説明

エポラクタエン誘導体及び血管新生促進組成物

【課題】 血管新生促進効果を効果的に発揮しうる化合物及び血管新生促進組成物を提供する。
【解決手段】 下記一般式(I)で表されるエポラクタエン誘導体及びこれを含む血管新生促進組成物。
【化1】


(式中、R1は、炭素数1〜5のアルキル基を表し、R2は置換又は未置換の飽和又は不飽和の炭素数1〜20の炭化水素基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポラクタエン誘導体及び血管新生促進組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
血管新生は、生体内において既存の血管から新しい血管が形成される現象であり、多くの病理的状態に関与している。このため、血管新生制御物質の種々の疾患治療への応用が模索されている。例えば、血管新生抑制物質であれば、癌、糖尿病性網膜症、慢性関節リウマチに対する有効な治療薬となる可能性があり、一方、血管新生促進物質であれば、虚血性疾患に対する有効な治療薬となる可能性がある。また血管は周囲の組織へ栄養素を供給する役割を果たすことから、移植片の生着に対する効果も期待できる。
この血管新生制御物質のうち、血管新生促進物質は、血管新生抑制物質ほど多くないものの、血管内皮増殖因子(VEGF)、繊維芽細胞増殖因子(FGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)、腫瘍壊死因子α(TNF−α)、インターロイキン8(IL−8)等の増殖因子やサイトカインが知られている(例えば、非特許文献1)。
【0003】
一方、天然型エポラクタンは、ペニシリウム属の1689−Pの培養上清から単離された脂質性化合物であり、細胞分化誘導作用、特に、神経細胞に対して優れた分化誘導作用を有する物質として見出され、抗腫瘍剤及び神経分化誘導剤として有用であることが知られている(特許文献1)。また、その後の研究によって、このエポラクタエンが、アポトーシス誘導能、神経突起伸長促進能、DNAポリメラーゼ及びDNAトポイソメラーゼ活性阻害効果を有することがわかってきた(例えば、非特許文献2〜5)。
【特許文献1】特開平8−269061号公報
【非特許文献1】北徹他編、「血管研究の最前線2000年」、実験医学増刊、2000, Vol.18(5), 羊土社
【非特許文献2】J Antibiot (Tokyo). 1995 Jul; Vol.48(7): pp.733-5.
【非特許文献3】J Med Chem. 1997 Feb 14; Vol.40(4): pp.391-4
【非特許文献4】Biochim Biophys Acta. 2002 Mar 15; Vol.1581(1-2): pp.1-10.
【非特許文献5】Biochem Biophys Res Commun. 2000 Jul 5; Vol.273(2): pp.784-8.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、血管新生促進作用が確認されているVEGF等の増殖因子やIL−8等のサイトカインはいずれも高分子のタンパク質であり、医薬として実用面から考えると効果的にその作用を発揮することが難しい場合がある。一方、非タンパク質として既知の血管新生促進物質には、トイコトリエンC4やプロスタグランジン等もあるが、いずれも生理活性物質であり、化合物としての安定性や溶解性の面で医薬としての利用において制御しにくい面がある。
従って、本発明の目的は、血管新生促進効果を効果的に発揮しうる新規化合物及び血管新生促進組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のエポラクタエン誘導体は、下記一般式(I)で表される化合物である。
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、R1は、炭素数1〜5のアルキル基を表し、R2は置換又は未置換の飽和又は不飽和の炭素数1〜20の炭化水素基を表す。)
また本発明の血管新生促進組成物は、ペルオキシレドキシン活性化因子を含むものである。ここで、ペルオキシレドキシン活性化因子としては、上記一般式(I)で表されるエポラクタエン誘導体及びエポラクタエンであることが好ましい。
【0008】
天然型エポラクタエンにはアポトーシス誘導作用があることは知られていた(Biochim Biophys Acta. 2002 Mar 15; Vol.1581(1-2): pp.1-10)が、この天然型エポラクタエン及びエポラクタエン誘導体に血管新生促進作用があることは本発明において見出された事項である。天然型エポラクタエン及びエポラクタエン誘導体は分子量も大きくなく、生体へ効果的に投与することができ、その生理活性効果を発揮することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、血管新生促進効果を効果的に発揮しうる新規化合物及び血管新生促進組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のエポラクタエン誘導体は、下記一般式(I)で表されるものである。
【0011】
【化2】

【0012】
上記式中R1は、炭素数1〜5のアルキル基を表し、好ましくは炭素数1〜2であり、メチル基が最も好ましい。
式中R2は、置換又は未置換の飽和又は不飽和の炭素数1〜20の炭化水素基を表す。またR2は、血管新生促進作用の観点から、好ましくは、式中R2が炭素数5〜20の炭化水素基を有するものである。
また置換基を有する場合には、置換基は、炭素数1〜5のアルキル基、アシル基等を挙げることができ、メチル、エチル、アセトキシ等を挙げることができる。
このような化合物としては、下記の化合物を挙げることができる。
【0013】
【化3】

【0014】
一般式(I)で表されるエポラクタエン誘導体としては、下記式1bで表される化合物が特に好ましい。このエポラクタエン誘導体1bは、下記に示される天然型のエポラクタエンとは、ピロリジン環の3位に結合している置換基において相違している。
【0015】
【化4】

【0016】
【化5】

【0017】
ここで本発明のエポラクタエン誘導体は、下記の合成ルートに従って、合成することができる。
【0018】
【化6】

【0019】
本発明に係る式(I)の化合物は、文献記載の方法(S. Kobayashi et al. Tetrahedron Letters, 40巻, 7367-7370 (1999), Tetrahedron Letters, 40巻, 7371-7374 (1999), Tetrahedron Symposia in Print, 59巻, 9743-9758 (2003). )に準じて合成することができる。すなわち、上記に示すように、エポキシシリルラクトン1にフッ化テトラブチルアンモニウムの存在下、アルデヒド2と反応させて付加体3とする。アルコールを酸化して4とした後、アンモニアを作用させヒドロキシアミド体5とする。さらに、水酸基を酸化することにより、エポキシラクタム6を製造することができる。
【0020】
上記一般式(I)のエポラクタエン誘導体及び天然型エポラクタエンは、ペルオキシレドキシンに結合し、ペルオキシレドキシンを活性化することができる。この結果、本発明の一般式(I)で表される化合物による血管新生促進作用が発揮される。
【0021】
本発明の血管新生促進組成物は、ペルオキシレドキシン活性化因子を含むものである。ペルオキシレドキシン活性化因子により、細胞内過酸化水素量を上昇させることができ、これにより、血管新生を促進することができる。本発明は、特定のペルオキシレドキシン活性化因子が、細胞内22kDa分子であるペルオキシレドキシン1に結合して活性化することによる細胞内過酸化水素量と密接に関連していることを見出したものである。
【0022】
このようなペルオキシレドキシン活性化因子としては、上記一般式(I)で表されるエポラクタエン誘導体及び天然型エポラクタエンを好ましく挙げることができる。
上記ペルオキシレドキシン活性化因子としてのエポラクタエン及びエポラクタエン誘導体は、塩として投与してもよい。用いられる塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等を挙げることができる。
【0023】
血管新生促進組成物中のペルオキシレドキシン活性化因子の量は、剤型によって異なるが、組成物の総重量に対して、0.0001重量%から100重量%とすることができ、好ましくは0.0001重量%から10重量%、更に好ましくは0.001から約0.1重量%とすることができる。また細胞に対して用いる場合には、細胞の状態によって異なるが、一般に、106個の細胞に対して、1μMから50μMで用いることが好ましい。
【0024】
血管新生促進組成物には、上記ペルオキシレドキシン活性化因子を有効成分とする以外に、薬理学的に許容可能な担体及び/又は添加剤を含むことができる。
このような薬理学的に許容可能な担体としては、この用途に一般に使用される各種有機あるいは無機担体物質が挙げられ、例えば固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤;液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤等が挙げられる。また、必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、吸着剤、湿潤剤等の添加物を用いることもできる。
【0025】
このような添加剤としては、各剤形において一般に使用されているものをそのまま適用することができる。これらの具体的な成分は当業者であれば周知であり、当業者であれば、本組成物では特別な制限はないので周知の成分から適宜選択可能である。またこれらの他の成分の投与量も、当業者であれば適宜選択可能である。
【0026】
例えば、本発明の血管新生促進組成物を経口投与する場合には、通常その組成物中に含有される結合剤、包含剤、賦形剤、崩壊剤等を含んだ錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、カプセル剤等、または内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤等の何れの状態であってもよい。また、非経口投与の場合には、安定化剤、緩衝剤、保存剤、等張化剤等を含有し、通常単位投与量アンプル若しくは多投与量容器またはチューブの状態で投与用に提供される。
【0027】
本発明の血管新生促進組成物を投与する方法としては、直接目的とする臓器、組織に投与する方法の他、経口または非経口で投与する方法も用いられる。経口投与には舌下投与も含まれる。非経口投与には注射、例えば、皮下、筋肉、静脈、動脈注射、点滴、坐剤、塗布剤、貼付剤、更にはエレクトロポレーション、イオントフォレシスなどが含まれる。
【0028】
血管新生促進組成物の投与量は、患者の年齢、投与経路、投与回数により異なり、適宜変えることができる。この場合、有効量のペルオキシレドキシン活性化因子と、適切な希釈剤または薬理学的に使用し得る担体との組成物として投与されるが、ヒトを含む哺乳動物に投与する場合には、投与対象の種類、性別、体重、症状、年齢、投与経路及び投与形態によって異なるが、有効成分の量として、一般に体重kgあたり1μg〜1000mg、好ましくは10μg〜100mgの範囲にすることができる。この投与量は、一日一回で投与してもよく、数回にわたって投与してもよい。
このとき、ペルオキシレドキシン活性化因子の濃度は、1μM以下、好ましくは0.01μM〜1μMとなるように調整することが好ましい。1μMを超えると、有効成分としての投与量に対する効果が見込めなくなり、0.01μM未満では血管新生促進作用が充分でない場合がある。
【0029】
本発明のペルオキシレドキシン活性化因子により血管新生を促進させるには、血管内皮細胞に本発明の血管新生促進組成物を作用させればよい。
【0030】
本発明の血管新生促進組成物は、血管新生促進作用を有するので、組織への栄養素の供給や、細胞の生着・増殖、組織又は臓器の移植、虚血生疾患の治療、壊死した細胞や組織並びにケガをした組織を対象とした回復促進、更には神経細胞・肝細胞・心房細胞等の維持が要求される用途に好ましく用いることができる。また、細胞・生体組織への生着・増殖のみならず、血管新生抑制物質のスクリーニングや、血管新生制御メカニズムの解析等の用途にも用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下に本発明の実施例について説明するが、これに限定されるものではない。また実施例中の%は、特に断らない限り、重量(質量)基準である。
【0032】
[実施例1]
<エポラクタエン誘導体の合成>
本発明のエポラクタエン誘導体は、以下のようにして合成した(前述の合成経路を参照のこと)。
トラップ混合液(THF:hexane:ether=3:1:1, 23 ml)中のジイソプロピルアミン溶液(0.37 ml, 2.62 mmol) にn−BuLi(1.7 ml of a 1.53 M solution in hexane, 2.60 mmol) を0℃で20分添加した。その後、トリメチルシリルクロリド(1.2 ml, 9.48 mmol)、β−アンジェリカラクトンエポキシド(β-angelica lactone epoxide )(100.8 mg, 0.883 mmol) を添加して、−110℃で10分間撹拌した。混合物を蒸留水でクエンチさせて酢酸エチルで抽出した。濃縮後、クロマトグラフ(4:1 hexane/EtOAc)で精製し、無色のエポキシシリルラクトン1(116.9 mg, 70%)を得た。
【0033】
THF(5 ml)中、エポキシシリルラクトン1(55.1 mg, 0.296 mmol)、プロピオンアルデヒド(40 μl, 0.554 mmol)及びMS4A (0.21 g)の溶液をTBAF(30 μl of
a 1M solution in THF, 30 μmol)に0℃で添加して、6時間撹拌後、Celiteを通して
精製し、酢酸エチルで洗浄した。有機相を回収して濃縮し、CH3CN (2 ml) に溶解させ、室温で30分、CH3CN (1 ml)中の5%HF液に添加した。混合物を蒸留水でクエンチさせて、酢酸エチルで抽出した。抽出物をクロマトグラフ(4:1 hexane/EtOAc)にかけて無色の付加体3を得た(31.2 mg, 61%)。
【0034】
CH2Cl2 (2 ml)中の付加体3の溶液(36.0 mg, 0.168 mmol)を Dess-Martin ペリオジナン(143 mg, 0.336 mmol)に室温で添加して、1時間撹拌した。次いで、混合物を酢酸エチルで希釈し、飽和Na2S2O3 で洗浄した。有機相を濃縮して、クロマトグラフ(4:1 hexane/EtOAc)で精製し、無色の化合物4を得た。
メタノール中で化合物4(15.7 mg, 0.074 mmol)の溶液とNH3を3時間混合し、次いで溶媒を除去した後、クロマトグラフ(1:1 hexane/EtOAc)で精製して、白色固体のヒドロキシアミド体5を得た(14.6 mg, 86%)。CH2Cl2 (5 ml) 中のヒドロキシアミド体5(31.1 mg, 0.136 mmol) をDess-Martin ペリオジナン(115 mg, 0.272 mmol)に室温で添加して、1時間撹拌した。得られた混合物を酢酸エチルで希釈し、飽和Na2S2O3 、飽和NaHCO3及びH2O で洗浄した。有機相を濃縮し、クロマトグラフ(4:1 hexane/EtOAc)にかけて、およそ1.7:1の互換体混合物としてエポラクタエン誘導体を得た(27.1 mg, 88%)。
【0035】
エポラクタエン誘導体1b((1R,5R)-1-Dodecanoyl-4-hydroxy-4-methyl-6-oxa-3-azabicyclo-[3.1.0]hexan-2-one )は、およそ3.7:1の互換体混合物として調製され、収率88%の無色のフォームであった。
[α]D22=−75.9 (c 0.12, MeOH); IR (CHCl3) 3455, 3020, 2927, 2856, 1743, 16
93, 1408, 1215, 1161, 1117, 1086, 949, 758, 667 cm-1; 1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 0.88 (3H, d, J=6.6 Hz, H-12'), 0.88* (3H, t, J=6.6 Hz, H-12'), 1.25-1.50 (18
H, m, H-3'- H-11'), 1.25-1.50* (6H, m, H-3'- H-11'), 1.58 (3H, s, 4-Me), 1.62* (3H, s, 4-Me), 2.19-2.30 (1H, m, H-2'), 2.19-2.30* (1H, m, H-2'), 2.42-2.61 (1H, m, H-2'), 2.42-2.61* (1H, m, H-2'), 3.18* (1H, brs, OH), 3.96* (1H, d, J=1.8 Hz, H-5), 4.24 (1H, d, J=1.8 Hz, H-5), 5.25 (1H, brs, OH), 6.79 (1H, brs, NH), 8.13 (1H, brs, NH); 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ: 14.1, 21.3, 22.5, 22.6, 22.7, 24.1
, 29.0, 29.3, 29.3, 29.4, 29.4, 29.4, 29.6, 29.6, 29.6, 31.9, 38.1, 39.9, 61.2, 62.8, 63.9, 65.9, 82.8, 83.7, 166.8, 169.4, 199.7, 202.3 (diastereomeric mixture); HRMS, calcd for C17H29NO4 (M+) 311.2096, found 311.2108.
【0036】
[実施例2]
<漿尿膜報による血管新生促進作用>
実施例1で得られたエポラクタエン誘導体1bの血管新生促進作用について、鶏胚漿尿膜法を用いて確認した。
鶏卵を37℃でインキュベートし、培養4日目に卵白を除去して鶏卵上部に窓を開け、胚と卵殻膜を分離して仮気室を作成し、再び37℃にてインキュベートした。培養10日目に各濃度の1bを含んだメチルセルロースディスク又はPBSを漿尿膜上に移植した。さらに3日間培養した後にディスク付近の血管網を実体顕微鏡により観察した。ディスクに向かって放射状に伸びる血管が観察されたものを陽性と判定した。結果を図1並びに図2A及びBに示す。
なお、図1において、横軸は1bの濃度、縦軸は、コントロールで確認された血管の合計の長さを100としたときの割合をそれぞれ示し、グラフ内の数字は、アッセイまで生存した検体数を示す。
【0037】
図1及び図2Aに示されるように、1bを含んだディスクを移植した漿尿膜では、コントロールと比較して血管網が放射状にのびて、血管の長さが長くなっていることが確認された。このような血管の伸長は、用量依存的に増加しており、特に50nmolの1bを用いたものでは100%増となって、ほぼ2倍の長さになっていた。従って、1bには血管新生を促進することが明らかとなった。
【0038】
[実施例3]
<血管内皮細胞に対する増殖能>
実施例1で得られたエポラクタエン誘導体1bの血管内皮細胞に対する増殖能を調べた。
正常ウシ大動脈血管内皮細胞は、ヒューマンサイエンス研究資源バンクより入手した。試験培地は1%FBS(Sigma Aldrich社製)を含有するMEM培地とした。
細胞を96ウェルプレートに1%PBS中1.0×104個/mlの濃度で播種し、細胞接着後に1b含有試験培地に交換し、37℃、5%CO2下で7日間培養した。培養後、培地を除去して0.1%グルタルアルデヒドで細胞を固定し、0.02%クリスタルバイオレット溶液で染色、PBS(−)で洗浄し、細胞を2%SDSで可溶化したのち、生存細胞数の指標としてマイクロプレートリーダーでOD570の値を測定した。結果を図3に示す。
図3に示されるように、1b含有試験培地による培養によって、血管内皮細胞の増殖が認められ、特に、0.1μMで最も良好な増殖促進が認められた。
【0039】
[実施例4]
<血管内皮細胞の管腔形成能>
次いで、実施例3で用いられた正常ウシ大動脈血管内皮細胞を用いて、エポラクタエン誘導体1bの管腔形成能について調べた。
48ウェルプレートにマトリゲル溶液(マトリゲル(BD Bioscience-Discovery Labware社製)とRPMI 1640を1:1で混合したもの)100μl/wellになるように添加し、37℃、5%CO2下で2時間インキュベートしてマトリゲルコートプレートを作製した。このプレートに、1%PBS中1.0×104個の細胞/100μL/ウェルを、1b含有試験培地とともに播種した。37℃、5%CO2下で培養8時間後、管腔網を顕微鏡観察して1ウェルあたり9視野を撮影し、管腔の長さを測定した。結果を図4に示す。
【0040】
図4に示されるように、血管内皮細胞は、1b及びコントロールの双方において管腔形成が認められたが、1bと共に培養した方が、1bの用量に依存して管腔形成現象の強い促進が認められた。特に、0.1μMまで用量に依存して管腔が形成されており、0.1μM以下の範囲において特に良好な管腔形成能が確認できた。
【0041】
[実施例5]
<1bの細胞内標的分子の同定>
エポラクタエン誘導体1bによる血管新生促進の作用機序を確認するために、ヒトB細胞白血病細胞株BALL−1を用いて、1bの細胞内標的分子の同定を行った。
ヒトB細胞白血病細胞株BALL−1は、理研細胞バンクより購入した。BALL−1細胞は、カナマイシン硫酸塩(65mg/L)、炭酸水素ナトリウム(2g/L)、2−メルカプトエタノール(3.5μL/L)及び非動化10%FBS(WAKO社製)を含むRBMI 1640(ニッスイ社製)にて、37℃5%CO2下で培養したものを使用した。
【0042】
細胞を回収してPBS(−)で洗浄し、溶解バッファー液(50mM HEPES(pH7.5)、150mM NaCl、10%グリセロール、1%トライトンX−100、1.5mM MgCl2、1mM EGTA、1%プロテアーゼインヒビターカクテル)を用いて、常法により細胞溶解液を得た。この細胞溶解液にビオチン化1bを添加して一晩4℃でインキュベートし、溶解バッファー液で洗浄した後に、ストレプトアビジンアガロース(Amersham Biosciences社製)と共に2時間4℃でインキュベートした。
インキュベート後に、ローディングバッファー液(1M Tris−HCl(pH6.8)0.78ml、20%SDS 2.5mL、グリセロール1.47mL、飽和ブロモフェノールブルー溶液上清0.75mL、10%2−メルカプトエタノール)を用いて常法により、SDS−PAGEによる解析を行った。SDS−PAGEは、4%濃縮ゲル、12%分離ゲル、100V100分で実施した。結果を図5に示す。なお、図5中、レーン1は細胞溶解液+ビオチン、レーン2は細胞溶解液+ビオチン化1b、レーン3は細胞溶解液+溶媒(DMSO)のみ、レーン4はBALL−1細胞溶解液を示す。
【0043】
図5に示されるように、ビオチン化1bと結合して共沈させたタンパク質として、細胞内分子30kD及び22kDaのタンパク質分子が1bと結合することがわかった。
ビオチン化1bを用いて作成した泳動用サンプルから対応するバンドを切り出し、常法により、30kDa及び22kDaのタンパク質分子を結晶化して、MALDI−TOF−MSに供した。ペプチドマスフィンガープリンティング分析を行って、ペプチド断片の分子量を測定し、得られたペプチド断片の質量を用いて、Mascot(http://www.matrixscience.bom/dgi/serach_form.pl?FORMVER=2&SEARCH=PMF)にてデータベース検索を行い、分子の同定を行った。
その結果、22kDa分子はペルオキシレドキシン1(Peroxiredoxin1)、30kDa分子はアデニンヌクレオチドトランスロケーター2として同定された。Peroxiredoxin 1はサイトソルに局在して細胞内H22を還元消去する抗酸化酵素であり、一方、adenine nucleotide translocator 2は、ミトコンドリアのpermeability transition(PT)poreを構成するタンパクの一種である。
また、前記と同様にしてゲルから22kDa分子を切り出して、常法により、抗ヒトペルオキシレドキシン1抗体を用いてウェスタンブロットを行ったところ、22kDa分子がペルオキシレドキシン1であることが確認できた(図6)。
【0044】
[実施例6]
<細胞内H22量に対する効果>
BALL−1細胞を24ウェルプレートに2×105個/mLで播種し、細胞内H22検出用蛍光プローブ(DCFH−DA)を10μMになるように添加して、37℃10分反応させた後、1bを各濃度となるように添加して37℃で30分反応させた。細胞を回収してPBS(−)で洗浄した後、FACSに供して細胞内H22量を測定した。
結果を図7に示す。
図7に示されるように、1bの添加により細胞内H22の量が上昇し、このような細胞内H22濃度の上昇は1bの濃度に依存しており、従って、1bにより細胞内過酸化水素が上昇することが明らかであった。
【0045】
これらのことから、エポラクタエン誘導体1bには、顕著な血管新生促進作用が認められることが明らかとなった。このエポラクタエン誘導体がペルオキシレドキシンと結合することは明らかであり、ペルオキシレドキシンが活性化することで血管新生が促進された。またこのエポラクタエン誘導体1bは、他の生理活性物質と比較して低分子量であるため、医薬組成物として投与した場合には効果的にその作用を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施例にかかるエポラクタエン誘導体1bの鶏漿尿膜に対する血管新生促進作用を説明するグラフである。
【図2A】本発明の実施例にかかるエポラクタエン誘導体1bによって血管新生が促進された漿尿膜の光学写真像である(20倍)。
【図2B】比較例としての、鶏漿尿膜に対するPBSの影響を示す漿尿膜の光学写真像である(20倍)。
【図3】本発明の実施例にかかるエポラクタエン誘導体1bの正常ウシ大動脈血管内皮細胞に対する増殖能を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例にかかるエポラクタエン誘導体1bの管腔形成能を説明するグラフである。
【図5】実施例にかかるビオチン化エポラクタエン誘導体1bを用いたヒトB細胞白血病細胞株BALL−1の細胞溶解液のSDS−PAGE像である。
【図6】実施例にかかるビオチン化エポラクタエン誘導体1bを用いたヒトB細胞白血病細胞株BALL−1の細胞溶解液のSDS−PAGE像(上)と、これに対応した抗ヒトペルオキシレドキシン抗体によるイムノブロット像(下)である。
【図7】実施例にかかるヒトB細胞白血病細胞株BALL−1におけるエポラクタエン誘導体1bによる細胞内H22の量の変化を示すグラフ(A)及びチャート(B)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるエポラクタエン誘導体。
【化1】

(式中、R1は、炭素数1〜5のアルキル基を表し、R2は置換又は未置換の飽和又は不飽和の炭素数1〜20の炭化水素基を表す。)
【請求項2】
前記一般式(I)中、R2は未置換の炭素数5〜20の飽和炭化水素基を表すことを特徴とする請求項1記載のエポラクタエン誘導体。
【請求項3】
下記式1bで表されるエポラクタエン誘導体。
【化2】

【請求項4】
ペルオキシレドキシン活性化因子を含む血管新生促進組成物。
【請求項5】
前記ペルオキシレドキシン活性因子が、下記一般式(I)で表されるエポラクタエン誘導体及び天然型エポラクタエンであることを特徴とする請求項4記載の血管新生促進組成物。
【化3】

(式中、R1は、炭素数1〜5のアルキル基を表し、R2は置換又は未置換の飽和又は不飽和の炭素数1〜20の炭化水素基を表す。)
【請求項6】
前記一般式(I)中、R2は未置換の炭素数5〜20の飽和炭化水素基を表すことを特徴とする請求項4記載の血管新生促進組成物。
【請求項7】
前記ペルオキシレドキシン活性化因子が、前記式(I)中R1がメチル基を表し、R2は未置換の炭素数5〜20のアルキル基を表す化合物であることを特徴とする請求項5記載の血管新生促進組成物。
【請求項8】
前記ペルオキシレドキシン活性化因子が、下記式1bで表されるエポラクタエン誘導体であることを特徴とする請求項4記載の血管新生促進組成物。
【化4】


【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−225285(P2006−225285A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−38497(P2005−38497)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】