説明

エチレン酸コポリマーとポリアミドを含む毛羽立ち防止組成物

(1)約30〜約65重量%のポリアミドと、(2)以下の(a)、(b)、(c)及び(d)のコポリマー約70〜約35重量%と、すなわち、(a)エチレンと、(b)約5重量%〜約15重量%のα,β−不飽和C〜Cカルボン酸と、(c)エチレン性不飽和ジカルボン酸である約0.5重量%〜約12重量%の少なくとも1種類のコモノマーと、(d)アルキルアクリレートおよびアルキルメタクリレートから選択されるモノマーであって、アルキル基が1〜12個の炭素原子を有し、1種類または複数のアルカリ金属、遷移金属またはアルカリ土類金属カチオンにより少なくとも部分的に中和されている0重量%〜約30重量%のモノマーとのコポリマーと、を含む、毛羽立ち防止および耐擦傷性材料用のフィルム、シートおよび成形物品を製造するのに有用なエチレン酸コポリマーとポリアミドの組成物、ならびに装飾保護フィルムとしてのその使用が開示されている。これらの組成物から作成されたフィルムのような物品は、高い靭性、良好な機械的特性、良好な耐擦傷性および毛羽立ち防止性、中でも最も重要な、良好な光学的特性を示す。より具体的には、本発明のエチレンコポリマーとポリアミドの組成物は、毛羽立ちおよび擦傷に曝される対象物で保護コーティングまたは層として用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛羽立ち防止および耐擦傷性材料用フィルム、シートおよび成形物品を製造するのに有用なエチレン酸コポリマーとポリアミドの組成物、ならびに装飾保護フィルムとしてのその用途に関する。特に、本発明は、改善された耐擦傷性および毛羽立ち防止性を示す透明な(transparent)装飾保護表面を有するこれらの組成物から作成された物品に関する。
【背景技術】
【0002】
いくつかの新規なプロセスの結果、ポリマーフィルムは、コーティングの代わりに表面装飾および保護により頻繁に使われている。例えば、ポリマーフィルム装飾は、従来のコーティングプロセスよりも、設計の自由度を増し、コストを下げ、環境に、より適合する。多くのスポーツおよび工業物品の表面は、保護装飾フィルムで設計されている。多くの用途で、優れた処理性、機械的特性、衝撃靭性、耐擦傷性および優れた光学的特性を備えた新たな材料が必要とされる。最も重要なのは、これらの材料は、広い用途について手頃な価格で入手可能でなければならないことである。
【0003】
イオノマーは、有機鎖分子に加えて金属イオンを含有する熱可塑性樹脂である。イオノマーは、架橋ポリマーの固体特性と、未架橋熱可塑性ポリマーの溶融製造可能特性を有している(例えば、米国特許公報(特許文献1)参照)。米国特許公報(特許文献1)に開示されている通り、1種類のみの金属イオンをイオノマーの形成に用いることが不可欠ではなく、特定の用途においては2種類以上の金属イオンが好ましい場合もある。しかしながら、サーリン(Surlyn)(登録商標)のような市販のイオノマーは、単一の金属イオン、一般的には亜鉛またはナトリウムで中和されている。イオノマーの主たる用途は、パッケージングおよびスポーツグッズ、特にゴルフボールの分野である。
【0004】
その水のような透明性と高い靭性のお陰で、本願特許出願人よりサーリン(Surlyn)(登録商標)という商品名で入手可能なイオノマーは、フロアタイルの上部層のような保護装飾用途に用いることも開示されている((特許文献2)には、多層フローリング材料のトップコート層としてのイオノマーの使用について記載されている)。毛羽立ち防止とは、保護表面の表面を摺動している対象物により生成された摩擦熱により永久的に表面マークが形成されることに対する耐性として定義することができる。毛羽立ち防止は、保護装飾用途に用いるとき特に重要な特性である。上述した代表的なエチレンコポリマーイオノマーは、100℃未満の融点を有しており、この欠点を克服しようとすると、低密度ポリエチレンの融点である120℃が自然のバリアであることが分かる。比較的低い融点のために、エチレンコポリマーイオノマーは、特に毛羽が立ち易い。この結果、毎日の使用において、イオノマーの毛羽立ち防止は不十分となり、要求の厳しい用途においてイオノマーの使用を大いに妨げている。
【0005】
これまでは、イオノマーフィルムまたはシートでできた表面またはフィルムの擦傷または毛羽立ちの問題が生じると、有機化合物またはエポキシおよびホルムアルデヒド官能基のような外部からの架橋剤により、これらのイオノマーを架橋することによりこれらの問題を克服しなければならなかった。例えば、米国特許公報(特許文献3)および米国特許公報(特許文献4)は、この問題に取り組み、その解決を主張している。米国特許公報(特許文献3)は、ジイソシアネートにポリマーの成形物品を浸漬することを含むカルボキシル基を含有するポリマーの架橋プロセスを教示している。このプロセスの欠点としては、ジイソシアネートの毒性と共に、2工程(処理と浸漬)であることが挙げられる。米国特許公報(特許文献4)には、熱可塑性処理性の可能性のない実質的に熱硬化性ポリマーを与えるエチレンカルボン酸コポリマーおよびメラミンホルムアルデヒド樹脂系熱硬化性組成物が記載されている。
【0006】
この元来の問題の他の解決策として、異なる合成条件により融点を上げることが試みられている(米国特許公報(特許文献5))。この手法の短所は、ポリマー中の結晶領域が増大することが挙げられる。これによって、融点の増大が僅かで、透明度が減じ、従って毛羽立ち防止が減じる。同じく、耐擦傷性も大幅に悪化する。
【0007】
上述したこの問題を克服するやり方には短所がないわけではない。ポリエチレンの元々の融点により有効性が限定されるか、あるいは、プロセッサおよび/または保護用途に用いるイオノマーシートおよびフィルムの最終使用者に対して、大幅にコストや実行性の問題が増大したりする。
【0008】
ポリアミド(ナイロン)、特に、ナイロン−6は、多くの用途に用いることのできる重要なエンジニアリングポリマーである。しかしながら、装飾保護フィルム用途には用いることができない。ナイロン−6を装飾保護フィルム用途に用いるためには、靭性を改善し、剛性を減じ、光学透明性を向上することにより修正しなければならない。所望の靭性および剛性をもたらす更なる修正を行うと光学透明度が減じる傾向があり、ナイロン−6が不透明なフィルムへ変わる。米国特許公報(特許文献4)に記載されているようにポリアミドとイオノマーを混合すると、通常、良好な耐擦傷性とその他の表面特性が融合されるものの光学特性が非常に乏しくなる(すなわち、不透明)。この種のブレンドは通常、あるポリマーの微小粒子からなり、これが他のポリマーの連続相に分散されている。分散が不十分、かつ/または粒子が大きいと、光を透過するより散乱する傾向がある。その結果、ポリマーブレンドが不透明になる傾向がある。
【0009】
最近、新しい系列のイオノマーが米国特許公報(特許文献6)に開示されており、中和エチレン酸コポリマーを、一般的なイオノマーで用いるモノカルボン酸に加えたモノマーとしてジカルボン酸またはその誘導体を用いて調製する。これらのイオノマーは、一般的なイオノマーよりもポリアミドと良好な相容性があることが分かっている(米国特許公報(特許文献7)参照)。これらのイオノマーコポリマーは更に、アルキルアクリレートコモノマーを含有していてもよい。これらのエチレンコポリマーイオノマーのポリアミドとの優れた相容性によって、高結晶融点の合金が形成できる。
【0010】
【特許文献1】米国特許第3,262,272号明細書
【特許文献2】国際公開第95/11333号パンフレット
【特許文献3】米国特許第3,264,269号明細書
【特許文献4】米国特許第3,317,631号明細書
【特許文献5】米国特許第4,248,990号明細書
【特許文献6】米国特許第5,700,890号明細書
【特許文献7】米国特許第5,859,137号明細書
【特許文献8】米国特許第5,902,869号明細書
【特許文献9】米国特許第3,651,014号明細書
【特許文献10】米国特許第3,766,146号明細書
【特許文献11】米国特許第3,763,109号明細書
【特許文献12】米国特許第4,331,786号明細書
【特許文献13】米国特許第3,278,663号明細書
【特許文献14】米国特許第3,337,665号明細書
【特許文献15】米国特許第3,456,044号明細書
【特許文献16】米国特許第4,590,106号明細書
【特許文献17】米国特許第4,760,116号明細書
【特許文献18】米国特許第4,769,421号明細書
【特許文献19】米国特許第4,797,235号明細書
【特許文献20】米国特許第4,886,634号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ポリアミドおよびジカルボン酸コモノマーを含むイオノマーと、高重量パーセントで存在するイオノマーの特定のブレンドによって、2つのポリマーが互いに良好に分散するために良好な透明度を備えた熱可塑性組成物が得られることを見出した。更に、得られたブレンドは、非常に狭い粒子サイズ分布を有しており、かかるブレンドから作成した物品のフィルムまたは得られる表面は高い靭性、良好な機械的特性、良好な耐擦傷性および毛羽立ち防止性、中でも最も重要な、良好な光学的特性を示すことを見出した。
【0012】
従って、本発明のエチレンコポリマーとポリアミドの組成物は、毛羽立ちおよび擦傷に曝される対象物で保護コーティングまたは層として用いることができ有利である。例えば、本発明に有用な組成物は、スポーツグッズ(例えば、スキー、スキーやスケートのブーツ)の保護摩耗層、車両部品の外側コーティング、装飾ラミネートおよびフロアカバー等のその他対象物として用いることができる。乾燥スープミックス等といった硬い研磨物品を含むパッケージ構造においてシール層のようなその他の摩耗および擦傷に曝される対象物に用いてもよい。
【0013】
本発明に有用な組成物は、エチレンジカルボン酸コポリマーおよびポリアミドの組成物の透明度および高結晶融点を利用することにより、一般的なイオノマー組成物よりも優れた毛羽立ち防止性を与える。本発明の組成物は、意外なことに高レベルの透明度を維持しつつ優れた結晶融点を得る手段を提供することにより、上述した擦傷および毛羽立ちの問題を克服する。これは、ポリアミドと、ジカルボン酸部分を含むイオノマー間の優れた分散性により可能である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このように、本発明は、特に、毛羽立ちおよび擦傷に曝される対象物上の保護透明コーティングまたは層として用いられる、毛羽立ち防止および耐擦傷性の透明材料のフィルム、シートまたは成形物品を製造するための熱可塑性組成物を提供する。この熱可塑性組成物は、
(1)約30〜約65重量%のポリアミドと、
(2)以下の(a)、(b)、(c)及び(d)のコポリマー約70〜約35重量%と、すなわち、
(a)エチレンと、
(b)約5重量%〜約15重量%のα,β−不飽和C〜Cカルボン酸と、
(c)マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸およびマレイン酸のC〜Cのアルキルハーフエステルからなる群より選択されるエチレン性不飽和ジカルボン酸またはその誘導体である約0.5重量%〜約12重量%の少なくとも1種類のコモノマーと、
(d)アルキルアクリレートおよびアルキルメタクリレートから選択されるモノマーであって、アルキル基が1〜12個の炭素原子を有し、
存在するカルボン酸官能基が1種類または複数のアルカリ金属、遷移金属またはアルカリ土類金属カチオンにより少なくとも部分的に中和されている0重量%〜30重量%のモノマーと
のコポリマーと、
を含む。
【0015】
イオノマーコポリマーのエチレン性不飽和ジカルボン酸または誘導体コモノマー含量は、イオノマーコポリマーの4〜10重量%の範囲であるのが有利である。イオノマーコポリマー(成分2)が55重量%を超えるイオノマーコポリマーおよびポリアミド(成分1)の組み合わせた総重量であるときに特に、5重量%を超えるエチレン性不飽和ジカルボン酸コモノマー含量でヘーズおよび毛羽立ち防止の組み合わせにおける大きな改善が観察される。最も好ましくは、6〜8重量%のマレイン酸モノエチルエステルコモノマー含量を、40〜60パーセントが中和されたエチレン/メタクリル酸/マレイン酸モノメチルエステルコポリマーと共に用いる。
【0016】
本組成物は、例えば、シートの押出しまたは鋳造、またはフィルムのブロー、または成形物品の射出成形により処理してもよい。従って、本発明はまた、上述した組成物を含む物品も提供する。注目すべきは、透明な保護耐擦傷性フィルムまたはシートである本発明の組成物の付いた物品であることである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
「コポリマー」とは、2種類以上の異なるモノマーを含有するポリマーのことを意味する。「ジポリマー」および「ターポリマー」という用語は、2種類および3種類のみの異なるモノマーをそれぞれ含有するポリマーのことを意味する。「様々なモノマーのコポリマー」という言い回しは、単位が様々なモノマーから誘導されたコポリマーのことを意味する。
【0018】
熱可塑性樹脂は、圧力をかけて加熱すると流れるポリマー材料である。メルトインデックス(MI)は、温度および圧力の制御された条件下での特定の毛管を通したポリマーの流れの質量レートである。一般的に、ASTM 1238に従って測定される。
【0019】
本発明は、保護装飾用途に極めて好適な新規な材料を提供するナイロン−6のようなポリアミドと、特別の系列のイオノマー(無水サーリン(Surlyn)(登録商標))から選択されるイオノマーの融合であるポリマーブレンドを提供する。基本的に、新規な材料は、望ましい属性の大半を保持し続けながら、ポリアミドとイオノマーの両方の主たる欠点のいくつかを克服するものである。上述した通り、本発明に用いるイオノマーは、大量のジカルボン酸部分を含有するサーリン(Surlyn)(登録商標)イオノマー系列から選択される。多くのジカルボン酸部分がイオノマーに存在すると、ポリアミドとの相容性が向上し、非常に良好な透明度のブレンドを提供する。大量のジカルボン酸部分は、2つの独特な特徴を無水サーリン(Surlyn)(登録商標)とナイロン6のようなポリアミドのブレンドに与える。第1に、無水サーリン(Surlyn)(登録商標)は非常に細かい粒子でポリアミドに分散され、第2に、粒子サイズ分布が非常に狭い。
【0020】
従って、本発明は、(1)約30〜約65重量%のポリアミドと、
(2)以下の(a)、(b)、(c)及び(d)のコポリマーを含む約70〜約35重量%のイオノマー組成物、すなわち、
(a)エチレンと、
(b)約5重量%〜約15重量%のα,β−不飽和C〜Cカルボン酸と、
(c)マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸およびマレイン酸のC〜Cのアルキルハーフエステルからなる群より選択されるエチレン性不飽和ジカルボン酸またはその誘導体である0.5重量%〜12重量%の少なくとも1種類のコモノマーと、
(d)アルキルアクリレートおよびアルキルメタクリレートから選択されるモノマーであって、アルキル基が1〜12個の炭素原子を有し、
存在する前記カルボン酸官能基が1種類または複数のアルカリ金属、遷移金属またはアルカリ土類金属カチオンにより少なくとも部分的に中和されている0重量%〜約30重量%のモノマーと
のコポリマーを含むイオノマー組成物と、
を含む熱可塑性組成物を含む物品を提供する。
【0021】
イオノマー樹脂(「イオノマー」)は、アクリル酸(AA)、メタクリル酸(MAA)および/またはその他酸のような不飽和カルボン酸と、任意選択的に軟化性コモノマーの金属塩を含んだエチレン(E)のようなオレフィンのイオン性コポリマーである。少なくとも1種類のアルカリ金属、遷移金属またはリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムまたは亜鉛のようなアルカリ土類金属カチオン、またはかかるカチオンの組み合わせを用いて、コポリマー中の酸性基のある部分を中和すると、向上した特性を示す熱可塑性樹脂が得られる。例えば、エチレンとアクリル酸のコポリマーは、1種類または複数のアルカリ金属、遷移金属またはアルカリ土類金属カチオンにより少なくとも部分的に中和してイオノマーを形成することができる。コポリマーもまた、エチレンのようなオレフィン、不飽和カルボン酸、およびアルキル(メソ)アクリレートのようなその他のコモノマーから作成して、中和されると軟性のイオノマーを形成する「軟性」樹脂を与えることができる。
【0022】
本発明に有用なイオノマーは、1種類または複数のアルカリ金属、遷移金属またはアルカリ土類金属カチオン(無水サーリン(Surlyn)(登録商標))により少なくとも部分的に中和された無水マレイン酸やエチルマレイン酸水素のようなエチレン性不飽和ジカルボン酸コモノマーから誘導された大量のジカルボン酸部分を含有しているサーリン(Surlyn)(登録商標)イオノマー系列からなる。約3重量%〜約25重量%の量のエチレン性不飽和ジカルボン酸であるエチレン、α,β−不飽和C〜Cカルボン酸と少なくとも1種類のコモノマーのコポリマーである。ジカルボン酸コモノマーは、約4重量%〜約10重量%の量で存在しているのが好ましい。不飽和ジカルボン酸コモノマーは、例えば、無水マレイン酸(MAH)、エチルマレイン酸水素(マレイン酸モノエチルエステル−MAMEとしても知られている)、イタコン酸(ITA)等である。
【0023】
低量のエチレン性不飽和ジカルボン酸コモノマーを含む非中和エチレン酸コポリマー(米国特許公報(特許文献8))は知られており、そのイオノマー誘導体(米国特許公報(特許文献6)参照)も同様である。
【0024】
上述した通り、アルキル(メソ)アクリレートのようなコモノマーは、エチレン酸コポリマーに含めて、アルカリ金属、アルカリ土類金属または遷移金属カチオンで中和可能な様々なモノマーのコポリマーを形成することができる。好ましいのは、1〜8個の炭素原子のアルキル基を有するアルキルアクリレートおよびアルキルメタクリレートから選択されるコモノマーであり、より好ましいのはメチルアクリレート、エチルアクリレートおよびn−ブチルアクリレート(nBA)から選択されるコモノマーである。アルキル(メソ)アクリレートは、0〜約30重量%のアルキル(メソ)アクリレート、好ましくは0〜約15重量%の量で含まれる。
【0025】
本発明に有用なコポリマーとしては、エチレン、メタクリル酸およびエチルマレイン酸水素(E/MAA/MAME)のコポリマー、およびエチレン、アクリル酸および無水マレイン酸(E/AA/MAH)のコポリマーが例示される。
【0026】
エチレン酸コポリマーの中和は、まず、エチレン酸コポリマーを製造し、このコポリマーを無機塩基で、アルカリ金属、アルカリ土類金属または遷移金属カチオンにより処理することにより行うことができる。コポリマーは、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、鉛、錫、亜鉛、アルミニウム、またはかかるカチオンの組み合わせから選択される少なくとも1種類の金属イオンにより約10〜約99.5%中和することができる。一般的に、中和は約10〜約70%である。コポリマーは、ナトリウム、亜鉛、リチウム、マグネシウムおよびカルシウム、より好ましくは亜鉛またはマグネシウムから選択される少なくとも1種類の金属イオンで中和することによりイオン化された約35〜約70%の使用可能なカルボン酸基を有するのが好ましい。特に注目すべきは、中和カチオンとして亜鉛を含むイオノマーである。同じく、注目すべきは、酸基が亜鉛とマグネシウムイオンの組み合わせで中和されたコポリマーである。コポリマーからイオノマーを調製する方法は業界では周知である。
【0027】
本発明に用いるポリアミドは当業者に周知である。本発明に好適なポリアミドは、通常、ラクタムまたはアミノ酸(例えば、ナイロン−6またはナイロン−11)、またはヘキサメチレンジアミンのようなジアミンのコハク酸、アジピン酸またはセバシン酸のような二塩基酸による縮合から調製される。これらのコポリマーおよびターポリマーもまた含まれる。本発明に有用な好ましいポリアミドとしては、ポリイプシロンカプロラクタム(ナイロン−6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン−6,6)、ナイロン−11、ナイロン−12、ナイロン−12,12およびナイロン−6/6,6、ナイロン−6,10、ナイロン−6,12、ナイロン−6,6/12、ナイロン−6/6、6/6、10およびナイロン−6/6Tのようなコポリマーおよびターポリマーが挙げられる。より好ましいポリアミドは、ポリイプシロンカプロラクタム(ナイロン−6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン−6,6)であり、最も好ましいのはナイロン−6である。上述したこれらのポリアミドは好ましいポリアミドであるが、アモルファスポリアミドのようなその他のポリアミドが排除されるわけではない。
【0028】
本発明の組成物は、任意選択的に、ポリアミド成分(1)とイオノマーコポリマー成分(2)とブレンドした追加の熱可塑性材料を含むことができる。追加の成分をブレンドすると、エチレン酸コポリマー中のモノマーのパーセンテージを変えることに加えて、組成物中に存在する追加の成分の量および種類を操作することにより、本発明の組成物の特性をより容易に修正することができる。更に、追加の熱可塑性材料をブレンドすると、後に変性して所望の特性を得ることのできる少なめのベース樹脂を調製することによって、ポリマー組成物を容易に低コストで製造することができる。成分(1)および(2)に加えて用いることのできるその他の熱可塑性材料としては、非イオノマー熱可塑性コポリマーおよび/またはイオノマー熱可塑性コポリマーが例示される。追加の非イオン性熱可塑性ポリマー成分は、コポリエーテルエステル、コポリエーテルアミド、エラストマーポリオレフィン、スチレンジエンブロックコポリマー、熱可塑性ポリウレタン等から選択することができ、これらの部類のポリマーは業界に周知である(これらの材料の詳細な説明については下記を参照のこと)。
【0029】
特に着目すべきは、従来のイオノマー(例えば、ジカルボン酸コモノマーを含まないイオノマー)を更に含む成分(1)と成分(2)のブレンドである。従って、本発明の組成物は、前述した通り、成分(1)と成分(2)のブレンドを含み、更に、1種類または複数のE/X/Yコポリマー(3)を含む。式中、Eはエチレン、XはC〜Cα,βエチレン性不飽和カルボン酸、Yは、アルキル基が1〜8個の炭素原子であるアルキルアクリレートおよびアルキルメタクリレートから選択されるコモノマー、XはE/X/Yコポリマーの2〜30重量%の範囲で存在し、YはE/X/Yコポリマーの0〜40重量%の範囲で存在し、1種類または複数のアルカリ金属、遷移金属またはアルカリ土類金属カチオンにより少なくとも部分的に中和されている。従来のイオノマーとしては、これらに限られるものではないが、E/15MAA/Na、E/19MAA/Na、E/15AA/Na、E/19AA/Na、E/15MAA/MgおよびE/19MAA/Li(式中、Eはエチレンを表し、MAAはメタクリル酸を表し、AAはアクリル酸を表し、数字はコポリマー中に存在するモノカルボン酸の重量%を表し、元素記号は中和カチオンを表す)が例示される。かかる従来のイオノマーまたは従来のイオノマーの組み合わせを、ジカルボン酸コモノマーを含有するポリマーとイオノマーコポリマーのブレンドに添加すると、従来のイオノマーは成分2の半分(50重量%)まで置換することができる。
【0030】
本発明の組成物は、可塑剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、加水分解安定剤、帯電防止剤、染料または顔料、フィラー、難燃剤、潤滑剤、ガラスファイバーやフレークのような強化剤、処理助剤、ブロック防止剤、剥離剤および/またはこれらの混合物をはじめとするポリマー材料に用いる従来の添加剤のような任意の材料を更に含むことができる。
【0031】
本発明の組成物は、当業者に知られた様々な手段により物品へと形成することができる。例えば、本発明の組成物を成形または押出して、所望の形状の物品を提供することができる。本発明の組成物は、切断、射出成形、オーバーモールド、ラミネート、押出し、ミル等して、所望の形状およびサイズとすることができる。任意選択的に、本発明の導電性熱可塑性組成物を含む物品を更に処理してもよい。例えば、組成物の一部(これらに限られるものではないが、ペレット、スラグ、ロッド、ロープ、シートおよび成形または押出し物品等)に、熱成形操作を施して、組成物に熱、圧力および/またはその他機械的な力を与えて成形物品を生成してもよい。圧縮成形が更なる処理の一例である。
【0032】
エチレン酸コポリマー−ポリアミドブレンドを含む本発明の物品は更に他の成分を含んでいてもよい。例えば、本発明の組成物は、多層ポリマー構造の1層または複数の層として含まれていてもよい。本発明の組成物の層およびその他ポリマー層は別々に形成してから、互いに接着接合して、本発明の物品を形成してもよい。本発明の物品はまた、層の一部または全てを基材に押出しコーティングまたはラミネートすることにより製造してもよい。本発明の物品としては、擦傷に曝される対象物上で透明な耐擦傷性フィルムまたはシートへと変形された本発明の組成物を含む物品、自動車内装または外装の透明な耐擦傷性層として用いられるシートである本発明の組成物を含む物品、フロアリングタイルまたはシート用の透明な耐擦傷性層として用いられるシートである本発明の組成物を含む物品、スポーツグッズ用の透明な耐擦傷性層として用いられるシートである本発明の組成物を含む物品、および乾燥研磨製品用のパッケージングフィルムとして用いられるフィルムである本発明の組成物を含む物品が例示される。
【0033】
本発明の物品の成分のいくつかを共押出しにより併せて形成してもよい。成分が比較的平坦な場合はとりわけである。このように、本発明の物品は、多層共押出しフィルムまたはシートにおいて本発明の組成物の層と、異なる熱可塑性材料の1枚または複数の追加の層を含むフィルムまたはシートであってもよい。例えば、熱可塑性樹脂の追加の層を含めて、本発明の組成物が接合して、物品の保護を与え、外観を改善する構造層を提供してもよい。注目すべきは、少なくとも1枚の追加の層にイオノマー材料を含む多層構造である。この多層構造は、シートを成形物品へと熱形成することにより更に処理することができる。例えば、多層構造のシートは、携帯通信装置用のケースへ形成したり、バンパー、フェンダーまたはパネルのような自動車部品に含めることのできる成形ピースへと形成することができる。
【0034】
多成分または多層構造(例えば、フィルムまたはシート)において本発明の組成物から形成された成分に加えて物品の成分を形成することができるその他の熱可塑性材料は、非イオノマー熱可塑性コポリマーおよび/またはイオノマー熱可塑性コポリマーから選択することができる。追加の熱可塑性ポリマー成分は、コポリエーテルエステル、コポリエーテルアミド、エラストマーポリオレフィン、スチレンジエンブロックコポリマー、熱可塑性ポリウレタン等から選択することができ、これらの部類のポリマーは業界に周知である。
【0035】
非イオン性熱可塑性樹脂としては、これらに限られるものではないが、ポリウレタン、ポリ−エーテル−エステル、ポリ−アミド−エーテル、ポリエーテル−ウレア、PEBAX(アトケム(Atochem)より市販されているポリエーテル−ブロック−アミドに基づくブロックコポリマー系列)、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)ブロックコポリマー、スチレン(エチレン−ブチレン)−スチレンブロックコポリマー等といった熱可塑性エラストマー、ポリアミド(オリゴマーおよびポリマー)、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/プロピレンコポリマー等を含むポリオレフィン、酢酸ビニル、(メソ)アクリレート、(メソ)アクリル酸、エポキシ官能性付与モノマー、CO等といった様々なコモノマーとのエチレンコポリマー、無水マレイン酸との官能性付与ポリマー、共重合かグラフトによりエポキシ化されたもの、EPDM、メタロセン触媒PEおよびコポリマーのようなエラストマー、熱硬化性エラストマーの粉砕粉末等が挙げられる。
【0036】
従来のイオノマーとしては、これらに限られるものではないが、E/15MAA/Na、E/19MAA/Na、E/15AA/Na、E/19AA/Na、E/15MAA/MgおよびE/19MAA/Li(式中、Eはエチレンを表し、MAAはメタクリル酸を表し、AAはアクリル酸を表し、数字はコポリマー中に存在するモノカルボン酸の重量%を表し、元素記号は中和カチオンを表す)が例示される。
【0037】
コポリエーテルエステルは、米国特許公報(特許文献9)、米国特許公報(特許文献10)および米国特許公報(特許文献11)のような特許に詳細に述べられている。好ましいコポリエーテルエステルポリマーは、ポリエーテルセグメントがテトラヒドロフランの重合により得られ、ポリエステルセグメントがテトラメチレングリコールおよびフタル酸の重合により得られるようなものである。コポリエーテルエステルへと組み込まれるポリエステル単位が多ければ多いほど、ポリマーが軟性になる。
【0038】
コポリエーテルアミドもまた、例えば、米国特許公報(特許文献12)に記載されているように業界で周知である。直線で規則的な鎖の剛性ポリアミドセグメントと可撓性ポリエーテルセグメントから構成されている。
【0039】
エラストマーポリオレフィンは、エチレンと、プロピレン、ヘキセン、オクテンのような高級一次オレフィンと、任意選択的に、1,4−ヘキサジエンおよびまたはエチリデンノルボルネンまたはノルボルナジエンから構成されたポリマーである。エラストマーポリオレフィンは、無水マレイン酸で官能性付与することができる。
【0040】
熱可塑性ポリウレタンは、硬性ブロックと軟性エラストマーブロックとからなる直線またはやや分岐鎖のポリマーである。軟性ヒドロキシ末端エラストマーポリエーテルまたはポリエステルを、メチレンジイソシアネート(MDI)またはトルエンジイソシアネート(TDI)のようなジイソシアネートと反応することによりそれらは生成される。これらのポリマーは、グリコール、ジアミン、二酸またはアミノアルコールで鎖伸張させることができる。イソシアネートとアルコールの反応生成物は、ウレタンと呼ばれ、これらのブロックは比較的硬性で高融点である。これらの硬性の高融点ブロックは、ポリウレタンの熱可塑性を担うものである。
【0041】
ブロックスチレンジエンコポリマーは、ポリスチレン単位とポリジエン単位から構成される。ポリジエン単位は、ポリブタジエン、ポリイソプレン単位またはこれら2種のコポリマーから誘導される。コポリマーの場合には、ポリオレフィンを水素添加すると飽和ゴム状骨格セグメントが得られる。これらの材料は、通常、SBS、SISまたはSEBS熱可塑性エラストマーと呼ばれ、同じく無水マレイン酸で官能性付与することができる。
【0042】
本発明のラミネートフィルムは、次のようにして共押出しにより作成することができる。様々な成分の顆粒を押出し機中で溶融する。溶融ポリマーをダイまたは一組のダイに通過させて、層流として処理される溶融ポリマー層を形成する。溶融ポリマーを冷却して層状構造を形成する。溶融押出しポリマーは、好適な変換技術を用いてフィルムへ変換することができる。例えば、本発明のフィルムはまた、共押出しの後、1層または複数の他の層にラミネーションすることによっても作成することができる。その他の好適な変換技術は、例えば、ブローンフィルム押出し、鋳造フィルム押出し、鋳造シート押出しおよび押出しコーティングである。
【0043】
本発明のフィルムはフィルムの即時冷却または鋳造を超えて更に配向させることができる。このプロセスは、溶融ポリマーの層流を(共)押出しする工程と、(共)押出し物を急冷する工程と、急冷した(共)押出し物を少なくとも一方向に配向する工程とを含む。フィルムは単軸配向してもよいし、機械的特性と物理的特性の満足いく組み合わせを得るために、フィルムの面に互いに垂直な方向に延伸することにより二軸配向することもできる。
【0044】
フィルムを単軸または二軸延伸するための配向および延伸装置は業界に公知であり、本発明のフィルムを製造するのに当業者は対応できる。かかる装置およびプロセスとしては、例えば、米国特許公報(特許文献13)、米国特許公報(特許文献14)、米国特許公報(特許文献15)、米国特許公報(特許文献16)米国特許公報(特許文献17)、米国特許公報(特許文献18)、米国特許公報(特許文献19)および米国特許公報(特許文献20)に記載されているようなものが例示される。
【0045】
本発明の一実施形態において、本発明のフィルムは、ダブルバブル押出しプロセスを用いて配向される。一次管を押出し、後に冷却、再加熱してから、内部ガス圧力により膨張させて、交差配向を行い、長手方向配向を行う異なる速度ニップまたは搬送ローラにより延伸することにより同時に二軸配向を行うものである。
【0046】
配向ブローンフィルムを得るための処理は、ダブルバブル技術として業界に公知であり、米国特許公報(特許文献15)(パールク(Pahlke))に記載されている通りに実施することができる。具体的には、一次管は環形ダイから溶融押出しされる。結晶化を最小にするために、この押出された一次管を即時に冷却してから壊す。配向温度まで加熱する(例えば、水浴により)。フィルム製造機の配向ゾーンにおいて、膨張により二次管を形成して、フィルムを放射状に交差方向に膨張させ、膨張が両方向に、好ましくは同時に生じるような温度で機械方向に引っ張る、または延伸し、管の膨張は、延伸点の厚さの鋭い、急な減少を伴う。管状フィルムをニップロールを通して再び平坦化する。フィルムを再膨張させアニール工程(熱定着)を通過させることができ、この工程でもう一度加熱して、収縮特性を調整する。用途によっては、フィルムを管状形態に維持するのが望ましい場合がある。平らなフィルムを作成するには、管状フィルムを長さ方向に切り開いて、平らなシートへと広げると、巻いたり、かつ/または更に処理することができる。
【0047】
本発明の組成物は、不織材料をはじめとするポリマー材料のシートまたはフィルムを含む基材にラミネートしてもよい。本発明の組成物はまた、ガラス、紙、金属ホイル等といったその他の非ポリマー材料にラミネートしてもよい。例えば、本発明の組成物を含むシートまたはフィルムを基材に接合して、共押出し、押出しコーティングまたはラミネーション技術によりフロアリングタイルまたはシートとすることができる。
【0048】
上述した通り、本発明の組成物を含むシートまたはフィルムを成形基材へ接合すると保護層となる。例えば、シートを熱および/または圧力により熱成形して、基材に接合すると、自動車部品またはスポーツグッズを形成することができる。
【0049】
本発明の組成物はまた、射出成形または圧縮成形により成形基材に接合することもできる。
【0050】
本発明を、好ましい実施形態に関して特別に示し、記載してきたが、形態および詳細における様々な変更を、本発明の技術思想および範囲から逸脱することなく行えることは当業者には明白であるものと考えられる。
【実施例】
【0051】
以下の実施例は単なる例証にすぎず、記載した本発明の範囲および/または請求の範囲を限定するものとは解釈されない。
【0052】
(材料の処理および試験の説明)
本発明の毛羽立ち防止および耐擦傷性透明材料のフィルムまたはシートまたは成形物品を製造する熱可塑性組成物としては、ポリアミドとブレンドされるモノマーとしてモノカルボンおよびジカルボン酸との中和エチレン酸コポリマーが例示される。具体的な例については下記の表1を参照のこと。表1には、モノマー(すなわち、無水サーリン(Surlyn)(登録商標))としてモノカルボンおよびジカルボン酸とのポリアミド(すなわち、ナイロン−6)と中和エチレン酸コポリマーのブレンドの特性が示してある。ブレンドは、30mmの二軸押出し機にてベース樹脂を溶融混合することにより調製された。用いたポリマーを表1に示す。
(ナイロン−6ウルトラミッド(Ultramid)B3(BASF製))
無水サーリン(Surlyn)(登録商標)A:エチレン、11重量%のメタクリル酸、6重量%の無水マレイン酸モノエチルエステルを含むターポリマーであり、公称40%の利用可能なカルボン酸部分が、融点98℃の亜鉛カチオンで中和されている(E/11MAA/6MAME/40Zn)。
無水サーリン(Surlyn)(登録商標)B:エチレン、11重量%のメタクリル酸、6重量%の無水マレイン酸モノエチルエステルを含むターポリマーであり、公称60%の利用可能なカルボン酸部分が、亜鉛カチオンで中和されている(E/11MAA/6MAME/60Zn)。
【0053】
得られたブレンドを押出して、後述する射出成形プラークまたはフィルムのいずれかを形成した。
【0054】
射出成形試料で、ASTM D−256を用いてアイゾット衝撃を測定した。厚さ約10〜15ミルのプレス成形フィルムで、ASTM D−638を用いて引っ張り強度を測定した。厚さ約10〜15ミルのプレス成形フィルムを用いて、ASTM D1003に従って透明度ヘーズを測定した。
【0055】
実験室2本ロールミルでブレンドのシートを作成して、このようにして得られたシートを水圧プレスで、100mm×100mm×3mmの寸法のプラークへとプレスすることができる。これらのプラークを、ISO1518に従ってエイリクセン(Eirichsen)により引っ掻き試験機を用いて即時および1ヵ月後に耐擦傷性を試験した。0.1〜2kgの重りをニードルに適用してプラークの表面に延伸するものである。この装置により、引っ掻きマークが表面で目視される力をニュートンで測定する。
【0056】
毛羽立ち試験も行った。この種の試験は規格化されておらず、毛羽立ち試験の当業者により異なるバージョンが用いられている。通常、毛羽立ちマークの激しさは、摩擦熱の影響によるポリマーの溶融し易さに関係している。毛羽立ち試験は、一般的に、試料表面に、可動する対象物の高速摩擦を与えることからなる。この場合、可動する対象物は、ASTM D3389によるテーバー摩耗機ホイールCSOであった。ホイールを、振り子半径が86cm、質量が2.96kgの振り子を用いて試料表面で動かした。ホイールの軸が毛羽立った表面に対して45度の角度をなすように、テーバー摩耗機ホイールを固定する。更に、振り子の動きを減速するために、毛羽立った、または毛羽立たせる試料表面を床/地面表面に対して5度の角度に配置する。得られた毛羽立ちマークを、1〜5の基準で判断した。1が僅か、5が激しい、である。この毛羽立ち測定では、市販の等級のサーリン(Surlyn)(登録商標)(E/15%MAA−Zn)に「5」(すなわち、不合格)の格付けが割り当てられ、2〜3以下の比較の格付けは合格と考えられた。
【0057】
比較例C−1およびC−2(すなわち、低量の無水サーリン(Syrlyn)(登録商標)とナイロン−6のブレンド)は、低い衝撃強度と、乏しい光学特性(表1に記録したヘーズ値により示される通り)を示す。これとは対照的に、表1のデータによれば、本発明に従って調製されたブレンド(すなわち、大量の無水サーリン(Surlyn)(登録商標)とナイロン−6)は、高い靭性、良好な機械的強度、優れた毛羽立ち防止性および耐擦傷性および良好な光学的特性を有していることが明らかに示されている。これらの特性は全て、装飾保護フィルム用途に必要なものである。
【0058】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)30〜65重量%のポリアミドと、
(2)以下の(a)、(b)、(c)及び(d)のコポリマーを含む70〜35重量%のイオノマー組成物、すなわち、
(a)エチレンと、
(b)5重量%〜15重量%のα,β−不飽和C〜Cカルボン酸と、
(c)マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸およびマレイン酸のC〜Cのアルキルハーフエステルからなる群より選択されるエチレン性不飽和ジカルボン酸またはその誘導体である0.5重量%〜12重量%の少なくとも1種類のコモノマーと、
(d)アルキルアクリレートおよびアルキルメタクリレートから選択されるモノマーであって、前記アルキル基が1〜12個の炭素原子を有し、
存在する前記カルボン酸官能基が1種類または複数のアルカリ金属、遷移金属またはアルカリ土類金属カチオンにより少なくとも部分的に中和されている0重量%〜30重量%のモノマーと
のコポリマーを含むイオノマー組成物と、
を含む熱可塑性組成物を含むことを特徴とする物品。
【請求項2】
前記ポリアミドが、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン11およびナイロン12からなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の物品。
【請求項3】
成分(2)(c)が4〜10重量%の範囲で存在していることを特徴とする請求項2に記載の物品。
【請求項4】
成分(2)(c)がマレイン酸のC〜Cアルキルハーフエステルであることを特徴とする請求項3に記載の物品。
【請求項5】
前記成分(2)のイオノマー組成物が、1種類または複数のE/X/Yコポリマーを更に含み、式中、Eはエチレン、XはC〜Cエチレン性不飽和カルボン酸、Yは、アルキル基が1〜8個の炭素原子であるアルキルアクリレートおよびアルキルメタクリレートから選択されるコモノマー、XはE/X/Yコポリマーの2〜30重量%の範囲で存在し、YはE/X/Yコポリマーの0〜40重量%の範囲で存在することを特徴とする請求項1に記載の物品。
【請求項6】
フィルムまたはシートであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の物品。
【請求項7】
a)保護用の透明な(transparent)毛羽立ち防止または耐擦傷性層としての請求項1に記載の組成物の第1の共押出し層と、b)少なくとも1層の共押出しされた第2のポリマー層とを含む多層フィルムまたはシートであることを特徴とする請求項6に記載の物品。
【請求項8】
前記第2の共押出し層と接触する少なくとも1層の追加の共押出しされた第3のポリマー層を更に含むことを特徴とする請求項7に記載の多層フィルムまたはシート。
【請求項9】
1層または複数の前記共押出しポリマー層が、顔料、染料、フレークまたはこれらの混合物を含むことを特徴とする請求項7または8に記載の多層フィルムまたはシート。
【請求項10】
前記第1の共押出しポリマー層が透明(clear)であり、前記第2の共押出しポリマー層が、顔料、染料、フレークまたはこれらの混合物を含むことを特徴とする請求項7または8に記載の多層フィルムまたはシート。
【請求項11】
前記第2の共押出しポリマー層が、イオノマー、イオノマー−ポリエチレンブレンド、イオノマー−ポリアミドブレンド、極低密度ポリエチレン、エチレン極性コポリマーおよびこれらのブレンドからなる群より選択されることを特徴とする請求項7または8に記載の多層フィルムまたはシート。
【請求項12】
乾燥研磨製品をパッケージするのに用いられることを特徴とする請求項7または8に記載のフィルムまたはシート。
【請求項13】
対象物の透明な毛羽立ち防止または耐擦傷性カバーとして用いられることを特徴とする請求項7または8に記載のフィルムまたはシート。
【請求項14】
請求項7または8に記載のフィルムまたはシートが透明な毛羽立ち防止または耐擦傷性カバーとして接合した基材を含むことを特徴とする物品。
【請求項15】
フローリングタイルまたはシートであることを特徴とする請求項14に記載の物品。
【請求項16】
スポーツグッズであることを特徴とする請求項14に記載の物品。
【請求項17】
車両の一部であることを特徴とする請求項14に記載の物品。
【請求項18】
(1)30〜65重量%のポリアミドと、
(2)以下の(a)、(b)、(c)及び(d)のコポリマーを含む70〜35重量%のイオノマー組成物、すなわち、
(a)エチレンと、
(b)5重量%〜15重量%のα,β−不飽和C〜Cカルボン酸と、
(c)マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸およびマレイン酸のC〜Cのアルキルハーフエステルからなる群より選択されるエチレン性不飽和ジカルボン酸またはその誘導体である4重量%〜10重量%の少なくとも1種類のコモノマーであって、(b)と(c)の総重量%が9重量%から25重量%であるコモノマーと、
(d)アルキルアクリレートおよびアルキルメタクリレートから選択されるモノマーであって、前記アルキル基が1〜12個の炭素原子を有し、全成分中で使用される前記カルボン酸官能基が1種類または複数のアルカリ金属、遷移金属またはアルカリ土類金属カチオンにより少なくとも部分的に中和されている0重量%〜30重量%のモノマーと、
のコポリマーを含むイオノマー組成物と、
を含むことを特徴とする熱可塑性組成物。
【請求項19】
前記ポリアミドが、ナイロン6、ナイロン11およびナイロン12からなる群より選択されることを特徴とする請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
成分(2)(c)が、前記成分(2)のイオノマーコポリマーの重量に対して5重量%よりも多いマレイン酸のC〜Cアルキルハーフエステルであることを特徴とする請求項18に記載の組成物。
【請求項21】
前記マレイン酸のハーフエステルが6〜8重量パーセントで存在することを特徴とする請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記成分2のイオノマーコポリマーが55重量パーセントを超えて前記熱可塑性組成物中に存在し、前記ポリアミドがナイロン6であることを特徴とする請求項20または21に記載の組成物。
【請求項23】
前記成分(2)のイオノマー組成物が、前記エチレン性不飽和ジカルボン酸またはその誘導体のコモノマーを有するエチレン/α,β−不飽和C3〜C8カルボン酸コポリマーの前記重量%に対して、前記エチレン性不飽和ジカルボン酸またはその誘導体のコモノマーを有さない前記エチレン/α,β−不飽和C3〜C8カルボン酸コポリマーを等重量%まで更に含むことを特徴とする請求項18に記載の組成物。
【請求項24】
(1)30〜65重量%のポリアミドと、
(2)以下の(a)、(b)、(c)及び(d)のコポリマーを含む70〜35重量%のイオノマー組成物、すなわち、
(a)エチレンと、
(b)5重量%〜15重量%のα,β−不飽和C〜Cカルボン酸と、
(c)マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸およびマレイン酸のC〜Cのアルキルハーフエステルからなる群より選択されるエチレン性不飽和ジカルボン酸またはその誘導体である5重量%を超え12重量%までの少なくとも1種類のコモノマーであって、(b)と(c)の総重量%が9重量%から25重量%であるコモノマーと、
(d)アルキルアクリレートおよびアルキルメタクリレートから選択されるモノマーであって、前記アルキル基が1〜12個の炭素原子を有し、全成分中で使用される前記カルボン酸官能基が1種類または複数のアルカリ金属、遷移金属またはアルカリ土類金属カチオンにより少なくとも部分的に中和されている0重量%〜30重量%のモノマーと、
のコポリマーを含むイオノマー組成物と、
のブレンドから実質的になる毛羽立ち防止透明コーティングを含むことを特徴とする透明な装飾保護コーティングを有する物品における特有の改良。
【請求項25】
前記ポリアミドが、ナイロン−6であり、前記イオノマー組成物が、エチレン/メタクリル酸/マレイン酸モノメチルエステルコポリマーであり、前記コポリマーが40〜60パーセント中和されており、6〜8重量%のマレイン酸モノメチルエステルコモノマーを含有することを特徴とする請求項24に記載の物品における特有の改良。

【公表番号】特表2006−526684(P2006−526684A)
【公表日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−509093(P2006−509093)
【出願日】平成16年6月4日(2004.6.4)
【国際出願番号】PCT/US2004/018238
【国際公開番号】WO2004/113445
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】