説明

エレクトロクロミック表示装置及び表示駆動装置

【課題】エレクトロクロミック表示装置において、発色動作を適正に行うことができるとともに、発色の工程の際に、透明電極上に析出する結晶が急激に成長することのないエレクトロクロミック表示装置を提供すること。
【解決手段】電解液と、前記電解液に電荷を注入するための電極と、を有し、酸化還元反応により前記電極を介して前記電解液に電荷が注入されることにより発色し、前記電解液に前記電荷と逆極性の電荷が注入されることにより消色する表示セグメント10−1乃至10−7が配置された表示パネル10と、前記発色の工程の際、定電流をパルス電流として繰り返し出力し、前記表示セグメント10−1乃至10−7の電極に印加することで前記電解液に電荷を注入する少なくとも1つの定電流印加回路20と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミック表示装置及び表示駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電解液に電荷を注入することで、酸化還元反応により電解液中の溶質が析出したり溶解したりする現象を利用した表示装置(以下、エレクトロクロミック表示装置と称する)が各種提案されている。例えば、ビスマス(Bi)を主原料として用いたエレクトロクロミック表示装置の場合は、酸化インジウム錫(ITO)等の透明電極から電解液に負の電荷を注入すると、電解液中のBiイオンが還元されて透明電極上に析出し、その部分が黒く発色する。逆に、透明電極から電解液に正の電荷を注入すると、透明電極上に析出していたBiが酸化されて電解液中に溶解し、その部分が消色する。
【0003】
この種のエレクトロクロミック表示装置においては、電解液に注入した電荷量によって析出する溶質の量が決まるので、表示部の面積が大きければ大きいほど多くの電荷を注入して析出させる溶質の量を多くしなければならない。
【0004】
このように表示部の面積に応じた電荷を注入するために、従来は、矩形波の電圧パルスを印加したり、三角波、のこぎり波の電圧パルスを印加したりして電荷を注入するようにしている。例えば、特許文献1においては、矩形波の電圧パルスを表示部に印加することにより、発色及び消色を行っている。ここで、表示部の表示駆動を行う表示駆動装置から一定時間の矩形波パルスを表示部に印加した場合、表示部までの配線抵抗を無視できれば、発色時の表示部における抵抗値が表示面積に反比例することが知られている。また、消色時においても消色が完了するまでの間は、発色時と同様に抵抗値が表示面積に反比例することも知られている。したがって、一定電圧を一定時間印加すれば、表示面積にほぼ比例した量の電荷を注入することが可能である。
【特許文献1】特開2000−142223号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、エレクトロクロミック表示装置における前記発色の工程の際に、電解液に大きな電流を連続的に流すと(透明電極から電解液に多量の負の電荷を注入すると)、エレクトロクロミック表示装置の端子電圧が負の側に大きくなってしまう。従って、この場合には透明電極上に析出する結晶が急激に成長する。この為、消色の工程において、この結晶を電解液中に溶解しきれない場合が生じる。このように前記結晶を電解液中に溶解しきれない場合には、前記結晶はカス(黒ブツ)として前記透明電極上に残ってしまうこととなる。
【0006】
このような事情に鑑みて、エレクトロクロミック表示装置における前記発色の工程の際に、電解液に例えば非常に小さい電流を長時間印加することで、電解液の電圧を低い負の電圧の状態で、前記のように発色させるという手法も考えられる。しかしながら、このように電解液に非常に小さい電流を流す場合には、エレクトロクロミック表示装置の電圧は、発色閾値電圧(エレクトロクロミック表示装置を発色させる為に印加することを要する最低の電圧値)を越えず、電流をいつまで流しても発色しないという問題が生じる。
【0007】
本発明は、前記の事情に鑑みてなされたもので、エレクトロクロミック表示装置において、発色動作を適正に行うことができるとともに、発色の工程の際に、透明電極上に析出する結晶が急激に成長することのないエレクトロクロミック表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明の第1の態様によるエレクトロクロミック表示装置は、電解液と、前記電解液に電荷を注入するための電極と、を有し、酸化還元反応により前記電極を介して前記電解液に電荷が注入されることにより発色する少なくとも1つの表示部が配置された表示手段と、前記表示部の電極に接続され、定電流を間欠的に出力する電流パルスを複数回出力し、該複数の電流パルスを前記表示部の電極に印加することで前記電解液に前記電荷を注入する少なくとも1つの定電流印加手段と、を具備することを特徴とする。
【0009】
また、前記の目的を達成するために、本発明の第2の態様による表示駆動装置は、電解液と、前記電解液に電荷を注入するための電極と、を有し、前記電極を介して前記電解液に電荷が注入されることにより発色する少なくとも1つの表示部が配置された表示手段の表示駆動を行う表示駆動装置であって、前記表示部の電極に接続され、定電流を間欠的に出力する電流パルスを複数回出力し、該複数の電流パルスを前記表示部の電極に印加することで前記電解液に前記電荷を注入する少なくとも1つの定電流印加手段を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、表示部の電解液に電荷を注入することにより発色するエレクトロクロミック表示装置において、発色の工程の際に、表示部の電極に定電流を電流パルスとして間欠的に複数回に印加することで電解液に電荷を注入することにより、電極上に析出する結晶が急激に成長することのないエレクトロクロミック表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る表示駆動装置が適用されたエレクトロクロミック表示装置の構成を示すブロック図である。また、図2は、表示パネルの表示セグメントの配置例を示す図である。
【0012】
図1に示すエレクトロクロミック表示装置は、表示パネル10と、定電流印加回路20と、セグメントプロファイルメモリ30と、システムインターフェース40とから構成されている。そして、本第1実施形態に係わるエレクトロクロミック表示装置においては、図1に示すように、表示パネル10が複数の表示セグメントを有し、各表示セグメントに定電流印加回路20より定電流を印加して駆動するものであり、特に、各表示セグメントに印加する電流の電流値を、セグメントプロファイルメモリ30に記憶された値に基づいて、各表示セグメントの面積に比例した電流値に設定する構成を有している。
【0013】
表示手段としての表示パネル10はセグメント方式の表示パネルであり、表示部としての複数の表示セグメントが例えば図2に示すようにして配置されて構成されている。ここで、図2の例は、表示パネル10を、アルファベットや数字等の表示パターンを表示するための表示パネルとして利用する際の表示セグメントの配置例であり、7個の表示セグメント(表示セグメント10−1〜10−7)が8字状に配置されている。なお、表示セグメントの形状、数、及びその配置は図2で示したものに限るものではなく、表示パネルとして要求される仕様等に応じて適宜変更することが可能である。
【0014】
図3は、図2の表示セグメントの構成について説明するためのA−A線断面図である。ここで、図2の断面図は表示セグメント10−1の断面図であるが、他の表示セグメントの構成も図3で説明するものと基本的には同様である。
図3に示すように、表示セグメントは、2枚の電極10−11と電極10−12とが平行配置され、これら電極10−11と電極10−12との間に電解液10−13が満たされ、これらが封止材10−14で封止されて構成されている。更に電極10−11の裏面には、表示セグメントを保護するためのガラス基板10−15が貼り付けられている。ここで、電極10−11は透明性を有する透明電極であり、例えば酸化インジウム錫(ITO)電極が用いられる。また、電極10−12は、透明な電極でも不透明な電極でも良い。この電極10−12には、例えば銅(Cu)電極が用いられる。更に、電解液10−13は、例えばBi、Cuが溶解した電解液である。なお、ここで示した材料は一例であり適宜変更可能である。例えば、電解液の溶解させる金属はBiに限らず銀(Ag)等でも良い。さらに、金属だけでなく、ビオロゲン化合物のような有機物を用いることも可能である。また、BiやCuを溶解させるための溶液も臭酸や塩酸、ヨウ素酸等、種々のものを用いることができる。更には、電極10−11と電極10−12との間の電解液10−13は、電解液を保持させたウエットケーキシートを用いるようにしても良い。
【0015】
図3のような構成の表示セグメントに負の電荷を注入すると、電解液中のBiイオンが還元されて電極10−11上に析出する。これにより表示セグメントが黒く発色する。逆に、表示セグメントに正の電荷を注入すると、電極10−11上に析出していたBiが酸化されて電解液中に溶解する。これにより黒く発色していた表示セグメントが消色する。
【0016】
定電流印加回路20は表示パネル10を構成する複数の表示セグメントの各々に対応して、表示セグメントの数だけ設けられ、各表示セグメントに定電流を印加することにより、表示セグメントを発色又は消色させるための電荷を注入する。ここで、図1に示すように定電流印加回路20は、発色パルス発生器20−1と、消色パルス発生器20−2と、定電流ドライバ20−3と、電圧検出回路20−4とから構成されている。これら定電流印加回路20の各回路及びその動作については後で詳しく説明する。
【0017】
セグメントプロファイルメモリ30は、定電流印加回路20より各表示セグメントに印加する電流の値を設定するためのものであり、印加される電流によって各表示セグメントに印加される電圧が発色閾値電圧を越え、各表示セグメントの面積の値、あるいは、各表示セグメントの面積に対応した適正な発色をさせるために必要な電流値指定データを、各表示セグメントに対応して記憶しておくためのメモリである。なお、以下においては、セグメントプロファイルメモリ30に各表示セグメントの面積に対応した電流値指定データが記憶されているものとするが、各表示セグメントの面積の値が記憶され、例えば発色パルス発生器20−1や消色パルス発生器20−2において、対応する電流値指定データに変換する機能を備えるものであってもよい。そして、セグメントプロファイルメモリ30は、システムインターフェース40からのアドレス信号を受けて、そのアドレスに記憶された電流値指定データを、対応する表示セグメントに接続された定電流印加回路20内の発色パルス発生器20−1及び消色パルス発生器20−2に出力する。なお、セグメントプロファイルメモリ30はEPROMやフラッシュROM等の不揮発性メモリであることが好ましい。セグメントプロファイルメモリ30を不揮発性メモリで構成することで、回路の電源がオフされた場合であっても記憶内容を保持しておくことが可能である。
【0018】
システムインターフェース40は、図示しないCPUからの表示パネル10の表示又は非表示の指示を受けて、その指示に該当する表示セグメントを発色又は消色させる。このためにシステムインターフェース40は、該当する定電流印加回路20内の発色パルス発生器20−1及び消色パルス発生器20−2にパルス幅指定データを出力すると共に、発色又は消色させる表示セグメントに対応した電流値指定データが格納されているアドレスに対応するアドレス信号をセグメントプロファイルメモリ30に出力する。
【0019】
次に、定電流印加回路20について更に詳しく説明する。
図4は、発色パルス発生器20−1を順序論理回路で構成した場合の回路ブロック図の一例である。図4に示すように、発色パルス発生器20−1は、パルス幅レジスタ20−11と、電流値レジスタ20−12と、DAコンバータ20−13と、ダウンカウンタ20−14と、アナログスイッチ20−15とから構成されている。
【0020】
パルス幅レジスタ20−11は、システムインターフェース40から後述する発色パルス(電流パルス)のパルス幅を指定するためのパルス幅指定データを受けて、そのデータを保持する。
【0021】
電流値レジスタ20−12は、セグメントプロファイルメモリ30から各表示セグメントに対応する電流値指定データを受けて、そのデータを保持する。DAコンバータ20−13は、電流値レジスタ20−12に保持された電流値指定データをアナログの電圧信号に変換する。
【0022】
ダウンカウンタ20−14は、発色時にシステムインターフェース40からSTARTパルスを受けてパルス幅レジスタに保持された値を読み出し、この値を一定時間毎にカウントダウンしながら、ON又はOFF信号をアナログスイッチ20−15に出力する。つまり、ダウンカウンタ20−14は、カウント値が0でないときにON信号を出力し、カウント値が0になったときにOFF信号を出力する。アナログスイッチ20−15はDAコンバータ20−13と負の電源−Vとに接続され、ダウンカウンタ20−14からON信号を受けたときにONしてDAコンバータ20−13の出力を定電流ドライバ20−3に入力し、OFF信号を受けたときに電圧値−Vを定電流ドライバ20−3に入力する。
【0023】
このような構成により、ダウンカウンタ20−14がカウントを行っている間のみアナログスイッチ20−15がONするので、結果としてDAコンバータ20−13で得られた電圧値及びパルス幅指定データで指定されたパルス幅を有する発色パルスが定電流ドライバ20−3に入力される。そして、ダウンカウンタ20−14がカウントを終了した時点でアナログスイッチ20−15がOFFして、電圧値−Vが定電流ドライバ20−3に入力される。
【0024】
なお、図4は、発色パルス発生器20−1の構成であるが、消色パルス発生器20−2も発色パルス発生器20−1とほぼ同様の回路構成で実現できる。ただし、消色パルス発生器20−2においては、アナログスイッチに接続される電源を負の電源ではなく、正の電源+Vとする。また、発色パルス発生器20−1及び消色パルス発生器20−2の機能は、マイクロコンピュータ等の演算処理によって実現するようにしても良い。
【0025】
図5は、定電流ドライバ20−3及び電圧検出回路20−4を構成する回路の一例を示す図である。また、図6は、定電流印加回路と表示セグメントとの間の配線抵抗について示す図である。定電流ドライバ20−3は、演算増幅器20−31と、MOSトランジスタ20−32と、抵抗20−33とからなる負方向定電流印加手段と、演算増幅器20−34と、MOSトランジスタ20−35と、抵抗20−36とからなる正方向定電流印加手段とを備える。また、電圧検出回路20−4は、例えばADコンバータから構成されている。
【0026】
図5において、演算増幅器20−31の非反転入力端子には発色パルス発生器20−1からの出力(発色パルス又は−V)が入力される。そして、演算増幅器20−31の出力端子はMOSトランジスタ20−32のゲートに接続され、MOSトランジスタ20−32のソースは演算増幅器20−31の反転入力端子と抵抗20−33の一端とに接続されている。更に、抵抗20−33の他端は負の電源−Vに接続されている。また、演算増幅器20−34の非反転入力端子には消色パルス発生器20−2からの出力(消色パルス又は+V)が入力される。また、演算増幅器20−34の出力端子はMOSトランジスタ20−35のゲートに接続され、MOSトランジスタ20−35のソースは演算増幅器20−34の反転入力端子と抵抗20−36の一端とに接続されている。更に、抵抗20−36の他端は正の電源+Vに接続されている。
【0027】
また、MOSトランジスタ20−32及び20−35のドレインは共通に定電流ドライバ20−3の出力端子に接続されている。そして、定電流ドライバ20−3の出力端子は、図6に示すようにして表示セグメント10−1に接続されると共に、電圧検出回路20−4にも接続されている。なお図6の参照符号10−16で示す抵抗は、定電流ドライバ20−3と表示セグメント10−1との間の配線抵抗や接触抵抗等による抵抗である。
【0028】
以下、定電流ドライバ20−3の動作について説明する。なお、負方向定電流印加手段と正方向定電流印加手段とは入力される電圧の極性や出力される電流の方向が逆なだけで、基本的な動作は同じであるので、ここでは正方向定電流印加手段の動作のみについて説明する。
【0029】
図5に示す構成において、表示セグメントの消色時には、演算増幅器20−31の非反転入力端子に消色パルス発生器20−2からの消色パルスが入力される。この消色パルスの入力により、演算増幅器20−34の出力がMOSトランジスタ20−35のゲートに印加され、MOSトランジスタ20−35がON状態となる。これにより、消色パルスの電圧値に応じた電流が、定電流ドライバ20−3の出力端子から正の電源+Vに向かって(即ち、表示セグメント10−1から定電流ドライバ20−3に向かって)流れる。また、定電流ドライバ20−3の出力端子の電圧が電圧検出回路20−4で検出される。消色時において電圧検出回路20−4で検出される電圧は、消色パルスによって流れる電流と出力端子に接続される負荷(表示セグメントの抵抗や配線抵抗等)とに応じて発生する電圧である。図示しないCPUは、電圧検出回路20−4によって検出された電圧値が所定の基準値Vbを越えているか否かを判断する。また、例えば、電圧検出回路20−4の出力信号が検出された電圧値が所定の基準値Vbを越えているか否かで2値化され、この2値化信号がシステムインターフェース40を介して図示しないCPUに入力されるものであってもよい。ここで、基準値Vbは表示セグメント毎に設定される。
【0030】
図5に示すように、正方向定電流印加手段が定電流ドライバを構成しているので、表示セグメント10−1における電圧の変化等によらず、表示セグメント10−1に印加される電流の量は一定となる。このようにして、表示セグメント10−1に正の電荷が注入される。
【0031】
また、消色パルス発生器20−2から+Vが入力された場合には、演算増幅器20−31の出力が0となるので、これに伴ってMOSトランジスタ20−35がOFF状態となり、定電流ドライバ20−3からの電流出力が0となる。
【0032】
なお、負方向定電流印加手段に発色パルス発生器20−1から発色パルスが入力された場合には、定電流ドライバ20−3の出力端子から正の電源−Vに向かって(即ち、定電流ドライバ20−3から表示セグメント10−1に向かって)電流が流れることになる。
【0033】
図7は、発色時及び消色時に、定電流印加回路20から表示セグメントに印加される電流及びこの電流によって発生する電圧の変化の概要を示すタイミングチャートであり、図8は、本第1実施形態に係るエレクトロクロミック表示装置の発色時において、定電流印加回路20から表示セグメントに印加される電流のタイミングを示すタイミングチャートである。ここで、図7においては図面上側を正方向、図面下側を負方向としている。なお、図7に示す電流及び電圧の変化は概要を示しているものであって、本第1実施形態においては、発色時には、図8に示すタイミングチャートに示すように、発色のための電流をパルス状に間欠的に複数回印加する。ここで、発色時において表示セグメントに印加するパルス状の電流を発色パルス(電流パルス)と称する。この発色パルスは、例えば一定間隔で複数回印加される。
【0034】
図7、図8に示すように、パルス幅指定データによって指定されたパルス幅及びセグメントプロファイルメモリ30に記憶された電流値指定データによって指定された負の定電流(表示セグメント10−1から定電流ドライバ20−3の方向の電流)を有する複数の発色パルスが印加されたときに、その印加電流×パルス幅×パルス数に相当する負の電荷が表示セグメントに注入され、発色が起きる。ここで、発色パルスの電流値は、上述のように、発色パルスの電流によって表示セグメントに印加される電圧が発色閾値電圧を越え、表示セグメントの面積の値、あるいは、表示セグメントの面積に対応して適正な発色をさせるために必要な値を有するものであるため、適正に発色させることができる。また、表示セグメントを適正に発色させるのに必要な電荷量は、AgやBiを主原料とする電解液の場合は、約30mC/cmであるが、第1実施形態では、表示セグメントに印加する発色パルスの数を可変とすることで表示セグメントに注入される電荷量を精確にコントロールして、表示セグメントを完全な発色状態と完全な消色状態のみでなく、その中間の状態で発色させることもできる。これにより、グレースケール表示をすることが可能である。また、パルス幅指定データによって指定されたパルス幅及び電流値指定データによって指定された正の定電流(定電流ドライバ20−3から表示セグメント10−1の方向の電流)パルスが印加されたときに、その印加電流×印加時間に相当する正電荷が表示セグメントに注入され、消色が起きる。
【0035】
ここで、発色時又は消色時に流す電流の量は、この電流によって表示セグメント10−1に発生する電圧が、表示セグメントを発色又は消色させるために必要な電圧よりも高く、かつ表示セグメントが破壊しない限界の電圧である限界電圧よりも低くなるようにする。特に、消色時においては、消色がある程度進んだ時点で表示セグメントの抵抗値が増加して電圧が上昇する特性を有しているので、限界電圧よりも低い基準値電圧Vbを設定しておき、電圧検出回路20−4は、表示セグメントの抵抗値が変化して電圧がVbを超えた時点(図7のt1が経過した時点)を検出する。
【0036】
そして、このt1経過の時点では表示セグメントまだ完全な消色に到っていないので、t1の後、所定時間t2の間だけ追加の消色を行うようにする。
【0037】
このように、本第1実施形態においては、図8に示すように、発色時において当該エレクトロクロミック表示装置に印加する電流を複数のパルス(発色パルス)として印加して、発色に必要な電流値を有する発色電流を間欠的にエレクトロクロミック表示装置の各表示セグメントに印加する。これにより、発色動作を適正に行いながら、発色時において印加される電流の平均値を非常に小さい値とすることができるため、透明電極上に析出する結晶が急激に成長する現象が生じることを防ぐことができる。
【0038】
具体的には、図8に示すように発色パルスを例えば10ms印加して、その後例えば90ms間隔待つ。本第1実施形態においてはこの発色パルスの印加の間隔を一定とする。なお、このように発色パルスを10ms印加する為には、前記発色パルス発生器20−1において以下のような一連の動作が行われる。まず、前記パルス幅レジスタ20−11が、前記システムインターフェース40から、発色パルスのパルス幅(ここでは10ms)を指定するためのパルス幅指定データを受けて、そのデータを保持する。そして、前記ダウンカウンタ20−14が、発色時に前記システムインターフェース40からSTARTパルスを受けて前記パルス幅レジスタ20−11に保持されたパルス幅指定データを読み出し、この値を一定時間毎にカウントダウンしながら、ON又はOFF信号を前記アナログスイッチ20−15に出力する。その後、前記アナログスイッチ20−15は前記ダウンカウンタ20−14からON信号を受けた時にONして、前記DAコンバータ20−13で得られた電圧値及び前記パルス幅指定データで指定されたパルス幅(ここでは10ms)を有する発色パルスが前記定電流ドライバ20−3に入力される。このような発色パルスの印加を、90ms間隔にて繰り返し行う。
【0039】
その後、印加した発色パルスによりエレクトロクロミック表示装置に注入した電荷量の合計が、エレクトロクロミック表示装置の発色に必要な電荷量に達するまで、前記の印加周期にて、発色パルスの印加を続ける。このように、発色パルスを間欠的にエレクトロクロミック表示装置に印加していくことで、発色時において印加される電流を擬似的に非常に少ない電流とすることができる。
【0040】
以上説明したように、本第1実施形態によれば、発色の工程の際に、発色動作を適正に行いながら、透明電極上に析出する結晶が急激に成長することのないエレクトロクロミック表示装置を提供することができる。
【0041】
すなわち、本第1実施形態に係るエレクトロクロミック表示装置によれば、発色の工程の際に大きな電流を流した場合に生じる前述の課題を解決することができる。具体的には、発色の工程の際に、エレクトロクロミック表示装置の表示セグメントに発色パルスを間欠的に印加することにより、エレクトロクロミック表示装置の端子電圧が負の側に大きくなってしまうことに起因して透明電極上に析出する結晶が急激に成長する現象が生じることを防ぐことができる。
【0042】
従って、本第1実施形態に係るエレクトロクロミック表示装置によれば、消色の工程において、結晶が電解液中に溶解しきれない現象が生じることを防ぐことができ、結晶を電解液中に溶解しきれないことに起因して、結晶がカス(黒ブツ)として前記透明電極上に残ってしまうことを防ぐことができる。
【0043】
なお、本第1実施形態においては、発色電流を10ms印加した後、再び発色パルスを印加するまでの待ち時間を90msとした。しかしながら、この待ち時間は、90msに限られることはなく、発色パルスを印加していない時にエレクトロクロミック表示装置の電圧が充分に上がる時間であればよい。また、発色パルスを印加する時間については、説明の便宜上10msとしたが、10msに限られないことは勿論である。
【0044】
[第2実施形態]
以下、図面を参照して、本発明の第2実施形態に係るエレクトロクロミック表示装置を説明する。
【0045】
図9は、本第2実施形態に係るエレクトロクロミック表示装置の発色時において、定電流印加回路20から表示セグメントに印加される電流及びこの電流によって発生する電圧の変化を示すタイミングチャートである。なお、同図においては図面上側を正方向、図面下側を負方向としている。
【0046】
前記第1実施形態に係るエレクトロクロミック表示装置においては発色パルスの印加の間隔を一定としたが、本第2実施形態に係るエレクトロクロミック表示装置においては、発色パルスの印加の間隔をエレクトロクロミック表示装置の表示セグメントに発生する電圧値に応じて可変させる点が相違する。
【0047】
すなわち、本第2実施形態においては、図9(a)に示すように発色パルスが印加されていない期間の表示セグメントの電圧を電圧検出回路20−4(図1参照)によって検出して観察する。ここで、電圧検出回路20−4によって検出される表示セグメントの電圧は、発色パルスによる電流が印加されたことによって表示セグメントに発生する起電力に基づく電圧である。すなわち、エレクトロクロミック表示装置においては、発色時に負方向電流が表示セグメントに印加されたとき、当該表示セグメントに負の起電力が生じることが知られており、この負の起電力は−25mV程度である。図示しないCPUは、電圧検出回路20−4によって検出された電圧値が所定の基準値Vを越えているか否かを判断する。この前記基準値Vは、上記の表示セグメントの負の起電力に対応した値に設定され、例えば−30mV程度に設定される。
【0048】
そして、この発色電流の印加後、電圧検出回路20−4によって検出された当該表示セグメントの電圧値が基準値V以上になったと前記CPU(不図示)が判断した時(図9(b)参照)、再び発色パルスを印加する(図9(a)参照)。この動作を、印加する発色パルスによりエレクトロクロミック表示装置の表示セグメントに注入する電荷量の合計が、表示セグメントの発色に必要な電荷量に達するまで繰り返す。このとき、発色パルスが印加されるごとに表示セグメントに注入される電荷量が増加し、表示セグメントに発生する起電力の値が負方向に次第に大きくなるため、発色パルス印加後に表示セグメントの電圧が基準値Vに達するまでの時間が次第に長くなるため、図9(a)に示すように、発色パルスの印加の間隔が次第に長くなる。
【0049】
以上説明したように、本実施形態によれば、前記第1実施形態に係るエレクトロクロミック表示装置と同等の効果を奏する上に、以下のような効果を奏するエレクトロクロミック表示装置を提供することができる。
【0050】
すなわち、前記第1実施形態に係るエレクトロクロミック表示装置においては、発色パルスを印加する間隔を一定としていたため、発色パルスの印加間隔によっては、発色パルスの繰り返しの印加により表示セグメントに印加される電圧が負方向に次第に大きくなっていき、表示セグメントが破壊しない限界電圧を越えてしまう場合があるが、本第2実施形態に係るエレクトロクロミック表示装置によれば、図9(a)に示すように発色パルスを印加した後の表示セグメントの電圧を観察して、図9(b)に示すようにエレクトロクロミック表示装置の電圧が基準値V以上になってから再び発色パルスを印加するようにしていることにより、図9(b)に示すように、表示セグメントに印加される電圧が負方向に大きくなることを抑えることができる。また、図9(a)に示すように発色パルスを印加する間隔は、始めは短く、次第に間隔が長くなるように制御されるため、前記第1実施形態におけるように発色パルスを印加する間隔を一定とした場合に比べて、発色に必要な電荷量を供給するに要する時間を比較的短くすることができる。
【0051】
以上実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形や応用が可能なことは勿論である。例えば、前述した各実施形態はセグメント方式の表示パネルについて説明しているが、前述した各実施形態の手法はドットマトリクス方式の表示パネルに適用することもできる。ただし、ドットマトリクス方式の場合には個々の表示部の面積が等しいため、セグメントプロファイルメモリ30は必ずしも必要ではない。また、この場合、基準値Vbを各表示セグメントに対して共通の値としてもよい。
【0052】
更に、前記した実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件の適当な組合せにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成も発明として抽出され得る。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る表示駆動装置が適用されたエレクトロクロミック表示装置の構成を示すブロック図である。
【図2】表示セグメントの配置例を示す図である。
【図3】表示セグメントの構成について説明するための断面図である。
【図4】消色パルス発生器を順序論理回路で構成した場合の回路ブロック図の一例である。
【図5】定電流ドライバ及び電圧検出回路を構成する回路の一例を示す図である。
【図6】定電流印加回路と表示セグメントとの間の配線抵抗について示す図である。
【図7】発色時及び消色時に、定電流印加回路から表示セグメントに印加される電流及びこの電流によって発生する電圧の変化を示すタイミングチャートである。
【図8】本発明の第1実施形態に係るエレクトロクロミック表示装置の発色時において、定電流印加回路から表示セグメントに印加される電流の変化を示すタイミングチャートである。
【図9】(a)は、本発明の第2実施形態に係るエレクトロクロミック表示装置の発色時において、定電流印加回路から表示セグメントに印加される電流の変化を示すタイミングチャートである。(b)は、該電流によって発生する電圧の変化を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0054】
10…表示パネル
10−1〜10−7…表示セグメント
10−11,10−12…電極
10−13…電解液
10−14…封止材
10−15…ガラス基板
20…定電流印加回路
20−1…発色パルス発生器
20−2…消色パルス発生器
20−3…定電流ドライバ
20−4…電圧検出回路
20−11…パルス幅レジスタ
20−12…電流値レジスタ
20−13…DAコンバータ
20−14…ダウンカウンタ
20−15…アナログスイッチ
20−31,20−34…演算増幅器
20−32,20−35…MOSトランジスタ
20−33,20−36…抵抗
30…セグメントプロファイルメモリ
40…システムインターフェース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液と、前記電解液に電荷を注入するための電極と、を有し、酸化還元反応により前記電極を介して前記電解液に電荷が注入されることにより発色する少なくとも1つの表示部が配置された表示手段と、
前記表示部の電極に接続され、定電流を間欠的に出力する電流パルスを複数回出力し、該複数の電流パルスを前記表示部の電極に印加することで前記電解液に前記電荷を注入する少なくとも1つの定電流印加手段と、
を具備することを特徴とするエレクトロクロミック表示装置。
【請求項2】
前記定電流印加手段における前記各電流パルスのパルス幅は、一定の値に設定されていることを特徴とする請求項1に記載のエレクトロクロミック表示装置。
【請求項3】
前記定電流印加手段における前記各電流パルスを間欠的に出力する時間間隔は、一定の値に設定されていることを特徴とする請求項2に記載のエレクトロクロミック表示装置。
【請求項4】
前記エレクトロクロミック表示装置は、前記定電流印加手段に接続される前記表示部の電極に発生する電圧値を検出する電圧検出手段を更に具備し、
前記定電流印加手段における前記各電流パルスを間欠的に出力する時間間隔は、1つの前記電流パルスの前記表示部の電極への印加が終了した時点から、前記電圧検出手段により検出される前記表示部の電極の電圧値が所定の基準値以上になるまでの時間であることを特徴とする請求項2に記載のエレクトロクロミック表示装置。
【請求項5】
前記定電流印加手段より前記表示部の電極に印加する前記電流パルスの電流値を、当該表示部の電極の面積に比例した値に設定する電流値設定手段を更に備えることを特徴とする請求項1に記載のエレクトロクロミック表示装置。
【請求項6】
電解液と、前記電解液に電荷を注入するための電極と、を有し、酸化還元反応により前記電極を介して前記電解液に電荷が注入されることにより発色する少なくとも1つの表示部が配置された表示手段の表示駆動を行う表示駆動装置であって、
前記表示部の電極に接続され、定電流を間欠的に出力する電流パルスを複数回出力し、該複数の電流パルスを前記表示部の電極に印加することで前記電解液に前記電荷を注入する少なくとも1つの定電流印加手段を具備することを特徴とする表示駆動装置。
【請求項7】
前記定電流印加手段における前記各電流パルスのパルス幅は、一定の値に設定されていることを特徴とする請求項6に記載の表示駆動装置。
【請求項8】
前記定電流印加手段における前記各電流パルスを間欠的に出力する時間間隔は、一定の値に設定されていることを特徴とする請求項6に記載の表示駆動装置。
【請求項9】
前記表示駆動装置は、前記定電流印加手段に接続される前記表示部の電極に発生する電圧値を検出する電圧検出手段を更に具備し、
前記定電流印加手段における前記各電流パルスを間欠的に出力する時間間隔は、1つの前記電流パルスの前記表示部の電極への印加が終了した時点から、前記電圧検出手段により検出される前記表示部の電極の電圧値が所定の基準値以上になるまでの時間であることを特徴とする請求項6に記載の表示駆動装置。
【請求項10】
前記定電流印加手段より前記表示部の電極に印加する前記電流パルスの電流値を、当該表示部の電極の面積に比例した値に設定する電流値設定手段を更に備えることを特徴とする請求項6に記載の表示駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−293236(P2007−293236A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−173951(P2006−173951)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】