説明

エポキシ化合物の製造方法

【課題】廃水中の無機塩濃度や廃水量自体を低減し得る、廃水負荷の小さいエポキシ化合物の製造方法の提供。
【解決手段】下記工程1〜4を含むエポキシ化合物の製造方法。
工程1)アルカリ剤を用いてクロルヒドリンの閉環反応を行い、エポキシ化合物、無機塩及び水を含有する組成物を得る工程
工程2)工程1で生じた無機塩と水を、バイポーラ膜を有する電気透析装置を用いて処理し、アルカリ剤と酸とに再生・回収する工程
工程3)工程2の区画1から排出される無機塩濃度の低下した組成物を、工程2の区画2及び/又は区画3に供給して電解質水溶液としてリサイクルする工程
工程4)工程2で回収したアルカリ剤を、工程1のアルカリ剤としてリサイクルする工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ化合物の製造方法に関する。より詳細には、バイポーラ膜を有する電気透析装置を用いた廃水負荷の小さいエポキシ化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、洗浄剤、可溶化剤、乳化剤、分散剤や起泡剤として香粧品、医薬品などの分野で利用されているアルキルグリセリルエーテルの原料であるアルキルグリシジルエーテル等を始めとしたエポキシ化合物は、クロルヒドリンと当量以上のアルカリ剤(水酸化ナトリウム等)を用いて下記反応式に示すように閉環反応させることにより製造されている。
【0003】
【化1】

【0004】
(式中、Rは、R1又はR1−O−CH2−を示し、ここでR1は、水素原子、アルキル基又はアルケニル基を表す。Mは、アルカリ金属原子を表す。)
【0005】
しかし、かかる製造法では、エポキシ化合物の他、アルカリ剤由来の無機塩(上記反応式中の「MCl」)を多量に含む廃水が大量に生じる。また、この廃水中には生分解性の低い有機物が含まれており、環境視点から廃水処理にかかる負荷は甚大である。従って、エポキシ化合物の製造に際しては、廃水負荷の低減が熱望されている。
【0006】
一方、特許文献1には、工場排水等の酸含有廃液を処理する技術として、廃液にアルカリを添加し酸を中和した後、電気透析装置を用いて、廃液中の中和塩から酸を再生・回収する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−214069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1は、酸を含有する工場排水等の廃液処理に関するものであり、エポキシ化合物の製造時に生じる多量の無機塩を含有する廃水の問題に関しては何ら示唆がない。また、特許文献1に記載される方法では、酸の再生・回収と同時に、アルカリも回収しているが、回収したアルカリは専ら廃液中の酸の中和に再利用されるにとどまっている。
【0009】
本発明の課題は、廃水中の無機塩濃度や廃水量自体を低減し得る、廃水負荷の小さいエポキシ化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記工程1〜4を含むエポキシ化合物の製造方法を提供する。
工程1)アルカリ剤を用いてクロルヒドリンの閉環反応を行い、エポキシ化合物、無機塩、及び水を含有する組成物を得る工程
工程2)下記区画1〜3を含む電気透析装置の区画1に工程1で生じた無機塩及び水を導入し直流電圧をかけることにより通電し、区画1において無機塩を陽イオンと陰イオンとにイオン化し、その陽イオンを区画2においてアルカリ剤として回収すると共に、陰イオンを区画3において酸として回収する工程
区画1:アニオン交換膜とカチオン交換膜との間に画定される区画
区画2:区画1を画定する前記カチオン交換膜を隔てて区画1と隣接する区画であって、前記カチオン交換膜と第1のバイポーラ膜のアニオン交換膜側との間に画定される区画
区画3:区画1を画定する前記アニオン交換膜を隔てて区画1と隣接する区画であって、前記アニオン交換膜と第2のバイポーラ膜のカチオン交換膜側との間に画定される区画
工程3)工程2の区画1から排出される無機塩濃度の低下した組成物を、工程2の区画2及び/又は区画3に供給して電解質水溶液としてリサイクルする工程
工程4)工程2の区画2において回収したアルカリ剤を、工程1のアルカリ剤としてリサイクルする工程
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法に従ってエポキシ化合物を製造することにより、クロルヒドリンの閉環反応で副生する廃水の無機塩濃度やその廃水量自体を低減して廃水負荷を著しく低減することができる。更には、有価物である酸とアルカリを廃水中から再生・回収することができ、再生・回収したアルカリ剤をクロルヒドリンの閉環反応にリサイクルすることで、エポキシ化合物の製造原料であるアルカリ剤の使用量が削減され効率的にエポキシ化合物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に用いる電気透析装置の一実施態様
【図2】本発明に用いる電気透析装置の他の実施態様
【発明を実施するための形態】
【0013】
<工程1>
工程1は、アルカリ剤を用いてクロルヒドリンの閉環反応を行い、エポキシ化合物、無機塩、及び水を含有する組成物を得る工程である。
【0014】
クロルヒドリンとしては、下記一般式(I)で表されるクロルヒドリンを好適に用いることができる。
【0015】
【化2】

【0016】
[式中、Rは、R1又はR1−O−CH2−、Cl−CH2−を示し、ここで、R1は、水素原子又は炭素数2〜22の直鎖、分岐若しくは環状のアルキル基又はアルケニル基を表す。]
【0017】
一般式(I)で表されるクロルヒドリンであれば何れも用いることができるが、好適なクロルヒドリンの例としては、モノクロロプロパンジオール、1−クロロ−2−プロパノール、2−クロロ−エタノール、1,3−ジクロロプロパノール及び下記一般式(II)で表されるクロルヒドリンエーテルを挙げることができる。本発明で製造されるエポキシ化合物を原料とした界面活性剤の洗浄性の観点から、下記一般式(II)で表されるクロルヒドリンエーテルが好ましい。
【0018】
【化3】

【0019】
[式中、R1は、一般式(I)におけるR1と同じ意味を示す。]
1の炭素数は、本発明で製造されるエポキシ化合物を容易に分離できる観点、及び当該エポキシ化合物を原料とした界面活性剤の洗浄性の観点から、3〜22が好ましく、5〜18がより好ましく、8〜12が更に好ましい。
【0020】
一般式(II)で表されるクロルヒドリンエーテルの好適な具体的例としては、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)−n―ブチルエーテル、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)−n−ペンチルエーテル、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)−2−メチルブチルエーテル、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)−2−メチルペンチルエーテル、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)−n−ヘキシルエーテル、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)−2−エチルヘキシルエーテル、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)−n−オクチルエーテル、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)−2−メチルオクチルエーテル、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)−n−デシルエーテル、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)−イソデシルエーテル、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)−n−ドデシルエーテル、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)−n−ステアリルエーテル、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)−フェニルエーテル等が挙げられ、より好ましくは(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)−n−ペンチルエーテル、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)−n−ヘキシルエーテル、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)−2−エチルヘキシルエーテル、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)−n−オクチルエーテル、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)−n−デシルエーテル、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)−イソデシルエーテル、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)−n−ドデシルエーテルが挙げられる。
【0021】
クロルヒドリンの閉環反応に用いるアルカリ剤としては、エポキシ化合物の製造において慣用されるものであれば特に制限はされないが、アルカリ金属の水酸化物が挙げられ、この中でも一価のアルカリ金属の水酸化物が好ましい。アルカリ剤は、水溶液又は固体の状態で添加することができるが、後述する工程2において回収したアルカリ剤(水溶液の状態)を循環利用し得る観点から、水溶液の状態で添加することが好ましい。
また、工程2において回収したアルカリ剤(アルカリ金属の水酸化物)を循環利用し得る観点から、本発明の工程1においては、アルカリ金属水酸化物の水溶液を好適に用いることができ、具体的には、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液を好適に用いることができる。
水溶液の状態で添加する場合、閉環反応中に副生した塩が析出しないように、反応中の水層における塩濃度を飽和濃度以下にするという観点から、水溶液中のアルカリ金属水酸化物濃度は、好ましくは3〜25質量%、より好ましくは5〜20質量%とすることが好適である。
【0022】
アルカリ剤の使用量は、エポキシ化合物収率の観点から、クロルヒドリン1モルに対して、アルカリ剤中のアルカリ金属が好ましくは1〜4モル、より好ましくは1.1〜3モル、更に好ましくは1.2〜2モルとなる量が好適である。
【0023】
工程1における反応温度は、反応が進行する限り特に制限されないが、反応を効率的に行うという観点から、好ましくは40〜100℃、より好ましくは50〜100℃、更に好ましくは60〜100℃、特に好ましくは70〜95℃の範囲である。
【0024】
工程1のクロルヒドリンの閉環反応においては、エポキシ化合物、無機塩、及び水を含有する組成物が得られる。ここで、生成組成物中に含まれる無機塩は、アルカリ剤を構成するアルカリ金属と、クロルヒドリン中の塩素原子に由来し副生する、アルカリ金属の塩化物である。
【0025】
<工程2>
工程2は、工程1で副生した無機塩を、バイポーラ膜を有する電気透析装置を用いて、有価物である酸とアルカリ剤として回収する工程である。
【0026】
本発明で使用される、アニオン交換膜、カチオン交換膜、バイポーラ膜は、特に限定されないが、以下のような性能を有する膜である。
【0027】
アニオン交換膜とは、シート状に成形された有機高分子材料(例えば、スチレン‐ジビニルベンゼン系)に、プラス荷電の交換基(例えば、4級アンモニウム)が固定されており、直流電圧をかけて直流電流を通すことにより溶液中の陰イオンを選択的に透過する膜である。カチオン交換膜とは、マイナス荷電の交換基(例えば、スルフォン酸)が固定されており、陽イオンを選択的に透過する膜である。これらの、アニオン交換膜、カチオン交換膜としては、株式会社アストム(ネオセプタ膜)、AGCエンジニアリング株式会社(セレミオン膜)、デュポン(ナフィオン膜)等から市販されている。
【0028】
バイポーラ膜とは、アニオン交換膜とカチオン交換膜とが貼り合わされた構造を持つイオン交換膜である。バイポーラ膜のアニオン交換膜側を陽極側に、カチオン交換膜側を陰極側にして電気透析装置に組み込み、直流電圧をかけ直流電流を通すことにより、そのアニオン交換膜−カチオン交換膜界面において、水がイオン解離してH+とOH-を発生することが知られている。バイポーラ膜としては、株式会社アストム(ネオセプタ膜)等から市販されている。本発明では、このとき発生するH+とOH-を用いることにより、副生無機塩から酸とアルカリ剤として回収を行う(回収メカニズムは下記を参照)。
【0029】
工程2に用いられる電気透析装置の一実施態様を図1に例示する。図1に例示する態様では、電気透析装置は、陰極板(21)を備える陰極室(10)と、陽極板(22)を備える陽極室(11)との間に、区画1(12)、区画2(13)、区画3(14)を備える。
【0030】
区画1(12)は、カチオン交換膜(23)とアニオン交換膜(24)との間に画定される区画である。
区画2(13)は、区画1(12)を画定する前記カチオン交換膜(23)を隔てて区画1(12)と隣接する区画であって、前記カチオン交換膜(23)と陰極室(10)の一端を構成する第一のバイポーラ膜(25)のアニオン交換膜側(25a)との間に画定される区画である。
区画3(14)は、区画1(12)を画定する前記アニオン交換膜(24)を隔てて区画1(12)と隣接する区画であって、前記アニオン交換膜(24)と陽極室(11)の一端を構成する第2のバイポーラ膜(26)のカチオン交換膜(26b)側との間に画定される区画である。
【0031】
陰極室(10)はまた、電解質水溶液を導入するための入口(30)と、電解質水溶液を排出するための出口(40)を備える。陽極室(11)もまた、電解質水溶液を導入するための入口(31)と、排出するための出口(41)をそれぞれ備える。
【0032】
区画1(12)は、工程1で生じた無機塩と水を含む水溶液を導入するための入口(32)と、排出するための出口(42)を備える。
区画1の入口(32)から導入される水溶液中の無機塩の濃度は、電気透析による酸とアルカリの回収の観点から、好ましくは3〜25質量%、より好ましくは5〜20質量%である。
【0033】
区画2(13)及び区画3(14)もまた、それぞれ電解質水溶液を導入するための入口(33、34)と、排出するための出口(43、44)を備える。
【0034】
区画1(12)に工程1で副生した無機塩と水を含む水溶液を導入し、直流電圧をかけ直流電流を通すと、アルカリ金属イオンはカチオン交換膜(23)を通過して区画2(13)へと供給される。
一方、区画2(13)では、直流電流通電時に、第一のバイポーラ膜(25)のアニオン交換膜−カチオン交換膜界面で発生したOH-が第一のバイポーラ膜(25)のアニオン交換膜(25a)を通過して供給されており、区画1(12)から移動したアルカリ金属イオンは区画2においてOH-と反応してアルカリ剤(アルカリ金属水酸化物)として回収される。
【0035】
また、区画1(12)内で発生した塩化物イオン(Cl-)は、アニオン交換膜(24)を通過して区画3(14)へと移動する。区画3(14)では、直流電流通電時、第2のバイポーラ膜(26)のアニオン交換膜−カチオン交換膜界面で発生したH+が第2のバイポーラ膜のカチオン交換膜(26b)を通過して供給されており、区画1(12)から移動したCl-は区画3(14)においてH+と反応して酸(HCl)として回収される。
区画1の出口(42)から排出される組成物中の無機塩の濃度は、電気透析の進行による酸及びアルカリの回収の観点から、好ましくは0.01〜10質量%、より好ましくは0.02〜5質量%、更に好ましくは0.03〜2質量%である。
【0036】
<工程3>
工程3は、工程2で区画1から排出される無機塩濃度の低下した組成物を、工程2の区画2及び/又は区画3に供給して酸とアルカリ剤を回収するための電解質水溶液としてリサイクルする工程である。
【0037】
本発明の製造方法では、下記工程i〜工程ivのいずれか、又は複数の工程を組み合わせて実施することができる。
工程i)工程1と工程2の間に、工程1で得られたエポキシ化合物、無機塩及び水を含有する組成物からエポキシ化合物を分離する工程
工程ii)工程2の後に、工程2の区画1から排出される無機塩濃度の低下した組成物からエポキシ化合物を分離する工程
工程iii)前記工程iの後、工程2の区画1から排出される無機塩濃度の低下した組成物を、工程2の区画2及び/又は区画3に供給する工程
工程iv)前記工程iiの後、無機塩濃度が低下し且つエポキシ化合物が分離された組成物を、工程2の区画2及び/又は区画3に供給する工程
本発明の製造方法では、工程iと工程iiiの組み合わせ、又は工程iiと工程ivの組み合わせを付加することが好ましい。
【0038】
工程iは、工程1と工程2の間に、工程1で得られたエポキシ化合物、無機塩及び水を含有する組成物からエポキシ化合物を分離する工程である。
本発明の工程2において、区画1(12)に導入する無機塩と水を含む水溶液に関しては、工程1で得られたエポキシ化合物、無機塩、及び水を含有する組成物からエポキシ化合物を分離した後の組成物、即ち、無機塩を含有する水溶液を導入することが好ましい(即ち、工程iの実施。以下、「態様a」という)。
【0039】
工程iiは工程2の後に、工程2の区画1から排出される無機塩濃度の低下した組成物からエポキシ化合物を分離する工程である。
本発明の工程1で得られたエポキシ化合物、無機塩、及び水を含有する組成物からエポキシ化合物を分離することなく本発明の工程2において、区画1(12)に導入することもできる(以下、「態様b」という)。
態様bでは、工程2の後に、電気透析装置の区画1(12)より排出される無機塩濃度の低下した組成物からエポキシ化合物を分離することができる(即ち、工程iiの実施)。ここで、エポキシ化合物の分離は、組成物を静置してエポキシ化合物を含有する油相と、水相とに分離する分層技術をはじめ、当分野で慣用される、蒸留分離等の方法により実施することができる。
【0040】
工程iiiは前記工程iの後、工程2の区画1から排出される無機塩濃度の低下した組成物を、工程2の区画2及び/又は区画3に供給する工程である。
本発明の工程2において、区画2(13)及び/又は区画3(14)に導入する電解質水溶液に関しては、電気透析反応が進行し、アルカリ剤/酸の回収が可能である限り特に制限はないが、エポキシ化合物の製造に伴う廃水量を低減させる観点から、エポキシ化合物の製造に伴い生じる廃水を利用する。
例えば、工程1で生じる組成物からエポキシ化合物を分離して得られる水溶液を電気透析装置の区画1(12)に導入して電気透析反応を行う態様(即ち、上記態様a)では、区画1(12)から排出される無機塩濃度の低下した水溶液を回収して、これを区画2(13)及び/又は区画3(14)へと供給することが好ましい(即ち、工程iと工程iiiの組み合わせの実施。以下、「態様c」という)。
【0041】
工程ivは前記工程iiの後、無機塩濃度が低下し且つエポキシ化合物が分離された組成物を、工程2の区画2及び/又は区画3に供給する工程である。
本発明の工程1で生じる組成物からエポキシ化合物を分離することなく電気透析装置の区画1(12)に導入して電気透析反応を行う態様(即ち、上記態様b)では、区画1(12)より排出される無機塩濃度の低下した組成物からエポキシ化合物を分離して得られる水溶液を回収して、これを区画2(13)及び/又は区画3(14)へと供給する(即ち、工程iiと工程ivの組み合わせの実施。以下、「態様d」という)。
【0042】
なお、態様c、態様dの別を問わず、区画2(13)及び/又は区画3(14)に供給する水溶液に関しては、エポキシ化合物を完全に分離除去することは必要ではないが、生産効率の観点から分離除去することが好ましい。
また、態様cと態様dでは、生産効率の観点から態様cの方が好ましい。
【0043】
本発明に使用するバイポーラ膜、アニオン交換膜、カチオン交換膜の素材に関しては、アルカリ金属の塩化物である無機塩から電気透析反応により酸とアルカリを回収できるものであれば特に制限はない。
【0044】
陰極室(10)及び陽極室(11)に導入する電解質水溶液に関しては、電解質として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を含有するものが好ましく、電解質の濃度は、電気透析反応を効率的に行うという観点から、好ましくは0.1〜30質量%、より好ましくは0.5〜10質量%、更に好ましくは1〜5質量%であることが好適である。
【0045】
区画1(12)、区画2(13)、区画3(14)への水溶液の導入、並びに陰極室(10)、陽極室(11)への電解質水溶液の導入の何れに関しても、電気透析反応が進行する限り、ポンプを用いて循環通液させてもよいし、各区画/電極室を1回のみ通過するようにしてもよい。
【0046】
工程2において電気透析装置に直流電圧をかけて流す単位面積あたりの直流電流は、上記の電気透析反応が進行する限り特に制限されないが、電流効率の観点から、好ましくは100〜1500A/m2、より好ましくは500〜1200A/m2の電流密度にて通電することが好適である。ここで電流効率とは、下記数式で算出する値をいう。
【数1】

【0047】
また、工程2の間、区画1(12)、2(13)、3(14)に導入した水溶液の温度は、工程3でのアルカリ剤のリサイクルにおいてエネルギー損失を避ける観点から、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上に維持することが好適であり、操作性の観点から、好ましくは95℃以下、より好ましくは70℃以下、更に好ましくは45℃以下である。
【0048】
本発明では、バイポーラ膜を有する電気透析装置により上記の電気透析反応を行うことで、エポキシ化合物の製造に伴い生じる廃水の量並びに廃水中の無機塩濃度を著しく低減させることができると共に、廃水から有価物である酸とアルカリを再生・回収することができる(下記工程4にて記載するように、回収したアルカリ剤は、エポキシ化合物の製造原料であるアルカリ剤として再利用することができ、製造原料の使用量削減にも寄与する)。更には、酸/アルカリを再生・回収し無機塩濃度の低くなった廃水を電気透析装置に供給する電解質水溶液としてリサイクルすることで、廃水量の低減も可能とするものであり、廃水負荷は大幅に低減されることとなる。
【0049】
なお、図1には区画1(12)、区画2(13)、区画3(14)をそれぞれ1つ備える電気透析装置を例示したが、図2に示すように、それらを交互に複数設けて成る電気透析装置を用い得ることは当業者には容易に理解されよう。
【0050】
<工程4>
工程4は、工程2の区画2において回収したアルカリ剤を、工程1のアルカリ剤としてリサイクルする工程である。
【0051】
電気透析装置の区画2において回収したアルカリ剤は、濃縮又は希釈することでアルカリ濃度の調節を行った後に、工程1のクロルヒドリン閉環反応のアルカリ剤として再利用することができる。アルカリ濃度の調節は、工程1について記載したアルカリ剤の水溶液濃度条件を満たすように行うことができ、区画2で回収したアルカリ水溶液が既に上記水溶液濃度条件を満たす場合には、そのままアルカリ剤として工程1にリサイクルしてもよい。
【0052】
工程4においては、回収したアルカリの全量を工程1にリサイクルする必要はなく、少なくともその一部をリサイクルすることで、エポキシ化合物の製造原料であるアルカリ剤の使用量を削減することができる。
また、先に述べた態様cあるいは態様dのように、エポキシ化合物の製造に伴い生じる廃水を電気透析装置の区画2(13)及び/又は区画3(14)に導入する電解質水溶液として再利用することにより、工程4の効果と相俟って、エポキシ化合物の製造に伴う廃水量自体を大幅に低減させることができる。
【0053】
なお、電気透析装置の区画3において回収した酸は、有価物として回収される他、工程1で得られたエポキシ化合物、無機塩及び水を含有する組成物及び/又は工程1で得られた組成物からエポキシ化合物を分離し得られる組成物の中和に用いることができる(態様a)。
例えば、工程1においてクロルヒドリンに対しアルカリ剤を過剰に用いる場合には、生成組成物中にも未反応のアルカリ剤が残存することとなるが、電気透析装置の区画3において回収した酸を用いて、この未反応のアルカリ剤を中和することができる。なお、電気透析装置の区画3において回収した酸についても、中和に用いる前に、濃縮又は希釈することで酸濃度を調節してもよい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明を説明するが、かかる実施例により本発明が制限されるものでない。また、特に断らない限り、「%」は「質量%」を表す。なお、以下の実施例及び比較例において、各組成物の分析は下記のガスクロマトグラフィ分析法に従って行った。
【0055】
<ガスクロマトグラフィ分析>
装置:HEWLETT PACKARD社製、HP6850Series GC System
カラム:Agilent Technologies社製、HP-50+、30m長×0.32mm径×0.25μm膜厚
検出器:FID
昇温条件:50℃(2min保持)→10℃/min→280℃(5min保持)
Injection温度:280℃
Detector温度:280℃
【0056】
<実施例で使用する(3-クロロ‐2‐ヒドロキシプロピル)‐2‐エチルヘキシルエーテルの調製方法>
(3-クロロ‐2‐ヒドロキシプロピル)‐2‐エチルヘキシルエーテルの調製方法を以下に示す。
3‐クロロ‐1,2‐エポキシプロパン(DOW CHEMICAL社製)に対して1.5モル倍の2‐エチルヘキサノール(三菱化学社製)と、3‐クロロ‐1,2‐エポキシプロパンに対して質量比5%の硫酸イオンを担持した金属酸化物をガラス容器に仕込んで昇温する。
攪拌下、反応温度を95〜105℃に維持しながら、3‐クロロ‐1,2‐エポキシプロパン全量を4時間かけて反応容器内にフランジャーポンプを用いて仕込み滴下反応を行う。滴下終了後に、上記反応温度を維持して、攪拌下、熟成し、3‐クロロ‐1,2‐エポキシプロパンが全て反応した時点で熟成を終了する。
上記、反応操作を行うことで(3-クロロ‐2‐ヒドロキシプロピル)‐2‐エチルヘキシルエーテルを含む組成物を調製することができる。
【0057】
実施例1
実施例1は、態様c(工程iと工程iiiの組み合わせの実施)を実施したものである。実験は計4バッチ行ったが、使用した電気透析装置は全て同一である。
【0058】
(1バッチ目)
工程1:ガラス製容器に、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)−2−エチルヘキシルエーテルを336g含む組成物462gと、10%に調節した水酸化ナトリウム水溶液835gを入れ、攪拌下、85〜95℃に調節して閉環反応を行い、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル269g、塩化ナトリウム88.5g、水751gを含む組成物1297gを得た。
得られた組成物を80〜85℃に調節して静置し、油層と水層とに分層させた後、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル269gを含む油層403gを分離した(工程iの実施)。
油層分離後に得られた塩化ナトリウムを含む水溶液863gを、10%に調節した塩酸174gを用いて中和し、塩化ナトリム濃度11.3%の塩化ナトリウム水溶液1037gを得た。
【0059】
工程2:カチオン交換膜(株式会社アストム製商品名ネオセプタCMB、有効面積55cm2)10枚、アニオン交換膜(株式会社アストム製商品名ネオセプタAHA、有効面積55cm2)10枚、バイポーラ膜(株式会社アストム製商品名ネオセプタBP-1E、有効面積55cm2)11枚を、図2に示すように交互に配列させた電気透析装置(株式会社アストム製マイクロアシアイザーEX3B型)の区画1(12)に、上記で得た11.3%塩化ナトリウム水溶液1037g全量を導入した。
また、区画2、3にはそれぞれイオン交換水444g、428gを、陽極室及び陰極室にはそれぞれ1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液500gを導入した。
各区画1、2及び3について、攪拌下、ポンプにて循環通液させ、陰極−陽極間電圧を30V一定に保ちながら、直流電流を通電させて、173分間、電気透析反応を行った。流れた積算電流量は16.6Ah、平均電流密度は1000A/m2、区画1(12)の液温は15〜40℃の範囲であった。
反応後、区画1から塩化ナトリウム濃度0.03%の塩化ナトリウム水溶液466gを得た。また、区画2からは9.7%の水酸化ナトリウム水溶液770g、区画3からは8.4%の塩酸658gを得ることができた。
【0060】
工程4:工程2の区画2で得られた9.7%水酸化ナトリウム水溶液770gに10%の水酸化ナトリウム水溶液64.6gを加えて、工程1の閉環反応にリサイクルする9.7%の水酸化ナトリウム水溶液835gを得た。
【0061】
(2バッチ目)
工程1:ガラス製容器に、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)−2−エチルヘキシルエーテルを331g含む組成物458gと、1バッチ目の工程3で得た9.7%の水酸化ナトリウム水溶液835gを入れ、攪拌下、85〜95℃に調節して閉環反応を行い、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル266g、塩化ナトリウム92.4g、水762gを含む組成物1293gを得た。
得られた組成物を80〜85℃に調節して静置し、油層と水層とに分層させた後、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル266gを含む油層399gを分離した(工程iの実施)。
油層分離後に得られた塩化ナトリウム92.4gを含む水溶液873gを、10%に調節した塩酸145gを用いて中和し、塩化ナトリウム濃度11.3%の塩化ナトリウム水溶液1020gを得た。
【0062】
工程2:電気透析装置の区画1(12)に、工程1(2バッチ目)で得た11.3%の塩化ナトリウム水溶液1020g全量を導入した。
工程3:区画2には、実施例1(1バッチ目)の工程2で区画1から得た0.03%の塩化ナトリウム水溶液367gを、また区画3には、工程2(1バッチ目)で区画1から得た0.03%の塩化ナトリウム水溶液98.4gとイオン交換水381gの混合物を導入した(工程iiiの実施)。陽極室及び陰極室にはそれぞれ1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液500gを導入した。
各区画1、2及び3について、攪拌下、ポンプにて循環通液させ、陰極−陽極間電圧を30V一定に保ちながら、直流電流を通電させて、103分間、電気透析反応を行った。流れた積算電流量は10.2Ah、平均電流密度は1000A/m2、区画1(12)の液温は20〜40℃の範囲であった。
反応後、区画1から1.93%の塩化ナトリウム水溶液603g、区画2から10.3%の水酸化ナリウム水溶液639g、区画3から8.8%の塩酸617gを得た。
【0063】
工程4:工程2(2バッチ目)の区画2で得られた10.3%の水酸化ナトリウム水溶液639gに、更に10%の水酸化ナトリウム水溶液196gを加えて、10.2%の水酸化ナトリウム水溶液835gを調製し、これを以下3バッチ目のアルカリ剤として使用した。
【0064】
(3バッチ目)
工程1:ガラス製容器に、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)−2−エチルヘキシルエーテルを332g含む組成物459gと、工程3(2バッチ目)で得た10.2%の水酸化ナトリウム水溶液835gを入れ、攪拌下、85〜95℃に調節して閉環反応を行い、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル264g、塩化ナトリウム90.9g、水749gを含む組成物1252gを得た。
得られた組成物を80〜85℃に調節して静置し、油層と水層とに分層させた後、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル264gを含む油層393gを分離した(工程iの実施)。
油層分離後に得られた塩化ナトリウム90.9gを含む水溶液859gを、10%に調節した塩酸201gを用いて中和し、塩化ナトリウム濃度11.9%の塩化ナトリウム水溶液1060gを得た。
【0065】
工程2:電気透析装置の区画1(12)に、工程1(3バッチ目)で得た11.9%の塩化ナトリウム水溶液1060g全量を導入した。
工程3:区画2には、工程2(2バッチ目)で区画1から得た1.93%の塩化ナトリウム水溶液338gを、また区画3には、工程2(2バッチ目)で区画1から得た1.93%の塩化ナトリウム水溶液219gとイオン交換水252gの混合物を導入した(工程iiiの実施)。陽極室及び陰極室にはそれぞれ1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液500gを導入した。
各区画1、2及び3について、攪拌下、ポンプにて循環通液させ、陰極−陽極間電圧を30V一定に保ちながら、直流電流を通電させて、106分間、電気透析反応を行った。流れた積算電流量は10.6Ah、平均電流密度は1000A/m2、区画1(12)の液温は20〜40℃の範囲であった。
反応後、区画1から3.15%の塩化ナトリウム水溶液647g、区画2から10.6%の水酸化ナトリウム水溶液617g、区画3から9.16%の塩酸607gを得た。
【0066】
工程4:工程2(3バッチ目)の区画2から得られた10.6%の水酸化ナトリウム水溶液617gに、更に10%の水酸化ナトリウム水溶液218gを加えて、10.4%の水酸化ナトリウム水溶液835gを調製し、これを以下4バッチ目のアルカリ剤として使用した。
【0067】
(4バッチ目)
工程1:ガラス製容器に、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)−2−エチルヘキシルエーテルを338g含む組成物457gと、工程3(3バッチ目)で得た10.4%の水酸化ナトリウム水溶液835gを入れ、攪拌下、85〜95℃に調節して閉環反応を行い、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル267g、塩化ナトリウム95.1g、水784g含む組成物1292gを得た。
得られた組成物を80〜85℃に調節して静置し油層と水層とに分層させた後、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル267gを含む油層393gを分離した(工程iの実施)。
油層分離後に得られた塩化ナトリウム95.1gを含む水溶液899gを、10%に調節した塩酸187gを用いて中和し、塩化ナトリウム濃度9.52%の塩化ナトリウム水溶液1086gを得た。
【0068】
工程2:電気透析装置の区画1(12)に、工程1(4バッチ目)で得た9.52%の塩化ナトリウム水溶液1086g全量を導入した。
区画2には、工程2(3バッチ目)で区画1から得た3.15%の塩化ナトリウム水溶液331.2gを、また区画3には、工程2(3バッチ目)で区画1から得た3.15%の塩化ナトリウム水溶液260gとイオン交換水222gの混合物を導入した(工程iiiの実施)。陽極室及び陰極室にはそれぞれ1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液500gを導入した。
各区画1、2及び3について、攪拌下、ポンプにて循環通液させ、陰極−陽極間電圧を30V一定に保ちながら、直流電流を通電させて、146分間、電気透析反応を行った。流れた積算電流量は14.6Ah、平均電流密度は1000A/m2、区画1(12)の液温は20〜40℃の範囲であった。
反応後、区画1から塩化ナトリウム濃度0%の水溶液565g、区画2から11.0%の水酸化ナトリウム水溶液677g、区画3から10.2%の塩酸657gを得た。
【0069】
比較例1
ガラス製容器に、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)−2−エチルヘキシルエーテルを336g含む組成物462gと、10%に調節した水酸化ナトリウム水溶液835gを入れ、攪拌下、85〜95℃に調節して閉環反応を行い、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル269g、塩化ナトリウム88.5g、水751gを含む組成物1297gを得た。
得られた組成物を80〜85℃に調節して静置し油層と水層とに分層させた後、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル269gを含む油層403gを分離した。油層分離後に得られた塩化ナトリウムを含む水溶液863gを、10%に調節した塩酸174gを用いて中和し、塩化ナトリウム濃度11.3%の塩化ナトリウム水溶液1037gを廃水として得た。
【0070】
比較例2
比較例2は実施例1とは異なり、工程2の区画1から得られる無機塩濃度の低下した組成物を、次バッチの工程2の区画2及び/又は区画3に電解質水溶液としてリサイクルせずに、廃棄処理する例である。
【0071】
工程1:ガラス製容器に、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)−2−エチルヘキシルエーテルを336g含む組成物462gと、10%に調節した水酸化ナトリウム水溶液835gを入れ、攪拌下、85〜95℃に調節して閉環反応を行い、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル269g、塩化ナトリウム88.5g、水751gを含む組成物1297gを得た。
得られた組成物を80〜85℃に調節して静置し油層と水層とに分層させた後、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル269gを含む油層403gを分離した。油層分離後に得られた塩化ナトリウムを含む水溶液863gを、10%に調節した塩酸174gを用いて中和し、塩化ナトリム濃度11.3%の塩化ナトリウム水溶液1037gを得た。
【0072】
工程2:カチオン交換膜(株式会社アストム製商品名ネオセプタCMB、有効面積55cm2)10枚、アニオン交換膜(株式会社アストム製商品名ネオセプタAHA、有効面積55cm2)10枚、バイポーラ膜(株式会社アストム製商品名ネオセプタBP-1E、有効面積55cm2)11枚を、図2に示すように交互に配列させた電気透析装置(株式会社アストム製マイクロアシアイザーEX3B型)の区画1(12)に、上記で得た11.3%塩化ナトリウム水溶液1037g全量を導入した。
また、区画2、3にはそれぞれイオン交換水444g、428gを、陽極室及び陰極室にはそれぞれ1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液500gを導入した。各区画1、2及び3について、攪拌下、ポンプにて循環通液させ、陰極−陽極間電圧を30V一定に保ちながら、直流電流を通電させて、173分間、電気透析反応を行った。流れた積算電流量は16.6Ah、平均電流密度は1000A/m2、区画1(12)の液温は15〜40℃の範囲であった。
反応後、区画1から塩化ナトリウム濃度0.03%の塩化ナトリウム水溶液466gを得た。また、区画2からは9.7%の水酸化ナトリウム水溶液770g、区画3からは8.4%の塩酸658gを得ることができた。
【0073】
実施例1及び比較例1、2の実験条件と結果をまとめて表1に示す。なお、実施例1に関しては、バッチ操作1回目から4回目までの積算結果を示す。
【0074】
【表1】

【0075】
実施例1は、比較例1と比べて、閉環反応で生じる無機塩と水を電気透析処理することによって、廃水中の塩化ナトリウム濃度や廃水量が大幅に低減することが確認された。また回収したアルカリ剤を閉環反応にリサイクルすることで製造原料の削減を可能とすると共に、有価物である塩酸の回収も同時に実現できた。
【0076】
さらに実施例1は、電気透析処理後の無機塩濃度が低くなった廃水をリサイクルすることで、比較例1だけでなく、廃水を電気透析処理する比較例2と比べても、廃水量自体を大幅に低減することが確認された。さらには、電気透析処理を行う際に必要となる水の使用量も低減でき、水資源の有効活用という観点からも、極めて有用である。
【0077】
実施例2
実施例2は、クロルヒドリンとしてモノクロロプロパンジオールを使用して行った例である。態様c(工程≡と工程≡の組み合わせの実施)を実施した。実験は計2バッチ行ったが、使用した電気透析装置は全て同一である。
【0078】
(1バッチ目)
工程1:ガラス製容器に、モノクロロプロパンジオール(和光純薬工業製)を216.9gと、10.0%に調節した水酸化ナトリウム784.4gを入れ、攪拌下、51〜54℃に調節して閉環反応を行い、2,3‐エポキシ‐1‐プロパノール132.3g、塩化ナトリウム112.3gを含む水溶液1002gを得た。
【0079】
ガラス製容器に、得られた水溶液を989.0gと、抽剤として酢酸エチル(和光純薬工業製)を2008g入れ、抽出温度21℃の下で45分間攪拌した後に静置・分層させて、41.32gの2,3‐エポキシ‐1‐プロパノールを含む抽出液2071gを得ることができた。また、抽残液として塩化ナトリウム110.8gを含む塩化ナトリム濃度10.9%の塩化ナトリウム水溶液912.1gを得た(工程≡の実施)。
【0080】
工程2:カチオン交換膜(株式会社アストム製商品名ネオセプタCMB、有効面積55cm2)10枚、アニオン交換膜(株式会社アストム製商品名ネオセプタAHA、有効面積55cm2)10枚、バイポーラ膜(株式会社アストム製商品名ネオセプタBP-1E、有効面積55cm2)11枚を、図2に示すように交互に配列させた電気透析装置(株式会社アストム製マイクロアシアイザーEX3B型)の区画1(12)に、上記で得た10.9%塩化ナトリウム水溶液904.2g全量を導入した。
また、区画2、3にはそれぞれイオン交換水428.3g、412.7gを、陽極室及び陰極室にはそれぞれ1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液500.0gを導入した。各区画1、2及び3について、攪拌下、ポンプにて循環通液させ、陰極−陽極間電流を30V一定に保ちながら、直流電流を通電させて、2.1時間、電気透析反応を行った。流れた積算電流量は9.02Ah、平均電流密度は1000A/m2、区画1(12)の液温は20〜39℃の範囲であった。
反応後、区画1から塩化ナトリウム濃度0.0160%の塩化ナトリウム水溶液586.9gを得た。また、区画2からは11.5%の水酸化ナトリウム水溶液604.8g、区画3からは8.19%の塩酸472.5gを得ることができた。
【0081】
工程4:工程2の区画2で得られた11.5%水酸化ナトリウム水溶液604.8gに5.00%の水酸化ナトリウム水溶液179.4gを加えて、工程1の閉環反応にリサイクルする10.0%の水酸化ナトリウム784.2gを得た。これを2バッチ目のアルカリ剤として使用した。
【0082】
(2バッチ目)
工程1:ガラス製容器に、モノクロロプロパンジオール(和光純薬工業製)を216.9gと、工程3(1バッチ目)で得た10.0%の水酸化ナトリウム784.2gを入れ、攪拌下、50〜54℃に調節して閉環反応を行い、2,3‐エポキシ‐1‐プロパノール150.7g、塩化ナトリウム110.4gを含む水溶液999.5gを得た。
【0083】
ガラス製容器に、得られた水溶液を989.2gと、抽剤として酢酸エチル(和光純薬工業製)を2009g入れ、抽出温度22℃の下で1時間攪拌した後に静置・分層させて、57.18gの2,3‐エポキシ‐1‐プロパノールを含む抽出液2075g得ることができた。また、抽残液として塩化ナトリウム98.10gを含む塩化ナトリム濃度11.0%の塩化ナトリウム水溶液889.0gを得た(工程≡の実施)。
【0084】
工程2:カチオン交換膜(株式会社アストム製商品名ネオセプタCMB、有効面積55cm2)10枚、アニオン交換膜(株式会社アストム製商品名ネオセプタAHA、有効面積55cm2)10枚、バイポーラ膜(株式会社アストム製商品名ネオセプタBP-1E、有効面積55cm2)11枚を、図2に示すように交互に配列させた電気透析装置(株式会社アストム製マイクロアシアイザーEX3B型)の区画1(12)に、上記で得た11.0%塩化ナトリウム水溶液880.4g全量を導入した。
工程3:区画2には、工程2(1バッチ目)で区画1から得た0.016%の塩化ナトリウム水溶液428.9gを、また区画3には、工程2(1バッチ目)で区画1から得た0.016%の塩化ナトリウム水溶液156.8gとイオン交換水256.3gの混合物を導入した(工程≡の実施)。陽極室及び陰極室にはそれぞれ1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液500.0gを導入した。
各区画1、2及び3について、攪拌下、ポンプにて循環通液させ、陰極−陽極間電流を30V一定に保ちながら、直流電流を通電させて、2.5時間、電気透析反応を行った。流れた積算電流量は7.82Ah、平均電流密度は1000A/m2、区画1(12)の液温は20〜31℃の範囲であった。
反応後、区画1から塩化ナトリウム濃度0%の塩化ナトリウム水溶液555.5gを得た。また、区画2からは8.32%の水酸化ナトリウム水溶液595.8g、区画3からは7.65%の塩酸481.7gを得ることができた。
工程4:区画2で得られた水酸化ナトリウム水溶液は、次回以降のバッチの工程1の閉環反応に使用することができる。
【0085】
比較例3
工程1:ガラス製容器に、モノクロロプロパンジオール(和光純薬工業製)を216.9gと、10%に調節した水酸化ナトリウム784.4gを入れ、攪拌下、51〜54℃に調節して閉環反応を行い、2,3‐エポキシ‐1‐プロパノール132.3g、塩化ナトリウム112.3gを含む水溶液1002gを得た。
【0086】
工程2:ガラス製容器に、工程1で得た水溶液を989.0gと、抽剤として酢酸エチル(和光純薬工業製)を2008g入れ、抽出温度21℃の下で45分間攪拌した後に静置・分層させて、41.30gの2,3‐エポキシ‐1‐プロパノールを含む抽出液2071gを得ることができた。また、抽残液として塩化ナトリウム110.8gを含む塩化ナトリム濃度10.9%の塩化ナトリウム水溶液912.1gを得た。
【0087】
比較例4
工程1:ガラス製容器に、モノクロロプロパンジオール(和光純薬工業製)を216.9gと、10.0%に調節した水酸化ナトリウム784.4gを入れ、攪拌下、51〜54℃に調節して閉環反応を行い、2,3‐エポキシ‐1‐プロパノール132.3g、塩化ナトリウム112.3gを含む水溶液1002gを得た。
【0088】
ガラス製容器に、得られた水溶液を989.0gと、抽剤として酢酸エチル(和光純薬工業製)を2008g入れ、抽出温度21℃の下で45分間攪拌した後に静置・分層させて、41.32gの2,3‐エポキシ‐1‐プロパノールを含む抽出液2071gを得ることができた。また、抽残液として塩化ナトリウム110.8gを含む塩化ナトリム濃度10.9%の塩化ナトリウム水溶液912.1gを得た。
【0089】
工程2:カチオン交換膜(株式会社アストム製商品名ネオセプタCMB、有効面積55cm2)10枚、アニオン交換膜(株式会社アストム製商品名ネオセプタAHA、有効面積55cm2)10枚、バイポーラ膜(株式会社アストム製商品名ネオセプタBP-1E、有効面積55cm2)11枚を、図2に示すように交互に配列させた電気透析装置(株式会社アストム製マイクロアシアイザーEX3B型)の区画1(12)に、上記で得た10.9%塩化ナトリウム水溶液904.2g全量を導入した。
また、区画2、3にはそれぞれイオン交換水428.3g、412.7gを、陽極室及び陰極室にはそれぞれ1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液500.0gを導入した。
各区画1、2及び3について、攪拌下、ポンプにて循環通液させ、陰極−陽極間電流を30V一定に保ちながら、直流電流を通電させて、2.1時間、電気透析反応を行った。流れた積算電流量は9.02Ah、平均電流密度は1000A/m2、区画1(12)の液温は20〜39℃の範囲であった。
反応後、区画1から塩化ナトリウム濃度0.0160%の塩化ナトリウム水溶液586.9gを得た。また、区画2からは11.5%の水酸化ナトリウム水溶液604.8g、区画3からは8.19%の塩酸472.5gを得ることができた。
【0090】
実施例2及び比較例3、4の実験条件と結果をまとめて表2に示す。
【0091】
【表2】

【0092】
クロルヒドリンとしてモノクロロプロパンジオールを使用しても、下記に示すように、実施例1と同様の効果を得ることができた。
実施例2は、比較例3と比べて、閉環反応で生じる無機塩と水を電気透析処理することによって、廃水中の塩化ナトリウム濃度や廃水量が大幅に低減することが確認された。また回収したアルカリ剤を閉環反応にリサイクルすることで製造原料の削減を可能とすると共に、有価物である塩酸の回収も同時に実現している。
【0093】
さらに実施例2は、電気透析処理後の無機塩濃度が低くなった廃水をリサイクルすることで、比較例3だけでなく、廃水を電気透析処理する比較例4と比べても、廃水量自体を大幅に低減することが確認された。さらには、電気透析処理を行う際に必要となる水の使用量も低減でき、水資源の有効活用という観点からも、極めて有用である。
【符号の説明】
【0094】
10 陰極室
11 陽極室
12 区画1
13 区画2
14 区画3
21 陰極板
22 陽極板
23 カチオン交換膜
24 アニオン交換膜
25 第1のバイポーラ膜
25a 第1のバイポーラ膜のアニオン交換膜側
25b 第1のバイポーラ膜のカチオン交換膜側
26 第2のバイポーラ膜
26a 第2のバイポーラ膜のアニオン交換膜側
26b 第2のバイポーラ膜のカチオン交換膜側
30、31、32、33、34 入口
40、41、42、43、44 出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程1〜4を含むエポキシ化合物の製造方法。
工程1)アルカリ剤を用いてクロルヒドリンの閉環反応を行い、エポキシ化合物、無機塩、及び水を含有する組成物を得る工程
工程2)下記区画1〜3を含む電気透析装置の区画1に工程1で生じた無機塩及び水を導入し直流電圧をかけることにより通電し、区画1において無機塩を陽イオンと陰イオンとにイオン化し、その陽イオンを区画2においてアルカリ剤として回収すると共に、陰イオンを区画3において酸として回収する工程
区画1:アニオン交換膜とカチオン交換膜との間に画定される区画
区画2:区画1を画定する前記カチオン交換膜を隔てて区画1と隣接する区画であって、前記カチオン交換膜と第1のバイポーラ膜のアニオン交換膜側との間に画定される区画
区画3:区画1を画定する前記アニオン交換膜を隔てて区画1と隣接する区画であって、前記アニオン交換膜と第2のバイポーラ膜のカチオン交換膜側との間に画定される区画
工程3)工程2の区画1から排出される無機塩濃度の低下した組成物を、工程2の区画2及び/又は区画3に供給して電解質水溶液としてリサイクルする工程
工程4)工程2の区画2において回収したアルカリ剤を、工程1のアルカリ剤としてリサイクルする工程
【請求項2】
工程1において用いるクロルヒドリンが、下記一般式(I)で表されるクロルヒドリンである、請求項1記載の製造方法。
【化2】

[式中、Rは、R1又はR1−O−CH2−、Cl−CH2−、HO−R2―を示し、ここで、R1は、水素原子又は炭素数2〜22の直鎖、分岐若しくは環状のアルキル基又はアルケニル基、R2は、炭素数1〜20のアルキレン基を表す。]
【請求項3】
工程1において用いるアルカリ剤が、アルカリ金属の水酸化物であり、クロルヒドリンの閉環反応により生じる無機塩が、前記アルカリ金属の塩化物塩である、請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
さらに下記工程i又は工程iiを含む、請求項1〜3の何れか1項記載の製造方法。
工程i)工程1と工程2の間に、工程1で得られたエポキシ化合物、無機塩及び水を含有する組成物からエポキシ化合物を分離する工程
工程ii)工程2の後に、工程2の区画1から排出される無機塩濃度の低下した組成物からエポキシ化合物を分離する工程
【請求項5】
さらに下記工程iii又は工程ivを含む、請求項4記載のエポキシ化合物の製造方法。
工程iii)前記工程iの後、工程2の区画1から排出される無機塩濃度の低下した組成物を、工程2の区画2及び/又は区画3に供給する工程
工程iv)前記工程iiの後、無機塩濃度が低下し且つエポキシ化合物が分離された組成物を、工程2の区画2及び/又は区画3に供給する工程
【請求項6】
さらに、工程2の区画2で回収したアルカリ剤及び/又は区画3で回収した酸の濃度調節工程を含む、請求項1〜5の何れか1項記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項7】
さらに、工程2の区画3で回収した酸を用いて、工程1で得られたエポキシ化合物、無機塩及び水を含有する組成物及び/又は工程iでエポキシ化合物を分離した後の組成物の中和を行う工程を含む、請求項4〜6の何れか1項に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項8】
工程2において、区画1〜3を循環する液の温度を30℃以上に維持する、請求項1〜7の何れか1項記載のエポキシ化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−62306(P2012−62306A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172543(P2011−172543)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】