説明

エネルギー線硬化型感熱発色性組成物および感熱記録体

【課題】安定性が良好で地肌かぶりがなく、印刷機等により部分的にあるいは全面に印刷が可能で、発色濃度が高く、サーマルプリンターでのヘッドマッチング、耐水性、耐磨耗性が良好で、更に偽造改ざん防止も可能なエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物の作成。
【解決手段】分子中に少なくとも3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物と、発色性化合物として置換基を持つ3−ジアルキルアミノ−7−(3−アニリノ)フルオランと、顕色性化合物として2,2'−ビス〔4−(4−ヒドロキシフェニルスルホニル)フェノキシ〕ジエチルエーテル系化合物と、更に、顕色性化合物としてN−(4'−ヒドロキシフェニルチオ)アセチル−2−ヒドロキシアニリン又はN−(4'−ヒドロキシフェニルチオ)アセチル−4−ヒドロキシアニリンとを含有するエネルギー線硬化型樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー線硬化型の感熱発色性組成物およびそれを用いた感熱記録体に関する。更に詳しくは、安定性が良好で地肌かぶりがなく、印刷機等により部分的にあるいは全面に印刷が可能で、発色濃度が高く、サーマルプリンターでのヘッドマッチング、耐水性、耐磨耗性が良好なエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物およびそれを用いた感熱記録体に関する。
【背景技術】
【0002】
無色又は淡色の塩基性染料(ロイコ染料)と有機又は無機の呈色剤を熱により反応させて記録画像を得る感熱記録体あるいは感熱記録材料は比較的安価で、装置がコンパクトで且つメンテナンスフリーであるためファクシミリやプリンター等の急速な普及に始まり広く定着し、今日の生活において欠くことのできない情報記録材料となっている。
【0003】
しかしながら、感熱記録材料(感熱記録体)は塩基性染料(ロイコ染料)による発色画像(記録画像形成)が定着をさせないため記録部の保存性に問題を抱えている。殊に水、油、可塑剤等による発色画像の退色及び未発色部の発色、いわゆる地肌かぶりなど感熱発色方式特有の欠点がある。この問題を解決する方法として、保存性の高い顕色性化合物の選択、安定剤の併用、或いは発色層上にオーバーコート等の保護層を設ける方法、又加熱乾燥を必要としないエネルギー線硬化型樹脂を結合剤として用いるか、あるいは保護層に用いる方法がある。エネルギー線硬化型樹脂の使用に関するものとしては感熱発色層上に紫外線硬化型樹脂層を設ける方法(特許文献1)や、感熱発色層の上に中間層を介して電子線硬化型樹脂層を設ける方法(特許文献2)、紫外線硬化型樹脂に感熱発色剤を無溶媒分散させる方法(特許文献3)などが提案されている。中でも紫外線硬化型樹脂に感熱発色材料を分散させ得た感熱発色性インキを使用した感熱記録体の保存性向上は大いに期待される手段である。
【0004】
しかし、紫外線硬化型樹脂に感熱発色材料を分散させる方法は、一般的にロイコ染料が紫外線硬化型樹脂中で発色し易く、インクの安定性に問題があるため地肌かぶりが起こりやすい。これに加えて、感熱発色材料を該樹脂に分散させたインクを塗布や印刷等した後、紫外線照射処理によって形成された感熱記録層は紫外線硬化型樹脂自体の堅牢性により、発色(発色性化合物と顕色性化合物との反応)が阻害され、記録濃度が充分に得られない問題もある。特許文献4において、特定のロイコ染料を使用した発色性のエネルギー線硬化型樹脂組成物およびそれを用いた感熱記録体が提案され、耐磨耗性、耐水性等に優れた保存性品質が示されている。しかしながら、発色濃度(印字記録濃度)は十分とはいい難く、特定の用途を除いて、通常のサーマルプリンターによって得られる発色濃度(印字記録濃度)としては不十分である。
【0005】
【特許文献1】特公昭58−35478号公報(第1−2頁)
【特許文献2】特公平3−20355号公報(第1−2頁)
【特許文献3】特公昭57−52920号公報(第1−2頁)
【特許文献4】特開2005−239864号公報(第1−2頁、10−11頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、発色濃度が高く且つ保存性に優れたエネルギー線硬化型の発色性組成物、およびそれを用いた感熱記録体あるいは偽造、改ざん防止材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記の問題を解決するために鋭意努力した結果、本発明を完成させた。すなわち本発明は、
(1)
分子中に少なくとも3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)と、下記式(1)で表される発色性化合物と、該発色性化合物を発色させうる顕色性化合物として下記式(2)で表される化合物と、更に、顕色性化合物として下記式(3)又は下記式(4)で表される化合物とを含有するエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物、
【0008】
【化1】

【0009】
(式(1)において、R1およびR2はそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を、Xはハロゲン原子またはトリフルオロメチル基をそれぞれ示す。)
【0010】
【化2】

【0011】
【化3】

【0012】
【化4】

【0013】

(2)
式(1)のXがフッ素原子又は塩素原子であり、R1およびR2がエチル基又はブチル基である上記(1)に記載のエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物。
(3)
化合物(A)がジペンタエリスリトールヘキサアクリレートである上記(1)又は(2)に記載のエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物。
(4)
上記(1)から(3)のいずれか一項に記載のエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物の層を支持体上に有する感熱記録体。
(5)
エネルギー線硬化型の感熱発色性組成物の層が、支持体上に塗布あるいは印刷された層である、上記(4)に記載の感熱記録体。
(6)
エネルギー線硬化型の感熱発色性組成物の層が、エネルギー線により硬化した層である、上記(4)又は(5)に記載の感熱記録体、
に関する。
【発明の効果】
【0014】
通常、紫外線硬化型樹脂中にロイコ染料を分散させようとすると、ロイコ染料と該樹脂中のアルコールやフェノール等の官能基、あるいはロイコ染料と顕色性化合物とが紫外線硬化型樹脂中で反応して発色してしまうため、無色に近いインク組成物を得ることは困難であったが、鋭意検討を重ねた結果、特定の紫外線硬化型樹脂、ロイコ染料、顕色性化合物の組み合わせにより、安定性が良好で地肌かぶりがなく、印刷機等により部分的にあるいは全面に印刷が可能な本発明のエネルギー線硬化型の感熱発色性インクが得られ、更にそれを用いて発色濃度が高く、サーマルプリンターでのヘッドマッチング、耐水性、耐磨耗性が良好な感熱記録体が得られた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を詳細に説明する。
本発明で使用する、分子内に少なくとも3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)としては、常温で液状のものが好ましい。(メタ)アクリレート類は、(メタ)アクリロイル基を1つ有する単官能モノマー、(メタ)アクリロイル基を2個有する2官能モノマー、(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマー、(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能モノマーに大別されるが、被膜形成能や被膜硬度の点から、(メタ)アクリロイル基を3個以上有する、常温で液状のオリゴマーや多官能モノマーが好ましい。
【0016】
このような多官能モノマーの具体例としては、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールオクタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリエトキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリプロポキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリエトキシポリプロポキシトリ(メタ)アクリレート、トリス[(メタ)アクリロイルオキシエチル]イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリス[(メタ)アクリロイルオキシエチル]イソシアヌレート等の(メタ)アクリロイル基を3個有するもの;ペンタエリスリトールポリエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールポリプロポキシテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基を4個ゆうするもの;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のアクリロイル基を4個以上有するもの;等が好ましく挙げられる。
【0017】
更に、オリゴマーとしては、例えばエポキシ(メタ)アクリレート、ポリエチレン(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、シリコン(メタ)アクリレート、ポリブタジエン(メタ)アクリレート、ポリスチリルエチル(メタ)アクリレート、ポリアミド(メタ)アクリレート等のうち、分子内に少なくとも3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物が好ましく挙げられる。
中でも本発明の用途には、硬化性や硬度などの点からジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが特に好ましい。
分子中に少なくとも3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)の使用量は、成膜性や塗膜強度等の膜性能や発色濃度を考慮すると、エネルギー線硬化型樹脂組成物の全重量中の通常1〜60重量%、好ましくは5〜25重量%の範囲である。
【0018】
本発明においては前記した各成分の他に、単官能モノマー、2官能モノマー、(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマーのうち、分子内に2個以下の(メタ)アクリレートを有するもの等を、エネルギー線硬化型の感熱発色性組成物の粘度調整を目的として含有しても良い。
単官能モノマーとしては、例えばN,N−ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の3級アミノ基を含有するもの;ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の直鎖アルキル基を含有するもの;2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の分岐鎖アルキル基を含有するもの;シクロヘキシルアクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレート等の環状アルキル基を含有するもの;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル基を含有するもの;、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート等のフェノキシ基を含有するもの;フェニルグリシジルエーテル(メタ)アクリレート等のグリシジルエーテル基を含有するもの;アクリロイルモルホリン等のアミド基を有するもの;等があげられる。
【0019】
又、2官能モノマーとしては、例えばエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート等のグリコール類のジアクリレート;ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物のジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、及び3−ヒドロキシ−2,2’−ジメチルプロピル−3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピオナートの6−ヘキサノリド付加重合物とアクリル酸とのエステル化物等があげられる。
2官能モノマーとしては、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、3−ヒドロキシ−2,2’−ジメチルプロピル−3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピオナートの6−ヘキサノリド付加重合物とアクリル酸とのエステル化物が好ましく、後者の化合物は日本化薬株式会社製、商品名KAYARAD HX−220として、市場から入手することが可能である。
【0020】
オリゴマーのうち分子内に2個以下の(メタ)アクリレートを有するオリゴマ−としては、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエチレン(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、シリコン(メタ)アクリレート、ポリブタジエン(メタ)アクリレート、ポリスチリルエチル(メタ)アクリレート、ポリアミド(メタ)アクリレート等のうち、分子内に2個以下のアクリロイル基を有する化合物等が挙げられる。
これらの単官能モノマー、2官能モノマー、2個以下の(メタ)アクリレートを有するオリゴマ−は、本願発明の効果を疎外しない範囲で必要に応じて、エネルギー線硬化型の感熱発色性組成物の全重量中、5〜80重量%の範囲で含有される。
【0021】
本発明のエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物は、これを電子線で硬化させる場合は必ずしも必要ないが、紫外線で硬化させる場合は光重合開始剤を、又必要に応じ、光重合促進剤を含有する。用いうる光重合開始剤の具体例としては、例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾイン類;アセトフェノン、2,2−ジメトキシー2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシー2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、N,N−ジメチルアミノアセトフェノン等のアセトフェノン類;2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−アミルアントラキノン、2−アミノアントラキノン等のアントラキノン類;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等のケタール類;ベンゾフェノン、メチルベンゾフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノン、4,4'−ジクロロベンゾフェノン、4,4'−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、4−ベンゾイル−4'−メチルジフェニルサルファイド等のベンゾフェノン類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等が挙げられる。
同じく、光重合促進剤の具体例としてはN,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、ペンチル4−ジメチルアミノベンゾエート、トリアチルアミン、トリエタノールアミン等の三級アミン等が挙げられ、単独あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。これらの光重合開始剤および光重合促進剤の含有割合は、エネルギー線硬化型の感熱発色性組成物の全重量中、それぞれ通常0.1〜15重量%、好ましくは0.5〜10重量%である。
【0022】
本発明で使用する上記式(1)で示される発色性化合物において、R1およびR2はそれぞれ独立に炭素数1〜4の直鎖あるいは分岐鎖のアルキル基を示し、Xはハロゲン原子またはトリフルオロメチル基を示す。
本発明においては、R1およびR2が直鎖のものがより好ましく、具体例としては、エチル基、あるいはn−ブチル基であるものが好ましい。
Xはハロゲン原子、又はハロゲノC1−C3アルキル基が好ましい。ハロゲン原子の具体例としてはフッ素原子、塩素原子が好ましく、ハロゲノC1−C3アルキル基の具体例としてはトリフルオロメチル基が好ましい。
上記式(1)で示される発色性化合物の好ましい具体例としては、例えば3−ジエチルアミノ−7−(o−クロロアニリノ)フルオラン、3−ジブチルアミノ−7−(o−クロロアニリノ)フルオラン、3−ジエチルアミノ−7−(o−フルオロアニリノ)フルオラン、3−ジブチルアミノ−7−(o−フルオロアニリノ)フルオラン、3−ジエチルアミノ−7−(m−トリフルオロメチルアニリノ)フルオラン等が挙げられる。
上記式(1)で表される発色性化合物の使用量(含有量)はエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物の全重量中、通常2〜50重量%、好ましくは5〜30重量%の範囲である。
【0023】
上記式(1)の化合物は公知の発色性化合物であり、市場より入手が可能である。式(1)で表される化合物を発色させうる顕色性化合物としては、上記式(2)〜式(4)の化合物が挙げられる。該顕色剤は、3種の化合物を併用してもよいが、好ましくは式(2)と、式(3)又は式(4)の化合物のいずれか一つの2種類を併用するのがよい。なお、上記式(2)〜式(4)で表される化合物は感熱記録材料に顕色剤として用い得ることが知られている。上記式(2)において、nは1乃至3が好ましく、より好ましくはnが2で表される化合物である。例えば、nが2である式(2)で表される化合物は、商品名:D−90(日本曹達株式会社製)として、式(3)で表される化合物は、商品名D−104(日本曹達株式会社製)として、式(4)で表される化合物は、商品名D−102(日本曹達株式会社製)として、それぞれ市場より入手することができる。
上記式(1)で表される化合物を発色させうる顕色性化合物の含有量は、エネルギー線硬化型の感熱発色性組成物の全重量中、顕色性化合物の総量で、通常2〜50重量%、好ましくは5〜25重量%の範囲である。
【0024】
本発明においてはさらに前記した各成分の他に、熱可融性化合物として、動植物性ワックス、合成ワックスなどのワックス類や高級脂肪酸、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸アニリド、芳香族アミンのアセチル化物、ナフタレン誘導体、芳香族エーテル、芳香族カルボン酸誘導体、芳香族スルホン酸エステル誘導体、炭酸又はシュウ酸ジエステル誘導体、ビフェニル誘導体、ターフェニル誘導体等、常温で固体であり約70℃以上の融点を有するものを用いることができる。この熱可融性化合物は、通常、発色感度を高める増感剤として作用する。感熱記録体を発色させるプリンターには様々な種類があり、発色時に加えられる熱等のエネルギー量も異なる。このため一概に言うことは困難であるが、十分な発色濃度を得るためには増感剤を使用することが好ましい。上記の中ではシュウ酸ジエステル誘導体が好ましく、好ましい具体例としてはジ−p−メチルベンジルオキサラートが挙げられる。
【0025】
本発明のエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物は、例えば次のようにして製造される。
すなわち、分子中に少なくとも3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)に、必要に応じ光重合開始剤、光重合促進剤、その他の添加剤等も一緒に添加して溶解液あるいは分散液(a)を得る。次いで、上記式(1)の発色性化合物、上記式(2)および式(3)又は式(4)の顕色性化合物をそれぞれ別々に該液(a)に添加混合し、発色性化合物、又は顕色性化合物をそれぞれ含有する該液(a)を個別に調整する。この際、必要に応じてボールミル、アトライター、サンドミル、ロールミルなどの分散機にて粉砕、分散し、好ましい様態としては塗工の際に発色性化合物、及び顕色性化合物を含有する2種類の該液(a)を混合して本発明のエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物を調製し使用する。
こうして得られた本発明のエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物は、揮発性の有機溶剤や水等の溶媒を含有しない。
しかし、塗工上の必要等に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で有機溶剤や水を加えることもできる。この場合、本発明のエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物に含有する上記各化合物の重量比率は、上記溶媒を含まない状態(例えば、乾燥状態)での比率に読みかえればよい。
【0026】
本発明において、エネルギー線硬化型の感熱発色性組成物には、必要に応じて、ポリマー、消泡剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、重合禁止剤、帯電防止剤、蛍光染料などの添加剤を、その種類、含有量を適宜選択して併用することができる。
【0027】
また、本発明のエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物にはサーマルプリンター等による印字でのヘッドへのかす付着の防止やスティッキングの防止を目的として、無機フィラーや有機フィラー等のフィラー、滑剤を添加しても良い。無機フィラーとしては、例えば水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、二酸化珪素、二酸化チタン、タルク、クレイ、カオリン、コロイダルシリカ、金属粉末等の無機粉末やこれらの無機粉末を表面処理したフィラー等が挙げられる。又、有機フィラーとしては、例えばスチレンマイクロボール、ポリスチレン樹脂ビーズ、アクリル系樹脂ビーズ、ウレタン樹脂ビーズ、ポリカーボネート樹脂ビーズ、ベンゾグアナミン−ホルマリン縮合物の樹脂粉末、メラミン−ホルマリン縮合物の樹脂粉末、尿素−ホルマリン縮合物の樹脂粉末、エポキシ樹脂パウダー、ポリエチレンパウダー、芳香族ポリエステル等が挙げられる。滑剤としては、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の脂肪酸金属塩が挙げられる。これらは単独あるいは2種以上併用して用いることができる。これらのフィラー、滑剤の配合割合は、本発明のエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物の全重量中、0.01〜10重量%、好ましくは0.05〜5重量%である。
【0028】
本発明のエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物の全重量中における、上記化合物(A)、式(1)、式(2)、及び式(3)又は式(4)で表される化合物の総重量比率は、20〜70重量%、好ましくは30〜50重量%である。
また、該感熱発色性組成物の全重量中における、化合物(A)、式(1)、式(2)、及び式(3)又は式(4)で表される各化合物の重量比率は、成膜性や塗膜強度等の膜性能や発色濃度を考慮すると、化合物(A)が通常1〜60重量%、好ましくは5〜25重量%、式(1)で表される発色性化合物が通常2〜50重量%、好ましくは5〜30重量%、式(2)乃至式(4)で表される顕色性化合物は総重量で通常2〜50重量%、好ましくは5〜25重量%である。
また、上記分子中に少なくとも3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)と、分子内に2個以下の(メタ)アクリレートを有する単官能モノマー、2官能モノマー及び(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマー等との併用比率は、重量比で通常5:95〜60:40、好ましくは10:90〜50:50である。
また顕色剤の総重量中における、上記式(2)と、式(3)又は式(4)との併用比率は、重量比で通常5:95〜50:50、好ましくは10:90〜40:60である。
【0029】
こうして得られた本発明のエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物を紙、プラスチックシート、合成紙等の支持体上に通常、乾燥時の重量で0.5〜20g/m2(膜厚0.5〜20μm)になるようにバーコーター、ブレードコーターフレキソコーター、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等により塗布あるいは印刷する。この際の支持体はコロナ処理や易接着処理などの表面処理や、印刷が施されたものでも良い。
【0030】
本発明のエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物を塗布あるいは印刷した塗工物は、次いで紫外線や電子線等のエネルギー線を照射して塗膜を硬化させ、本発明の感熱記録体が得られる。その際、電子線により硬化させる場合、100〜500eVのエネルギーを有する電子線加速装置が好ましい。一方、紫外線により硬化させる場合、光源としてキセノンランプ、高圧水銀灯、メタルハライドランプを有する紫外線照射装置が用いられ、必要に応じて光量、光源の配置などが決定されるが、高圧水銀灯を用いる場合、80〜120W/cmの光量を有したランプにより搬送速度5〜60m/分、1〜4回照射して硬化させるのが好ましい。
【0031】
本発明のエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物は安定性が良好で地肌かぶりがなく、印刷機等により部分的にあるいは全面に印刷が可能で、発色濃度が高く、サーマルプリンターでのヘッドマッチング、耐水性、耐磨耗性が良好な感熱記録体あるいは偽造、改ざん防止材料が得られる。
【実施例】
【0032】
本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。尚、実施例において部は質量部を意味する。
また、各実施例で使用した化合物は、以下の通りである。
3−ジエチルアミノ−7−(o−フルオロアニリノ)フルオラン:
上記式(1)において、R1およびR2がエチル、アミノ基の置換位置を1位として、Xが2位のフッ素原子で表される化合物。
3−ジブチルアミノ−7−(o−クロロアニリノ)フルオラン:
上記式(1)において、R1およびR2がn−ブチル、アミノ基の置換位置を1位として、Xが2位の塩素原子で表される化合物。
【0033】
実施例1
[A]液
2官能性モノマー(KAYARAD HX−220) 60部
2官能性モノマー(1,6−ヘキサンジオールジアクリレート) 25部
ジ−p−メチルベンジルオキサラート 40部
3−ジエチルアミノ−7−(o−フルオロアニリノ)フルオラン 25部
[B]液
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 20部
2官能性モノマー(KAYARAD HX−220) 15部
2官能性モノマー(1,6−ヘキサンジオールジアクリレート) 45部
光重合開始剤(イルガキュアー184D;チバスペシャリティーケミカルズ社製) 10部
式(2)の化合物(D−90;日本曹達(株)製) 50部
ステアリン酸亜鉛 10部
[C]液
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 20部
2官能性モノマー(KAYARAD HX−220) 15部
2官能性モノマー(1,6−ヘキサンジオールジアクリレート) 45部
光重合開始剤(イルガキュアー184D;チバスペシャリティーケミカルズ社製) 10部
式(3)の化合物(D−102;日本曹達(株)製) 50部
ステアリン酸亜鉛 10部
上記の組成のものをそれぞれ混合し、ロールミルを用いて粉砕、分散化して[A]液、[B]液、[C]液をそれぞれ調製した。
【0034】
次いで[A]液:[B]液:[C]液を10:3:7の割合で混合して、本発明のエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物を得た。それを厚さ188μmの白色PETフィルムにスクリーン(350メッシュ)を用いて塗布重量が10〜15g/m2となるように塗布し、80W/cmの高圧水銀灯を有する紫外線照射装置(GS ASE−20;日本電池社製)によりコンベアー速度10m/分で4回照射して硬化処理を行い、本発明のエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物の層を設けた感熱記録体を得た。
【0035】
実施例2
実施例1におけるジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの代わりにペンタエリスリトールトリアクリレートを使用して、実施例1と同様にして本発明のエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物およびその感熱発色性組成物の層を設けた本発明の感熱記録体を得た。
【0036】
実施例3
実施例1の3−ジエチルアミノ−7−(o−フルオロアニリノ)フルオランの代わりに3−ジブチルアミノ−7−(o−クロロアニリノ)フルオランを使用して、実施例1と同様にして本発明のエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物およびその感熱発色性組成物の層を設けた本発明の感熱記録体を得た。
【0037】
実施例4
実施例1の[C]液の式(3)の化合物(D−102;日本曹達(株)製)の代わりに式(4)の化合物(D−104;日本曹達(株)製)を使用して、実施例1と同様にして本発明のエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物およびその感熱発色性組成物の層を設けた本発明の感熱記録体を得た。
【0038】
実施例5
実施例1の[A]液:[B]液:[C]液の混合割合を10:1:9に代える以外は実施例1と同様にして、本発明のエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物およびその感熱発色性組成物の層を設けた本発明の感熱記録体を得た。
【0039】
比較例1
実施例1におけるジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの代わりに1,6−ヘキサンジオールジアクリレートを使用して、実施例1と同様にして比較用のエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物およびその感熱発色性組成物の層を設けた本発明の感熱記録体を得た。
【0040】
比較例2
実施例2の式(2)、式(3)の化合物の代わりに特許文献4(特開2005−239864号公報)実施例1のビス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)スルホンを使用して、実施例1と同様にして比較用のエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物およびその感熱発色性組成物の層を設けた本発明の感熱記録体を得た。
【0041】
この様にして得られた本発明及び比較用のエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物およびその感熱発色性組成物の層を設けた感熱記録体の評価を行い、それぞれの結果を表1、に示した。
【0042】
評価結果
表1
硬化性1) 地肌2) 発色濃度3) 印字品質4) 耐水性5)
実施例1 ○ 0.10 1.30 ○ ○
〃 2 ○ 0.11 1.32 ○ ○
〃 3 ○ 0.09 1.32 ○ ○
〃 4 ○ 0.10 1.31 ○ ○
〃 5 ○ 0.10 1.42 ○ ○
比較例1 × 0.08 0.09 × ×
〃 2 ○ 0.22 1.08 ○ ○

【0043】
1)硬化性
エネルギー線硬化型の感熱発色性組成物を塗布、UV照射後、塗膜面を指触にて評価した。
○:硬化している
×:未硬化
2)地肌
該感熱発色性組成物を塗工、硬化形成、得られた感熱記録体の地肌をマクベス反射濃度計RD−914にて測定した。
3)発色濃度
該感熱発色性組成物を塗工、硬化形成、得られた感熱記録体を、カードプリンター TH−CPS((株)大倉電気製)で印字し、その発色濃度をマクベス反射濃度計RD−914にて測定した。
4)耐摩擦性
上記発色試験において得られた感熱記録体の文字、パターンの変形、破壊、尾引きを観察した。
○:変形、破壊、尾引きがなく良好な印字状態。
×:変形、破壊、尾引きのいずれかが認められた。
5)耐水性
上記発色試験において得られた感熱記録体を25℃水道水に24時間浸漬後、印字面を水を浸したガーゼで5往復こすり、表面の状態および発色部の状態を目視で評価した。
○:表面のはがれ、未発色部の発色、発色部の退色もなく良好だった
×:こすった部分にはがれ、未発色部の発色、発色部の退色などの変化が生じた。
【0044】
表1から明らかなように、本発明のエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物は安定性が良好で、その発色性組成物は印刷機等により部分的にあるいは全面に印刷ができ紫外線により硬化可能である。またその塗工物は地肌が良好で地肌かぶりがなく、発色濃度が高く、サーマルプリンターでの印字品質、耐水性、耐磨耗性が良好であった。
各実施例と各比較例のマクベス反射濃度で比較すると、地肌2)において、各実施例は0.09〜0.11であるのに対して、比較例2は0.22であり、地肌かぶりが見られた。また、発色濃度3)において、各実施例が1.30〜1.42であるのに対して、各比較例は0.09及び1.08であり、発色濃度が不十分であることが明白であった。なお、比較例2は、上記式(2)及び(3)の顕色剤を併用する代わりに本願範囲に含まれない顕色剤を使用した例である。
さらに、上記化合物(A)の代わりに2官能性モノマーを使用した比較例1は、硬化性1)、印字品質4)及び耐水性5)を含む全ての試験で最も劣る性能であった。
本発明のエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物は感熱記録体を提供するためのエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物として使用できるほか、通常の印刷物に隠しマークとして印刷し、熱エネルギーにより発色させてマークを確認できることから、偽造改ざん防止用途としても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中に少なくとも3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)と、下記式(1)で表される発色性化合物と、該発色性化合物を発色させうる顕色性化合物として下記式(2)で表される化合物と、更に、顕色性化合物として下記式(3)又は下記式(4)で表される化合物とを含有するエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物、
【化1】

(式(1)において、R1およびR2はそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を、Xはハロゲン原子またはトリフルオロメチル基をそれぞれ示す。)
【化2】

【化3】

【化4】


【請求項2】
式(1)のXがフッ素原子又は塩素原子であり、R1およびR2がエチル基又はブチル基である請求項1に記載のエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物。
【請求項3】
化合物(A)がジペンタエリスリトールヘキサアクリレートである請求項1又は2に記載のエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のエネルギー線硬化型の感熱発色性組成物の層を支持体上に有する感熱記録体。
【請求項5】
エネルギー線硬化型の感熱発色性組成物の層が、支持体上に塗布あるいは印刷された層である、請求項4に記載の感熱記録体。
【請求項6】
エネルギー線硬化型の感熱発色性組成物の層が、エネルギー線により硬化した層である、請求項4又は5に記載の感熱記録体。

【公開番号】特開2009−125960(P2009−125960A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299951(P2007−299951)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】