説明

エポキシ樹脂用硬化剤及びマイクロカプセル型エポキシ樹脂用硬化剤

【課題】短時間硬化性及び貯蔵安定性に優れるエポキシ樹脂用硬化剤を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物を含むエポキシ樹脂用硬化剤。


(式中、Pは、2価の有機基を表し、Qはn価の炭素数1〜15以下の有機基を表し、nは、1〜10の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂用硬化剤及びマイクロカプセル型エポキシ樹脂用硬化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、その硬化物が、機械的特性、電気的特性、熱的特性、耐薬品性、接着性等の点で優れた性能を有することから、塗料、電気電子用絶縁材料、接着剤等の幅広い用途に利用されている。現在一般に使用されているエポキシ樹脂組成物は、使用時にエポキシ樹脂と硬化剤の二液を混合する、いわゆる二液性のものである。
【0003】
二液性エポキシ樹脂組成物は室温で硬化し得る反面、エポキシ樹脂と硬化剤を別々に保管し、必要に応じて両者を計量、混合した後、使用する必要があるため、保管や取り扱いが煩雑である。その上、可使用時間が限られているため、予め大量に混合しておくことができず、配合頻度が多くなり、能率の低下を免れない。
【0004】
こうした二液性エポキシ樹脂組成物の問題を解決する目的で、これまでいくつかの一液性エポキシ樹脂組成物が提案されてきている。例えば、ジシアンジアミド、BF3−アミン錯体、アミン塩、変性イミダゾール化合物等の潜在性硬化剤をエポキシ樹脂に配合したものがある。
【0005】
このような一液性エポキシ樹脂組成物に用いられる硬化剤に関するものとして、例えば、特許文献1には、イソシアネート化合物の反応物により表面が被覆された潜在性硬化剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平01−070523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した潜在性硬化剤は、貯蔵安定性に優れているものは短時間硬化性が低いため、硬化に高温又は長時間を必要となる。また、短時間硬化性に優れているものは貯蔵安定性が低いため、例えば、−20℃等の低温で貯蔵する必要がある。例えば、ジシアンジアミドは、常温保存の場合では配合品の貯蔵安定性は6ヵ月以上であるが、170℃以上の硬化温度が必要である。硬化温度を低下させるために硬化促進剤を併用すると、例えば、130℃で硬化させることができるが、室温での貯蔵安定性が不十分となり、低温での貯蔵を余儀なくされる。したがって、短時間硬化性と貯蔵安定性を両立するエポキシ樹脂組成物の開発が望まれているところであり、かかる特性を兼ね備えたエポキシ樹脂組成物とすることができるエポキシ樹脂用硬化剤が強く求められている。
【0008】
さらに、近年、特に電子機器分野において、回路の高密度化や接続信頼性の向上に対応する目的や、モバイル機器の軽量化として耐熱性の低い材料を使用する目的や、生産性を大幅に改善する目的で、接続材料の一つとして用いられる一液性エポキシ樹脂組成物に対して、硬化剤の貯蔵安定性を損なわずに、短時間硬化性を一層向上させることが強く求められている。また、フィルム状の接着材料や接続材料の用途では、フィルム化工程で使用する溶剤を混合した場合に、混合した組成物が経時的に安定であることも求められている。
【0009】
このように、短時間硬化性と貯蔵安定性の両立の要請はますます高まっており、上記した潜在性硬化剤を超えるエポキシ樹脂用硬化剤が求められている。
【0010】
上記事情に鑑み、本発明は、短時間硬化性及び貯蔵安定性に優れるエポキシ樹脂用硬化剤を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有するエポキシ樹脂用硬化剤が、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕
下記式(1)で表される化合物を含むエポキシ樹脂用硬化剤。
【化1】

(式中、Pは、2価の有機基を表し、Qはn価の炭素数1〜15以下の有機基を表し、nは、1〜10の整数である。)
〔2〕
前記Pが、ウレタン結合、ウレア結合、エステル結合及びエーテル結合からなる群より選ばれるいずれか1つである[1]に記載のエポキシ樹脂硬化剤。
〔3〕
前記化合物は、前記式(1)において前記nが1であり、かつ前記Qが下記式(2)、式(3)及び式(4)からなる群より選ばれるいずれかで表される化合物;又は、前記式(1)において前記nが2であり、かつ前記Qが下記式(5)、式(6)及び式(7)からなる群より選ばれるいずれかで表される化合物である、〔1〕又は〔2〕に記載のエポキシ樹脂硬化剤。
【化2】

(Rは炭素と水素からなる有機基で炭素数が1〜10の整数である。)
【化3】

(式中、m1は、0〜10の整数である。)
【化4】

(式中、m2は、0〜10の整数である。)
【化5】

(式中、m3、m4及びm5は、各々独立して、0〜10の整数である。)
【化6】

(式中、m6及びm7は、各々独立して、0〜10の整数である。)
【化7】

(式中、m8及びm9は、各々独立して、0〜10の整数である。)
〔4〕
〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のエポキシ樹脂用硬化剤をシェルで被覆したマイクロカプセル型エポキシ樹脂用硬化剤。
〔5〕
下記式、式(a)、式(b)、式(c)、式(d)、及び式(e)からなる群より選ばれるいずれかで表される化合物。
【化8】

【発明の効果】
【0013】
本発明のエポキシ樹脂用硬化剤は、短時間硬化性及び貯蔵安定性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1で得られたエポキシ樹脂用硬化剤(C−1)の1H−NMRスペクトルである。
【図2】実施例2で得られたエポキシ樹脂用硬化剤(C−2)の1H−NMRスペクトルである。
【図3】実施例3で得られたエポキシ樹脂用硬化剤(C−3)の1H−NMRスペクトルである。
【図4】実施例4で得られたエポキシ樹脂用硬化剤(C−4)の1H−NMRスペクトルである。
【図5】実施例5で得られたエポキシ樹脂用硬化剤(C−5)の1H−NMRスペクトルである。
【図6】実施例9で得られたエポキシ樹脂用硬化剤(C−9)の1H−NMRスペクトルである。
【図7】実施例11で得られたエポキシ樹脂用硬化剤(C−11)の1H−NMRスペクトルである。
【図8】実施例13で得られたエポキシ樹脂用硬化剤(C−13)の1H−NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と略記する。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0016】
<エポキシ樹脂用硬化剤>
本実施形態のエポキシ樹脂用硬化剤は、下記式(1)で表される化合物を含むエポキシ樹脂用硬化剤である。
【化9】

(式中、Pは、2価の有機基を表し、Qは、n価の炭素数1〜15の有機基を表し、nは1〜10の整数である。)
【0017】
式(1)で表される化合物は、キヌクリジン骨格を有している。かかる化合物を含むエポキシ樹脂用硬化剤を用いることにより、エポキシ樹脂のエポキシ基との反応活性点となる窒素原子周辺の立体障害を小さくすることができる。そのため、窒素原子上の孤立電子対の求核性が上がり、エポキシ樹脂との反応が促進され、短時間での硬化が可能となるとともに、得られる硬化物の分子量や架橋密度が高まる。その結果、エポキシ樹脂用硬化剤の接着性が優れたものとなるとともに、得られる硬化物の耐熱性等の機械的特性が高まる。さらに、キヌクリジン骨格は環状構造の中に窒素原子を1つのみ有する骨格であるため、窒素原子を2つ以上有する環状アミン構造(例えば、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンは、窒素原子を2つ有する環状アミン構造に相当)と比較して窒素原子上の電子密度がより高い。したがって、短時間硬化性が格段に向上し、結果的に接着性と耐熱性の両方が向上する(ただし、本実施形態の作用機構はこれに限定されない)。
【0018】
また、本実施形態のエポキシ樹脂用硬化剤に含まれる式(1)で表される化合物は、キヌクリジン骨格が、有機基Pを介して、n価の有機基Qで変性されている。これにより、得られる硬化物の分子量を向上させることができるとともに、エポキシ樹脂用硬化剤の貯蔵安定性も優れたものにすることができる。
【0019】
Pは2価の有機基であり、キヌクリジン骨格と有機基Qとを結合するものであれば特に限定されないが、エポキシ樹脂用硬化剤をマイクロカプセル化した場合の貯蔵安定性、短時間硬化性及び耐溶剤性のバランスに一層優れるという観点から、Pは、ウレタン結合、ウレア結合、エステル結合及びエーテル結合からなる群より選ばれるいずれか一つを有することが好ましく、ウレタン結合又はウレア結合であることがより好ましい。
【0020】
Qの構造は、炭素数が1〜15以下の有機基である。炭素数が15以下であることにより、極性の低下を抑えることで、エポキシ樹脂との相溶性を優れたものにできるので、その結果、優れた短時間硬化性を得ることができる。
【0021】
Qの構造の分子量は50〜300であることが好ましく、60〜250であることがより好ましく、70〜200であることが更に好ましい。分子量が大きいほど、貯蔵安定性に優れる傾向にある。その一方で、分子量が小さいほど、エポキシ樹脂用硬化剤がエポキシ樹脂に速やかに拡散することができるため、より短時間硬化性に優れる傾向にある。したがって、貯蔵安定性と短時間硬化性のバランスという観点から、Qの分子量は上記範囲であることが好ましい。
【0022】
Qの構造は、剛直な構造であるほど、エポキシ樹脂用硬化剤の軟化点が高くなり、エポキシ樹脂組成物の硬化物を粉砕等により微粒子化する際の作業性が更に向上したり、エポキシ樹脂用硬化剤を含有するエポキシ樹脂組成物の貯蔵安定性が更に高まる傾向にある。それに加えて、得られる硬化物自体の耐熱性等が向上する傾向にあるため、好ましい。ここでいう剛直な構造とは、構造単位を構成する各元素の相対位置を変化させるときに各原子が動き難い構造であることを意味するものであり、例えば、ベンゼン環構造、スピロ環構造、脂環式構造等の環状構造の含有比率が高い、いわゆる嵩高い構造が挙げられる。かかる観点から、より具体的には、Qは、下記式(3)〜(7)からなる群より選ばれるいずれかで表される構造であることが好ましい。なお、Qの結合手の数はnの数に依存する。すなわち、nが1の場合(式(1)において繰り返し単位として含まれるキヌクリジン骨格が1個の場合)は、Qは1価の有機基となる。nが2の場合(式(1)において繰り返し単位として含まれるキヌクリジン骨格が2個の場合)は、Qは2価の有機基となる。このように、Qの価数は、式(1)のnと同じ数となる。よって、エポキシ樹脂用硬化剤に含まれる化合物としては、式(1)においてnが1であり、かつQが下記式(3)若しくは式(4)で表される化合物;又は、式(1)においてnが2であり、かつQが下記式(5)、式(6)及び式(7)からなる群より選ばれるいずれかで表される化合物が好ましい。
【0023】
【化10】

(式中、m1は、0〜10の整数である。)
【化11】

(式中、m2は、0〜10の整数である。)
【化12】

(式中、m3、m4及びm5は、各々独立して、0〜10の整数である。)
【化13】

(式中、m6及びm7は、各々独立して、0〜10の整数である。)
【化14】

(式中、m8及びm9は、各々独立して、0〜10の整数である。)
【0024】
また、特に、Pがウレア結合を有する場合には、化合物の軟化点が高くなりやすいことから、Qは、適度な軟化点とするため、式(2)で表されるような炭化水素の構造や、式(4)で表されるような脂環式構造等の環状構造が良い。これにより、ウレア結合の場合、Qが式(2)や式(4)で表される構造であると、軟化点が高くなりすぎずに、優れた短時間硬化性を発揮することができるからである。
【0025】
【化15】

(Rは炭素と水素からなる有機基で炭素数が1〜10の整数である。)
【化16】

(式中、m2は、0〜10の整数である。)
【0026】
1〜m9の値は、各々独立して、化合物の剛直性の観点から3以下の整数が好ましく、0又は1がより好ましい。
【0027】
式(1)のnは、1〜10の整数であればよく、1又は2であることがより好ましく、2であることが更に好ましい。nが2である2官能化合物の場合は、3以上の多官能化合物と比較して、エポキシ樹脂用硬化剤を用いた組成物を硬化させる際にエポキシ樹脂用硬化剤がエポキシ樹脂に溶解、拡散し易くなり、その結果、短時間で硬化が完了する傾向にある。一方、nが1で表されるような単官能化合物と比較して、2官能化合物の場合は、エポキシ樹脂用硬化剤の分子構造中に、キヌクリジン骨格同士を架橋させる点が適度に存在することとなるため、得られる硬化物の耐熱性が向上する傾向にある。以上より、短時間硬化性と耐熱性のバランスという観点から、2官能化合物であること(n=2)が更に好ましい。
【0028】
次に、短時間硬化性と貯蔵安定性のバランスの観点から、エポキシ樹脂用硬化剤の好ましい具体例を説明する。エポキシ樹脂用硬化剤としては、下記群Gで表される群より選ばれるいずれか1つの化合物を含有することが好ましい。
【0029】
【化17】

【0030】
上記の中でも、短時間硬化性と貯蔵安定性のバランスの観点から、下記式(8)、式(9)、式(10)、式(11)、式(12)、式(13)、式(14)、式(15)、式(16)及び式(17)からなる群より選ばれるいずれかで表される化合物を含有することがより好ましい。例えば、エポキシ樹脂用硬化剤がかかる化合物を含有すると、短時間硬化性及び貯蔵安定性を一層向上させることができる。その理由は定かではないが、以下のように推定される。式(8)〜式(17)で表される化合物はキヌクリジン骨格を有することにより、エポキシ樹脂との反応活性点である窒素原子周辺の立体障害が小さくなり、窒素原子上の孤立電子対の求核性が上がる。そのため、エポキシ樹脂との反応が促進され、短時間で硬化するとともに硬化物の分子量と架橋密度が高まることにより耐熱性や接着性等の機械的特性が向上する。さらに、環状構造の中に窒素原子が1つのみ存在するキヌクリジン骨格では、窒素原子上の電子密度が高まり、窒素原子を2つ有する構造と比較しても、短時間硬化性が一層格段に向上し、結果的に接着性と耐熱性も向上するとも推定される。またさらに、式(8)〜式(17)で表される構造式においては、キヌクリジン骨格が、ウレタン結合、ウレア結合、エステル結合、エーテル結合等を介して、変性されている。変性されていることにより、得られる硬化物の分子量が一層向上するとともに、一層優れた貯蔵安定性を達成することができる(ただし、本実施形態の作用機構はこれに限定されない。)。
【0031】
【化18】

【0032】
さらに、耐熱性を一層向上させるという観点から、下記式(8)、式(11)、式(12)、式(14)及び式(17)からなる群より選ばれるいずれかで表される化合物を含有することが更に好ましい。
【0033】
【化19】

【0034】
またさらに、接着性を一層向上させるという観点から、下記式(11)、式(12)、式(14)及び式(17)からなる群より選ばれるいずれかで表される化合物を含有することがより更に好ましい。
【0035】
【化20】

【0036】
また、上記群Gの中でも、下記式(a)、式(b)、式(c)、式(d)、及び式(e)で表される化合物は、いずれも新規な化合物である。そして、これらの化合物は、短時間硬化性及び貯蔵安定性に優れるエポキシ樹脂用硬化剤として好適に用いることができる。
【0037】
【化21】

【0038】
続いて、本実施形態のエポキシ樹脂用硬化剤の合成方法の一例を以下に説明する。
【0039】
<式(1)中のPが、―O(CO)−NH−を有するエポキシ樹脂用硬化剤の合成方法の一例>
式(1)中のPが、―O(CO)−NH−を有するエポキシ樹脂用硬化剤の合成方法の一例としては、3−キヌクリジノール(下記式(18)参照)等のアルコール類と、モノイソシアネートやポリイソシアネート等のイソシアネート類とを反応させる方法が挙げられる。
【化22】

【0040】
イソシアネートの例としては、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,5−ペンタメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート)、1,3−ビス(イソシアネートメチル)−シクロヘキサン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソシアヌレート変性ポリイソシアネート、ビュレット変性ポリイソシアネート、ウレタン変性ポリイソシアネートやジイソシアネート、トリイソシアネート等が挙げられる。
【0041】
より具体的な合成条件の一例を挙げると、トルエン等の有機溶媒中で、3−キヌクリジノールとキシリレンイソシアネートとを、反応液温度30〜100℃の範囲内に保持して、1〜10時間反応させた後に溶媒を留去して反応物を得る方法が挙げられる。得られた反応物は、本実施形態の目的が損なわれない範囲内において、ウレア化合物やイソシアヌレート化合物等の副生成物を含有していてもよい。
【0042】
また、本実施形態の目的が損なわれない範囲内において上記イソシアネート類の各種変性品等を用いることもできる。そのような変性イソシアネートとしては、イソシアヌレート変性品、ビウレット変性品、ウレタンアダクト型等が挙げられる。これらは市販品を用いてもよく、例えば、旭化成ケミカルズ社製の登録商標「デュラネート24A−100」、登録商標「デュラネートTPA−100」、登録商標「デュラネートTKA−100」、登録商標「デュラネートP301−75E」、登録商標「デュラネートD101」等が挙げられる。
【0043】
<式(1)中のPが、―O−を有するエポキシ樹脂用硬化剤の合成方法の一例>
式(1)中のPが、―O−を有するエポキシ樹脂用硬化剤の合成方法の一例としては、3−キヌクリジノール(式(18)参照)等のアルコール類を、塩基性条件下で、臭化ベンジル等のハロゲン化炭化水素と反応させた後、副生する塩を水洗除去する方法が挙げられる。
【0044】
<式(1)中のPが、―O(CO)−を有するエポキシ樹脂用硬化剤の合成方法の一例>
式(1)中のPが、―O(CO)−を有するエポキシ樹脂用硬化剤の合成例としては、3−キヌクリジノール(式(18)参照)等のアルコール類を、塩基性条件下で、塩化ベンゾイル等の酸塩化物と反応させた後、副生する塩を水洗除去する方法、あるいは3−キノクリジノール等のアルコール類を、塩基性触媒存在下で、カルボン酸無水物と反応させた後、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)等の脱水剤と作用させる方法等が挙げられる。
【0045】
本実施形態のエポキシ樹脂用硬化剤は、重量平均分子量が50以上50000以下のアミン系硬化剤を0.01〜90%含むことが好ましい。これによりエポキシ樹脂用硬化剤をマイクロカプセル化する場合であっても、より貯蔵安定性に優れるエポキシ樹脂組成物とすることができる。
【0046】
アミン系硬化剤の重量平均分子量が50以上であると、エポキシ樹脂用硬化剤が室温でもブロッキングせず安定した形状(粉体等)を保つことができる傾向にある。アミン系硬化剤の重量平均分子量が50000以下であると、軟化温度が高くなりすぎず、本実施形態のエポキシ樹脂用硬化剤を配合してエポキシ樹脂組成物とした場合の硬化性が一層高まり、本実施形態の効果がより顕著に発揮できる傾向にある。このような観点から、アミン系硬化剤の重量平均分子量の範囲は、好ましくは50以上50000以下、より好ましくは70以上10000以下、更に好ましくは100以上5000以下、より更に好ましくは500以上4000以下、一層好ましくは1000以上3000以下である。ここで、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0047】
アミン系硬化剤としては、特に限定されず、通常使用されるアミン系硬化剤を使用できる。例えば、アミンアダクト系硬化剤、変性ポリアミン系硬化剤、脂肪族ポリアミン系硬化剤、複素環式ポリアミン系硬化剤、脂環式ポリアミン系硬化剤、芳香族アミン系硬化剤、ポリアミドアミン系硬化剤、ケチミン系硬化剤、ウレタンアミン系硬化剤等が挙げられる。これらの中でも、適度な反応性を有する観点から、アミンアダクト系硬化剤が好ましく、低分子アミン化合物(a1)とアミンアダクトとからなるアミンアダクト系硬化剤がより好ましい。
【0048】
ここで、低分子アミン化合物(a1)としては、少なくとも1個の第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有するが、第三級アミノ基を有さない化合物;少なくとも1個の第三級アミノ基と少なくとも1個の活性水素基とを有する化合物等が挙げられる。ここでいう、第一級アミノ基とは、アンモニアから水素を除去した1価の官能基(−NH2)をいい、第二級アミノ基とは、第一級アミンから水素を除去した1価の官能基(−NRH(式中、Rは有機基を表す。))をいい、第三級アミノ基とは、第二級アミンから水素を除去した1価の官能基(−NRR’(式中、R及びR’は、各々独立して有機基を表す。))をいう。
【0049】
少なくとも1個の第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有するが、第三級アミノ基を有さない化合物としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、シクロヘキシルアミン、イソホロンジアミン、アニリン、トルイジン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等の、第三級アミノ基を有さない第一級アミン類;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、ピペリジン、ピペリドン、ジフェニルアミン、フェニルメチルアミン、フェニルエチルアミン等の、第三級アミノ基を有さない第二級アミン類等が挙げられる。
【0050】
少なくとも1個の三級アミノ基と少なくとも1個の活性水素基とを有する化合物としては、例えば、2−ジメチルアミノエタノール、1−メチル−2−ジメチルアミノエタノール、1−フェノキシメチル−2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、1−ブトキシメチル−2−ジメチルアミノエタノール、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−β−ヒドロキシエチルモルホリン等のアミノアルコール類;2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等のアミノフェノール類;2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−アミノエチル−2−メチルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル)−2−メチルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロピル)−2−メチルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロピル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類;1−(2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル)−2−フェニルイミダゾリン、1−(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロピル)−2−メチルイミダゾリン、2−メチルイミダゾリン、2,4−ジメチルイミダゾリン、2−エチルイミダゾリン、2−エチル−4−メチルイミダゾリン、2−ベンジルイミダゾリン、2−フェニルイミダゾリン、2−(o−トリル)−イミダゾリン、テトラメチレン−ビス−イミダゾリン、1,1,3−トリメチル−1,4−テトラメチレン−ビス−イミダゾリン、1,3,3−トリメチル−1,4−テトラメチレン−ビス−イミダゾリン、1,1,3−トリメチル−1,4−テトラメチレン−ビス−4−メチルイミダゾリン、1,3,3−トリメチル−1,4−テトラメチレン−ビス−4−メチルイミダゾリン、1,2−フェニレン−ビス−イミダゾリン、1,3−フェニレン−ビス−イミダゾリン、1,4−フェニレン−ビス−イミダゾリン、1,4−フェニレン−ビス−4−メチルイミダゾリン等のイミダゾリン類;ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジプロピルアミノプロピルアミン、ジブチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノエチルアミン、ジエチルアミノエチルアミン、ジプロピルアミノエチルアミン、ジブチルアミノエチルアミン、N−メチルピペラジン、N−アミノエチルピペラジン、ジエチルアミノエチルピペラジン等の第三級アミノアミン類;2−ジメチルアミノエタンチオール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトピリジン、4−メルカプトピリジン等のアミノメルカプタン類;N,N−ジメチルアミノ安息香酸、N,N−ジメチルグリシン、ニコチン酸、イソニコチン酸、ピコリン酸等のアミノカルボン酸類;N,N−ジメチルグリシンヒドラジド、ニコチン酸ヒドラジド、イソニコチン酸ヒドラジド等のアミノヒドラジド類等が挙げられる。
【0051】
これらの低分子アミン化合物(a1)の中でも、適度な反応性を有する観点から、第三級アミノ基を有さない第一級アミン類が好ましく、これらの中でも、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、シクロヘキシルアミン及びイソホロンジアミンからなる群より選ばれるいずれかであることがより好ましい。
【0052】
次に、アミンアダクトとしては、カルボン酸化合物、スルホン酸化合物、尿素化合物、イソシアネート化合物、及び、エポキシ樹脂(e1)とアミン化合物(a2)との反応により得られるアミノ基を有する化合物等が挙げられる。
【0053】
カルボン酸化合物としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、ダイマー酸等が挙げられる。スルホン酸化合物としては、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等が、尿素化合物としては、尿素、メチル尿素、ジメチル尿素、エチル尿素、t−ブチル尿素等が挙げられる。
【0054】
イソシアネート化合物としては、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネート、脂肪族トリイソシアネート、ポリイソシアネート等が挙げられる。
【0055】
脂肪族ジイソシアネートとしては、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0056】
脂環式ジイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロ
ヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、1,4−イソシアナトシクロヘキサン、1,3−ビス(イソシアナトメチル)−シクロヘキサン、1,3−ビス(2−イソシアナトプロピル−2−イル)−シクロヘキサン等が挙げられる。
【0057】
芳香族ジイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニル
メタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0058】
脂肪族トリイソシアネートとしては、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、1,8−ジイソシアネート−4−イソシアネートメチルオクタン、1,3,6−トリイソシアネートメチルヘキサン等が挙げられる。
【0059】
ポリイソシアネートとしては、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートや上記ジイソシアネート化合物より誘導されるポリイソシアネート等が挙げられる。上記ジイソシアネートより誘導されるポリイソシアネートとしては、イソシアヌレート型ポリイソシアネート、ビュレット型ポリイソシアネート、ウレタン型ポリイソシアネート、アロハネート型ポリイソシアネート、カルボジイミド型ポリイソシアネート等が挙げられる。
【0060】
エポキシ樹脂(e1)としては、モノエポキシ化合物、多価エポキシ化合物のいずれか又はそれらの混合物等が挙げられる。
【0061】
モノエポキシ化合物としては、ブチルグリシジルエーテル、ヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、p−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、パラキシリルグリシジルエーテル、グリシジルアセテート、グリシジルブチレート、グリシジルヘキソエート、グリシジルベンゾエート等が挙げられる。
【0062】
多価エポキシ化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールAD、テトラメチルビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、テトラクロロビスフェノールA、テトラフルオロビスフェノールA等のビスフェノール類をグリシジル化したビスフェノール型エポキシ樹脂;ビフェノール、ジヒドロキシナフタレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン等のその他の2価フェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂;1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、4,4−(1−(4−(1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル)フェニル)エチリデン)ビスフェノール等のトリスフェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂;1,1,2,2,−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン等のテトラキスフェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂;フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ビスフェノールAノボラック、臭素化フェノールノボラック、臭素化ビスフェノールAノボラック等のノボラック類をグリシジル化したノボラック型エポキシ樹脂等;多価フェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂、グリセリンやポリエチレングリコール等の多価アルコールをグリシジル化した脂肪族エーテル型エポキシ樹脂;p−オキシ安息香酸、β−オキシナフトエ酸等のヒドロキシカルボン酸をグリシジル化したエーテルエステル型エポキシ樹脂;フタル酸、テレフタル酸のようなポリカルボン酸をグリシジル化したエステル型エポキシ樹脂;4,4−ジアミノジフェニルメタンやm−アミノフェノール等のアミン化合物のグリシジル化物やトリグリシジルイソシアヌレート等のアミン型エポキシ樹脂等のグリシジル型エポキシ樹脂と、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート等の脂環族エポ
キサイド等が挙げられる。
【0063】
エポキシ樹脂(e1)の全塩素量は、硬化性と貯蔵安定性のバランスに優れたエポキシ樹脂組成物を得る観点から、2500ppm以下であることが好ましく、より好ましくは2000ppm以下であり、更に好ましくは1500ppm以下であり、より更に好ましくは800ppm以下であり、一層好ましくは400ppm以下であり、より一層好ましくは180ppm以下であり、特に好ましくは100ppm以下であり、極めて好ましくは80ppm以下であり、最も好ましくは50ppm以下である。
【0064】
ここで、全塩素量とは、エポキシ樹脂(e1)中に含まれる有機塩素及び無機塩素の総量を意味し、エポキシ樹脂(e1)に対する質量基準の値である。エポキシ樹脂(e1)の全塩素量は、以下の方法により測定される。試料を、キシレンを用いて、エポキシ樹脂が無くなるまで洗浄と濾過を繰り返す。次に、ろ液を100℃以下で減圧留去し、エポキシ樹脂を得る。得られたエポキシ樹脂試料1〜10gを、滴定量が3〜7mLになるよう精秤し、25mLのエチレングリコールモノブチルエーテルに溶解し、これに1規定KOHのプロピレングリコール溶液25mLを加えて20分間煮沸した後、硝酸銀水溶液で滴定した滴定量より計算する。
【0065】
エポキシ樹脂(e1)の全塩素量の下限は、後述するシェル形成反応のコントロールを容易にする観点から、0.01ppm以上であることが好ましく、より好ましくは0.02ppm以上であり、更に好ましくは0.05ppm以上であり、より更に好ましくは0.1ppm以上であり、一層好ましくは0.2ppm以上であり、より一層好ましくは0.5ppm以上である。また、エポキシ樹脂(e1)の全塩素量の上限は、200ppm以下であることが好ましく、より好ましくは80ppm以下であり、更に好ましくは50ppm以下である。全塩素量が0.1ppm以上であると、シェル形成反応が硬化剤を含むコア表面で効率よく行われ、より一層貯蔵安定性に優れたシェルが得られる傾向にある。
【0066】
ここで、エポキシ樹脂(e1)に含まれる全塩素の内、1、2−クロロヒドリン基に含まれる塩素は、一般に、加水分解性塩素と呼ばれる。エポキシ樹脂(e1)中の加水分解性塩素量は、好ましくは50ppm以下、より好ましくは0.01ppm以上20ppm以下、更に好ましくは0.05ppm以上10ppm以下である。加水分解性塩素量が50ppm以下であると、高い硬化性と貯蔵安定性を両立する観点から有利であり、硬化物が優れた電気特性を示す傾向にある。
【0067】
ここで、加水分解性塩素は、以下の方法により測定される。試料3gを50mLのトルエンに溶解し、これに0.1規定KOHのメタノール溶液20mLを加えて15分間煮沸した後、硝酸銀水溶液で滴定した滴定量より計算する。
【0068】
上記したアミンアダクトの中でも、特に、エポキシ樹脂(e1)とアミン化合物(a2)との反応により得られるものが好ましい。エポキシ樹脂(e1)とアミン化合物(a2)との反応により得られるアミンアダクトは、未反応のアミン化合物(a2)を上記した低分子アミン化合物(a1)として流用できるという観点からも好ましい。
【0069】
アミン化合物(a2)としては、上述した低分子アミン化合物(a1)の例として挙げたアミン化合物が使用できる。その中でも、上記した第三級アミノ基を有さない第一級アミン類が好ましく、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、シクロヘキシルアミン及びイソホロンジアミンからなる群より選ばれるいずれかがより好ましい。
【0070】
エポキシ樹脂(e1)とアミン化合物(a2)との反応により得られるアミンアダクトは、例えば、エポキシ樹脂(e1)とアミン化合物(a2)を、エポキシ樹脂(e1)のエポキシ基1当量に対して、アミン化合物(a2)の活性水素基が好ましくは0.5〜10当量、より好ましくは0.8〜5当量、更に好ましくは0.95〜4当量となる割合で、必要に応じて溶剤の存在下において、例えば、50〜250℃の温度で0.1〜10時間反応させることにより得られる。
【0071】
エポキシ基に対する活性水素基の当量比を0.5以上にすると、分子量分布が7以下のアミンアダクトを得るのに有利であり、その結果、アミンアダクトの流動性が高まる傾向にある。当量比を10以下にすると、未反応のアミン化合物(a2)を回収せずにそのまま低分子アミン化合物(a1)として利用できるので有利である。ここでいう、分子量分布とは、数平均分子量に対する重量平均分子量の比率(Mw/Mn)を意味し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定することができる。
【0072】
本実施形態のエポキシ樹脂用硬化剤は、アミン系硬化剤を含有することは必須の要件ではないが、保存安定性と耐溶剤性の観点から、エポキシ樹脂用硬化剤におけるアミン系硬化剤の含有率は、好ましくは0.01〜90質量%、より好ましくは0.1〜70質量%、更に好ましくは1〜60質量%、より更に好ましくは5〜50質量%、一層好ましくは10〜40質量%、より一層好ましくは15〜30質量%である。
【0073】
エポキシ樹脂(e1)とアミン化合物(a2)とからアミンアダクトを得る反応において、必要に応じて用いられる溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、ミネラルスピリット、ナフサ等の炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸−n−ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類;メタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール等のアルコール類;水等が挙げられる。これらの溶剤は併用しても構わない。
【0074】
本実施形態のエポキシ樹脂用硬化剤は、以下の条件(1)、(2)を満たすことが好ましい。
条件(1):エポキシ樹脂用硬化剤中に水を0.05〜3質量%含有すること。
条件(2):メジアン径で定義される平均粒径が0.3μmを超えて、12μm以下であること。
【0075】
まず、条件(1)について説明する。
エポキシ樹脂用硬化剤中に水を0.05質量%以上含むことにより、その表面でシェル(S)形成が効率よく行われるとともに、形成されるシェル(S)が貯蔵安定性及び耐溶剤性に優れた膜として機能する傾向にある。
【0076】
エポキシ樹脂用硬化剤中に水を3質量%以下含むことにより、粒子同士の融着・凝集を抑制でき、安定した品質で管理することが容易となる傾向にある。また、粒子同士の融着・凝集を抑制できることで、シェル(S)の表面に有する特定の結合基の含有量のコントロールが容易となり、かかる観点からも安定した品質のマイクロカプセル型のエポキシ樹脂用硬化剤を得ることができる。
【0077】
次に、条件(2)について説明する。
エポキシ樹脂用硬化剤の粒径は、メジアン径で定義される平均粒径が0.3μmを超えて12μm以下であることが好ましく、1μm以上10μm以下であることがより好ましく、1.5μm以上5μm以下であることが更に好ましい。ここで、エポキシ樹脂用硬化剤の平均粒径とは、レーザー回析・光散乱法で測定されるストークス径をいう。エポキシ樹脂用硬化剤の粒子の粒径は、後述する実施例に記載された方法に準じて測定することができる。
【0078】
エポキシ樹脂用硬化剤の平均粒径が12μm以下であると、均質な硬化物を得ることができ、0.3μmを超えると、粒子間での凝集を抑制でき、薄いシェル(S)の形成が容易となる傾向にある。
【0079】
エポキシ樹脂用硬化剤は、常温で液体でも固体でもよいが、25℃で固体であることが好ましい。
【0080】
本実施形態のエポキシ樹脂用硬化剤は、耐溶剤性、耐フィラー性、耐湿性及び浸透性の観点から、円形度0.93以上の球状であることが好ましく、0.95以上の球形であることがより好ましい。かかる形状であることにより、カプセル膜が均等に形成されるため、本実施形態の効果がより一層発揮されることがある。ここで、エポキシ樹脂用硬化剤の円形度は、フロー式粒子像解析法により測定することができる。より具体的には、試料を液中に流し粒子を撮影し、粒子投影面積より粒子径を求め、粒子投影像の周囲長と粒子径相当円の円周の比により求めることができる。円形度は1に近い程、真球に近いことを示し、エポキシ樹脂用硬化剤の円形度が1に近いほどカプセル膜が均等に形成される。
【0081】
上記のような球状のエポキシ樹脂用硬化剤は、例えば、不定形の粒子を熱風処理して得ることができる。そのような球状のコアを得る方法としては、熱風噴射ノズルから噴射される熱風中に不定形粒子を噴射し、熱風との接触により粒子の表面を溶融して球形化処理する方法等が挙げられる。熱風処理する際の熱風の温度は、好ましくは100℃以上400℃以下であり、より好ましくは150℃以上300℃以下、更に好ましくは180℃以上250℃以下である。熱風の温度が100℃以上であると、エポキシ樹脂用硬化剤の表面の加熱を十分に行うことができ所望の円形度にコントロールすることができ、400℃以下であると、エポキシ樹脂用硬化剤の熱分解を抑制できる。
【0082】
本実施形態では、上記したエポキシ樹脂用硬化剤をシェル(S)で被覆したマイクロカプセル型エポキシ樹脂用硬化剤であることが好ましい。すなわち、上記したエポキシ樹脂用硬化剤をコアとし、その表面の少なくとも一部をシェル(S)にて被覆されたマイクロカプセル型エポキシ樹脂用硬化剤である。本実施形態のエポキシ樹脂用硬化剤は、波数1620〜1650cm-1の赤外線を吸収する結合基(x)、波数1680〜1690cm-1の赤外線を吸収する結合基(y)、及び波数1690〜1720cm-1の赤外線を吸収する結合基(z)からなる群より選ばれる少なくとも1つを有するシェル(S)によりマイクロカプセル化されていることがより好ましい。
【0083】
さらに、シェル(S)の赤外吸収測定において、波数1620〜1650cm-1の最高赤外線吸収強度Cx、波数1680〜1690cm-1の最高赤外線吸収強度Cy、波数1690〜1720cm-1の最高赤外線吸収強度Czから下記式(i)により求められるkが、0.10よりも大きいことが好ましく、0.20よりも大きいことがより好ましく、0.30よりも大きいことが更に好ましい。下記kが0.10よりも大きい値であるシェル(S)を用いることにより、耐溶剤性と貯蔵安定性をより向上させることができる。

k=Cx/(Cx+Cy+Cz) ・・・(i)
【0084】
ここで、赤外線吸収及び最高赤外線吸収強度は、赤外分光光度計を用いて測定することができるが、特に、フーリエ変換式赤外分光光度計(FT−IR)を用いることが好ましい。
【0085】
結合基(x)はウレア結合、結合基(y)はビウレット結合、結合基(z)はウレタン結合であることが好ましい。
【0086】
また、シェル(S)はエステル基を実質的に有さないことが好ましい。エステル結合を有さないものとすることで、湿度が高い状態においてエステル結合が加水分解反応を起こしてシェル(S)を損傷させることや、エポキシ樹脂用硬化剤の貯蔵安定性及び耐湿性や、得られる硬化物の物性の低下を抑制することができる。
【0087】
シェル(S)の形成反応は、特に限定されず、公知の方法も採用することができる。例えば、シェル(S)の形成反応を分散媒中で行なうことができる。分散媒としては、溶媒、エポキシ樹脂、可塑剤等が挙げられる。溶媒、可塑剤としては、後述するイソシアネート化合物と活性水素化合物の反応で使用できる溶媒、可塑剤の例として挙げたもの等が使用できる。
【0088】
シェル(S)は、エポキシ樹脂用硬化剤表面上で少なくとも以下のいずれか1つの形態で反応して生成する反応生成物であることが好ましい。
(a)エポキシ樹脂用硬化剤とイソシアネート化合物が反応して生成する反応生成物。
(b)エポキシ樹脂用硬化剤に含まれる活性水素化合物やアミン系硬化剤と、イソシアネート化合物が反応して生成する反応生成物。
(c)反応媒体中に含まれる、活性水素化合物やアミン系硬化剤等と、イソシアネート化合物が反応して生成する反応生成物。
【0089】
ここで、イソシアネート化合物としては、上述のエポキシ樹脂用硬化剤で用いることができるアミンアダクトの原料の例として挙げたイソシアネート化合物が使用できる。
【0090】
活性水素化合物としては、水、少なくとも1個の第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有する化合物、少なくとも1個の水酸基を有する化合物等であり、その構造にエステル基を含有しないものが挙げられる。これらの化合物は併用することもできる。
【0091】
少なくとも1個の第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有する化合物としては、脂肪族アミン、脂環式アミン、芳香族アミン等が挙げられる。
脂肪族アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン等のアルキルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のアルキレンジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等のポリアルキレンポリアミン;ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシエチレンジアミン等のポリオキシアルキレンポリアミン類等が挙げられる。
脂環式アミンとしては、シクロプロピルアミン、シクロブチルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン、イソホロンジアミン等が挙げられる。
芳香族アミンとしては、アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、ナフチルアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。
【0092】
少なくとも1個の水酸基を有する化合物としては、アルコール化合物、フェノール化合物等が挙げられる。これらの中でも、多価アルコール類や多価フェノール類等が好ましく、多価アルコール類がより好ましい。
【0093】
アルコール化合物としては、メチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、ドテシルアルコール、ステアリルアルコール、エイコシルアルコール、アリルアルコール、クロチルアルコール、プロパルギルアルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、シンナミルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチル等のモノアルコール類;エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、水添ビスフェノールA、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール類が挙げられる。また、少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物と、少なくとも1個の水酸基、カルボキシル基、第一級又は第二級アミノ基、メルカプト基を有する化合物との反応により得られる第二級水酸基を1分子中に2個以上有する化合物も、多価アルコール類として挙げられる。これらのアルコール化合物は、第一級、第二級、又は第三級アルコールのいずれでもよい。
【0094】
また、エポキシ樹脂も分子内にアルコール性水酸基を有する構成成分も含有しているのでアルコール化合物として挙げられる。この場合、エポキシ樹脂(e2)の全塩素量は、2500ppm以下であることが好ましく、より好ましくは1500ppm以下、更に好ましくは500ppm以下である。エポキシ樹脂は、通常、分子内に塩素が結合した不純末端を有するが、エポキシ樹脂(e2)の全塩素量を上記範囲とすることにより、このような不純末端に起因する硬化物の電気特性への悪影響を抑制することができる。
【0095】
フェノール化合物としては、例えば、石炭酸、クレゾール、キシレノール、カルバクロール、モチール、ナフトール等のモノフェノール類、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ピロガロール、フロログルシン等の多価フェノール類が挙げられる。
【0096】
イソシアネート化合物と活性水素化合物の反応は、通常、−10℃〜150℃の温度範囲で、10分間〜12時間間の反応時間で行われる。
【0097】
また、イソシアネート化合物と活性水素化合物の反応は、必要に応じて分散媒中で行なうことができる。分散媒としては、溶媒、可塑剤、樹脂類等が挙げられる。
【0098】
溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、ミネラルスピリット、ナフサ等の炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸−n−ブチル、プロピレングリコールモノメチルエチルエーテルアセテート等のエステル類;メタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール等のアルコール類;水等が挙げられる。
【0099】
可塑剤としては、フタル酸ジブチル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシシル)等のフタル酸ジエステル系;アジピン酸ジ(2−エチルヘキシシル)等の脂肪族二塩基酸エステル系;リン酸トリクレジル等のリン酸トリエステル系;ポリエチレングリコールエステル等のグリコールエステル系等が挙げられる。
【0100】
樹脂類としては、シリコーン樹脂類、エポキシ樹脂類、フェノール樹脂類等が挙げられる。
【0101】
このような、イソシアネート化合物と活性水素化合物との反応生成物は、ウレア結合を有するが、同時にエステル結合を有さないことが好ましく、さらに、ビュレット結合とウレタン結合を有することが好ましい。反応生成物がビュレット結合とウレタン結合を有すると、得られるマイクロカプセル型のエポキシ樹脂用硬化剤の耐溶剤性が高まる傾向にある。
【0102】
エポキシ樹脂用硬化剤を被覆するようにシェル(S)を形成する方法としては、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、エポキシ樹脂用硬化剤の粒子を分散媒に分散させ、この分散媒にシェル(S)を形成する材料を添加してエポキシ樹脂用硬化剤の粒子上に析出させる方法や、分散媒にシェルを形成する材料の原料を添加し、エポキシ樹脂用硬化剤の粒子の表面を反応の場として、そこでシェルを形成する材料を生成するとともに、エポキシ樹脂用硬化剤上にシェル(S)を形成させる方法等が挙げられる。後者の方法は、反応とシェル形成を同時に行うことができるので好ましい。
【0103】
上記の分散媒としては、溶媒、可塑剤、樹脂等が挙げられる。溶媒、可塑剤、樹脂としては、上述のイソシアネート化合物と活性水素化合物の反応で使用できる溶媒、可塑剤、樹脂の例として挙げたものが使用できる。ここで、分散媒としてエポキシ樹脂を用いると、シェル形成と同時に、マイクロカプセル型のエポキシ樹脂用硬化剤を得ることができるため好ましい。
【0104】
シェル(S)の形成反応は、通常、−10℃〜100℃、好ましくは0℃〜50℃、より好ましくは20℃〜40℃の温度範囲で、10分間〜24時間、好ましくは2時間〜10時間の反応時間で行われる。反応温度が−10℃以上であると、反応が速く工業的に好ましく、反応温度が100℃以下であると、コア材が反応系に溶出することを防止でき、貯蔵安定性や耐溶剤性等をより向上させることができる。
【0105】
また、シェルを形成する材料をシェル形成反応の初期に存在させておくと、シェル(S)がより効果的に形成され、貯蔵安定性や耐溶剤性等の効果がより一層顕著に発現される傾向にある。
【0106】
<エポキシ樹脂組成物>
本実施形態のエポキシ樹脂用硬化剤は、エポキシ樹脂(e3)と配合することによりエポキシ樹脂組成物とすることができる。このエポキシ樹脂組成物は、これをそのまま硬化させることで硬化物とすることもできる。さらに、このエポキシ樹脂組成物に、後述する希釈用のエポキシ樹脂(e4)を更に配合して一液性のエポキシ樹脂組成物とした上で、これを硬化させて硬化物とすることもできる。ここで用いるエポキシ樹脂(e3)は、特に限定されず、通常用いられるエポキシ樹脂を使用できる。例えば、上述のエポキシ樹脂用硬化剤に含まれるアミンアダクトの原料となるエポキシ樹脂(e1)の例として挙げたエポキシ樹脂を使用することもできる。これらのエポキシ樹脂(e3)は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、得られる硬化物の接着性や耐熱性の観点から、多価フェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂が好ましく、ビスフェノール型エポキシ樹脂がより好ましく、ビスフェノールAのグリシジル化物とビスフェノールFのグリシジル化物が更に好ましい。
【0107】
上述したように、エポキシ樹脂の分子内の塩素が結合した不純末端は、硬化物の電気特性に悪影響を及ぼすおそれがある。したがって、本実施形態におけるエポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂(e3)の全塩素量は、2500ppm以下であることが好ましく、より好ましくは1500ppm以下、更に好ましくは500ppm以下である。
【0108】
エポキシ樹脂(e3)のジオール末端不純成分が、エポキシ樹脂(e3)の基本構造成分の0.001〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜25質量%であり、更に好ましくは0.1〜20質量%であり、より更に好ましくは0.5〜18質量%であり、一層好ましくは1.2〜15質量%である。ここで、ジオール末端不純成分とは、どちらか一方、又は両方の末端のエポキシ基が開環して、1,2−グリコールを形成した構造を有するエポキシ樹脂をいう。
【0109】
エポキシ樹脂(e3)のジオール末端成分の含有量は、エポキシ樹脂を無水媒質中で、四価の過ヨウ素酸アンモニウムと反応させ、未反応のHIO4(過ヨウ素酸)を、ヨウ化カリウムにより還元してI2(ヨウ素)を生成させて、生成したI2(ヨウ素)を定量することにより測定できる。
【0110】
エポキシ樹脂(e3)の基本構造成分に対するエポキシ樹脂(e3)のジオール末端不純成分の比率が、30質量%を超えると、硬化物の耐水性が低下する傾向にあり、0.001質量%未満であると、エポキシ樹脂組成物の硬化性が低下する傾向にある。
【0111】
本実施形態のエポキシ樹脂用硬化剤を含むエポキシ樹脂用組成物における、エポキシ樹脂(e3)とエポキシ樹脂用硬化剤の質量比は特に限定されないが、エポキシ樹脂(e3)100質量部に対して、エポキシ樹脂用硬化剤は0.1〜1000質量部が好ましく、1〜500質量部がより好ましく、10〜100質量部が更に好ましい。
【0112】
エポキシ樹脂組成物は、室温で液状であるか、又は、25℃での粘度が50mPa・s以上1000万mPa・s以下のペースト状であることが好ましい。液状又は上記範囲の粘度のペースト状とすることで、作業性が高く、容器等の被付着物への付着量を低減でき、廃棄物発生量を低減できるため好ましい。
【0113】
以下に、本実施形態のエポキシ樹脂用硬化剤を用いてエポキシ樹脂組成物を製造する一例について詳細に説明する。本実施形態におけるエポキシ樹脂組成物を製造する方法としては、特に限定されないが、エポキシ樹脂用硬化剤を、三本ロール等を用いてエポキシ樹脂(e3)中に分散させる方法や、エポキシ樹脂(e3)の中にエポキシ樹脂用硬化剤を加えてシェル(S)形成反応を行い、マイクロカプセル型のエポキシ樹脂組成物を得る方法等が挙げられる。上記の中でも、後者の方法が、生産性が高くなる傾向にあるため、好ましい。
【0114】
<一液性エポキシ樹脂組成物>
本実施形態において、上記のエポキシ樹脂組成物は、これを更にエポキシ樹脂で希釈して、一液性エポキシ樹脂組成物とすることができる。このような一液性エポキシ樹脂組成物として好ましいものは、エポキシ樹脂(e4)と、上記のエポキシ樹脂組成物を含むものである。一液性エポキシ樹脂組成物におけるエポキシ樹脂(e4)と本実施形態のエポキシ樹脂組成物の質量比は、特に限定されないが、エポキシ樹脂(e4)100質量部に対して、本実施形態のエポキシ樹脂組成物0.01〜1000質量部であることが好ましく、1〜500質量部がより好ましく、10〜100質量部が更に好ましい。
【0115】
ここで、エポキシ樹脂(e4)としては、上述のエポキシ樹脂用硬化剤に含まれるアミンアダクトの原料となるエポキシ樹脂(e1)の例として挙げたエポキシ樹脂が使用できる。また、一液性エポキシ樹脂組成物の製造方法としては、上述のエポキシ樹脂組成物の製造方法の例として挙げた方法が利用できる。
【0116】
本実施形態のエポキシ樹脂硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物や、それを用いた一液性エポキシ樹脂組成物には、その機能を低下させない範囲で、増量剤、補強材、充填材、顔料、有機溶剤等、その他の添加剤を含有することができる。各組成物中における添加剤の含有量の総量は、好ましくは30質量%未満である。
【0117】
その他の添加剤としては、例えば、本実施形態のエポキシ樹脂用硬化剤以外の他のエポキシ樹脂用硬化剤(h)が挙げられる。エポキシ樹脂用硬化剤(h)としては、一般にエポキシ樹脂用硬化剤として使用されるあらゆるものが使用できるが、特に、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、ヒドラジド系硬化剤、及びグアニジン系硬化剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種のエポキシ樹脂用硬化剤が好ましい。
【0118】
酸無水物系硬化剤としては、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水−3−クロロフタル酸、無水−4−クロロフタル酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、無水コハク酸、無水メチルコハク酸、無水ジメチルコハク酸、無水ジクロールコハク酸、メチルナジック酸、ドテシルコハク酸、無水マレイン酸等が挙げられる。
【0119】
フェノール系硬化剤としては、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ビスフェノールAノボラック等が挙げられる。
【0120】
ヒドラジド系硬化剤としては、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、p−オキシ安息香酸ヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、フェニルアミノプロピオン酸ヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド等が挙げられる。
【0121】
グアニジン系硬化剤としては、ジシアンジアミド、メチルグアニジン、エチルグアニジン、プロピルグアニジン、ブチルグアニジン、ジメチルグアニジン、トリメチルグアニジン、フェニルグアニジン、ジフェニルグアニジン、トルイルグアニジン等が挙げられる。
【0122】
また、本実施形態のエポキシ樹脂用硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物には、組成物の貯蔵安定性の向上のため、環状ホウ酸エステル化合物を添加することができる。環状ホウ酸エステル化合物とは、ホウ素が環式構造に含まれているものであり、特に、2,2’−オ
キシビス(5,5’−ジメチル−1,3,2−オキサボリナン)が好ましい。エポキシ樹
脂組成物、又は、一液性エポキシ樹脂組成物中における環状ホウ酸エステル化合物の含有量は、0.001〜10質量%であることが好ましい。
【0123】
<ペースト状組成物、フィルム状組成物等>
本実施形態のエポキシ樹脂用硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物は、貯蔵安定性、短時間硬化性、耐湿性、作業性、流動性、信頼性、接着性、耐水性、耐溶剤性に優れており、ペースト状組成物やフィルム状組成物等にして、あらゆる用途に利用できる。特に、低温あるいは短時間の硬化条件であっても、高い接続信頼性、封止性、及び接着性が得られる。ここで、ペースト状とは、25℃での粘度が10,000,000mPa・s以下であるものをいい、フィルム状(シート状と呼ばれる場合もある。)とは、厚さ500μm以下であり、単体で薄膜上の構造を成立させることができるものをいう。上記のペースト状及びフィルム状組成物は、上記のエポキシ樹脂組成物を、公知の方法にて適宜成形する等により得ることができる。
【0124】
上記ペースト状組成物及びフィルム状組成物は、接着剤、接合用ペースト、接合用フィルムの他に、導電性材料、異方導電性材料、絶縁性材料、封止材料、コーティング用材料、塗料組成物、プリプレグ、熱伝導性材料等として有用である。
【0125】
接着剤、接合用ペースト、接合用フィルムとしては、液状接着剤やフィルム状接着剤、ダイボンディング材等として有用である。接合用フィルムの製造方法としては、特に限定されず、公知の方法も採用できる。接合用フィルムの製造方法の一例としては、以下の方法が挙げられる。固形エポキシ樹脂、液状エポキシ樹脂、及び固形のウレタン樹脂を、これらの総量が50質量%になるように、トルエン中に溶解、分散させた溶液を作製する。続いて、上記のエポキシ樹脂組成物を、溶液に対して30質量%となるように添加・分散させてワニスを調製する。このワニスを、例えば、厚さ50μmの剥離用ポリエチレンテレフタレート基材に、トルエンが乾燥した後に厚さ30μmとなるように塗布する。トルエンを乾燥させることにより、常温では不活性であり、加熱することにより潜在性硬化剤の作用で接着性を発揮する、接合用フィルムを得ることができる。
【0126】
上記のエポキシ樹脂組成物を用いた導電性材料としては、導電性フィルム、導電性ペースト等が挙げられる。また、上記のエポキシ樹脂組成物を用いた異方導電性材料としては、異方導電性フィルム、異方導電性ペースト等が挙げられる。上記した導電性材料や異方導電性材料の製造方法の一例としては、例えば、上述の接合用フィルムの製造において、上記のワニスの調製時に導電性材料や異方導電性材料である導電粒子を混合・分散させて、剥離用の基材に塗布後、乾燥することにより製造することができる。
【0127】
導電粒子としては、半田粒子、ニッケル粒子、ナノサイズの金属結晶粒子、金属の表面を他の金属で被覆した粒子、銅と銀の傾斜粒子等の金属粒子、樹脂粒子(例えば、スチレン樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂等)に導電性薄膜(金、ニッケル、銀、銅、半田等)で被覆を施した粒子等が使用される。一般に、これらの導電粒子は、1〜20μm程度の球形の微粒子である。
【0128】
フィルムにする場合の基材としては、例えば、ポリエステル、ポリエチレン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂製の基材を用いることができる。
【0129】
上記のエポキシ樹脂組成物を用いた絶縁性材料としては、絶縁性接着フィルム、絶縁性接着ペースト等が挙げられる。上述の接合用フィルムを用いることで、絶縁性材料である絶縁性接着フィルムを得ることができる。また、封止材を用いることの他、上述の充填剤のうち、絶縁性の充填剤を配合することで、絶縁性接着ペーストを得ることができる。
【0130】
上記のエポキシ樹脂組成物を用いた封止材としては、固形封止材、液状封止材、及びフィルム状封止材等として有用である。液状封止材としては、アンダーフィル材、ポッティング材、ダム材等として有用である。封止材の製造方法の一例としては、以下の方法が挙げられる。ビスフェノールA型エポキシ樹脂、硬化剤として、例えば酸無水物硬化剤である無水メチルヘキサヒドロフタル酸、さらに球状溶融シリカ粉末を加えて均一に混合し、それに上記のエポキシ樹脂組成物を加えて均一に混合することにより、封止材を得ることができる。
【0131】
上記のエポキシ樹脂組成物を用いたコーティング用材料としては、例えば、電子材料のコーティング材、プリント配線版のカバー用のオーバーコート材、プリント基板の層間絶縁用樹脂組成物等が挙げられる。コーティング用材料の製造方法の一例としては、以下の方法が挙げられる。充填剤からシリカ等を選定し、フィラーとして、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の他、フェノキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂等を配合し、さらに本実施形態のエポキシ樹脂組成物を配合し、メチルエチルケトンで50%の溶液を調製する。これをポリイミドフィルム上に50μmの厚さでコーティングし、銅箔を重ねて60〜150℃でラミネートし、当該ラミネートを180〜200℃で加熱硬化させることにより、層間がエポキシ樹脂組成物によりコーティングされた積層板を得ることができる。
【0132】
上記のエポキシ樹脂組成物を用いた塗料組成物の製造方法としては、特に限定されず、公知の方法も採用できる。塗料組成物の製造方法の一例としては、以下の方法が挙げられる。ビスフェノールA型エポキシ樹脂に、二酸化チタン、タルク等を配合し、混合溶剤としてメチルイブチルケトン/キシレンの1:1混合溶剤を添加、攪拌して主剤とする。これに上記のエポキシ樹脂組成物を添加し、均一に分散させることにより、塗料組成物を得ることができる。
【0133】
上記のエポキシ樹脂組成物を用いたプリプレグの製造方法としては、特に限定されず、公知の方法も採用できる。例えば、上記のエポキシ樹脂組成物を補強基材に含浸し、加熱することにより得ることができる。含浸させるワニスの溶剤としては、メチルエチルケトン、アセトン、エチルセルソルブ、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられ、これらの溶剤はプリプレグ中に残存しないことが好ましい。なお、補強基材の種類としては、特に限定されないが、例えば、紙、ガラス布、ガラス不織布、アラミド布、液晶ポリマー等が挙げられる。エポキシ樹脂組成物と補強基材の割合も特に限定されないが、プリプレグ中の樹脂分の含有量は20〜80質量%であることが好ましい。
【0134】
上記のエポキシ樹脂組成物を用いた熱伝導性材料の製造方法としては、特に限定されず、公知の方法も採用できる。熱伝導性材料の製造方法の一例としては、以下の方法が挙げられる。熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂、硬化剤としてフェノールノボラック硬化剤、さらに熱伝導フィラーとしてグラファイト粉末を配合して均一に混練する。これに上記のエポキシ樹脂組成物を配合することにより熱伝導性材料を得ることができる。
【実施例】
【0135】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施形態をより具体的に説明するが、本実施形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0136】
以下の実施列及び比較例における各種物性の測定及び評価は次のようにして行った。
(1)エポキシ当量
1当量のエポキシ基を含むエポキシ樹脂の質量(g)であり、JIS K−7236に従って求めた。
【0137】
(2)平均粒径
測定する試料4mgを0.1質量%界面活性剤(三井サイテック社製、「エアロゾルOT−75」)のシクロヘキサン溶液32gに入れ、超音波洗浄器(本田電子社製、「MODEL W−211」)で5分間超音波照射することにより、溶液中に分散させた分散液を準備した。このときの超音波洗浄器内の水温は19±2℃に調整した。得られた分散液を一部取り、粒度分布測定装置(堀場製作所社製、粒度分布計「HORIBA LA−920」)にて粒度分布測定を行い、これに基づき平均粒径を求めた。
【0138】
(3)重量平均分子量
下記条件においてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を行うことにより、重量平均分子量を測定した。
カラム名:東ソー社製、「TSKgelG4000H」
移動相:100mMエチレンジアミンを含有するN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)
検出器:RI分子量マーカー:ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール
【0139】
(4)シェル(S)の表面の赤外線吸収特性
マイクロカプセル型エポキシ樹脂用硬化剤を配合したエポキシ樹脂組成物を、キシレンを用いて、エポキシ樹脂が無くなるまで洗浄と濾過を繰り返した後、メタノールを用いてエポキシ樹脂用硬化剤が無くなるまで洗浄と濾過を繰り返した。次にメタノールが無くなるまでシクロヘキサンで洗浄と濾過を繰り返した。その後、シクロヘキサンを濾別し、50℃以下の温度でシクロヘキサンを完全に除去乾燥して、マイクロカプセル型のエポキシ樹脂用硬化剤からシェル(S)を分離した。このようにして得られたシェル(S)を、フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光社製、「FT/IR−410」を使用し、吸光度を測定した。そして、波数1620〜1650cm-1の最高赤外線吸収強度Cx、波数1680〜1690cm-1の最高赤外線吸収強度Cy、波数1690〜1720cm-1の最高赤外線吸収強度Czから下記式(i)によりkを求めた。

k=Cx/(Cx+Cy+Cz)・・・(i)
【0140】
(5)シェル中のエステル結合の有無の判定
(4)と同様にして分離したシェルに対して、Bruker社製「DSX400(磁場:400MHz)」を使用し、観測測定核種13C、パルスプログラムCPSELTICS、パルス条件(繰り返し時間5秒、プロトンの90度パルス5.2マイクロ秒、コンタクト時間1ミリ秒)、マジックアングルスピニング5000Hzの条件で、C13核磁気共鳴スペクトルを測定した。メタクリル酸メチルポリマーのC13核磁気共鳴スペクトルをモデル化合物として、165〜175ppmに現れるエステル基のカルボニル炭素によるピーク高さと、28〜38ppmに現れるメチレン鎖によるピーク高さの比が、モデル化合物と比較して10分の1以下である場合、エステル基のカルボニル炭素がないと判定し、これに基づいてエステル結合の有無を判定した。
【0141】
(6)エポキシ樹脂用硬化剤の粉体安定性
エポキシ樹脂用硬化剤をメノウ乳鉢にて平均粒径が50〜200μmになるように粉砕し、30±5℃、相対湿度75〜80%の条件で貯蔵した。そして、保存時の状態を以下の基準に基づき粉体安定性を評価した。
◎:貯蔵開始後8日間ブロッキングが観察されなかった。
○:貯蔵開始後2日以上7日以内にブロッキングした。
△:貯蔵開始後5時間以上1日以内にブロッキングした。
×:粉砕できないか又は貯蔵開始後5時間以内にブロッキングした。
【0142】
(7)低温貯蔵安定性
エポキシ樹脂組成物を5℃で1週間保存した前後の粘度を測定し、その粘度上昇倍率を以下の基準に基づき低温貯蔵安定性を評価した。なお、粘度は、25℃でBM型粘度計(東機産業社製、「VISCOMETER BM」)を使用して測定した。
◎:2倍未満の場合。
○:2倍以上5倍未満の場合。
△:5倍以上10倍未満の場合。
×:保存後の粘度上昇率が10倍以上又はゲル化した。
【0143】
(8)貯蔵安定性
エポキシ樹脂組成物を40℃で1週間保存した前後の粘度を測定し、その粘度上昇倍率を以下の基準に基づき貯蔵安定性を評価した。なお、粘度は、25℃でBM型粘度計を使用して測定した。
◎:2倍未満の場合。
○:2倍以上5倍未満の場合。
△:5倍以上10倍未満の場合。
×:保存後の粘度上昇率が10倍以上又はゲル化した。
【0144】
(9)耐溶剤性
エポキシ樹脂組成物80質量部、トルエン15質量部、及びメチルイソブチルケトン(MIBK)5質量部を混合したサンプルを調製し、40℃で6時間加温し、加温後のサンプルの粘度を測定した。なお、粘度は、25℃でBM型粘度計を使用して測定した。
◎:200mPa・s以下の場合。
○:200〜1000mPa・sの場合。
△:1000〜20000mPa・sの場合。
×:20000〜2000000mPa・sの場合。
××:2000000mPa・s以上の場合。
【0145】
(10)短時間硬化性
示差走査熱量計(DSC;SII社製、「DSC220C」)のアルミニウム容器に、試料10mgを秤取り、170℃のホットプレートで5秒間加熱した後に急冷し、加熱前後のDSC発熱量の変化から反応率を算出し、以下の基準に基づき短時間硬化性を評価した。
◎:反応率が80%以上の場合。
○:60%以上80%未満の場合。
△:40%以上60%未満の場合。
×:40%未満の場合。
【0146】
(11)プロセス低汚染性
エポキシ樹脂組成物を180℃、5時間で硬化させる前後での重量減少量を評価した。硬化前全重量に対する重量減少量の比率(重量減少比率)を求め、以下の基準に基づきプロセス低汚染性を評価した。
◎:重量減少比率が0.5%未満の場合。
○:重量減少比率が0.5%以上1%未満の場合。
△:重量減少比率が1%以上2%未満の場合。
×:重量減少比率が2%以上の場合。
【0147】
(12)耐熱性
エポキシ樹脂組成物を180℃で5時間加熱した後のガラス転移温度(Tg)を測定して、耐熱性を評価した。ガラス転移温度は、試料10mgを、示差走査熱量計(DSC;SII社製、「DSC220C」)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で測定することにより求めた。
そして、以下の基準に基づき耐熱性を評価した。
◎:180℃で5時間硬化させた後のガラス転移温度が130℃以上の場合。
○:180℃で5時間硬化させた後のガラス転移温度が80℃以上130℃未満の場合。
△:180℃で5時間硬化させた後のガラス転移温度が50℃以上80℃未満の場合。
×:180℃で5時間硬化させた後のガラス転移温度が50℃未満の場合。
【0148】
(13)接着性
70μm厚の銅箔のマット面(幅10mm、長さ70mm)に、100μmのアプリケーターを用いてエポキシ樹脂組成物を塗布して、もう1枚の70μm厚の銅箔のマット面を、エポキシ樹脂組成物の塗布面と貼り合わせた後、180℃で5時間加熱して試料とした。その後、引張試験装置(島津製作所社製、「オートグラフAGS−H」)を用いて、ピール速度50mm/minの条件で剥離強度を測定し、以下の基準に基づき接着性を評価した。
◎:接着強度が5kgf/cm以上の場合。
○:接着強度が3kgf/cm以上4kgf/cm未満の場合。
△:接着強度が2kgf/cm以上3kgf/cm未満の場合。
×:接着強度が2kgf/cm未満の場合。
【0149】
(アミンアダクト1(AD−1)の製造)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量185g/当量、全塩素量1400ppm、以下「エポキシ樹脂e1−1」という。)1当量、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量470g/当量、全塩素量1300ppm、以下、「エポキシ樹脂e1−2」という。)(旭化成ケミカルズ社製、「AER6071」)1当量と、トリエチレンテトラミン2当量を、2−プロパノールとトルエンの混合溶媒中(2−プロパノール:トルエン=1:2(体積比)、樹脂分50wt%)で、80℃で反応させた。その後、減圧下で溶媒を留去して、アミンアダクト1(AD−1)を得た。得られたアミンアダクト1(AD−1)は、25℃で固体であり、トリエチレンテトラミンを0.3質量%含有していた。
【0150】
(アミンアダクト2(AD−2)の製造)
エポキシ樹脂e1−1を1.5当量と、2−エチル−4−メチルイミダゾール1当量(活性水素換算)とを、n−ブタノールとトルエンの混合溶媒中(2−ブタノール:トルエン=1:1(体積比)、樹脂分50質量%)で、80℃で反応させた。その後、減圧下で、2−エチル−4−メチルイミダゾールを、その含有量が10ppm未満になるまで溶媒と共に留去し、25℃で固体のアミンアダクトを得た。得られたアミンアダクト99.1質量部を150℃で溶融させ、これに0.9質量部の2−エチル−4−メチルイミダゾールを均一に混合し、アミンアダクト2(AD−2)を得た。アミンアダクト2(AD−2)の重量平均分子量をGPCで測定した結果、ポリエチレングリコール換算での重量平均分子量は2200であった。
【0151】
[実施例1](エポキシ樹脂用硬化剤(C−1)の製造)
攪拌装置、温度計、窒素ガス導入管及びジムロートを接続した4つ口フラスコに、3−キヌクリジノール5.041g(0.0397モル)、メチルエチルケトン32.0g(0.444モル)を加え、40℃のオイルバスにつけた。これを攪拌しながら、メチルエチルケトン4.96g(0.0688モル)に溶解させたメタンジフェニルジイソシアネート4.96g(0.0198モル)を、15分かけて滴下した。2時間攪拌後、反応液の赤外吸収分析(IR測定;日本分光社製、フーリエ変換赤外分光光度計「FT/IR−4010」)からメタンジフェニルジイソシアネートのイソシアネートの吸収の消失を確認するとともに、反応液のガスクロマトグラフィーによる測定(GC測定;島津社製、「GC−17A」)からイソシアネートのピークの消失を確認した後、反応を停止させた。そして、エバポレータを用いて反応液から溶剤を留去し、さらに真空乾燥機を用いて20mmHg、140℃で5時間乾燥することで、白色固体9.8gのエポキシ樹脂用硬化剤(C−1)を得た。
【0152】
得られたエポキシ樹脂用硬化剤(C−1)の1H−NMRスペクトル(溶媒:重ジメチルスルホキシド(重DMSO))から、エポキシ樹脂用硬化剤(C−1)は下記式(A)で表される化合物Aであることを確認した。1H−NMRスペクトルにおける化合物Aの構造同定の結果を表1に示し、その1H−NMRチャートを図1に示す。なお、3.30ppmは水のピークであり、2.40ppmはジメチルスルホキシドのピークである。
【化23】

【0153】
【表1】

【0154】
[実施例2](エポキシ樹脂用硬化剤(C−2)の製造)
攪拌装置、温度計、窒素ガス導入管及びジムロートを接続した4つ口フラスコに、3−キヌクリジノール4.88g(0.0384モル)、メチルエチルケトン31.0g(0.430モル)を加え、40℃のオイルバスにつけた。これを攪拌しながら、メチルエチルケトン4.58g(0.0635モル)に溶解させたフェニルイソシアネート4.58g(0.0384モル)を15分かけて滴下した。2時間攪拌後、反応液の赤外吸収分析(IR測定)からフェニルイソシアネートのイソシアネートの吸収の消失を確認するとともに、反応液のガスクロマトグラフィーの測定(GC測定)からフェニルイソシアネートのピークの消失を確認した後、反応を停止させた。そして、エバポレータを用いて反応液から溶剤を留去し、さらに真空乾燥機を用いて20mmHg、140℃で5時間乾燥することで、白色固体9.72gのエポキシ樹脂用硬化剤(C−2)を得た。
【0155】
得られたエポキシ樹脂用硬化剤(C−2)の1H−NMRスペクトル(溶媒:重DMSO)から、エポキシ樹脂用硬化剤(C−2)は下記式(B)で表される化合物Bであることを確認した。1H−NMRスペクトルにおける化合物Bの構造同定の結果を表2に示し、その1H−NMRチャートを図2に示す。なお、3.30ppmは水のピークであり、2.40ppmはジメチルスルホキシドのピークである。
【化24】

【0156】
【表2】

【0157】
[実施例3](エポキシ樹脂用硬化剤(C−3)の製造)
攪拌装置、温度計、窒素ガス導入管及びジムロートを接続した4つ口フラスコに、3−キヌクリジノール4.88g(0.0384モル)、メチルエチルケトン31.0g(0.430モル)を加え、40℃のオイルバスにつけた。これを攪拌しながら、メチルエチルケトン5.11g(0.0709モル)に溶解させたベンジルイソシアネート5.11g(0.0384モル)を15分かけて滴下した。滴下後に60℃まで加温し、4時間攪拌後、反応液の赤外吸収分析(IR測定)からベンジルイソシアネートのイソシアネートの吸収の消失を確認するとともに、反応液のガスクロマトグラフィーの測定(GC測定)からイソシアネートのピークの消失を確認した後、反応を停止させた。そして、エバポレータを用いて反応液から溶剤を留去し、さらに真空乾燥機を用いて20mmHg、140℃で5時間乾燥することで、白色固体9.64gのエポキシ樹脂用硬化剤(C−3)を得た。
【0158】
得られたエポキシ樹脂用硬化剤(C−3)の1H−NMRスペクトル(溶媒:重DMSO)から、エポキシ樹脂用硬化剤(C−3)は下記式(C)で表される化合物であることを確認した。1H−NMRスペクトルにおける化合物Cの構造同定の結果を表3に示す。1H−NMRスペクトルにおける化合物Cの構造同定の結果を表3に示し、その1H−NMRチャートを図3に示す。なお、3.30ppmは水、2.40ppmはジメチルスルホキシドのピークである。
【化25】

【0159】
【表3】

【0160】
[実施例4](エポキシ樹脂用硬化剤(C−4)の製造)
攪拌装置、温度計、窒素ガス導入管及びジムロートを接続した4つ口フラスコに、3−キヌクリジノール5.09g(0.0400モル)、メチルエチルケトン32.3g(0.448モル)を加え、40℃のオイルバスにつけた。これを攪拌しながら、メチルエチルケトン4.96g(0.0688モル)に溶解させたシクロヘキシルイソシアネート4.96g(0.0400モル)を15分かけて滴下した。さらに60℃まで加温した後に5日間攪拌後、反応液の赤外吸収分析(IR測定)からシクロヘキシルイソシアネートのイソシアネートの吸収の消失を確認するとともに、反応液のガスクロマトグラフィーの測定(GC測定)からイソシアネートのピークの消失を確認した後、反応を停止させた。そして、エバポレータを用いて反応液から溶剤を留去し、さらに真空乾燥機を用いて20mmHg、140℃で5時間乾燥することで、9.34gのエポキシ樹脂用硬化剤(C−4)を得た。
【0161】
得られたエポキシ樹脂用硬化剤(C−4)の1H−NMRスペクトル(溶媒:重DMSO)から、エポキシ樹脂用硬化剤(C−3)は下記式(D)で表される化合物であることを確認した。1H−NMRスペクトルにおける化合物Dの構造同定の結果を表4に示し、その1H−NMRチャートを図4に示す。なお、3.30ppmは水、2.40ppmはジメチルスルホキシドのピークである。
【化26】

【0162】
【表4】

【0163】
[実施例5](エポキシ樹脂用硬化剤(C−5)の製造)
攪拌装置、温度計、窒素ガス導入管及びジムロートを接続した4つ口フラスコに、3−キヌクリジノール5.80g(0.0457モル)、メチルエチルケトン36.9g(0.517モル)を加え、40℃のオイルバスにつけた。これを攪拌しながら、メチルエチルケトン4.25g(0.0590モル)に溶解させたキシリレンジイソシアネート4.25g(0.0226モル)を15分かけて滴下した。2時間攪拌後、反応液の赤外吸収分析(IR測定)からキシリレンジイソシアネートのイソシアネートの吸収の消失を確認するとともに、反応液のガスクロマトグラフィーの測定(GC測定)からイソシアネートのピークの消失を確認した後、反応を停止させた。そして、エバポレータを用いて反応液から溶剤を留去し、さらに真空乾燥機を用いて20mmHg、140℃で5時間乾燥することで、固体9.89gのエポキシ樹脂用硬化剤(C−5)を得た。
【0164】
得られたエポキシ樹脂用硬化剤(C−5)の1H−NMRスペクトル(溶媒:重DMSO)から、エポキシ樹脂用硬化剤(C−5)は式(E)で表される化合物Eであることを確認した。1H−NMRスペクトルにおける化合物Eの構造同定の結果を表5に示し、その1H−NMRチャートを図5に示す。なお、3.30ppmは水のピークであり、2.40ppmはジメチルスルホキシドのピークである。
【化27】

【0165】
【表5】

【0166】
[実施例6](エポキシ樹脂用硬化剤(C−6)の製造)
セパラブルフラスコにアミンアダクトAD−1を20質量部とエポキシ樹脂用硬化剤(C−5)80質量部を加え、150℃に加熱溶融させて2時間撹拌し、均一になったことを確認した後に室温まで冷却して、エポキシ樹脂用硬化剤(C−6)を95質量部得た。
【0167】
[実施例7](エポキシ樹脂用硬化剤(C−7)の製造)
攪拌装置、温度計、窒素ガス導入管及びジムロートを接続した4つ口フラスコに、3−キヌクリジノール5.85g(46ミリモル)、テトラヒドロフラン64g、水素化ナトリウム1.12(46ミリモル)を加え、さらにヨウ化テトラブチルアンモニウム0.17gを加え20℃のオイルバスにつけて1時間攪拌を行った。これに、ベンジルブロミド7.93g(46ミリモル)を15分かけて滴下した後、20℃で5時間攪拌した。続いて、メタノール10gを添加してさらに1時間撹拌した後、溶媒を留去し、酢酸エチルを加えて蒸留水で洗浄をくり返した。使用した洗浄水が中性になったことを確認した後、溶媒を留去して、下記式(F)で表されるエポキシ樹脂用硬化剤(C−7)8.8gを得た。
【化28】

【0168】
[実施例8](エポキシ樹脂用硬化剤(C−8)の製造)
セパラブルフラスコにアミンアダクトAD−2を20質量部とエポキシ樹脂用硬化剤(C−7)80質量部を加え、150℃に加熱溶融させ2時間撹拌し、均一になったことを確認した後に室温まで冷却してエポキシ樹脂用硬化剤(C−8)を得た。
【0169】
[実施例9](エポキシ樹脂用硬化剤(C−9)の製造)
攪拌装置、温度計、窒素ガス導入管及びジムロートを接続した4つ口フラスコに、3−アミノキヌクリジン5.79g(0.0459モル)、トルエン36.8g(0.399モル)を加え、40℃のオイルバスにつけた。これを攪拌しながら、トルエン4.27g(0.0463モル)に溶解させたキシリレンジイソシアネート4.27g(0.0227モル)を15分かけて滴下した。1時間攪拌後、反応液の赤外吸収分析(IR測定)からキシリレンジイソシアネートのイソシアネートの吸収の消失を確認するとともに、反応液のガスクロマトグラフィーの測定(GC測定)からイソシアネートのピークの消失を確認した後、反応を停止させた。そして、エバポレータを用いて反応液から溶剤を留去し、さらに真空乾燥機を用いて20mmHg、140℃で5時間乾燥することで、白色固体9.27gのエポキシ樹脂用硬化剤(C−9)を得た。
【0170】
得られたエポキシ樹脂用硬化剤(C−9)の1H−NMRスペクトル(溶媒:重DMSO)から下記式(G)で表される化合物Gであることを確認した。1H−NMRスペクトルにおける化合物Gの構造同定の結果を表6に示し、その1H−NMRチャートを図6に示す。なお、3.30ppmは水のピークであり、2.40ppmはジメチルスルホキシドのピークである。
【化29】

【0171】
【表6】

【0172】
[実施例10](エポキシ樹脂用硬化剤(C−10)の製造)
攪拌装置、温度計、窒素ガス導入管及びジムロートを接続した4つ口フラスコに、3−キヌクリジノール5.8g(0.0457モル)、メチルエチルケトン36.9g、トリエチルアミン4.6g(0.0457モル)を加え、40℃のオイルバスにつけて0.5時間攪拌を行った。これに安息香酸クロライド5.7g(0.0457モル)を15分かけて滴下した後、4時間攪拌した。続いて、メタノールを加えた後溶媒を留去し、酢酸エチルを加えて蒸留水で洗浄をくり返した。使用した洗浄水が中性になったことを確認した後、溶媒を留去して下記式(H)で表されるエポキシ樹脂用硬化剤(C−10)10.2gを得た。
【化30】

【0173】
[実施例11](エポキシ樹脂用硬化剤(C−11)の製造)
攪拌装置、温度計、窒素ガス導入管及びジムロートを接続した4つ口フラスコに、3−アミノキヌクリジン5.79g(0.0459モル)、トルエン36.8g(0.399モル)を加え、40℃のオイルバスにつけた。これを攪拌しながら、トルエン4.27g(0.0463モル)に溶解させたブチルイソシアネート4.55g(0.0459モル)を15分かけて滴下した。1時間攪拌後、反応液の赤外吸収分析(IR測定)からブチルイソシアネートのイソシアネートの吸収の消失を確認するとともに、反応液のガスクロマトグラフィーの測定(GC測定)からイソシアネートのピークの消失を確認した後、反応を停止させた。そして、エバポレータを用いて反応液から溶剤を留去し、さらに真空乾燥機を用いて20mmHg、140℃で5時間乾燥することで、粘調な液体10.11gのエポキシ樹脂用硬化剤(C−11)を得た。
【0174】
得られたエポキシ樹脂用硬化剤(C−11)の1H−NMRスペクトル(溶媒:重DMSO)から下記式(I)で表される化合物Iであることを確認した。1H−NMRスペクトルにおける化合物Iの構造同定の結果を表7に示し、その1H−NMRチャートを図7に示す。なお、3.30ppmは水のピークであり、2.40ppmはジメチルスルホキシドのピークである。
【化31】

【0175】
【表7】

【0176】
[実施例12](エポキシ樹脂用硬化剤(C−12)の製造)
セパラブルフラスコにアミンアダクトAD−2を20質量部とエポキシ樹脂用硬化剤(C−11)80質量部を加え、150℃に加熱溶融させ2時間撹拌し、均一になったことを確認した後に室温まで冷却してエポキシ樹脂用硬化剤(C−12)を得た。
【0177】
[実施例13](エポキシ樹脂用硬化剤(C−13)の製造)
攪拌装置、温度計、窒素ガス導入管及びジムロートを接続した4つ口フラスコに、3−アミノキヌクリジン5.79g(0.0459モル)、トルエン36.8g(0.399モル)を加え、40℃のオイルバスにつけた。これを攪拌しながら、トルエン4.27g(0.0463モル)に溶解させたシクロヘキシルイソシアネート5.74g(0.0459モル)を15分かけて滴下した。1時間攪拌後、反応液の赤外吸収分析(IR測定)からシクロヘキシルイソシアネートのイソシアネートの吸収の消失を確認するとともに、反応液のガスクロマトグラフィーの測定(GC測定)からイソシアネートのピークの消失を確認した後、反応を停止させた。そして、エバポレータを用いて反応液から溶剤を留去し、さらに真空乾燥機を用いて20mmHg、140℃で5時間乾燥することで、白色固体11.07gのエポキシ樹脂用硬化剤(C−13)を得た。
【0178】
得られたエポキシ樹脂用硬化剤(C−13)の1H−NMRスペクトル(溶媒:重DMSO)から下記式(J)で表される化合物Jであることを確認した。1H−NMRスペクトルにおける化合物Jの構造同定の結果を表8に示し、その1H−NMRチャートを図8に示す。なお、3.30ppmは水のピークであり、2.40ppmはジメチルスルホキシドのピークである。
【化32】

【0179】
【表8】

【0180】
[実施例14](エポキシ樹脂用硬化剤(C−14)の製造)
セパラブルフラスコにアミンアダクトAD−2を20質量部とエポキシ樹脂用硬化剤(C−13)80質量部を加え、150℃に加熱溶融させ2時間撹拌し、均一になったことを確認した後に室温まで冷却してエポキシ樹脂用硬化剤(C−14)を得た。
【0181】
<エポキシ樹脂組成物の作製>
[実施例15]
エポキシ樹脂用硬化剤(C−1)をジェットミル(アイシン産業社製、「ナノジェットマイザーNJ−30型」)を用いて粉砕して平均粒径2.5μmの粉体を得た。ノンバブリングニーダー用プラスチック容器に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量189g/eq、全塩素量1200ppm、ジオール末端不純物成分2.2質量%:以下「エポキシ樹脂E−1」という。)200質量部に、上記エポキシ樹脂用硬化剤(C−1)の粉体100質量部を添加して、ノンバブリングニーダーで均一に分散させてエポキシ樹脂組成物1を得た。得られたエポキシ樹脂組成物1の特性を表9に示した。
【0182】
[実施例16]
エポキシ樹脂用硬化剤(C−1)を粉砕して平均粒径2.5μmの粉体を得た。200質量部のエポキシ樹脂E−1に、上記エポキシ樹脂用硬化剤(C−1)の粉体100質量部と、水1.5質量部と、トリレンジイソシアネート(TDI)5質量部を加えて、40℃で3時間攪拌してエポキシ樹脂組成物2を得た。得られたエポキシ樹脂組成物2の特性を表9に示した。
【0183】
[実施例17〜22、24、25]
表9に示すエポキシ樹脂用硬化剤を用いた以外は実施例16と同様にしてエポキシ樹脂組成物3〜8、10、11を得た。得られたエポキシ樹脂組成物3〜8、10、11の特性を表9に示した。
【0184】
[実施例23]
表1に示すエポキシ樹脂用硬化剤を用いた以外は実施例15と同様にしてエポキシ樹脂組成物9を得た。得られたエポキシ樹脂組成物9の特性を表9に示した。
【0185】
[比較例1]
平均粒径2.8μmの3−キヌクリジノールを用いた以外は実施例15と同様にしてエポキシ樹脂組成物12を得た。得られたエポキシ樹脂組成物12の特性を表9に示した。
【0186】
[比較例2]
平均粒径3.3μmのキヌクリジンを用いた以外は実施例15と同様にしてエポキシ樹脂組成物13を得た。得られたエポキシ樹脂組成物13の特性を表9に示した。
【0187】
[比較例3]
エポキシ樹脂用硬化剤(C−1)の代わりに平均粒径2.2μmのAD−2を用いた以外は実施例16と同様にしてエポキシ樹脂組成物14を得た。得られたエポキシ樹脂組成物14の特性を表9に示した。
【0188】
[比較例4]
平均粒径3.3μmの1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)を用いた以外は実施例15と同様にしてエポキシ樹脂組成物15を得た。得られたエポキシ樹脂組成物15の特性を表9に示した。
【0189】
【表9】

【0190】
<導電性フィルムの作製>
[実施例26]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭化成ケミカルズ社製、「AER−2603」)15質量部、フェノールノボラック樹脂(昭和高分子社製、「BRG−558」)6質量部、及びカルボキシル含有アクリロニトリルブタジエンゴム(日本ゼオン社製、「ニポール1072」、質量平均分子量30万)4質量部を、メチルエチルケトンとブチルセロソルブアセテートの1:1(質量比)混合溶剤20質量部に溶解させた。この溶液に銀粉末74質量部を混合し、さらに三本ロールにより混練した。これに実施例16で得られたエポキシ樹脂組成物2を30質量部加えて、さらに均一に混合させて、導電性接着剤を得た。得られた導電性接着剤を、厚さ40μmのポリプロピレンフィルム上にキャストして、80℃で60分間、乾燥半硬化させ、厚さ35μmの導電性接着剤層を有する導電性フィルムを得た。そして、転写装置を用い、80℃のヒートブロック上でシリコンウェハーの裏面に、導電性フィルムの導電性接着剤層を転写させた。さらに、シリコンウェハーをフルダイシングし、ヒートブロック上でリードフレームに導電性接着剤付半導体チップを、200℃、2分間の条件で接着硬化させると、チップの導電性に問題がないことが確認された。
【0191】
<導電性ペーストの作製>
[実施例27]
100質量部のエポキシ樹脂(E−1)に、実施例16で得られたエポキシ樹脂組成物2を30質量部、平均粒径が14μm、アスペクト比が11の鱗片状銀粉(徳力化学研究所社製)150g及び平均粒子径が10μm、アスペクト比が9の鱗片状ニッケル粉(高純度化学社製、「NI110104」)60質量部を添加し、均一になるまで撹拌後、三本ロールで均一に分散して導電性ペーストを得た。得られた導電性ペーストを、厚さ1.4mmのポリイミドフィルム基板上にスクリーン印刷した後、200℃で1時間、加熱硬化させた。得られた配線板の導電性を測定し、導電性ペーストとして有用なものであることが確認された。
【0192】
<異方導電性フィルムの作製>
[実施例28]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭化成ケミカルズ社製、「AER6097」、エポキシ当量42500g/eq)10質量部、フェノキシ樹脂(東都化成社製、「YP−50」)30質量部を、酢酸エチル30質量部に溶解させ、これに実施例16で得られたエポキシ樹脂組成物2を30質量部、平均粒径8μmの導電粒子(金メッキを施した架橋ポリスチレン)5質量部を加え均一に混合し、一液性エポキシ樹脂組成物を得た。これをポリエステルフィルム上に塗布し、70℃で酢酸エチルを乾燥除去し、異方導電性フィルムを得た。得られた異方導電性フィルムをICチップと電極間に挟み、180℃のホットプレート上で30kg/cm2、20秒間熱圧着を行い、電極間が接合したところ、導通がとれ、異方導電性材料として有用であることが確認された。
【0193】
<異方導電性フィルムの作製>
[比較例5]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭化成ケミカルズ社製、「AER6097」、エポキシ当量42500g/等量)10質量部、フェノキシ樹脂(東都化成社製、「YP−50」)30質量部を酢酸エチル30質量部に溶解させ、これに比較例2で得られたエポキシ樹脂組成物13を30質量部、平均粒径8μmの導電粒子(金メッキを施した架橋ポリスチレン)5質量部を加え均一に混合し、一液性エポキシ樹脂組成物を得た。これをポリエステルフィルム上に塗布し、70℃で酢酸エチルを乾燥除去し、異方導電性フィルムを得た。得られた異方導電性フィルムをICチップと電極間に挟み、180℃のホットプレート上で30kg/cm2、20秒間熱圧着を行ったところ、50%のICチップで電極間に接合しない箇所があり、導通がとれなかった。また、接合のとれたICチップを85℃、85RH%の環境試験を行った後に動作確認を行うと、初期状態で正常動作したICチップの50%に導通がとれなかった。チップを剥離すると電極に腐食が観察された。以上のことから、比較例2のエポキシ樹脂組成物13を用いると異方導電性材料として有用なものとはならないことが分かった。
【0194】
<絶縁性ペーストの作製>
[実施例25]
ビスフェノールF型エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ社製、「YL983U」)100質量部、ジシアンジアミド4質量部、シリカ粉末100質量部、希釈剤としてフェニルグリシジルエーテル10質量部、及び有機リン酸エステル(日本化薬社製、「PM−2」)1質量部を十分混合した後、三本ロールで混練した。さらに、実施例12で得られたエポキシ樹脂組成物2を30質量部加えて、均一に混合し、減圧脱泡及び遠心脱泡処理を行い、絶縁性ペーストを作製した。得られた絶縁性ペーストを200℃で1時間加熱硬化させることで、半導体チップを樹脂基板上に接着させた。その結果、絶縁性ペーストとして有用であることが分かった。
【0195】
<絶縁性フィルムの作製>
[実施例29]
フェノキシ樹脂(東都化成社製、「YP−50」)180質量部、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量200g/等量、日本化薬社製、「EOCN−1020−80」)40質量部、球状シリカ(平均粒径:2μm、アドマテック社製、「SE−5101」)300質量部、メチルエチルケトン200質量部を調合し均一分散させた後、これに実施例16で得られたエポキシ樹脂組成物2を250質量部加えて、さらに攪拌・混合してエポキシ樹脂組成物を含む溶液を得た。得られた溶液を、離型処理を施したポリエチレンテレフタレート上に、乾燥後の厚さが50μmになるように塗布し、熱風循環式乾燥機の中で加熱乾燥を行い、半導体接着用の絶縁性フィルムを得た。得られた半導体接着用の絶縁性フィルムを5インチのウェハサイズよりも大きく支持基材ごと切断し、バンプ電極付きウェハの電極部側に樹脂フィルムを合わせた。次に、離型処理付き支持基材を上に挟み、70℃、1MPa、加圧時間10秒で真空中加熱圧着し、接着樹脂付きウェハを得た。続いて、ダイシングソー(DISCO社製、「DAD−2H6M」)を用いてスピンドル回転数30,000rpm、カッティングスピード20mm/secで切断分離した個片の接着フィルム付き半導体素子の樹脂剥がれがないことを観察した。得られたフィルムは絶縁性フィルムとして有用なものであった。
【0196】
<アンダーフィル材の作製>
[実施例30]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭化成ケミカルズ製、「AER2603」)50質量部、硬化剤としてメチル無水フタル酸を主成分とする「HN−2200」(日立化成工業社製)40質量部、及び平均粒径5μmの球状溶融シリカ60質量部を、均一に分散、配合した。これに実施例16で得られたエポキシ樹脂組成物2を5質量部加えて、エポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物をシリンジに充填し、プリント配線基板上に半田接合された10mm四方のフリップチップとプリント基板の間の20ミクロンギャップに室温で1時間かけて浸透させ、150℃、5時間で硬化させ、封止した。得られたチップは85℃、85RH%500時間の環境試験を行っても動作に異常がなかった。試験後、断面のSEM観察を行うと、チップの配線間に封止材が充填されていることが確認された。
【0197】
<熱伝導性ペーストの作製>
[実施例31]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭化成ケミカルズ社製、「AER2603」)100質量部、エポキシ樹脂用硬化剤としてフェノールノボラック樹脂(荒川化学工業社製、「タマノル759」)のメチルエチルケトン50%溶液を40質量部、鱗片状グラファイト粉末(ユニオンカーバイト社製、HOPG)15質量部を均一になるまで攪拌後、3本ロールで均一に分散させた。これに実施例16で得られたエポキシ樹脂組成物2を15質量部加えて、十分、攪拌して混合した。得られた導電ペーストを用いてCuリードフレーム上に半導体チップ(1.5mm角、厚み0.8mm)をマウントし、かつ、150℃で、30分間加熱硬化させて評価用サンプルを得た。得られたサンプルの熱伝導性についてレーザフラッシュ法により測定した。すなわち、測定した熱拡散率α、比熱Cp、密度σから、以下の式、K=α×Cp×σより熱伝導率Kを求めた。その結果、Kが5×10-3Cal/cm・sec・℃以上あり、熱伝導性ペーストとして有用なものであることが分かった。
【0198】
以上より、本実施例によれば、本実施形態のエポキシ樹脂用硬化剤及びこれを配合したエポキシ樹脂組成物は、優れた短時間硬化性、耐溶剤性、貯蔵安定性、耐湿性を有し、本実施形態のエポキシ樹脂用硬化剤を配合した一液性エポキシ樹脂組成物も、優れた硬化性を有していることが確認された。さらに、これらのエポキシ樹脂組成物及び一液性エポキシ樹脂組成物は、導電性フィルム、導電性ペースト、異方導電性フィルム、異方導電性ペースト、絶縁性ペースト、絶縁性フィルム、封止剤、アンダーフィル材、コーティング材、塗料組成物、プリプレグ、熱伝導性ペースト等として有用であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0199】
本実施形態のエポキシ樹脂用硬化剤、それを含むエポキシ樹脂組成物及び一液性エシポキシ樹脂組成物及びは、接着材料、導電材料、絶縁材料、封止材料、コーティング材料、塗料組成物、プリプレグ、構造用接着剤、熱伝導性材料等としての産業上利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物を含むエポキシ樹脂用硬化剤。
【化1】

(式中、Pは、2価の有機基を表し、Qはn価の炭素数1〜15以下の有機基を表し、nは、1〜10の整数である。)
【請求項2】
前記Pが、ウレタン結合、ウレア結合、エステル結合及びエーテル結合からなる群より選ばれるいずれか1つである請求項1に記載のエポキシ樹脂硬化剤。
【請求項3】
前記化合物は、前記式(1)において前記nが1であり、かつ前記Qが下記式(2)、式(3)及び式(4)からなる群より選ばれるいずれかで表される化合物;又は、前記式(1)において前記nが2であり、かつ前記Qが下記式(5)、式(6)及び式(7)からなる群より選ばれるいずれかで表される化合物である、請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂硬化剤。
【化2】

(Rは炭素と水素からなる有機基で炭素数が1〜10の整数である。)
【化3】

(式中、m1は、0〜10の整数である。)
【化4】

(式中、m2は、0〜10の整数である。)
【化5】

(式中、m3、m4及びm5は、各々独立して、0〜10の整数である。)
【化6】

(式中、m6及びm7は、各々独立して、0〜10の整数である。)
【化7】

(式中、m8及びm9は、各々独立して、0〜10の整数である。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のエポキシ樹脂用硬化剤をシェルで被覆したマイクロカプセル型エポキシ樹脂用硬化剤。
【請求項5】
下記式(a)、式(b)、式(c)、式(d)及び式(e)からなる群より選ばれるいずれかで表される化合物。
【化8】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−53228(P2013−53228A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192084(P2011−192084)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】