エレクトロクロミック装置及びその製造方法
【課題】細孔構造をもち密着性に優れた高透明な多孔質電極を有するエレクトロクロミック装置及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】第1の支持基板6に第1の透明電極72、有機ラジカル化合物13が担持された第1の多孔質電極8が形成された対向電極構造体12と、第2の支持基板1に第2の透明電極2、エレクトロクロック色素3が担持された第2の多孔質電極4が形成された表示電極構造体11とが、両透明電極が対向するように電解質層5を挟持して配置され、第1の多孔質電極が、第1の支持基板の面に略垂直であり20nm以下の細孔を有する柱状体からなる。第1の多孔質電極は、不活性ガスの他に酸素ガスが分圧換算で10%以上、90%以下の割合で存在し、全圧が0.5Pa以上、6.0Pa以下である真空槽中でマグネトロンスパッタリングによって低温下で形成される。
【解決手段】第1の支持基板6に第1の透明電極72、有機ラジカル化合物13が担持された第1の多孔質電極8が形成された対向電極構造体12と、第2の支持基板1に第2の透明電極2、エレクトロクロック色素3が担持された第2の多孔質電極4が形成された表示電極構造体11とが、両透明電極が対向するように電解質層5を挟持して配置され、第1の多孔質電極が、第1の支持基板の面に略垂直であり20nm以下の細孔を有する柱状体からなる。第1の多孔質電極は、不活性ガスの他に酸素ガスが分圧換算で10%以上、90%以下の割合で存在し、全圧が0.5Pa以上、6.0Pa以下である真空槽中でマグネトロンスパッタリングによって低温下で形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミック装置及びその製造方法に関し、特に、応答速度、発色効率、表示色純度に優れ、明瞭で鮮鋭な画像形成が可能であり、繰り返し耐久性にも優れ、薄型化やフレキシブル化にも対応可能なエレクトロクロミック装置及びその製造方法に関する。
【0002】
近年、明るく色純度に優れ、且つ、省消費電力で、フルカラー表示への応用が容易な表示色素材料やこれを用いた表示素子への要望が高まってきている。従来、CRT(Cathode Ray Tube)、PDP(Plasma Display Panel)、ELD(Electroluminescence Display)VFD(Vacuum Fluorescent Display)、FED(Field Emission Display)、LED(Light Emitting Diode)等の発光型素子、DMD(Digital Micromirror Display)、LCD(Liquid Crystal Display)、ECD(Electrochromic Display)、EPD(Electrophoresis Display)等の非発光型素子に関する多くの技術の提案がなされている。
【0003】
しかし、従来公知の各種発光型素子を用いた表示デバイスは、ユーザーが発光を直視する形式で使用するものであるため、長時間閲覧すると視覚的な疲労を引き起こすという問題があった。
【0004】
特に、LCDは非発光型素子の中でも需要が拡大している技術であり、大型、小型の、様々なディスプレイ用途に用いられているが、LCDは視野角が狭く、見やすさの観点からは改善すべき課題を有している。また、LCDを使用している携帯電話等のモバイル機器は、屋外で使用される場合が多く、太陽光下では、表示光が相殺されて視認性が悪化するという問題もあった。
【0005】
非発光型素子のうち反射型表示素子に関しては、電子ペーパーの需要向上により、従来から様々な技術の提案がなされている。例えば、反射型LCDや電気泳動方式の表示デバイスが挙げられる。
【0006】
反射型LCDとしては、二色性色素を用いたG−H型液晶方式や、コレステリック液晶等が知られている。これらの方式は、従来の透過型LCDと比較して、バックライトを使用しないため、省消費電力という利点を有しているが、視野角依存性があり、また光反射効率も低いため、必然的に画面が暗くなってしまうという問題がある。
【0007】
他方、電気泳動方式の表示デバイスは、溶媒中に分散された電荷を帯びた粒子が、電界によって移動する現象を利用した方式であり、省消費電力で、視野角依存性がないという利点を有しているが、フルカラー化を行う場合には、カラーフィルターを利用する並置混合法を適用する必要があるため、反射率が低下し、必然的に画面が暗くなってしまうという問題がある。
【0008】
また、近年においては、自動車の調光ミラーや時計等に、エレクトロクロミック(以下、ECと略記する。)素子を用いたものが提案されている。このEC素子は、偏光板等が不要であり、視野角依存性が無く、発色型で視認性に優れ、構造が簡易で且つ大型化も容易で、更には材料の選択によって多様な色調の表示が可能であるという利点を有している。
【0009】
具体的なEC素子を用いた表示装置の例としては、1対の透明電極の少なくとも一方に半導体ナノ多孔質層を設け、この半導体ナノ多孔質層にEC色素を担持させた構成の表示装置が提案されている(例えば、後記する特許文献1、2、非特許文献1、2を参照。)。これらの表示装置は、開回路を構成して電極間の電子の移動を遮断し酸化還元状態を保持するだけで表示状態を静止できるので、表示画像を維持するための電力が不要であり、消費電力が極めて低いという点で優れている。
【0010】
イエロー、シアン、マゼンタの各EC色素をそれぞれ担持させた構造単位を積層させた構成を有し、フルカラー表示を行うことができるEC表示は周知である(例えば、後記する特許文献3、4、5を参照。)。
【0011】
後記する特許文献1、2、非特許文献1には、フェノチアジン誘導体を担持させた金属酸化物半導体多孔質電極を設けた構成が記載されており、後記する非特許文献2には、対向電極として、透明電極上にアンチモンドープの酸化錫(ATO)多孔質電極を設けた構成が記載されている。
【0012】
「エレクトロクロミック装置」と題する特許文献1、2には、以下の記載がある。
【0013】
半導体ナノ多孔質層を形成する方法としては、特に制限はなく、半導体の種類に応じて適宜選定することができ、例えば、金属陽極酸化法、陰極析出法、スクリーン印刷法、ゾルゲル法、熱酸化法、真空蒸着法、dc及びrfスパッタ法、化学気相堆積法、有機金属化学気相堆積法、分子線堆積法、レーザーアブレーション法等が挙げられ、また、上記方法を組み合わせて半導体ナノ多孔質層を作製することもできる。
【0014】
後記する非特許文献3に、RF反応性マグネトロンスパッタリングによってガラス基板上に形成されたインジウム錫酸化物(ITO)膜の性質に及ぼす酸素分圧の影響について記載されており、また、後記する非特許文献4に、ガラス基板上へのRFマグネトロンスパッタリングによるアンチモンドープ酸化錫(SnO2:Sb)の調製について記載されている。
【0015】
【特許文献1】特開2003−248242号公報(段落0008、段落0025、図1、図2)
【特許文献2】特開2003−270670号公報(段落0008、段落0031、図1〜図4)
【特許文献3】特開2007−10975号公報(段落0028、段落0046)
【特許文献4】特開2007−41259号公報(段落0011〜0012、段落0148、図1〜図4)
【特許文献5】特開2007−121714号公報(段落0071〜0088)
【非特許文献1】H. Pettersson et al, “Direct-driven electrochromic displays based on nanocrystalline electrodes” , Display, 25(2004)223 - 230(Abstract)
【非特許文献2】D. Cummins et al, “Ultrafast Electrochromic Windows Based on Redox-Chromophore Modified Nanostructured Semiconducting and Conducting Films”,J. Phys. Chem. B 2000, 104, 11459 11459(Abstract)
【非特許文献3】L. J. Meng, M. P. dos Snatos, “Study of the effect of the oxygen partial pressure on the properties of rf reactive magnetron sputtered tin-doped indium oxide films”, Applied surface Science, 120(1997)243 - 249(Abstract, Conclusions)
【非特許文献4】Y. Wang et al, “Structural and photoluminescence characters of SnO2:Sb films deposited by RF magnetron sputtering”,Journal of Luminescence 114(2005)71-76(Abstract, Conclusions)
【非特許文献5】E. P. Barrett et al,“The Determination of Pore Volume and Area Distributions in Porous Substance. I. Computations from Nitrogen Isotherms”,J. Am. Chem. Soc., 73(1951)373 -380(Summary)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
非特許文献2に記載の表示装置の対向電極を構成するアンチモンドープの酸化錫(ATO)は、濃い灰色に着色している材料であり、カラー表示を行うための電極材料としては好適な材料ではなかった。
【0017】
また、特許文献1、2、非特許文献1に記載の表示装置の対向電極を構成する金属酸化物半導体多孔質電極に担持させたフェノチアジン誘導体は、酸化反応により赤色発色する性質を有するものであるため、表示電極側でEC色素による目的とする発色表示を妨げてしまうという欠点を有していた。特に、透明な表示デバイスを得ようとする場合や、明瞭なフルカラー画像表示を行うことを目的として、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の3層の発色層を積層させた構成のデバイスを構築する場合には、対向電極は、無色透明の材料により構成されており、且つ、対向電極に担持させた材料が、酸化・還元反応により色相変化を生じないものとすることが理想的である。
【0018】
このようなエレクトロクロミック表示装置では、対向電極をプラスにチャージ(酸化)させることが要求され、即ち、対向電極は蓄電能力が必要となり、蓄電能力がある対向電極を実現するために、(1)多孔質電極として蓄電能力のあるATO(アンチモンドープ酸化錫)電極を使用する方法、(2)蓄電能力をもたない多孔質電極に、酸化可能(蓄電可能)な有機物を担持(吸着)させる方法が考えられるが、方法(1)では、上述のように、ATOは、濃い灰色に着色している材料であり常時着色があり、表示品質を落とすという欠点があり、方法(2)では、電圧印加時に上記有機物の酸化によって生じる発色があり、表示品質を落とすという欠点がある。
【0019】
フルカラー画像の表示を行うために、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の3層の発色層を積層させた構成のデバイスを構築しようとする場合には、支持基板としては透明な材料が好適である。また、各画素の視差低減を図るためには、支持基板として充分な機械的な強度をもつ薄い材料が好適である。
【0020】
更に、表示装置としての利便性を向上させるべく、形状の自由度を増すためには、フレキシブルな形態のものであることが望ましいが、この場合には、支持基板は、プラスチック材料が好適であり、この形状変化に追従可能なように多孔質電極と支持基板との間の密着性が強く確保することが必要となる。
【0021】
しかし、従来技術においては、高温条件下で多孔質電極を成膜しているので、プラスチック材料の耐熱性のために、上述したフレキシブルな形態の表示装置を作製する場合に適用できないという問題があった。
【0022】
カラー表示を行う表示装置の電極として、濃い色を有しておらず透明性に優れた電極膜(層)を低温条件下でプラスチック基板上に形成することが望まれていた。
【0023】
なお、特許文献1、特許文献2に、多孔質電極をスパッタリング法によって形成できるとの記載があるが、スパッタリング法による成膜条件の詳細について記載がされていない。また、マグネトロンスパッタリング法によって、透過率が大きく透明な多孔質電極を成膜することについても記載がされていない。
【0024】
スパッタリング法によって平坦なATO膜、ITO膜の形成の検討がなされているが、スパッタリング法によってメソスケールの細孔をもつ多孔質膜を作成したという報告はみられない。これは、ATO膜、ITO膜は、緻密な構造でないと電気特性が良くないためと考えられる。
【0025】
なお、非特許文献3、4に、マグネトロンスパッタリング法によって、ガラス基板上にATO膜、ITO膜を形成する記載があるが、メソスケールの細孔構造については記載されていない。
【0026】
以下、本明細書では、「多孔質電極」は、比表面積が大きく、何らかの分子を担持可能な細孔構造を有する電極を意味し、細孔径による多孔体のIUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry)による分類に従って2nm<直径<50nmの細孔をメソ孔と称し、「メソスケールの細孔」は、2nm<直径<50nmである細孔を意味するものとする。
【0027】
本発明は、上述したような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、比較的低温条件下で形成することができ、細孔構造をもち支持基板との密着性に優れた高透明な多孔質電極を有しカラー表示に好適であり、鮮明で色純度が高く、発消色の繰り返し耐久性に優れたエレクトロクロミック装置予備その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
即ち、本発明は、第1の支持基板(後述の実施の形態における支持基板6、6a、6b,6c)上に第1の透明電極(後述の実施の形態における透明電極7、7a、7b、7c)が形成され、この第1の透明電極に第1の多孔質電極(後述の実施の形態における多孔質電極8、8a、8b、8c)が形成された対向電極構造体(後述の実施の形態における対向電極構造体12、12a、12b、12c)と、第2の支持基板(後述の実施の形態における支持基板1、1a、1b、1c)上に第2の透明電極(後述の実施の形態における透明電極2、2a、2b、2c)が形成され、この第2の透明電極に第2の多孔質電極(後述の実施の形態における多孔質電極4、4a、4b、4c)が形成され、この第2の多孔質電極に酸化反応又は還元反応により発色するエレクトロクロミック色素(後述の実施の形態における有機EC色素3、3a、3b、3c)が担持されている表示電極構造体(後述の実施の形態における表示電極構造体11、11a、11b、11c)と、前記第1及び第2の透明電極の間に挟持された電解質層(後述の実施の形態における電解質層5、5a、5b、5c)とを有し、前記第1の多孔質電極が、前記第1の支持基板の面に略垂直であり、メソスケールの細孔を有する柱状体からなる、エレクトロクロミック装置に係るものである。
【0029】
また、本発明は、第1の支持基板上に第1の透明電極が形成され、この第1の透明電極に第1の多孔質電極が形成された対向電極構造体と、第2の支持基板上に第2の透明電極が形成され、この第2の透明電極に第2の多孔質電極が形成され、この第2の多孔質電極に酸化反応又は還元反応により発色するエレクトロクロミック色素が担持されている表示電極構造体とが、前記第1及び第2の透明電極が対向するように電解質層を挟持して配置されたエレクトロクロミック装置の製造方法であって、前記第1の透明電極上に前記第1の多孔質電極をマグネトロンスパッタリングによって形成する工程を有し、前記第1の支持基板の面に略垂直であり、メソスケールの細孔を有する柱状体からなる前記第1の多孔質電極が形成される、エレクトロクロミック装置の製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、前記第1の多孔質電極が、前記第1の支持基板の面に略垂直であり、メソスケールの細孔を有する柱状体からなるので、柱状体間の隙間に加えて、EC素子用の電極として良好な細孔構造を有し、前記第1の支持基板との密着性に優れた透明な前記第1の多孔質電極を、500度程度という高温の焼成処理を必要とせず、比較的低温条件下で形成することができ、前記第1の支持基板としてプラスチック基板や薄層基板を使用することができ、薄型化、フレキシブル化、軽量化等、構成の自由度を高めることができ、カラー表示用として実用上充分な応答速度、発色効率を有し、鮮明で色純度が高く、発消色の繰り返しの耐久性に優れたエレクトロクロミック装置を提供することができる。なお、メソスケールの細孔は、2nm<直径<50nmである細孔を意味するものとする。
【0031】
また、本発明によれば、前記第1の透明電極上に前記第1の多孔質電極をマグネトロンスパッタリングによって形成する工程を有し、前記第1の支持基板の面に略垂直であり、メソスケールの細孔を有する柱状体からなる前記第1の多孔質電極が形成されるので、柱状体間の隙間に加えて、EC素子用の電極として良好な細孔構造を有し、前記第1の支持基板との密着性に優れた透明な前記第1の多孔質電極を、比較的低温条件下で形成することができ、前記第1の支持基板としてプラスチック基板や薄層基板を使用することができ、フレキシブル化等、構成の自由度を高めることができ、カラー表示用として実用上充分な応答速度、発色効率を有し、鮮明で色純度が高く、発消色の繰り返しの耐久性に優れたエレクトロクロミック装置の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明のエレクトロクロミック装置では、前記第1の多孔質電極が、20nm以下の細孔を有する柱状体からなる構成とするのがよい。この構成によれば、柱状体は20nm以下の細孔を有するので、柱状体間の隙間に加えてこの細孔に、ニトロオキシラジカル基を有する有機ラジカル化合物(後述の実施の形態における有機ラジカル化合物13、13a、13b、13c)を、できるだけ単一分子状態で多数吸着させ担持させることができ、前記対向電極構造体における電気容量を増大させることができ、発色効率を向上させることができる。
【0033】
また、前記第1の多孔質電極は半導体からなり、この半導体は金属の酸化物又は金属の酸化物の複合体によって構成され、前記金属がインジウム、錫、亜鉛、アルミニウムの何れかである構成とするのがよい。この構成によれば、前記第1の多孔質電極を透明に形成することができ、カラー表示を行う構成を可能とすることができる。なお、前記金属の酸化物はドーパントを含んでいてもよい。
【0034】
また、前記第1の多孔質電極が、RF(高周波)電源又はDC(直流)電源を用いて、不活性ガスの他に酸素ガスが分圧換算で10%以上、90%以下の割合で存在し、且つ、全圧が0.5Pa以上、6.0Pa以下である真空槽中において、マグネトロンスパッタリングによって形成された構成とするのがよい。この構成によれば、細孔構造を有し前記第1の支持基板との密着性に優れ透明な多孔質電極を形成することができる。
【0035】
また、前記第1の多孔質電極が、アンチモンドープ酸化錫多孔質電極である構成とするのがよい。この構成によれば、透明な多孔質電極を形成することができるので、鮮明で色純度を高くすることができるエレクトロクロミック装置を提供することができる。
【0036】
また、前記アンチモンドープ酸化錫多孔質電極に、ニトロオキシラジカル基を有する有機ラジカル化合物が担持された構成とするのがよい。この構成によれば、前記対向電極構造体における電気容量を増大させることができ、発色効率を向上させることができる。
【0037】
また、前記アンチモンドープ酸化錫多孔質電極が、錫又は酸化錫を主成分とするターゲット材料を用いて、マグネトロンスパッタリングによって形成された構成とするのがよい。この構成によれば、透明な多孔質電極を形成することができるので、鮮明で色純度を高くすることができるエレクトロクロミック装置を実現することができる。より具体的には、前記ターゲット材は、アンチモン−錫の焼結体又は合金、又は、アンチモンドープ酸化錫を主成分とすることができる。
【0038】
また、前記第1の支持基板はプラスチック基板であり、前記アンチモンドープ酸化錫多孔質電極の形成時における前記プラスチック基板の表面温度が摂氏300度以下である構成とするのがよい。この構成によれば、フレキシブル化等、構成の自由度を高めることができるエレクトロクロミック装置を提供することができる。
【0039】
また、前記対向電極構造体が、450nm以上、800nm以下の波長領域において85%以上の透過率を有する構成とするのがよい。この構成によれば、鮮明で色純度を高くすることができるエレクトロクロミック装置を提供することができる。ここで、透過率は、前記第1の支持基板に、前記第1の透明電極、及び、前記第1の多孔質電極が形成された前記対向電極構造体について測定されたものであって、前記第1の多孔質電極にニトロオキシラジカル基を有する有機ラジカル化合物が担持されていない状態で測定された透過率である。
【0040】
本発明のエレクトロクロミック装置の製造方法では、20nm以下の細孔を有する柱状体からなる前記第1の多孔質電極が形成される構成とするのがよい。この構成によれば、柱状体は20nm以下の細孔を有するので、柱状体間の隙間に加えてこの細孔に、ニトロオキシラジカル基を有する有機ラジカル化合物を、できるだけ単一分子状態で多数吸着させ担持させることができ、前記対向電極構造体における電気容量を増大させることができ、発色効率を向上させることができるエレクトロクロミック装置を製造することができる。
【0041】
また、前記第1の多孔質電極は半導体からなり、この半導体は金属の酸化物又は金属の酸化物の複合体によって構成され、前記金属がインジウム、錫、亜鉛、アルミニウムの何れかである構成とするのがよい。この構成によれば、前記第1の多孔質電極を透明に形成することができ、カラー表示を行う構成を可能とすることができるエレクトロクロミック装置を製造することができる。なお、前記金属の酸化物はドーパントを含んでいてもよい。
【0042】
また、前記第1の多孔質電極が、RF(高周波)電源又はDC(直流)電源を用いて、不活性ガスの他に酸素ガスが分圧換算で10%以上、90%以下の割合で存在し、且つ、全圧が0.5Pa以上、6.0Pa以下である真空槽中において、マグネトロンスパッタリングによって形成される構成とするのがよい。この構成によれば、細孔構造を有し前記第1の支持基板との密着性に優れ透明な多孔質電極が形成されたエレクトロクロミック装置を製造することができる。
【0043】
また、前記第1の透明電極に直接給電され前記第1の透明電極とターゲットの間に電圧が印加される構成とするのがよい。この構成によれば、前記第1の透明電極に直接給電され前記第1の透明電極とターゲットの間に電圧が印加されるので、プラズマの生成が効率よくなされ、ターゲットからのスパッタリングが促進され、ターゲットからスパッタされたる粒子の前記第1の透明電極への堆積速度を高めることができる。
【0044】
また、前記第1の多孔質電極が、アンチモンドープ酸化錫多孔質電極である構成とするのがよい。この構成によれば、透明な多孔質電極を形成することができるので、鮮明で色純度を高くすることができるエレクトロクロミック装置を製造することができる。
【0045】
また、前記アンチモンドープ酸化錫多孔質電極に、ニトロオキシラジカル基を有する有機ラジカル化合物を担持する工程を有する構成とするのがよい。この構成によれば、前記対向電極構造体における電気容量を増大させることができ、発色効率を向上させることができるエレクトロクロミック装置を製造することができる。
【0046】
また、前記アンチモンドープ酸化錫多孔質電極が、錫又は酸化錫を主成分とするターゲット材料を用いて、マグネトロンスパッタリングによって形成される構成とするのがよい。この構成によれば、透明な多孔質電極を形成することができるので、鮮明で色純度を高くすることができるエレクトロクロミック装置を製造することができる。より具体的には、前記ターゲット材は、アンチモン−錫の焼結体又は合金、又は、アンチモンドープ酸化錫を主成分とすることができる。
【0047】
また、前記第1の支持基板はプラスチック基板であり、前記アンチモンドープ酸化錫多孔質電極の形成時における前記プラスチック基板の表面温度が摂氏300度以下である構成とするのがよい。この構成によれば、フレキシブル化等、構成の自由度を高めることができるエレクトロクロミック装置を製造することができる。
【0048】
また、前記対向電極構造体が、450nm以上、800nm以下の波長領域において85%以上の透過率を有する構成とするのがよい。この構成によれば、鮮明で色純度を高くすることができるエレクトロクロミック装置を製造することができる。ここで、透過率は、前記第1の支持基板に、前記第1の透明電極、及び、前記第1の多孔質電極が形成された前記対向電極構造体について測定されたものであって、前記第1の多孔質電極にニトロオキシラジカル基を有する有機ラジカル化合物が担持されていない状態で測定された透過率である。
【0049】
以下、本発明のエレクトロクロミック装置について図を参照して具体的に説明する。但し、本発明は以下の例に限定されるものではなく、従来公知の構成を適宜付加することができ、これは本発明の要旨を何ら逸脱しないものとする。
【0050】
実施の形態
従来、有機エレクトロクロミック(EC)装置用の多孔質電極の作製において、500度程度の高温の加熱工程が必要であったが、実用化を目的とした場合、高分子基板上に形成された緻密な透明電極上に透明多孔質電極を、高分子基板を高温に加熱せず非加熱工程によって形成することが必要となる。本発明では、マグネトロンスパッタリング法により、アンチモンドープ酸化錫多孔質電極を透明電極上に非加熱工程によって形成する。これにより、フルカラー表示に極めて好適な有機EC装置用の透明多孔質電極を提供することができる。本発明の透明多孔質電極は、柱状構造をもち柱状に成長した柱状体の集合体から構成され、柱状体はメソスケールの細孔を有し、透明多孔質電極は柱状に透明電極上に成長した膜構造をもっており、支持基板の面に略垂直でありメソスケールの細孔を有する柱状体の集合からなる柱状構造をもっている。
【0051】
本発明によるエレクトロクロミック装置は、電圧が直接印加される透明電極との密着性に優れ高い光透過率を有し、比較的低温条件下で形成することができ、有機エレクトロクロミック化合物又は/及び有機ラジカル化合物を十分に担持する細孔をもった多孔質電極を有し、カラー表示用として十分な応答速度、発色効率を有し、表示色純度に優れ、明瞭で鮮鋭な画像形成が可能であり、繰り返し耐久性にも優れ、薄型化やフレキシブル化にも対応可能である。
【0052】
本実施の形態によるエレクトロクロミック装置は、第1の支持基板、この第1の支持基板上に形成された第1の透明電極、及び、この第1の透明電極上に形成された第1の多孔質電極を含む表示電極構造体と、第2の支持基板、この第2の支持基板上に形成された第2の透明電極上に形成された第2の多孔質電極(ATO(三酸化アンチモン―酸化錫複合酸化物)多孔質電極)を含む対向電極構造体と、表示電極構造体及び対向電極構造体によって挟持された電解質層とを具備し、第1の透明電極と第2の透明電極とが対向するように配置され、酸化反応又は還元反応により発色する有機エレクトロクロミック化合物が第2の多孔質電極に担持され、第1の透明電極と第2の透明電極の間に印加する電圧の制御によって、有機エレクトロクロミック化合物による可逆的な発消色を行うエレクトロクロミック装置であり、アンチモン―錫又は三酸化アンチモン―酸化錫複合酸化物を主成分とするターゲット材料、RF電源又はDC電源を用いて、不活性ガスの他に少なくとも酸素ガスが分圧換算で10%以上、90%以下の割合で存在し、且つ、全圧が0.5Pa以上、6.0Pa以下である真空槽(成膜室)中において、マグネトロンスパッタリングによって、ATO多孔質電極が形成されている。
【0053】
ATO多孔質電極は透明であり、その透過率は450nm以上、800nm以下の領域において、85%以上であり、500nm以上、800nm以下の領域において、90%以上である。第1及び第2の支持基板はプラスチック基板であり、多孔質電極の形成時におけるプラスチック基板の表面温度(以下に示す温度は摂氏温度である)が300度以下である。
【0054】
本実施の形態によるエレクトロクロミック装置の製造方法は、アンチモン―錫又は三酸化アンチモン―酸化錫複合酸化物を主成分とするターゲット材料、RF電源又はDC電源を用いて、不活性ガスの他に少なくとも酸素ガスが分圧換算で10%以上、90%以下の割合で存在し、且つ、全圧が0.5Pa以上、6.0Pa以下である真空槽(成膜室)中において、マグネトロンスパッタリングによって、ATO(三酸化アンチモン―酸化錫複合酸化物)多孔質電極を形成する工程を有している。
【0055】
上記の製造方法では、450nm以上、800nm以下の領域において、85%以上である透過率を有する酸化錫多孔質電極を形成することができ、また、500nm以上、800nm以下の領域において、90%以上である透過率を有するATO多孔質電極を形成することができる。更に、第1及び第2の支持基板として、ラスチック基板を使用することができ、ATO多孔質電極の形成時におけるプラスチック基板の表面温度を300度以下とすることができる。
【0056】
上記の製造方法において、酸素ガスが分圧換算で10%以上、50%以下の割合で存在し、且つ、全圧が2Paである場合に、ATO多孔質電極の成膜速度が大きくなる。また、酸素ガスが分圧換算で50%の割合で存在し、且つ、全圧が2.0Pa以下である場合にATO多孔質電極の成膜速度が大きくなる。
【0057】
更に、酸素ガスが分圧換算で50%の割合で存在し、且つ、全圧が0.5Pa以上、6.0Pa以下である場合に、BET比表面積が約10〜約40(cm2g-1)であり、膜厚さが3μmである場合400nm〜800nmにおける平均透過率が約85%以上であるATO多孔質電極を形成することができ、酸素ガスが分圧換算で50%の割合で存在し、且つ、全圧が0.5Pa以上、2.0Pa以下である場合に、BET比表面積が約20〜約40(cm2g-1)であり、膜厚さが3μmである場合400nm〜800nmにおける平均透過率が約90%以上であるATO多孔質電極を形成することがきる。ここで、ATO多孔質電極の平均透過率は、支持基板、透明電極、及び、ATO多孔質電極の3層部分からなりATO多孔質電極にエレクトロクロミック色素が担持されていない状態の電極構造体における、波長400nm〜波長800nmの光に対する透過率を示すものとする。
【0058】
図1は、本発明の実施の形態による、エレクトロクロミック装置の一例の概略構成を説明する断面図である。
【0059】
図1に示すように、エレクトロクロミック装置10は、高分子からなる支持基板1上に、透明電極2と、後述するエレクトロクロミック化合物3が担持された多孔質電極4とを具備する表示電極構造体11と、高分子からなる支持基板6上に、透明電極7と、後述する有機ラジカル化合物13が担持された多孔質電極8とを具備する対向電極構造体12とが、電解質層5を介して対向配置された構成を有している。多孔質電極4、8は、後述するように、マグネトロンスパッタリングによって形成された高い透過率を有する多孔質膜からなる。
【0060】
透明電極2、7は低抵抗であり緻密に支持基板1、6上に形成された薄層から構成され、エレクトロクロミック化合物3の酸化還元反応のための電圧が印加される。多孔質電極4、8は、透明電極2、7との密着性に優れ高い光透過率を有し、比較的低温条件下で形成され、有機エレクトロクロミック化合物又は/及び有機ラジカル化合物を十分に担持する細孔を有し、十分な比表面積をもっている。なお、図1においては、対向する透明電極2、7の何れにも多孔質電極4、8が形成されているが、本発明はこの構成に限定されず、必要に応じて一方の電極にのみ多孔質電極を形成させ、この多孔質電極にエレクトロクロミック化合物3を担持させた構成としてもよい。また、発色、消色の応答速度を十分なものとするために、多孔質電極4、8もできるだけ低抵抗であることが望ましく、例えば、シート抵抗値[Ω/□]で評価すると、多孔質対向電極の膜厚が100nm以上の場合、100000[Ω/□]以下であることが好ましい。また、膜厚が1μm以上の場合、5000[Ω/□]以下であることが望ましい。
【0061】
先ず、マグネトロンスパッタリング装置を用いた多孔質電極の形成について説明する。
【0062】
図2は、本発明の実施例において、マグネトロンスパッタリング装置の概略構成例を模式的に示す図である。
【0063】
図2に示すように、本発明の実施例におけるマグネトロンスパッタリング装置20は、真空ポンプ25によって排気される成膜室21内に、ターゲット26a、26b、基体27が搭載される回転ホルダ24が配置されている。基体27上の成膜を行う時、回転ホルダ24は外部より回転駆動される。基体27上の成膜を行う時、成膜室21には、必要に応じて、Arガス、O2ガスが導入される。成膜室21には、成膜室21の中に導入されるArガスの流量を制御するArガス用マスフローコントローラ22、成膜室21の中に導入されるO2ガスの流量を制御するO2ガス用マスフローコントローラ23、成膜室21内部の真空度を測定するためのダイアフラム真空計28及び電離真空計29が接続されている。
【0064】
成膜室21の圧力(Pa)は、ダイアフラム真空計28を用いて測定される。ダイアフラム真空計は、真空に保った容器の一部に張ってある薄い金属膜(ダイアフラム)が測定する雰囲気の真空度に応じて変形する変形量をひずみ計で測定し、真空度とするものであり、大気圧から低真空領域で使用が可能である。
【0065】
陽極上に設けられた基体27と陰極上に設けられたターゲット26a、26bは対向しており、ターゲット26a、26bの背部にそれぞれ磁石30a、30bが配置されている。電源31a、31bによって、基体27が搭載される回転ホルダ24とターゲット26a、26bの間に高電圧が印加され生成するプラズマ中のArイオンは、ターゲット26a、26bをスパッタリングする。ターゲット26a、26bからスパッタされる粒子は基体27に堆積されていく。
【0066】
基体27は、ITO膜等の緻密な透明電極2、7が形成された高分子からなる支持基板1、6であり、ターゲット26a、26bは、金属Snターゲット又はSnO2ターゲットでありアンチモンがドープされており、図2に示すマグネトロンスパッタリング装置20によって、透明電極2、7上にATO(三酸化アンチモン―酸化錫複合酸化物)多孔質電極4、8が形成される。
【0067】
なお、基体27が搭載される回転ホルダ24とターゲット26a、26bの間に高電圧を印加し間接的に透明電極2、7とターゲット26a、26bの間に電圧を印加する構成を、摺動電極によって透明電極2、7に直接給電して、透明電極2、7とターゲット26a、26bの間に電圧を印加する構成とることもでき、この構成によって、プラズマ生成の効率を向上させ、ターゲットからのスパッタリングを促進させ、スパッタされる粒子の透明電極2、7への堆積速度を高めることができる。
【0068】
金属Snターゲット、SnO2ターゲットの何れを用いても、ATO多孔質電極4、8を形成することができる。金属Snターゲットを用いる場合には、電源31a、31bとして直流電源を用い、成膜室21の中にO2ガスを導入しながら成膜を行う反応性DCマグネトロンスパッタリング装置として、装置20を動作させることができる。また、SnO2ターゲット用いる場合には、電源31a、31bとして高周波電源を用い、高周波(RF)マグネトロンスパッタリング装置として、装置20を動作させることができる。
【0069】
なお、基体27とターゲット26a、26bとの間の距離は3.0cm以上が適当であり、この距離が長くなればなるほど、堆積速度が減少する。
【0070】
また、ターゲットへの電力供給は、ターゲットとしてSnを用いる場合、(Snの融点が低いため、200W/3inch以下(4.5W/cm2以下)とする必要がある。一方、ターゲットとしてSnO2を用いる場合、電力供給はkWオーダーまで大きくできる(電力供給の大きさによって膜質は変化しないが、堆積速度が変化する)。
【0071】
図2に示す例では、金属Snのターゲット26a、26bを使用する構成を示している。多孔質膜の成膜レートは、後述するように、酸素分圧や全圧に依存する。
【0072】
図2に示すマグネトロンスパッタリング装置によって、透明電極2、7上にATO多孔質電極4、8を形成することができ、エレクトロクロミック装置における表示電極として機能する表示電極構造体11、対向電極として機能する対向電極構造体12を形成することができる。
【0073】
以上の説明では、透明電極2、7上にATO多孔質電極4、8を形成する例を説明したが、透明電極2、7上に形成される透明な多孔質電極は半導体層から構成されていればよく、この半導体が金属の酸化物又は金属の酸化物の複合体によって構成されており、金属がインジウム、錫、亜鉛、アルミニウムの何れかであればよい。
【0074】
次に、以下、エレクトロクロミック装置の構成要素について順次説明する。
【0075】
<支持基板>
支持基板1、6の材料としては、一般的に充分な耐熱性を有し、且つ、平面方向の寸法安定性の高いものが好適である。特に、カラー表示を行うことに鑑みて透明性の高い材料が望ましい。具体的には、ガラス材料、透明性樹脂が挙げられる。最終的に作製する表示装置をフレキシブルなものとする場合には、特に、薄層の透明な樹脂性基板を適用することが望ましい。
【0076】
支持基板1、6に樹脂材料を適用する場合には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミド(PA)、ポリサルフォン(PS)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン等の高分子材料が挙げられ、これらの何れかによるプラスチック基板を使用することができる。
【0077】
具体的な例として、ポリイミド(PI)基板(例えば、三菱ガス化学製商品名「ネオプリムL」、耐熱温度:285度、光透過率90%(厚さ100μm))、フッ素樹脂基板(耐熱温度:250度)、ポリエーテルスルホン(PES)基板(例えば、住友ベークライト株式会社製商品名「スミライトFS」、耐熱温度:180度、光透過率88%(厚さ550nm))、ポリエチレンナフタレート(PEN)基板(耐熱温度:160度)、ポリエチレンテレフタレート(PET)基板(耐熱温度:140度)が挙げられる。
【0078】
<透明電極>
周知の従来技術に従って、透明電極2、7は、所定の電極材料を塗布・焼成して成膜することにより形成される。透明電極2、7を構成する電極材料としては、例えば、In2O3とSnO2との混合物、ITO(Indium Tin Oxide)膜や、GTO(Gallium Tin Oxide)膜、SnO2又はIn2O3がコーティングされた膜等が挙げられる。また、ITO膜や、SnO2又はIn2O3をコーティングした膜にSn、Sb、F等をドーピングしてもよく、フッ素−ドープ酸スズ膜はFTO膜と呼ばれている。その他、MgOやZnO等も適用できる。ZnOにAlをドープしたAZO(Aluminum doped Zinc Oxide)膜、ZnOにガリウム(Ga)をドープしたGZO(Gallium doped Zinc Oxide)膜、ZnOにインジウム(In)をドープしたIZO(Indium Zinc Oxide)膜等も適用することができる。
【0079】
<多孔質電極>
次に、多孔質電極について説明する。表示電極構造体11を構成する多孔質電極4は、高い有機EC色素担持機能を得るため、表面積が大きい材料により構成することが好適である。例えば、表面及び内部に微細孔を有した多孔質形状、ロット形状、ワイヤ形状、メソポーラス形状、集合粒子状等となっているものが挙げられる。また、積層型構造を有する有機EC装置を作製するために、多孔質電極4には透明性が必要となる。更に、速い応答速度が可能な有機EC装置を得るため、多孔質電極4は有機EC色素との円滑な電子移動が可能となるバンド構造を有することが必要となる。
【0080】
多孔質電極4は、例えば、酸化物半導体、複合酸化物半導体、有機半導体等によって形成することができる。酸化物半導体としては、例えば、TiO2、SnO2、Fe2O3、SrTiO3、WO3、ZnO、ZrO2、Ta2O5、Nb2O5、V2O5、In2O3、CdO、MnO、CoO、TiSrO3、KTiO3、Cu2O、チタン酸ナトリウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム等が挙げられる。
【0081】
また、複合体酸化物半導体としては、例えば、SnO2−ZnO、Nb2O5−SrTiO3、Nb2O5−Ta2O5、Nb2O5−ZrO2、Nb2O5−TiO2、Ti−SnO2、Zr−SnO2、Sb−SnO2、Bi−SnO2、In−SnO2等が挙げられ、特にTiO2、SnO2、Sb−SnO2、In−SnO2が好適である。
【0082】
また、有機半導体としては、例えば、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリフェニレンビニレン、ポリフェニレンスルフィド等が挙げられる。
【0083】
最終的に目的とするエレクトロクロミック装置をカラー表示用として構成するためには、多孔質電極は無色透明であることが最適であることから、特に、TiO2、SnO2、Sb−SnO2、In−SnO2を使用することにより、DC又はRF電源を有するマグネトロンスパッタ装置により高透明で多孔質な電極を作製することができる。
【0084】
次に、多孔質電極8について説明する。対向電極構造体12を構成する多孔質電極8は、少なくともインジウム、アンチモン、錫、亜鉛、アルミニウムの何れからなる金属酸化物(真性半導体又は酸化物半導体)、又は、前記金属の複成分からなる複合酸化物半導体からなり、特に、アンチモンから構成される金属酸化物又は複合酸化物が好ましい。
【0085】
対向電極構造体12を構成する多孔質電極8は、電解液(電解質層5)との接触面積が大きく、後述する有機ラジカル化合物を担持させるため、比表面積が大きな多孔質膜とするのが好ましい。また、積層型構造を有する有機EC装置を作製するために、多孔質電極8には透明性が必要となる。更に、速い応答が可能な有機EC装置を得るため、多孔質電極8は大きな電気容量と酸化還元電位を有することが必要となる。また、多孔質電極8は電解液(電解質層5)との円滑な酸化還元反応が可能となるバンド構造を有することが必要となる。更に、フレキシブル性のあるEC装置の作製を目的とした場合、多孔質電極8と透明電極7の間の密着性が良好であることが必要となる。
【0086】
多孔質電極8は、アンチモン―錫又は三酸化アンチモン―酸化錫複合酸化物を主成分とする材料をターゲットとしたマグネトロンスパッタリングにより成膜するのが好ましい。この時、電源としてDC電源又はRF電源が適用できるが、アンチモンドープ酸化錫、三酸化アンチモン―酸化錫複合酸化物を主成分とするターゲット材料を用いたときには、RF電源を用いるのが好ましい。
【0087】
マグネトロンスパッタリングにおいて、成膜を行う成膜室(真空槽)21には、スパッタリング用の不活性ガスのほかに、酸素ガスを導入する。酸素ガスの導入量は、分圧換算で10%以上、90%以下とする。酸素ガスの分圧が10%以下であると、O原子と結合を持たないSn原子(又はSb原子)の割合が多くなり金属に近い性質を示す。逆に、90%以上であるとSn原子(又はSb原子)に対してO原子が多くなり過ぎ、好適なp型半導体的性質からかけ離れてしまうため、好ましくない。
【0088】
成膜室21の全圧は0.5Pa以上、6.0Pa以下とする。成膜室21の全圧が、0.5Pa以下であると多孔構造が形成されないため、好ましくない。また、逆に6.0Pa以上であると、数百ナノ〜マイクロメートルスケールオーダーで不均一な細孔構造が形成されるために、有機ラジカル化合物13の担持量が低く光学的透明性も悪くなるため、好ましくない。
【0089】
スパッタリング時の成膜面の表面温度は、支持基板として適用する材料の耐熱性(ガラス転移点)に応じて選定するものとする。表面温度は、スパッタリング速度、即ち、主に電源出力等のスパッタリング条件により調整することが可能である。支持基板にプラスチック材料を適用する場合には、表面温度が300度以下となることが好ましく、適用するプラスチック材料のガラス転移点又は軟化点以下とすることが、より好ましい。
【0090】
<エレクトロクロミック化合物(有機EC色素)>
次に、有機EC色素3について説明する。有機EC色素3は、多孔質電極4の表面及び内部の微細孔に担持されているものとする。有機EC色素3は、エレクトロクロミック色素として公知の材料を何れも適用できる。但し、有機EC色素3を多孔質電極4に担持させるように、その分子構造中に官能基を具備していることが好ましい。有機EC色素3を多孔質電極4に吸着させる吸着基として作用する官能基の具体例としては、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基等の酸性基、アミノ基、金属アルコキシド、金属ハロゲン化物等が挙げられる。また、有機EC色素3としては、単一の化合物のみを用いてもよく、複数の化合物を混合して用いてもよい。
【0091】
なお、図1においては、有機EC色素3を表示電極構造体11側の多孔質電極4のみに担持させた構成を示したが、本発明は図2に示す構成例に限定されるものではなく、対向電極構造体12側の多孔質電極8にも、多孔質電極4と同様に有機EC色素が担持された構成としてもよい。但し、かかる場合においては、有機EC色素の発消色反応における酸化・還元反応は、両電極構造体11、12において逆となる材料を選定する。
【0092】
例えば、多孔質電極材料4に担持させた有機EC色素が還元反応によってラジカル状態となり発色する場合には、多孔質電極8には定常状態で多孔質電極4に担持させた色素と同色調であり、酸化反応によって発色する有機EC色素を選定する。
【0093】
このように、両電極構造体11、12において有機EC色素を担持させた構成とすることにより、色表示濃度を十分に高くすることができるので、最終的に得られるエレクトロクロミック装置において、発色が明瞭化し、画像の鮮明さを向上させることができる。
【0094】
有機EC色素(エレクトロクロミック化合物)3の具体例を下記式(1)〜(13)に示す。下記式中、Meは、メチル基である。下記式(1)、(5)によって表される化合物は4,4’−ビピリジン誘導体、下記式(2)によって表される化合物は2、5−ビス(4−ピリジル)フラン誘導体、下記式(3)によって表される化合物は2、5−ビス(4−ピリジル)チオフェン誘導体、下記式(4)によって表される化合物は2、5−ビス(4−ピリジル)−1H−ピロール誘導体、下記式(6)によって表される化合物は3,4’−ビピリジン誘導体、下記式(7)、(11)、(12)、(13)によって表される化合物は4,4’−(1,4−フェ二レン)ジピリジン誘導体、下記式(8)によって表される化合物はビス(4−ピリジル)ケトン誘導体、下記式(9)によって表される化合物は4,4’−ビス(4−ピリジル)−ベンゾフェノン誘導体、下記式(10)によって表される化合物は2、5−ビス(4−ピリジル)−1,3,4−オキサジアゾール誘導体であると、それぞれ見なすことができる。
【0095】
【化1】
【0096】
【化2】
【0097】
【化3】
【0098】
【化4】
【0099】
【化5】
【0100】
【化6】
【0101】
【化7】
【0102】
【化8】
【0103】
【化9】
【0104】
【化10】
【0105】
【化11】
【0106】
【化12】
【0107】
【化13】
【0108】
<エレクトロクロミック化合物(有機EC色素)の多孔質電極への担持>
有機EC色素の多孔質電極への担持に先立って、多孔質電極をUVオゾン処理する。使用したUVオゾン処理装置(サムコ株式会社製、UV−300)は、185nm、254nmの輝線を発光する低圧水銀ランプを光源としており、酸素分子の解離反応が185nm(<240nm)線によって生じる(O2→O(3P)+O(3P))。生成した三重項基底酸素原子(O(3P))が酸素分子と反応して、オゾンを生成する(O(3P)+O2→O3)。オゾンは、波長が260nm付近に吸収帯をもち、254nm線により解離反応が生じる。この解離反応によって一重項励起酸素原子が生成する(O3→O2+O(1D))。この励起酸素原子が紫外線(184nmや254nm)により励起された多孔質電極表面のC−H結合を酸化し、多孔質電極表面に酸素を含有する親水的な官能基(−CO、−CHO、−COO、−COOH等)を形成する。
【0109】
UVオゾン処理によって、多孔質電極の表面に物理又は化学吸着して存在する空気中の有機物や水等が分解除去され、有機EC色素のもつ吸着基が吸着する(水素結合を形成する)表面サイトを増大させることができ、多孔質電極への有機EC色素の吸着量を増大させることができる。
【0110】
次に、有機EC色素を多孔質電極4に担持させる方法について説明する。例えば、多孔質電極4の表面に吸着させる方法、多孔質電極表面と有機EC色素とを化学的に結合させる方法等、従来公知の技術を適用できる。具体的方法としては、真空蒸着法等のドライプロセス、スピンコート等の塗布法、電界析出法、電界重合法、担持させる化合物の溶液に浸す自然吸着法等が適用でき、特に、特別な装置を必要としない自然吸着法、及び、多孔質電極表面へ有機EC色素を化学結合させる方法が好適である。
【0111】
自然吸着法としては、所定の有機EC色素を所定の溶媒に溶解して溶液を作製し、この溶液に、多孔質電極4が形成された透明基板に乾燥処理を施した後に浸漬する方法や、所定の有機EC色素が溶解された溶液を多孔質電極4に塗布する方法が挙げられる。この自然吸着法において、有機EC色素を多孔質電極4に確実に担持させるためには、有機EC色素の化学構造中に、吸着性を有する官能基を導入しておくことが必要である。
【0112】
この吸着性を有する官能基は、多孔質電極4の材料に応じて適宜選定する。例えば、多孔質電極4が酸化物半導体により構成されている場合には、有機EC色素の化学構造中の吸着性官能基として、ホスホン酸基、スルホン酸基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、アミノ基等を導入しておくことが好ましい。
【0113】
官能基は、有機EC色素の化学構造の骨格に直接導入してもよく、或いは、その他の所定の官能基を介して結合を形成することにより導入してもよい。所定の官能基を介する場合は、例えば、アルキル基、フェニル基、エステル、アミド基等を介して吸着性の官能基を導入することができる。
【0114】
なお、有機EC色素を溶解する溶媒としては、例えば、水、アルコール、アセトニトリル、プロピオニトリル、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、エステル類、炭酸エステル類、ケトン類、炭化水素等が適用できる。これらは単独で用いてもよく、適宜混合して用いてもよい。
【0115】
エレクトロクロミック化合物を多孔質電極の表面へ化学結合によって担持させる方法も好適である。多孔質電極4の表面に有機EC色素を化学結合させる際には、多孔質電極4の表面と有機EC色素骨格との間に、所定の官能基を介在させてもよい。例えば、アルキル基、フェニル基、エステル、アミド等の官能基が挙げられる。
【0116】
また、多孔質電極4の表面をシランカップリング剤等によって改質した後に、有機EC色素を化学結合して形成させるようにしてもよい。このような表面改質により、有機EC色素が多孔質電極4の材料と化学結合を形成するようになると、有機EC色素の結合力が強まり、例えば、電界質層5の材料として色素溶解性の高いものを使用するような場合に有利になり、有機EC色素の材料選択性が高まり、エレクトロクロミック装置の耐久性の向上も図られる。
【0117】
<電解質層>
電解質層5は、溶媒に支持電解質が溶解された構成を有している。支持電解質としては、例えば、LiCl、LiBr、LiI、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiCF3SO3等のリチウム塩や、例えば、KCl、KI、KBr等のカリウム塩や、例えば、NaCl、NaI、NaBr等のナトリウム塩や、例えば、ほうフッ化テトラエチルアンモニウム、過塩素酸テトラエチルアンモニウム、ほうフッ化テトラブチルアンモニウム、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムハライド等のテトラアルキルアンモニウム塩が挙げられる。
【0118】
電解質層5には、必要に応じて公知の酸化還元化合物を添加してもよい。酸化還元物質としては、例えば、フェロセン誘導体、テトラシアノキノジメタン誘導体、ベンゾキノン誘導体、フェニレンジアミン誘導体等が適用できる。
【0119】
上記の溶媒としては、支持電解質を溶解し、上述した有機EC色素を溶解しないものを選択する。例えば、水、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド、炭酸プロピレン等から適宜選定する。
【0120】
また、電解質層5には、いわゆる、マトリックス材を適用してもよい。マトリックス材は、目的に応じて適宜選択でき、例えば、骨格ユニットがそれぞれ、−(C−C−O)n−、−(CC(CH3)−O)n−、−(C−C−N)n−、若しくは、−(C−C−S)n−によって表されるポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレンイミン、ポリエチレンスルフィドが挙げられる。なお、これら骨格ユニットを主鎖構造として、適宜枝分かれ構造を有していてもよい。また、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート等も好適である。
【0121】
電解質層5は、高分子固体電解質層としてもよい。なお、この場合、マトリックス材のポリマーに所定の可塑剤を添加することが好ましい。可塑剤としては、マトリックスポリマーが親水性の場合には、水、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、及びこれらの混合物が好適であり、疎水性の場合には、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル、スルフォラン、ジメトキシエタン、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、n−メチルピロリドン、及び、これらの混合物が好適である。
【0122】
<有機ラジカル化合物>
次に、有機ラジカル化合物13について説明する。これは、下記式(14)で表わされる官能基を有している化合物であるものとする。多孔質電極8については、電極の蓄電容量を向上させるために、多孔質電極8に有機ラジカル化合物13を担持させる。有機ラジカル化合物13としては、後述する化合物を用いることができる。図1における有機ラジカル化合物13は、対向電極構造体12において、表示電極構造体11の有機EC色素3の発色時における状態と逆の電荷にチャージする機能を有する材料であり、これによってカラー表示機能が高められる。
【0123】
【化14】
【0124】
式(14)の官能基を有する有機ラジカル化合物13の具体例を、下記式(15)〜(57)に示す。
【0125】
【化15】
【0126】
【0127】
<有機ラジカル化合物の多孔質電極への担持>
有機色素の多孔質電極への担持の場合と同様に、有機ラジカル化合物の多孔質電極への担持に先立って、多孔質電極をUVオゾン処理し、多孔質電極表面に酸素を含有する親水的な官能基(−CO、−CHO、−COO、−COOH等)を形成して、有機ラジカル化合物のもつ吸着基が吸着する(水素結合を形成する)表面サイトを増大させることができ、多孔質電極への有機ラジカル化合物の吸着量を増大させることができる。
【0128】
有機ラジカル化合物13は、上述した有機EC化合物3と同様に、多孔質電極8へ吸着させるための吸着基を化学構造中に有している。吸着基として、具体的には、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基等の酸性基、アミノ基、金属アルコキシド、金属ハロゲン化物等が挙げられ、特にホスホン酸基が好適である。多孔質電極4に担持させる有機EC化合物3と同様に、有機ラジカル化合物13は吸着基として作用する官能基を有しているので、上述した有機EC化合物3の多孔質電極4への担持の方法と同様にして、多孔質電極8に有機ラジカル化合物13を担持させることができる。なお、有機ラジカル化合物13は、単一の種類の化合物を使用してもよく、複数種類の化合物を混合して用いてもよい。
【0129】
本発明のエレクトロクロミック装置の製造方法について説明する。先ず、表示電極構造体11を作製する。所定の材料と膜厚の支持基板1上に透明電極2を形成し、その後、多孔質電極4を形成する。その後、例えば、有機EC色素水溶液に浸漬させることにより色素の担持を行い、エタノール溶液で洗浄処理、乾燥処理を行う。
【0130】
続いて、対向電極構造体12を、所定の材料と膜厚の支持基板6上に透明電極7を形成し、その後、多孔質電極8を形成することにより作製する。次に、多孔質電極8に有機ラジカル化合物13を担持させる。
【0131】
なお、多孔質電極4、8の詳細な形成方法については上述した方法に従うものとする。有機EC色素を担持させる電極についても、双方とするか一方とするか適宜選定する。双方の多孔質電極に有機EC色素を担持させる場合には、EC色素は異なる種類のもの使用し、多孔質電極4には還元で発色するものを担持させ、多孔質電極8には酸化で発色するものを担持させる。
【0132】
次に、電解質層用の溶液の調製を行う。続いて、表示電極構造体11と、対向電極構造体12とを、所定の接着剤を用いて貼り合わせるが、このとき後工程で電解液を注入できるように一部分に注入口を形成しておく。その後、電解液を注入口から注入し、樹脂接着材で封止することにより、対向した電極構造体を具備するエレクトロクロミック装置が作製される。
【0133】
次に、本発明のエレクトロクロミック装置10を用いた表示方法について説明する。
【0134】
図1のエレクトロクロミック装置10において、多孔質電極4の表面には、定常状態において可視域に吸収をもたない有機EC化合物である所定の化合物が担持されている。
【0135】
エレクトロクロミック装置10を構成する対の電極構造体11、12に、所定のリード線を結線し表示装置として構成する。所定のリード線を通じて所定の電圧を印加すると、多孔質電極4とこれに担持された有機EC化合物との間で電子の授受がなされ、有機EC化合物において電気化学的な還元反応が起き、一価のラジカル状態となって発色する。
【0136】
なお、対向電極構造体12側の多孔質電極8は、有機EC色素と逆の電荷をチャージし(有機EC色素が還元反応によって−の電荷をチャージしているときには、多孔質電極8は+の電荷をチャージする)、色素による発色機能を高め、且つ、安定化させる。
【0137】
図1に示すエレクトロクロミック装置を構成する各層の厚さを例示すれば、以下の通りである。
【0138】
支持基板1の厚さ=10μm〜10mm、
支持基板6の厚さ=10μm〜10mm、
透明電極2の厚さ=40nm〜1000nm、
透明電極7の厚さ=40nm〜1000nm、
多孔質電極4の厚さ=1.5μm〜30μm、
多孔質電極8の厚さ=1.5μm〜30μm、
表示電極構造体11の厚さ=11μm〜11mm、
対向電極構造体12の厚さ=11μm〜11mm、
透明電極2と透明電極7との間隔=1μm〜1mmである。
【0139】
なお、本発明のエレクトロクロミック装置は、図1に示した構成に限定されるものではなく、多色表示が可能な装置構成に応用することができる。即ち、図1に示すエレクトロクロミック構成と同様の構造であって、電気化学的な反応によりラジカル状態となって、マゼンダ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)に発色するエレクトロクロミック化合物を所定の多孔質電極に担持させて電極構造体を作製し、これら三層を用いて、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)の積層構造とすることにより、発消色表示を可逆的に行うことができるフルカラー表示のエレクトロクロミック装置が得られる。
【0140】
エレクトロクロミック化合物(有機EC色素)としては、イエロー域(430〜490nmの範囲)、マゼンタ域(500〜580nmの範囲)、シアン域(600〜700nmの範囲)に吸収極大をもつ色素を使用することが望ましい。
【0141】
フルカラー表示のエレクトロクロミック装置は、支持基板上に少なくとも透明電極が形成されている一対の電極構造体(表示電極構造体と対向電極構造体)が、透明電極同士が対向するように電解質層を挟持して配置されており、一対の電極構造体を構成する透明電極のうちの、少なくとも表示電極構造体の透明電極上に、エレクトロクロミック化合物が担持された多孔質電極が形成されており、一対の電極構造体間に印加する電圧の制御によって発消色を行うことができ、(a)エレクトロクロミック化合物が担持された多孔質電極が形成されており、シアンの可逆的な発消色を行うことができるエレクトロクロミック素子構造体、(b)イエローの可逆的な発色を行うことができるエレクトロクロミック素子構造体、(c)マゼンタの可逆的な発色を行うことができるエレクトロクロミック素子構造体の3つの素子構造体を積層することによって形成され、各エレクトロクロミック素子構造体に印加する電圧を制御することによって、全体としてフルカラーの画像を表示することができる。
【0142】
図3は、本発明の実施の形態による、カラー表示を行うことができるエレクトロクロミック装置の一例の概略構成を説明する断面図である。
【0143】
図3に示すエレクトロクロミック素子構造体10A、10B、10Cのそれぞれは、図1に示すエレクトロクロミック装置と同様の構成を有している。
【0144】
図3に示す、カラー表示を行うことができるエレクトロクロミック装置は、(a)第1の支持基板(支持基板1a、1b、1c)、この第1の支持基板上に形成された第1の透明電極(透明電極2a、2b、2c)、及び、この第1の透明電極上に形成された第1の多孔質電極(多孔質電極4a、4b、4c)を含む表示電極構造体11a、11b、11cと、(b)第2の支持基板(支持基板6a、6b、6c)、この第2の支持基板上に形成された第2の透明電極(透明電極7a、7b、7c)、及び、この第2の透明電極上に形成された第2の多孔質電極(多孔質電極8a、8b、8c)を含む対向電極構造体12a、12b、12cと、(c)表示電極構造体11a、11b、11及び対向電極構造体12a、12b、12cによって挟持された電解質層5a、5b、5cとを具備している。
【0145】
電解質層5a、5b、5cを介して第1の透明電極(2a、2b、2c)と第2の透明電極(7a、7b、7c)とが対向するように配置され、有機EC色素(3a、3b、3c)が第1の多孔質電極(4a、4b、4c)に担持され、有機ラジカル化合物(13a、13b、13c)が第2の多孔質電極(8a、8b、8c)に担持されて、エレクトロクロミック素子構造体10A、10B、10Cが形成されている。
【0146】
エレクトロクロミック素子構造体10A、10B、10Cが積層されており、エレクトロクロミック素子構造体10A、10B、10Cのそれぞれの第1の透明電極(2a、2b、2c)と第2の透明電極(7a、7b、7c)の間に印加する電圧の制御によって、エレクトロクロミック化合物による可逆的な発消色を行うことができる。透明なエレクトロクロミック素子構造体10A、10B、10Cの積層型構造によって、カラー表示を行う有機EC装置を作製することができる。
【0147】
エレクトロクロミック素子構造体10A、10B、10Cのそれぞれの第1の多孔質電極(4a、4b、4c)にそれぞれ担持される有機EC色素(3a、3b、3c)は、図3の上方を目視方向とすると、マゼンタ、イエロー、シアンとする。
【0148】
図1、図3に示すエレクトロクロミック装置において使用されるエレクトロクロミック化合物としては、電圧が印加されていない状態では可視光領域に吸収を示さず消色状態にあり、電圧が印加された状態では可視光領域に吸収を示し発色状態となる化合物、逆に、電圧が印加された状態では可視光領域に吸収を示さず消色状態にあり、電圧が印加されていない状態では可視光領域に吸収を示し発色状態となる化合物、或いは、印加される電圧の大きさによって発色が異なる多発色状態が可能な化合物の何れであってもよく、目的に応じて適宜選択することができ、エレクトロクロミック素子構造体10A、10B、10Cのそれぞれに印加する電圧を制御することによって、フルカラーの画像を表示することができる。
【0149】
また、図1、図3に示すエレクトロクロミック装置において、アクティブマトリックス駆動を行うために、第1の支持基板(支持基板1、1a、1b、1c)に第1の透明電極(透明電極2、2a、2b、2c)を分画として形成し、即ち、各画素に対応するように相互に独立させた分画の複数個をマトリックス状に形成し、各分画上に第1の多孔質電極(多孔質電極4、4a、4b、4c)を形成して、各分画に対応して、ゲート線及びソース線によって接続される薄膜トランジスタ(TFT)を第1の透明電極上に形成配置する構成を有する装置とすることもできる。この装置によれば、薄膜トランジスタに印加する電圧を制御することによって、エレクトロクロミック素子構造体10A、10B、10Cのそれぞれの各画素に対応する分画における発消色を制御することができる。
【0150】
更に、図1に示すエレクトロクロミック装置において、透明電極2が分画され画素に対応するよう形成され、即ち、アクティブマトリックス駆動を行うために、シアン、マゼンタ、イエローに対応する第1、第2及び第3分画からなる分画の複数個からなるマトリックス状の透明電極2を支持基板1上に形成し、第1、第2及び第3分画上に多孔質電極4を形成して、第1、第2及び第3分画上に形成された多孔質電極4上にそれぞれ、シアン、マゼンタ、イエローの発色が可能なエレクトロクロミック化合物を担持させ、第1、第2及び第3分画に対応して、ゲート線及びソース線によって接続される薄膜トランジスタを透明電極2上に形成配置する構成を有する装置とすることもできる。この装置によれば、薄膜トランジスタに印加する電圧を制御することによって、それぞれの各画素に対応する第1、第2及び第3分画における発消色を制御することができる。
る。
【0151】
次に、本発明のエレクトロクロミック装置についての具体的な実施例と、これとの比較例を挙げて説明する。
【0152】
実施例
〔エレクトロクロミック装置の作製例:評価例〕
(表示電極構造体の作製):後述する実施例及び比較例で使用する表示電極構造体
厚さ150μmのポリエチレンナフタレート(PEN)からなる支持基板1上に、表面抵抗が13Ω/□のITO膜(透明電極2)を塗布・焼成法によって形成し、基体27(ITO−PEN基板)を作成した。
【0153】
図2に示すマグネトロンスパッタリング装置20の成膜室21の全圧を2.0Paとし、全圧に対する酸素ガスの分圧を50%、アルゴンガスの分圧を50%とし、4インチのSnターゲットを2個同時に用いて、各ターゲットへの電源出力を100Wに設定した(合計出力は200W)。また、ターゲット26a、26bと基体7との間の距離は7.5cmとした。反応性RFマグネトロンスパッタリングを行い、ITO膜(透明電極2)の表面へ膜厚2.6μmの多孔質酸化錫膜を形成した。なお、成膜中の基板(PEN)1の表面温度は150度以下であった。
【0154】
続いて、多孔質酸化錫膜よりなる多孔質電極4が形成されたITO―PEN基板を、UVオゾン処理した後、上記式(12)によって示された有機EC色素の2mM水溶液に40度下で24時間浸漬させて、有機EC色素を吸着させた。その後、エタノール溶液で洗浄処理、窒素ブローによる乾燥処理を行い、表示電極構造体を得た。
【0155】
〔第一の対向電極構造体の作製〕後述する実施例で使用する第一の対向電極構造体
厚さ150μmのポリエチレンナフタレート(PEN)からなる支持基板6上に、表面抵抗が13Ω/□のITO膜(透明電極2)が形成された基板(基体27)(ITO−PEN基板)を作成した。
【0156】
図2に示すマグネトロンスパッタリング装置20の成膜室21の真空度を7.21×10-4Paとし、全圧を4.0Pa(全圧に対する酸素ガスの分圧を50%、アルゴンガスの分圧を50%とした。)とし、3インチの4wt%−Sb2O3/96wt%−SnO2ターゲットを1個用いて、ターゲットへの電源出力を150Wに設定した。また、ターゲット26a、26bと基板(基体27)との間の距離は7.5cmとした。
【0157】
ITO膜表面へスパッタリングを570分間行い、膜厚4.5μmのアンチモンドープ酸化スズ膜(ATO多孔質電極)を形成した。なお、成膜レートは470nm/時間であり、成膜中の基板表面温度は120度以下であった。
【0158】
続いて、ATO膜よりなる多孔質電極8が形成されたITO−PEN基板を、UVオゾン処理した後、上記化学式(22)で表わされる4-Phosphonooxy-TEMPO(有機ラジカル化合物(TEMPO:2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル (2,2,6,6-tetramethylpiperidine 1-oxyl)))の5mM水溶液に40度下で24時間浸漬させて、ATO多孔質電極へ有機ラジカル化合物を吸着させた。その後、エタノール溶液で洗浄処理、窒素ブローによる乾燥処理を行い、第一の対向電極構造体を得た。
【0159】
〔第二の対向電極構造体の作製〕後述する比較例1で使用する第二の対向電極構造体
厚さ150μmのポリエチレンナフタレート(PEN)からなる支持基板6上に、表面抵抗が13Ω/□のITO膜(透明電極2)が形成された基板(基体27)(ITO−PEN基板)を作成した。
【0160】
図2に示すマグネトロンスパッタリング装置20の成膜室21の真空度を3.25×10-4Paとし、全圧を0.25Pa(全圧に対する酸素ガスの分圧を50%、アルゴンガスの分圧を50%とした。)とし、3インチの4wt%−Sb2O3/96wt%−SnO2ターゲットを1個用いて、ターゲットへの電源出力を150Wに設定した。また、ターゲット26a、26bと基板(基体27)との間の距離は7.5cmとした。
【0161】
ITO膜表面へスパッタリングを480分間行い、膜厚4.2μmのアンチモンドープ酸化スズ膜(ATO多孔質電極)を形成した。なお、成膜レートは525nm/時間であり、成膜中の基板表面温度は120度以下であった。
【0162】
続いて、ATO膜よりなる多孔質電極8が形成されたITO−PEN基板を、UVオゾン処理した後、上記化学式(22)で表わされる4-Phosphonooxy-TEMPOの5mM水溶液に40度下で24時間浸漬させて、ATO多孔質電極へ有機ラジカル化合物を吸着させた。その後、エタノール溶液で洗浄処理、窒素ブローによる乾燥処理を行い、第二の対向電極構造体を得た。
【0163】
〔第三の対向電極構造体の作製〕後述する比較例2で使用する三の対向電極構造体
厚さ150μmのポリエチレンナフタレート(PEN)からなる支持基板6上に、表面抵抗が13Ω/□のITO膜(透明電極2)が形成された基板(基体27)(ITO−PEN基板)を作成した。
【0164】
図2に示すマグネトロンスパッタリング装置20の成膜室21の真空度を3.25×10-4Paとし、全圧を2.0Pa(全圧に対する酸素ガスの分圧を0%、アルゴンガスの分圧を100%とした。)とし、3インチの4wt%−Sb2O3/96wt%−SnO2ターゲットを1個用いて、ターゲットへの電源出力を150Wに設定した。また、ターゲット26a、26bと基板(基体27)との間の距離は7.5cmとした。
【0165】
ITO膜表面へスパッタリングを450分間行い、膜厚4.7μmのアンチモンドープ酸化スズ膜(ATO多孔質電極)を形成した。なお、成膜レートは625nm/時間であり、成膜中の基板表面温度は120度以下であった。
【0166】
続いて、ATO膜よりなる多孔質電極8が形成されたITO−PEN基板を、UVオゾン処理した後、上記化学式(22)で表わされる4-Phosphonooxy-TEMPOの5mM水溶液に40度下で24時間浸漬させて、ATO多孔質電極へ有機ラジカル化合物を吸着させた。その後、エタノール溶液で洗浄処理、窒素ブローによる乾燥処理を行い、第三の対向電極構造体を得た。
【0167】
〔第四の対向電極構造体の作製〕後述する比較例3で使用する第四の対向電極構造体
厚さ150μmのポリエチレンナフタレート(PEN)からなる支持基板6上に、表面抵抗が13Ω/□のITO膜(透明電極2)が形成された基板(基体27)(ITO−PEN基板)を作成した。
【0168】
1次粒径20nmのアンチモンドープされた酸化スズ(ATO)を20重量%の分量で水に分散させてスラリーを作製し、このスラリーに、ポリエチレングリコールを5重量%の割合で溶解させて塗料を調製した。この塗料をITO膜上にスキージ法により塗布した。続いてホットプレートを用いて80度、15分間の乾燥処理を行い、膜厚14μmのアンチモンドープ酸化スズ(ATO)よりなる多孔質電極が形成されたITO−PEN基板が得られた。
【0169】
続いて、ATO膜よりなる多孔質電極8が形成されたITO−PEN基板を、UVオゾン処理した後、上記化学式(22)で表わされる4-Phosphonooxy-TEMPOの5mM水溶液に40度下で24時間浸漬させて、ATO多孔質電極へ有機ラジカル化合物を吸着させた。その後、エタノール溶液で洗浄処理、窒素ブローによる乾燥処理を行い、第四の対向電極構造体を得た。
〔電解質用の溶液の調製〕
ガンマブチロラクロンに、過塩素酸リチウムを0.1mol/L溶解させ、脱水、脱気したものを調製した。
【0170】
〔電極構造体の貼り合わせ〕
上述した第一〜第四の対向電極構造体12(有機ラジカル化合物13が吸着された多孔質電極8が形成された基板)と、表示電極構造体11をそれぞれ、厚さ50μmの熱可塑性フィルム接着剤を用いて90度で貼り合わせた。この際、後工程で電解質溶液を注入できるように、一部分に注入口を形成した。
【0171】
〔電解質溶液の注入〕
電解質溶液を注入し、その後、注入口をエポキシ系の熱硬化樹脂で封止し、電解質層を挟持した状態で対向させた電極構造体を具備するエレクトロクロミック装置が完成した。
【0172】
(実施例1)
上述した第一の対向電極構造体におけるATO多孔質電極の基礎物性について、X線回折、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)、窒素吸脱着測定、吸収スペクトル測定により評価した。以下に、評価結果について説明する。
【0173】
図4は、本発明の実施例による、多孔質電極のX線回折パターンを示す図であり、縦軸は回折強度(cps)、横軸は回折各(2θ(度))を示す。
【0174】
図4に示すように、ATO膜(多孔質電極)のX線回折パターンには、正方晶であるルチル相の酸化錫に起因する(110)、(101)、(200)、(211)、(002)、(112)の回折ピークが観測された。このことから、透明電極上に形成されたATO膜の結晶構造は、主に酸化錫であることがわかった。
【0175】
図5は、本発明の実施例による、多孔質電極の表面のFE−SEM写真(倍率150,000)を示す図である。
【0176】
図6は、本発明の実施例による、多孔質電極の断面のFE−SEM写真(倍率22,000)を示す図である。
【0177】
図5、図6に示す電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)写真から明らかなように、マグネトロンスパッタリングによって成膜されたATO膜は、表面FE−SEM像から、密に集合している直径50nm〜100nm程度のナノ粒子状形態が観察され、断面FE−SEM像から、支持基板に対して垂直方向に成長した約100nm径の柱状体から構成されていることがわかった。また、後述するように、ATO膜は、窒素吸脱着等温線の測定の結果からメソスケールの細孔を有することがわかった。
【0178】
SnO2:Sbは、帯電していないSn又はSbと、酸素分子O2又は酸素分子イオンO2-(又は酸素ラジカルO・)との反応によって形成され、ITO膜の表面に成長された膜の最表面の凸部に加速された粒子(原子)が衝突して凸部が選択的に成長し、凸部はより凸となり成長し、凹部は成長し難くそのままの状態で残り、柱状体の集合体から形成された柱状構造をもったATO膜が形成されたと考えられる。
【0179】
また、圧力が高ければ高いほど衝突した粒子(原子)はエネルギー的に低い状態であるため、衝突した凸部表面での拡散し難く、柱表面で微小なスケールでランダムにスパッタされた結晶性粒子(又は原子)が堆積していき、柱状構造の内部にメソスケールの細孔が形成される。このようにして、ターゲットからスパッタされた結晶性粒子の堆積によって全体として柱状体をなしこれらの集合体によって柱状構造をもったATO膜が形成される。0.5Pa〜6.0Paの圧力範囲では、このメソスケールの細孔をもった柱状体が形成され、柱状構造を有するATO膜形成されやすいと考えられる。
【0180】
図7は、本発明の実施例による、多孔質電極の断面のFE−SEM写真を示す図であり図7(A)、図7(B)に示すSEM写真の倍率はそれぞれ、330,000、150,000である。
【0181】
図7に示す断面FE−SEM像に見られるように、柱状構造内部に、メソスケールの細孔が存在していることがわかる。このように、マグネトロンスパッタリングによって形成された多孔質電極は、支持基板に垂直に成長した柱状体間の隙間に加えて柱状体内部にメソスケールの細孔を有する特徴をもったメソ多孔質電極である。代表的なメソスケールの細孔と想定される部分を矢丸で図7(A)に示す。このメソ多孔質電極は、表示素子の発色時の電解質溶液における電荷バランスの調整に有用であり、電解液との接触面積が大きく、電荷バランスを調整するのに好適である。また、メソ多孔質電極への、ニトロオキシラジカル基(発色のために必要な電位を下げる働きをする。)を有する有機ラジカル化合物の担持量を増大させることができる。
【0182】
マグネトロンスパッタリングによって、ITO膜表面へATO多孔質電極を形成する際、酸素を使用するので、発生したプラズマと酸素との反応が生じる。このため、電子と酸素分子との衝突による解離反応により、一重項励起酸素原子O(1D)が形成する(e-+O2→O(3P)+O(1D)+e-、e-+O(3P)→O(1D)+e-)。この一重項励起酸素原子の材料表面への攻撃により、材料表面の比較的弱い化学結合を解離させる。また、減圧下であるため、励起酸素原子が材料表面で反応し易いため、マグネトロンスパッタリング成膜の開始時には、基板の最表面近傍で基板表面の官能基が解離され、基板と多孔質固体とが化学結合を形成する。
【0183】
即ち、マグネトロンスパッタリング成膜の開始時には、ITO表面は励起酸素原子によって改質され、反応性の高い親水基がITO表面に形成されため、ITOとSn(又はSb)とOとの化学結合が形成され、ITOとSn(又はSb)とOとの化学結合に伴って形成される膜は、ITO表面の平滑性を反映した表面形態で成長が起こるため、ITOとATOとのナノメートルスケールオーダーで均一な緻密な膜がITO表面に中間層として形成される。更に、マグネトロンスパッタリング成膜を進めると、上述したように柱状体が中間層上に成長していき、ITO−PEN基板上に中間層が形成されこの上に更に柱状体が成長していき、成長方向へ形態変化を伴った状態で、ATO膜が形成されていく。
【0184】
この結果、ITOとの密着性の高い膜が得られ、ATO多孔質電極が形成されたITO−PEN基板を曲げても、ITO膜、ATO膜は剥離しないことが確認され、密着性が向上し耐久性向上が可能となった。
【0185】
ATOを成膜する際、原子層の堆積の増加に伴って、上述のように形態変化が生じるため、ATO膜の下層部(上記の中間層)とこの上方の上層部とでメソスケールオーダーでの形態が大きく異なる。また、緻密な膜(上記の中間層)の厚さは、スパッタ時の出力に依存すると考えられる。
【0186】
図8は、本発明の実施例による、多孔質電極と基板との界面の断面のFE−SEM写真(倍率1,1000、3kV)を示す図である。
【0187】
図8は、アモルファスなガラス基板上にATO多孔質膜を形成し、界面部分を含む断面FE−SEM像であり、成長された多孔質膜とガラス基板との界面に厚さ約25nmの略平滑な緻密な膜(中間層)が認められた。
【0188】
多孔質膜の細孔構造を評価する手法として、窒素吸脱着等温線が知られており、比表面積、細孔径分布、細孔容積まで評価できるため、細孔構造を特徴化するのに非常に有用である。比表面積とは単位重量あたりの表面積であり、窒素ガス等の不活性ガスの物理吸着を用いて測定することができる。
【0189】
測定サンプルの前処理として、窒素吸脱着測定装置(日本ベル株式会社製、BELSORP−miniII)に接続するガラス管内へサンプルを導入し、窒素雰囲気下でATO膜サンプル150mgを120度・3時間で加熱し、細孔内外における吸着水の除去を行った。次いで、77K(ガラス管内の飽和蒸気圧:760mmHg)まで冷却し、サンプル管における相対圧力(P/P0=吸着平衡圧/飽和蒸気圧)を変化させ、ガラス管内の圧力の変化を測定した。サンプル表面は、窒素分子をファンデルワールス力で引き付け、物理吸着する。これによって、既知容量のサンプル管内の圧力変化が生じ、サンプル表面への窒素の物理吸着量がわかる。
【0190】
実測された相対圧力とガス吸着量のプロットをとり、その直線の勾配と切片から、Langmuir理論を多分子層吸着に拡張したBET式におけるVm(単分子層の吸着ガス量)とC値(BET定数)が求められ、Vm と窒素分子の断面積(窒素分子断面積:16.2Å2)から、BET比表面積を算出することができる。
【0191】
マグネトロンスパッタリングによって形成されたATO多孔質電極のBET比表面積は、33.3m2/gであると算出された。有機ラジカル化合物をできるだけ多く担持させ電気容量が大きな多孔質電極とするためには、多孔質電極の比表面積は約10m2/g以上であることが望ましいが、求められた値は、従来の焼結型のATO多孔質ナノ粒子膜(粒子径が数十ナノメートルである。)の比表面積に比べて、同じ又はそれ以上であり、十分な大きさの比表面積を有している。
【0192】
図9は、本発明の実施例による、多孔質電極の窒素吸脱着等温線を示す図である。
【0193】
図10は、本発明の実施例による、多孔質電極の細孔分布を示す図であり、横軸は細孔の直径(nm)、縦軸は微分細孔容積(V:細孔容積、D:細孔直径、dV/dD)(mm3nm-1g-1)を示す。
【0194】
図9に示すように、吸着平衡圧を順次増加(吸着)して得られる吸着側等温線と、平衡圧を順次減少(脱着)させて得られる脱着側等温線とが異なり、ヒステリシスを示す等温線が得られ、IV型(IUPACの等温線分類による。)の等温線を示し、メソ細孔(2nm〜50nm)の存在が示された。
【0195】
図10に示すように、上述の第一の対向電極構造体における多孔質電極は、均一ではないが20nm以下に細孔径分布を有しており、直径2nm〜20nmの細孔を含んでいる。
【0196】
対向電極構造体の電気容量を増大させるために用いる上記化学式(15)〜(57)で表わされる有機ラジカル化合物は、その分子径から考えるとマイクロ孔(直径<2nm)には導入できないため、また、有機ラジカル化合物は表面に吸着した際に凝集し易いものがあり、凝集によって円滑な電子移動を阻害するため、できるだけ単一分子状態で多くの化合物を吸着させる必要があるので、多孔質電極はメソ領域から外れない細孔径であることが好ましく、図10に示す結果は、2nm〜20nmの細孔を含む分布を示しており、有機ラジカル化合物の吸着に好適である。
【0197】
上述した第一の対向電極構造体におけるATO多孔質膜の透明性を紫外−可視吸収スペクトル測定により、200から800nmの波長範囲における透過率を評価した。
【0198】
図11は、本発明の実施例による、多孔質電極の透過率の測定結果を示す図であり、縦軸は透過率(%)、横軸は波長(nm)を示す。ここで、透過率は、支持基板に、透明電極、及び、多孔質電極が形成された対向電極構造体について測定されたものであって、多孔質電極に有機ラジカル化合物が担持されていない状態で測定された透過率である。
【0199】
図11から明らかなように、透過率の変化を示す曲線は、支持基板、透明電極、ATO多孔質膜からなる電極構造体の層構造に起因する干渉によって波打っているが、マグネトロンスパッタリングによって成膜されたATO膜は、非常に透過率が高く、400nmにおける透過率は約60%、450nmにおける透過率は約90%、600nmにおける透過率は96%、700nmにおける透過率は98%であった。
【0200】
第一の対向電極構造体12のサイクリックボルタンメトリーにより3極測定を行った。
【0201】
図12は、本発明の実施例による、第一の対向電極構造体12のサイクリックボルタンメトリーの結果を示す図であり、横軸は参照電極(Ag/AgNO3)に対する電圧(V)、縦軸は電流(A)を示す。
【0202】
サイクリックボルタンメトリー(CV)は、一般的な3電極系を使用し、上述の第一の対向電極構造体を作用電極、対向電極を白金電極、参照電極をAg/AgNO3とし、上述の電解質用の溶液を用い、電圧−電流曲線における電圧掃引速度は50mV/sとし、連続測定における3サイクル目のデータを採用した。図12の電圧−電流曲線に示すように、0.18Vに還元ピーク、0.35Vに酸化ピークが観測された。CV曲線において明確な酸化・還元ピークが観察されたので、低消費電力化が可能である。
【0203】
上述した表示電極構造体と、第一の対向電極構造体を用いて、図1に示す構成のエレクトロクロミック装置を作製し、透明電極2、7間に電圧を印加して、電圧−光学特性(635nmの吸光度の変化を測定した。)を測定した。
【0204】
図13は、本発明の実施例において、表示素子の発色時、消色時の吸光度の変化を示す図であり、横軸は透明電極2、7に印加される電圧、即ち、多孔質電極(上記化学式(22)で表わされる4-Phosphonooxy-TEMPOが担持されたATO電極)8に印加される電圧、縦軸は635nmにおける吸光度を示す。
【0205】
透明電極2、7間に−1.2Vの電圧を印加すると、直ちにシアン発色を呈した。なお、OFFからONへの表示変更の応答速度は150ms程度であり、実用上充分に良好な速度であった。続いて−1.4V程度まで電圧を上昇させた後、電極間電圧を−1.2V程度まで低減させると、直ちに消色し、透明となった。なお、色表示のONからOFFへの応答速度は約50msであり、実用上充分に良好な速度であった。
【0206】
続いて、表示電極構造体と対向電構造体との間に、−1.5Vと0.5Vとを交互に1Hzで100万回繰返し印加したところ、100万回繰り返した後においても初期の状態とスペクトル形状の変化が殆ど見られず、実用上充分に優れた耐久性を有していることが確認された。
【0207】
なお、本実施例における表示装置は、表示電極構造体を構成する多孔質電極として無色の材料を適用したので、消色時に確実に無色透明状態となり、発色時には鮮やかなシアン色の表示を行うことができた。また、対向電極構造体を構成する多孔質電極の形成方法としてマグネトロンスパッタリングを適用しているため、ポリエチレンナフタレート基板をはじめとするプラスチック基板上へ成膜が可能となり、低温環境下においても実用上充分な発消色特性を具備する表示電極が形成されたことも確かめられた。
【0208】
(比較例1)
上述した表示電極構造体と第二の対向電極構造体を用いて、図1に示す構成のエレクトロクロミック装置を作製し、透明電極2、7間に電圧を印加して、電圧−光学特性(635nmの吸光度の変化を測定)を測定したところ、発色がほとんど観測されなかった。この原因は、第二の対向電極構造体の多孔質電極の作製工程において、真空槽内の圧力が0.25Paと低かったため、マグネトロンスパッタリングによる成膜において、非常に緻密なアンチモンドープ酸化錫膜が形成され、電解液との接触面積が低く、有機EC色素が実用上充分に発色しなかったためと考えられる。
【0209】
(比較例2)
上述した表示電極構造体と第三の対向電極構造体を用いて、図1に示す構成のエレクトロクロミック装置を作製し、透明電極2、7間に電圧を印加して、電圧−光学特性(635nmの吸光度の変化を測定)を測定したところ、発色がほとんど観測されなかった。この原因は、第三の対向電極構造体の多孔質電極の作製工程において、真空槽内に酸素が存在しない状態だったため、マグネトロンスパッタリングによる成膜において金属に近い状態の結晶構造が形成され、有機EC色素を充分に発色させることができなかったためと考えられる。
【0210】
(比較例3)
上述した第四の対向電極構造体におけるATOナノ粒子膜の透明性を紫外−可視吸収スペクトル計により200から800nmの波長範囲における透過率を評価した。
【0211】
図14は、本発明の比較例による、多孔質電極の透過率の測定結果を示す図であり、縦軸は透過率(%)、横軸は波長(nm)を示す。ここで、透過率は、支持基板に、透明電極、及び、多孔質電極が形成された対向電極構造体について測定されたものであって、多孔質電極に有機ラジカル化合物が担持されていない状態で測定された透過率である。
【0212】
図14から明らかなように、塗布法で成膜したATOナノ粒子膜の透過率は、
上述した第一の対向電極構造体におけるATO多孔質電極の透過率(図11に示した。)よりもはるかに低く、400nmにおける透過率は0%、500nmにおける透過率は0%、600nmにおける透過率は1%、700nmにおける透過率は3%であった。
【0213】
第四の対向電極構造体12のサイクリックボルタンメトリーにより3極測定を行った。
【0214】
図15は、本発明の比較例による、第四の対向電極構造体12のサイクリックボルタンメトリーの結果を示す図であり、横軸は参照電極(Ag/AgNO3)に対する電圧(V)、縦軸は電流(A)を示す。
【0215】
サイクリックボルタンメトリーは、図12の場合と同様にして行い、図12の電圧−電流曲線に示すように、0.10Vに還元ピーク、0.35Vに酸化ピークが観測された。
【0216】
上述した第四の表示電極構造体と第四の対向電極構造体を用いて、図に示す構成のエレクトロクロミック装置を作製し、透明電極2、7間に電圧を印加して、電圧−光学特性(635nmの吸光度の変化を測定)を測定した。
【0217】
図16は、本発明の比較例において、表示素子の発色時、消色時の吸光度の変化を示す図であり、横軸は透明電極2、7に印加される電圧、即ち、多孔質電極(上記化学式(22)で表わされる4-Phosphonooxy-TEMPOが担持されたATO電極)8に印加される電圧、縦軸は635nmにおける吸光度を示す。
【0218】
本比較例においては、透明電極2、7間に−1.2Vの電圧を印加したところ、直薄いシアン発色を呈した。なお、表示OFFからONへの変更の応答速度は約5s程度であった。更に、−1.4V程度まで電圧を上昇させ、その後、電極間電圧を0Vまで下げていったところ、発色濃度はゆっくり低減化した。なお、表示がONからOFF状態への変更の応答速度は約8sであった。
【0219】
本比較例の表示装置においては、発色後に電圧を低下させ、0Vとなっても、完全な無色透明状態にはならず、消え残りがあることが確認された。この原因は、第四の表示電極構造体の多孔質電極の作製工程において、所定の塗料をスキージ法により塗布した後の加熱処理が低温であったため、アンチモンドープ酸化錫ナノ粒子同士のネッキング(結合)を形成できなかったことや鋳型であるポリエチレングリコールが除去されていないためである。よって、円滑な電子移動が起こりにくく、十分な吸光度をもって発色せず、良好な応答速度が得られなかったと考えられた。
【0220】
上述したことから明らかなように、支持基板及び多孔質電極材料として無色透明なものを使用し、有機ラジカル化合物を使用したことにより、極めて応答反応に優れ、鮮鋭な色調で、可逆的なエレクトロクロミック化合物による発消色表示を安定して行うことができるエレクトロクロミック装置、特にフルカラー表示に好適なエレクトロクロミック装置を実現することができた。
【0221】
また、本発明によれば、多孔質電極の作製法として、マグネトロンスパッタ法を用いたので、比較的低温条件下においてアンチモンドープ酸化錫(ATO)多孔質電極を形成することができ、これにより従来汎用されていたガラス基板よりも耐熱性の低いプラスチック材や薄層基板にも、ATO多孔質電極を形成することができるようになり、装置形状や態様の自由度が高まり、また、フレキシブルな表示素子を作製することも可能となった。
【0222】
また、本発明によれば、ATO電極のマグネトロンスパッタリング法による作製工程において、圧力を0.5Paから6.0Paの圧力下で、酸素ガス存在下で行うことにより、細孔構造を良好な状態に形成でき、表示電極側の色表示濃度を充分に高くすることができた。
【0223】
なお、本発明によるエレクトロクロミック装置は、各種の用途に使用される表示素子や表示板、防眩ミラー、調光素子、光スイッチ、光メモリ等に使用することができる。
【0224】
以上、本発明を実施の形態について説明したが、本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0225】
例えば、多孔質電極に担持させるエレクトロクロミック化合物は目的用途に応じて適宜選択することができ、上述した例に限定されるものではない。また、有機ラジカル化合物は上記化学式(22)で表わされる4-Phosphonooxy-TEMPOに限定されるものではなく、任意に変更可能である。更に、例示した各部の寸法はこれに限定されるものでなく、目的用途に応じて適宜設定することができる。
【0226】
更に、多孔質電極は酸化錫多孔質電極に限定されるものではなく、酸化錫以外の酸化物による多孔質電極であってもよく、必要に応じて任意に変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0227】
以上説明したように、本発明によれば、高性能なエレクトロクロミック装置及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0228】
【図1】本発明の実施の形態による、エレクトロクロミック装置の一例の概略構成を説明する断面図である。
【図2】同上、マグネトロンスパッタリング装置の概略構成例を模式的に示す図である。
【図3】同上、カラー表示を行うことができるエレクトロクロミック装置の一例の概略構成を説明する断面図である。
【図4】本発明の実施例による、多孔質電極のX線回折パターンを示す図である。
【図5】同上、多孔質電極の表面のFE−SEM写真(倍率150,000)を示す図である。
【図6】同上、多孔質電極の断面のFE−SEM写真を示す図である。
【図7】同上、多孔質電極の断面のFE−SEM写真を示す図である。
【図8】同上、多孔質電極と基板との界面の断面のFE−SEM写真を示す図である。
【図9】同上、多孔質電極の窒素吸脱着等温線を示す図である。
【図10】同上、多孔質電極の細孔分布を示す図である。
【図11】同上、多孔質電極の透過率の測定結果を示す図である。
【図12】同上、第一の対向電極構造体12のサイクリックボルタンメトリーの結果を示す図である。
【図13】同上、表示素子の発色時、消色時の吸光度の変化を示す図である。
【図14】本発明の比較例による、多孔質電極の透過率の測定結果を示す図である。
【図15】同上、第四の対向電極構造体12のサイクリックボルタンメトリーの結果を示す図である。
【図16】同上、表示素子の発色時、消色時の吸光度の変化を示す図である。
【符号の説明】
【0229】
1、1、1a、1b、1c、6、6a、6b、6c…支持基板、
2、2a、2b、2c、7、7a、7b、7c…透明電極、
3、3a、3b、3c…有機EC色素、5、5a、5b、5c…電解質層、
4、4a、4b、4c、8、8a、8b、8c…多孔質電極、
10A、10B、10C…エレクトロクロミック素子構造体、
10…エレクトロクロミック装置、12、12a、12b、12c…対向電極構造体、
11、11、11a、11b、11c…表示電極構造体、
13、13a、13b、13c…有機ラジカル化合物
20…マグネトロンスパッタリング装置、21…成膜室、
22、23…マスフローコントローラ、24…回転ホルダ、25…真空ポンプ、
26a、26b…ターゲット、27…基体、28…ダイアフラム真空計、
29…電離真空計、30a、30b…磁石、31a、31b…電源
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミック装置及びその製造方法に関し、特に、応答速度、発色効率、表示色純度に優れ、明瞭で鮮鋭な画像形成が可能であり、繰り返し耐久性にも優れ、薄型化やフレキシブル化にも対応可能なエレクトロクロミック装置及びその製造方法に関する。
【0002】
近年、明るく色純度に優れ、且つ、省消費電力で、フルカラー表示への応用が容易な表示色素材料やこれを用いた表示素子への要望が高まってきている。従来、CRT(Cathode Ray Tube)、PDP(Plasma Display Panel)、ELD(Electroluminescence Display)VFD(Vacuum Fluorescent Display)、FED(Field Emission Display)、LED(Light Emitting Diode)等の発光型素子、DMD(Digital Micromirror Display)、LCD(Liquid Crystal Display)、ECD(Electrochromic Display)、EPD(Electrophoresis Display)等の非発光型素子に関する多くの技術の提案がなされている。
【0003】
しかし、従来公知の各種発光型素子を用いた表示デバイスは、ユーザーが発光を直視する形式で使用するものであるため、長時間閲覧すると視覚的な疲労を引き起こすという問題があった。
【0004】
特に、LCDは非発光型素子の中でも需要が拡大している技術であり、大型、小型の、様々なディスプレイ用途に用いられているが、LCDは視野角が狭く、見やすさの観点からは改善すべき課題を有している。また、LCDを使用している携帯電話等のモバイル機器は、屋外で使用される場合が多く、太陽光下では、表示光が相殺されて視認性が悪化するという問題もあった。
【0005】
非発光型素子のうち反射型表示素子に関しては、電子ペーパーの需要向上により、従来から様々な技術の提案がなされている。例えば、反射型LCDや電気泳動方式の表示デバイスが挙げられる。
【0006】
反射型LCDとしては、二色性色素を用いたG−H型液晶方式や、コレステリック液晶等が知られている。これらの方式は、従来の透過型LCDと比較して、バックライトを使用しないため、省消費電力という利点を有しているが、視野角依存性があり、また光反射効率も低いため、必然的に画面が暗くなってしまうという問題がある。
【0007】
他方、電気泳動方式の表示デバイスは、溶媒中に分散された電荷を帯びた粒子が、電界によって移動する現象を利用した方式であり、省消費電力で、視野角依存性がないという利点を有しているが、フルカラー化を行う場合には、カラーフィルターを利用する並置混合法を適用する必要があるため、反射率が低下し、必然的に画面が暗くなってしまうという問題がある。
【0008】
また、近年においては、自動車の調光ミラーや時計等に、エレクトロクロミック(以下、ECと略記する。)素子を用いたものが提案されている。このEC素子は、偏光板等が不要であり、視野角依存性が無く、発色型で視認性に優れ、構造が簡易で且つ大型化も容易で、更には材料の選択によって多様な色調の表示が可能であるという利点を有している。
【0009】
具体的なEC素子を用いた表示装置の例としては、1対の透明電極の少なくとも一方に半導体ナノ多孔質層を設け、この半導体ナノ多孔質層にEC色素を担持させた構成の表示装置が提案されている(例えば、後記する特許文献1、2、非特許文献1、2を参照。)。これらの表示装置は、開回路を構成して電極間の電子の移動を遮断し酸化還元状態を保持するだけで表示状態を静止できるので、表示画像を維持するための電力が不要であり、消費電力が極めて低いという点で優れている。
【0010】
イエロー、シアン、マゼンタの各EC色素をそれぞれ担持させた構造単位を積層させた構成を有し、フルカラー表示を行うことができるEC表示は周知である(例えば、後記する特許文献3、4、5を参照。)。
【0011】
後記する特許文献1、2、非特許文献1には、フェノチアジン誘導体を担持させた金属酸化物半導体多孔質電極を設けた構成が記載されており、後記する非特許文献2には、対向電極として、透明電極上にアンチモンドープの酸化錫(ATO)多孔質電極を設けた構成が記載されている。
【0012】
「エレクトロクロミック装置」と題する特許文献1、2には、以下の記載がある。
【0013】
半導体ナノ多孔質層を形成する方法としては、特に制限はなく、半導体の種類に応じて適宜選定することができ、例えば、金属陽極酸化法、陰極析出法、スクリーン印刷法、ゾルゲル法、熱酸化法、真空蒸着法、dc及びrfスパッタ法、化学気相堆積法、有機金属化学気相堆積法、分子線堆積法、レーザーアブレーション法等が挙げられ、また、上記方法を組み合わせて半導体ナノ多孔質層を作製することもできる。
【0014】
後記する非特許文献3に、RF反応性マグネトロンスパッタリングによってガラス基板上に形成されたインジウム錫酸化物(ITO)膜の性質に及ぼす酸素分圧の影響について記載されており、また、後記する非特許文献4に、ガラス基板上へのRFマグネトロンスパッタリングによるアンチモンドープ酸化錫(SnO2:Sb)の調製について記載されている。
【0015】
【特許文献1】特開2003−248242号公報(段落0008、段落0025、図1、図2)
【特許文献2】特開2003−270670号公報(段落0008、段落0031、図1〜図4)
【特許文献3】特開2007−10975号公報(段落0028、段落0046)
【特許文献4】特開2007−41259号公報(段落0011〜0012、段落0148、図1〜図4)
【特許文献5】特開2007−121714号公報(段落0071〜0088)
【非特許文献1】H. Pettersson et al, “Direct-driven electrochromic displays based on nanocrystalline electrodes” , Display, 25(2004)223 - 230(Abstract)
【非特許文献2】D. Cummins et al, “Ultrafast Electrochromic Windows Based on Redox-Chromophore Modified Nanostructured Semiconducting and Conducting Films”,J. Phys. Chem. B 2000, 104, 11459 11459(Abstract)
【非特許文献3】L. J. Meng, M. P. dos Snatos, “Study of the effect of the oxygen partial pressure on the properties of rf reactive magnetron sputtered tin-doped indium oxide films”, Applied surface Science, 120(1997)243 - 249(Abstract, Conclusions)
【非特許文献4】Y. Wang et al, “Structural and photoluminescence characters of SnO2:Sb films deposited by RF magnetron sputtering”,Journal of Luminescence 114(2005)71-76(Abstract, Conclusions)
【非特許文献5】E. P. Barrett et al,“The Determination of Pore Volume and Area Distributions in Porous Substance. I. Computations from Nitrogen Isotherms”,J. Am. Chem. Soc., 73(1951)373 -380(Summary)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
非特許文献2に記載の表示装置の対向電極を構成するアンチモンドープの酸化錫(ATO)は、濃い灰色に着色している材料であり、カラー表示を行うための電極材料としては好適な材料ではなかった。
【0017】
また、特許文献1、2、非特許文献1に記載の表示装置の対向電極を構成する金属酸化物半導体多孔質電極に担持させたフェノチアジン誘導体は、酸化反応により赤色発色する性質を有するものであるため、表示電極側でEC色素による目的とする発色表示を妨げてしまうという欠点を有していた。特に、透明な表示デバイスを得ようとする場合や、明瞭なフルカラー画像表示を行うことを目的として、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の3層の発色層を積層させた構成のデバイスを構築する場合には、対向電極は、無色透明の材料により構成されており、且つ、対向電極に担持させた材料が、酸化・還元反応により色相変化を生じないものとすることが理想的である。
【0018】
このようなエレクトロクロミック表示装置では、対向電極をプラスにチャージ(酸化)させることが要求され、即ち、対向電極は蓄電能力が必要となり、蓄電能力がある対向電極を実現するために、(1)多孔質電極として蓄電能力のあるATO(アンチモンドープ酸化錫)電極を使用する方法、(2)蓄電能力をもたない多孔質電極に、酸化可能(蓄電可能)な有機物を担持(吸着)させる方法が考えられるが、方法(1)では、上述のように、ATOは、濃い灰色に着色している材料であり常時着色があり、表示品質を落とすという欠点があり、方法(2)では、電圧印加時に上記有機物の酸化によって生じる発色があり、表示品質を落とすという欠点がある。
【0019】
フルカラー画像の表示を行うために、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の3層の発色層を積層させた構成のデバイスを構築しようとする場合には、支持基板としては透明な材料が好適である。また、各画素の視差低減を図るためには、支持基板として充分な機械的な強度をもつ薄い材料が好適である。
【0020】
更に、表示装置としての利便性を向上させるべく、形状の自由度を増すためには、フレキシブルな形態のものであることが望ましいが、この場合には、支持基板は、プラスチック材料が好適であり、この形状変化に追従可能なように多孔質電極と支持基板との間の密着性が強く確保することが必要となる。
【0021】
しかし、従来技術においては、高温条件下で多孔質電極を成膜しているので、プラスチック材料の耐熱性のために、上述したフレキシブルな形態の表示装置を作製する場合に適用できないという問題があった。
【0022】
カラー表示を行う表示装置の電極として、濃い色を有しておらず透明性に優れた電極膜(層)を低温条件下でプラスチック基板上に形成することが望まれていた。
【0023】
なお、特許文献1、特許文献2に、多孔質電極をスパッタリング法によって形成できるとの記載があるが、スパッタリング法による成膜条件の詳細について記載がされていない。また、マグネトロンスパッタリング法によって、透過率が大きく透明な多孔質電極を成膜することについても記載がされていない。
【0024】
スパッタリング法によって平坦なATO膜、ITO膜の形成の検討がなされているが、スパッタリング法によってメソスケールの細孔をもつ多孔質膜を作成したという報告はみられない。これは、ATO膜、ITO膜は、緻密な構造でないと電気特性が良くないためと考えられる。
【0025】
なお、非特許文献3、4に、マグネトロンスパッタリング法によって、ガラス基板上にATO膜、ITO膜を形成する記載があるが、メソスケールの細孔構造については記載されていない。
【0026】
以下、本明細書では、「多孔質電極」は、比表面積が大きく、何らかの分子を担持可能な細孔構造を有する電極を意味し、細孔径による多孔体のIUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry)による分類に従って2nm<直径<50nmの細孔をメソ孔と称し、「メソスケールの細孔」は、2nm<直径<50nmである細孔を意味するものとする。
【0027】
本発明は、上述したような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、比較的低温条件下で形成することができ、細孔構造をもち支持基板との密着性に優れた高透明な多孔質電極を有しカラー表示に好適であり、鮮明で色純度が高く、発消色の繰り返し耐久性に優れたエレクトロクロミック装置予備その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
即ち、本発明は、第1の支持基板(後述の実施の形態における支持基板6、6a、6b,6c)上に第1の透明電極(後述の実施の形態における透明電極7、7a、7b、7c)が形成され、この第1の透明電極に第1の多孔質電極(後述の実施の形態における多孔質電極8、8a、8b、8c)が形成された対向電極構造体(後述の実施の形態における対向電極構造体12、12a、12b、12c)と、第2の支持基板(後述の実施の形態における支持基板1、1a、1b、1c)上に第2の透明電極(後述の実施の形態における透明電極2、2a、2b、2c)が形成され、この第2の透明電極に第2の多孔質電極(後述の実施の形態における多孔質電極4、4a、4b、4c)が形成され、この第2の多孔質電極に酸化反応又は還元反応により発色するエレクトロクロミック色素(後述の実施の形態における有機EC色素3、3a、3b、3c)が担持されている表示電極構造体(後述の実施の形態における表示電極構造体11、11a、11b、11c)と、前記第1及び第2の透明電極の間に挟持された電解質層(後述の実施の形態における電解質層5、5a、5b、5c)とを有し、前記第1の多孔質電極が、前記第1の支持基板の面に略垂直であり、メソスケールの細孔を有する柱状体からなる、エレクトロクロミック装置に係るものである。
【0029】
また、本発明は、第1の支持基板上に第1の透明電極が形成され、この第1の透明電極に第1の多孔質電極が形成された対向電極構造体と、第2の支持基板上に第2の透明電極が形成され、この第2の透明電極に第2の多孔質電極が形成され、この第2の多孔質電極に酸化反応又は還元反応により発色するエレクトロクロミック色素が担持されている表示電極構造体とが、前記第1及び第2の透明電極が対向するように電解質層を挟持して配置されたエレクトロクロミック装置の製造方法であって、前記第1の透明電極上に前記第1の多孔質電極をマグネトロンスパッタリングによって形成する工程を有し、前記第1の支持基板の面に略垂直であり、メソスケールの細孔を有する柱状体からなる前記第1の多孔質電極が形成される、エレクトロクロミック装置の製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、前記第1の多孔質電極が、前記第1の支持基板の面に略垂直であり、メソスケールの細孔を有する柱状体からなるので、柱状体間の隙間に加えて、EC素子用の電極として良好な細孔構造を有し、前記第1の支持基板との密着性に優れた透明な前記第1の多孔質電極を、500度程度という高温の焼成処理を必要とせず、比較的低温条件下で形成することができ、前記第1の支持基板としてプラスチック基板や薄層基板を使用することができ、薄型化、フレキシブル化、軽量化等、構成の自由度を高めることができ、カラー表示用として実用上充分な応答速度、発色効率を有し、鮮明で色純度が高く、発消色の繰り返しの耐久性に優れたエレクトロクロミック装置を提供することができる。なお、メソスケールの細孔は、2nm<直径<50nmである細孔を意味するものとする。
【0031】
また、本発明によれば、前記第1の透明電極上に前記第1の多孔質電極をマグネトロンスパッタリングによって形成する工程を有し、前記第1の支持基板の面に略垂直であり、メソスケールの細孔を有する柱状体からなる前記第1の多孔質電極が形成されるので、柱状体間の隙間に加えて、EC素子用の電極として良好な細孔構造を有し、前記第1の支持基板との密着性に優れた透明な前記第1の多孔質電極を、比較的低温条件下で形成することができ、前記第1の支持基板としてプラスチック基板や薄層基板を使用することができ、フレキシブル化等、構成の自由度を高めることができ、カラー表示用として実用上充分な応答速度、発色効率を有し、鮮明で色純度が高く、発消色の繰り返しの耐久性に優れたエレクトロクロミック装置の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明のエレクトロクロミック装置では、前記第1の多孔質電極が、20nm以下の細孔を有する柱状体からなる構成とするのがよい。この構成によれば、柱状体は20nm以下の細孔を有するので、柱状体間の隙間に加えてこの細孔に、ニトロオキシラジカル基を有する有機ラジカル化合物(後述の実施の形態における有機ラジカル化合物13、13a、13b、13c)を、できるだけ単一分子状態で多数吸着させ担持させることができ、前記対向電極構造体における電気容量を増大させることができ、発色効率を向上させることができる。
【0033】
また、前記第1の多孔質電極は半導体からなり、この半導体は金属の酸化物又は金属の酸化物の複合体によって構成され、前記金属がインジウム、錫、亜鉛、アルミニウムの何れかである構成とするのがよい。この構成によれば、前記第1の多孔質電極を透明に形成することができ、カラー表示を行う構成を可能とすることができる。なお、前記金属の酸化物はドーパントを含んでいてもよい。
【0034】
また、前記第1の多孔質電極が、RF(高周波)電源又はDC(直流)電源を用いて、不活性ガスの他に酸素ガスが分圧換算で10%以上、90%以下の割合で存在し、且つ、全圧が0.5Pa以上、6.0Pa以下である真空槽中において、マグネトロンスパッタリングによって形成された構成とするのがよい。この構成によれば、細孔構造を有し前記第1の支持基板との密着性に優れ透明な多孔質電極を形成することができる。
【0035】
また、前記第1の多孔質電極が、アンチモンドープ酸化錫多孔質電極である構成とするのがよい。この構成によれば、透明な多孔質電極を形成することができるので、鮮明で色純度を高くすることができるエレクトロクロミック装置を提供することができる。
【0036】
また、前記アンチモンドープ酸化錫多孔質電極に、ニトロオキシラジカル基を有する有機ラジカル化合物が担持された構成とするのがよい。この構成によれば、前記対向電極構造体における電気容量を増大させることができ、発色効率を向上させることができる。
【0037】
また、前記アンチモンドープ酸化錫多孔質電極が、錫又は酸化錫を主成分とするターゲット材料を用いて、マグネトロンスパッタリングによって形成された構成とするのがよい。この構成によれば、透明な多孔質電極を形成することができるので、鮮明で色純度を高くすることができるエレクトロクロミック装置を実現することができる。より具体的には、前記ターゲット材は、アンチモン−錫の焼結体又は合金、又は、アンチモンドープ酸化錫を主成分とすることができる。
【0038】
また、前記第1の支持基板はプラスチック基板であり、前記アンチモンドープ酸化錫多孔質電極の形成時における前記プラスチック基板の表面温度が摂氏300度以下である構成とするのがよい。この構成によれば、フレキシブル化等、構成の自由度を高めることができるエレクトロクロミック装置を提供することができる。
【0039】
また、前記対向電極構造体が、450nm以上、800nm以下の波長領域において85%以上の透過率を有する構成とするのがよい。この構成によれば、鮮明で色純度を高くすることができるエレクトロクロミック装置を提供することができる。ここで、透過率は、前記第1の支持基板に、前記第1の透明電極、及び、前記第1の多孔質電極が形成された前記対向電極構造体について測定されたものであって、前記第1の多孔質電極にニトロオキシラジカル基を有する有機ラジカル化合物が担持されていない状態で測定された透過率である。
【0040】
本発明のエレクトロクロミック装置の製造方法では、20nm以下の細孔を有する柱状体からなる前記第1の多孔質電極が形成される構成とするのがよい。この構成によれば、柱状体は20nm以下の細孔を有するので、柱状体間の隙間に加えてこの細孔に、ニトロオキシラジカル基を有する有機ラジカル化合物を、できるだけ単一分子状態で多数吸着させ担持させることができ、前記対向電極構造体における電気容量を増大させることができ、発色効率を向上させることができるエレクトロクロミック装置を製造することができる。
【0041】
また、前記第1の多孔質電極は半導体からなり、この半導体は金属の酸化物又は金属の酸化物の複合体によって構成され、前記金属がインジウム、錫、亜鉛、アルミニウムの何れかである構成とするのがよい。この構成によれば、前記第1の多孔質電極を透明に形成することができ、カラー表示を行う構成を可能とすることができるエレクトロクロミック装置を製造することができる。なお、前記金属の酸化物はドーパントを含んでいてもよい。
【0042】
また、前記第1の多孔質電極が、RF(高周波)電源又はDC(直流)電源を用いて、不活性ガスの他に酸素ガスが分圧換算で10%以上、90%以下の割合で存在し、且つ、全圧が0.5Pa以上、6.0Pa以下である真空槽中において、マグネトロンスパッタリングによって形成される構成とするのがよい。この構成によれば、細孔構造を有し前記第1の支持基板との密着性に優れ透明な多孔質電極が形成されたエレクトロクロミック装置を製造することができる。
【0043】
また、前記第1の透明電極に直接給電され前記第1の透明電極とターゲットの間に電圧が印加される構成とするのがよい。この構成によれば、前記第1の透明電極に直接給電され前記第1の透明電極とターゲットの間に電圧が印加されるので、プラズマの生成が効率よくなされ、ターゲットからのスパッタリングが促進され、ターゲットからスパッタされたる粒子の前記第1の透明電極への堆積速度を高めることができる。
【0044】
また、前記第1の多孔質電極が、アンチモンドープ酸化錫多孔質電極である構成とするのがよい。この構成によれば、透明な多孔質電極を形成することができるので、鮮明で色純度を高くすることができるエレクトロクロミック装置を製造することができる。
【0045】
また、前記アンチモンドープ酸化錫多孔質電極に、ニトロオキシラジカル基を有する有機ラジカル化合物を担持する工程を有する構成とするのがよい。この構成によれば、前記対向電極構造体における電気容量を増大させることができ、発色効率を向上させることができるエレクトロクロミック装置を製造することができる。
【0046】
また、前記アンチモンドープ酸化錫多孔質電極が、錫又は酸化錫を主成分とするターゲット材料を用いて、マグネトロンスパッタリングによって形成される構成とするのがよい。この構成によれば、透明な多孔質電極を形成することができるので、鮮明で色純度を高くすることができるエレクトロクロミック装置を製造することができる。より具体的には、前記ターゲット材は、アンチモン−錫の焼結体又は合金、又は、アンチモンドープ酸化錫を主成分とすることができる。
【0047】
また、前記第1の支持基板はプラスチック基板であり、前記アンチモンドープ酸化錫多孔質電極の形成時における前記プラスチック基板の表面温度が摂氏300度以下である構成とするのがよい。この構成によれば、フレキシブル化等、構成の自由度を高めることができるエレクトロクロミック装置を製造することができる。
【0048】
また、前記対向電極構造体が、450nm以上、800nm以下の波長領域において85%以上の透過率を有する構成とするのがよい。この構成によれば、鮮明で色純度を高くすることができるエレクトロクロミック装置を製造することができる。ここで、透過率は、前記第1の支持基板に、前記第1の透明電極、及び、前記第1の多孔質電極が形成された前記対向電極構造体について測定されたものであって、前記第1の多孔質電極にニトロオキシラジカル基を有する有機ラジカル化合物が担持されていない状態で測定された透過率である。
【0049】
以下、本発明のエレクトロクロミック装置について図を参照して具体的に説明する。但し、本発明は以下の例に限定されるものではなく、従来公知の構成を適宜付加することができ、これは本発明の要旨を何ら逸脱しないものとする。
【0050】
実施の形態
従来、有機エレクトロクロミック(EC)装置用の多孔質電極の作製において、500度程度の高温の加熱工程が必要であったが、実用化を目的とした場合、高分子基板上に形成された緻密な透明電極上に透明多孔質電極を、高分子基板を高温に加熱せず非加熱工程によって形成することが必要となる。本発明では、マグネトロンスパッタリング法により、アンチモンドープ酸化錫多孔質電極を透明電極上に非加熱工程によって形成する。これにより、フルカラー表示に極めて好適な有機EC装置用の透明多孔質電極を提供することができる。本発明の透明多孔質電極は、柱状構造をもち柱状に成長した柱状体の集合体から構成され、柱状体はメソスケールの細孔を有し、透明多孔質電極は柱状に透明電極上に成長した膜構造をもっており、支持基板の面に略垂直でありメソスケールの細孔を有する柱状体の集合からなる柱状構造をもっている。
【0051】
本発明によるエレクトロクロミック装置は、電圧が直接印加される透明電極との密着性に優れ高い光透過率を有し、比較的低温条件下で形成することができ、有機エレクトロクロミック化合物又は/及び有機ラジカル化合物を十分に担持する細孔をもった多孔質電極を有し、カラー表示用として十分な応答速度、発色効率を有し、表示色純度に優れ、明瞭で鮮鋭な画像形成が可能であり、繰り返し耐久性にも優れ、薄型化やフレキシブル化にも対応可能である。
【0052】
本実施の形態によるエレクトロクロミック装置は、第1の支持基板、この第1の支持基板上に形成された第1の透明電極、及び、この第1の透明電極上に形成された第1の多孔質電極を含む表示電極構造体と、第2の支持基板、この第2の支持基板上に形成された第2の透明電極上に形成された第2の多孔質電極(ATO(三酸化アンチモン―酸化錫複合酸化物)多孔質電極)を含む対向電極構造体と、表示電極構造体及び対向電極構造体によって挟持された電解質層とを具備し、第1の透明電極と第2の透明電極とが対向するように配置され、酸化反応又は還元反応により発色する有機エレクトロクロミック化合物が第2の多孔質電極に担持され、第1の透明電極と第2の透明電極の間に印加する電圧の制御によって、有機エレクトロクロミック化合物による可逆的な発消色を行うエレクトロクロミック装置であり、アンチモン―錫又は三酸化アンチモン―酸化錫複合酸化物を主成分とするターゲット材料、RF電源又はDC電源を用いて、不活性ガスの他に少なくとも酸素ガスが分圧換算で10%以上、90%以下の割合で存在し、且つ、全圧が0.5Pa以上、6.0Pa以下である真空槽(成膜室)中において、マグネトロンスパッタリングによって、ATO多孔質電極が形成されている。
【0053】
ATO多孔質電極は透明であり、その透過率は450nm以上、800nm以下の領域において、85%以上であり、500nm以上、800nm以下の領域において、90%以上である。第1及び第2の支持基板はプラスチック基板であり、多孔質電極の形成時におけるプラスチック基板の表面温度(以下に示す温度は摂氏温度である)が300度以下である。
【0054】
本実施の形態によるエレクトロクロミック装置の製造方法は、アンチモン―錫又は三酸化アンチモン―酸化錫複合酸化物を主成分とするターゲット材料、RF電源又はDC電源を用いて、不活性ガスの他に少なくとも酸素ガスが分圧換算で10%以上、90%以下の割合で存在し、且つ、全圧が0.5Pa以上、6.0Pa以下である真空槽(成膜室)中において、マグネトロンスパッタリングによって、ATO(三酸化アンチモン―酸化錫複合酸化物)多孔質電極を形成する工程を有している。
【0055】
上記の製造方法では、450nm以上、800nm以下の領域において、85%以上である透過率を有する酸化錫多孔質電極を形成することができ、また、500nm以上、800nm以下の領域において、90%以上である透過率を有するATO多孔質電極を形成することができる。更に、第1及び第2の支持基板として、ラスチック基板を使用することができ、ATO多孔質電極の形成時におけるプラスチック基板の表面温度を300度以下とすることができる。
【0056】
上記の製造方法において、酸素ガスが分圧換算で10%以上、50%以下の割合で存在し、且つ、全圧が2Paである場合に、ATO多孔質電極の成膜速度が大きくなる。また、酸素ガスが分圧換算で50%の割合で存在し、且つ、全圧が2.0Pa以下である場合にATO多孔質電極の成膜速度が大きくなる。
【0057】
更に、酸素ガスが分圧換算で50%の割合で存在し、且つ、全圧が0.5Pa以上、6.0Pa以下である場合に、BET比表面積が約10〜約40(cm2g-1)であり、膜厚さが3μmである場合400nm〜800nmにおける平均透過率が約85%以上であるATO多孔質電極を形成することができ、酸素ガスが分圧換算で50%の割合で存在し、且つ、全圧が0.5Pa以上、2.0Pa以下である場合に、BET比表面積が約20〜約40(cm2g-1)であり、膜厚さが3μmである場合400nm〜800nmにおける平均透過率が約90%以上であるATO多孔質電極を形成することがきる。ここで、ATO多孔質電極の平均透過率は、支持基板、透明電極、及び、ATO多孔質電極の3層部分からなりATO多孔質電極にエレクトロクロミック色素が担持されていない状態の電極構造体における、波長400nm〜波長800nmの光に対する透過率を示すものとする。
【0058】
図1は、本発明の実施の形態による、エレクトロクロミック装置の一例の概略構成を説明する断面図である。
【0059】
図1に示すように、エレクトロクロミック装置10は、高分子からなる支持基板1上に、透明電極2と、後述するエレクトロクロミック化合物3が担持された多孔質電極4とを具備する表示電極構造体11と、高分子からなる支持基板6上に、透明電極7と、後述する有機ラジカル化合物13が担持された多孔質電極8とを具備する対向電極構造体12とが、電解質層5を介して対向配置された構成を有している。多孔質電極4、8は、後述するように、マグネトロンスパッタリングによって形成された高い透過率を有する多孔質膜からなる。
【0060】
透明電極2、7は低抵抗であり緻密に支持基板1、6上に形成された薄層から構成され、エレクトロクロミック化合物3の酸化還元反応のための電圧が印加される。多孔質電極4、8は、透明電極2、7との密着性に優れ高い光透過率を有し、比較的低温条件下で形成され、有機エレクトロクロミック化合物又は/及び有機ラジカル化合物を十分に担持する細孔を有し、十分な比表面積をもっている。なお、図1においては、対向する透明電極2、7の何れにも多孔質電極4、8が形成されているが、本発明はこの構成に限定されず、必要に応じて一方の電極にのみ多孔質電極を形成させ、この多孔質電極にエレクトロクロミック化合物3を担持させた構成としてもよい。また、発色、消色の応答速度を十分なものとするために、多孔質電極4、8もできるだけ低抵抗であることが望ましく、例えば、シート抵抗値[Ω/□]で評価すると、多孔質対向電極の膜厚が100nm以上の場合、100000[Ω/□]以下であることが好ましい。また、膜厚が1μm以上の場合、5000[Ω/□]以下であることが望ましい。
【0061】
先ず、マグネトロンスパッタリング装置を用いた多孔質電極の形成について説明する。
【0062】
図2は、本発明の実施例において、マグネトロンスパッタリング装置の概略構成例を模式的に示す図である。
【0063】
図2に示すように、本発明の実施例におけるマグネトロンスパッタリング装置20は、真空ポンプ25によって排気される成膜室21内に、ターゲット26a、26b、基体27が搭載される回転ホルダ24が配置されている。基体27上の成膜を行う時、回転ホルダ24は外部より回転駆動される。基体27上の成膜を行う時、成膜室21には、必要に応じて、Arガス、O2ガスが導入される。成膜室21には、成膜室21の中に導入されるArガスの流量を制御するArガス用マスフローコントローラ22、成膜室21の中に導入されるO2ガスの流量を制御するO2ガス用マスフローコントローラ23、成膜室21内部の真空度を測定するためのダイアフラム真空計28及び電離真空計29が接続されている。
【0064】
成膜室21の圧力(Pa)は、ダイアフラム真空計28を用いて測定される。ダイアフラム真空計は、真空に保った容器の一部に張ってある薄い金属膜(ダイアフラム)が測定する雰囲気の真空度に応じて変形する変形量をひずみ計で測定し、真空度とするものであり、大気圧から低真空領域で使用が可能である。
【0065】
陽極上に設けられた基体27と陰極上に設けられたターゲット26a、26bは対向しており、ターゲット26a、26bの背部にそれぞれ磁石30a、30bが配置されている。電源31a、31bによって、基体27が搭載される回転ホルダ24とターゲット26a、26bの間に高電圧が印加され生成するプラズマ中のArイオンは、ターゲット26a、26bをスパッタリングする。ターゲット26a、26bからスパッタされる粒子は基体27に堆積されていく。
【0066】
基体27は、ITO膜等の緻密な透明電極2、7が形成された高分子からなる支持基板1、6であり、ターゲット26a、26bは、金属Snターゲット又はSnO2ターゲットでありアンチモンがドープされており、図2に示すマグネトロンスパッタリング装置20によって、透明電極2、7上にATO(三酸化アンチモン―酸化錫複合酸化物)多孔質電極4、8が形成される。
【0067】
なお、基体27が搭載される回転ホルダ24とターゲット26a、26bの間に高電圧を印加し間接的に透明電極2、7とターゲット26a、26bの間に電圧を印加する構成を、摺動電極によって透明電極2、7に直接給電して、透明電極2、7とターゲット26a、26bの間に電圧を印加する構成とることもでき、この構成によって、プラズマ生成の効率を向上させ、ターゲットからのスパッタリングを促進させ、スパッタされる粒子の透明電極2、7への堆積速度を高めることができる。
【0068】
金属Snターゲット、SnO2ターゲットの何れを用いても、ATO多孔質電極4、8を形成することができる。金属Snターゲットを用いる場合には、電源31a、31bとして直流電源を用い、成膜室21の中にO2ガスを導入しながら成膜を行う反応性DCマグネトロンスパッタリング装置として、装置20を動作させることができる。また、SnO2ターゲット用いる場合には、電源31a、31bとして高周波電源を用い、高周波(RF)マグネトロンスパッタリング装置として、装置20を動作させることができる。
【0069】
なお、基体27とターゲット26a、26bとの間の距離は3.0cm以上が適当であり、この距離が長くなればなるほど、堆積速度が減少する。
【0070】
また、ターゲットへの電力供給は、ターゲットとしてSnを用いる場合、(Snの融点が低いため、200W/3inch以下(4.5W/cm2以下)とする必要がある。一方、ターゲットとしてSnO2を用いる場合、電力供給はkWオーダーまで大きくできる(電力供給の大きさによって膜質は変化しないが、堆積速度が変化する)。
【0071】
図2に示す例では、金属Snのターゲット26a、26bを使用する構成を示している。多孔質膜の成膜レートは、後述するように、酸素分圧や全圧に依存する。
【0072】
図2に示すマグネトロンスパッタリング装置によって、透明電極2、7上にATO多孔質電極4、8を形成することができ、エレクトロクロミック装置における表示電極として機能する表示電極構造体11、対向電極として機能する対向電極構造体12を形成することができる。
【0073】
以上の説明では、透明電極2、7上にATO多孔質電極4、8を形成する例を説明したが、透明電極2、7上に形成される透明な多孔質電極は半導体層から構成されていればよく、この半導体が金属の酸化物又は金属の酸化物の複合体によって構成されており、金属がインジウム、錫、亜鉛、アルミニウムの何れかであればよい。
【0074】
次に、以下、エレクトロクロミック装置の構成要素について順次説明する。
【0075】
<支持基板>
支持基板1、6の材料としては、一般的に充分な耐熱性を有し、且つ、平面方向の寸法安定性の高いものが好適である。特に、カラー表示を行うことに鑑みて透明性の高い材料が望ましい。具体的には、ガラス材料、透明性樹脂が挙げられる。最終的に作製する表示装置をフレキシブルなものとする場合には、特に、薄層の透明な樹脂性基板を適用することが望ましい。
【0076】
支持基板1、6に樹脂材料を適用する場合には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミド(PA)、ポリサルフォン(PS)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン等の高分子材料が挙げられ、これらの何れかによるプラスチック基板を使用することができる。
【0077】
具体的な例として、ポリイミド(PI)基板(例えば、三菱ガス化学製商品名「ネオプリムL」、耐熱温度:285度、光透過率90%(厚さ100μm))、フッ素樹脂基板(耐熱温度:250度)、ポリエーテルスルホン(PES)基板(例えば、住友ベークライト株式会社製商品名「スミライトFS」、耐熱温度:180度、光透過率88%(厚さ550nm))、ポリエチレンナフタレート(PEN)基板(耐熱温度:160度)、ポリエチレンテレフタレート(PET)基板(耐熱温度:140度)が挙げられる。
【0078】
<透明電極>
周知の従来技術に従って、透明電極2、7は、所定の電極材料を塗布・焼成して成膜することにより形成される。透明電極2、7を構成する電極材料としては、例えば、In2O3とSnO2との混合物、ITO(Indium Tin Oxide)膜や、GTO(Gallium Tin Oxide)膜、SnO2又はIn2O3がコーティングされた膜等が挙げられる。また、ITO膜や、SnO2又はIn2O3をコーティングした膜にSn、Sb、F等をドーピングしてもよく、フッ素−ドープ酸スズ膜はFTO膜と呼ばれている。その他、MgOやZnO等も適用できる。ZnOにAlをドープしたAZO(Aluminum doped Zinc Oxide)膜、ZnOにガリウム(Ga)をドープしたGZO(Gallium doped Zinc Oxide)膜、ZnOにインジウム(In)をドープしたIZO(Indium Zinc Oxide)膜等も適用することができる。
【0079】
<多孔質電極>
次に、多孔質電極について説明する。表示電極構造体11を構成する多孔質電極4は、高い有機EC色素担持機能を得るため、表面積が大きい材料により構成することが好適である。例えば、表面及び内部に微細孔を有した多孔質形状、ロット形状、ワイヤ形状、メソポーラス形状、集合粒子状等となっているものが挙げられる。また、積層型構造を有する有機EC装置を作製するために、多孔質電極4には透明性が必要となる。更に、速い応答速度が可能な有機EC装置を得るため、多孔質電極4は有機EC色素との円滑な電子移動が可能となるバンド構造を有することが必要となる。
【0080】
多孔質電極4は、例えば、酸化物半導体、複合酸化物半導体、有機半導体等によって形成することができる。酸化物半導体としては、例えば、TiO2、SnO2、Fe2O3、SrTiO3、WO3、ZnO、ZrO2、Ta2O5、Nb2O5、V2O5、In2O3、CdO、MnO、CoO、TiSrO3、KTiO3、Cu2O、チタン酸ナトリウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム等が挙げられる。
【0081】
また、複合体酸化物半導体としては、例えば、SnO2−ZnO、Nb2O5−SrTiO3、Nb2O5−Ta2O5、Nb2O5−ZrO2、Nb2O5−TiO2、Ti−SnO2、Zr−SnO2、Sb−SnO2、Bi−SnO2、In−SnO2等が挙げられ、特にTiO2、SnO2、Sb−SnO2、In−SnO2が好適である。
【0082】
また、有機半導体としては、例えば、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリフェニレンビニレン、ポリフェニレンスルフィド等が挙げられる。
【0083】
最終的に目的とするエレクトロクロミック装置をカラー表示用として構成するためには、多孔質電極は無色透明であることが最適であることから、特に、TiO2、SnO2、Sb−SnO2、In−SnO2を使用することにより、DC又はRF電源を有するマグネトロンスパッタ装置により高透明で多孔質な電極を作製することができる。
【0084】
次に、多孔質電極8について説明する。対向電極構造体12を構成する多孔質電極8は、少なくともインジウム、アンチモン、錫、亜鉛、アルミニウムの何れからなる金属酸化物(真性半導体又は酸化物半導体)、又は、前記金属の複成分からなる複合酸化物半導体からなり、特に、アンチモンから構成される金属酸化物又は複合酸化物が好ましい。
【0085】
対向電極構造体12を構成する多孔質電極8は、電解液(電解質層5)との接触面積が大きく、後述する有機ラジカル化合物を担持させるため、比表面積が大きな多孔質膜とするのが好ましい。また、積層型構造を有する有機EC装置を作製するために、多孔質電極8には透明性が必要となる。更に、速い応答が可能な有機EC装置を得るため、多孔質電極8は大きな電気容量と酸化還元電位を有することが必要となる。また、多孔質電極8は電解液(電解質層5)との円滑な酸化還元反応が可能となるバンド構造を有することが必要となる。更に、フレキシブル性のあるEC装置の作製を目的とした場合、多孔質電極8と透明電極7の間の密着性が良好であることが必要となる。
【0086】
多孔質電極8は、アンチモン―錫又は三酸化アンチモン―酸化錫複合酸化物を主成分とする材料をターゲットとしたマグネトロンスパッタリングにより成膜するのが好ましい。この時、電源としてDC電源又はRF電源が適用できるが、アンチモンドープ酸化錫、三酸化アンチモン―酸化錫複合酸化物を主成分とするターゲット材料を用いたときには、RF電源を用いるのが好ましい。
【0087】
マグネトロンスパッタリングにおいて、成膜を行う成膜室(真空槽)21には、スパッタリング用の不活性ガスのほかに、酸素ガスを導入する。酸素ガスの導入量は、分圧換算で10%以上、90%以下とする。酸素ガスの分圧が10%以下であると、O原子と結合を持たないSn原子(又はSb原子)の割合が多くなり金属に近い性質を示す。逆に、90%以上であるとSn原子(又はSb原子)に対してO原子が多くなり過ぎ、好適なp型半導体的性質からかけ離れてしまうため、好ましくない。
【0088】
成膜室21の全圧は0.5Pa以上、6.0Pa以下とする。成膜室21の全圧が、0.5Pa以下であると多孔構造が形成されないため、好ましくない。また、逆に6.0Pa以上であると、数百ナノ〜マイクロメートルスケールオーダーで不均一な細孔構造が形成されるために、有機ラジカル化合物13の担持量が低く光学的透明性も悪くなるため、好ましくない。
【0089】
スパッタリング時の成膜面の表面温度は、支持基板として適用する材料の耐熱性(ガラス転移点)に応じて選定するものとする。表面温度は、スパッタリング速度、即ち、主に電源出力等のスパッタリング条件により調整することが可能である。支持基板にプラスチック材料を適用する場合には、表面温度が300度以下となることが好ましく、適用するプラスチック材料のガラス転移点又は軟化点以下とすることが、より好ましい。
【0090】
<エレクトロクロミック化合物(有機EC色素)>
次に、有機EC色素3について説明する。有機EC色素3は、多孔質電極4の表面及び内部の微細孔に担持されているものとする。有機EC色素3は、エレクトロクロミック色素として公知の材料を何れも適用できる。但し、有機EC色素3を多孔質電極4に担持させるように、その分子構造中に官能基を具備していることが好ましい。有機EC色素3を多孔質電極4に吸着させる吸着基として作用する官能基の具体例としては、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基等の酸性基、アミノ基、金属アルコキシド、金属ハロゲン化物等が挙げられる。また、有機EC色素3としては、単一の化合物のみを用いてもよく、複数の化合物を混合して用いてもよい。
【0091】
なお、図1においては、有機EC色素3を表示電極構造体11側の多孔質電極4のみに担持させた構成を示したが、本発明は図2に示す構成例に限定されるものではなく、対向電極構造体12側の多孔質電極8にも、多孔質電極4と同様に有機EC色素が担持された構成としてもよい。但し、かかる場合においては、有機EC色素の発消色反応における酸化・還元反応は、両電極構造体11、12において逆となる材料を選定する。
【0092】
例えば、多孔質電極材料4に担持させた有機EC色素が還元反応によってラジカル状態となり発色する場合には、多孔質電極8には定常状態で多孔質電極4に担持させた色素と同色調であり、酸化反応によって発色する有機EC色素を選定する。
【0093】
このように、両電極構造体11、12において有機EC色素を担持させた構成とすることにより、色表示濃度を十分に高くすることができるので、最終的に得られるエレクトロクロミック装置において、発色が明瞭化し、画像の鮮明さを向上させることができる。
【0094】
有機EC色素(エレクトロクロミック化合物)3の具体例を下記式(1)〜(13)に示す。下記式中、Meは、メチル基である。下記式(1)、(5)によって表される化合物は4,4’−ビピリジン誘導体、下記式(2)によって表される化合物は2、5−ビス(4−ピリジル)フラン誘導体、下記式(3)によって表される化合物は2、5−ビス(4−ピリジル)チオフェン誘導体、下記式(4)によって表される化合物は2、5−ビス(4−ピリジル)−1H−ピロール誘導体、下記式(6)によって表される化合物は3,4’−ビピリジン誘導体、下記式(7)、(11)、(12)、(13)によって表される化合物は4,4’−(1,4−フェ二レン)ジピリジン誘導体、下記式(8)によって表される化合物はビス(4−ピリジル)ケトン誘導体、下記式(9)によって表される化合物は4,4’−ビス(4−ピリジル)−ベンゾフェノン誘導体、下記式(10)によって表される化合物は2、5−ビス(4−ピリジル)−1,3,4−オキサジアゾール誘導体であると、それぞれ見なすことができる。
【0095】
【化1】
【0096】
【化2】
【0097】
【化3】
【0098】
【化4】
【0099】
【化5】
【0100】
【化6】
【0101】
【化7】
【0102】
【化8】
【0103】
【化9】
【0104】
【化10】
【0105】
【化11】
【0106】
【化12】
【0107】
【化13】
【0108】
<エレクトロクロミック化合物(有機EC色素)の多孔質電極への担持>
有機EC色素の多孔質電極への担持に先立って、多孔質電極をUVオゾン処理する。使用したUVオゾン処理装置(サムコ株式会社製、UV−300)は、185nm、254nmの輝線を発光する低圧水銀ランプを光源としており、酸素分子の解離反応が185nm(<240nm)線によって生じる(O2→O(3P)+O(3P))。生成した三重項基底酸素原子(O(3P))が酸素分子と反応して、オゾンを生成する(O(3P)+O2→O3)。オゾンは、波長が260nm付近に吸収帯をもち、254nm線により解離反応が生じる。この解離反応によって一重項励起酸素原子が生成する(O3→O2+O(1D))。この励起酸素原子が紫外線(184nmや254nm)により励起された多孔質電極表面のC−H結合を酸化し、多孔質電極表面に酸素を含有する親水的な官能基(−CO、−CHO、−COO、−COOH等)を形成する。
【0109】
UVオゾン処理によって、多孔質電極の表面に物理又は化学吸着して存在する空気中の有機物や水等が分解除去され、有機EC色素のもつ吸着基が吸着する(水素結合を形成する)表面サイトを増大させることができ、多孔質電極への有機EC色素の吸着量を増大させることができる。
【0110】
次に、有機EC色素を多孔質電極4に担持させる方法について説明する。例えば、多孔質電極4の表面に吸着させる方法、多孔質電極表面と有機EC色素とを化学的に結合させる方法等、従来公知の技術を適用できる。具体的方法としては、真空蒸着法等のドライプロセス、スピンコート等の塗布法、電界析出法、電界重合法、担持させる化合物の溶液に浸す自然吸着法等が適用でき、特に、特別な装置を必要としない自然吸着法、及び、多孔質電極表面へ有機EC色素を化学結合させる方法が好適である。
【0111】
自然吸着法としては、所定の有機EC色素を所定の溶媒に溶解して溶液を作製し、この溶液に、多孔質電極4が形成された透明基板に乾燥処理を施した後に浸漬する方法や、所定の有機EC色素が溶解された溶液を多孔質電極4に塗布する方法が挙げられる。この自然吸着法において、有機EC色素を多孔質電極4に確実に担持させるためには、有機EC色素の化学構造中に、吸着性を有する官能基を導入しておくことが必要である。
【0112】
この吸着性を有する官能基は、多孔質電極4の材料に応じて適宜選定する。例えば、多孔質電極4が酸化物半導体により構成されている場合には、有機EC色素の化学構造中の吸着性官能基として、ホスホン酸基、スルホン酸基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、アミノ基等を導入しておくことが好ましい。
【0113】
官能基は、有機EC色素の化学構造の骨格に直接導入してもよく、或いは、その他の所定の官能基を介して結合を形成することにより導入してもよい。所定の官能基を介する場合は、例えば、アルキル基、フェニル基、エステル、アミド基等を介して吸着性の官能基を導入することができる。
【0114】
なお、有機EC色素を溶解する溶媒としては、例えば、水、アルコール、アセトニトリル、プロピオニトリル、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、エステル類、炭酸エステル類、ケトン類、炭化水素等が適用できる。これらは単独で用いてもよく、適宜混合して用いてもよい。
【0115】
エレクトロクロミック化合物を多孔質電極の表面へ化学結合によって担持させる方法も好適である。多孔質電極4の表面に有機EC色素を化学結合させる際には、多孔質電極4の表面と有機EC色素骨格との間に、所定の官能基を介在させてもよい。例えば、アルキル基、フェニル基、エステル、アミド等の官能基が挙げられる。
【0116】
また、多孔質電極4の表面をシランカップリング剤等によって改質した後に、有機EC色素を化学結合して形成させるようにしてもよい。このような表面改質により、有機EC色素が多孔質電極4の材料と化学結合を形成するようになると、有機EC色素の結合力が強まり、例えば、電界質層5の材料として色素溶解性の高いものを使用するような場合に有利になり、有機EC色素の材料選択性が高まり、エレクトロクロミック装置の耐久性の向上も図られる。
【0117】
<電解質層>
電解質層5は、溶媒に支持電解質が溶解された構成を有している。支持電解質としては、例えば、LiCl、LiBr、LiI、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiCF3SO3等のリチウム塩や、例えば、KCl、KI、KBr等のカリウム塩や、例えば、NaCl、NaI、NaBr等のナトリウム塩や、例えば、ほうフッ化テトラエチルアンモニウム、過塩素酸テトラエチルアンモニウム、ほうフッ化テトラブチルアンモニウム、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムハライド等のテトラアルキルアンモニウム塩が挙げられる。
【0118】
電解質層5には、必要に応じて公知の酸化還元化合物を添加してもよい。酸化還元物質としては、例えば、フェロセン誘導体、テトラシアノキノジメタン誘導体、ベンゾキノン誘導体、フェニレンジアミン誘導体等が適用できる。
【0119】
上記の溶媒としては、支持電解質を溶解し、上述した有機EC色素を溶解しないものを選択する。例えば、水、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド、炭酸プロピレン等から適宜選定する。
【0120】
また、電解質層5には、いわゆる、マトリックス材を適用してもよい。マトリックス材は、目的に応じて適宜選択でき、例えば、骨格ユニットがそれぞれ、−(C−C−O)n−、−(CC(CH3)−O)n−、−(C−C−N)n−、若しくは、−(C−C−S)n−によって表されるポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレンイミン、ポリエチレンスルフィドが挙げられる。なお、これら骨格ユニットを主鎖構造として、適宜枝分かれ構造を有していてもよい。また、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート等も好適である。
【0121】
電解質層5は、高分子固体電解質層としてもよい。なお、この場合、マトリックス材のポリマーに所定の可塑剤を添加することが好ましい。可塑剤としては、マトリックスポリマーが親水性の場合には、水、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、及びこれらの混合物が好適であり、疎水性の場合には、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル、スルフォラン、ジメトキシエタン、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、n−メチルピロリドン、及び、これらの混合物が好適である。
【0122】
<有機ラジカル化合物>
次に、有機ラジカル化合物13について説明する。これは、下記式(14)で表わされる官能基を有している化合物であるものとする。多孔質電極8については、電極の蓄電容量を向上させるために、多孔質電極8に有機ラジカル化合物13を担持させる。有機ラジカル化合物13としては、後述する化合物を用いることができる。図1における有機ラジカル化合物13は、対向電極構造体12において、表示電極構造体11の有機EC色素3の発色時における状態と逆の電荷にチャージする機能を有する材料であり、これによってカラー表示機能が高められる。
【0123】
【化14】
【0124】
式(14)の官能基を有する有機ラジカル化合物13の具体例を、下記式(15)〜(57)に示す。
【0125】
【化15】
【0126】
【0127】
<有機ラジカル化合物の多孔質電極への担持>
有機色素の多孔質電極への担持の場合と同様に、有機ラジカル化合物の多孔質電極への担持に先立って、多孔質電極をUVオゾン処理し、多孔質電極表面に酸素を含有する親水的な官能基(−CO、−CHO、−COO、−COOH等)を形成して、有機ラジカル化合物のもつ吸着基が吸着する(水素結合を形成する)表面サイトを増大させることができ、多孔質電極への有機ラジカル化合物の吸着量を増大させることができる。
【0128】
有機ラジカル化合物13は、上述した有機EC化合物3と同様に、多孔質電極8へ吸着させるための吸着基を化学構造中に有している。吸着基として、具体的には、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基等の酸性基、アミノ基、金属アルコキシド、金属ハロゲン化物等が挙げられ、特にホスホン酸基が好適である。多孔質電極4に担持させる有機EC化合物3と同様に、有機ラジカル化合物13は吸着基として作用する官能基を有しているので、上述した有機EC化合物3の多孔質電極4への担持の方法と同様にして、多孔質電極8に有機ラジカル化合物13を担持させることができる。なお、有機ラジカル化合物13は、単一の種類の化合物を使用してもよく、複数種類の化合物を混合して用いてもよい。
【0129】
本発明のエレクトロクロミック装置の製造方法について説明する。先ず、表示電極構造体11を作製する。所定の材料と膜厚の支持基板1上に透明電極2を形成し、その後、多孔質電極4を形成する。その後、例えば、有機EC色素水溶液に浸漬させることにより色素の担持を行い、エタノール溶液で洗浄処理、乾燥処理を行う。
【0130】
続いて、対向電極構造体12を、所定の材料と膜厚の支持基板6上に透明電極7を形成し、その後、多孔質電極8を形成することにより作製する。次に、多孔質電極8に有機ラジカル化合物13を担持させる。
【0131】
なお、多孔質電極4、8の詳細な形成方法については上述した方法に従うものとする。有機EC色素を担持させる電極についても、双方とするか一方とするか適宜選定する。双方の多孔質電極に有機EC色素を担持させる場合には、EC色素は異なる種類のもの使用し、多孔質電極4には還元で発色するものを担持させ、多孔質電極8には酸化で発色するものを担持させる。
【0132】
次に、電解質層用の溶液の調製を行う。続いて、表示電極構造体11と、対向電極構造体12とを、所定の接着剤を用いて貼り合わせるが、このとき後工程で電解液を注入できるように一部分に注入口を形成しておく。その後、電解液を注入口から注入し、樹脂接着材で封止することにより、対向した電極構造体を具備するエレクトロクロミック装置が作製される。
【0133】
次に、本発明のエレクトロクロミック装置10を用いた表示方法について説明する。
【0134】
図1のエレクトロクロミック装置10において、多孔質電極4の表面には、定常状態において可視域に吸収をもたない有機EC化合物である所定の化合物が担持されている。
【0135】
エレクトロクロミック装置10を構成する対の電極構造体11、12に、所定のリード線を結線し表示装置として構成する。所定のリード線を通じて所定の電圧を印加すると、多孔質電極4とこれに担持された有機EC化合物との間で電子の授受がなされ、有機EC化合物において電気化学的な還元反応が起き、一価のラジカル状態となって発色する。
【0136】
なお、対向電極構造体12側の多孔質電極8は、有機EC色素と逆の電荷をチャージし(有機EC色素が還元反応によって−の電荷をチャージしているときには、多孔質電極8は+の電荷をチャージする)、色素による発色機能を高め、且つ、安定化させる。
【0137】
図1に示すエレクトロクロミック装置を構成する各層の厚さを例示すれば、以下の通りである。
【0138】
支持基板1の厚さ=10μm〜10mm、
支持基板6の厚さ=10μm〜10mm、
透明電極2の厚さ=40nm〜1000nm、
透明電極7の厚さ=40nm〜1000nm、
多孔質電極4の厚さ=1.5μm〜30μm、
多孔質電極8の厚さ=1.5μm〜30μm、
表示電極構造体11の厚さ=11μm〜11mm、
対向電極構造体12の厚さ=11μm〜11mm、
透明電極2と透明電極7との間隔=1μm〜1mmである。
【0139】
なお、本発明のエレクトロクロミック装置は、図1に示した構成に限定されるものではなく、多色表示が可能な装置構成に応用することができる。即ち、図1に示すエレクトロクロミック構成と同様の構造であって、電気化学的な反応によりラジカル状態となって、マゼンダ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)に発色するエレクトロクロミック化合物を所定の多孔質電極に担持させて電極構造体を作製し、これら三層を用いて、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)の積層構造とすることにより、発消色表示を可逆的に行うことができるフルカラー表示のエレクトロクロミック装置が得られる。
【0140】
エレクトロクロミック化合物(有機EC色素)としては、イエロー域(430〜490nmの範囲)、マゼンタ域(500〜580nmの範囲)、シアン域(600〜700nmの範囲)に吸収極大をもつ色素を使用することが望ましい。
【0141】
フルカラー表示のエレクトロクロミック装置は、支持基板上に少なくとも透明電極が形成されている一対の電極構造体(表示電極構造体と対向電極構造体)が、透明電極同士が対向するように電解質層を挟持して配置されており、一対の電極構造体を構成する透明電極のうちの、少なくとも表示電極構造体の透明電極上に、エレクトロクロミック化合物が担持された多孔質電極が形成されており、一対の電極構造体間に印加する電圧の制御によって発消色を行うことができ、(a)エレクトロクロミック化合物が担持された多孔質電極が形成されており、シアンの可逆的な発消色を行うことができるエレクトロクロミック素子構造体、(b)イエローの可逆的な発色を行うことができるエレクトロクロミック素子構造体、(c)マゼンタの可逆的な発色を行うことができるエレクトロクロミック素子構造体の3つの素子構造体を積層することによって形成され、各エレクトロクロミック素子構造体に印加する電圧を制御することによって、全体としてフルカラーの画像を表示することができる。
【0142】
図3は、本発明の実施の形態による、カラー表示を行うことができるエレクトロクロミック装置の一例の概略構成を説明する断面図である。
【0143】
図3に示すエレクトロクロミック素子構造体10A、10B、10Cのそれぞれは、図1に示すエレクトロクロミック装置と同様の構成を有している。
【0144】
図3に示す、カラー表示を行うことができるエレクトロクロミック装置は、(a)第1の支持基板(支持基板1a、1b、1c)、この第1の支持基板上に形成された第1の透明電極(透明電極2a、2b、2c)、及び、この第1の透明電極上に形成された第1の多孔質電極(多孔質電極4a、4b、4c)を含む表示電極構造体11a、11b、11cと、(b)第2の支持基板(支持基板6a、6b、6c)、この第2の支持基板上に形成された第2の透明電極(透明電極7a、7b、7c)、及び、この第2の透明電極上に形成された第2の多孔質電極(多孔質電極8a、8b、8c)を含む対向電極構造体12a、12b、12cと、(c)表示電極構造体11a、11b、11及び対向電極構造体12a、12b、12cによって挟持された電解質層5a、5b、5cとを具備している。
【0145】
電解質層5a、5b、5cを介して第1の透明電極(2a、2b、2c)と第2の透明電極(7a、7b、7c)とが対向するように配置され、有機EC色素(3a、3b、3c)が第1の多孔質電極(4a、4b、4c)に担持され、有機ラジカル化合物(13a、13b、13c)が第2の多孔質電極(8a、8b、8c)に担持されて、エレクトロクロミック素子構造体10A、10B、10Cが形成されている。
【0146】
エレクトロクロミック素子構造体10A、10B、10Cが積層されており、エレクトロクロミック素子構造体10A、10B、10Cのそれぞれの第1の透明電極(2a、2b、2c)と第2の透明電極(7a、7b、7c)の間に印加する電圧の制御によって、エレクトロクロミック化合物による可逆的な発消色を行うことができる。透明なエレクトロクロミック素子構造体10A、10B、10Cの積層型構造によって、カラー表示を行う有機EC装置を作製することができる。
【0147】
エレクトロクロミック素子構造体10A、10B、10Cのそれぞれの第1の多孔質電極(4a、4b、4c)にそれぞれ担持される有機EC色素(3a、3b、3c)は、図3の上方を目視方向とすると、マゼンタ、イエロー、シアンとする。
【0148】
図1、図3に示すエレクトロクロミック装置において使用されるエレクトロクロミック化合物としては、電圧が印加されていない状態では可視光領域に吸収を示さず消色状態にあり、電圧が印加された状態では可視光領域に吸収を示し発色状態となる化合物、逆に、電圧が印加された状態では可視光領域に吸収を示さず消色状態にあり、電圧が印加されていない状態では可視光領域に吸収を示し発色状態となる化合物、或いは、印加される電圧の大きさによって発色が異なる多発色状態が可能な化合物の何れであってもよく、目的に応じて適宜選択することができ、エレクトロクロミック素子構造体10A、10B、10Cのそれぞれに印加する電圧を制御することによって、フルカラーの画像を表示することができる。
【0149】
また、図1、図3に示すエレクトロクロミック装置において、アクティブマトリックス駆動を行うために、第1の支持基板(支持基板1、1a、1b、1c)に第1の透明電極(透明電極2、2a、2b、2c)を分画として形成し、即ち、各画素に対応するように相互に独立させた分画の複数個をマトリックス状に形成し、各分画上に第1の多孔質電極(多孔質電極4、4a、4b、4c)を形成して、各分画に対応して、ゲート線及びソース線によって接続される薄膜トランジスタ(TFT)を第1の透明電極上に形成配置する構成を有する装置とすることもできる。この装置によれば、薄膜トランジスタに印加する電圧を制御することによって、エレクトロクロミック素子構造体10A、10B、10Cのそれぞれの各画素に対応する分画における発消色を制御することができる。
【0150】
更に、図1に示すエレクトロクロミック装置において、透明電極2が分画され画素に対応するよう形成され、即ち、アクティブマトリックス駆動を行うために、シアン、マゼンタ、イエローに対応する第1、第2及び第3分画からなる分画の複数個からなるマトリックス状の透明電極2を支持基板1上に形成し、第1、第2及び第3分画上に多孔質電極4を形成して、第1、第2及び第3分画上に形成された多孔質電極4上にそれぞれ、シアン、マゼンタ、イエローの発色が可能なエレクトロクロミック化合物を担持させ、第1、第2及び第3分画に対応して、ゲート線及びソース線によって接続される薄膜トランジスタを透明電極2上に形成配置する構成を有する装置とすることもできる。この装置によれば、薄膜トランジスタに印加する電圧を制御することによって、それぞれの各画素に対応する第1、第2及び第3分画における発消色を制御することができる。
る。
【0151】
次に、本発明のエレクトロクロミック装置についての具体的な実施例と、これとの比較例を挙げて説明する。
【0152】
実施例
〔エレクトロクロミック装置の作製例:評価例〕
(表示電極構造体の作製):後述する実施例及び比較例で使用する表示電極構造体
厚さ150μmのポリエチレンナフタレート(PEN)からなる支持基板1上に、表面抵抗が13Ω/□のITO膜(透明電極2)を塗布・焼成法によって形成し、基体27(ITO−PEN基板)を作成した。
【0153】
図2に示すマグネトロンスパッタリング装置20の成膜室21の全圧を2.0Paとし、全圧に対する酸素ガスの分圧を50%、アルゴンガスの分圧を50%とし、4インチのSnターゲットを2個同時に用いて、各ターゲットへの電源出力を100Wに設定した(合計出力は200W)。また、ターゲット26a、26bと基体7との間の距離は7.5cmとした。反応性RFマグネトロンスパッタリングを行い、ITO膜(透明電極2)の表面へ膜厚2.6μmの多孔質酸化錫膜を形成した。なお、成膜中の基板(PEN)1の表面温度は150度以下であった。
【0154】
続いて、多孔質酸化錫膜よりなる多孔質電極4が形成されたITO―PEN基板を、UVオゾン処理した後、上記式(12)によって示された有機EC色素の2mM水溶液に40度下で24時間浸漬させて、有機EC色素を吸着させた。その後、エタノール溶液で洗浄処理、窒素ブローによる乾燥処理を行い、表示電極構造体を得た。
【0155】
〔第一の対向電極構造体の作製〕後述する実施例で使用する第一の対向電極構造体
厚さ150μmのポリエチレンナフタレート(PEN)からなる支持基板6上に、表面抵抗が13Ω/□のITO膜(透明電極2)が形成された基板(基体27)(ITO−PEN基板)を作成した。
【0156】
図2に示すマグネトロンスパッタリング装置20の成膜室21の真空度を7.21×10-4Paとし、全圧を4.0Pa(全圧に対する酸素ガスの分圧を50%、アルゴンガスの分圧を50%とした。)とし、3インチの4wt%−Sb2O3/96wt%−SnO2ターゲットを1個用いて、ターゲットへの電源出力を150Wに設定した。また、ターゲット26a、26bと基板(基体27)との間の距離は7.5cmとした。
【0157】
ITO膜表面へスパッタリングを570分間行い、膜厚4.5μmのアンチモンドープ酸化スズ膜(ATO多孔質電極)を形成した。なお、成膜レートは470nm/時間であり、成膜中の基板表面温度は120度以下であった。
【0158】
続いて、ATO膜よりなる多孔質電極8が形成されたITO−PEN基板を、UVオゾン処理した後、上記化学式(22)で表わされる4-Phosphonooxy-TEMPO(有機ラジカル化合物(TEMPO:2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル (2,2,6,6-tetramethylpiperidine 1-oxyl)))の5mM水溶液に40度下で24時間浸漬させて、ATO多孔質電極へ有機ラジカル化合物を吸着させた。その後、エタノール溶液で洗浄処理、窒素ブローによる乾燥処理を行い、第一の対向電極構造体を得た。
【0159】
〔第二の対向電極構造体の作製〕後述する比較例1で使用する第二の対向電極構造体
厚さ150μmのポリエチレンナフタレート(PEN)からなる支持基板6上に、表面抵抗が13Ω/□のITO膜(透明電極2)が形成された基板(基体27)(ITO−PEN基板)を作成した。
【0160】
図2に示すマグネトロンスパッタリング装置20の成膜室21の真空度を3.25×10-4Paとし、全圧を0.25Pa(全圧に対する酸素ガスの分圧を50%、アルゴンガスの分圧を50%とした。)とし、3インチの4wt%−Sb2O3/96wt%−SnO2ターゲットを1個用いて、ターゲットへの電源出力を150Wに設定した。また、ターゲット26a、26bと基板(基体27)との間の距離は7.5cmとした。
【0161】
ITO膜表面へスパッタリングを480分間行い、膜厚4.2μmのアンチモンドープ酸化スズ膜(ATO多孔質電極)を形成した。なお、成膜レートは525nm/時間であり、成膜中の基板表面温度は120度以下であった。
【0162】
続いて、ATO膜よりなる多孔質電極8が形成されたITO−PEN基板を、UVオゾン処理した後、上記化学式(22)で表わされる4-Phosphonooxy-TEMPOの5mM水溶液に40度下で24時間浸漬させて、ATO多孔質電極へ有機ラジカル化合物を吸着させた。その後、エタノール溶液で洗浄処理、窒素ブローによる乾燥処理を行い、第二の対向電極構造体を得た。
【0163】
〔第三の対向電極構造体の作製〕後述する比較例2で使用する三の対向電極構造体
厚さ150μmのポリエチレンナフタレート(PEN)からなる支持基板6上に、表面抵抗が13Ω/□のITO膜(透明電極2)が形成された基板(基体27)(ITO−PEN基板)を作成した。
【0164】
図2に示すマグネトロンスパッタリング装置20の成膜室21の真空度を3.25×10-4Paとし、全圧を2.0Pa(全圧に対する酸素ガスの分圧を0%、アルゴンガスの分圧を100%とした。)とし、3インチの4wt%−Sb2O3/96wt%−SnO2ターゲットを1個用いて、ターゲットへの電源出力を150Wに設定した。また、ターゲット26a、26bと基板(基体27)との間の距離は7.5cmとした。
【0165】
ITO膜表面へスパッタリングを450分間行い、膜厚4.7μmのアンチモンドープ酸化スズ膜(ATO多孔質電極)を形成した。なお、成膜レートは625nm/時間であり、成膜中の基板表面温度は120度以下であった。
【0166】
続いて、ATO膜よりなる多孔質電極8が形成されたITO−PEN基板を、UVオゾン処理した後、上記化学式(22)で表わされる4-Phosphonooxy-TEMPOの5mM水溶液に40度下で24時間浸漬させて、ATO多孔質電極へ有機ラジカル化合物を吸着させた。その後、エタノール溶液で洗浄処理、窒素ブローによる乾燥処理を行い、第三の対向電極構造体を得た。
【0167】
〔第四の対向電極構造体の作製〕後述する比較例3で使用する第四の対向電極構造体
厚さ150μmのポリエチレンナフタレート(PEN)からなる支持基板6上に、表面抵抗が13Ω/□のITO膜(透明電極2)が形成された基板(基体27)(ITO−PEN基板)を作成した。
【0168】
1次粒径20nmのアンチモンドープされた酸化スズ(ATO)を20重量%の分量で水に分散させてスラリーを作製し、このスラリーに、ポリエチレングリコールを5重量%の割合で溶解させて塗料を調製した。この塗料をITO膜上にスキージ法により塗布した。続いてホットプレートを用いて80度、15分間の乾燥処理を行い、膜厚14μmのアンチモンドープ酸化スズ(ATO)よりなる多孔質電極が形成されたITO−PEN基板が得られた。
【0169】
続いて、ATO膜よりなる多孔質電極8が形成されたITO−PEN基板を、UVオゾン処理した後、上記化学式(22)で表わされる4-Phosphonooxy-TEMPOの5mM水溶液に40度下で24時間浸漬させて、ATO多孔質電極へ有機ラジカル化合物を吸着させた。その後、エタノール溶液で洗浄処理、窒素ブローによる乾燥処理を行い、第四の対向電極構造体を得た。
〔電解質用の溶液の調製〕
ガンマブチロラクロンに、過塩素酸リチウムを0.1mol/L溶解させ、脱水、脱気したものを調製した。
【0170】
〔電極構造体の貼り合わせ〕
上述した第一〜第四の対向電極構造体12(有機ラジカル化合物13が吸着された多孔質電極8が形成された基板)と、表示電極構造体11をそれぞれ、厚さ50μmの熱可塑性フィルム接着剤を用いて90度で貼り合わせた。この際、後工程で電解質溶液を注入できるように、一部分に注入口を形成した。
【0171】
〔電解質溶液の注入〕
電解質溶液を注入し、その後、注入口をエポキシ系の熱硬化樹脂で封止し、電解質層を挟持した状態で対向させた電極構造体を具備するエレクトロクロミック装置が完成した。
【0172】
(実施例1)
上述した第一の対向電極構造体におけるATO多孔質電極の基礎物性について、X線回折、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)、窒素吸脱着測定、吸収スペクトル測定により評価した。以下に、評価結果について説明する。
【0173】
図4は、本発明の実施例による、多孔質電極のX線回折パターンを示す図であり、縦軸は回折強度(cps)、横軸は回折各(2θ(度))を示す。
【0174】
図4に示すように、ATO膜(多孔質電極)のX線回折パターンには、正方晶であるルチル相の酸化錫に起因する(110)、(101)、(200)、(211)、(002)、(112)の回折ピークが観測された。このことから、透明電極上に形成されたATO膜の結晶構造は、主に酸化錫であることがわかった。
【0175】
図5は、本発明の実施例による、多孔質電極の表面のFE−SEM写真(倍率150,000)を示す図である。
【0176】
図6は、本発明の実施例による、多孔質電極の断面のFE−SEM写真(倍率22,000)を示す図である。
【0177】
図5、図6に示す電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)写真から明らかなように、マグネトロンスパッタリングによって成膜されたATO膜は、表面FE−SEM像から、密に集合している直径50nm〜100nm程度のナノ粒子状形態が観察され、断面FE−SEM像から、支持基板に対して垂直方向に成長した約100nm径の柱状体から構成されていることがわかった。また、後述するように、ATO膜は、窒素吸脱着等温線の測定の結果からメソスケールの細孔を有することがわかった。
【0178】
SnO2:Sbは、帯電していないSn又はSbと、酸素分子O2又は酸素分子イオンO2-(又は酸素ラジカルO・)との反応によって形成され、ITO膜の表面に成長された膜の最表面の凸部に加速された粒子(原子)が衝突して凸部が選択的に成長し、凸部はより凸となり成長し、凹部は成長し難くそのままの状態で残り、柱状体の集合体から形成された柱状構造をもったATO膜が形成されたと考えられる。
【0179】
また、圧力が高ければ高いほど衝突した粒子(原子)はエネルギー的に低い状態であるため、衝突した凸部表面での拡散し難く、柱表面で微小なスケールでランダムにスパッタされた結晶性粒子(又は原子)が堆積していき、柱状構造の内部にメソスケールの細孔が形成される。このようにして、ターゲットからスパッタされた結晶性粒子の堆積によって全体として柱状体をなしこれらの集合体によって柱状構造をもったATO膜が形成される。0.5Pa〜6.0Paの圧力範囲では、このメソスケールの細孔をもった柱状体が形成され、柱状構造を有するATO膜形成されやすいと考えられる。
【0180】
図7は、本発明の実施例による、多孔質電極の断面のFE−SEM写真を示す図であり図7(A)、図7(B)に示すSEM写真の倍率はそれぞれ、330,000、150,000である。
【0181】
図7に示す断面FE−SEM像に見られるように、柱状構造内部に、メソスケールの細孔が存在していることがわかる。このように、マグネトロンスパッタリングによって形成された多孔質電極は、支持基板に垂直に成長した柱状体間の隙間に加えて柱状体内部にメソスケールの細孔を有する特徴をもったメソ多孔質電極である。代表的なメソスケールの細孔と想定される部分を矢丸で図7(A)に示す。このメソ多孔質電極は、表示素子の発色時の電解質溶液における電荷バランスの調整に有用であり、電解液との接触面積が大きく、電荷バランスを調整するのに好適である。また、メソ多孔質電極への、ニトロオキシラジカル基(発色のために必要な電位を下げる働きをする。)を有する有機ラジカル化合物の担持量を増大させることができる。
【0182】
マグネトロンスパッタリングによって、ITO膜表面へATO多孔質電極を形成する際、酸素を使用するので、発生したプラズマと酸素との反応が生じる。このため、電子と酸素分子との衝突による解離反応により、一重項励起酸素原子O(1D)が形成する(e-+O2→O(3P)+O(1D)+e-、e-+O(3P)→O(1D)+e-)。この一重項励起酸素原子の材料表面への攻撃により、材料表面の比較的弱い化学結合を解離させる。また、減圧下であるため、励起酸素原子が材料表面で反応し易いため、マグネトロンスパッタリング成膜の開始時には、基板の最表面近傍で基板表面の官能基が解離され、基板と多孔質固体とが化学結合を形成する。
【0183】
即ち、マグネトロンスパッタリング成膜の開始時には、ITO表面は励起酸素原子によって改質され、反応性の高い親水基がITO表面に形成されため、ITOとSn(又はSb)とOとの化学結合が形成され、ITOとSn(又はSb)とOとの化学結合に伴って形成される膜は、ITO表面の平滑性を反映した表面形態で成長が起こるため、ITOとATOとのナノメートルスケールオーダーで均一な緻密な膜がITO表面に中間層として形成される。更に、マグネトロンスパッタリング成膜を進めると、上述したように柱状体が中間層上に成長していき、ITO−PEN基板上に中間層が形成されこの上に更に柱状体が成長していき、成長方向へ形態変化を伴った状態で、ATO膜が形成されていく。
【0184】
この結果、ITOとの密着性の高い膜が得られ、ATO多孔質電極が形成されたITO−PEN基板を曲げても、ITO膜、ATO膜は剥離しないことが確認され、密着性が向上し耐久性向上が可能となった。
【0185】
ATOを成膜する際、原子層の堆積の増加に伴って、上述のように形態変化が生じるため、ATO膜の下層部(上記の中間層)とこの上方の上層部とでメソスケールオーダーでの形態が大きく異なる。また、緻密な膜(上記の中間層)の厚さは、スパッタ時の出力に依存すると考えられる。
【0186】
図8は、本発明の実施例による、多孔質電極と基板との界面の断面のFE−SEM写真(倍率1,1000、3kV)を示す図である。
【0187】
図8は、アモルファスなガラス基板上にATO多孔質膜を形成し、界面部分を含む断面FE−SEM像であり、成長された多孔質膜とガラス基板との界面に厚さ約25nmの略平滑な緻密な膜(中間層)が認められた。
【0188】
多孔質膜の細孔構造を評価する手法として、窒素吸脱着等温線が知られており、比表面積、細孔径分布、細孔容積まで評価できるため、細孔構造を特徴化するのに非常に有用である。比表面積とは単位重量あたりの表面積であり、窒素ガス等の不活性ガスの物理吸着を用いて測定することができる。
【0189】
測定サンプルの前処理として、窒素吸脱着測定装置(日本ベル株式会社製、BELSORP−miniII)に接続するガラス管内へサンプルを導入し、窒素雰囲気下でATO膜サンプル150mgを120度・3時間で加熱し、細孔内外における吸着水の除去を行った。次いで、77K(ガラス管内の飽和蒸気圧:760mmHg)まで冷却し、サンプル管における相対圧力(P/P0=吸着平衡圧/飽和蒸気圧)を変化させ、ガラス管内の圧力の変化を測定した。サンプル表面は、窒素分子をファンデルワールス力で引き付け、物理吸着する。これによって、既知容量のサンプル管内の圧力変化が生じ、サンプル表面への窒素の物理吸着量がわかる。
【0190】
実測された相対圧力とガス吸着量のプロットをとり、その直線の勾配と切片から、Langmuir理論を多分子層吸着に拡張したBET式におけるVm(単分子層の吸着ガス量)とC値(BET定数)が求められ、Vm と窒素分子の断面積(窒素分子断面積:16.2Å2)から、BET比表面積を算出することができる。
【0191】
マグネトロンスパッタリングによって形成されたATO多孔質電極のBET比表面積は、33.3m2/gであると算出された。有機ラジカル化合物をできるだけ多く担持させ電気容量が大きな多孔質電極とするためには、多孔質電極の比表面積は約10m2/g以上であることが望ましいが、求められた値は、従来の焼結型のATO多孔質ナノ粒子膜(粒子径が数十ナノメートルである。)の比表面積に比べて、同じ又はそれ以上であり、十分な大きさの比表面積を有している。
【0192】
図9は、本発明の実施例による、多孔質電極の窒素吸脱着等温線を示す図である。
【0193】
図10は、本発明の実施例による、多孔質電極の細孔分布を示す図であり、横軸は細孔の直径(nm)、縦軸は微分細孔容積(V:細孔容積、D:細孔直径、dV/dD)(mm3nm-1g-1)を示す。
【0194】
図9に示すように、吸着平衡圧を順次増加(吸着)して得られる吸着側等温線と、平衡圧を順次減少(脱着)させて得られる脱着側等温線とが異なり、ヒステリシスを示す等温線が得られ、IV型(IUPACの等温線分類による。)の等温線を示し、メソ細孔(2nm〜50nm)の存在が示された。
【0195】
図10に示すように、上述の第一の対向電極構造体における多孔質電極は、均一ではないが20nm以下に細孔径分布を有しており、直径2nm〜20nmの細孔を含んでいる。
【0196】
対向電極構造体の電気容量を増大させるために用いる上記化学式(15)〜(57)で表わされる有機ラジカル化合物は、その分子径から考えるとマイクロ孔(直径<2nm)には導入できないため、また、有機ラジカル化合物は表面に吸着した際に凝集し易いものがあり、凝集によって円滑な電子移動を阻害するため、できるだけ単一分子状態で多くの化合物を吸着させる必要があるので、多孔質電極はメソ領域から外れない細孔径であることが好ましく、図10に示す結果は、2nm〜20nmの細孔を含む分布を示しており、有機ラジカル化合物の吸着に好適である。
【0197】
上述した第一の対向電極構造体におけるATO多孔質膜の透明性を紫外−可視吸収スペクトル測定により、200から800nmの波長範囲における透過率を評価した。
【0198】
図11は、本発明の実施例による、多孔質電極の透過率の測定結果を示す図であり、縦軸は透過率(%)、横軸は波長(nm)を示す。ここで、透過率は、支持基板に、透明電極、及び、多孔質電極が形成された対向電極構造体について測定されたものであって、多孔質電極に有機ラジカル化合物が担持されていない状態で測定された透過率である。
【0199】
図11から明らかなように、透過率の変化を示す曲線は、支持基板、透明電極、ATO多孔質膜からなる電極構造体の層構造に起因する干渉によって波打っているが、マグネトロンスパッタリングによって成膜されたATO膜は、非常に透過率が高く、400nmにおける透過率は約60%、450nmにおける透過率は約90%、600nmにおける透過率は96%、700nmにおける透過率は98%であった。
【0200】
第一の対向電極構造体12のサイクリックボルタンメトリーにより3極測定を行った。
【0201】
図12は、本発明の実施例による、第一の対向電極構造体12のサイクリックボルタンメトリーの結果を示す図であり、横軸は参照電極(Ag/AgNO3)に対する電圧(V)、縦軸は電流(A)を示す。
【0202】
サイクリックボルタンメトリー(CV)は、一般的な3電極系を使用し、上述の第一の対向電極構造体を作用電極、対向電極を白金電極、参照電極をAg/AgNO3とし、上述の電解質用の溶液を用い、電圧−電流曲線における電圧掃引速度は50mV/sとし、連続測定における3サイクル目のデータを採用した。図12の電圧−電流曲線に示すように、0.18Vに還元ピーク、0.35Vに酸化ピークが観測された。CV曲線において明確な酸化・還元ピークが観察されたので、低消費電力化が可能である。
【0203】
上述した表示電極構造体と、第一の対向電極構造体を用いて、図1に示す構成のエレクトロクロミック装置を作製し、透明電極2、7間に電圧を印加して、電圧−光学特性(635nmの吸光度の変化を測定した。)を測定した。
【0204】
図13は、本発明の実施例において、表示素子の発色時、消色時の吸光度の変化を示す図であり、横軸は透明電極2、7に印加される電圧、即ち、多孔質電極(上記化学式(22)で表わされる4-Phosphonooxy-TEMPOが担持されたATO電極)8に印加される電圧、縦軸は635nmにおける吸光度を示す。
【0205】
透明電極2、7間に−1.2Vの電圧を印加すると、直ちにシアン発色を呈した。なお、OFFからONへの表示変更の応答速度は150ms程度であり、実用上充分に良好な速度であった。続いて−1.4V程度まで電圧を上昇させた後、電極間電圧を−1.2V程度まで低減させると、直ちに消色し、透明となった。なお、色表示のONからOFFへの応答速度は約50msであり、実用上充分に良好な速度であった。
【0206】
続いて、表示電極構造体と対向電構造体との間に、−1.5Vと0.5Vとを交互に1Hzで100万回繰返し印加したところ、100万回繰り返した後においても初期の状態とスペクトル形状の変化が殆ど見られず、実用上充分に優れた耐久性を有していることが確認された。
【0207】
なお、本実施例における表示装置は、表示電極構造体を構成する多孔質電極として無色の材料を適用したので、消色時に確実に無色透明状態となり、発色時には鮮やかなシアン色の表示を行うことができた。また、対向電極構造体を構成する多孔質電極の形成方法としてマグネトロンスパッタリングを適用しているため、ポリエチレンナフタレート基板をはじめとするプラスチック基板上へ成膜が可能となり、低温環境下においても実用上充分な発消色特性を具備する表示電極が形成されたことも確かめられた。
【0208】
(比較例1)
上述した表示電極構造体と第二の対向電極構造体を用いて、図1に示す構成のエレクトロクロミック装置を作製し、透明電極2、7間に電圧を印加して、電圧−光学特性(635nmの吸光度の変化を測定)を測定したところ、発色がほとんど観測されなかった。この原因は、第二の対向電極構造体の多孔質電極の作製工程において、真空槽内の圧力が0.25Paと低かったため、マグネトロンスパッタリングによる成膜において、非常に緻密なアンチモンドープ酸化錫膜が形成され、電解液との接触面積が低く、有機EC色素が実用上充分に発色しなかったためと考えられる。
【0209】
(比較例2)
上述した表示電極構造体と第三の対向電極構造体を用いて、図1に示す構成のエレクトロクロミック装置を作製し、透明電極2、7間に電圧を印加して、電圧−光学特性(635nmの吸光度の変化を測定)を測定したところ、発色がほとんど観測されなかった。この原因は、第三の対向電極構造体の多孔質電極の作製工程において、真空槽内に酸素が存在しない状態だったため、マグネトロンスパッタリングによる成膜において金属に近い状態の結晶構造が形成され、有機EC色素を充分に発色させることができなかったためと考えられる。
【0210】
(比較例3)
上述した第四の対向電極構造体におけるATOナノ粒子膜の透明性を紫外−可視吸収スペクトル計により200から800nmの波長範囲における透過率を評価した。
【0211】
図14は、本発明の比較例による、多孔質電極の透過率の測定結果を示す図であり、縦軸は透過率(%)、横軸は波長(nm)を示す。ここで、透過率は、支持基板に、透明電極、及び、多孔質電極が形成された対向電極構造体について測定されたものであって、多孔質電極に有機ラジカル化合物が担持されていない状態で測定された透過率である。
【0212】
図14から明らかなように、塗布法で成膜したATOナノ粒子膜の透過率は、
上述した第一の対向電極構造体におけるATO多孔質電極の透過率(図11に示した。)よりもはるかに低く、400nmにおける透過率は0%、500nmにおける透過率は0%、600nmにおける透過率は1%、700nmにおける透過率は3%であった。
【0213】
第四の対向電極構造体12のサイクリックボルタンメトリーにより3極測定を行った。
【0214】
図15は、本発明の比較例による、第四の対向電極構造体12のサイクリックボルタンメトリーの結果を示す図であり、横軸は参照電極(Ag/AgNO3)に対する電圧(V)、縦軸は電流(A)を示す。
【0215】
サイクリックボルタンメトリーは、図12の場合と同様にして行い、図12の電圧−電流曲線に示すように、0.10Vに還元ピーク、0.35Vに酸化ピークが観測された。
【0216】
上述した第四の表示電極構造体と第四の対向電極構造体を用いて、図に示す構成のエレクトロクロミック装置を作製し、透明電極2、7間に電圧を印加して、電圧−光学特性(635nmの吸光度の変化を測定)を測定した。
【0217】
図16は、本発明の比較例において、表示素子の発色時、消色時の吸光度の変化を示す図であり、横軸は透明電極2、7に印加される電圧、即ち、多孔質電極(上記化学式(22)で表わされる4-Phosphonooxy-TEMPOが担持されたATO電極)8に印加される電圧、縦軸は635nmにおける吸光度を示す。
【0218】
本比較例においては、透明電極2、7間に−1.2Vの電圧を印加したところ、直薄いシアン発色を呈した。なお、表示OFFからONへの変更の応答速度は約5s程度であった。更に、−1.4V程度まで電圧を上昇させ、その後、電極間電圧を0Vまで下げていったところ、発色濃度はゆっくり低減化した。なお、表示がONからOFF状態への変更の応答速度は約8sであった。
【0219】
本比較例の表示装置においては、発色後に電圧を低下させ、0Vとなっても、完全な無色透明状態にはならず、消え残りがあることが確認された。この原因は、第四の表示電極構造体の多孔質電極の作製工程において、所定の塗料をスキージ法により塗布した後の加熱処理が低温であったため、アンチモンドープ酸化錫ナノ粒子同士のネッキング(結合)を形成できなかったことや鋳型であるポリエチレングリコールが除去されていないためである。よって、円滑な電子移動が起こりにくく、十分な吸光度をもって発色せず、良好な応答速度が得られなかったと考えられた。
【0220】
上述したことから明らかなように、支持基板及び多孔質電極材料として無色透明なものを使用し、有機ラジカル化合物を使用したことにより、極めて応答反応に優れ、鮮鋭な色調で、可逆的なエレクトロクロミック化合物による発消色表示を安定して行うことができるエレクトロクロミック装置、特にフルカラー表示に好適なエレクトロクロミック装置を実現することができた。
【0221】
また、本発明によれば、多孔質電極の作製法として、マグネトロンスパッタ法を用いたので、比較的低温条件下においてアンチモンドープ酸化錫(ATO)多孔質電極を形成することができ、これにより従来汎用されていたガラス基板よりも耐熱性の低いプラスチック材や薄層基板にも、ATO多孔質電極を形成することができるようになり、装置形状や態様の自由度が高まり、また、フレキシブルな表示素子を作製することも可能となった。
【0222】
また、本発明によれば、ATO電極のマグネトロンスパッタリング法による作製工程において、圧力を0.5Paから6.0Paの圧力下で、酸素ガス存在下で行うことにより、細孔構造を良好な状態に形成でき、表示電極側の色表示濃度を充分に高くすることができた。
【0223】
なお、本発明によるエレクトロクロミック装置は、各種の用途に使用される表示素子や表示板、防眩ミラー、調光素子、光スイッチ、光メモリ等に使用することができる。
【0224】
以上、本発明を実施の形態について説明したが、本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0225】
例えば、多孔質電極に担持させるエレクトロクロミック化合物は目的用途に応じて適宜選択することができ、上述した例に限定されるものではない。また、有機ラジカル化合物は上記化学式(22)で表わされる4-Phosphonooxy-TEMPOに限定されるものではなく、任意に変更可能である。更に、例示した各部の寸法はこれに限定されるものでなく、目的用途に応じて適宜設定することができる。
【0226】
更に、多孔質電極は酸化錫多孔質電極に限定されるものではなく、酸化錫以外の酸化物による多孔質電極であってもよく、必要に応じて任意に変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0227】
以上説明したように、本発明によれば、高性能なエレクトロクロミック装置及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0228】
【図1】本発明の実施の形態による、エレクトロクロミック装置の一例の概略構成を説明する断面図である。
【図2】同上、マグネトロンスパッタリング装置の概略構成例を模式的に示す図である。
【図3】同上、カラー表示を行うことができるエレクトロクロミック装置の一例の概略構成を説明する断面図である。
【図4】本発明の実施例による、多孔質電極のX線回折パターンを示す図である。
【図5】同上、多孔質電極の表面のFE−SEM写真(倍率150,000)を示す図である。
【図6】同上、多孔質電極の断面のFE−SEM写真を示す図である。
【図7】同上、多孔質電極の断面のFE−SEM写真を示す図である。
【図8】同上、多孔質電極と基板との界面の断面のFE−SEM写真を示す図である。
【図9】同上、多孔質電極の窒素吸脱着等温線を示す図である。
【図10】同上、多孔質電極の細孔分布を示す図である。
【図11】同上、多孔質電極の透過率の測定結果を示す図である。
【図12】同上、第一の対向電極構造体12のサイクリックボルタンメトリーの結果を示す図である。
【図13】同上、表示素子の発色時、消色時の吸光度の変化を示す図である。
【図14】本発明の比較例による、多孔質電極の透過率の測定結果を示す図である。
【図15】同上、第四の対向電極構造体12のサイクリックボルタンメトリーの結果を示す図である。
【図16】同上、表示素子の発色時、消色時の吸光度の変化を示す図である。
【符号の説明】
【0229】
1、1、1a、1b、1c、6、6a、6b、6c…支持基板、
2、2a、2b、2c、7、7a、7b、7c…透明電極、
3、3a、3b、3c…有機EC色素、5、5a、5b、5c…電解質層、
4、4a、4b、4c、8、8a、8b、8c…多孔質電極、
10A、10B、10C…エレクトロクロミック素子構造体、
10…エレクトロクロミック装置、12、12a、12b、12c…対向電極構造体、
11、11、11a、11b、11c…表示電極構造体、
13、13a、13b、13c…有機ラジカル化合物
20…マグネトロンスパッタリング装置、21…成膜室、
22、23…マスフローコントローラ、24…回転ホルダ、25…真空ポンプ、
26a、26b…ターゲット、27…基体、28…ダイアフラム真空計、
29…電離真空計、30a、30b…磁石、31a、31b…電源
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の支持基板上に第1の透明電極が形成され、この第1の透明電極に第1の多孔質
電極が形成された対向電極構造体と、
第2の支持基板上に第2の透明電極が形成され、この第2の透明電極に第2の多孔質
電極が形成され、この第2の多孔質電極に酸化反応又は還元反応により発色するエレク
トロクロミック色素が担持されている表示電極構造体と、
前記第1及び第2の透明電極の間に挟持された電解質層と
を有し、前記第1の多孔質電極が、前記第1の支持基板の面に略垂直であり、メソスケールの細孔を有する柱状体からなる、エレクトロクロミック装置。
【請求項2】
前記第1の多孔質電極が、20nm以下の細孔を有する柱状体からなる、請求項1に記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項3】
前記第1の多孔質電極は半導体からなり、この半導体は金属の酸化物又は金属の酸化物の複合体によって構成され、前記金属がインジウム、錫、亜鉛、アルミニウムの何れかである、請求項1に記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項4】
前記第1の多孔質電極が、RF(高周波)電源又はDC(直流)電源を用いて、不活性ガスの他に酸素ガスが分圧換算で10%以上、90%以下の割合で存在し、且つ、全圧が0.5Pa以上、6.0Pa以下である真空槽中において、マグネトロンスパッタリングによって形成された、請求項1に記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項5】
前記第1の多孔質電極が、アンチモンドープ酸化錫多孔質電極である、請求項1に記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項6】
前記アンチモンドープ酸化錫多孔質電極に、ニトロオキシラジカル基を有する有機ラジカル化合物が担持された、請求項5に記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項7】
前記アンチモンドープ酸化錫多孔質電極が、錫又は酸化錫を主成分とするターゲット材料を用いて、マグネトロンスパッタリングによって形成された、請求項5に記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項8】
前記第1の支持基板はプラスチック基板であり、前記アンチモンドープ酸化錫多孔質電極の形成時における前記プラスチック基板の表面温度が300度以下である、請求項7に記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項9】
前記対向電極構造体が、450nm以上、800nm以下の波長領域において85%以上の透過率を有する、請求項5に記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項10】
第1の支持基板上に第1の透明電極が形成され、この第1の透明電極に第1の多孔質電極が形成された対向電極構造体と、第2の支持基板上に第2の透明電極が形成され、この第2の透明電極に第2の多孔質 電極が形成され、この第2の多孔質電極に酸化反応又は還元反応により発色するエレクトロクロミック色素が担持されている表示電極構造体とが、前記第1及び第2の透明電極が対向するように電解質層を挟持して配置されたエレクトロクロミック装置の製造方法であって、前記第1の透明電極上に前記第1の多孔質電極をマグネトロンスパッタリングによって形成する工程を有し、前記第1の支持基板の面に略垂直であり、メソスケールの細孔を有する柱状体からなる前記第1の多孔質電極が形成される、エレクトロクロミック装置の製造方法。
【請求項11】
20nm以下の細孔を有する柱状体からなる前記第1の多孔質電極が形成される、請求項10に記載のエレクトロクロミック装置の製造方法。
【請求項12】
前記第1の多孔質電極は半導体からなり、この半導体は金属の酸化物又は金属の酸化物の複合体によって構成され、前記金属がインジウム、錫、亜鉛、アルミニウムの何れかである、請求項10に記載のエレクトロクロミック装置の製造方法。
【請求項13】
前記第1の多孔質電極が、RF(高周波)電源又はDC(直流)電源を用いて、不活性ガスの他に酸素ガスが分圧換算で10%以上、90%以下の割合で存在し、且つ、全圧が0.5Pa以上、6.0Pa以下である真空槽中において、マグネトロンスパッタリングによって形成される、請求項10に記載のエレクトロクロミック装置の製造方法。
【請求項14】
前記第1の透明電極に直接給電され前記第1の透明電極とターゲットの間に電圧が印加される、請求項13に記載のエレクトロクロミック装置の製造方法。
【請求項15】
前記第1の多孔質電極が、アンチモンドープ酸化錫多孔質電極である、請求項10に記載のエレクトロクロミック装置の製造方法。
【請求項16】
前記アンチモンドープ酸化錫多孔質電極に、ニトロオキシラジカル基を有する有機ラジカル化合物を担持する工程を有する、請求項15に記載のエレクトロクロミック装置の製造方法。
【請求項17】
前記アンチモンドープ酸化錫多孔質電極が、錫又は酸化錫を主成分とするターゲット材料を用いて、マグネトロンスパッタリングによって形成される、請求項15に記載のエレクトロクロミック装置の製造方法。
【請求項18】
前記第1の支持基板はプラスチック基板であり、前記アンチモンドープ酸化錫多孔質電極の形成時における前記プラスチック基板の表面温度が300度以下である、請求項17に記載のエレクトロクロミック装置の製造方法。
【請求項19】
前記対向電極構造体が、450nm以上、800nm以下の波長領域において85%以上の透過率を有する、請求項15に記載のエレクトロクロミック装置の製造方法。
【請求項1】
第1の支持基板上に第1の透明電極が形成され、この第1の透明電極に第1の多孔質
電極が形成された対向電極構造体と、
第2の支持基板上に第2の透明電極が形成され、この第2の透明電極に第2の多孔質
電極が形成され、この第2の多孔質電極に酸化反応又は還元反応により発色するエレク
トロクロミック色素が担持されている表示電極構造体と、
前記第1及び第2の透明電極の間に挟持された電解質層と
を有し、前記第1の多孔質電極が、前記第1の支持基板の面に略垂直であり、メソスケールの細孔を有する柱状体からなる、エレクトロクロミック装置。
【請求項2】
前記第1の多孔質電極が、20nm以下の細孔を有する柱状体からなる、請求項1に記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項3】
前記第1の多孔質電極は半導体からなり、この半導体は金属の酸化物又は金属の酸化物の複合体によって構成され、前記金属がインジウム、錫、亜鉛、アルミニウムの何れかである、請求項1に記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項4】
前記第1の多孔質電極が、RF(高周波)電源又はDC(直流)電源を用いて、不活性ガスの他に酸素ガスが分圧換算で10%以上、90%以下の割合で存在し、且つ、全圧が0.5Pa以上、6.0Pa以下である真空槽中において、マグネトロンスパッタリングによって形成された、請求項1に記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項5】
前記第1の多孔質電極が、アンチモンドープ酸化錫多孔質電極である、請求項1に記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項6】
前記アンチモンドープ酸化錫多孔質電極に、ニトロオキシラジカル基を有する有機ラジカル化合物が担持された、請求項5に記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項7】
前記アンチモンドープ酸化錫多孔質電極が、錫又は酸化錫を主成分とするターゲット材料を用いて、マグネトロンスパッタリングによって形成された、請求項5に記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項8】
前記第1の支持基板はプラスチック基板であり、前記アンチモンドープ酸化錫多孔質電極の形成時における前記プラスチック基板の表面温度が300度以下である、請求項7に記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項9】
前記対向電極構造体が、450nm以上、800nm以下の波長領域において85%以上の透過率を有する、請求項5に記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項10】
第1の支持基板上に第1の透明電極が形成され、この第1の透明電極に第1の多孔質電極が形成された対向電極構造体と、第2の支持基板上に第2の透明電極が形成され、この第2の透明電極に第2の多孔質 電極が形成され、この第2の多孔質電極に酸化反応又は還元反応により発色するエレクトロクロミック色素が担持されている表示電極構造体とが、前記第1及び第2の透明電極が対向するように電解質層を挟持して配置されたエレクトロクロミック装置の製造方法であって、前記第1の透明電極上に前記第1の多孔質電極をマグネトロンスパッタリングによって形成する工程を有し、前記第1の支持基板の面に略垂直であり、メソスケールの細孔を有する柱状体からなる前記第1の多孔質電極が形成される、エレクトロクロミック装置の製造方法。
【請求項11】
20nm以下の細孔を有する柱状体からなる前記第1の多孔質電極が形成される、請求項10に記載のエレクトロクロミック装置の製造方法。
【請求項12】
前記第1の多孔質電極は半導体からなり、この半導体は金属の酸化物又は金属の酸化物の複合体によって構成され、前記金属がインジウム、錫、亜鉛、アルミニウムの何れかである、請求項10に記載のエレクトロクロミック装置の製造方法。
【請求項13】
前記第1の多孔質電極が、RF(高周波)電源又はDC(直流)電源を用いて、不活性ガスの他に酸素ガスが分圧換算で10%以上、90%以下の割合で存在し、且つ、全圧が0.5Pa以上、6.0Pa以下である真空槽中において、マグネトロンスパッタリングによって形成される、請求項10に記載のエレクトロクロミック装置の製造方法。
【請求項14】
前記第1の透明電極に直接給電され前記第1の透明電極とターゲットの間に電圧が印加される、請求項13に記載のエレクトロクロミック装置の製造方法。
【請求項15】
前記第1の多孔質電極が、アンチモンドープ酸化錫多孔質電極である、請求項10に記載のエレクトロクロミック装置の製造方法。
【請求項16】
前記アンチモンドープ酸化錫多孔質電極に、ニトロオキシラジカル基を有する有機ラジカル化合物を担持する工程を有する、請求項15に記載のエレクトロクロミック装置の製造方法。
【請求項17】
前記アンチモンドープ酸化錫多孔質電極が、錫又は酸化錫を主成分とするターゲット材料を用いて、マグネトロンスパッタリングによって形成される、請求項15に記載のエレクトロクロミック装置の製造方法。
【請求項18】
前記第1の支持基板はプラスチック基板であり、前記アンチモンドープ酸化錫多孔質電極の形成時における前記プラスチック基板の表面温度が300度以下である、請求項17に記載のエレクトロクロミック装置の製造方法。
【請求項19】
前記対向電極構造体が、450nm以上、800nm以下の波長領域において85%以上の透過率を有する、請求項15に記載のエレクトロクロミック装置の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2009−145458(P2009−145458A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320625(P2007−320625)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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