説明

エネルギー分散型エックス線回折・分光装置

白色エックス線発生手段2とエックス線検出手段3とをそれぞれ離散した第1の位置(図中、実線での位置)と第2の位置(図中、一点鎖線での位置)とに移動させて、それぞれの位置におけるエックス線検出手段により検出された各エネルギー毎のエックス線強度を、第1のデータ、第2のデータとして得、また第1のデータと第2の位置との差分に基づいて第3のデータつまり回折エックス線だけのデータを得、さらに第1、または第2のデータを第3のデータとの差分から蛍光エックス線に関するデータを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白色エックス線を用い、エックス線検出器を固定した状態で回折線及び蛍光エックス線を同時に検出するエネルギー分散型エックス線回折・分光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エックス線を用い、試料の結晶構造を分析する装置としては、エックス線回折装置が知られている。エックス線回折装置は、エックス線発生手段を試料面に対し角度θで照射できる位置に配置し、照射方向と試料の測定点に対して20の位置に、計数管などのエックス線検出手段を配置して構成され、エックス線発生手段及びエックス線検出手段を順次回転移動させて既知の単一波長λのエックス線を試料に照射し、角度θでのエックス線の強度、つまり回折強度を計測する。
回折エックス線はブラッグの法則により
【数1】

の関係を満たす角度θに回折するため、回折図形から試料の結晶面間隔dと回折強度を知ることができ、試料の原子配列を決定するためのデータを得ることができる。
【0003】
しかしながら、試料及びエックス線検出手段を順次、回転移動させるための精密な機構、いわゆるゴニオメータを必要とし、装置が複雑化、大型化するばかりでなく,回転移動の操作時間と各移動位置での測定時間が必要となり、測定結果を得るまでに長時間を要するという問題がある。
【0004】
このような問題を解消するため、非特許文献1に記載されているようにエネルギー分散回折法が提案されている。
これは、エックス線発生装置を試料面に対して角度θの位置に配置し、照射方向と試料の測定点に対して2θの位置に、エックス線のエネルギーと強度とを同時に検出できる手段を配置し、θと2θを固定した状態で白色エックス線を照射して、エネルギーEを持つエックス線の強度を測定する。
ブラッグの法則は、エネルギーEを主体として表記すると、
【数2】

となるから、エックス線発生手段、試料及びエックス線検出手段の角度を一定位置に保持したまま、多チャンネル分析器などを用いて、検出された回折エックス線のエネルギーEとその強度との関係を短時間測定するだけで、原子面の間隔dと回折強度を決定することができる。
【0005】
さらに、検出手段に到達するエックス線には試料からの蛍光エックス線も含まれているため、これらを回折によるエックス線と区別できれば、蛍光エックス線から試料の原子種も決定できる。
回折線が出現するエネルギーはブラッグの法則に従い、角度θにも依存するので、回折線と蛍光エックス線とを区別するためには回折線と蛍光エックス線とが重ならない、適当な角度で測定する事も提案されている。
【非特許文献1】B.D.Cullity.Elementsof X−Ray Diffraction,2nd ed(Reading,Mass.:Addison−Wesley,1977.)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、蛍光エックス線の出現領域が限られている場合には、回折線と蛍光エックス線との分離は可能となるが、蛍光エックス線の出現領域が多数存在する場合には不可能であるばかりでなく、試料毎に異なった適切な角度を探索するために2θを精密に変更する必要上、依然として測定装置の構造が複雑化するという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、エックス線検出手段の構造の複雑化を招くことなく、蛍光エックス線の回折線との干渉を除去して、回折線のみを正確に検出することができるエネルギー分散型エックス線回折・分光装置を提供することである。
【0008】
このような問題を解決するために、本発明においては、白色エックス線発生手段とエックス線検出手段とを、それぞれ離散した第1の位置と第2の位置とに移動させ、それぞれの位置における前記エックス線検出手段により検出された各エネルギー毎のエックス線強度を、第1のデータ、第2のデータとし、また前記第1のデータと前記第2のデータの差分から回折エックス線に関する第3のデータを得るとともに、第1または第2のデータと第3のデータとの差分から、蛍光エックス線に関するデータを得るようにした。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように本発明によれば、白色エックス線発生手段とエックス線検出手段とをそれぞれ離散した2点に移動させるだけであるから、構造の簡素化と連続回転に要する時間と各角度での測定時間が不要となり、短時間で回折データと、蛍光エックス線データの両者を得ることができる。
また、試料の回転機構が不要なため構造をきわめて簡素化することができ、携帯可能な小型の装置として構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
そこで、以下に本発明の詳細を図示した実施例に基づいて説明する。
【0011】
図1は、本発明のエネルギー分散型エックス線回折・分光装置の一実施例を示すものであって、試料台1を挟んで白色エックス線発生手段2とエックス線検出手段3とが配置され、エックス線検出手段3の出力端にはパルス増幅器4を介して多重チャンネル分析器(MCA)5が接続されている。
【0012】
試料台1は、第1の位置と、これから数度程度、つまり回折エックス線だけをシフトさせるものの、蛍光エックス線の強度変化を可及的に防止できる程度に移動した第2の位置とに角度αだけ相対移動させて位置を決める位置決め部材10A,10B、11A,11Bがそれぞれ設けられ、ノッチ機構などで所定位置に固定できるように構成されている。このようにノッチ機構により2点間を高い精度で角度移動させるため、構造の簡素化を図ることができる。
【0013】
データ処理手段6は、試料に照射する白色エックス線の各エネルギー毎の強度のデータ、及びエックス線の透過経路に存在する空気等による吸収と試料を構成する各元素の割合とを加味した、吸収率のデータを格納した第1の記憶手段7と、第1の位置及び第2の位置で測定されたデータを格納する第2の記憶手段8とを備えている。
【0014】
この実施例において、試料台1に試料Sを載置して、白色エックス線発生手段2及びエックス線検出手段3を第1の位置(図中、実線で示す位置)にして、測定を開始すると、試料Sを構成する元素やその結晶構造に対応した回折エックス線及び蛍光エックス線がエックス線検出手段3により検出される。
データ処理手段6は、エックス線検出手段3により検出された各エネルギー毎のエックス線強度を、第1の記憶手段7のデータに基づいて補正して第2の記憶手段8に格納する。
【0015】
ついで、白色エックス線発生手段2とエックス線検出手段3とを第2の位置(図中、一点鎖線で示す位置)に移動し、エックス線検出手段3により検出された各エネルギー毎のエックス線強度を、第1の記憶手段7のデータに基づいて補正し、エックス線の全エネルギー領域に亘り同一の強度を持つエックス線を試料に照射したのと等価のデータを得て、第2の記憶手段8に格納する。
【0016】
このように2種類の位置での測定が終了した時点で、図2(a)、(b)に示すような回折エックス線と蛍光エックス線を含んだデータが得られる。
ところで蛍光エックス線は同一の位置に出現するから、これら2つの測定図形のデータを相殺すると、蛍光エックス線のピークだけが消去され、正負の符号をもつ回折エックス線が残る。このうち例えば正符号のみを集め負符号のデータを捨てると図3(a)に示したように第1の位置で得られた回折エックス線だけのデータが得られる。また、正符号のデータを捨て、負符号のデータだけを集めると、第2の位置での回折エックス線だけのデータが得られる。
【0017】
すなわち、第1の測定図形と第2の測定図形とには同一の蛍光エックス線のデータが含まれているから、これらを相殺すれば回折エックス線だけの第3のデータを得ることができる。
【0018】
つぎに、第1または第2の測定図形のデータのいずれか一方のデータから、対応する第3のデータを相殺することにより、図3(b)に示したように蛍光エックス線だけのデータを抽出することができる。
【0019】
なお、前述のようにして回折エックス線だけのデータ、蛍光エックス線だけのデータを求める際に、次のような処理を行うことが望ましい。
すなわち、角度の相違する2種類の位置において、各エネルギー毎のエックス線強度を測定してから、同一エネルギー同士のデータを前述のように相殺し、その結果を使って、求めた回折エックス線だけのデータや求めた蛍光エックス線だけのデータの選別を行うとよい。
具体的に、mを正の数(通常1〜3)とし、σ(標準偏差)=√N(Nは、あるエネルギーでの計測値)としたとき、mσを閾値とし、回折エックス線だけのデータを求める場合、同一エネルギー同士のデータの差がmσ以上となるエネルギーのデータだけを残して他を0する。一方、蛍光エックス線だけのデータを求める場合、同一エネルギー同士のデータの差がmσ以下となるエネルギーのデータを残して他を0する。
これにより、回折エックス線だけのデータ、蛍光エックス線だけのデータを、それぞれ誤差を少なくして精度良く求めることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
各種試料の分析装置として小型化が可能になることから、ハンディタイプの試料分析装置等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のエネルギー分散型エックス線回折・分光装置の一実施例を示す構成図である。
【図2】図(a)は、第1の位置における回折線及び蛍光エックス線のデータに係る線図であり、図(b)は、第2の位置における回折エックス線及び蛍光エックス線のデータに係る線図である。
【図3】図(a)は、回折エックス線のみのデータに係る線図であり、図(b)は、蛍光エックス線のみのデータに係る線図である。
【符号の説明】
【0022】
1 試料台
2 白色エックス線発生手段
3 エックス線検出手段
S 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白色エックス線発生手段とエックス線検出手段とを、それぞれ離散した第1の位置と第2の位置とに移動させ、それぞれの位置における前記エックス線検出手段により検出された各エネルギー毎のエックス線強度を、第1のデータ、第2のデータとし、また前記第1のデータと前記第2のデータの差分から回折エックス線に関する第3のデータを得るとともに、第1または第2のデータと第3のデータとの差分から、蛍光エックス線に関するデータを得ることを特徴とするエネルギー分散型エックス線回折・分光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【国際公開番号】WO2005/005969
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【発行日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511506(P2005−511506)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009535
【国際出願日】平成16年7月5日(2004.7.5)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】