説明

エストロゲンの定量方法

【課題】生体由来試料中のエストロゲンを、簡便に且つ正確に定量する。
【解決手段】生体由来試料からエストロゲンを抽出し、そのエストロゲンをペンタハロゲン化ベンジル又はペンタハロゲン化ベンゾイル誘導体化し、それを1−低級アルキルピリジニウム誘導体化した後、LC−MSで測定することで、皮膚角質層中のエストロゲンを定量する。この場合、ペンタハロゲン化ベンジル又はペンタハロゲン化ベンゾイル誘導体は、順相の固相抽出法により精製した後、1−低級アルキルピリジニウム誘導体化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体由来試料中に存在するエストロゲンの定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エストロゲンは、ステロイドホルモンに属する性ホルモンの一種であり、卵胞ホルモン又は女性ホルモンとも呼ばれている。エストロゲンは、卵巣で産生され、全身に搬送されて細胞質内のレセプターと結合し、その結合体が核内に移動し、極微量で強力な多岐にわたる生理作用を示す。例えば、皮膚に関しては、(a)血流を促進させる、(b)ヒアルロン酸等のムコ多糖類を増加させ、肌の保湿力を向上させる、(c)エラスチンやコラーゲンを増加させることにより、皮膚に弾力性を付与する、等の重要な作用を有する。
【0003】
そこで、生体内のエストロゲンの濃度を把握する試みがなされており、例えば、血清、唾液、尿、培養細胞、臓器から得られる生体由来試料からエストロゲンを溶媒抽出し、それにペンタハロゲン化ベンジル化合物若しくはペンタハロゲン化ベンゾイル化合物を反応させた後、さらに1-低級アルキル-2-ハロゲン化ピリジンを反応させ、得られた反応混合物をLC−MSで測定する方法がある(特許文献1)。これにより、エストロゲンのLC−MSにおける検出感度を向上させることができる。また、この方法を、テープストリッピング法で採取した皮膚角質層に適用することにより、皮膚中のエストロゲン濃度を簡便に測定できるようにする方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-138786号公報
【特許文献2】特開2009-85946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、皮膚角質層等の生体由来試料中のエストロゲンの含有量は、蛋白質1mg当たりpgオーダーの極微量であるため、定量分析の測定精度を向上させることが課題となっていた。
【0006】
本発明は、上記課題を解決しようとするものであり、生体由来試料中のエストロゲンの定量の精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、LC−MSにおけるエストロゲンの検出感度を向上させるために、エストロゲンにペンタハロゲン化ベンジル基又はペンタハロゲン化ベンゾイル基を導入し、さらに1−低級アルキルピリジニウム基を導入するにあたり、エストロゲンにペンタハロゲン化ベンジル基又はペンタハロゲン化ベンゾイル基を導入したエストロゲンのペンタハロゲン化ベンジル誘導体又はペンタハロゲン化ベンゾイル誘導体を、順相の固相抽出法で精製し、その精製物に1−低級アルキルピリジニウム基を導入すると、LC−MS測定時のバックグラウンド値が大幅に低減して、生体由来試料中のエストロゲンの検出精度が飛躍的に向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、生体由来試料中のエストロゲンの定量方法であって、
(a)生体由来試料からエストロゲンを抽出する工程、
(b)抽出したエストロゲンに、ペンタハロゲン化ベンジル基又はペンタハロゲン化ベンゾイル基を導入してエストロゲンのペンタハロゲン化ベンジル誘導体又はペンタハロゲン化ベンゾイル誘導体を得る工程、
(c)工程(b)で得たペンタハロゲン化ベンジル誘導体又はペンタハロゲン化ベンゾイル誘導体を、順相の固相抽出法により精製してエストロゲンのペンタハロゲン化ベンジル誘導体又はペンタハロゲン化ベンゾイル誘導体の精製物を得る工程、
(d)エストロゲンのペンタハロゲン化ベンジル誘導体又はペンタハロゲン化ベンゾイル誘導体の精製物に、1−低級アルキルピリジニウム基を導入してエストロゲンの1−低級アルキルピリジニウム誘導体を得る工程、及び
(e)エストロゲンの1−低級アルキルピリジニウム誘導体を、LC−MSにより分析してエストロゲンを定量する工程、
を含む定量方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、LC−MSにおけるエストロゲンの検出感度を向上させるために、エストロゲンにペンタハロゲン化ベンジル基又はペンタハロゲン化ベンゾイル基を導入し、さらに1−低級アルキルピリジニウム基を導入し、その1−低級アルキルピリジニウム誘導体をLC−MSで測定するエストロゲンの定量方法において、LC−MS測定時のバックグラウンド値が大幅に低減して、エストロゲンの検出精度が飛躍的に向上する。したがって、皮膚角質層等の生体由来試料におけるエストロゲンの濃度が、蛋白質1mg当たりpgオーダーという極微量であるにもかかわらず、高い精度で生体由来試料に含まれるエストロゲン濃度を定量することができる。
【0010】
一方、エストロゲンは、生体内において極微量で強力な生理作用を示すことから、その生体由来試料中のエストロゲンを正確に定量することは、エストロゲンが関与する生理機能や疾患等の診断や解析において重要である。したがって、本発明は、臨床診断、病態解析、美容診断等において有用となる。
【0011】
中でも、皮膚角質層は、皮膚の最外層にあって皮膚内部の性状を顕著に反映する。したがって、本発明は、特に美容診断等における皮膚内部を含めた皮膚全体の性状の解析に有用となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、生体由来試料中のエストロゲンをLC−MSにより分析して定量分析する方法であり、以下に説明する工程(a)から(e)を有する。ここで、エストロゲンとは、女性ホルモンであるエストラジオール及びエストラジオールの誘導体をいう。
【0013】
また、本発明がエストロゲンを定量する生体由来試料とは、生体に由来する試料であって、生体から採取された後の試料、又は生体から排出された後に採取された試料をいう。具体的には、皮膚角質層、血液、唾液、尿、糞、生体細胞又はその培養細胞、生体の細胞、組織又は臓器から得られる調製物等があげられる。これらの生体由来試料は、被験者に対する診断や解析の目的に応じて最適なものが選択される。例えば、皮膚の性状の解析には、皮膚角質層が好ましい。また、全身の生理機能等の診断には、血液が好ましい。
【0014】
なお、生体由来試料の採取方法は、特に制限されず、医療や美容の分野における一般的な方法が用いられる。
【0015】
例えば、皮膚角質層の採取方法としては、好ましくはテープストリッピング法、皮膚角質層の擦過物を採取する方法、採取した皮膚をディスパーゼ、トリプシンなどのタンパク分解酵素で処理することにより真皮と表皮を取り除き、角質層だけを剥離する方法、培養皮膚モデルからの角質層の剥離等をあげることができる。このうち、テープストリッピング法は、表面に粘着剤層を有するテープを被験部位に貼付し、それを剥がして被験部位の表層をテープの粘着面に付着させ、回収する方法であり、簡便で被験者への負担が少ないことからより好ましい。
【0016】
テープストリッピング法を行うテープとしては、皮膚に密着後、剥離できるものであればよく、このようなテープとしては、市販の粘着性テープを使用することができる。より具体的には、その粘着剤層は、ゴム系、アクリル系、シリコン系等の粘着剤とすることができ、また、粘着剤層を支持するテープ本体は、天然繊維若しくは合成繊維からなる紙若しくは布、又は、ポリエステル、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリプロピレン等からなるプラスチックシート等とすることができる。中でも、溶剤耐性及びバックグラウンド(テープより検出されるエストロゲン類似化合物の量)低減の観点からポリフェニレンサルファイド(PPS)が好ましい。
【0017】
一方、生体由来試料の身体上の部位は、特に制限はなく、例えば、皮膚角質層として、美容上肌性状が重要となる顔面、首、腕等から採取されたものを使用することができる。
【0018】
本発明において、工程(a)は、生体由来試料からエストロゲンを抽出する工程である。
生体由来試料からエストロゲンを抽出する方法は、遠心分離、有機溶媒を用いた液液抽出、カラムクロマトグラフィー等、生化学分野における一般的な前処理方法を適宜選択及び組み合わせて用いることができる。
【0019】
例えば、血液からエストロゲンを抽出する方法としては、血液を遠心分離して血清成分を得て、この血清成分を有機溶媒を用いて液液抽出して有機溶媒層を分取し、この有機溶媒層から有機溶媒を除去することなどにより抽出する。なお、唾液、尿、糞、生体細胞等の試料からエストロゲンを抽出する調製方法にも、血液の場合とほぼ同様の調製方法を用いることができる。
【0020】
また、テープストリッピング法で採取した皮膚角質層からエストロゲンを抽出する場合には、後述する実施例に示すように、皮膚角質層が付着しているテープを、裁断しあるいはそのままの状態で、エチルアルコール、ヘキサン、アセトン、酢酸エチル等の溶媒に浸漬し、エストロゲンを溶媒抽出することが好ましい。
【0021】
本発明では、抽出したエストロゲンをLC−MSで定量するにあたり、その検出感度を向上させるため、予め、工程(b)でエストロゲンにペンタハロゲン化ベンジル基又はペンタハロゲン化ベンゾイル基を導入してエストロゲンをペンタハロゲン化ベンジル誘導体又はペンタハロゲン化ベンゾイル誘導体とし、工程(c)でそれを順相の固相抽出法により精製し、工程(d)でその精製物に、1−低級アルキルピリジニウム基を導入し、こうして得られたエストロゲンの1−低級アルキルピリジニウム誘導体をLC−MSで定量する。
【0022】
ここで、工程(b)のペンタハロゲン化ベンジル基又はペンタハロゲン化ベンゾイル基の導入は、例えば、特開2006-138786号公報(特許文献1)に記載されているように、エストロゲンのフェノール性水酸基に、選択的にペンタハロゲン化ベンジル化合物又はペンタハロゲン化ベンゾイル化合物を反応させることにより行うことができ、この反応液をエーテル等の有機溶媒で抽出することにより、ペンタハロゲン化ベンジル誘導体又はペンタハロゲン化ベンゾイル誘導体の粗精製物を得ることができる。
【0023】
工程(c)のエストロゲンのベンジル誘導体又はベンゾイル誘導体の順相の固相抽出法による精製は、本発明に特徴的な工程である。工程(b)で得た反応液から、エストロゲンのベンジル誘導体又はベンゾイル誘導体をエーテル等で溶媒抽出するよりも、あるいは溶媒抽出物をさらにHPLCで精密分取するよりも、順相の固相抽出法で精製することにより、最終的にエストロゲンの1−低級アルキルピリジニウム誘導体をLS−MSで測定するときのバックグラウンドを大幅に低減させ、エストロゲンの検出精度を向上させることができる。
【0024】
ここで、固相抽出法とは、化学結合型シリカ、ポーラスポリマー、アルミナ、活性炭等の充填剤を固相としたミニカラムに試料を保持させ、溶媒を用いて試料中の目的成分を選択的に抽出し、分離、精製する手法をいい、固相抽出法において順相とは、固相に高極性の充填剤を使用し、溶媒に低極性溶媒を使用する方法をいう。
【0025】
発明の工程(c)で使用する順相用の固相としては、シラノール基により強い極性を有するシリカゲルベースの充填剤を使用することが好ましい。より具体的には、粒子径が40〜90μm、平均細孔径が50〜70オングストロームのシリカゲル等があげられる。
【0026】
固相抽出法で用いるミニカラムには、大きく、カートリッジ型、ルアーディバイス型、ディスク型があるが、本発明においては、簡便で操作性が良好である点からカートリッジ型を使用することが好ましい。
【0027】
工程(c)において、固相抽出法に用いることのできるミニカラムの具体的な製品名としては、ジーエルサイエンス株式会社製の製品名InertSep SI、バリアン社製の製品名Bond Elut CN等が例示される。
【0028】
一方、順相の固相抽出法で、コンディショニング、クリーニング、溶出に使用する低極性溶媒としては、例えば、酢酸エチル、ヘキサン、ベンゼン、ヘプタン等を、それらの混合比を適宜変えて使用することができる。
【0029】
なお、本発明において、固相抽出法で用いるミニカラムは、前操作に起因する汚染の防止や洗浄操作の作業性等を考慮して、ディスポーザブルカラムとして使用し、測定試料ごとに交換することが好ましい。
【0030】
工程(d)における1-低級アルキルピリジニウムの導入は、エストロゲンのペンタハロゲン化ベンジル誘導体又はペンタハロゲン化ベンゾイル誘導体の精製物に、例えば、特開2006-138786号公報(特許文献1)に記載されているように、1-低級アルキル-2-ハロゲン化ピリジンを反応させることにより行うことができる。
【0031】
工程(e)では、上述のようにエストロゲンを1−低級アルキルピリジニウム誘導体とした後は、その1−低級アルキルピリジニウム誘導体をLC−MS(液体クロマトグラフ−質量分析計)で検出し、エストロゲンを定量する。
【0032】
この定量に先立ち、1−低級アルキルピリジニウム誘導体を、逆相の固相抽出法により精製することが好ましい。この場合、固相抽出法で使用する固相としては、ODS(C18)カラム等を使用し、コンディショニング、クリーニング、溶出に使用する溶媒としては、メタノール、蟻酸、水等を、それらの混合比を適宜変えて使用することができる。
【0033】
また、LC−MSとしては、LC−MS/MS(液体クロマトグラフ−タンデム型質量分析計)、LC−ESI−MS/MS、LC−APCI−MS/MS等を使用することができ、これらの測定自体は、一般的な方法によることができる。
【0034】
本発明によれば、生体由来試料中のエストロゲン量を正確に定量することができるため、本発明は、エストロゲンが関与する生理機能や疾患等の診断や解析等に有用となる。特に、皮膚角質層中のエストロゲンを定量することにより、皮膚内部のエストロゲン量を推定することができ、皮膚性状とエストロゲン量との関係の研究、化粧料ないし美容方法がエストロゲン量に及ぼす影響の研究等に有用となる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
(1)生体由来試料の採取
テープストリッピング用テープとして、PPSテープ(ニチバン社)5cm×2.5cmのテープを5枚ずつ9名の被験者(20〜50歳代男性、被験者番号1〜9)の上腕内側部に貼付後剥離し、各被験者の皮膚角質層を採取した。
【0036】
(2)生体由来試料からのエストロゲンの抽出
30mLの遠沈管に内部標準のエストラジオールとして13C4(100pg)/50μLを添加した。一方、ビーカーにエタノール27mlを入れ、そこに、皮膚角質層を採取した各テープを裁断して浸し、上述の遠沈管に移し、50℃で1時間振とうした。
【0037】
新しい遠沈管30mLに、上述のエタノールを採取した。また、エタノールを採取した残りのテープにエタノール8mLを加え、抽出器でさらに10分間激しく振とうし、テープから再度エタノール抽出を行い、先に採取したエタノールと合わせ、それを40℃の遠心エバポレーターで濃縮し、それをエタノールで4mLとして試料の濃縮液を得た。
【0038】
一方、検量線用試料を調製するために、エストラジオール−13C4(100pg)及びエストラジオールの標準品を所定量秤取してエタノール3.75mLを添加し、振とうして標準品試料とした。
【0039】
上述の試料の濃縮液と標準品試料とのそれぞれについて、精製水0.5mLを添加して攪拌し、5〜15℃で1時間放置後、遠心分離(3000rpm、3分間)して、上清を採取した。一方、沈殿に85%エタノール1mLを添加して振とう後、遠心分離して上清を採取し、先に採取した上清と合わせた。
【0040】
合わせた上清(エタノール層)にヘキサン1.5mLを添加して振とうし、遠心分離後、ヘキサン層を捨てることによりヘキサンで上清を洗浄し、洗浄後のエタノール層を遠心エバポレーターで留去(40〜45℃、2.5時間)し、これをメタノール250μLに溶解し、精製水1mを添加し、振とうしてエストラジオール定量用試料及び検量線用試料を得た。
【0041】
なお、角層を採取していないテープについても同一の方法で抽出操作を行い、ゼロ試験用の試料とした。
【0042】
(3)エストラジオールの定量
(3-1)エストラジオール-3-ペンタフルオロベンジルエーテルの調製
(2)で得たエストラジオール定量用試料を、メタノール6ml及び精製水6mLでコンディショニングした破砕状酸性シリカ(島津GLC社、Bond ElutC18)に負荷し、精製水1ml、30%アセトニトリル水溶液4mLで順次洗浄後、70%アセトニトリル水溶液2.5mLでエストラジオール分画を溶出し、溶出液を遠心エバポレーターで留去(53℃、2.5時間)し、さらに40℃で1時間乾燥させた。
【0043】
次に、このエストラジオール定量用試料に、0.8%水酸化カリウム/エタノール溶液50μL、2.5%ペンタフルオロベンジルブロミド/アセトニトリル溶液100μlをそれぞれ添加後、53℃の反応恒温器に1時間放置し、エストラジオールとペンタフルオロベンジルブロミドとを反応させた。
【0044】
この反応液の溶媒を窒素ガスで留去後、精製水0.75ml及びエーテル溶液4mlを加え、10分間振とうし、エストラジオールとペンタフルオロベンジルブロミドとの反応生成物をエーテルに抽出した。そして遠心分離(3000rpm、3分間)後、上清から凍結法でエーテル溶液を分取し、窒素ガスでエーテルを留去することにより、エストラジオール-3-ペンタフルオロベンジルエーテルの粗精製物を得た。これに、酢酸エチル100μl及びヘキサン1mlを添加して振とうし、粗精製物溶液とした。
【0045】
(3-2)エストラジオール-3-ペンタフルオロベンジルエーテルの精製
次に、(3-1)で調製したエストラジオール-3-ペンタフルオロベンジルエーテルの粗精製物溶液を、酢酸エチル3mL及びヘキサン3mLでコンディショニングした順相の固相抽出法用のシリカゲルベースのディスポーザブルカラム(GLサイエンス社、InertSep SI)に負荷し、ヘキサン1mL、15%酢酸エチル/ヘキサン溶液4.5mLで順次洗浄後、50%酢酸エチル/ヘキサン溶液3mLでエストラジオールを溶出した。この溶出液を遠心エバポレーターで留去(40℃、1時間)し、さらに40℃で1時間乾燥させてエストラジオール-3-ペンタフルオロベンジルエーテルの精製物を得た。
【0046】
(3-3)エストラジオール-3-ペンタフルオロベンジルエーテル17-O-メチルピリジニウムの調製
(3-2)で調製したエストラジオール-3-ペンタフルオロベンジルエーテルの精製物に、2% 2-フルオロ-1-メチルピリジニウムp-トルエンスルホナート/ジクロロメタン溶液200μL、10%トリエチルアミン/ジクロロメタン溶液30μLを加えて1.5時間室温で放置した。この反応液から溶媒を窒素ガスで留去後、メタノール500μLに溶解し、精製水500μLで希釈して振とうし、エストラジオール-3-ペンタフルオロベンジルエーテル17-O-メチルピリジニウム溶液を得た。
【0047】
(3-4)エストラジオール-3-ペンタフルオロベンジルエーテル17-O-メチルピリジニウムの定量
(3-3)で調製したエストラジオール-3-ペンタフルオロベンジルエーテル17-O-メチルピリジニウム溶液を、メタノール6mL及び精製水6mLでコンディショニングした破砕状酸性シリカ(島津GLC社、Bond ElutC18)のミニカラムに負荷し、精製水1mL、0.3%アンモニア水溶液4mL、メタノール3mL、0.1%ギ酸水溶液/メタノール(1:1)3mLで順次洗浄後、アセトニトリル/10%ギ酸水溶液 (9:1)混液3mlでエストラジオール分画を溶出し、溶出液を遠心エバポレ−ターで留去(53℃、2.5時間)した。さらに、反応試料をアセトニトリル/0.1%ギ酸水溶液/メタノール(1: 2:1)混液100μLに溶解し、実施例1のLC−MS/MS測定用試料とした。
【0048】
[比較例1]
上記実施例1の(3-1)と同一の操作により得られた、エストラジオール-3-ペンタフルオロベンジルエーテルの粗精製物に、50%エタノール/ヘキサン110μLを添加して振とうし、粗精製物溶液とした。
【0049】
この粗精製物溶液を、次の条件のHPLCにより精製して、エストラジオール分画を溶出させ分取した。この溶出液を遠心エバポレ−ターで留去して、エストラジオール-3-ペンタフルオロベンジルエーテルの精製物を得た。
プレカラム:資生堂 CapcelPak NH2 UG80、粒子径5μm、サイズ4.6mm×35mm
本カラム:資生堂 CapcelPak NH2 UG80、粒子径5μm、サイズ4.6mm×150mm
移動相:5%エタノール/ヘキサン、流速 1mL/min
溶出部位:4〜8分
【0050】
得られたエストラジオール-3-ペンタフルオロベンジルエーテルの精製物を、上記実施例1の(3-3)及び(3-4)と同一の操作により、ピリジニウム誘導体化した後にエストラジオール分画を分取して調製し、比較例1のLC−MS/MS測定用試料とした。
【0051】
上記実施例1及び比較例1のLC−MS/MS測定試料について、LC−MS/MS測定を次の条件で行った。
1)LC部
カラム:Xterra 3μm 2.1×100mm
カラム温度:40℃
移動相、流量:アセトニトリル/0.05%ギ酸水溶液(3:1)混液、0.2ml/min
注入量:20ml
2)MS部
MS:API-5000(アプライド バイオシステムズ)
イオン化法:正イオン ESI
キャピラリー電圧:3.5kv
コーン電圧:35、40v
コリジョンエネルギー:18ev
イオン源温度:120℃
測定イオン:544.4→339、110.1(Estradiol)、547.4→339(I.S.)
【0052】
このMS測定で検出されたm/z=544.4のピークについて、さらにMS測定を行うとm/z=339、110.1のピークを得、これをSRM(selected reaction monitoring)クロマトグラム測定することにより、エストラジオールを検出した。
【0053】
なお、このエストラジオールの定量には、前述の検量線用試料を用いて検量線を使用した。
【0054】
実施例1及び比較例1の方法で精製したエストラジオールの、LC−MS/MSによる定量結果を下記表1に示す。なお、表中の測定サンプルNo.1〜9の数値は、検量線を用いて定量した数値からゼロ試験の平均値(バックグラウンド値)を引いた補正値であり、PPSテープ5枚で採取された角質層中のエストラジオール量を示している。
【0055】
【表1】

【0056】
表1の結果より、エストロゲンのベンジル誘導体を順相の固相抽出法で精製し、その後1-低級アルキルピリジニウム誘導体とし、LS−MSで定量する実施例の方法では、ゼロ試験の測定値(バックグラウンド値)が非常に小さいことが分かる。一方、比較例1のエストロゲンのベンジル誘導体をHPLCにより精製する定量方法では、ゼロ試験の測定値が実施例1と比較して50倍以上であることが分かる。
【0057】
皮膚角質層等の生体由来試料中のエストロゲンの含有量は、蛋白質1mg当たりpgレベルの極微量であるため、そのLC−MSによる定量分析ではバッググラウンド値をなるべく低く抑えること(例えば、定量下限値の1/2、望ましくはそれ以下に抑えること)が望ましく、実施例1のようにバックグラウンド値を非常に低く抑えられることは、極微量のエストロゲンの定量において極めて有用であると考えられる。
【0058】
[実施例2]
(1)生体由来試料の採取
閉経後の12名の女性から、それぞれ血液3mLを採取し、遠心分離(4〜10℃、1,500×g、10分間)により血清を得、得られた血清1000mLにエーテル5mLを加え、10分間振とうし、さらに遠心分離(5℃、1500×g、5分間)した。これを凍結して上清を分取し、溶媒を留去し、これをエラストジオール定量用試料とした。このエストラジオール定量用試料に、0.8%水酸化カリウム/エタノール溶液50μL、2.5%ペンタフルオロベンジルブロミド/アセトニトリル溶液100μlをそれぞれ添加後、53℃の反応恒温器に1時間放置し、エストラジオールとペンタフルオロベンジルブロミドとを反応させた。次いで、粗精製物溶液を、酢酸エチル3mL及びヘキサン3mLでコンディショニングした順相の固相抽出法用のシリカゲルベースのディスポーザブルカラム(GLサイエンス社、InertSep SI)に負荷し、ヘキサン1mL、15%酢酸エチル/ヘキサン溶液4.5mLで順次洗浄後、50%酢酸エチル/ヘキサン溶液3mLでエストラジオールを溶出した。この溶出液を遠心エバポレーターで留去(40℃、1時間)し、さらに40℃で1時間乾燥させてエストラジオール-3-ペンタフルオロベンジルエーテルの精製物を得た。エストラジオール-3-ペンタフルオロベンジルエーテルの精製物に、2% 2-フルオロ-1-メチルピリジニウムp-トルエンスルホナート/ジクロロメタン溶液200μL、10%トリエチルアミン/ジクロロメタン溶液30μLを加えて1.5時間室温で放置した。この反応液から溶媒を窒素ガスで留去後、メタノール500μLに溶解し、精製水500μLで希釈して振とうし、エストラジオール-3-ペンタフルオロベンジルエーテル17-O-メチルピリジニウム溶液を得た。
【0059】
(2)エラストジオールの定量
実施例1と同様にして、エラストジオール定量用試料からLC−MS/MS測定用試料を調製し、LC−MS/MSでエラストジオールを定量した。結果を表2に示す。
【0060】
【表2】

ゼロ試験:活性炭で処理してエストラジオールを除去したゼロ血清
【0061】
表2の結果から、本実施例においてもバックグラウンド値が非常に低いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のエストロゲンの定量方法は、生体由来試料中のエストロゲンを正確に定量できることから、臨床診断、病態解析、美容診断等の分野において有用である。特に、皮膚性状と皮膚に含まれるエストロゲンその他のホルモン量との関係の研究、それに基づく化粧料ないし美容方法の研究開発等の分野において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体由来試料中のエストロゲンの定量方法であって、
(a)生体由来試料からエストロゲンを抽出する工程、
(b)抽出したエストロゲンに、ペンタハロゲン化ベンジル基又はペンタハロゲン化ベンゾイル基を導入してエストロゲンのペンタハロゲン化ベンジル誘導体又はペンタハロゲン化ベンゾイル誘導体を得る工程、
(c)工程(b)で得たペンタハロゲン化ベンジル誘導体又はペンタハロゲン化ベンゾイル誘導体を、順相の固相抽出法により精製してエストロゲンのペンタハロゲン化ベンジル誘導体又はペンタハロゲン化ベンゾイル誘導体の精製物を得る工程、
(d)エストロゲンのペンタハロゲン化ベンジル誘導体又はペンタハロゲン化ベンゾイル誘導体の精製物に、1−低級アルキルピリジニウム基を導入してエストロゲンの1−低級アルキルピリジニウム誘導体を得る工程、及び
(e)エストロゲンの1−低級アルキルピリジニウム誘導体を、LC−MSにより分析してエストロゲンを定量する工程、
を含む定量方法。
【請求項2】
生体由来試料が、皮膚角質層、血液、唾液、尿、糞、又は生体細胞である請求項1記載の定量方法。
【請求項3】
生体由来試料が、テープストリッピング法により採取された皮膚角質層であり、工程(a)において、この皮膚角質層からエストロゲンを溶媒抽出する請求項2記載の定量方法。
【請求項4】
工程(c)の固相抽出法において、シラノール基による高極性のシリカゲルを固相としたカートリッジ型カラムを使用する請求項1〜3のいずれかに記載の定量方法。
【請求項5】
工程(e)において、LC−MS/MSによりエストロゲンを定量する請求項1〜4のいずれかに記載の定量方法。

【公開番号】特開2011−163944(P2011−163944A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27305(P2010−27305)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 第34回日本医用マススペクトル学会事務局 刊行物名 日本医用マススペクトル学会 JSBMS Letters Vol.34 Supplement,2009/第34回日本医用マススペクトル学会年会 プログラム・抄録集 発行年月日 平成21年8月15日
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】