説明

エストロゲン受容体遺伝子を導入した遺伝子導入細胞ならびにその細胞を使用する魚類に対するエストロゲン系攪乱物質の検出および測定法

【課題】環境に魚類に対するエストロゲン系攪乱物質が存在するか否かを検出および測定するための手段および方法を提供する。
【解決手段】魚類由来のエストロゲン受容体αまたはβ遺伝子発現ベクターと、エストロゲンの標的となる遺伝子のプロモーターを結合させた、ルシフェラーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼおよびβ−ガラクトシダーゼから選択される少なくとも1種由来の外来遺伝子を導入した細胞。また、当該細胞を使用することを特徴とする魚類に対するエストロゲン系攪乱物質の検出および測定法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エストロゲン受容体遺伝子を導入した遺伝子導入細胞、ならびにその細胞を使用する魚類に対するエストロゲン系攪乱物質の検出および測定法を提供する。本発明において、エストロゲン系攪乱物質とは、エストロゲン受容体のアゴニストまたはアンタゴニストとして作用することによって生物の内分泌系を攪乱する物質を意味する。代表的なエストロゲン系攪乱物質には、エンドサルファンが含まれる。
【背景技術】
【0002】
エストロゲンは、ステロイドホルモンの1種であり、ステロイドホルモン産生臓器においてコレステロールを原料として生合成される。エストロゲンには例えば、エストロン(E1)、エストラジオール−17β(E2)、エストリオール(E3)などが含まれる。最も代表的なエストロゲンであるエストラジオールは、卵巣や精巣のセルトリー細胞および胎盤などで合成され、卵形製や雌性的形質の誘導を行う。このエストロゲンと類似の作用をもたらす物質をエストロゲン系攪乱物質といい、例えばエンドサルファンの水系環境に対する影響がボツワナのオカヴァンゴで調査され、汚染地域ではティラピアの巣作り行動が起こっていなかったことが知られている(非特許文献1)。
【0003】
エストロゲン系攪乱物質が魚類に与える影響は多大であるにも拘わらず、その実用的な検出・測定法は存在しなかった。例えば、既知のエストロゲン系攪乱物質を検出・測定するためには、環境から水や土などの試料を採取し、試験溶液を調製して、例えばガスクロマトグラフィーなどの機器で分析することも可能であるが、このような機械的な方法では未知のエストロゲン系攪乱物質を測定・評価することが不可能であるため、真実その環境がエストロゲン系攪乱物質を含んでいないことを保証するものではない。
【0004】
そこで、未知物質についてもエストロゲン系攪乱作用の有無を確認するため、ヒトや哺乳類に由来するエストロゲン受容体遺伝子を導入した細胞を環境由来の試験溶液に曝露し、その遺伝子発現を観察する方法(レポータージーンアッセイ法)がある。
【非特許文献1】よくわかる環境ホルモン学(シーア・コルボーンら、1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、哺乳類のエストロゲン受容体と魚類のエストロゲン受容体は異なるため、哺乳類エストロゲン受容体遺伝子を導入した細胞でレポータージーンアッセイ法を行っても魚類に対するエストロゲン系攪乱作用の有無を測定することはできない。また、哺乳類ではエストロゲン受容体は1種類しか存在しないが、魚類ではエストロゲン受容体が2種類(αおよびβ)存在し、両受容体のDNA結合ドメインの相同性は高いものの、リガンド結合ドメインの相同性は80%程度と差異があるため、エストロゲン系攪乱物質の生体内での影響を調査するためには、その両方について受容体遺伝子を導入した細胞を用いて、レポータージーンアッセイを行う必要がある。
【0006】
また、レポータージーンアッセイ法では、ガスクロマトグラフィーのような機器分析と異なり、エストロゲン系攪乱物質の有無を確認することには適しているが、その物質がどの程度の量存在するか、そしてその物質がどの程度の攪乱作用を有するかを定量および評価することは困難であった。しかし、レポータージーンアッセイ法においてエストロゲン系攪乱物質の存否のみならずその物質を定量および評価することができれば便宜である。
【0007】
さらに、哺乳類でのエストロゲンの作用濃度は約10−7M程度であるが、魚類では約10−9M程度であるため、約10−9Mのエストロゲン系攪乱物質が測定できる遺伝子導入細胞を用いなければ、魚類に対するエストロゲン系攪乱物質の検出は不十分なものとなる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本願発明者らは、環境に魚類に対するエストロゲン系攪乱物質が存在するか否かを検討するにあたって、魚類由来のエストロゲン受容体αおよびβ遺伝子発現ベクターをそれぞれ組み込んだ細胞を設計し、各細胞についてレポータージーンアッセイを行うことを見出した。
【0009】
従って、具体的には、本願発明は、魚類由来のエストロゲン受容体αまたはβ遺伝子発現ベクターと、エストロゲンの標的となる遺伝子のプロモーターを結合させた外来遺伝子を導入した細胞(以下、本発明の細胞)、ならびに当該細胞を使用することを特徴とする魚類に対するエストロゲン系攪乱物質の検出および測定法(以下、本発明の方法)を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の細胞は、魚類由来のエストロゲン受容体αおよびβ遺伝子発現ベクターをそれぞれ組み込んだものであるため、細胞はエストロゲンに特異的に反応し、魚類に対するエストロゲン系攪乱物質の検出を余すことなく行うことが可能である。また、本発明の方法によって、10−9M程度のエストロゲン系攪乱物質の検出のみならず、定量的測定も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
第1の態様において、本願発明は、魚類に対するエストロゲン系攪乱物質の検出のための、配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、当該DNAと相補的な塩基配列からなるDNA、または当該DNAもしくは当該DNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつエストロゲン受容体α活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む、エストロゲン受容体α発現ベクター、及び該エストロゲンの標的となる遺伝子のプロモーターを結合させた外来遺伝子を導入した細胞を提供する。また、本願発明は、魚類に対するエストロゲン系攪乱物質の検出のための、配列番号2に記載の塩基配列からなるDNA、当該DNAと相補的な塩基配列からなるDNA、または当該DNAもしくは当該DNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつエストロゲン受容体β活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む、エストロゲン受容体β発現ベクター、及び該エストロゲンの標的となる遺伝子のプロモーターを結合させた外来遺伝子を導入した細胞も提供する。
【0012】
配列番号1もしくは2に記載の塩基配列からなるDNA、当該DNAと相補的な塩基配列からなるDNA、または当該DNAもしくは当該DNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつエストロゲン受容体αもしくはβ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は、例えば、魚類の体組織、例えば血液からゲノムDNAを抽出し、既知のエストロゲン受容体に共通する配列を参考にして設計したプライマーを合成し、当該プライマーを用いて、魚類から抽出したゲノムDNAをテンプレートとしてPCR等の増幅を行うことによって、得ることができる。
【0013】
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子とは、所望の塩基配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、例えば95%以上の相同性を有する塩基配列からなる遺伝子が含まれる。ここで、ストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されないような条件をいい、例えば、ナトリウム濃度が10〜300mM、好ましくは20〜100mMであり、温度が25〜70℃、好ましくは42〜55℃を意味する。
【0014】
このようにして得られるDNAを、常套の方法でベクターに挿入することができる。例えばベクターは市販のものを使用することができ、その挿入は添付のマニュアルに沿って行う。
【0015】
エストロゲンの標的となる遺伝子のプロモーターは、コンセンサスエストロゲン応答配列であるGGTCANNNTGACC(Nは任意のヌクレオチド)を複数合成し市販の真核細胞発現ベクターで使用されるプロモーター、例えばSV40初期プロモーター、サイトメガロウィルス前初期プロモーター、HSVチミジンキナーゼプロモーターなどの上流に導入することによって得ることが出来る。ある種のプロモーターは特異的な転写因子との共存によってのみ発現する場合があるので、そのようなプロモーターを使用する場合には転写因子もしくは転写因子を含む細胞にプロモーターを導入する必要がある。とりわけ好ましいプロモーターは、配列番号3に記載のティラピアビテロゲニンプロモーターである。
【0016】
外来遺伝子は、特に限定されないが、mRNAおよび発現したタンパク質の確認が容易なものが好ましい。好ましくは、ルシフェラーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、βガラクシダーゼ、とりわけ好ましくはルシフェラーゼである。
【0017】
ホルモンの標的となる遺伝子のプロモーターと、外来遺伝子は、常套の方法、例えば制限酵素を用いて、プロモーター部分と外来遺伝子との間に粘着末端を作成し、DNAリガーゼなどによって結合させることができる。
【0018】
このようにして得られるベクターと、プロモーターを結合させた外来遺伝子を、培養細胞にコ−トランスフェクションし、G418のような選択薬剤を添加する。例えば薬剤添加の1週間後に培地を交換することができる。薬剤選択された細胞が十分増殖したことを確認し、例えば限界希釈法によってクローン化を行うことによって、本発明の細胞を得ることができる。細胞としては、CHO、HEK293、Hepa−T1(ティラピア肝臓繊維芽細胞)、HeLa、MDCK、NIH3T3、PC12、S2、Sf9など、様々なものを使用することができ、好ましくはHEK293およびHepa−T1であり、とりわけ、エストロゲン受容体α遺伝子発現ベクター導入細胞についてはHEK293が、エストロゲン受容体β遺伝子発現ベクター導入細胞についてはHepa−T1が好ましい。
【0019】
第2の態様において本発明は、試験溶液に本発明の細胞を曝露する工程および外来遺伝子の発現量を測定する工程を含む、魚類に対するエストロゲン系攪乱物質の検出および測定法を提供する。
【0020】
具体的には本発明の方法は、環境から得た試料を前処理してまたは前処理なしで得た試験溶液を、細胞を播種したプレートに添加した後、COインキュベーター内で、例えば20〜24時間、細胞を試料溶液に曝露する;曝露後、培地を取り除き、外来遺伝子発現タンパク質の基質溶液を加えて外来遺伝子の発現量を測定する;ことを含む。
【0021】
試料は、大気、川や海の水、土壌、生物の組織などから得ることができる。得た試料をそのまま、または例えばエタノールのような溶媒で抽出することによって試験溶液とすることができる。得た試験溶液をさらにろ過し、メタノールおよび蒸留水でコンディショニングした固層(例えば、Sep−Pack Plus PS−2、Waters)に流速10〜20ml/分で通水し、窒素気流下で乾燥したのち、ジクロロメタンで溶出し、これを窒素気流下で蒸発堅固し、DMSO(ジメチルスルホキシド)に転溶して、前処理を行い得る。
【0022】
外来遺伝子発現タンパク質の基質溶液とは、外来遺伝子が発現して生産されるタンパク質と結合することができるリガンドを含む溶液を意味する。基質溶液は、例えば外来遺伝子がルシフェラーゼである場合には、ルシフェリン溶液である。例えば外来遺伝子がルシフェラーゼの場合、ルシフェラーゼ基質を加えてルシフェラーゼ発現量(相対発光活性;RLA)をルミノメーターで測定する。試験溶液濃度は、得られたRLUからバックグラウンド(溶媒対照のRLA)を差し引くことによって求める。
【0023】
外来遺伝子の発現量を測定する方法は、外来遺伝子の性質に応じて当業者が通常採用し得る手段を用いることができる。例えば発現量を発光強度によって測定する場合、ルミノメーターを使用することができるが、より好ましい態様において、フォトンカウンターを使用することができる。
【実施例】
【0024】
エストロゲン受容体α遺伝子発現ベクター導入細胞の製造
ティラピアエストロゲン受容体α遺伝子よりORFをEcoRIサイトを5’側に導入したプライマーにより、それぞれRT−PCR法により増幅した。得られたDNA断片を発現ベクターpcDNA3.1(+)のEcoRIサイトへ導入し、受容体発現ベクターとした。
【0025】
ナイルティラピア(Oreochromis niloticus)から血液を採取し、クエン酸処理後、0.5%SDSを用いてゲノムDNAを抽出した。次いで、ティラピアオーレア(Oreochromis aurea)、ニホンウナギ、メダカおよびサクラマスビテロゲニン遺伝子のアライメントより共通性の高い領域を保存領域として選び出し、プライマーを設計した。設計したプライマーを用い、抽出したティラピアゲノムをテンプレートとしてRACE法を基としたゲノムウォーキングにより5’上流域を増幅した。得られたDNA断片をルシフェラーゼレポーターベクター(pGL3−basic、Promega)のSacI−NcoIサイトに挿入した。次に、ゼオシン耐性遺伝子カセットベクター、pZEO/SV40(Invitrogen)をSacIで消化し、DNA断片を切り出した。これをティラピアビテロゲニン遺伝子を組み込んだレポーターベクターのSacIサイトに導入して、エストロゲンの標的となる遺伝子のプロモーターを結合させた外来遺伝子を含むベクターとした。
【0026】
エストロゲン受容体α遺伝子発現ベクター及びエストロゲンの標的となる遺伝子のプロモーターを結合させた外来遺伝子を含むベクターを9cmディッシュに培養したHEK293細胞にコ−トランスフェクションし、G418(ICN Biomedicals)を添加した。G418添加1週間後、培地交換を行った。薬剤選択された細胞が十分に増殖したことを確認し、限界希釈法によりクローン化を行ったところ、7個のクローンが得られた。得られたクローンをデキストランチャコール処理5%ウシ胎児血清(和光純薬)含有DMEM培地(Sigma)にそれぞれ懸濁し、24穴プレートに展開した。展開した各ウェルにエタノールまたは最終濃度100nMのエストラジオール−17βを添加し、24時間培養した。培養終了後、ルシフェリン溶液(Stead-Glo, Promega)を1穴あたり50μl加え、5分間放置した後プレートリーダー(Luminesscencer-JNRII, ATTO)を用いてルシフェラーゼ活性の測定を行った。結果を図1に示す。最も反応性がよかったクローンでは、EC50が3.78×10−9Mであった。プロゲスチンやアンドロゲンに曝露しても当該細胞は発光を示さず、エストロゲンに対して特異的に反応した。
【0027】
エストロゲン受容体β遺伝子発現ベクター導入細胞の製造
ティラピアエストロゲン受容体β遺伝子よりORFをEcoRIサイトを5’側に導入したプライマーにより、それぞれRT−PCR法により増幅した。得られたDNA断片を発現ベクターpcDNA3.1(+)のEcoRIサイトへ導入し、受容体発現ベクターとした。エストロゲンの標的となる遺伝子のプロモーターを結合させた外来遺伝子を含むベクターをエストロゲン受容体α遺伝子発現ベクター導入細胞のときと同様に製造した。
【0028】
エストロゲン受容体β遺伝子発現ベクター及びエストロゲンの標的となる遺伝子のプロモーターを結合させた外来遺伝子を含むベクターを9cmディッシュに培養したHEK293細胞にコ−トランスフェクションし、G418(ICN Biomedicals)を添加した。G418添加1週間後、培地交換を行った。薬剤選択された細胞が十分に増殖したことを確認し、限界希釈法によりクローン化を行ったところ、3個のクローンが得られた。得られたクローンをデキストランチャコール処理5%ウシ胎児血清(和光純薬)含有DMEM培地(Sigma)にそれぞれ懸濁し、24穴プレートに展開した。展開した各ウェルにエタノールまたは最終濃度100nMのエストラジオール−17βを添加し、24時間培養した。培養終了後、ルシフェリン溶液(Stead-Glo, Promega)を1穴あたり50μl加え、5分間放置した後プレートリーダー(Luminesscencer-JNRII, ATTO)を用いてルシフェラーゼ活性の測定を行った。その結果、2個のクローンがエストロゲン非依存的に恒常的にルシフェラーゼが発現する細胞となり、エストロゲン依存的な転写活性化が見られた1個のクローンでも約2倍しかホルモン誘導性は見られなかった。
【0029】
そこで、エストロゲン受容体β遺伝子発現ベクター及びエストロゲンの標的となる遺伝子のプロモーターを結合させた外来遺伝子を含むベクターを9cmディッシュに培養したHepa−T1細胞にコ−トランスフェクションし、G418を添加した。G418添加1週間後、培地交換を行った。薬剤選択された細胞が十分に増殖したことを確認し、限界希釈法によりクローン化を行ったところ、7個のクローンが得られた。得られたクローンをデキストランチャコール処理5%ウシ胎児血清(和光純薬)含有DMEM培地(Sigma)にそれぞれ懸濁し、24穴プレートに展開した。展開した各ウェルにエタノールまたは最終濃度100nMのエストラジオール−17βを添加し、24時間培養した。培養終了後、ルシフェリン溶液(Stead-Glo, Promega)を1穴あたり50μl加え、5分間放置した後プレートリーダー(Luminesscencer-JNRII, ATTO)を用いてルシフェラーゼ活性の測定を行ったところ、HEK293細胞を使用した場合と比較して約5倍の転写活性化が認められた(図2)。
【0030】
細胞を使用したエストロゲン系攪乱物質の検出
9cmディッシュに10mlの5%FCS−DMEMでαVTGAをコンフルーエントになるまで培養した。培養液を抜き取りPBSで洗い5%ステロイドフリーFCS−DMEM10mlを加え、96穴プレートに100μlずつ分注し24時間培養した。96穴プレートから培養液を抜き、試薬の希釈液を1濃度あたり3穴(1穴あたり100μl)に加え24時間培養した。また、アンタゴニスト活性の測定にはE2(2.5nM)の存在下で同様の培養を行った。96穴プレートから培養液を抜き、ルシフェリン溶液(Stead-Glo, Promega)を1穴あたり50μl加え、5分間放置した後プレートリーダー(Luminesscencer-JNRII, ATTO)を用いてルシフェラーゼ活性の測定を行った。アゴニスト活性では50%有効量である50%有効濃度(EC50)をPrism4(GraphPad)を用いて算出した。また、天然エストロゲンであるE2の最大値を100%とした場合の薬剤の最大活性の百分率を相対発光活性(RLA)として算出した。一方、アンタゴニスト活性では50%抑制濃度をである50%阻害濃度(IC50)をPrism4(GraphPad)を用いて算出した。
【0031】
エストロゲン受容体α遺伝子発現ベクター導入細胞を使用した実測濃度による確認
天然エストロゲンであるE2では、濃度依存的な転写活性化がみられ、用量−反応曲線はシグモイドカーブとなり、EC50は3.77×10−9Mであった(表1および図3)。
【表1】

【0032】
その他の薬剤の測定では植物エストロゲンであるゲニステインでEC50は5.28×10−9M、RLAは163%、ジエチルスチルベストロール(DES)でEC50は5.33×10−7M、RLAは108%、エチニルエストラジオール(EE)でEC50は5.47×10−7M、RLAは130%と非常に強いアゴニスト活性が見られた。また、天然エストロゲンであるE1のEC50は1.32×10−14M、RLAは7.8%、E3のEC50は1.26×10−7、RLAは6.7%、プラスチック類に含まれるオクチルフェノールでは、EC50は5.57×10−7M、RLAは78%と高いアゴニスト活性を示した。そして、5β−デヒドロテストステロン(5β−DHT)、11−デオキシコルチステロン(11−DOC)、ビスフェノールA(BisA)、アミルフェノールで高い薬剤濃度でアゴニスト活性があるということが明らかになった。
【0033】
アンタゴニスト活性の測定では、ヒドロキシタモキシフェンIC50は1.47×10−7M、ラロキシフェンでIC50は1.55×10−8M、ICI182780でIC50は1.96×10−7M、p,p’−ジクロロジフェニルジクロロエチレン(p,p’−DDE)でIC50は5.71×10‐7Mと非常に強いアンタゴニスト活性が見られた。p,p’−ジクロロジフェニルジクロロエタン(p,p’−DDD)、ベンチオカーブ、アトラジン、タモキシフェンで弱いアンタゴニスト活性があることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】エストロゲン受容体α遺伝子発現ベクター導入細胞の各クローンのルシフェラーゼ転写活性を示す。横軸にクローン、縦軸にFold induction(エタノール添加群の発光強度との比)をとった。
【図2】HEK293細胞にエストロゲン受容体β遺伝子発現ベクターを導入した細胞と、Hepa−T1細胞にエストロゲン受容体β遺伝子発現ベクターを導入した細胞の、ルシフェラーゼ転写活性を示す。
【図3】エストロゲン受容体α遺伝子発現ベクター導入細胞について、E2(1mg/ml;最終濃度9.18×10−8M)を4倍希釈で10希釈段階で各々ルシフェラーゼ転写活性を測定した、用量−応答曲線を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚類に対するエストロゲン系攪乱物質の検出のための、配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、当該DNAと相補的な塩基配列からなるDNA、または当該DNAもしくは当該DNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつエストロゲン受容体α活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む、エストロゲン受容体α発現ベクター、及び該エストロゲンの標的となる遺伝子のプロモーターを結合させた外来遺伝子を導入した細胞。
【請求項2】
外来遺伝子がルシフェラーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼおよびβ−ガラクトシダーゼから選択される少なくとも1種由来の遺伝子である、請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
エストロゲン受容体α遺伝子発現ベクターおよび該エストロゲンの標的となる遺伝子のプロモーターを結合させた外来遺伝子を導入される細胞がHEK293細胞であることを特徴とする、請求項1または2に記載の細胞。
【請求項4】
魚類に対するエストロゲン系攪乱物質の検出のための、配列番号2に記載の塩基配列からなるDNA、当該DNAと相補的な塩基配列からなるDNA、または当該DNAもしくは当該DNAと相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつエストロゲン受容体β活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む、エストロゲン受容体β発現ベクター、及び該エストロゲンの標的となる遺伝子のプロモーターを結合させた外来遺伝子を導入した細胞。
【請求項5】
外来遺伝子がルシフェラーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼおよびβ−ガラクトシダーゼから選択される少なくとも1種由来の遺伝子である、請求項3に記載の細胞。
【請求項6】
エストロゲン受容体β遺伝子発現ベクターおよび該エストロゲンの標的となる遺伝子のプロモーターを結合させた外来遺伝子を導入される細胞がHepa−T1細胞であることを特徴とする、請求項4または5に記載の細胞。
【請求項7】
請求項1〜3に記載の細胞と、請求項4〜6に記載の細胞を用いて、各細胞についてレポータージーンアッセイを行うことを特徴とする、魚類に対するエストロゲン系攪乱物質の測定方法。
【請求項8】
試験溶液を請求項1〜3に記載の細胞と、請求項4〜6に記載の細胞に曝露する工程および外来遺伝子の発現量を測定する工程を含む、請求項7に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−77657(P2009−77657A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249537(P2007−249537)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(591237331)株式会社日吉 (6)
【出願人】(503303466)学校法人関西文理総合学園 (26)
【出願人】(391048049)滋賀県 (81)
【Fターム(参考)】