説明

エレクトレット誘電体膜の表面電圧調整方法

【課題】エレクトレット誘電体膜に帯電している表面電圧を簡易な手法にて所定の電圧に調整し得るようにする。
【解決手段】例えば固定極20側に一体に含まれているエレクトレット誘電体膜23に帯電している表面電圧を調整するにあたって、アルコール蒸気を含む圧搾空気47をエレクトレット誘電体膜23の全面に吹き付けて、エレクトレット誘電体膜23の表面電圧を所定の電圧値に調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトレットコンデンサマイクロホンユニットに含まれるエレクトレット誘電体膜の表面電圧調整方法に関し、さらに詳しくいえば、エレクトレット誘電体膜に帯電している表面電圧を簡易な手法にて所定の電圧に調整する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
FEP(フロロエチレンポリマー)などのエレクトレット材(エレクトレット誘電体膜)は、例えばコロナ放電などにより直流の高電圧が印加されると分極化し、その電圧除去後においても分極化が残存する特性を有している。
【0003】
そのため、エレクトレット誘電体膜を備えたエレクトレットコンデンサマイクロホンユニットでは、DC−DCコンバーターなどの成極電源が不要であり、マイクロホンの電子回路を簡素化できる、という利点がある。
【0004】
また、エレクトレット誘電体膜自体が電気絶縁性で、成極電圧の漏洩による雑音が発生しないなどの利点があるため、この点を着目して、エレクトレットコンデンサマイクロホンユニットについては、例えば特許文献1,2などのように種々の提案がなされている。
【0005】
図2に示すように、コンデンサマイクロホンユニットは、一対のコンデンサ要素としての振動板10と固定極20とを備えている。
【0006】
振動板10は所定の張力が付与された状態で金属製のダイアフラムリング11に張設され、これに対して、固定極20は出力電極ロッド22が接続された状態で合成樹脂からなる絶縁座21に支持され、これらは電気絶縁性のスペーサリング12を介して対向的に配置される。
【0007】
図2に示すコンデンサマイクロホンユニットはバックエレクトレット型で、固定極20側にエレクトレット誘電体膜23が設けられているが、膜エレクトレット型の場合には、振動板10側にエレクトレット誘電体膜が設けられる(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
なお、バックエレクトレット型の場合には、エレクトレット誘電体膜を溶着したアルミニウムや黄銅合金などのマザーの金属板からプレスの打ち抜き加工により個々のエレクトレットボード(固定極)が作成され、膜エレクトレット型の場合には、振動板としてエレクトレット誘電体膜に金蒸着した振動板が用いられる。
【0009】
【特許文献1】特開2004−254253号公報
【特許文献2】特開2006−041575号公報
【特許文献3】特開平11−88989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記したように、エレクトレットコンデンサマイクロホンユニットによれば、DC−DCコンバーターなどの成極電源が不要、また、成極電圧の漏洩による雑音が発生しないなどの利点があるが、他方において、エレクトレット誘電体膜の表面電圧を制御することが困難であるという問題がある。
【0011】
すなわち、バックエレクトレット,膜エレクトレットのいずれにしても、そのエレクトレット誘電体膜の表面電圧が必要以上に高い場合、振動板が固定極側に引き寄せられ変位してしまう。
【0012】
この変位に伴って静電容量が高くなるため、等価的にエレクトレット誘電体膜の表面電圧が高くなったことと同様に感度が上昇するし、吸着に対しての安定度が低くなる。
【0013】
コンデンサマイクロホンには種々の用途のものがあるが、とりわけスタジオ収音などに使用されるマイクロホンにあっては、高い収音性能が要求されることから、エレクトレット誘電体膜に帯電されている表面電圧を適正電圧に調整する必要がある。
【0014】
エレクトレット誘電体膜の表面電圧は、アルコール液(例えばエタノール液)をエレクトレット誘電体膜の表面に接触させると消失することが知られている。そこで従来では、アルコール液を染み込ませた綿棒などでエレクトレット誘電体膜の表面を拭いて表面電圧を低下させるようにしている。
【0015】
しかしながら、綿棒などによる払拭では、エレクトレット誘電体膜の全体を均一に拭くことが難しく、その結果、部分的に表面電圧が異なることになり、指向性不良が発生することがある。
【0016】
したがって、本発明の課題は、エレクトレットコンデンサマイクロホンユニットにおいて、エレクトレット誘電体膜に帯電している表面電圧を簡易な手法にて所定の電圧に調整し得るようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、本発明は、請求項1に記載されているように、一対のコンデンサ要素として、コンデンサマイクロホンに用いられる振動板と固定極のいずれか一方のコンデンサ要素に一体に含まれているエレクトレット誘電体膜に帯電している表面電圧を調整するエレクトレット誘電体膜の表面電圧調整方法において、アルコール蒸気を含む圧搾空気を上記エレクトレット誘電体膜の全面に吹き付けて、上記エレクトレット誘電体膜の表面電圧を所定の電圧値に調整することを特徴としている。
【0018】
本発明のより好ましい態様によれば、請求項2に記載されているように、上記エレクトレット誘電体膜を含む上記コンデンサ要素を測定系の接地に接続して、上記エレクトレット誘電体膜の表面電圧を表面電位計にて測定しながら、上記エレクトレット誘電体膜の表面電圧が所定の電圧値にまで低下するまで、上記アルコール蒸気を含む圧搾空気を上記エレクトレット誘電体膜の全面に吹き付ける。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、アルコール蒸気を含む圧搾空気をエレクトレット誘電体膜の全面に吹き付けることにより、エレクトレット誘電体膜の表面電圧をむらなくほぼ均一に低下させることができる。
【0020】
したがって、エレクトレット誘電体膜を含むコンデンサ要素を測定系の接地に接続して、エレクトレット誘電体膜の表面電圧を表面電位計にて測定しながら、アルコール蒸気を含む圧搾空気をエレクトレット誘電体膜の全面に吹き付けることにより、エレクトレット誘電体膜の表面電圧を所望とする電圧にまで確実に低下させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、図1の模式図により、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、この実施形態では、先の図2で説明したバックエレクトレット型の表面電圧を調整するようにしているが、本発明は膜エレクトレット型にも適用可能である。
【0022】
図1を参照して、固定極20に設けられているエレクトレット誘電体膜23に帯電(蓄電)されている表面電圧を調整するにあたって、エレクトレット電圧を測定するための表面電位計30と、アルコール蒸気発生装置40とを用いる。
【0023】
表面電位計30は市販されているものでよく、例えば川口電気製作所製の表面電位計S−210(型番)を例示することができる。この種の表面電位計は、通常、距離による誤差が少なくなるように設計されている。
【0024】
固定極20については、エレクトレット誘電体膜23が表面電位計30の測定面31と対向するように図示しない治具にて保持する。その際、固定極20は絶縁座21に支持された状態で上記治具にて保持されてよく、出力電極ロッド22は適当なリード線を介して測定系の接地に接続する。
【0025】
アルコール蒸気発生装置40は、アルコール液(好ましくはエタノール液)42が所定量入れられた密閉タンク41と、密閉タンク41内に圧搾空気を吹き込むエアポンプ43と、先端に細径のノズル46を有し密閉タンク41の上部空間に連通される送出パイプ45とから構成することができる。
【0026】
このアルコール蒸気発生装置40によれば、エアポンプ43からの圧搾空気を送気パイプ44を介してアルコール液42内に噴出させることにより、密閉タンク41内の上部空間にアルコール蒸気が生成され、そのアルコール蒸気はエアポンプ43から加えられる空気圧にて送出パイプ45のノズル46から吹き出される。
【0027】
表面電位計30に設けられているメータ32にてエレクトレット誘電体膜23の表面電圧を測定しながら、ノズル46よりアルコール蒸気を含む圧搾空気47をエレクトレット誘電体膜23の全面に吹き付ける。
【0028】
これにより、エレクトレット誘電体膜23の表面電圧はゆるやかに低下し始める。エレクトレット誘電体膜23の表面電圧が所望とする電圧に到達した時点で、アルコール蒸気を含む圧搾空気47の吹き付けを停止する。
【0029】
このように、本発明によれば、エレクトレット誘電体膜23の表面電圧を測定しながら、連続的(リニア)に表面電圧を調整することができる。しかも、アルコール蒸気を含む圧搾空気47をエレクトレット誘電体膜23の全面に吹き付けることができるため、表面電圧のばらつきもほとんどなくすことができる。
【0030】
よって、感度,S/N比,指向周波数応答の良好なエレクトレットコンデンサーマイクロホンユニットを安価に実現することができる。
【0031】
一例として、アルコール液にエタノールを使用し、エアポンプの圧搾空気圧を約0.2MPaとし、0.6mm径のノズルを用いて、初期表面電圧が約150Vのエレクトレット誘電体膜にエタノール蒸気を含む圧搾空気を約20秒間吹き付けたところ、表面電圧を約120Vに調整することができた。これは、感度に換算すると約2dBに相当する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のエレクトレット誘電体膜の表面電圧調整方法を説明するための模式図。
【図2】バックエレクトレット型のコンデンサマイクロホンユニットを示す概略的な断面図。
【符号の説明】
【0033】
10 振動板
11 ダイアフラムリング
12 スペーサリング
20 固定極
21 絶縁座
22 出力電極ロッド
23 エレクトレット誘電体膜
30 表面電位計
40 アルコール蒸気発生装置
41 密閉タンク
42 アルコール液
43 エアポンプ
45 送出パイプ
46 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のコンデンサ要素として、コンデンサマイクロホンに用いられる振動板と固定極のいずれか一方のコンデンサ要素に一体に含まれているエレクトレット誘電体膜に帯電している表面電圧を調整するエレクトレット誘電体膜の表面電圧調整方法において、
アルコール蒸気を含む圧搾空気を上記エレクトレット誘電体膜の全面に吹き付けて、上記エレクトレット誘電体膜の表面電圧を所定の電圧値に調整することを特徴とするエレクトレット誘電体膜の表面電圧調整方法。
【請求項2】
上記エレクトレット誘電体膜を含む上記コンデンサ要素を測定系の接地に接続して、上記エレクトレット誘電体膜の表面電圧を表面電位計にて測定しながら、上記エレクトレット誘電体膜の表面電圧が所定の電圧値にまで低下するまで、上記アルコール蒸気を含む圧搾空気を上記エレクトレット誘電体膜の全面に吹き付けることを特徴とする請求項1に記載のエレクトレットコンデンサーマイクロホンユニットにおける表面電圧の調整方法。

【図1】
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【図2】
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