説明

エポキシ化始動工程

【課題】エチレンのエポキシ化工程の始動方法を提供する。
【解決手段】エポキシ化触媒の存在下でエチレンと酸素を含む供給ガス組成物を約180℃〜約210℃の温度で反応させることによりエポキシ化反応を開始し、約0.05ppm〜約2ppmの減速材を前記供給ガス組成物に添加し、約12時間〜約60時間にわたって第1の温度を約240℃〜約250℃の第2の温度に昇温し、及び、約50時間〜約150時間の間前記第2の温度を維持する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
自然環境には微量で存在するが、酸化エチレンは、1859年にフランス人化学者Charles-Adolphe Wurtzにより所謂「クロロヒドリン」法を用いて研究室で初めて合成された。しかし、Wurtzの時代には、工業用化学物質としての酸化エチレンの実用性が十分に理解されず、第一次世界大戦直前まで、クロロヒドリン法を用いた酸化エチレンの工業生成が開始されることはなかった。これは、少なくとも部分的には、急成長する自動車市場で使用される不凍液としてのエチレングリコール(酸化エチレンはその中間体)の需要の急増に起因する。その時でさえ、クロロヒドリン法で製造した酸化エチレンは比較的少量であり、非常に不経済だった。
【0002】
クロロヒドリン法は、結局、酸素とエチレンの直接触媒酸化という別の方法に取って代わられた。これは、1931年に別のフランス人化学者Theodore Lefortにより発見され、酸化エチレン合成の第二の突破口となった。Lefortは、固体の銀触媒に、エチレンを含み酸素源として空気を利用した気相供給材料を用いた。
【0003】
直接酸化法の開発から80年の間に、酸化エチレンの製造は著しく増加し、今日では、ある試算によると、不均一酸化で製造される有機化学物質の総額の半分をも占める、化学産業で最大の生成量を有する製品の1つとなっている。2000年の世界的生成量は、約150億トンであった。(製造された酸化エチレンの約3分の2は更にエチレングリコールに加工され、製造された酸化エチレンのうち約10%は蒸気滅菌等の用途に直接使用される。)
【0004】
酸化エチレン製造は、酸化エチレンの触媒作用と加工についての継続的で集中的な研究に伴って成長し、今でも産学双方の研究者にとって魅力的な課題である。近年特に、所謂「高選択性触媒」、すなわち、レニウムやセシウム等の「助触媒」元素を少量含む銀系エポキシ化触媒を用いた酸化エチレン製造のための正確な操作及びプロセスパラメータが関心を集めている。
【0005】
レニウム含有触媒には選択性を最大限に高めるための開始期間が必要であることから、これらレニウム含有触媒に関しては、最適な始動(一般に「開始」又は「活性化」ともいう)条件の究明に高い関心が集まっている。
【0006】
開始工程は、Lauritzenらの米国特許第4,874,879号及びShankerらの米国特許第5,155,242号で既に開示されており、供給材料に酸素を導入する前にレニウム含有触媒を前塩素処理することで、処理温度未満の温度の塩素の存在下での触媒の「予浸」を可能とする始動工程が開示されている。これらの方法を用いることにより全体的な触媒性能が若干改善することが報告されているが、予浸及び調節を行うことで、通常の酸化エチレン製造の開始が可能となる前で、酸素を供給材料に添加した後に、相当の遅れが生じてしまう。この製造の遅れは、向上した触媒の選択性性能のメリットを部分的に又は完全に台無しにしてしまう。また、予浸段階における過塩素化に起因する触媒性能への悪影響を低減するため、多くの場合、高温下でエチレン(又は、エタン等の他の適切な炭化水素)を用いて触媒の表面から塩素を若干除去する塩素除去工程を追加で行う必要がある。
【0007】
始動工程に関する提案の最近の例が、Lockemeyerらの米国特許第7,102,022号に開示されており、酸素を含む供給材料にレニウム含有触媒床を接触させ、150時間まで触媒床の温度を260℃超に保持することが開示されている。ここでも、この方法によって触媒性能が改善されるが、この工程には、とりわけ始動の際に高温を要するという固有の欠点もある。
【0008】
このように、上述の先行技術文献に開示されるレニウム含有エポキシ化触媒を活性化する処理方法では、触媒性能に若干の改善が見られるが、上述のような多くの欠陥もある。更に、最適化した活性化工程がレニウム含有エポキシ化触媒の選択性に付与できる改善点を考慮しても、全ての活性化工程が十分に研究されているわけではない。これらの理由により、オレフィンのエポキシ化で用いられる活性化工程の改善は、当分野において継続的に必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の工程を含むエチレンのエポキシ化工程の始動方法に関する。エポキシ化触媒の存在下でエチレンと酸素を含む供給ガス組成物を約180℃〜約210℃の温度で反応させることによりエポキシ化反応を開始し、約0.05ppm〜約2ppmの減速材(反応調節剤:moderator)を供給ガス組成物に添加し、約12時間〜約60時間にわたって第1の温度を約240℃〜約250℃の第2の温度に昇温し、及び、約50時間〜約150時間の間第2の温度を維持する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本明細書で用いられるすべての構成要素、パーセンテージ及び比率は、特に指定しない限り、体積で表される。引用した全ての文献は、参照により本明細書に組み込まれる。本発明は、レニウム含有銀系触媒を少なくとも酸素、オレフィン及び塩素含有減速材を含む供給物と反応器内で接触させることにより、酸化オレフィンを生成するオレフィンの気相エポキシ化に関する。特定の塩素濃度範囲、温度及び処理時間での始動工程を用いることで、レニウム含有銀系触媒の選択性及び活性の性能特性が最大となることが本発明で発見された。
【0011】
上述のように、塩素減速材は、銀系触媒の存在下で酸化オレフィンを生成するオレフィンの気相エポキシ化の一部として用いられる。銀系触媒及びエポキシ化工程についてはより詳細に説明する。
【0012】
[銀系エポキシ化触媒]
銀系エポキシ化触媒は、担体及び少なくとも触媒有効量の銀又は銀含有化合物を含み、必要に応じて促進量のレニウム又はレニウム含有化合物、また必要に応じて促進量の1つ以上のアルカリ金属又はアルカリ金属含有化合物を含む。本発明で使用される担体は、多数の固体で耐火性の担体から選択することができ、多孔質でもよく、好適な細孔構造を有してもよい。アルミナは、オレフィンのエポキシ化用触媒担体として有用であることが周知であり、好適な担体である。担体は、α−アルミナ、炭、軽石、マグネシア、ジルコニア、チタニア、珪藻土、酸性白土、炭化ケイ素、シリカ、炭化ケイ素、粘土類、人工ゼオライト、天然ゼオライト、二酸化ケイ素及び/又は二酸化チタン、セラミック類等の材料及びその組み合わせから構成されてもよい。担体は、少なくとも約95wt%のα−アルミナ、好ましくは少なくとも約98wt%のα−アルミナを含んでもよい。残余成分は、シリカ、アルカリ金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム)及び、微量のその他の金属含有又は非金属含有添加剤又は不純物等の、α−アルミナ以外の無機酸化物を含んでもよい。
【0013】
使用される担体の性質に関わらず、担体は通常の場合、固定床エポキシ化反応器での使用に適した寸法の粒子、塊、断片、小粒、輪、球体、ワゴン車輪状、十字分割された中空円筒等に成形される。担体粒子は、好ましくは約3mm〜約12mmの範囲、より好ましくは約5mm〜約10mmの範囲の等価直径を有する。(等価直径とは、使用される担体粒子と体積比に対する外部表面積(即ち、粒子の細孔内の表面積は無視)が同一の球体の直径である。)
【0014】
適切な担体は、Saint-Gobain Norpro社、Sud Chemie社、ノリタケ社、CeramTec社及びIndustrie Bitossi社から入手可能である。含有する組成及び配合は特定のものに限定されないが、担体組成及び担体の製造方法についての更なる情報は米国特許公報第2007/0037991号に掲載されている。
【0015】
オレフィンを酸化オレフィンに酸化するための触媒を生成するために、上記の特性を有する担体の表面に触媒有効量の銀を供給する。触媒は、担体上に銀前駆体化合物を沈着するのに十分に適した溶剤に溶解した銀の化合物、錯体又は塩に担体を含浸することにより準備する。好ましくは、銀水溶液が使用される。
【0016】
銀の沈着の前に、同時に、又はその後に、促進量のレニウム化合物を担体に沈着してもよい。レニウム化合物は、レニウム含有化合物又はレニウム含有錯体でもよい。レニウム助触媒は、レニウム金属として表わされた場合、担体を含む全触媒の重量に対して、約0.001wt%〜約1wt%の量で存在してもよく、好ましくは約0.005wt%〜約0.5wt%であり、より好ましくは約0.01wt%〜約0.1wt%である。
【0017】
銀及びレニウムの沈着の前に、同時に、又は後に、担体上に沈着してもよい他の成分は、促進量のアルカリ金属又は2種類以上のアルカリ金属の混合物、及び任意の促進量のIIA族アルカリ土類金属成分又は2種類以上のIIA族アルカリ土類金属成分の混合物及び/又は遷移金属成分又は2種類以上の遷移金属成分の混合物であり、その全ては適切な溶剤に溶解した金属イオン、金属化合物、金属錯体及び/又は金属塩の形態のものである。担体は、同時に又は別の工程で、様々な助触媒に含浸することができる。本発明の担体、銀、アルカリ金属助触媒、レニウム成分及び任意の追加助触媒の特定の組み合わせは1つ以上の触媒特性を改善させ、銀と担体と助触媒無し又は1種類の助触媒の同様の組み合わせよりも優れている。
【0018】
本明細書で使用される触媒の特定の成分の「促進量」という用語は、その成分を含まない触媒と比較した場合に、触媒の触媒性能を向上させるために効果的に作用する成分の量を言う。適用される正確な濃度は、もちろん、その他の要素のうち、所望の銀含有量、担体の性質、液体の粘度、及び含浸溶液に助触媒を導入するために使用される特定の化合物の溶解性によって決定される。触媒特性の例は、とりわけ、操作性(耐暴走性)、選択性、活性、変換率、安定性及び収率を含む。1つ以上の個々の触媒特性が「促進量」によって改善される一方で、他の触媒特性が改善される場合、及び改善されない場合があり、さらに低下する場合もあることは、当業者であれば理解するだろう。
【0019】
適切なアルカリ金属助触媒は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム又はその組み合わせから選択することができるが、セシウムが好ましく、セシウムと他のアルカリ金属の組み合わせが特に好ましい。担体上に沈着される又は存在するアルカリ金属の量が促進量となる。好適には、その量の範囲は、金属として測定された場合の、全触媒の重量に対して約10ppm〜約3000ppmであり、好ましくは約15ppm〜約2000ppmであり、より好ましくは約20ppm〜約1500ppmであり、特に好ましくは約50ppm〜約1000ppmである。
【0020】
適切なアルカリ土類金属助触媒は、元素周期表のIIA族の元素からなり、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウム又はその組み合わせとすることができる。適切な遷移金属助触媒は、元素周期表のIVA、VA、VIA、VIIA及びVIIIA族の元素及びその組み合わせとすることができる。最も好ましくは、遷移金属は元素周期表のIVA、VA又はVIA族から選択された元素からなる。存在させることのできる好適な遷移金属は、モリブデン、タングステン、クロム、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、バナジウム、タンタル、ニオブ又はその組み合わせを含む。
【0021】
担体上に沈着されるアルカリ土類金属助触媒及び/又は遷移金属助触媒の量は、促進量である。通常、遷移金属助触媒は、金属として表わされた場合、全触媒のグラム当たり約0.1マイクロモル〜グラム当たり約10マイクロモルの量で存在することができ、好ましくはグラム当たり約0.2マイクロモル〜グラム当たり約5マイクロモルであり、より好ましくはグラム当たり約0.5マイクロモル〜グラム当たり約4マイクロモルである。触媒は、それぞれ促進量の1種類以上の硫黄化合物、1種類以上のリン化合物、1種類以上のホウ素化合物、1種類以上のハロゲン含有化合物又はその組み合わせを更に含んでもよい。
【0022】
担体を含浸するために使用される銀溶液は、本分野で公知の任意の溶剤又は錯化/可溶化剤を含んでもよい。多種多様な溶剤又は錯化/可溶化剤を、銀を含浸媒体で所望の濃度になるように可溶化するために用いることができる。有用な錯化/可溶化剤は、アミン類、アンモニア、シュウ酸、乳酸及びその組み合わせを含む。アミン類は、1〜5個の炭素原子を有するアルキレンジアミンを含む。一実施の形態において、溶液はシュウ酸銀及びエチレンジアミンの水溶液からなる。錯化/可溶化剤は、含浸溶液中に銀1モルにつき約0.1〜約5.0モルの量で存在することができ、好ましくは約0.2〜約4.0モル、より好ましくは銀1モルにつき約0.3〜約3.0モルである。
【0023】
溶剤を使用する場合は、有機溶剤でも水でもよく、極性であっても実質的に又は完全に非極性であってもよい。一般に溶液は、溶液成分を可溶化するために十分な溶媒和力を有するべきである。同時に、溶媒和した助触媒への悪影響又は相互作用を避けるように、溶剤を選択することが好ましい。分子あたり1〜約8個の炭素原子を有する有機系溶剤が好ましい。本明細書で所望するように機能する限り、数種類の有機溶剤の混合物又は1種類以上の有機溶剤と水との混合物を用いてもよい。
【0024】
通常、含浸溶液中の銀の濃度は、約0.1重量%から、使用される特定の溶剤/可溶化剤の組み合わせで溶解可能な最大限までの範囲内である。一般に、0.5%〜約45重量%の銀を含む溶液の使用が非常に適しており、5〜35重量%の銀の濃度が好ましい。
【0025】
選択された担体の含浸は、例えば、過剰溶液含浸法、初期湿潤含浸法、吹き付け塗装等の、いずれかの従来の方法で行われる。通常、担体材料は、十分な量の溶液が担体に吸収されるまで、銀含有溶液に接触させて留置される。好ましくは、多孔質担体を含浸するのに使用される銀含有溶液の量は、担体の細孔充填に必要な量以下であることが好ましい。溶液中の銀成分の濃度に部分的に応じて、途中の乾燥の有無に関わらず、1回の含浸又は一連の含浸を行うことができる。含浸工程は、例えば、米国特許第4,761,394号、米国特許第4,766,105号、米国特許第4,908,343号、米国特許第5,057,481号、米国特許第5,187,140号、米国特許第5,102,848号、米国特許第5,011,807号、米国特許第5,099,041号及び米国特許第5,407,888号に記載されている。様々な助触媒の前蒸着、共蒸着及び後蒸着といった公知の先行技術の工程を利用することができる。
【0026】
銀含有化合物、即ち、銀前駆体、レニウム成分、アルカリ金属成分、及び任意の他の助触媒に担体を含浸した後、含浸担体は、銀含有化合物を活性銀種に変換し、含浸担体から揮発性成分を除去して触媒前駆体とするのに十分な時間で焼成される。焼成は、約0.5〜約35バールの範囲の圧力で、好ましくは段階的な変化率で約200℃〜約600℃の範囲の温度まで含浸担体を加熱することにより行うことができる。一般に、温度が高いほど、必要な加熱時間は短くなる。本分野では、広範囲の加熱時間が示唆され、例えば、米国特許第3,563,914号は300秒未満の間加熱することを開示し、米国特許第3,702,259号は、通常約0.5〜約8時間の継続時間であるところ、100℃〜375℃の温度で2〜8時間加熱することを開示している。しかし、唯一重要なのは、略全ての含有銀が活性銀種に変換されるように加熱時間と温度が相関することである。ここでは、連続的又は段階的加熱を使用してもよい。
【0027】
焼成の際、不活性ガス又は不活性ガスと約10ppm〜21体積%の酸素含有酸化成分との混合物からなるガス雰囲気に、含浸担体を曝露してもよい。本発明において、不活性ガスは、焼成のために選択された条件下で触媒又は触媒前駆体と実質的に反応しないガスと定義される。触媒製造に関する更なる情報は、前述の米国特許公報第2007/0037991号に掲載されている。
【0028】
[エポキシ化工程]
エポキシ化工程は、前述の本発明により生成される触媒の存在下で、酸素含有ガスとオレフィン、好ましくはエチレンを連続的に接触させることにより行うことができる。酸素は、ほぼ純粋な分子形態又は空気等の混合物として反応用に供給することができる。一例として、反応体供給混合物は、約0.5%〜約45%のエチレンと約3%〜約15%の酸素を含み、残部は二酸化炭素、水、不活性ガス類、他の炭化水素類及び本明細書に記載される反応減速材等の物質を含む比較的不活性な材料からなる。不活性ガスの非限定的な例は、窒素、アルゴン、ヘリウム及びその混合物を含むものでもよい。他の炭化水素類の非限定的な例は、メタン、エタン、プロパン及びその混合物を含む。二酸化炭素と水は、エポキシ化工程の副生成物であるとともに、供給ガスの一般的な不純物である。どちらも触媒に悪影響を与えるため、これらの成分の濃度は通常最小限に維持される。
【0029】
反応器内には1種類以上の塩素減速材も存在し、その非限定的な例は、C1〜C8のハロゲン化炭化水素類等の有機ハロゲン化合物を含み、特に塩化メチル、塩化エチル、二塩化エチレン、塩化ビニル又はその混合物が好ましい。また、過ハロゲン化炭化水素等の水素非含有塩素源が適しており、気相エポキシ化における減速材としては二原子塩素が特に有効である。過ハロゲン化炭化水素とは、炭化水素内の全ての水素分子がハロゲン原子に置換された有機分子を指し、適当な例としては、トリクロロフルオロメタン及びパークロロエチレンがある。減速材の濃度レベルは、多くの競合する性能特性の均衡を保つように調節することが重要であり、例えば、活性が向上する減速材の濃度レベルで同時に選択性を低下させることができる。本発明のレニウム含有触媒に関しては、減速材の濃度レベルの調節は特に重要である。というのも、最適な選択性の値は、狭い減速材濃度範囲内のみで得られるため、レニウム含有触媒の老化に伴い、減速材濃度が継続的に少しずつ増加するよう減速材濃度を慎重に監視しなければならないからである。
【0030】
一般的なエチレンのエポキシ化工程の方法は、本発明の触媒の存在下の固定床管型反応器内におけるエチレンと分子酸素の気相酸化法からなる。従来の市販されている固定床エチレン酸化反応器は、通常、外径約0.7〜2.7インチ、内径0.5〜2.5インチで、長さ15〜53フィートの、触媒が充填された複数の平行な細長い管(適切な外殻構造内)の形状を有する。かかる反応器は、反応器出口を有し、それにより、酸化オレフィン、未使用の反応物質及び副生成物を反応器チャンバから排出することができる。
【0031】
一般的なエチレンのエポキシ化工程の処理条件では、温度範囲は約180℃〜約330℃、好ましくは約200℃〜約325℃、より好ましくは約225℃〜約280℃である。処理圧力は、所望の質量速度と生成性に依存して、略大気圧〜約30気圧まで変化をもたせてもよい。本発明の範囲では、より高圧を使用することもできる。商用規模の反応器内の滞留時間は、通常約2〜約20秒のオーダーである。
【0032】
反応器出口を介して反応器から排出された生成後の酸化エチレンは、従来の方法を用いて反応生成物から分離され、回収される。本発明において、エチレンのエポキシ化工程はガスのリサイクルを含んでもよい。ガスのリサイクルでは、酸化エチレン生成物と二酸化炭素を含む副生成物を実質的に又は部分的に除去した後、ほぼ全ての反応器排水が反応器入口から再び導入される。
【0033】
前述の触媒が、特にエチレン及び酸素の高転化率で、エチレンと分子酸素から酸化エチレンへの酸化に特に選択的であることを示してきた。本発明の触媒の存在下でかかる酸化反応を行う条件は、先行技術に記載されたものを広く含む。適切な温度、圧力、滞留時間、希釈材、緩和剤及びリサイクル操作がこれに当たり、酸化エチレンの収率を増大させるべく異なる反応器にて順次に行う変換も当てはまる。エチレン酸化反応での本発明の触媒の使用は、効果的であることが知られるもののうちの特定の条件の使用に限定されない。
【0034】
単なる例示として、以下に、現在市販されている酸化エチレン反応器ユニットで多く用いられる条件を示す。気体時空間速度(GHSV)1500〜10000h−1、反応器入口圧力150〜400psig、冷却液温度180〜315℃、酸素変換レベル10〜60%、及び酸化エチレン生成率(作業速度)が触媒1立方フィートにつき毎時7〜20lbsの酸化エチレンである。始動が完了した後で通常の処理の際に、反応器入口での供給組成物は、通常、(体積%で)1〜40%のエチレン、3〜12%のO、0.3%〜20%、好ましくは0.3〜5%、より好ましくは0.3〜1%のCO、0〜3%のエタンと、所定の量の1種類以上の本明細書に記載された塩素減速材と、供給物の残部はアルゴン、メタン、窒素又はその混合物からなるものでもよい。
【0035】
上記の段落ではエポキシ化工程の一般的な処理条件を説明し、本発明は、特に、酸化エチレン製造の通常処理の前に行われる新鮮レニウム含有エポキシ化触媒の始動に関するものである。この始動工程では、エチレン、酸素及びメタンや窒素等の適切なバラストガス(窒素が好ましい)を含む供給ガス組成物によって、酸化エチレン反応器までの再生循環路を加圧しながら、エポキシ化反応の開始に十分な約180℃〜約210℃の第1の温度まで新鮮触媒を加熱する。エチレンが約1%〜約4%で酸素が約0.3%〜0.5%というように、初期は酸素とエチレンを低濃度にする。供給組成物は、約0.05ppm〜約2ppm、好ましくは約0.5ppm〜約1ppmの濃度の減速材を含んでもよいが、減速材は反応開始が確認された直後に添加されることが好ましい(本段落に記載される濃度は全て体積比である)。
【0036】
上述の通りにエポキシ化反応が開始した後、反応が進むにつれ、約12時間〜約60時間かけて第1の温度から約240℃〜約250℃、好ましくは約245℃の第2の温度まで徐々に温度を上昇させる。温度の上昇に伴い、供給材料中のエチレン及び酸素のレベルも増加させ、反応器排水中の酸化エチレンの変化ΔEOにより測定される酸化エチレンの生成レベルを、約0.6%を超えるまで、好ましくは約1.5%を超えるまで促進する。よって、始動工程のこの段階で、供給ガス組成物は、約4%〜約20%のエチレンと約3%〜約5%の酸素を含むことになる。塩素レベルは前工程と同レベルに維持される。
【0037】
第2の温度に達した後、約50時間〜約150時間温度を維持又は保持する。その間の供給ガス中のエチレン及び酸素の濃度は、酸化エチレンの生成がフル生成レベルに相当するレベルに達するまで増加され、その間の酸化エチレンの変化ΔOEは約2.0%よりも大きく、好ましくは約2.5%よりも大きく、より好ましくは2.0%〜4.0%の範囲内にある。この時点で、エチレン及び酸素のレベルは最終処理条件又はそれに近いものであり、この段階の完了時には酸化エチレンの生成レベルがフル生成レベルに相当し、エポキシ化工程はこれらの条件で更に継続して行われる。
【0038】
また、この保持時間で、触媒の選択性は85%〜89%まで高まる。この保持期間中に触媒の選択性が所望の値よりも低ければ、塩素レベルを徐々に上方調整して選択性の漸増を維持することができる。本発明の始動工程では、追加で塩素減速材を添加することで、「過塩素化」により起こり得る触媒の活性又は他の触媒性能への悪影響を受けることなく、選択性を僅かに上方調整することが可能となる。
【0039】
[実施例]
以下の非限定的実施例に関連して、本発明を更に詳細に説明する。
【0040】
7.2mの触媒床を有する1本の1インチ外径管付き反応器内に7mmのレニウム含有触媒のペレットを投入した。触媒を窒素ガス下で室温から200℃まで加熱し、200℃に達したところで、供給ガスをCが3%、Oが0.3%〜0.5%、及びCOが1%(残部は窒素)に設定した。1ppmの塩化エチル減速材を追加で添加した。その後52時間以上をかけて温度を245℃まで上昇させ、COを1%、塩素を1ppmと一定に保ちながら、排出水中での酸化エチレンの生成を増加させるため、C及びOを段階的に増加させた。245℃に達した後、59時間温度を保持し、その間は、酸化エチレンの変化ΔEOが2.2%に達するまでC及びOを更に増加させた。
【0041】
当業者には、その広い発明的概念から逸脱することなく上記実施の形態に変更を行なうことができることが認識されよう。本発明は開示された特定の実施例に限定されず、添付のクレームに記載された本発明の精神および範囲内での改良に及ぶことを意図していることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ化触媒の存在下でエチレンと酸素を含む供給ガス組成物を約180℃〜約210℃の温度で反応させることによりエポキシ化反応を開始し、
約0.05ppm〜約2ppmの減速材を前記供給ガス組成物に添加し、
約12時間〜約60時間にわたって前記第1の温度を約240℃〜約250℃の第2の温度に昇温し、及び
約50時間〜約150時間の間前記第2の温度を維持する工程からなることを特徴とするエチレンのエポキシ化工程の始動方法。
【請求項2】
前記減速材は、約0.5ppm〜約1ppmの濃度で存在する請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記減速材は、有機ハロゲン化合物である請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記減速材は、C1〜C8のハロゲン化炭化水素類のみからなる群から選択される請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記減速材は、塩化メチル、塩化エチル、二塩化エチレン及び塩化ビニルのみからなる群より選ばれる請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記減速材は、二原子塩素及び過ハロゲン化炭化水素類のみからなる群から選択される請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記開始工程の間、前記供給ガス組成物が約1%〜約4%のエチレンと約0.3%〜0.5%の酸素を含む請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記開始工程の間、前記供給ガス組成物が約4%〜約20%のエチレンと約3%〜約5%の酸素を含む請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記第2の温度は約245℃である請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記維持工程の間、酸化エチレンの変化ΔEOは約2.0%を超える請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記維持工程の間、酸化エチレンの変化ΔEOは約2.0%〜約4%である請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記維持工程の間、酸化エチレン生成レベルが、フル生成レベルに相当するレベルに達する請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記維持工程の間の選択性が、約85%〜約90%である請求項1記載の方法。

【公表番号】特表2013−514387(P2013−514387A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−544826(P2012−544826)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際出願番号】PCT/US2010/060769
【国際公開番号】WO2011/084600
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(591105890)サイエンティフィック・デザイン・カンパニー・インコーポレーテッド (9)
【氏名又は名称原語表記】SCIENTIFIC DESIGN COMPANY INCORPORATED
【Fターム(参考)】