説明

エナンチオピュアなE−(2S)−アルキル−5−ハロペンタ−4−エン酸およびエステルの製造方法

式(I)(式中、RはC〜Cのアルキル基であり、RはHまたはC〜Cのアルキルであり、Xは塩素、臭素またはヨウ素である)で示されるエナンチオピュアなE−(2S)−アルキル−5−ハロペンタ−4−エン酸およびそれらのエステルを製造する方法であって、対応するラセミ体2−アルキル−5−ハロペンタ−4−エン酸を、a)溶剤中で、最初に(S)−3−メチル−2−フェニルブチルアミン、キニンまたはN−メチル−D−グルカミンと反応させ、b)対応する(R)−ペンテン酸の(S)−3−メチル−2−フェニルブチルアミン塩、キニンまたはグルカミン塩を沈殿させて除去し、c)残留ろ液を第2のキラル塩基または無機塩と混合し、対応する(S)−ペンテン酸の塩を沈殿させ、d)対応するE−(2S)−アルキル−5−ハロ−4−ペンテン酸に変換し、必要ならば、対応する式(I)(式中、RはC〜Cアルキルである)で示されるエステルに変換する製造方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、鏡像体過剰率(e.e.)が最大>99%の光学純度で、かつ理論値の最大98%の収率で、エナンチオピュアなE−(2S)−アルキル−5−ハロペンタ−4−エン酸およびそれらのエステルを製造する方法に関する。
E−(2S)−アルキル−5−ハロペンタ−4−エン酸およびそれらのエステルは、例えば、レニン抑制能を有し、製剤上、抗高血圧薬として使用されるデルタ−アミノ−ガンマ−ヒドロキシ−オメガ−アリ−ルアルカンカルボキサミドなどの医薬品を製造するための重要な中間体である。
【0002】
アルキル−5−ハロペンタ−4−エン酸エステルを製造するための一つの変形が、例えば、国際公開第01/09079号パンフレットに記載されており、それによれば、例えば、アルカリ金属アミド(LDA)などの強塩基の存在下に、イソ吉草酸エステルを1,3−ジハロ−1−プロペンと反応させることによって、所望のエステルが、ラセミ化合物として84%の収率で得られる。所望の鏡像異性体は、ラセミ化合物を、エステラ−ゼ、例えば、豚肝臓エステラ−ゼ(PLE)により処理することによって、約32〜46%の収率で得られる。
この方法の大きな欠点は、動物由来の酵素の豚肝臓エステラ−ゼ(PLE)を使用することにある。
【0003】
ジャ−ナル・オブ・アグリカルチャ−・アンド・フ−ド・ケミストリ−(J.Agric.Food Chem.)、第32巻、第1号、85−92頁には、例えば、対応するジアルキルイソプロピルマロネ−トから出発させるラセミ体の2−イソプロピル−5−クロロペンタ−4−エン酸のような各種ハロアルケンカルボン酸を製造する方法が記載されている。この場合、まず、マロネ−トを1,3−ジクロロ−1−プロペンによりアルキル化し、その後、脱カルボキシル化することにより、エステルをラセミ体の2−イソプロピル−5−クロロペンタ−4−エン酸に変換する。ラセミ化合物の分離については記載されていない。
【0004】
国際公開第2004/052828号パンフレットでは、ジャ−ナル・オブ・アグリカルチャ−・アンド・フ−ド・ケミストリ−(J.Agric.Food Chem.)、第32巻、第1号、1、85−92頁に記載の方法のいくつかのプロセスパラメ−タに関して、若干の修正が加えられている。この方法も、また、国際公開の明細書に記載されているように、豚肝臓エステラ−ゼ(PLE)酵素を使用してラセミ化合物を分離するという欠点を有している。
【0005】
本発明の目的は、簡単な方法で、かつ、豚肝臓エステラ−ゼ(PLE)を使用せずに、e.e.が最大>99%という従来技術より高い光学純度で、かつ、理論値の最大98%というより高い収率で、所望の化合物を製造することを可能とする、エナンチオピュアなE−(2S)−アルキル−5−ハロペンタ−4−エン酸およびそれらのエステルを製造する方法を見出すことにある。
【0006】
したがって、本発明は、式(I)
【化1】


(式中、RはC〜Cのアルキル基であり、RはHまたはC〜Cのアルキルであり、Xは塩素、臭素またはヨウ素である)で示されるエナンチオピュアなE−(2S)−アルキル−5−ハロペンタ−4−エン酸およびそれらのエステルを製造する方法であって、式(II)
【化2】


(式中、RおよびXは先に定義したとおりであり、RはHである)で示されるラセミ体の2−アルキル−5−ハロペンタ−4−エン酸を
a)適切な溶媒中で、最初に(S)−3−メチル−2−フェニルブチルアミン、キニンまたはN−メチル−D−グルカミンと反応させ、次いで、
b)対応する(R)−ペンテン酸の3−メチル−2−フェニルブチルアミン塩、キニン塩またはグルカミン塩を沈殿させて除去し、
c)残留ろ液を第2のキラル塩基または無機塩と混合し、その後、所望の(S)−ペンテン酸塩を沈殿させ、
d)その後、対応する式(I)
【化3】


(式中、XおよびRは先に定義したとおりであり、RはHである)で示されるE−(2S)−アルキル−5−ハロペンタ−4−エン酸に変換し、続いて、必要ならば、式(I)(式中、RはC〜Cアルキルである)で示される対応するエステルに変換する
ことを含む方法に関する。
【0007】
式(I)で示されるエナンチオピュアなE−(2S)−アルキル−5−ハロペンタ−4−エン酸およびそれらのエステルが、本発明の方法により製造される。
【0008】
式(I)中のRは、例えばメチル、エチル、n−およびi−プロピル、n−、i−およびt−ブチル、ペンチルおよびヘキシルなどのC〜Cアルキル基である。
〜Cアルキル基が好ましく、i−プロピル基が特に好ましい。
カルボン酸の場合のRはHであり、エステルの場合はC〜Cアルキル基であり、好ましくはC〜Cアルキル基であり、特に好ましくはメチル基である。
Xは塩素、臭素またはヨウ素であり、好ましくは塩素である。
【0009】
本発明による、式(I)で示されるエナンチオピュアな(S)−カルボン酸およびそれらのエステルの製造は、複数の工程で行われる。
【0010】
第1工程a)では、式(II)(式中、RおよびXは先に定義したとおりであり、RはHである)で示されるラセミ体2−アルキル−5−ハロペンタ−4−エン酸を、(S)−3−メチル−2−フェニルブチルアミン、キニンまたはN−メチル−D−グルカミンと反応させる。
適切な式(II)で示される出発化合物は、例えば、ジャ−ナル・オブ・アグリカルチャ−・アンド・フ−ド・ケミストリ−(J.Agric.Food Chem.)、第32巻、第1号、1、85−92頁、国際公開第2004/052828号パンフレットまたは国際公開第01/09079号パンフレットなどに記載された従来技術におけるように製造することができる。
工程a)は適切な溶媒中で行われる。
これに関連する適切な溶媒は、ケトン、エステル(例えば、アセテ−ト)、アルコ−ルまたはエ−テルである。これらの例としては、アセトン、イソプロピルアセテ−ト、メチルイソブチルカルビノ−ル、テトラヒドロフランなどが挙げられる。
好ましい溶媒は、アセテ−トである。
この場合、(S)−3−メチル−2−フェニルブチルアミン、キニンまたはN−メチル−D−グルカミンを、適当な溶媒中に式(II)で示されるラセミ体の酸を含む反応溶液に加える。(S)−3−メチル−2−フェニルブチルアミン、キニンまたはN−メチル−D−グルカミンの使用量は、0.5〜1.2モル当量であり、好ましくは0.7〜0.9モル当量である。
添加は0〜100℃、好ましくは60〜80℃の温度で行う。
【0011】
次いで、工程b)で、反応混合物を−10℃〜+10℃、好ましくは−5℃〜+5℃にまで冷却する。この過程で、目的としない(R)−ペンテン酸の塩を沈殿させ、例えば、ろ過により除去する。
【0012】
(R)−塩除去後の残留ろ液には、ここでは、概ね式(I)で示される所望のカルボン酸の(S)−鏡像異性体のみが含まれており、必要ならば、まずpHが7未満の酸性水で洗浄する。この場合、pHは、例えば、HCl、HSOなどの従来使用されている酸で調節することができる。
【0013】
次の第2のキラル塩基または無機塩との反応の前に、必要ならば、例えば蒸留により溶媒の一部を除去する。
その後、工程c)で、第2のキラル塩基または無機塩をろ液に加える。これに関連するキラル塩基として適切なものとしては、例えば、(S)−または(R)−フェニルエチルアミン、(S)−3−メチル−2−フェニルブチルアミン、(L)−または(D)−プソイドエフェドリン、(L)−または(D)−ノルエフェドリンなどの従来使用されている塩基が挙げられる。
適切な無機塩の例としては、例えばLi水酸化物、LiメトキシドなどのLi塩が挙げられる。
キラル塩基または無機塩は、この場合、1〜1.5モル当量が使用される。
この工程の反応温度は、0〜100℃、好ましくは60〜80℃である。
【0014】
続いて、工程c)では、反応混合物を−10℃〜+10℃、好ましくは−5℃〜+5℃まで冷却する。この過程で、対応する(S)−ペンテン酸の塩を沈殿させ、その後、例えばろ過により反応混合物から分離する。所望の式(I)で示される遊離(S)−酸を得るために、この塩を水と混和しない溶媒と混合し、酸性の水で抽出する。適切な溶媒の例としては、エステル(例えばアセテ−ト)、エ−テル(例えば、MTBE、THFなど)、ケトン(例えば、MIBKなど)、アルコ−ル(例えば、MIBC)、炭化水素(例えば、ヘキサン、トルエンなど)が挙げられる。
その後、濃縮によって、有機相から、対応するRがHの式(I)で示されるエナンチオピュアな(S)酸を得る。
【0015】
対応するエステルが所望の最終製品であるならば、酸を所望のエステルに変換する。
これは、例えば、C〜Cアルコ−ル、好ましくはC〜Cアルコ−ル、特に好ましくはメタノ−ル中で、例えばHCl、HSO、HPO、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸などの酸、または、酸性イオン交換体の存在下で行われ、アルコ−ルの添加後、まずアルコ−ルおよび残留溶媒の混合物の蒸留を行い、その後、前述した酸の1つを触媒量添加する。
反応温度は、使用するアルコ−ルにも依るが、50〜100℃である。
温度は、還流温度が好ましく、その場合に、アルコ−ルは、ほぼ、アルコ−ル/水のオ−バ−ヘッド留分として留出する量が、繰り返し反応混合物に添加される。
反応完了後、必要に応じて反応混合物を塩基、例えばナトリウムメトキシド、水酸化ナトリウム溶液、KOH、KCOなどで中和し、蒸留により、所望のエナンチオピュアなE−(2S)−アルキル−5−ハロ−4−ペンテン酸エステルを、>99%のe.e.および、>98%の収率で得る。
【0016】
しかしながら、エステル化は、また、他の従来のエステル化法、例えば、SOCl/C〜Cアルコ−ルを使用して、またはDMF−ジ−C〜C−アルキルアセタ−ルを使用して行うこともできる。
【0017】
本発明の方法により、対応する式(I)で示される酸およびエステルが、理論収率の最大98%の収率で、かつ、最大>99%のe.e.で、とりわけ動物由来の酵素を使用せずに、得られる。
【0018】
実施例1
42.3g(0.24mol)のラセミ体2−イソプロピル−5−クロロ−4−ペンテン酸を1337.5mlのイソプロピルアセテ−トに溶解し、60〜70℃に加熱し、67.8g(0.2mol)のキニンを加えた。その後、混合物を、0.17℃/minの速度で濁りが生ずるまで冷却し(58.5℃)、その後1時間かけて53.5℃まで冷却した。さらに3時間かけて0℃まで冷却し、0℃に1時間保持し、その間に(R)−ペンテン酸のキニン塩を沈殿させた。それをろ過により除去し、冷(0℃)イソプロピルアセテ−ト(100ml)で1回洗浄した。
残留ろ液を、まず4%濃度のHCl水溶液(180g)で洗浄し、その後、水(90g)で洗浄した。一部のイソプロピルアセテ−ト(795ml)を最高100℃で蒸留し、その後、60℃で13.7g(0.11mol)の(S)−フェニルエチルアミンを加えた。得られた反応混合物を、0.17℃/minの速度で濁りが生ずるまで冷却し(56.2℃)、その後1時間かけて51.2℃まで冷却した。さらに3時間かけて0℃まで冷却し、0℃に1時間保持し、その間に(S)−ペンテン酸のPE塩を沈殿させた。それをろ過により分離し、冷(−5℃)イソプロピルアセテ−ト(2×34g)で洗浄した。
イソプロピルアセテ−トで洗浄した36gのPE塩を108gの水に懸濁させ、7.2gのHSO(76%濃度)を加えた(この溶液のpHは1.8)。その後、65gのイソプロピルアセテ−トを加え、相分離した。有機相を30gの水で洗浄し、真空中で溶媒を除去した。収率が理論値の85%で、かつ光学純度がe.e.>98%の、無色の液体として、16.6gの(S)−2−イソプロピル−5−クロロ−4−ペンテン酸が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】


(式中、RはC〜Cのアルキル基であり、RはHまたはC〜Cのアルキルであり、Xは塩素、臭素またはヨウ素である)で示されるエナンチオピュアなE−(2S)−アルキル−5−ハロペンタ−4−エン酸およびそれらのエステルを製造する方法であって、式(II)
【化2】


(式中、RおよびXは先に定義したとおりであり、RはHである)で示されるラセミ体の2−アルキル−5−ハロペンタ−4−エン酸を
a)適切な溶剤中で、最初に(S)−3−メチル−2−フェニルブチルアミン、キニンまたはN−メチル−D−グルカミンと反応させ、次いで、
b)対応する(R)−ペンテン酸の(S)−3−メチル−2−フェニルブチルアミン塩、キニン塩またはグルカミン塩を沈殿させて除去し、
c)残留ろ液を第2のキラル塩基または無機塩と混合し、その後、所望の(S)−ペンテン酸塩を沈殿させ、
d)その後、対応する式(I)
【化3】


(式中、XおよびRは先に定義したとおりであり、RはHである)で示されるE−(2S)−アルキル−5−ハロペンタ−4−エン酸に変換し、続いて、必要ならば、式(I)(式中、RはC〜Cアルキルである)で示される対応するエステルに変換する
ことを含む製造方法。
【請求項2】
工程a)の溶媒として、ケトン、エステル、アルコ−ルまたはエ−テルが使用される請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
工程a)で、(S)−3−メチル−2−フェニルブチルアミン、キニンまたはN−メチル−D−グルカミンが、0.5〜1.2モル当量添加される請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
工程a)が、0〜100℃で行われる請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
工程b)で、反応混合物を−10℃〜+10℃に冷却することによって、(R)−ペンテン酸の(S)−3−メチル−2−フェニルブチルアミン塩、キニンまたはグルカミン塩を沈殿させる請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
工程c)の前に、必要ならば、(R)塩の除去後の残留ろ液をまず酸性水で洗浄する請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
工程c)の第2のキラル塩基として、(S)−または(R)−フェニルエチルアミン、(S)−3−メチル−2−フェニルブチルアミン、(L)−または(D)−プソイドエフェドリン、(L)−または(D)−ノルエフェドリンが使用される請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
工程c)の無機塩として、リチウム塩が使用される請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
工程c)の第2のキラル塩基または無機塩の添加は、0〜100℃で行われる請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
工程c)の第2のキラル塩基または無機塩の添加の後に、反応混合物を−10℃〜+10℃に冷却し、その後、対応する(S)−ペンテン酸の塩を沈殿させる請求項1〜9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
工程d)で、(S)−ペンテン酸の塩を、RがHの式(I)で示される遊離(S)−ペンテン酸に変換するために、塩を水と混和しない溶媒と混合して、酸性の水で抽出し、その後、有機相を濃縮することによって、RがHの式(I)で示される所望の遊離(S)−ペンテン酸を得る請求項1〜10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
がC〜Cアルキルの式(I)で示される(S)−ペンテン酸エステルが所望の最終製品であるならば、工程d)で得られた(S)−ペンテン酸を、C〜Cアルコ−ル中で酸の存在下に、または、SOCl/C〜Cアルコ−ルもしくはDMFジ−C〜C−アルキルアセタ−ルを使用してエステル化する請求項1〜11のいずれか一項に記載の製造方法。

【公表番号】特表2008−536810(P2008−536810A)
【公表日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−500069(P2008−500069)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【国際出願番号】PCT/EP2006/001597
【国際公開番号】WO2006/099926
【国際公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(505326209)ディーエスエム ファイン ケミカルズ オーストリア エヌエフジー ゲーエムベーハー ウント ツェーオー カーゲー (13)
【Fターム(参考)】