説明

エポキシ樹脂組成物と接着剤

【課題】 電子・電気部品等の接着に有用な、アミン系硬化剤を配合したエポキシ樹脂組成物と、これを主成分とする接着剤、この接着剤により接着された電子・電気部品の提供。
【解決手段】 必須成分として下記の成分を組成物全体量の60質量%以上を含有するエポキシ樹脂組成物とする。 (A)常温で液状のエポキシ樹脂 (B)無機充填材 (C)次式


(式中のnは繰返し単位数を示す。)で表わされるオリゴマージアミン硬化剤

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液状のエポキシ樹脂組成物とこれを主成分として、電子・電気部品等の接着に有用な接着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体装置をはじめとする電子・電気部品とこれらを組込んだ機器の分野においては、小型化、薄型化とともに、動作の高速性、高密度実装等への傾向が強まり、これらの電子・電気部品や機器の構成に用いられている樹脂組成物においてもより高性能化、高信頼性への対応が求められている。
【0003】
従来より電子・電気部品やそれらの機器に用いられる樹脂組成物としては、たとえば半導体チップの封止材、半導体装置の注型材、導電性ペースト、そして接着剤等の様々な用途、目的のものが知られているが、近年の小型化、薄型化、そして高機能化にともなって、充填性の良好な、常温で液状のエポキシ樹脂の組成物が注目されている。そして、その用途、目的に応じた、液状のエポキシ樹脂組成物の成分組成についての検討が進められている(たとえば特許文献1−6参照)。
【0004】
ただ、常温で液状のエポキシ樹脂の組成物の場合には、使用前の経時的変化によって硬化が進むと実際には使用できないことになることから、いわゆるポットライフをできるだけ長くすることが共通した課題になっている。ところが、一方では、このようなポットライフを延長しようとすることは、使用時における不充分な硬化で、密着性、耐湿性、耐熱性等の硬化特性を低下させかねないことが懸念されることになる。このため、ポットライフを左右する要因の一つとしての硬化剤、硬化助剤の種類や配合割合が、エポキシ樹脂との組合わせにおいて様々な観点より検討されている。たとえば、前記の特許文献1−6においても、硬化剤としての各種のアミン系化合物が提案されている。
【0005】
しかしながら、現状においては、たとえばセラミックス基板と半導体チップとの密着の場合のように、電子・電気部品等の接着に用いられることができ、ポットライフの延長とともに、硬化後の密着性においても実用的に満足することのできる常温で液状のエポキシ樹脂組成物は依然として実現されていない。実際に、たとえば従来のアミン系硬化剤を配合したものでは、ポットライフはたかだか72時間までが一般的である。
【特許文献1】特表2004−515565号公報
【特許文献2】特開平6−248059号公報
【特許文献3】特開2002−128866号公報
【特許文献4】特開2003−119251号公報
【特許文献5】特開2001−270976号公報
【特許文献6】特開2002−284849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のとおりの背景から、電子・電気部品等の接着においても有用な、ポットライフの延長が可能であって、しかも密着性という硬化性能を良好なものとすることのできる、アミン系硬化剤を配合した、常温で液状の、新しいエポキシ樹脂組成物と、これを主成分とする接着剤、さらにはこの接着剤により接着された電子・電気部品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエポキシ樹脂組成物は以下のことを特徴としている。
【0008】
第1:必須成分として下記の成分を組成物全体量の60質量%以上を含有する。
【0009】
(A)常温で液状のエポキシ樹脂
(B)無機充填材
(C)次式
【0010】
【化1】

(式中のnは繰返し単位数を示す。)
で表わされるオリゴマージアミン硬化剤
第2:上記組成物において、(C)オリゴマージアミン硬化剤において、n=3〜4の範囲のものが50モル%以上を含めている。
【0011】
第3:(C)オリゴマージアミン硬化剤は、その(A)常温で液状のエポキシ樹脂に対する当量比(C/A)が、0.6〜1.4の範囲内であって、組成物全体量において10〜30質量%の範囲内で含有されている。
【0012】
そして、本発明は、上記いずれかのエポキシ樹脂組成物を主成分としている接着剤と、この接着剤をもって接着されている電子・電気部品も提供する。
【発明の効果】
【0013】
上記第1の発明によれば、特有の化学構造を有するオリゴマージアミン硬化剤を必須成分として配合することで、常温で液状であることによって充填性、作業性が良好なエポキシ樹脂組成物として、電子・電気部品等の接着においても有用であって、ポットライフの大幅な延長が可能とされ、しかも密着性という硬化性能も顕著に良好なものとすることができる。
【0014】
オリゴマージアミン硬化剤として、より低分子量のものを主成分とする第2の発明、そしてオリゴマージアミン硬化剤の配合量を特定範囲とする第3の発明によれば、上記のとおりの効果は、確実に、安定して、さらに顕著に実現される。
【0015】
そして、第4および第5の発明によって、優れた性能の接着剤と、これを用いた電子・電気部品が実現されることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、常温で液状のエポキシ樹脂の配合を必須としている。ここで、「常温」とは、通常、5℃〜28℃の範囲として考慮される。もちろん上下に若干の温度幅が考慮されてよい。また、「液状」とは流動性を有していることを意味し、固体状とは区別される。
【0017】
このような常温で液状のエポキシ樹脂としては各種のものであってよく、たとえば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン環含有エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格を有するジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、脂肪族系エポキシ樹脂、トリグリジルイソシアヌレート等が挙げられ、これらの中から1種のみまたは2種以上選んで使用できる。
【0018】
これらの中でもビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン環含有エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂が粘度と硬化物物性の点から特に好ましい。
【0019】
多官能エポキシ樹脂は下記例に示すような化合物がある。官能基数は3もしくは4が、粘度や硬化性の面で好ましい。また、脂環型エポキシ樹脂やアミン型エポキシ樹脂の3官能、4官能タイプでも問題はない。
【0020】
そして、本発明のエポキシ樹脂組成物においては、必須成分として前記〔化1〕の式で表わされるオリゴマージアミン硬化剤が配合される。この一般式においては、オリゴマージアミン構造を有していることからも理解されるように、繰り返し単位数nについては、一般的には12以下であることが考慮される。より好ましくはnは8以下で、さらに好ましくは低分子量範囲にある3〜4の範囲である。
【0021】
このようなオリゴマージアミン硬化剤は、アミノ安息香酸とポリテトラメチルジオールとのエステル化反応によって容易に合成されるものであって、市販品としても利用することができる。このオリゴマージアミン硬化剤は、繰り返し単位数nが複数種の混合状態にあるものとして利用することができるが、nが3〜4の範囲の低分子量のオリゴマージアミン硬化剤が、全体の10モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらには80モル%以上であるものが好適に考慮される。市販品としては、nが3〜4で、分子量440〜500(CAS No.54667−43−5)のものが、エアープロダクツジャパン株式会社の「VERSALINK P−250」として利用可能である。また、より分子量の大きい「P−650」等も利用可能である。ただ、上記の繰り返し単位数nが大きくなり、オリゴマーの分子量が大きくなるに従って、硬化性、密着性が低下する傾向にある。
【0022】
以上のような(C)オリゴマージアミン硬化剤は、(A)常温で液状のエポキシ樹脂に対する当量比(C/A)が、0.6〜1.4の範囲内であって、組成物全体量において10〜30質量%の範囲内で含有されていることが望ましい。当量比が0.6未満であると、硬化しにくくなったり、硬化物の耐熱性が低下したり、硬化物の強度が低下したりするので好ましくない。また、当量比が1.4よりも多くなると、硬化物の耐熱性が低下したり、硬化後の接着強度が低下したり、硬化物の吸湿率が高くなるなどの欠点が発現してくるので好ましくない。また、特に好ましいエポキシ樹脂に対する硬化剤の当量比は、0.75〜1.00の範囲である。
【0023】
また、信頼性の点からNaイオンやClイオン、Brイオン等の不純物が出来るだけ少ないエポキシ樹脂及び硬化剤を使用する方が好ましい。
【0024】
組成物全体量に対する割合が10質量%未満の場合には硬化しにくくなり、30質量%を超える場合には、上記同様に耐熱性や接着強度の低下が生じるようになる。
【0025】
本発明においては上記のとおりのオリゴマージアミン硬化剤のみを用いることでよいが、所望であれば他の硬化剤や硬化促進剤を併用してもよい。ただ、これらは、オリゴマージアミン硬化剤との質量比において1/2以下にすることが望ましく、組成物全体量に占める硬化剤、硬化助剤の合計量の割合は、上記のオリゴマージアミン硬化剤の場合の10〜30質量%の範囲内とすることが好ましい。たとえば、併用される硬化剤、硬化助剤としては、酸無水物、フェノールノボラック系硬化剤、他のアミン化合物、イミダゾール化合物、リン化合物等であってよい。
【0026】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物では、必須成分として無機充填材が配合される。たとえば好適には、溶融シリカ、結晶シリカ等のシリカや、アルミナ、窒化珪素、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、タルク等が考慮される。これらの無機充填材は、平均粒径が0.1〜5μmの範囲のものが好ましい。
【0027】
平均粒径が0.1μm未満であると、充填材としては微細過ぎてエポキシ樹脂組成物の粘性が増加するものであり、隙間への充填性、浸入性が低下する。逆に平均粒径が5μmを超えると、硬化時における加温によって樹脂が低粘度化し、比重の大きい充填材粒子が沈降して、鉛直方向について充填材含有率の不均一が生じる等の不都合が発生するものである。尚、粒子形状は、板状や破砕状よりも球状あるいは球状に近い正多面体状のものが好適である。
【0028】
常温で液状のエポキシ樹脂成分(A)に対しての無機充填材(B)の配合比は、質量比として、B/Aが2.0〜8.5の範囲とすることが好ましい。
【0029】
本発明の以上のような成分を配合するエポキシ樹脂組成物においては、必須の成分としての
(A)常温で液状のエポキシ樹脂
(B)無機充填材
(C)オリゴマージアミン硬化剤
の合計量が、組成物全体量の60質量%以上含有されているものとする。60質量%未満の場合には、本発明の所期目的の実現は難しくなる。
【0030】
なお、本発明のエポキシ樹脂組成物では、無機充填材の樹脂への濡れ性を良好とし、充填性、浸入性を向上させ、かつ、硬化物の密着強度を向上させるために、カップリング剤を添加配合してもよい。
【0031】
たとえば、シランカップリング剤、チタニア系カップリング剤、アルミニウムキレート化合物等である。
【0032】
シランカップリング剤としては、たとえば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のビニルシラン、更に、エポキシ系、アミノ系、ビニル系の高分子タイプのシラン等を用いることができ、特に、エポキシシラン、アミノシラン、メルカプトシランが好適である。
【0033】
またチタニア系カップリング剤も各種のものであってよく、たとえば好適には、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル・アミノエチル)チタネート、ジイソプロピルビス(ジオクチルホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート等を用いることができる。
【0034】
アルミニウムキレート化合物も各種のものであってよく、アルミニウムアルコレートのRO基の一部または全部をアルキルアセト酢酸エステル、アセチルアセトンなどのキレート化剤で置換して作られるものである。具体的には、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムビスエチルアセトアセテートモノアセチルアセトネート等が挙げられる。
【0035】
これらのカップリング剤は、一般的には、無機充填材成分(B)に対しての質量比として、1/300〜2/100の範囲内とすることが好ましい。1/300未満の場合にはその添加効果は期待できず、2/100を超える場合には、硬化後の密着性が低下し、耐湿性、耐熱性を後退しかねない。
【0036】
もちろん、本発明においては必要に応じて他の樹脂や顔料、希釈剤、消泡剤等を用いても問題はない。エポキシ樹脂の改質、基板等への密着性を向上させる等の目的で用いられるものが好ましい。
【0037】
本発明において、均一な液状のエポキシ樹脂組成物を調製するにあたっては、一般的に前述した各成分を攪拌型の分散機で混合したり、ビーズミルで分散混合したり、3本のロールで分散混合したりすることによって行うことができるものであるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0038】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、これを主成分として接着剤とすることができ、電子・電気部品の接着に好適に使用される。接着剤とする場合には、たとえば好適には、本発明の上記のエポキシ樹脂組成物が70質量%以上を占めるように、溶剤と混合してもよい。ポットライフの長い、硬化後の密着強度の大きな接着剤が実現される。
【0039】
そこで以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん、以下の例によって発明が限定されることはない。
【実施例】
【0040】
(1)組成とその成分
以下の成分を配合して、表1に示した実施例および比較例の組成物を調製した。調製は、各成分の攪拌混合により行った。
【0041】
a)エポキシ樹脂
ビスフェノールA型エポキシ樹脂
(ジャパンエポキシレジン、エピコート828、エポキシ当量189)
b)溶融シリカ
(アドマテックス、SOCI、平均粒径0.3μm)
c)オリゴマージアミン硬化剤
n=3〜4(エアープロダクツジャパン、P−250)他
d)汎用アミン硬化剤(カヤハードAA)
e)エポキシシランカップリング剤
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(分子量236.3)
(2)評価
表1に示した組成物の各々を用いて、ポットライフ試験と密着性試験とを行い、その結果を評価し、これを表1に示した。試験方法と評価は以下のとおりとした。
【0042】
ポットライフ試験
エポキシ樹脂組成物を25℃環境下で法治し、組成物の経時的粘度変化を測定した。得られた粘度の値が初期値の2倍に達するまでの時間をポットライフとした。
【0043】
A:180時間以上
B:168〜180時間
C:168時間未満
密着性試験
エポキシ樹脂組成物をセラミック基板上に塗布し、塗布面上に2mm角のシリコンチップ(SiN膜コート)を設置し、エポキシ樹脂組成物を硬化させることで、基板にチップを接着させた。硬化条件は、上記の吸水性の場合と同様とした。得られた基板に対し、(株)アークテック製のボンドテスターシリーズ4000を用い、評価を行った。判別基準としては下記の通りに定めた。
【0044】
A:120MPa以上
B:100〜120MPa
C:100MPa未満
表1の結果からも明らかなように、本発明のエポキシ樹脂組成物の実施例では、ポットライフ、密着性がともに優れていることが確認された。
【0045】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
必須成分として下記の成分を組成物全体量の60質量%以上を含有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
(A)常温で液状のエポキシ樹脂
(B)無機充填材
(C)次式
【化1】

(式中のnは繰返し単位数を示す。)
で表わされるオリゴマージアミン硬化剤
【請求項2】
(C)オリゴマージアミン硬化剤において、n=3〜4の範囲のものが50モル%以上を含めていることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
(C)オリゴマージアミン硬化剤は、その(A)常温で液状のエポキシ樹脂に対する当量比(C/A)が、0.6〜1.4の範囲内であって、組成物全体量において10〜30質量%の範囲内で含有されていることを特徴とする請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1から3のうちのいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物を主成分としていることを特徴とする接着剤。
【請求項5】
請求項5に記載の接着剤をもって接着されていることを特徴とする電子・電気部品。

【公開番号】特開2008−106182(P2008−106182A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−291834(P2006−291834)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】