説明

エレクトレット繊維シートおよびそれを用いたエアフィルター

【課題】圧力損失が低いうえに捕集性能に優れる繊維シート、特にエアフィルターに好適に用いることができる繊維シートを提供する。
【解決手段】主として非導電性繊維を含んでなり、一般式[1]で表される構造を有する化合物を0.01〜0.5重量%含有することを特徴とし、又、2枚以上の繊維シートを積層してなる積層体繊維シートであって、その少なくとも1層がエレクトレット繊維シートで構成されていることを特徴とするエレクトレット繊維シート。


(ここで、R〜Rは水素または炭素原子数1〜3のアルキル基)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトレット繊維シートに関する。特にエアフィルターとして高捕集かつ低圧力損失を発揮する、高性能エレクトレット繊維シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、気体中の花粉・塵等を除去するためにエアフィルターが使用されており、濾材として繊維シートが多く用いられている。
【0003】
エアフィルターに要求される性能は、ミクロなダストを多く捕集できる「高捕集」、および、エアフィルター内部を気体が通過する際に抵抗が少ない「低圧力損失」である。
【0004】
エアフィルターの捕集機構は、主としてブラウン拡散、遮り、慣性衝突などの物理的作用によるものであるため、高い捕集性能を有する濾材を得るには、構成する繊維シートが細繊度であることが適しているが、その一方、シート内の繊維密度が増加することにより圧力損失が高くなる。
【0005】
また、圧力損失が低い濾材を得るためには、構成する繊維シートが太繊度であることが適しているが、その一方、シート内の繊維間の空隙が広くなるため、捕集性能が低下する。
【0006】
このように、「高捕集」であることと「低圧力損失」であることは相反する関係にあるものであり、この問題点を解決する方法として、繊維シートをエレクトレット化し、物理的作用に加えて静電気的作用を利用することにより、高捕集かつ低圧力損失を同時に満足させる試みがなされている。
例えば、特許文献1には、「アース電極上に繊維状シートを接触させた状態で、該アース電極と繊維シートを共に移動させながら非接触型印加電極で、高圧印加を行なって連続的にエレクトレット化することを特徴とする、エレクトレット繊維状シートの製造法」が開示されている。これは、繊維状シート内に、電子の注入、イオンの移動、双極子の配向などを生ぜしめることで分極させ、シートに電荷を付与するというものである。この方法によれば、ある程度は高捕集と低圧力損失の両立を図ることができるが、エレクトレット電荷量が不十分であった。
【0007】
そこで、繊維シートを構成する繊維に対して、添加剤を添加して、電荷量を増加させることが提案されている。
【0008】
例えば、特許文献2には、「高分子重合体に、ヒンダードアミン系、含窒素ヒンダードフェノール系、金属塩ヒンダードフェノール系あるいはフェノール系の安定剤から選ばれた少なくとも1種を配合してなる材料からなり、かつ100℃以上における熱刺激脱分極電流からのトラップ電荷量が2.0×10−10クーロン/cm以上である耐熱性エレクトレツト材料」が開示されている。
【0009】
このように添加剤を含有させた繊維シートをエレクトレット化することにより、捕集性能と圧力損失のバランスは改善されたものの、十分なレベルではなかった。
【特許文献1】特開昭61−289177号公報
【特許文献2】特開昭63−280408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、圧力損失が低いうえに捕集性能に優れるエレクトレット繊維シート、特にエアフィルターに好適に用いることができるエレクトレット繊維シートを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用する。すなわち、本発明のエレクトレット繊維シートは、主として非導電性繊維を含んでなるエレクトレット繊維シートであって、該エレクトレット繊維シートが下記一般式[1]で表される構造を有する化合物を含有することを特徴とするものである。
【0012】
【化1】

【0013】
(ここで、R〜R9は水素または炭素原子数1〜3のアルキル基)
かかるエレクトレット繊維シートの好ましい態様は、次の通りである。すなわち、
(1)前記一般式[1]で表される構造を有する化合物が、本文で定義する測定方法で測定したとき、該エレクトレット繊維シート中に0.01〜0.5重量%含有されていること、
(2)前記非導電性繊維が、ポリオレフィン繊維であること、
(3)前記ポリオレフィン繊維が、ポリプロピレンを主体に構成されていること、
(4)前記エレクトレット繊維シートが、メルトブロー不織布であること、
(5)前記エレクトレット繊維シートが、極細繊維を主体に構成された不織布であること、
(6)前記エレクトレット繊維シートの目付が、0.1〜80g/mであること、
(7)前記エレクトレット繊維シートが、2枚以上の繊維シートを積層してなる積層体繊維シートであって、その少なくとも1層が前項のいずれかに記載のエレクトレット繊維シートで構成されていること、
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低圧力損失であると同時に高捕集に優れたエレクトレット繊維シートを提供することができる。かかるエレクトレット繊維シートを使用すれば、高捕集かつ低圧力損失を発揮する、高性能エアフィルターを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、前記課題、つまり圧力損失が低いうえに捕集性能に優れるエレクトレット繊維シート、特にエアフィルターに好適に用いることができるエレクトレット繊維シートについて、鋭意検討した結果、エレクトレット繊維シート中に特定の構造を有する化合物を特定量含有させることにより、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0016】
本発明のエレクトレット繊維シートは、主として非導電性繊維を含んでなり、一般式[1]で表される構造を有する化合物を含有することを特徴とする、エレクトレット繊維シートである。
【0017】
本発明のエレクトレット繊維シートは、非導電性繊維を含むものであれば、その種類は特に限定されるものでなく、例えば、織物、編み物、不織布などが挙げられる。エアフィルターとして使用する場合、捕集性能の優れる点で不織布が好ましく、中でも高性能フィルターとしては、繊維径が小さいことで物理的作用による捕集性が優れる点で、メルトブロー不織布や極細繊維を主体に構成された不織布であることが好ましい。
【0018】
メルトブロー不織布は、不織布製造法の一つであるメルトブロー法により製造され、一般に、紡糸口金から押し出された熱可塑性ポリマーを熱風噴射することにより繊維状に細化し、該繊維の自己融着特性を利用してウェブとして形成せしめる方法である。スパンボンド法等、他の不織布製造法に比べて複雑な工程を必要とせず、また数10μmから数μm以下の細い繊維が容易に得られる。メルトブロー法における紡糸条件としては、ポリマー吐出量、ノズル温度、エア圧力等があるが、これら紡糸条件の最適化を行うことで、所望の繊維径を有する不織布が得られる。
【0019】
また、極細繊維を主体に構成された不織布は、特にその製法を限定するものではないが、静電紡糸法(例えば、米国特許第6106913号明細書や特開2002−249966号公報等に記載されている方法)や、易溶解性ポリマーが海成分、非導電性ポリマーが島成分の海島構造を形成する繊維から構成される不織布を得た後、該不織布の易溶解性ポリマー成分を溶剤により溶出する方法(例えば、特願2005−202560に記載されている方法)等により得ることができる。ここでいう極細繊維とは、平均繊維径が50〜800nmであるものを指す。また、極細繊維の平均繊維径は次の方法で求めた値をいう。すなわち、極細繊維を主体に構成された不織布の任意の場所から、1cm×1cmの測定サンプルを30個採取し、走査型電子顕微鏡で倍率を80000倍に調節して、採取したサンプルから繊維表面写真を各1枚ずつ、計30枚を撮影する。写真の中の繊維直径がはっきり確認できるものについてすべて測定して、平均した値を平均繊維径とする。前述のメルトブロー法と比べると、一般的に生産性は劣りかつ複雑な工程を要するが、通常のメルトブロー法では得られない極細繊維を得ることができ、その結果、低い目付で高捕集に優れた繊維シートを得ることができる。
【0020】
本発明でいう非導電性繊維は、非導電性ポリマーからなる繊維を主として含むものであれば特に限定されない。ここでいう非導電性は、体積抵抗率が1012・Ω・cm以上であることが好ましく、1014・Ω・cm以上であることがより好ましい。ここでいう体積抵抗率はASTM D257に従い測定されるものである。
【0021】
このような繊維シートをエレクトレット化した場合、電荷量を多く保持することができ、結果として捕集性能が優れ、圧力損失を小さくすることができる。
【0022】
このような非導電性の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、フッ素系樹脂、およびこれらの共重合体または混合物などを挙げることができる。これらの中でも、ポリオレフィンを主体とするものはエレクトレット性能を特に発揮する点から好ましく、さらにポリオレフィンの中では、ポリプロピレンが耐熱性の点で優れているため、より好ましい。またポリマーの性質を損なわない範囲で他の成分が共重合されていてもよい。
【0023】
本発明のエレクトレット繊維シートは、該シートを構成する繊維が一般式[1]で表される構造を有する化合物を含有したエレクトレット繊維シートであるところに特徴を有する。
【0024】
【化2】

【0025】
(ここで、R〜R9は水素または炭素原子数1〜3のアルキル基)
エレクトレット化する前に、該繊維シートを構成する繊維に、上記一般式[1]で表される特定の構造を有する化合物を含有させ、次いでエレクトレット化することにより、驚くべきことにフィルター性能が向上する。
【0026】
かかる化合物としては、上記構造を有する化合物であれば特に限定されるものではないが、一般式[1]のR〜Rうち、R、Rがメチル基、R、R、R、Rがエチル基、残る3つが水素である構造を有する化合物が好ましい。一般式[1]で表される化合物は、1種の単独使用であっても複数種の混合物であってもよい。該化合物をエレクトレット繊維シートに存在させることにより、エレクトレット化で付与された電荷をより効果的に安定化できる。
【0027】
このような化合物の含有量は繊維シートの0.01〜0.5重量%である。本発明において、一般式[1]で表される構造を有する化合物の含有量は、次のようにして求めた値をいう。
【0028】
繊維シート2gをクロロホルムでソックスレー抽出後、該抽出物についてHPLC分取を繰り返し、各分取物についてH−NMR測定で構造を確認する。該化合物の含まれる分取物の重量を合計し、シート全体に対する割合を求め、これを一般式[1]で表される構造を有する化合物の含有量とする。
【0029】
かかる一般式[1]で表される構造を有する化合物の含有量が0.01重量%未満では捕集性能が悪くなり、他方、化合物の含有量が0.5重量%を超えると、紡糸性が低下する。より好ましくは0.02重量%〜0.45重量%、さらに好ましくは0.05重量%〜0.4重量%である。
【0030】
本発明のエレクトレット繊維シートは、上述のような化合物を含有する導電性ポリマーを含んでいるが、ポリマーは上述のような化合物に加えて、酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤など、通常、樹脂材料に含まれている安定剤を含んでいてもよい。
【0031】
さらに、本発明のエレクトレット繊維シートはエレクトレット化されている。エレクトレット繊維シートにすれば、静電気吸着効果により更に低圧力損失、高捕集性能を得ることができる。
【0032】
なお、本発明における圧力損失および捕集性能は次の方法で求めた値をいう。繊維シートの縦方向10カ所で15cm×15cmの測定用サンプルを採取し、それぞれのサンプルについて、図1に示す捕集性能測定装置で測定した。この捕集性能測定装置は、測定サンプルMをセットするサンプルホルダー1の上流側にダスト収納箱2を連結し、下流側に流量計3、流量調整バルブ4、ブロワ5を連結している。また、サンプルホルダー1にパーティクルカウンター6を使用し、切替コック7を介して、測定サンプルMの上流側のダスト個数と下流側のダスト個数をそれぞれ測定することができる。さらにサンプルホルダー1は圧力計8を備え、サンプルM上流、下流の静圧差を読み取ることができる。捕集性能の測定にあたっては、ポリスチレン0.309U 10%溶液(メーカー:ナカライテック)を蒸留水で200倍まで希釈し、ダスト収納箱2に充填する。次にサンプルMをホルダー1にセットし、風量をフィルター通過速度が1.5m/minになるように流量調整バルブ4で調整し、ダスト濃度を1万〜4万個/2.83×10−4(0.01ft)の範囲で安定させ、サンプルMの上流のダスト個数Dおよび下流のダスト個数dをパーティクルカウンター6(リオン社製、KC−01B)で1サンプル当り10回測定し、JIS K−0901に基づいて下記計算式にて0.3〜0.5μm粒子の捕集性能(%)を求めた。10サンプルの平均値を最終的な捕集性能とした。
捕集性能(%)=〔1−(d/D)〕×100
ただし、
d:下流ダストの10回測定トータル個数
D:上流のダストの10回測定トータル個数
である。
【0033】
また、圧力損失は捕集性能測定時のサンプルM上流、下流の静圧差を圧力計8で読み取り求めた。10サンプルの平均値を最終的な圧力損失とした。
【0034】
さらに、濾過性能の指標としてQF値というものが知られており、前記捕集性能および圧力損失を用いて以下の式により計算される。低圧力損失かつ高捕集性能であるほどQF値は高くなり、濾過性能が良好であることを示す。
QF値(Pa−1)=−[ln(1−[捕集性能(%)]/100)]/[圧力損失(Pa)]
エレクトレット化方法は特に限定されるものでないが、コロナ荷電法、または不織布シートに水を付与した後に乾燥させることによりエレクトレット化する方法(例えば、特表平9−501604号公報、特開2002−249978号公報等に記載されている方法)が好適に用いられる。コロナ荷電法の場合は15kV/cm以上、好ましくは20kV/cm以上の電界強度が適している。
【0035】
また、耐候性を向上させ、エレクトレット性能をよくする観点から、本発明の繊維シートにヒンダードアミン系化合物およびトリアジン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種が含まれていることが好ましい。
【0036】
ヒンダードアミン系化合物としては、ポリ[(6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル)((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)](チバガイギー製、キマソープ944LD)、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製、チヌビン622LD)、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製、チヌビン144)などが挙げられる。
【0037】
また、トリアジン系添加剤としては、前述のポリ[(6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル)((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)](チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製、キマソープ944LD)、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−((ヘキシル)オキシ)−フェノール(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製、チヌビン1577FF)などを挙げることができる。これらのなかでも特にヒンダードアミン系化合物が好ましい。
【0038】
ヒンダードアミン系化合物又はトリアジン系化合物の含有量は、特に限定されないが、0.5〜5重量%の範囲であることが好ましく、0.7〜3重量%の範囲であることがより好ましい。上記ヒンダードアミン系添加剤又はトリアジン系添加剤の添加量としては、特に限定されないが、好ましくは0.5〜5重量%の範囲にするとよく、更に好ましくは0.7〜3重量%の範囲にするとよい。添加量が0.5重量%未満では、目的とする高レベルのエレクトレット性能を得ることが難しくなる。また、5重量%を超えるほど多く配合すると製糸性を悪くし、かつコスト的にも不利になるので好ましくない。
【0039】
また、本発明のエレクトレット繊維シートは、目付が0.1〜80g/mであることが好ましい。特に、繊維シートがメルトブロー不織布の場合、1〜80g/mであることが好ましく、より好ましくは1〜70g/m、さらに好ましくは1〜60g/mである。また、繊維シートが極細繊維を主体とする不織布の場合、低目付で高いフィルター性能を得ることができるため、0.1〜15g/mであることが好ましい。より好ましくは0.1〜10g/mである。
【0040】
さらに、本発明のエレクトレット繊維シートは、他のシートと積層して積層体繊維シートにしてもよい。たとえば、繊維シートとそれよりも剛性の高いシートを積層して製品強力を向上させたり、脱臭・抗菌等機能性を有するシートと組み合わせて使用してもよい。
【0041】
本発明のエレクトレット繊維シートの製造方法は特に限定されるものではないが、例えば以下の方法により製造することができる。
【0042】
まず、前述のような一般式[1]で表される構造を有する化合物及び樹脂材料を用意する。次いで、該化合物と樹脂材料とを混練した後に、押し出し機から押し出して、繊維、繊維ウェブ、或いは不織布など、所望の構造に加工する。化合物と樹脂材料とを混練する方法としては、紡糸機の押出機ホッパーにこれらを混合して供給し、押出機内で混練りし、直接口金へ供給する方法や、あらかじめ、化合物と樹脂材料を混練押出機や静止混練機等で混練りしてマスターチップを作製し、これを押出機内で溶融し口金部へ供給する方法等がある。
【0043】
次いで、繊維を使用して、常法により繊維シートを形成する。例えば、繊維シートが織物又は編物からなる場合には、前記繊維を使用して糸を形成した後、織ったり、編むことによって製造することができる。また、繊維シートが不織布からなる場合には、前記繊維を使用して繊維ウェブを乾式法や湿式法により形成した後に、繊維ウェブを結合して不織布を製造したり、前記繊維ウェブをスパンボンド法やメルトブロー法により形成した後に、繊維ウェブを結合して不織布を製造することができる。また静電紡糸法や海島繊維の海部分を溶出する方法により極細繊維を主体に構成された不織布を製造することができる。
【0044】
次いで、この繊維シートに対し、常法によりエレクトレット化処理を実施して、エレクトレット繊維シートとする。エレクトレット化処理は繊維シート単層でも、他のシートと積層した積層繊維シートに実施しても構わない。
【0045】
本発明のエレクトレット繊維シートは、濾材として用いることができる。該濾材は、エアフィルター全般、なかでも空調用フィルター、空気清浄機用フィルター、自動車キャビンフィルターの高性能用途に好適であるが、その応用範囲はこれらに限られるものではない。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を挙げてより具体的に本発明を説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。また、実施例において使用する特性値は、次の測定法により測定したものである。
【0047】
(1)目付
15cm×15cmのシートの重量を測定し、得られた値を1m当たりの値に換算し、目付(g/m)とした。
【0048】
(2)平均繊維径
繊維シートの任意の場所から、1cm×1cmの測定サンプルを30個採取し、走査型電子顕微鏡で倍率を調節して、採取したサンプルから繊維表面写真を各1枚ずつ、計30枚を撮影した。倍率は、繊維シートがメルトブロー不織布の場合2000倍、極細繊維不織布の場合80000倍とした。写真の中の繊維直径がはっきり確認できるものについてすべて測定し、平均した値を平均繊維径とした。
【0049】
(3)捕集性能、圧力損失
繊維シートの縦方向10カ所で15cm×15cmの測定用サンプルを採取し、それぞれのサンプルについて、図1に示す捕集性能測定装置で測定した。この捕集性能測定装置は、測定サンプルMをセットするサンプルホルダー1の上流側にダスト収納箱2を連結し、下流側に流量計3、流量調整バルブ4、ブロワ5を連結している。また、サンプルホルダー1にパーティクルカウンター6を使用し、切替コック7を介して、測定サンプルMの上流側のダスト個数と下流側のダスト個数をそれぞれ測定することができる。さらにサンプルホルダー1は圧力計8を備え、サンプルM上流、下流の静圧差を読み取ることができる。捕集性能の測定にあたっては、ポリスチレン0.309U 10%溶液(メーカー:ナカライテック)を蒸留水で200倍まで希釈し、ダスト収納箱2に充填する。次にサンプルMをホルダー1にセットし、風量をフィルター通過速度が1.5m/minになるように流量調整バルブ4で調整し、ダスト濃度を1万〜4万個/2.83×10−4(0.01ft)の範囲で安定させ、サンプルMの上流のダスト個数Dおよび下流のダスト個数dをパーティクルカウンター6(リオン社製、KC−01B)で1サンプル当り10回測定し、JIS K−0901に基づいて下記計算式にて0.3〜0.5μm粒子の捕集性能(%)を求めた。10サンプルの平均値を最終的な捕集性能とした。
捕集性能(%)=〔1−(d/D)〕×100
ただし、
d:下流ダストの10回測定トータル個数
D:上流のダストの10回測定トータル個数
また、圧力損失は捕集性能測定時のサンプルM上流、下流の静圧差を圧力計8で読み取り求めた。10サンプルの平均値を最終的な圧力損失とした。
【0050】
(4)QF値
濾過性能の指標となるQF値は、前記捕集性能および圧力損失を用いて以下の式により計算される。低圧力損失かつ高捕集性能であるほどQF値は高くなり、濾過性能が良好であることを示す。
QF値(Pa−1)=−[ln(1−[捕集性能(%)]/100)]/[圧力損失(Pa)]
(5)繊維シート内化合物含有量
繊維シート内に含まれる、一般式[1]で表される構造を有する化合物の含有量は、以下のようにして求めた。
【0051】
繊維シートサンプル2gをクロロホルムでソックスレー抽出後、該抽出物についてHPLC分取を繰り返し、各分取物についてH−NMR測定で構造を確認した。該化合物の含まれる分取物の重量を合計し、シート全体に対する割合を求め、これを繊維シート内化合物含有量とした。
【0052】
実施例1
原料として、ポリプロピレン(MFR=800、キマソーブ944(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)を1重量%添加)を使用し、これに化合物A(特表2003−534347号公報に記載の方法で作製、構造式は式[2]のとおり。)を0.2重量%添加して、紡糸機の原料ホッパーへ投入、直径が0.4mmの吐出孔を一直線上に配置した口金(孔ピッチ:1mm、孔数:151ホール、幅:150mm)を用いて、メルトブロー法により、ポリマー吐出量40g/分、ノズル温度230℃、エア圧力0.05MPaの条件で噴射し、捕集コンベア速度を調整することによって目付が30g/mの不織布シートを得た。
【0053】
得られた不織布シートを逆浸透膜濾過水が供給される水槽の水面に沿って走行させながら、その表面にスリット状の吸引ノズルを当接させて水を吸引することにより浸透処理し、次いで水切り後に80℃で20分熱風乾燥することにより、エレクトレット化メルトブロー不織布を得た。このエレクトレット化メルトブロー不織布の特性値を測定し、表1に示した。
【0054】
【化3】

【0055】
実施例2
ポリプロピレン(MFR=50,キマソーブ944(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)を1重量%添加)に化合物Aを0.2重量%添加し、混練してマスターチップを作製、このチップと、ポリ乳酸(溶融粘度350Pa・s/230℃、剪断速度121.6sec−1)を、2軸押出混練機でブレンド比8/2の割合で230℃で混練し、ポリマーアロイチップを得た。
【0056】
このチップを使用し、実施例1と同じ口金を用いて、メルトブロー法により、ポリマー吐出量40g/分、ノズル温度230℃、エア圧力0.03MPaの条件で噴射し、捕集コンベア速度を調整することによって目付が15g/mの不織布を得た。
【0057】
次いでこの不織布をアルカリ処理しポリ乳酸成分を溶出させ、目付が3g/mの不織布を得た。
【0058】
得られた不織布に、コロナ荷電法により25kV/cmの印加電圧でエレクトレット処理を実施し、エレクトレット化不織布を得た。このエレクトレット化不織布の特性値を測定し、表1に示した。
【0059】
比較例1
原料として、実施例1と同じ原料を使用し、これに化合物Aを添加せず、紡糸機の原料ホッパーへ投入、実施例1と同じ口金を使用し、メルトブロー法により、ポリマー吐出量40g/分、ノズル温度280℃、エア圧力0.06MPaの条件で噴射し、捕集コンベア速度を調整することによって目付が30g/mの不織布シートを得た。
【0060】
得られた不織布シートを実施例1と同様の方法でエレクトレット処理した後、特性値を測定し、表1に示した。
【0061】
比較例2
化合物Aを使用しなかった以外は実施例2と同じ方法でポリマーアロイチップを作製、このチップを使用し、実施例1と同じ口金を用いて、メルトブロー法により、ポリマー吐出量40g/分、ノズル温度210℃、エア圧力0.03MPaの条件で噴射し、捕集コンベア速度を調整することによって目付が15g/mの不織布を得た。
【0062】
次いでこの不織布をアルカリ処理しポリ乳酸成分を溶出させ、目付が3g/mの不織布を得た。
得られた不織布に、実施例2と同様の方法でエレクトレット処理した後、特性値を測定し、表1に示した。
【0063】
【表1】

【0064】
繊維シート種がメルトブロー不織布である実施例1および比較例1について、一般式[1]で表される構造を有する化合物(式[2]の化合物)を含有している実施例1では、低い圧力損失を有していながら高い捕集性能を示し、その結果高いQF値を示した。一方、一般式[1]で表される構造を有する化合物を含有していない比較例1では、目付、平均繊維径、圧力損失はそれぞれ実施例1と同レベルであったものの、捕集性能は低く、その結果QF値も低い値となった。
【0065】
また、繊維シート種が極細繊維を主体とする不織布である実施例2および比較例2について、一般式[1]で表される構造を有する化合物を含有している実施例2では、低い圧力損失を有していながら高い捕集性能を示し、その結果高いQF値を示した。一方、一般式[1]で表される構造を有する化合物を含有していない比較例2では、目付、平均繊維径、圧力損失はそれぞれ実施例2と同レベルであったものの、捕集性能は低く、その結果QF値も低い値となった。
【0066】
以上のように、一般式[1]で表される構造を有する化合物を含有したエレクトレット繊維シートは、低圧力損失かつ高捕集を同時に満足するものであった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明により、圧力損失が低く、高い捕集性能を示す繊維シートが得られ、この繊維シートは濾材としてエアフィルターに好ましく用いることができるが、その応用範囲はこれらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】捕集性能および圧力損失の測定装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0069】
1:ホルダー
2:ダスト収納箱
3:流量計
4:流量調整バルブ
5:ブロワ
6:パーティクルカウンター
7:切替コック
8:圧力計
M:測定サンプル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主として非導電性繊維を含んでなるエレクトレット繊維シートであって、該エレクトレット繊維シートが下記一般式[1]で表される構造を有する化合物を含有することを特徴とする、エレクトレット繊維シート。
【化1】

(ここで、R〜R9は水素または炭素原子数1〜3のアルキル基)
【請求項2】
前記の一般式[1]で表される構造を有する化合物が、該エレクトレット繊維シート中に0.01〜0.5重量%含有されていることを特徴とする請求項1に記載のエレクトレット繊維シート。
【請求項3】
前記非導電性繊維が、ポリオレフィン繊維であることを特徴とする請求項1または2に記載のエレクトレット繊維シート。
【請求項4】
前記ポリオレフィン繊維が、ポリプロピレンを主体に構成されていることを特徴とする、請求項3に記載のエレクトレット繊維シート。
【請求項5】
メルトブロー不織布であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のエレクトレット繊維シート。
【請求項6】
極細繊維を主体に構成された不織布であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のエレクトレット繊維シート。
【請求項7】
目付が0.1〜80g/mであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のエレクトレット繊維シート。
【請求項8】
2枚以上の繊維シートを積層してなる積層体繊維シートであって、その少なくとも1層が請求項1〜7のいずれかに記載のエレクトレット繊維シートで構成されていることを特徴とするエレクトレット繊維シート。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のエレクトレット繊維シートで構成されていることを特徴とするエアフィルター。

【図1】
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【公開番号】特開2008−81894(P2008−81894A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−264101(P2006−264101)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】