説明

エポキシ樹脂の精製方法

【課題】 有機塩素量が200ppm以下であるエポキシ樹脂を工業的に高収率で得られる精製方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】有機塩素量が2000ppm以下のエポキシ樹脂を有機溶剤類に溶解し、水溶液濃度55〜75重量%に調整した固形アルカリ金属水酸化物を、樹脂1kgに対して0.05〜0.5モル添加して、50〜100℃の温度で有機塩素の分解反応を行うことにより、有機塩素量が200ppm以下の高純度エポキシ樹脂を得ることが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として半導体封止用をはじめとした電気絶縁材料等の電気電子産業用に好適な、極めて有機塩素量の少ないエポキシ樹脂の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多価フェノール類とエピハロヒドリンとをアルカリ金属水酸化物の存在下で反応させてグリシジルエーテル化して製造されたエポキシ樹脂は、硬化剤により架橋させた場合、大きな架橋密度を有する硬化樹脂となり、優れた耐薬品性、耐湿性、耐熱性を示すものである。
エポキシ樹脂には無機塩素イオンや分子中に存在する加水分解性塩素化物が含まれる。それらの不純物塩素化物の内、無機塩素イオンと一部の易加水分解性塩素は従来の技術で容易に低減する事が出来るが、その他の難加水分解性有機塩素を低減させることは非常に困難であった。従来、電気電子用途に使用されるエポキシ樹脂の有機塩素量は600〜1000ppm程度が標準的であった。
しかし、近年、電子部品の高度集積化に伴い回路の微細化が進み、使用されるエポキシ樹脂にも更なる低塩素化の要求があった。
【0003】
この様な背景から、有機塩素量を低減するために様々な製造方法が提案されている。
例えば、特許文献1では、不活性溶媒中でエポキシ化合物に平均粒径300μm以下の粉末状アルカリ金属水酸化物を作用させた後、生成物を非極性溶媒により抽出することを特徴とするエポキシ化合物の精製方法が開示されている。
しかしながら、その製造方法は例えば、ビスフェノールF型エポキシ化合物の場合は、樹脂100g対して400mlのトルエンと更に抽出に400mlのヘプタンを使用しており、得られた精製エポキシ化合物は61gと工業的生産を考えた場合はかなり効率の悪いものとなっている。またアルカリ金属水酸化物をアルコールに溶解して行う方法も提案されているが、十分に低塩素化することは出来ていない。このように従来の精製方法では、有機塩素量が200ppm以下の高純度エポキシ樹脂を得るのは困難であり、たとえ得られたとしても、副反応を抑制するために多量の有機溶剤が必要であったり、貧溶媒による抽出操作等が必要であり、工業的に製造する場合不利であった。
【特許文献1】特公平6−62596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、有機塩素量が200ppm以下であるエポキシ樹脂を工業的に高収率で得られる精製方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らはこうした実状に鑑み、有機塩素量が低く工業的に製造するのに有利なエポキシ樹脂の精製方法を求めて鋭意検討した結果、有機塩素量が2000ppm以下のエポキシ樹脂を有機溶剤類に溶解して、特定の濃度のアルカリ金属水酸化物を、特定の量使用して、有機塩素の分解反応を行い、有機塩素含有量が200ppm以下の高純度エポキシ樹脂を得るエポキシ樹脂の精製方法が上述の特性及び効果を満たすものであることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、有機塩素含有量が2000ppm以下のエポキシ樹脂を有機溶剤類に溶解して、水溶液濃度が濃度が55〜75重量%のアルカリ金属水酸化物を、樹脂1kgに対して0.05〜0.5モル添加して、50〜100℃の温度で有機塩素の分解反応を行い、有機塩素量が200ppm以下の高純度エポキシ樹脂を得ることを特徴とするエポキシ樹脂の精製方法に関するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明のエポキシ樹脂の精製方法により、有機塩素量の著しく低減された高純度エポキシ樹脂を、高い収率で得ることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明における精製反応の対象となるエポキシ樹脂としては有機塩素含有量が2000ppm以下、好ましくは有機塩素含有量が1000ppm以下のエポキシ樹脂である。有機塩素量が2000ppm以上だと、樹脂粘度の増大及びエポキシ基の損失を抑えて、有機塩素量を十分に低減することが出来ない為である。これらのエポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールE、ビスフェノールC、ビスフェノールZ、ビスフェノールS、ビスフェノールフルオレン、ビフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ビスフェノールAノボラック、ジヒドロキシナフタレン、フェノールアラルキル樹脂、テルペンフェノール等と、エピクロルヒドリンから製造されるエポキシ樹脂及びそれらの分子蒸留品である精製反応に用いる有機溶剤としては、通常エポキシ樹脂の精製反応に使用される、トルエン、メチルイソブチルケトンを使用する。また必要に応じてエチレングリコールジメチルエーテル及び、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジメチルスルホキシド、ジオキサン等の非プロトン系極性溶媒を併用することが出来る。非プロトン系極性溶媒は使用しなくても有機塩素量200ppm以下のエポキシ樹脂を得ることは可能であるが、3官能以上の成分が含まれるエポキシ樹脂の場合には、有機溶剤類の一部を非プロトン系極性溶媒に置き換えることは、樹脂粘度の増大を防ぐために有効である。
【0008】
精製反応を行うときの有機溶剤は、不揮発分が40〜80重量%の範囲で使用される。不揮発分が80重量%であると樹脂粘度の増大及びエポキシ基の損失につながる。また40重量%以下であると有機塩素量の低減効果が小さい。
本発明に使用されるアルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が挙げられるが、特に水酸化カリウムが好ましい。アルカリ金属水酸化物の使用量は樹脂1kgに対して0.05モル〜0.5モルであり、好ましくは0.1モル〜0.3モルである。アルカリ金属水酸化物の使用量が多すぎると、樹脂粘度の増大及びエポキシ基の損失につながる。また、少なすぎると有機塩素量の低減効果が小さい。
アルカリ金属水酸化物は、水溶液濃度55%〜75%の範囲で使用される。水溶液濃度が75%より高いと触媒作用が強すぎて、樹脂粘度の増大及エポキシ基の損失につながる。また、濃度が55%より低いと有機塩素量の低減効果が小さい。アルカリ金属水酸化物は規定の濃度になっていれば、水溶液の状態でも、固形のアルカリ金属水酸化物と必要量の水を別に添加しても良い。
【0009】
本発明では、アルカリ金属水酸化物の濃度が反応速度に影響するため系内水分は0.2%以内であることが好ましい。
回収溶剤等を使用する場合で水分濃度が高い場合は反応前に脱水等の処置を行うか、水分濃度を測定しアルカリ金属水酸化物の水溶液濃度を決定することが好ましい。
精製反応の反応温度は、50〜100℃である。
100℃より高温であると樹脂粘度の増大及びエポキシ基の損失につながる。50℃より温度が低いと有機塩素量の低減効果が小さい。精製反応時間は2〜10時間程度で行うが、好ましくは3〜6時間である。反応終了後に、メチルイソブチルケトンやトルエン等の溶剤にて希釈して、副生成した塩を水洗処理により除去し、樹脂溶液のpHが7〜4になるようにリン酸、リン酸ナトリウム、シュウ酸、酢酸、炭酸等を添加して中和を行い更に水洗を繰り返した後、濾過して溶剤類を減圧蒸留により回収し、目的とした有機塩素量200ppm以下、加水分解性塩素量が20ppm以下のエポキシ樹脂が得られる。
本願発明の精製反応により得られる、高純度エポキシ樹脂は、有機性塩素量が200ppm以下、加水分解性塩素量が20ppm以下であり、電気及び電子産業用の封止材等に好適に使用される。
【実施例】
【0010】
以下、本発明を実施例をもって詳細に説明するが、これらに限定されるものではない。尚、以下の説明においてのエポキシ当量、有機塩素量及び、加水分解性塩量はそれぞれ以下の方法で測定した。
【0011】
エポキシ当量はJIS K7236による方法で測定した。
有機塩素量は、エポキシ樹脂をブチルカルビトールに溶解し、1N−水酸化カリウムのプロピレングリコール溶液を添加して直火で10分間還流反応させ、遊離した塩素量を酢酸酸性下で0.01N−硝酸銀溶液で電位差滴定装置により測定し、これを試料重量で除した値である。
加水分解性塩素量は、エポキシ樹脂を所定量のジオキサンに溶解し、0.1N−水酸化カリウムのエタノール溶液を添加して70℃のウオーターバス中で30分間反応させ、遊離した塩素量を酢酸酸性下で0.01N−硝酸銀溶液で電位差滴定装置により測定し、これを試料重量で除した値である。
【0012】
実施例1
撹拌噐、温度計、窒素ガス導入装置、滴下装置、冷却管及び油水分離装置を備えた内容量1リッターのガラスフラスコに東都化成社製YD−8125(BPA型液状エポキシ樹脂;有機塩素量900ppm、エポキシ当量173g/eq)300重量部、トルエン100重量部、を仕込み、窒素ガスを流しながら40℃まで加熱して溶解した。同温度で固形水酸化カリウム2.52重量部と1.68重量部の水を加えて。80℃迄昇温後、3時間同温度で反応を行った。反応終了後、トルエン450重量部、温水75重量部を加えて水洗した。次に、リン酸水溶液で中和し、水洗水が中性になるまで樹脂溶液を数回水洗した。さらに5mmHg以下の減圧下、160℃の温度で5分間保持してトルエンを留去し290重量部のエポキシ樹脂を得た。得られた樹脂のエポキシ当量は178g/eq、有機塩素量120ppm、加水分解性塩素量6ppmであった。
【0013】
実施例2
撹拌噐、温度計、窒素ガス導入装置、滴下装置、冷却管及び油水分離装置を備えた内容量1リッターのガラスフラスコに東都化成社製YDF−8170(BPF型液状エポキシ樹脂;有機塩素量800ppm、エポキシ当量159g/eq)300重量部、トルエン160重量部、ジメチルスルホキシド40重量部を仕込み、窒素ガスを流しながら40℃まで加熱して溶解した。同温度で固形水酸化カリウム1.68重量部と1.12重量部の水を加えて80℃迄昇温後、同温度で3時間反応を行った。反応終了後、トルエン350重量部、温水75重量部を加えて水洗した。次に、リン酸水溶液で中和し、水洗水が中性になるまで樹脂溶液を数回水洗した。さらに5mmHg以下の減圧下、160℃の温度で5分間保持してトルエン、ジメチルスルホキシドを留去し285gのエポキシ樹脂を得た。得られた樹脂のエポキシ当量は163g/eq、有機塩素量160ppm、加水分解性塩素量8ppmであった。
【0014】
実施例3
撹拌噐、温度計、窒素ガス導入装置、滴下装置、冷却管及び油水分離装置を備えた内容量1リッターのガラスフラスコに東都化成社製YDCN−500−2(クレゾールノボラック型液固形エポキシ樹脂;有機塩素量800ppm、エポキシ当量201g/eq)250重量部、トルエン300重量部、ジメチルスルホキシド50重量部を仕込み、窒素ガスを流しながら40℃まで加熱して溶解した。同温度で固形水酸化カリウム2.81重量部と1.87重量部の水を加えて。80℃迄昇温後、3時間同温度で反応を行った。反応終了後、トルエン220重量部、温水65重量部を加えて水洗した。次に、リン酸水溶液で中和し、水洗水が中性になるまで樹脂溶液を数回水洗した。さらに5mmHg以下の減圧下、160℃の温度で5分間保持してトルエン、ジメチルスルホキシドを留去し220重量部のエポキシ樹脂を得た。得られた樹脂のエポキシ当量は206g/eq、有機塩素量180ppm、加水分解性塩素量10ppmであった。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本願発明の精製反応により得られる、高純度エポキシ樹脂は、有機性塩素量が200ppm以下、加水分解性塩素量が20ppm以下であり、電気及び電子産業用の封止材等に好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機塩素量が2000ppm以下のエポキシ樹脂を有機溶剤類に溶解し、水溶液濃度55〜75重量%に調整した固形アルカリ金属水酸化物を、樹脂1kgに対して0.05〜0.5モル添加して、50〜100℃の温度で有機塩素の分解反応を行い、有機塩素量が200ppm以下の高純度エポキシ樹脂を得ることを特徴とするエポキシ樹脂の精製方法。
【請求項2】
アルカリ金属水酸化物が水酸化カリウムであることを特徴とする請求項1記載のエポキシ樹脂の精製方法。
【請求項3】
有機溶剤類がトルエン又はメチルイソブチルケトンであることを特徴とする請求項1又は2記載のエポキシ樹脂の精製方法。
【請求項4】
有機溶剤類がトルエンとジメチルスルホキシドの混合溶剤類であることを特徴とする請求項1又は2記載のエポキシ樹脂の精製方法。
【請求項5】
高純度エポキシ樹脂がビスフェノールA型エポキシ樹脂、又はビスフェノールF型エポキシ樹脂であって、加水分解性塩素量が20ppm以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のエポキシ樹脂の精製方法。

【公開番号】特開2007−277498(P2007−277498A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−109529(P2006−109529)
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【出願人】(000221557)東都化成株式会社 (53)
【Fターム(参考)】