説明

エポキシオルガノアルコキシシランの製造方法

エポキシオルガノアルコキシシランは、RhCl(ジ−tert−ブチルスルフィド)触媒の存在下で、ヒドリドアルコキシシランとオレフィンエポキシドとの反応によって作られる。該反応は安定剤の存在なしで、65〜95℃の範囲の温度で実施され、該オレフィンエポキシドが、ヒドリドアルコキシシランと反応するのに必要な化学量論の量を超えた5〜25パーセントの過度のモル濃度で該反応に存在する。好ましくは、該反応温度は70〜75℃の範囲内であり、該オレフィンエポキシドはヒドリドアルコキシシランと反応するのに必要な化学量論の量を超えた約10パーセントの過度のモル濃度で反応中に存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロジウム触媒の存在下で、ヒドリドアルコキシシランとオレフィンエポキシドのヒドロシリル化反応によるエポキシオルガノアルコキシシランの調製に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロシリル化は、不飽和炭化水素へケイ素水素化物の付加を伴い、ケイ素−炭素結合を形成する反応として周知である。それは例えば、米国特許第5,208,358号明細書(1993年5月4日)、米国特許第5,258,480号明細書(1993年11月2日)、および米国特許第6,365,696号明細書(2002年4月2日)を含む多くの米国特許に記載されている。本発明はこれらの特許に記載されているようなヒドロシリル化反応における改良である。
【0003】
それ故、前記’358号特許は、ここで用いられている特殊なロジウム触媒を示す一方、該触媒はエポキシオルガノアルコキシシランを製造するためというよりはヒドロシリル化によってシリルケテンアセタールを製造するために用いられる。前記’480号特許の処理は、エポキシオルガノアルコキシシランを製造するオレフィンエポキシドおよびヒドリドアルコキシシランの反応を教示する一方、該’480号特許は異なるロジウム触媒を用い、そしてヒドロシリル化反応中、エポキシ環の開環によって起こるゲル化を防ぐためにメチルジココアミンのような第三級アミン安定化剤の存在を必要とする。同様に、前記’696号特許は、エポキシオルガノアルコキシシランを作るヒドリドアルコキシシランとオレフィンエポキシドの反応を教示する一方、該’696号特許は異なるロジウム触媒を用いて、そしてエポキシド環の開環重合をなくすためにアンモニウムアセテートのようなカルボキシル基を有する酸塩の存在を必要とする。
【0004】
本発明は、ヒドロシリル化によるエポキシオルガノアルコキシシランの改良された製造方法に関し、オレフィンエポキシドはロジウム触媒の存在下で、ヒドリドアルコキシシランと反応させられる。詳しくは、該ロジウム触媒はRhCl(ジ−tert−ブチルスルフィド)、すなわちRhCl[(CHC)S]である。この特殊なロジウム触媒が、エポキシ環の開環なしでヒドロシリル化反応するような触媒能力があること、および第三級アミンおよびカルボキシル基を有する酸塩のような補助剤または追加の安定剤なしで、そのような反応を促進するために用いられ得ることが思いがけなく発見された。
【0005】
より詳しくは、本発明は、RhCl(ジ−tert−ブチルスルフィド)触媒の存在下で、ヒドリドアルコキシシランとオレフィンエポキシドとの反応によるエポキシオルガノアルコキシシランを製造する方法に関し、それは、(i)該反応は安定剤の存在がない、(ii)該反応は65〜95℃の範囲内の温度で実施される、そして(iii)該オレフィンエポキシドがヒドリドアルコキシシランと反応するのに必要な化学量論の量を超えた5〜25パーセントの過度のモル濃度で該反応に存在する。
【0006】
好ましくは、前記反応温度は70〜75℃の範囲であり、前記オレフィンエポキシドがヒドリドアルコキシシランと反応するのに必要な化学量論の量を超えた約10パーセントの過度のモル濃度で該反応に存在する。
【0007】
本発明のこれらの特徴および他の特徴は、詳細な説明の考察から明確になるであろう。
【0008】
本発明によるヒドロシリル化反応方法で用いられ得るヒドリドアルコキシシランは、トリメトキシシランHSi(OCH、トリエトキシシランHSi(OC、トリ−n−プロポキシシランHSi(OC、トリイソプロポキシシランHSi[OCH(CH]、メチルジメトキシシラン(CH)HSi(OCH、メチルジエトキシシラン(CH)HSi(OC、ジメチルメトキシシラン(CHHSi(OCH)、ジメチルエトキシシラン(CHHSi(OC)、およびフェニルジエトキシシラン(C)HSi(OCのような有機ケイ素組成物が挙げられる。
【0009】
本発明によるヒドロシリル化反応方法に適したオレフィンエポキシドは、前記’480号特許に記載されているような、リモネンオキシド、アリルグリシジルエーテル、グリシジルアクリレート、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−7−オクタン、1,2−エポキシ−9−デセン、ビニルノルボルネンモノオキシド(vinyl norborene monoxide)、およびジシクロロペンタジエンモノオキシドを包含する組成物であり得る。他のオレフィンエポキシドとしては、ブタジエンモノオキシド(3,4−エポキシ−1−ブテン)、4−ビニルシクロヘキセンモノオキシド(VCMX)、および1−メチル−4−イソプロペニルシクロヘキセンモノオキシドのような前記’696号特許に記載されたエチレン化不飽和エポキシドを包含し使われ得る。
【0010】
上述のように、本発明によるヒドロシリル化反応を実施するのに使われる触媒はロジウム触媒RhCl(ジ−tert−ブチルスルフィド)、すなわちRhCl[(CHC)S]である。それはRhClおよびジ−tert−ブチルスルフィドの反応に使われる標準的な手順によって調製され得る。
【0011】
本発明の最も好ましい実施形態は、使用されるヒドリドアルコキシシランがトリメトキシシランであり、そしてそれがロジウム触媒RhCl(ジ−tert−ブチルスルフィド)の存在下で、ビニルシクロヘキセンモノオキシドであるオレフィンオキシドと反応させられて、エポキシオルガノアルコキシシラン組成物2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランを生産する。この反応の概要を下記に示す。
【0012】
【化1】

【0013】
本発明による方法においては、反応で使われる全ての構成材料の混合重量を基準として、100万分の10〜30部のロジウム触媒を用いて実施される。より好ましい触媒の量は100万分の約15部である。前記ヒドリドアルコキシシランおよびオレフィンエポキシドは、化学量論の量を超えた5〜25モルパーセントの過度のオレフィンエポキシドを供するような量で用いられる。オレフィンエポキシドのより好ましい量は、約10モルパーセントの過度のオレフィンエポキシドを供するような量である。該反応は65〜95℃、好ましくは70〜75℃の範囲の温度、および常圧で実施され得る。必要に応じて、例えばトルエン、オクタンおよびキシレンを包含する炭化水素組成物のような溶媒が該反応で用いられてもよい。該反応はバッチ、セミ−バッチまたは連続的に実施され得る。ストリッッピングおよび蒸留手順は、反応生成物を精製するための処理ステップとして挙げられ得る。
【実施例】
【0014】
以下の実施例をより詳細に本発明を説明するために示す。
【0015】
<実施例1>
この実施例は、最終生成物2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(ECHETMS)を形成するためのトリメトキシシランおよびビニルシクロヘキセンモノオキシド(VCMX)の反応を触媒するRhCl(ジ−tert−ブチルスルフィド)の特異性を示した。水冷凝縮器、磁気棒、および温度計を備えた500ミリリットルのフラスコから成る反応容器を使った。55.53gのビニルシクロヘキセンモノオキシド、0.0057gのRhCl(ジ−tert−ブチルスルフィド)触媒を含有する0.38グラムのトルエン溶液で該反応容器を満たした。その混合物を攪拌し、70℃に加熱した。該混合物が70℃に到達した後、熱を除き、化学量論の量を超えた10モルパーセントの過度のVCMXを供するために、50.00グラムのトリメトキシシランを加えた。該トリメトキシシランの供給量を調節し、該反応容器内を70〜80℃の間に保った。全てのトリメトキシシランを加えた後、該反応容器の温度を30分間70〜80℃の間に保持した。該反応容器をその後冷却し、ガスクロマトグラフィを用いてサンプルを分析した。該分析では、84.07パーセントの面積から2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランの産出量を示した。
【0016】
<実施例2>
ロジウム触媒RhCl(ジ−tert−ブチルスルフィド)およびビニルシクロヘキセンモノオキシドの濃度と同時に反応容器の温度の影響を11個の試験(run)シリーズで評価した。シリーズの全ての試験を下記の標準的手順に従って実施した。実施例1に記載した反応容器に、以下の表1に示すような反応容器の濃度を供する量で、ビニルシクロヘキセンモノオキシドおよびRhCl(ジ−tert−ブチルスルフィド)を加えた。該混合物を攪拌し、70〜75℃、80〜85℃、または95〜100℃の範囲の温度で加熱した。混合物が望ましい温度に達した後、熱を除き、50.00グラムのトリメトキシシランを加え、表1に示すような過度のモル濃度のVCMXを供した。該トリメトキシシランの供給量を調節し、該反応容器内温度を一定範囲のままに保った。全てのトリメトキシシランを加えた後、表1に示される反応容器の温度を30分間維持した。該反応容器はその後冷却し、ガスクロマトグラフィを用いてサンプルを分析した。
【0017】
【表1】

【0018】
表1において、試験1〜8は実験計画法(DOE)試験であり、試験9〜11はDOE試験1〜8の結果を基に最適化した試験である。実施例2および表1では、最適な処方設計は、10モルパーセントの過度のVCMX、10ppmのRh触媒を使用し、そして反応容器の温度を70〜75℃の間に維持するべきであることを包含することを示している。これらの条件は、副生成物を最小限にする一方、最も多くの主生成物を産出し、トリメトキシシランが該生成物への最も高い転換率を供した。反応において温度の影響は予測外であった。例えば、試験1〜8のDOE内で、温度は最適化試験9〜11の温度より高かった。該DOE試験1〜8において、統計的に高い温度はより低い産出量を引き起こすことを示した。
【0019】
加えて、RhCl(ジ−tert−ブチルスルフィド)ロジウム触媒が、エポキシ環の開環をせずに本発明によるヒドロシリル化反応を促進する能力があること;望ましいエポキシオルガノアルコキシシラン生成物の有意な産出を得るために、先行技術の教示するものと一致する必須の第三級アミンおよびカルボキシル基を有する酸塩のような補助剤又は追加の安定剤なしで、そのような反応を触媒するのに使われ得ることを表1は示す。
【0020】
ここで調製された前記エポキシオルガノアルコキシシラン組成物は、エポキシ、ウレタン、およびアクリル表面のための接着促進剤として;樹脂増強材として;フィラーおよび増強剤の表面前処理で;そしてポリエステルタイヤコードの接着をよりよくするために有用である。
【0021】
他のバリエーションは本発明の基本的な特徴から離れずに、化合物、組成物およびここで記載されている方法で作られてもよい。特にここで説明した本発明の実施態様は典型例であり、添付の特許請求の範囲で定義されているものを除いてそれらの範囲上の限定を意図しているものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RhCl(ジ−tert−ブチルスルフィド)触媒の存在下、ヒドリドアルコキシシランとオレフィンエポキシドとの反応を含むエポキシオルガノアルコキシシランの製造方法であって、該反応は安定剤の存在なしで、70〜75℃の範囲の温度で実施され、該オレフィンエポキシドがヒドリドアルコキシシランと反応するのに必要な化学量論の量を超えた5〜25パーセントの過度のモル濃度で該反応に存在する、エポキシオルガノアルコキシシランの製造方法。
【請求項2】
前記オレフィンエポキシドが、リモネンオキシド、4−ビニルシクロヘキセンモノオキシド、アリルグリシジルエーテル、グリシジルアクリレート、ビニルノルボルネンモノオキシド(vinyl norborene monoxide)、ジシクロペンタジエンモノオキシド、および1−メチル−4−イソプロペニルシクロヘキセンモノオキシドから成る群から選択される組成物である、請求項6に記載の方法。
【請求項3】
前記ヒドリドアルコキシシランが、トリメトキシシランHSi(OCH、トリエトキシシランHSi(OC、トリ−n−プロポキシシランHSi(OC、トリ−イソプロポキシシランHSi[OCH(CH、メチルジメトキシシラン(CH)HSi(OCH、メチルジエトキシシラン(CH)HSi(OC、ジメチルメトキシシラン(CHHSi(OCH)、ジメチルエトキシシラン(CHHSi(OC)およびフェニルジエトキシシラン(C)HSi(OCから成る群から選択される組成物である、請求項6に記載の方法。
【請求項4】
前記オレフィンエポキシドが4−ビニルシクロヘキセンモノオキシドであり、ヒドリドアルコキシシランがトリメトキシシランHSi(OCHである、請求項6に記載の方法。
【請求項5】
RhCl(ジ−tert−ブチルスルフィド)触媒の存在下、ヒドリドアルコキシシランとオレフィンエポキシドとの反応を含むエポキシオルガノアルコキシシランの製造方法であって、該反応は安定剤の存在なしで、65〜95℃の範囲の温度で実施され、該オレフィンエポキシドがヒドリドアルコキシシランと反応するのに必要な化学量論の量を超えた5〜25パーセントの過度のモル濃度で該反応に存在し;該オレフィンエポキシドは、リモネンオキシド、4−ビニルシクロヘキセンモノオキシド、アリルグリシジルエーテル、グリシジルアクリレート、ビニルノルボルネンモノオキシド(vinyl norborene monoxide)、ジシクロペンタジエンモノオキシド、および1−メチル−4−イソプロペニルシクロヘキセンモノオキシドから成る群から選択される、エポキシオルガノアルコキシシランの製造方法。
【請求項6】
前記反応温度が70〜75℃の範囲であり、該オレフィンエポキシドがヒドリドアルコキシシランと反応するのに必要な化学量論の量を超えた10パーセントの過度のモル濃度で該反応に存在する、請求項10に記載の方法。
【請求項7】
前記ヒドリドアルコキシシランが、トリメトキシシランHSi(OCH、トリエトキシシランHSi(OC、トリ−n−プロポキシシランHSi(OC、トリ−イソプロポキシシランHSi[OCH(CH、メチルジメトキシシラン(CH)HSi(OCH、メチルジエトキシシラン(CH)HSi(OC、ジメチルメトキシシラン(CHHSi(OCH)、ジメチルエトキシシラン(CHHSi(OC)、およびフェニルジエトキシシラン(C)HSi(OCから成る群から選択される組成物である、請求項10に記載の方法。
【請求項8】
前記オレフィンエポキシドが4−ビニルシクロヘキセンモノオキシドであり、前記ヒドリドアルコキシシランがトリメトキシシランHSi(OCHである、請求項10に記載の方法。

【公表番号】特表2007−537159(P2007−537159A)
【公表日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−506143(P2007−506143)
【出願日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【国際出願番号】PCT/US2005/000907
【国際公開番号】WO2005/103062
【国際公開日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【出願人】(596012272)ダウ・コーニング・コーポレイション (347)
【Fターム(参考)】