説明

エネルギー吸収フード及び自動車用ボンネット

【課題】衝撃が加わった部位に関わらず、衝撃によるエネルギーを充分に吸収することができるとともに、配置上の制約を低減させることが可能な、エネルギー吸収フード及び自動車用ボンネットを提供する。
【解決手段】エネルギー吸収フード10は、第一の板状部材であるアウターパネル11と、アウターパネル11に対向する第二の板状部材であるインナーパネル12と、アウターパネル11とインナーパネル12との間に配置される複数のリブ20・20・・・と、を備え、アウターパネル11に対して衝撃によるエネルギーが加わった際に、複数のリブ20・20・・・が破壊されることにより、エネルギーを吸収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー吸収フード及び自動車用ボンネットにおいて衝撃によるエネルギーを吸収する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車用ボンネットにおけるフードのように、衝撃によるエネルギーを吸収する必要のある部材において、エネルギー吸収フードが用いられる(例えば、特許文献1から特許文献4を参照)。特に、エネルギー吸収フードが自動車用ボンネットとして用いられる場合は、自動車と歩行者とが衝突した場合に、その衝突によるエネルギーを吸収して歩行者へのダメージを最小限にする必要がある。このため、エネルギー吸収フードにおいては高いエネルギー吸収が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−213438号公報
【特許文献2】特開2006−224876号公報
【特許文献3】特開2008−201239号公報
【特許文献4】特開2000−203378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1には、フードである構造体の一部に、不連続部分として例えば切り込みを入れる技術が開示されている。そして、構造体に衝撃によるエネルギーが加わった際にはこの不連続部分において構造体を破壊させることにより、エネルギーを吸収する構成としている。
【0005】
また、特許文献2には、フードパネルの一部に切欠き部を入れる技術が開示されている。そして、フードパネルに衝撃によるエネルギーが加わった際にはこの切欠き部においてフードパネルを破壊させることにより、エネルギーを吸収する構成としている。
【0006】
さらに、特許文献3には、積層シートからなるパネルの一部に、積層数を小さくする部分を設ける技術が開示されている。そして、パネルに衝撃によるエネルギーが加わった際には積層数が小さい部分においてパネルを変形させることにより、エネルギーを吸収する構成としている。
【0007】
さらに、特許文献4には、ボンネットとシャシ構成部品との間にリブ状の衝撃吸収手段を設ける技術が開示されている。そして、ボンネットに衝撃によるエネルギーが加わった際には衝撃吸収手段を変形させることにより、エネルギーを吸収する構成としている。
【0008】
上記の如く、前記特許文献1から特許文献3においては、フード(構造体及びパネル)の一部について剛性の弱い部分を形成し、その部分に応力を集中させて、例えば図9に示す如くフードを変形・破壊させることによって衝撃(図9中に示す矢印P)によるエネルギーを吸収する技術が開示されている。
【0009】
しかし、前記従来技術によれば、剛性の小さい部分以外に衝撃が加わった場合、充分なエネルギーの吸収効果を得ることが困難であった。つまり、切り込み・切欠きが無い部分や、積層数の大きい部分、即ち剛性の大きい部分に衝撃が加わった場合には、その部分における変形・破壊は限られることとなるため、エネルギー吸収量が小さくなってしまうのである。
【0010】
さらに、前記特許文献4に記載の技術においては、衝撃吸収手段のエネルギー吸収効率に改良の余地があった。つまり、衝撃吸収手段の形状が単純であり、ボンネットに衝撃によるエネルギーが加わった場合の衝撃吸収手段の変形で吸収できるエネルギーが充分でないため、全体的なエネルギー吸収量が小さくなってしまうのである。
【0011】
また、前記従来技術によれば、図9に示す如く、衝撃によるエネルギーを吸収するためにフードが大きく変形する構成であるため、フードの近傍には変形するためのストロークSを確保する必要があった。即ち、例えば自動車用ボンネットにおけるフードの場合であれば、エンジンルーム内におけるエンジンなどの構造物からの距離を一定以上とる必要があるため、フードを配置する際の制約となっていたのである。
【0012】
そこで本発明は、上記現状に鑑み、衝撃が加わった部位に関わらず、衝撃によるエネルギーを充分に吸収することができるとともに、配置上の制約を低減させることが可能な、エネルギー吸収フード及び自動車用ボンネットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0014】
即ち、請求項1においては、第一の板状部材と、前記第一の板状部材に対向する第二の板状部材と、前記第一の板状部材と前記第二の板状部材との間に配置される、一以上のリブと、を備え、前記リブは、繊維方向を有する繊維強化プラスチックの繊維方向が二種類以上となるように積層された、繊維強化プラスチックの積層体で形成され、前記第一の板状部材に対して衝撃によるエネルギーが加わった際に、前記リブが破壊されることにより、前記エネルギーを吸収するものである。
【0015】
請求項2においては、前記リブは、少なくとも一層の前記繊維強化プラスチックの繊維方向が、前記第一の板状部材に対して平行となるように形成されるものである。
【0016】
請求項3においては、前記リブは、前記繊維強化プラスチックの繊維方向が前記第一の板状部材に対して平行となる層と、前記繊維強化プラスチックの繊維方向が前記第一の板状部材に対して垂直となる層と、を有するように形成されるものである。
【0017】
請求項4においては、前記リブは、円筒形状に形成され、前記リブにおける繊維強化プラスチックは、円筒形状の半径方向に積層されるものである。
【0018】
請求項5においては、前記第二の板状部材は、前記第一の板状部材との反対側で近接する他の部材の外形に沿った形状に形成されるものである。
【0019】
請求項6においては、請求項1から請求項5の何れか1項に記載のエネルギー吸収フードが、前記第一の板状部材を車外側にして配設されるものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0021】
本発明により、エネルギー吸収フード及び自動車用ボンネットにおいて、衝撃が加わった部位に関わらず、衝撃によるエネルギーを充分に吸収することができるとともに、配置上の制約を低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)は第一実施形態に係るエネルギー吸収フードを示した斜視図、(b)は同じくエネルギー吸収フードに衝撃が加わった状態を示した側面図。
【図2】(a)はリブを示した斜視図、(b)は破壊されたリブを示した斜視図。
【図3】(a)(b)はそれぞれ、第一実施例及び第二実施例に係るリブの製造方法を示した斜視図。
【図4】(a)(b)はそれぞれ、第一実施例及び第二実施例に係るリブに衝撃が加わった状態を示した概念図。
【図5】リブに係る試験結果及び解析結果を示した図。
【図6】(a)はエネルギー吸収フードに対する衝撃の加える場所を示した図、(b)は衝撃の加える場所とHIC及び必要なリブ長さとの関係を示した図。
【図7】(a)は各リブの断面形状を示した図、(b)はリブの断面形状ごとに肉厚とエネルギー吸収量との関係を示した図。
【図8】第二実施形態に係るエネルギー吸収フードを示した側面図。
【図9】従来技術に係るフードに衝撃が加わった状態を示した側面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、発明の実施の形態を説明する。
なお、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではなく、本明細書及び図面に記載した事項から明らかになる本発明が真に意図する技術的思想の範囲全体に、広く及ぶものである。
【0024】
まず始めに、本発明の第一実施形態に係るエネルギー吸収フード10の構成について、図1(a)及び(b)を用いて説明する。
本実施形態に係るエネルギー吸収フード10は、第一の板状部材であるアウターパネル11と、アウターパネル11に対向する第二の板状部材であるインナーパネル12と、アウターパネル11とインナーパネル12との間に配置される複数のリブ20・20・・・と、を備える。アウターパネル11及びインナーパネル12の素材は、スチールやアルミニウム等の金属を用いることも可能であるが、後述するように強度の向上や軽量化、エネルギー吸収の観点からは繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)で形成することが望ましい。
【0025】
本実施形態においては、エネルギー吸収フード10は自動車用ボンネットにおけるフードに用いられるものとして説明する。つまり、自動車用ボンネットにおいて、エネルギー吸収フード10が、アウターパネル11を車外側にして配設されているのである。
【0026】
なお、本実施形態において、図1(a)に示すエネルギー吸収フード10は、アウターパネル11とインナーパネル12との間に、一方向に配列された5個のリブ20を4段に亘って配置しており、合計20個のリブ20を備えているが、リブ20は一個以上あればよく、その個数は限定されるものではない。また、リブ20・20・・・は、アウターパネル11とインナーパネル12とのうち、何れか一方に対して固定される構成でも、双方に対して固定される構成でも差し支えない。
【0027】
そして、図1(b)に示す如く、エネルギー吸収フード10は、アウターパネル11に対して衝撃(図1(b)中に示す矢印P)によるエネルギーが加わった際に、複数のリブ20・20・・・が破壊されることにより、エネルギーを吸収するのである。
【0028】
本実施形態においてリブ20は、図1(a)及び図2(a)に示す如く円筒形状に形成され、エネルギー吸収効果の大きい繊維強化プラスチックで形成されている。より詳しくは、本実施形態におけるリブ20は、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP:Glass Fiber Reinforced Plastics)や鉄、アルミニウムなどの他の素材と比較してエネルギーの吸収効率の良い、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)で構成されている。なお、リブ20の断面形状は、円筒形状に限らず、他のいろいろな形状とすることが可能である(図6(a)を参照)。
また、リブ20は、アウターパネル11とインナーパネル12との間において、その円筒形状の軸心方向がアウターパネル11に対して略直交する方向に配置されている。
【0029】
具体的には、リブ20が衝撃によるエネルギーで破壊された場合は、図2(b)に示す破壊後のリブ20aのように半径方向に破断する。そして、リブ20の長さは、元の長さL0に対して、破壊後のリブ20aにおける長さL1の如く短くなる。つまり、リブ20はL0とL1との差である破壊長さLaだけ短くなり、L1は図2(b)に示す如くL0に対して数分の一程度となるため、LaはL0と近い長さとなるのである。ここで、リブ20を炭素繊維強化プラスチックで形成することにより、L0に対するLaの長さを他の素材と比較して長くすることができる。つまり、炭素繊維強化プラスチックによるリブ20は、L0と近いLaの長さで破壊される間に、大部分の形状を変形することでエネルギーを吸収できるため、他の素材と比較してよりエネルギー吸収効率が良くなるのである。
【0030】
また、本実施形態においてリブ20は、繊維方向を有する繊維強化プラスチックの積層体で形成されている。具体的には図3(a)に示す如く、円筒形状のリブ20を形成する際には、例えばアルミニウム製の円柱形状の芯材に、炭素繊維fの方向が平行となるように配列された薄膜状の繊維強化プラスチックシート21・22・23・24・・を巻き付けて、芯材の円筒形状における半径方向に積層させる。そして、それぞれの繊維強化プラスチックシート21・22・23・24・・に対して熱を加えると同時に圧着させてリブ20の形成を行う。その後冷却することによって、アルミニウムが収縮し、芯材とリブ20との間に間隙が生まれるため、リブ20から芯材を抜き出すのである。
【0031】
本実施形態においてはこのように、繊維方向を有する繊維強化プラスチックシート21・22・23・24・・の積層体でリブ20を形成したため、リブ20の剛性を高めることができる。つまり、リブ20に対する繊維方向への引張強度を上げることにより、リブ20の破壊に際してより大きなエネルギーが必要となるため、エネルギー吸収効率を高めることができるのである。
【0032】
また、本実施形態においてリブ20は、各繊維強化プラスチックシート21・22・23・24・・を、繊維強化プラスチックシート21・22・23・24・・における炭素繊維fの方向が二種類以上となるように積層して構成されている。
具体的には、リブ20が形成された際に、リブ20の軸芯方向と直交する方向(リブ20の円周方向)、つまり、リブ20がアウターパネル11とインナーパネル12との間に配置された場合に、アウターパネル11に対して略平行となる方向(以下、「90度方向」と記載する)に炭素繊維fが配列された、繊維強化プラスチックシート21・23を用意する。また、リブ20が形成された際に、リブ20の軸芯方向と同一方向となる方向、つまり、リブ20がアウターパネル11とインナーパネル12との間に配置された場合に、アウターパネル11に対して略垂直となる方向(以下、「0度方向」と記載する)に炭素繊維fが配列された、繊維強化プラスチックシート22・24を用意する。
【0033】
そして、図3(a)に示す如く、90度方向に繊維方向を有する繊維強化プラスチックシート21・23と、0度方向に繊維方向を有する繊維強化プラスチックシート22・24とを、相互に積層するように芯材に巻き付けて、リブ20を形成するのである。以下、図3(a)に示す、90度方向・0度方向に繊維方向を有するリブ20を、「第一実施例に係るリブ20」と記載する。
【0034】
一方、図3(b)に示す如く、0度方向に繊維方向を有する繊維強化プラスチックシート31・32・33・34・・・のみを芯材に巻き付けて積層したリブ30を、「第二実施例に係るリブ30」と記載する。
【0035】
第一実施例においては上記のように、繊維強化プラスチックシート21・22・23・24・・における炭素繊維fの方向が二種類となるように積層してリブ20を形成したため、リブ20の剛性をより高めることができる。
【0036】
具体的には、第二実施例に係るリブ30のように、繊維方向が一方向のみで形成した場合は、繊維方向と同一方向の応力には高い強度を有するものの、繊維方向と直交する方向に引張応力が加わると、応力方向に破断することとなる(図4(b)を参照)。つまり、繊維方向を有する繊維強化プラスチックは強度に異方性を有するため、第二実施例に係るリブ30においては、軸芯方向と直交する半径方向に裂けて破断しやすくなるのである。
【0037】
一方、第一実施例に係るリブ20のように、繊維方向が二種類となるように形成した場合は、一の繊維方向と直交する方向の応力が加わっても、他の繊維方向を有する繊維強化プラスチックが存在するため、応力方向への破断が起こりにくいのである。つまり、第一実施例に係るリブ20は、軸芯方向と直交する方向の応力に対して引張強度を上げることにより、リブ20が破壊しにくくなるため、エネルギー吸収効率を高めることができるのである。
【0038】
なお、第一実施例においては上記のように、繊維強化プラスチックシート21・22・23・24・・における炭素繊維fの方向が二種類となるようにリブ20を形成したが、繊維方向の種類は二種類より多くても差し支えない。即ち、60度ずつ回転させた三種類の繊維方向を有する繊維強化プラスチックや、45度ずつ回転させた四種類の繊維方向を有する繊維強化プラスチックを用いてリブを形成することも可能である。
【0039】
第一実施例に係るリブ20においては、アウターパネル11に対して略平行となる方向に炭素繊維fが配列された、繊維強化プラスチックシート21・23が積層されている。このため、図4(a)に示すように、衝撃(図4(a)中に示す矢印P)によるエネルギーが軸芯方向に加わっても、円周方向(応力方向と直交する方向)に繊維方向を有する繊維が引張応力に対抗する。これにより、図4(a)に示す如く短い周期で連続的に繊維の破断がおき、半径方向の繊維が破断する際にエネルギーを吸収することができるため、軸芯方向に亀裂が進行することを防ぐのである。
【0040】
一方、第二実施例に係るリブ30においては、図4(b)に示すように、衝撃(図4(b)中に示す矢印P)によるエネルギーが軸芯方向に加わった場合、円周方向(応力方向と直交する方向)の引張応力に対抗することができないため、軸芯方向に亀裂が進行しやすいのである。
【0041】
上記の如く、リブを形成する場合は、軸芯方向への亀裂を発生しにくくし、エネルギー吸収効率をより高めるという観点より、第一実施例に係るリブ20の如く、少なくとも一層の前記繊維強化プラスチックの繊維方向が、第一の板状部材であるアウターパネル11に対して平行となるように形成されることが望ましい。
即ち、繊維方向が二種類となるようにリブを形成した場合は、繊維強化プラスチックの繊維方向がアウターパネル11に対して平行となる層と、繊維強化プラスチックの繊維方向がアウターパネル11に対して垂直となる層と、を有するように形成されることが望ましいのである。
【0042】
それぞれの実施例に係るリブ20及びリブ30について行った試験結果について、図5を用いて説明する。図5は、それぞれのリブ20・30に対して軸芯方向に衝撃を加え、衝撃に伴う変位量と反力の大きさを示したものである。それぞれのリブについてのエネルギー吸収量は、図5における反力を積分した値(図5におけるグラフの下側に形成される面積の大きさ)が目安となる。
【0043】
図5に示す如く、第二実施例に係るリブ30においては、変位量の小さい破壊初期においては高い反力を示しているが、変位量が大きくなると反力は小さくなる。つまり、リブ30は衝撃が加わった瞬間には高い反力を示すが、一旦図4(b)の如く亀裂が発生すると瞬間的に破壊されて反力が失われることを示している。
【0044】
一方、第一実施例に係るリブ20においては、反力のピークはリブ30より小さいものの、変位量の小さい破壊初期から変位量が大きくなる破壊後期に至るまで、反力を維持している。つまり、リブ20は衝撃が加わって破壊が始まっても、図4(a)の如く連続的・持続的に破壊が進行するため、反力を維持することが可能となるのである。
【0045】
このように、第一実施例に係るリブ20は第二実施例に係るリブ30と比較して、変位量が大きくなってもある程度の反力を維持することができた。これにより、リブ20はリブ30よりもエネルギー吸収量(図5におけるグラフの下側に形成される面積の大きさ)が大きくなるのである。即ち、第一実施例に係るリブ20においては、アウターパネル11に対して略平行となる方向に炭素繊維fが配列されていることにより、軸芯方向への亀裂を発生しにくくし、エネルギー吸収効率をより高めることが可能となるのである。
【0046】
次に、エネルギー吸収フード10に対する衝撃を加える場所と、HIC(Head Injury Critera:頭部障害値)及び必要なリブ長さとの関係に関して、CAE(Computer Aided Engineering:コンピュータによる数値解析)による解析を行った結果について、図6を用いて説明する。HICとは、歩行者が頭部に衝撃を受けた時の安全性を評価する基準であり、その数値が低いほど安全性が高いことを示す。特に、歩行者の頭部に対する安全性を確保するためには、HICを1000以下とすることが好ましい。
【0047】
CAE解析には、第一実施例に係るリブ20と肉厚や大きさ、積層数等を同じ条件としたモデルを用いた。図5に示す如く、リブ20の試験結果とCAE解析値との関係において、エネルギー吸収量(図5におけるグラフの下側に形成される面積の大きさ)の誤差を5%程度に抑えることができた。このため、CAE解析におけるモデルの破壊形態は、リブ20の破壊形態における再現性を担保しているものとした。
【0048】
CAE解析においては図6(a)に示す如く、エネルギー吸収フード10の解析モデルを作成し、アウターパネル11の側から図示しない頭部インパクターを衝突させる条件の下で行った。頭部インパクターの衝突位置は、リブ20の中心の直上点を位置a、正方形状に配置された四個のリブ20の中間点を位置b、隣接する二個のリブ20の中間点を位置c、リブ20の縁部の直上点を位置dとした。
【0049】
上記の条件下で行ったCAE解析の結果、図6(b)に示す如く、各位置a〜dにおけるHICを1000以下にする条件を定めることができた。即ち、エネルギー吸収フード10のうち、どの部分に衝突が発生したとしても、歩行者の頭部に対する安全性を確保することができる条件とすることができたのである。なお、上記条件下においては、図6(b)に示す如く、エネルギー吸収に必要なリブ20の長さを20mm以下とすることもできた。つまり、上記の安全性を確保したエネルギー吸収フード10を、厚さ20mm程度に抑えて製造することが可能となるのである。
【0050】
上記の如く、本実施形態に係るエネルギー吸収フード10によれば、衝撃によるエネルギーが加わる場所に関わらず、充分なエネルギーの吸収効果を得ることができる。つまり、剛性の小さい部分を変形・破壊させてエネルギーを吸収する構成ではなく、エネルギー吸収フード10に対して全般的に配置されたリブ20・20・・・を変形・破壊させてエネルギーを吸収する構成としているため、衝突位置によるエネルギー吸収量のばらつきがないのである。
【0051】
また、本実施形態に係るエネルギー吸収フード10によれば、衝撃によるエネルギーを吸収するために大きく変形する構成ではなく、その内部のリブ20・20・・・が変形・破壊する構成であることから、エネルギー吸収フード10の近傍に変形するためのストロークを確保する必要がない(図1(b)を参照)。即ち、本実施形態の如く、エネルギー吸収フード10を自動車用ボンネットに適用した場合は、エンジンルーム内におけるエンジンなどの構造物からの距離を一定以上とる必要がない上に、エネルギー吸収フード10自身の厚みを20mm程度とすることができるため、エネルギー吸収フード10を制約なく配置することが可能となるのである。
【0052】
上記の如く、本実施形態に係るエネルギー吸収フード10によれば、衝撃が加わった部位に関わらず、衝撃によるエネルギーを充分に吸収することができるとともに、配置上の制約を低減させることが可能となるのである。
【0053】
次に、エネルギー吸収フード10に配設するリブの断面形状に関して、CAE解析を行った結果について、図7を用いて説明する。
CAE解析においては図7(a)に示す如く、断面積を一定として、断面形状ごとにリブの解析モデルを作成し、リブの肉厚とエネルギー吸収量との関係を解析した。各リブの断面形状は、図7(a)に示す如く、円筒の周囲に四方に板状部を突出させた円筒十字形状を形状A、円筒形状を形状B、六角形状を形状C、格子形状を形状D、四角形状を形状E、三角形状を形状F、十字形状を形状Gとした。
【0054】
上記の条件下で行ったCAE解析の結果、図7(b)に示す如く、全ての肉厚において、円筒形状である形状Bのエネルギー吸収量が大きくなった。このように、エネルギー吸収フード10に配設するリブの断面形状を、その内部で応力が集中しにくい円筒形状に形成し、リブにおける繊維強化プラスチックを円筒形状の半径方向に積層することが望ましいのである。
【0055】
次に、本発明の第二実施形態に係るエネルギー吸収フード110の構成について、図8を用いて説明する。
本実施形態に係るエネルギー吸収フード110は、第二の板状部材であるインナーパネル112が、第一の板状部材であるアウターパネル111との反対側で近接する他の部材(図8においてはエンジン構造物であるエンジンE)の外形に沿った形状に形成されている。そして、アウターパネル111とインナーパネル112との間に、複数のリブ120・120・・・が配置される。つまり、複数のリブ120・120・・・の長さを、アウターパネル111と他の部材との距離によって長さを変えているのである。
【0056】
本実施形態に係るエネルギー吸収フード110においても、前記第一実施形態に係るエネルギー吸収フード10と同様に、エネルギー吸収フード110の近傍に変形するためのストロークを確保する必要がない。即ち、本実施形態の如く、インナーパネル112を他の部材に近づけることにより、リブ120・120・・・が変形・破壊するための空間を大きくして、エネルギーの吸収効率を向上させることが可能となるのである。
【0057】
また、インナーパネル112を他の部材に近づけることに加えて、アウターパネル111の形状を平面形状以外の形状とすることも可能である。これにより、エネルギー吸収フード110の外形形状のデザイン自由度を高めることができる。具体的には、エネルギー吸収フード110が自動車用ボンネットにおけるフードに用いられるものである場合は、車外側からのアウターパネル111の形状を変更することが容易となるのである。
【0058】
なお、本実施形態においては、インナーパネル112を他の部材に近づける構成としたが、他の部材に対してリブ120・120・・・を直接当接させる構成とすることもできる。つまり、エンジンのように他の部材が配置されている部分ではインナーパネル112を取り払い、他の部材をインナーパネルとして代替する構成とすることも可能となる。
このように構成することにより、リブ120・120・・・が直接他の部材に当接部分における、取り払ったインナーパネル112分の重量を軽くするとともに、素材コストを低減させることができるのである。
【符号の説明】
【0059】
10 エネルギー吸収フード
11 アウターパネル
12 インナーパネル
20 リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の板状部材と、
前記第一の板状部材に対向する第二の板状部材と、
前記第一の板状部材と前記第二の板状部材との間に配置される、一以上のリブと、を備え、
前記リブは、繊維方向を有する繊維強化プラスチックの繊維方向が二種類以上となるように積層された、繊維強化プラスチックの積層体で形成され、
前記第一の板状部材に対して衝撃によるエネルギーが加わった際に、前記リブが破壊されることにより、前記エネルギーを吸収する、
ことを特徴とする、エネルギー吸収フード。
【請求項2】
前記リブは、少なくとも一層の前記繊維強化プラスチックの繊維方向が、前記第一の板状部材に対して平行となるように形成される、
ことを特徴とする、請求項1に記載のエネルギー吸収フード。
【請求項3】
前記リブは、前記繊維強化プラスチックの繊維方向が前記第一の板状部材に対して平行となる層と、前記繊維強化プラスチックの繊維方向が前記第一の板状部材に対して垂直となる層と、を有するように形成される、
ことを特徴とする、請求項1に記載のエネルギー吸収フード。
【請求項4】
前記リブは、円筒形状に形成され、
前記リブにおける繊維強化プラスチックは、円筒形状の半径方向に積層される、
ことを特徴とする、請求項1から請求項3の何れか1項に記載のエネルギー吸収フード。
【請求項5】
前記第二の板状部材は、前記第一の板状部材との反対側で近接する他の部材の外形に沿った形状に形成される、
ことを特徴とする、請求項1から請求項4の何れか1項に記載のエネルギー吸収フード。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れか1項に記載のエネルギー吸収フードが、前記第一の板状部材を車外側にして配設される、
ことを特徴とする、自動車用ボンネット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−131335(P2012−131335A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284726(P2010−284726)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】