説明

エチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体粉体及びそれを塗装してなる物品

【課題】接着性に優れるエチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体粉体及び該粉体を塗装した物品の提供。
【解決手段】テトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位(A)、エチレンに基づく繰り返し単位(B)及び酸無水物残基と重合性不飽和結合とを有するモノマーに基づく繰り返し単位(C)を含有し、(A)/(B)がモル比で20/80〜80/20であり、(C)/((A)+(B))がモル比で1/10000〜5/100であるエチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体からなる粉体、該粉体と熱安定剤とを含有する粉体組成物及び該粉体を塗装した物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体粉体及び物品に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体(以下、ETFEという。)は、耐熱性、耐薬品性、耐候性、ガスバリア性等に優れる。ETFEを成形又は塗装して得られた物品は、半導体産業や自動車産業等の種々の分野で使用されている。成形方法としては、押出し成形、射出成形、粉体塗装等の種々の成形方法が適用されるが、特に、静電塗装や回転成形等の粉体塗装は、通常の押出し成形、射出成形等の方法では製造しにくい異型形状の容器、タンク、配管、継ぎ手等の物品の製造に適する。
【0003】
一般に、ETFEは、パーフルオロフッ素樹脂と比較して、基材との接着性に優れることから、通常、粉体塗装時に基材をプライマー処理する必要がない。しかし、近年、ETFE塗装物品が、より厳しい環境下に使用されることから、ETFEと基材との接着性の向上が要請されている。
【0004】
ETFEと基材との接着性を向上させるための、含フッ素共重合体プライマーが提案されている(特許文献1)。該プライマーは、ETFE粉体とは性状が異なり、プライマー処理には粉体塗装と異なる工程を用いる必要があることから、工程が煩雑となり、また、得られたETFE塗膜と基材との接着性が充分とはいえない。
【0005】
【特許文献1】特開2002−19052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような従来の問題点を解消し、種々の基材への接着性に優れるETFE粉体及びそれを塗装してなる物品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、テトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位(A)、エチレンに基づく繰り返し単位(B)及び酸無水物残基と重合性不飽和結合とを有するモノマーに基づく繰り返し単位(C)を含有し、(A)/(B)がモル比で20/80〜80/20であり、(C)/((A)+(B))がモル比で1/10000〜5/100であるETFEからなることを特徴とするETFE粉体を提供する。また、本発明は、該ETFE粉体と熱安定剤とを含有する粉体組成物、及び該ETFE粉体を基材に塗装してなる物品を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のETFE体粉体及び粉体組成物は、基材への接着性に優れ、熱安定性に優れ、塗装作業性に優れる。また、本発明の粉体が熱安定剤を含有すると、塗膜と基材との接着性に著しく優れる。本発明の物品は、ETFEの塗膜を表面に有し、基材と塗膜の接着性に優れる。本発明の物品は、耐薬品性、耐蝕性、耐油性、耐熱性、耐候性、非粘着性、撥水性等の特性に優れる。また、これらの塗膜特性は耐久性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明におけるETFEは、テトラフルオロエチレン(以下、TFEという。)に基づく繰り返し単位(A)とエチレン(以下、Eという。)に基づく繰り返し単位(B)を含有し、(A)/(B)はモル比で20/80〜80/20であり、50/50〜70/30が好ましい。(A)/(B)のモル比が小さすぎるとETFEの耐熱性、耐候性、耐薬品性、ガスバリア性、燃料バリア等が低く、モル比が大きすぎると機械的強度、成形性等が低い。この範囲にあるとETFEは、耐熱性、耐候性、耐薬品性、ガスバリア性、燃料バリア、機械的強度、成形性等に優れる。
【0010】
ETFEにおける酸無水物残基と重合性不飽和結合とを有するモノマーに基づく繰り返し単位(C)の含有量は、(C)/((A)+(B))のモル比で1/10000〜5/100であり、1/1000〜5/100が好ましく、3/2000〜3/100がより好ましく、3/1000〜3/100が最も好ましい。該モル比が小さすぎると基材との接着性が低く、大きすぎると燃料バリア性が低い。この範囲にあるとETFEは燃料バリア性及び基材との接着性に優れる。
【0011】
酸無水物残基と重合性不飽和結合とを有するモノマーとしては、無水マレイン酸、無水イタコン酸(以下、IAHという。)、無水シトラコン酸(以下、CAHという。)、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物等が揚げられる。好ましくは、IAH又はCAHである。IAH又はCAHを用いると無水マレイン酸を用いた場合に必要となる特殊な重合方法(特開平11−193312号を参照。)を用いる必要がないので好ましい。すなわち、ペルフルオロカルボン酸を使用したり、ヘキサフルオロプロピレンを共重合することなく、酸無水物残基を有する官能基を有するETFEが得られるので好ましい。
【0012】
酸無水物残基と重合性不飽和結合とを有するモノマーにおける酸無水物残基は、その一部が重合前に加水分解されていてもよい。例えば、IAHは、IAHの一部が加水分解した、IAHとイタコン酸の混合物であってもよい。また、CAHは、CAHの一部が加水分解した、CAHとシトラコン酸の混合物であってもよい。また、ETFE中のIAH又はCAHに基づく繰り返し単位(C)の一部が重合後に加水分解されていてもよい。これら重合前又は重合後の加水分解により生じた繰り返し単位は、本発明において繰り返し単位(C)の一部とみなす。その場合には、繰り返し単位(C)の含有量は、IAHに基づく繰り返し単位とIAHの一部が加水分解されたイタコン酸に基づく繰り返し単位の合計量を表す。
【0013】
本発明におけるETFEは、上記(A)、(B)及び(C)に基づく繰り返し単位に加えて、(A)、(B)及び(C)以外の、その他のモノマーに基づく繰り返し単位(D)を含んでいてもよい。
【0014】
その他のモノマーとしては、プロピレン、ブテン等の炭化水素系オレフィン、CH=CX(CFY(ここで、X及びYは独立に水素又はフッ素原子、nは2〜8の整数である。)で表される化合物、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン等の不飽和基に水素原子を有するフルオロオレフィン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン等の不飽和基に水素原子を有しないフルオロオレフィン(ただし、TFEを除く。)、ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)等のペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)、アルキルビニルエーテル、(フルオロアルキル)ビニルエーテル、グリシジルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、メチルビニロキシブチルカーボネート等のビニルエーテル、酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、ブタン酸ビニル、ピバル酸ビニル、安息香酸ビニル、クロトン酸ビニル等のビニルエステル、(ポリフルオロアルキル)アクリレート、(ポリフルオロアルキル)メタクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。その他のモノマーは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0015】
その他のモノマーとしては、ヘキサフルオロプロピレン、ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)及び前記CH=CX(CFYで表される化合物からなる群から選ばれる1種以上が好ましい。CH=CX(CFYで表される化合物がより好ましい。該化合物においてn=2〜4であると、ETFE1が燃料バリア性、耐ストレスクラック性等に優れるのでより好ましい。その具体例としては、CH=CF(CFF、CH=CF(CFF、CH=CF(CFF、CH=CF(CFH、CH=CF(CFH、CH=CF(CFH、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CH(CFH、CH=CH(CFH、CH=CH(CFH等が挙げられる。さらに、CH=CF(CFF、CH=CH(CFF、CH=CH(CFH又はCH=CF(CFHがより好ましく、CH=CH(CFFが最も好ましい。
【0016】
ETFEが、その他のモノマーに基づく繰り返し単位(D)を含有する場合は、繰り返し単位(D)の含有量は、含フッ素共重合体中の全繰り返し単位に対して0.01〜20モル%が好ましく、0.1〜15モル%がより好ましく、1〜10モル%が最も好ましい。
【0017】
本発明におけるETFEは、特開2004−238405に開示された方法等により容易に製造されるが、この方法に限定されることはない。
ETFEの製造方法としては、一般に用いられているラジカル重合開始剤を用いる重合方法が用いられる。重合方法の例としては、塊状重合法、フッ化炭化水素、塩化炭化水素、フッ化塩化炭化水素、アルコール、炭化水素等の有機溶媒を使用する溶液重合法、水性媒体及び必要に応じて適当な有機溶剤を使用する懸濁重合法、水性媒体及び乳化剤を使用する乳化重合法が挙げられるが、溶液重合法が最も好ましい。
【0018】
ラジカル重合開始剤としては、半減期が10時間である分解温度が0℃〜100℃が好ましく、20〜90℃がより好ましい。具体例としては、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、イソブチリルペルオキシド、オクタノイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド等の非フッ素系ジアシルペルオキシド、ジイソプロピルペルオキシジカ−ボネート等のペルオキシジカーボネート、tert−ブチルペルオキシピバレート、tert−ブチルペルオキシイソブチレート、tert−ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル、(Z(CFCOO)(ここで、Zは水素原子、フッ素原子又は塩素原子であり、pは1〜10の整数である。)で表される化合物等の含フッ素ジアシルペルオキシド、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物等が挙げられる。
【0019】
ETFEのQ値を制御するための連鎖移動剤としては、メタノール、エタノール等のアルコール、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン等のクロロフルオロハイドロカーボン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等のハイドロカーボンが挙げられる。また、エステル基、カーボネート基、水酸基、カルボキシル基、カルボニルフルオリド基等の官能基を有する連鎖移動剤を用いるとポリアミド等の基材との接着性に優れる高分子末端基が導入されるので好ましい。該連鎖移動剤としては、酢酸、酢酸メチル、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。
【0020】
本発明において、重合条件は特に限定されず、重合温度は0℃〜100℃が好ましく、20〜90℃がより好ましい。重合圧力は0.1〜10MPaが好ましく、0.5〜3MPaがより好ましい。重合時間は1〜30時間が好ましい。
重合中のIAH又はCAHの濃度が高すぎると、重合速度が低下する傾向となる。IAH又はCAHの濃度は、TFEとEの合計モル量に対して0.01〜5モル%が好ましく、0.1〜3モル%がより好ましく、0.1〜1モル%が最も好ましい。この範囲にあると製造時の重合速度が適切で、かつ、製造されたETFEは基材との接着性に優れる。重合中、濃度をこの範囲に維持するために、IAH又はCAHが重合で消費されるに従って、消費された量を連続的又は断続的に重合槽内に供給することが望ましい。
【0021】
本発明のETFE粉体は、ETFEからなる。また、本発明のETFE粉体組成物は、本発明のETFE粉体と熱安定剤とを含有することが好ましい。熱安定剤を含有すると、塗膜が熱安定性に優れうえ、さらに基材との接着性に著しく優れる。熱安定剤としては、銅化合物、錫化合物、鉄化合物、鉛化合物、チタン化合物及びアルミニウム化合物からなる群から選ばれる1種以上が好ましい。具体例としては、酸化銅、ヨウ化銅、アルミナ、硫酸錫、硫酸ゲルマニウム、塩基性硫酸鉛、亜硫酸錫、燐酸バリウム、ピロリン酸錫等が挙げられ、酸化銅、ヨウ化銅が好ましい。ETFE粉体組成物における熱安定剤の含有量は、1×10−8〜5質量%が好ましく、1×10−7〜2質量%がより好ましく、5×10−7〜1質量%が最も好ましい。
【0022】
本発明のETFE粉体組成物は、ETFE粉体及び熱安定剤に加えて、用途、目的に応じて、その他の配合剤である、各種の添加剤、フィラー、他の合成樹脂粉体を含有してもよい。本発明のETFE粉体混合物中のETFEの含有量は、20質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、80質量%以上が最も好ましい。熱安定剤及びその他の配合剤の含有量は、80質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、20質量%以下が最も好ましい。
【0023】
本発明におけるETFEの容量流速(以下、Q値という。)は、1〜1000mm/秒であることが好ましい。Q値は、ETFEの溶融流動性を表す指標であり、分子量の目安となる。Q値が大きいと分子量が低く、小さいと分子量が高いことを示す。本発明におけるETFEのQ値は、島津製作所製フローテスタを用いて、温度297℃、荷重7kg下に直径2.1mm、長さ8mmのオリフィス中に押出すときのETFEの押出し速度である。Q値が小さすぎると塗膜の平滑性が充分でなく、大きすぎると塗膜の機械的強度が低い。Q値は5〜500mm/秒が好ましい。
【0024】
本発明のETFE粉体は、重合後、重合媒体に分散したスラリー状のETFE分散液を直接噴霧して媒体を蒸発除去させる方法、一度中間粒径に造粒、乾燥後、ハンマーミル、ターボミル、ジェットミル等の粉砕機で粉砕する方法等により製造される。熱安定剤やその他の配合剤は、粉体塗装前にミキサーを用いて予めETFE粉体と混合することが好ましい。また、ETFE粉体とミキサーで混合してマスターバッチ粉体を製造し、該マスターバッチ粉体をETFE粉体と混合することも好ましい。
【0025】
本発明のETFE粉体の粒径や、粒度分布は、塗装する基材の大きさや塗装方法等により適宜選定されるが、一般に、平均粒径で0.01〜1000μm、好ましくは1〜500μmである。具体的には、静電塗装法では0.5〜300μmが好ましく、1〜200μmがより好ましい。回転成形法では1〜500μmが好ましく、5〜300μmがより好ましい。粒径は、篩等を用いて分級して調整してもよい。
【0026】
本発明の物品は、本発明のETFE粉体又はETFE粉体組成物を塗装してなる。塗装方法としては、従来のETFE粉体や合成樹脂粉体と同様の方法で実施できる。例えば、酸素を含む雰囲気下に200〜600℃で基材表面を加熱処理し、ついで、該基材表面をブラスト処理等により粗面化する。該ブラスト処理した基材表面にETFE粉体を粉体塗装することによって塗膜を形成する。
【0027】
本発明のETFE粉体及びETFE粉体組成物は、粉体塗装用粉体として有用である。さらに、ETFE、TFE/ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)系共重合体、TFE/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体等のフッ素樹脂の粉体を粉体塗装する場合のプライマーとしても有用である。プライマーとして用いるとフッ素樹脂と基材との接着性が著しく向上する。本発明のETFE粉体は、通常のETFEの粉体と性状が近く、同一塗装装置を用いてプライマー塗装及び粉体塗装できることから、生産性や経済性に優れる。
【0028】
本発明におけるETFE粉体を用いて形成された塗膜の厚さとしては、1μm〜1mmが好ましく、5〜500がより好ましく、10〜200μmが最も好ましい。この範囲にあると1回の塗装で十分な接着性を発現する。1μmより薄い場合は接着性が十分ではなく、1mmより厚い場合は、2回以上塗装しなくてはならず生産効率が悪くなる。
【0029】
本発明における基材の材質としては、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、錫、チタン、クロム、ニッケル、亜鉛等の金属、ガラス、セラミックス等の無機物等が挙げられ、鉄、ステンレス鋼、アルミニウムがより好ましい。
本発明における基材の形状としては、パイプ、チューブ、フィルム、板、タンク、ロール、ベッセル、バルブ、エルボー等が挙げられる。
【0030】
本発明において、ETFE粉体と熱安定剤とを含有するETFE粉体組成物を用いると、塗膜と基材との接着性が著しく優れる理由は必ずしも明確ではないが、以下のように推定される。熱安定剤を含有すると、ETFEの熱安定性がさらに向上することから、塗装工程における塗膜の劣化や収縮が防止され、基材への塗膜の密着性が向上する。また、高温でのETFEの安定性が向上することから、高温で基材上に塗膜を形成できることから、さらに接着性が向上するものと考えられる。
【実施例】
【0031】
以下に実施例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。例1〜4が実施例であり、例5〜8が比較例である。なお、接着性評価及び静電塗装法は、以下に記載の方法にしたがった。
【0032】
[接着性評価]粉体塗装により表面にETFE塗膜を形成した、縦50mm、横100mm、厚さ2mmのSS400ステンレス鋼板の試験片において、該ETFE塗膜と該ステンレス鋼板(以下、基材ともいう。)の間にカッターナイフで端部から幅10mmに切り込みを入れ、剥離した。剥離した端部をチャックに固定し、引張り試験機を用いて、該試験片の長さ方向の端から50mmの位置までETFE塗膜と基材とを剥離した。引張り速度は50mm/分、基材とETFE塗膜とを90度剥離し、最大荷重を剥離強度(単位:N/10cm)とした。剥離強度が大きいほど、接着性に優れることを示す。
【0033】
[静電塗装法]粉体スプレーガンを用いて、印加電圧−60kVでETFE粉体をSS400ステンレス鋼板の表面に吹きつけ、所定の温度、時間でオーブンにて焼成した。充分な膜厚が得られるまで塗装を繰り返した。
【0034】
[例1]
溶液重合後に造粒処理を行い、TFEに基づく繰り返し単位/Eに基づく繰り返し単位/IAHに基づく繰り返し単位/CH=CH(CFFに基づく繰り返し単位がモル比で57.6/40.0/1.8/0.6であり、融点242℃であるETFE1造粒物を得た。該造粒物をターボミルにより粉砕し、平均粒径39.4μmのETFE1粉体を得た。
【0035】
縦50mm、横100mm、厚さ2mmのSS400ステンレス鋼板の表面をブラスト処理した後、エアーガンでブラスト粉を除去し、該ステンレス鋼板をエタノールに30分間浸漬した。その後、空気中で400℃、1時間加熱処理して基材1を得た。
基材1の表面にETFE1粉体を静電塗装し、280℃、10分焼成した。静電塗装及び焼成工程を繰り返した。ついで、その表面に、ETFE粉体(旭硝子社製、フルオンETFE TL−081)を静電塗装し、300℃、45分焼成し、最外層にETFE塗膜を形成した塗装基材1を得た。塗装基材1におけるETFE1塗膜及びETFE塗膜の厚さはそれぞれ、0.28mm及び0.96mmであった。ETFE塗膜と基材1との剥離強度は63.7N/10mmであり、充分な接着力を示した。
【0036】
[例2]
例1で作製したETFE1粉体の100部に対して、平均粒径0.76μm、比表面積11.2m/gの酸化銅粉末の1.3部をブレンダーにより均一に混合してETFE2粉体を得た。
ETFE1粉体の100部に対して、ETFE2粉体の0.1部をブレンダーにより均一に混合してETFE3粉体を得た。
【0037】
例1と同様に基材1の表面にETFE3粉体を静電塗装し、280℃、10分焼成した。静電塗装及び焼成工程を繰り返した後、その表面にETFE粉体(旭硝子社製、フルオンETFE TL−081)を静電塗装、300℃、45分、焼成し、最外層にETFE塗膜を形成した塗装基材1を得た。塗装基材1におけるETFE3塗膜及びETFE塗膜の厚さはそれぞれ、0.20mm及び1.14mmであった。ETFE塗膜と基材1との剥離強度は94.3N/10mmであり、充分な接着力を示した。
【0038】
[例3]
ETFE3粉体の焼成条件を、300℃、10分に変更し、その表面にETFE粉体に換えてETFE3粉体を用いる以外は、例2と同様にして、ETFE3塗膜を形成した塗装基材1を得た。塗装基材1におけるETFE3塗膜の厚さは1.23mmであった。ETFE3塗膜と基材1との剥離強度は101.9N/10mmであり、充分な接着力を示した。
【0039】
[例4]
例1と同様にして、IAHに基づく繰り返し単位を含有せず、TFEに基づく繰り返し単位/Eに基づく繰り返し単位/CH=CH(CFFに基づく繰り返し単位がモル比で57.7/40.0/2.3であり、融点242℃のETFE4造粒物を得た。該造粒物を例1と同様に粉砕し、平均粒径38.1μmのETFE4粉体を得た。
【0040】
基材1の表面にETFE3粉体を静電塗装し、280℃、10分焼成し、ETFE3のプライマー層を形成した。該プライマー層の厚さは0.22mmであった。その表面に、ETFE4粉体を静電塗装し、280℃、10分焼成した。静電塗装及び焼成工程を繰り返した。ついで、その表面にETFE4粉体を静電塗装し、280℃、45分焼成し、ETFE4塗膜を形成した塗装基材1を得た。塗装基材1におけるETFE4塗膜の厚さは0.94mmであった。ETFE4塗膜と基材1との剥離強度は76.0N/10mmであり、充分な接着力を示した。また、プライマー用粉体として用いたETFE3粉体は、塗膜として用いたETFE4粉体と性状が極めて近く、同一の塗装装置を用いて塗装できたので、生産性や作業性に優れた。
【0041】
[例5(比較例)]
ETFE1粉体に換えてETFE4粉体を用いる以外は、例1と同様にして、ETFE4塗膜を形成した塗装基材1を得た。塗装基材1におけるETFE4塗膜の厚さは0.87mmであった。ETFE4塗膜と基材1との剥離強度は23.5N/10mmであり、接着力は不充分であった。
【0042】
[例6(比較例)]
例1と同様にして、IAHに基づく繰り返し単位を含有せず、TFEに基づく繰り返し単位/Eに基づく繰り返し単位/CH=CH(CFFがモル比で58.3/40.5/2.3であり、融点255℃のETFE5造粒物を得た。該造粒物を例1と同様に粉砕し、平均粒径31.1μmのETFE5粉体を得た。
ETFE1粉体に換えてETFE5粉体を用いる以外は、例1と同様にして、ETFE5塗膜を形成した塗装基材1を得た。塗装基材1におけるETFE5塗膜の厚さは0.86mmであった。ETFE5塗膜と基材1との剥離強度は24.8N/10mmであり、接着性は不十分であった。
【0043】
[例7(比較例)]
例6と同様にして得たETFE5粉体の100部に対し、ETFE2粉体の0.1部をブレンダーにより均一に混合してETFE6粉体を得た。
ETFE1粉体に換えてETFE6粉体を用いる以外は、例1と同様にして、ETFE6塗膜を形成した塗装基材1を得た。塗装基材1におけるETFE6塗膜の厚さは0.95mmであった。ETFE6塗膜と基材1との剥離強度は43.9N/10mmであり、接着性は不充分であった。
【0044】
[例8(比較例)]
プライマーとして、テトラエトキシシランの27g、メチルトリエトキシシランの23g、エタノールの50gをビーカーに入れ、23℃で1時間撹拌してプライマー溶液を得た。該プライマー溶液を、基材1の表面に、乾燥膜厚が1μmになるように室温で塗布し、風乾した後、120℃にて30分間乾燥し、プライマー層を形成した。その表面に、ETFE4粉体を静電塗装し、280℃、45分焼成し、ETFE4塗膜を形成した塗装基材1を得た。塗装基材1におけるETFE4塗膜の厚さは1.02mmであった。ETFE4塗膜と基材1との剥離強度は107.0N/10mmであり、充分な接着力を示した。一方、プライマー塗装工程が湿式であり、ETFE4粉体と同一の塗装装置を用いて成形できないため、生産性や作業性が不充分であった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のETFE粉体及びETFE粉体組成物は、塗装性に優れ、金属、セラミクス、ガラス、合成樹脂等の基材表面に塗装できる。また、ライニング、コーティング、表面処理等に使用される。本発明のETFE粉体又はETFE粉体組成物が塗装されてなる物品は、各種の容器、パイプ、チューブ、タンク、配管、継ぎ手、ロール、オートクレーブ、熱交換器、蒸留塔、治具類、バルブ、撹拌翼、タンクローリ、ポンプ、ブロワのケーシング、遠心分離機、調理機器等に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位(A)、エチレンに基づく繰り返し単位(B)及び酸無水物残基と重合性不飽和結合とを有するモノマーに基づく繰り返し単位(C)を含有し、(A)/(B)がモル比で20/80〜80/20であり、(C)/((A)+(B))がモル比で1/10000〜5/100であるエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体からなることを特徴とするエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体粉体。
【請求項2】
前記(C)/((A)+(B))がモル比で1/1000〜5/100である請求項1に記載のエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体粉体。
【請求項3】
前記酸無水物残基と重合性不飽和結合とを有するモノマーが、無水イタコン酸又は無水シトラコン酸である請求項1又は2に記載のエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体粉体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体粉体と熱安定剤とを含有する粉体組成物。
【請求項5】
前記熱安定剤が、銅化合物、錫化合物、鉄化合物、鉛化合物、チタン化合物及びアルミニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項4に記載の粉体組成物。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載のエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体粉体、又は請求項4又は5に記載の粉体組成物を基材に塗装してなる物品。

【公開番号】特開2006−206637(P2006−206637A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−16879(P2005−16879)
【出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】