説明

エッチング量測定装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、シリコン基板あるいはシリコン薄膜の薬液によるエッチング量測定装置に関し、薬液によりエッチングされた成分濃度からエッチング量を測定するエッチング量測定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、薬液によるシリコン基板や表面の薄膜のエッチング量の評価は、エッチング工程の前後における薄膜の膜厚の変化を膜厚測定装置により測定して行なわれていた。
【0003】図6は従来の膜厚測定装置の一例を示す図である。この膜厚測定装置としては、例えば、図6に示すようなエリプソメータが使用されていた。このエリプソメータで、シリコン基板29の薄膜28の厚さを測定するには、レーザ投光装置24からのレーザ光を偏光子25で直線偏光させ薄膜28に入光し、薄膜28から反射する楕円偏光を回転する検光子26を通し光検出器27で光強度を測定する。そして、検光子26の回転角度と光検出器27の光強度との関係から、位相差と方位角を求め、位相差と方位角の関係をもとに薄膜28の厚さを求める。
【0004】しかしながら、エリプソメータは、膜厚測定範囲が100オングストローム以上に限定され、その測定精度も±10オングストロームと低い。このため、膜厚変化が小さいエッチングの場合、エッチング量を測定することは困難である。また、シリコン基板自体のエッチング量は測定できないという問題がある。かかる膜厚測定装置以外に、光干渉を利用した膜厚測定装置があるが、いずれも上述した膜厚測定装置と同様の問題があった。
【0005】このような光を利用した物理分析による膜厚の測定によるエッチング量の測定方法以外に、薬液へ溶解した薄膜の成分濃度からエッチング量を算出する化学分析による方法がある。例えば、特開昭63一226932号公報に開示されているように、薬液中に溶解した被エッチング材(GaAs)の濃度変化を発光分析によりモニタリングし、被エッチング材の濃度によりエッチングの終了時刻を決定している。また、特開平5一346402号公報では、薬液(HF)中のシリコン濃度をモニタリングして新しい薬液を補充し薬液のエッチングレートを一定に保つことが開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】上述した化学分析を利用した方法は、もともとは薬液の管理を目的としたもので、溶解成分の検出下限が高いことが問題であった。例えば、特開平5一346402号公報に開示されているように、薬液中のシリコン濃度の検出限界は0.1ppmと記載されている。このため、シリコン基板あるいはシリコンを含有する薄膜のエッチング量が小さい場合は、薬液に溶解するシリコン濃度も低くなり測定が困難となる。
【0007】また、薬液に過酸化水素水が含まれている場合は、発色が阻害され正確な測定ができず、この方法では、過酸化水素水が含まない薬液に限定されるという欠点がある。加えて、この過酸化水素水は発泡性の薬液であり、気泡の発生がポンプ送液や吸光度測定に支障をきたすという問題がある。
【0008】従って、本発明の目的は、シリコン基板あるいはシリコンを含有する薄膜のエッチング量を低いエッチング量でも測定できる広い範囲で高感度に測定できるエッチング量測定装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明の特徴は、半導体製造工程における薬液処理によるシリコン基板あるいは基板表面上に形成されるシリコンを含む薄膜のエッチング量を測定するエッチング量測定装置において、前記シリコン基板表面あるいは前記シリコン薄膜表面に薬液に接触し得るように前記シリコン基板を保持し前記薬液を溜めるウェパ保持具とこのウェハ保持具を加熱する加熱手段を備える処理部と、前記シリコン基板あるいは前記薄膜の該表面と接触し溶解されるシリコンを含む薬液を採取するサンプリング手段と、溶解された前記シリコンと反応し発色させる薬剤を供給する供給手段と、前記サンプリング手段から送液される前記薬液と前記供給手段から供給される前記薬剤とを混合して反応させる反応槽と、反応後に発色した前記薬液の前記発色の吸光度を測定する吸光度計と、前記薬液の吸光度から前記エッチング量を演算する制御部とを備えるエッチング量測定装置である。
【0010】また、前記処理部から前記反応槽に供給される該薬液に含有する気体成分を除去する脱気装置を備えるが望ましい。さらに、前記薬液に過酸化水素が含まれかつ前記サンプリング手段の該薬液の送液管の一部の内壁が白金であるとともに該送液管の一部を加熱する第1のヒータを備えるか、あるいは、前記反応槽の内壁が白金であるとともに該反応槽内の該薬液を加熱する第2のヒータを備えることが望ましい。
【0011】
【発明の実施の形態】次に、本発明について図面を参照して説明する。
【0012】図1は本発明の一実施の形態におけるエッチング量測定装置の構成を示す図である。本発明のエッチング量測定装置は、処理液中のシリコンを定量する方法であるモリブデンブルー法(JIS一K0555「超純水シリカの定量方法」1990)に着目しなされたものである。このモリブデンブルー法は、シリコンとモリブデン酸アンモニウムとの反応により形成されるヘテロポリ化合物をL−アスコルビン酸で還元してその青色吸光度からシリコン濃度を定量する方法である。
【0013】このシリコン濃度の定量法を適用したエッチング量測定装置は、図1に示すように、シリコン基板29もしくはシリコン基板29上の薄膜28の表面に接触させる過酸化水素水を含む薬液3の一定量を溜るとともにシリコン基板29を保持する保持具2とシリコン基板29を加熱するヒータ9とで構成される処理部1と、ポンプ16に吸上げられる保持具2内の薬液3中の気体成分を除去する脱気モジュール8と、ポンプ16から抽出された薬液3とポンプ15により供給される硫酸溶液12とポンプ14により供給されるモリブデン酸アンモニウム溶液11とポンプ13により供給されるL−アスコルビン酸溶液とを入れ混合し反応させる反応槽4と、反応槽4内の反応で発色しポンプ17で抽出される薬液3の吸光度を測定する吸光度計5と、硫酸溶液12の供給により一定に維持される反応槽4の液中のPHを測定するPH計7と、ポンプ13〜17およびヒータ9の電流を制御するとともに吸光度計5の信号値を入力し演算しシリコン基板あるいは薄膜28の表面のエッチング量を求める制御部6とを備えている。
【0014】なお、反応槽4に送られた薬液3のpH値はPH計7で測定され、得られたpH値は制御部6へ送られる。そして、制御部6の指令により、硫酸溶液12がポンプ15で反応槽4へ送液され、薬液3は低いpHの一定値に維持される。次に、モリブデン酸アンモニウム溶液11がポンプ14で送液された後、硫酸溶液12およびL−アスコルビン酸溶液10がポンプ15および13で供給される。
【0015】このように各液により反応槽4内の青色に変色された薬液3は、ポンプ17により抽出され透明な石英管を通過し吸光度計5により薬液3の光吸収度が測定され、吸収度を信号として出力する。制御部6は吸収度信号を入力し既知の吸収係数と吸収度とを薬液中のシリコン濃度を求め、シリコン基板29の薄膜28のエッチング量を計算する。
【0016】次に、このエッチング量測定装置の動作を説明する。まず、保持具2でシリコン基板29を挟み固定し、表面の薄膜28が蓋の開口に露呈するようにシリコン基板29を保持する。次に、密閉された保持具2の閉鎖空間にアンモニアに過酸化水素を含む薬液3の一定量を注入する。そして、ヒータ9で加熱されたシリコン基板29の薄膜28と接触する薬液3から発生する気泡は、脱気モジュール8で送液管外に排気される。所定時間経過後、気泡の発生が無くなると、送液管内が減圧されポンプ16によりシリコンが溶融された薬液3は反応槽4に送られる。薬液3のpH値が硫酸溶液12の供給で低い一定値に維持された後、適当な間隔をおき、ポンプ13〜15により適量のモリブデン酸アンモニウム溶液11、硫酸溶液12およびL−アスコルビン酸溶液10が反応槽4に供給され薬液3と混合される。
【0017】反応槽4に供給された薬液は、槽内で反応しこの反応により青色を発生する。この青色に変色した薬液をポンプ17で抽出し吸光度計5で光の吸収度を測定する。測定された吸光度信号を制御部6に入力し演算し、上述したように、制御部6のマイクロコンピュータでシリコンのエッチング量を試算する。
【0018】図2は図1のエッチング量測定装置の変形例を示す図である。このエッチング量測定装置は、図2に示すように、発色を阻害する過酸化水素水を除去するために、保持具2の薬液3を蓄える密閉空間と反応槽4との送液管経路途中に白金チューブ18とヒータ9aを設けたことである。また、この白金チューブ18は白金単体で製作しても良いが、コストを安価にするために送液管の内壁に白金をコーティングすることが望ましい。それ以外は、前述の実施の形態におけるエッチング量測定装置と構成が同じである。
【0019】この白金チューブ18は触媒として作用し、白金チューブ18内を通過する薬液がヒータ9aで加熱され分解が促進され、送液管を通過する薬液中の過酸化水素水が除去される。また、除去された過酸化水素水は脱気モジュール8で排気されるが、排気をより効果的に行なうためには、白金チューブ18に脱気モジュール8とは別に脱気用のポンプを設け、より排気を良くすることが望ましい。また、ヒータ9aは白金チューブ18の周囲を囲むように配設され、効率良く送液される薬液を加熱し過酸化水素水の除去を促進させている。
【0020】図3は図2のエッチング量測定装置でシリコン基板の薄膜をエッチング量を示すグラフである。図2R>2のエッチング量測定装置の利点を確認するのに、酸化膜つきのシリコンウェハとアンモニアと過酸化水素水の混合液を使用した。そして、過酸化水素を分解した場合と過酸化水素を分解しない場合とそれぞれ試みた。
【0021】その結果、図3に示すように、過酸化水素を分解した場合は、酸化膜のエッチング量はシリコンウェハの浸漬時間に比例して増加した。一方、過酸化水素を分解しない場合は、酸化膜のエッチグ量は過酸化水素による発色妨害のため低い値を示し、また、気泡のためばらつきが大きくなった。このことから、白金チューブにより過酸化水素を分解することで再現性の良いデータが得られることが分った。
【0022】図4は図2のエッチング量測定装置でアンモニアと過酸化水素の混合溶液による酸化膜のエッチング量のグラフである。図2のエッチング量測定装置による酸化膜のエッチング量は、図4に示すように、浸漬時間の短い測定領域(低エッチング量)でも浸漬時間に対して良い直線性を示した。一方、従来法(エリプソメータによる)では、エッチング量が浸漬時間の短い測定領域(低エッチング量)で低下する傾向が見られた。このことは、本発明の実施の形態によるエッチング量測定装置は、従来法で測定できない低いエッチング量でも高精度に測定できることが分った。また、本装置による酸化膜のエッチング量の検出下限値は1オングストロームで測定精度が±2%であることも判明した。
【0023】図5は図1のエッチング量測定装置の他の変形例を示す図である。このエッチング量測定装置は、図5に示すように、反応槽4の内壁を白金でコーティングし白金壁20にし、この白金壁20を加熱するために反応槽4の周囲にヒータ19を設けたことである。それ以外は図1に示したエッチング量測定装置と同じである。反応槽4の内壁を白金壁20にすることにより、処理部1から送液される薬液3に含まれる過酸化水素が、加熱され白金壁20により分解される。前述したと同様に薬液3の青色発色を吸光度計5で光の吸収度を測定する。測定された吸光度信号を制御部6に入力し演算し、制御部6のマイクロコンピュータでシリコンのエッチング量を試算する。このエッチング量測定装置では、前述の白金チューブに比べ薬液と白金の接触が多くより過酸化水素の分解が促進するという利点がある。
【0024】
【発明の効果】以上説明したように本発明は、シリコンあるいはシリコン薄膜シリコンと接触し溶解を促進し得る加熱手段をもちかつ小量の薬液を蓄える容器を具備する処理部と、この処理部で溶解されたシリコンを供給される薬剤と反応させ青色発色させる反応糟と、反応糟から抽出される薬液の吸光度により高感度にシリコン濃度を測定する吸光度計と、吸光度計からのシリコン濃度から演算しシリコン薄膜からエッチングされる量を求める演算部を具備する制御部を設けることによって、低量のエッチングでも高感度にエッチング量を測定できるので、シリコンあるいはシリコン薄膜のエッチングにおいて、エッチング厚さを精密に制御できるという効果がある。
【0025】また、処理部から反応槽への薬液の送液の障害となる気泡を除去する手段を設けることによって、薬液の送液が円滑になり測定が安定して測定できるという効果がある。さらに、発色の妨害となる過酸化水素を分解させる手段を設けることにより、より測定精度を上げることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態におけるエッチング量測定装置の構成を示す図である。
【図2】図1のエッチング量測定装置の変形例を示す図である。
【図3】図2のエッチング量測定装置でシリコン基板の薄膜をエッチング量を示すグラフである。
【図4】図2のエッチング量測定装置でアンモニアと過酸化水素の混合溶液による酸化膜のエッチング量のグラフである。
【図5】図1のエッチング量測定装置の他の変形例を示す図である。
【図6】従来の膜厚測定装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
1 処理部
2 保持具
3 薬液
4 反応槽
5 吸光度計
6 制御部
7 PH計
8 脱気モジュール
9.9a,19 ヒータ
10 L−アスコルビン酸溶液
11 モリブデン酸アンモニウム溶液
12 硫酸溶液
13,14,15,16,17 ポンプ
18 白金チューブ
20 白金壁
24 レーザ投光装置
25 偏光子
26 検光子
27 光検出器
28 薄膜
29 シリコン基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】 半導体製造工程における薬液処理によるシリコン基板あるいは基板表面上に形成されるシリコンを含む薄膜のエッチング量を測定するエッチング量測定装置において、前記シリコン基板表面あるいは前記シリコン薄膜表面に薬液に接触し得るように前記シリコン基板を保持し前記薬液を溜めるウェパ保持具とこのウェハ保持具を加熱する加熱手段を備える処理部と、前記シリコン基板あるいは前記薄膜の該表面と接触し溶解されるシリコンを含む薬液を採取するサンプリング手段と、溶解された前記シリコンと反応し発色させる薬剤を供給する供給手段と、前記サンプリング手段から送液される前記薬液と前記供給手段から供給される前記薬剤とを混合して反応させる反応槽と、反応後に発色した前記薬液の前記発色の吸光度を測定する吸光度計と、前記薬液の吸光度から前記エッチング量を演算する制御部とを備えることを特徴とするエッチング量測定装置。
【請求項2】 前記処理部から前記反応槽に供給される該薬液に含有する気体成分を除去する脱気装置を備えることを特徴とする請求項1記載のエッチング量測定装置。
【請求項3】 前記薬液に過酸化水素が含まれかつ前記サンプリング手段の該薬液の送液管の一部の内壁が白金であるとともに該送液管の一部を加熱する第1のヒータを備えることを特徴とする請求項1および2記載のエッチング量測定装置。
【請求項4】 前記反応槽の内壁が白金であるとともに該反応槽内の請求項3記載の該薬液を加熱する第2のヒータを備えることを特徴とする請求項1および2記載のエッチング量測定装置。

【図6】
image rotate


【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【特許番号】第2891226号
【登録日】平成11年(1999)2月26日
【発行日】平成11年(1999)5月17日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−44129
【出願日】平成9年(1997)2月27日
【公開番号】特開平10−239241
【公開日】平成10年(1998)9月11日
【審査請求日】平成9年(1997)2月27日
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【参考文献】
【文献】特開 平5−346402(JP,A)
【文献】特開 昭63−226932(JP,A)