、重水素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基、アルキル部分が炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基であるアルコキシ基又はアルキルアミノ基、フッ素及びアセトキシ基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。Arは、下記式で示されるピレニル基、4−(9−N−カルバゾリル)フェニル基、4−〔10−(9−フェニル)アントラニル〕フェニル基のいずれかであり、R〜R14は水素、重水素、フッ素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基、アルキル部分が炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基であるアルキルアミノ基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基であり、R15〜R43は水素、重水素、フッ素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。)
【化65】

【請求項2】
前記1,8−アリール置換ナフタレン誘導体を発光層の発光材料に用いた請求項1記載の有機機EL素子。
【請求項3】
前記1,8−アリール置換ナフタレン誘導体を発光層のホスト材料に用いた請求項1記載の有機EL素子。
【請求項4】
下記一般式(1)で示される1,8−アリール置換ナフタレン誘導体。

【化66】

(式中、R〜Rは水素、重水素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基、アルキル部分が炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基であるアルコキシ基又はアルキルアミノ基、フッ素及びアセトキシ基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。Arは、下記式で示される4−(9−N−カルバゾリル)フェニル基、4−〔10−(9−フェニル)アントラニル〕フェニル基のいずれかであり、R15〜R43は水素、重水素、フッ素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。)
【化67】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−167058(P2012−167058A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29484(P2011−29484)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(394013644)ケミプロ化成株式会社 (63)
【Fターム(参考)】