説明

エレクトロスラグ溶接用金属粉末入りワイヤ

【課題】鋼製外皮に金属粉末を充填し巻き締めて製造した溶接用ワイヤをエレクトロスラグ溶接に適用し、良好な靭性を有する溶接金属が得られ、かつ安価なエレクトロスラグ溶接用金属粉末入りワイヤを提供する。
【解決手段】鋼製外皮に金属粉末を充填してなるエレクトロスラグ溶接用金属粉末入りワイヤであって、全質量に対して質量%でC:0.002〜0.15%,Si:0.02〜1.4%,Mn:0.5〜3.0%,Cu:2.0%以下,Ni:3.0%以下,Mo:0.05〜1.5%,Al:0.005〜0.05%,Ti:0.05〜0.4%,B:0.005〜0.020%,N:0.010%以下,O:0.001〜0.015%,Mg:0.001〜0.01%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する金属粉末入りワイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高張力鋼板のエレクトロスラグ溶接に好適な溶接用ワイヤに関し、特に鋼製外皮に金属粉末を充填してなり、大入熱エレクトロスラグ溶接にて建築,橋梁,造船等の溶接構造物を建造する際に良好な靭性を有する溶接金属が得られるエレクトロスラグ溶接用金属粉末入りワイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築,橋梁,造船等の溶接構造物を構成するボックス柱等には、高張力鋼板からなるスキンプレートやダイアフラムと呼ばれる部材が使用される。そして、そのスキンプレートとダイアフラムとをエレクトロスラグ溶接等によって溶接してボックス柱を構築する。
エレクトロスラグ溶接は、溶接を開始する前に高張力鋼板(たとえばスキンプレート,ダイアフラム等)を組み合わせて縦方向に形成した閉断面開先内に少量のフラックスを投入し、高張力鋼板と溶接用ワイヤとの間でアークを発生させることによって溶接を開始する。その後は、溶接用ワイヤを供給しながら溶融スラグの抵抗発熱を利用して高張力鋼板と溶接用ワイヤを溶融させて縦方向に溶接を行なう。
【0003】
一般にエレクトロスラグ溶接では、溶接金属の靭性を確保するために合金元素を多量に含有する溶接用ワイヤを使用する。また、開先の底部まで溶接用ワイヤを安定して供給するために、長尺のノズルを使用する。
エレクトロスラグ溶接で使用するノズルは、
(a)溶接の進行とともに溶解する消耗ノズル
(b)冷却機能を備えて溶解しない非消耗ノズル(たとえば水冷ノズル)
に大別される。ただし近年、ボックス柱の構築の際には非消耗ノズルが主に使用されている。
【0004】
一方、一般の建築用鉄骨の溶接金属に要求される特性については、大地震に対する耐振性を向上する観点から国土交通省と鉄鋼連盟が共同で検討し、温度0℃におけるシャルピー吸収エネルギーを70J以上とする指針が得られている。
この指針はボックス柱のエレクトロスラグ溶接にも適用される場合がある。そのため、エレクトロスラグ溶接によって良好な靭性を有する溶接金属を得る技術が種々検討されている。
【0005】
たとえば特許文献1には、C,Si,Mn,Mo,Ni,Ti,B,N,Oの含有量を規定したエレクトロスラグ溶接用ワイヤが開示されている。このエレクトロスラグ溶接用ワイヤは、溶接金属の靭性を劣化させるセメンタイト(Fe3C)の生成を抑制するためにC含有量を低減している。またオーステナイト結晶粒に偏析するBを添加することによって、オーステナイト結晶粒の微細化を図っている。
【0006】
特許文献2には、C,Si,Mn,Cu,Mo,Ti,O,Ni,Cr,B,Nの含有量を規定したエレクトロスラグ溶接用ワイヤが開示されている。このエレクトロスラグ溶接用ワイヤは、MoとCuを添加することによって溶接金属の靭性のばらつきを低減している。
これら特許文献1,2に開示されたエレクトロスラグ溶接用ワイヤは、いずれも鋼製の素線からなるもの(いわゆるソリッドワイヤ)である。
【0007】
ところがボックス柱のエレクトロスラグ溶接では、開先面における高張力鋼板の溶解は溶融メタルからの伝熱によって進行するので、十分な量の溶融メタルを得るために溶接速度を抑制したり、溶接電圧を高く設定する必要がある。そのため溶接入熱は非常に大きくなり、特許文献1,2の技術を適用しても溶接金属の組織が粗大化するのは避けられない。その結果、溶接金属の靭性の低下を招く。
【0008】
また特許文献1,2と同様にソリッドワイヤを用いてボックス柱のエレクトロスラグ溶接を行なう場合に、
(A)エレクトロスラグ溶接用ワイヤにNiやMoを添加して溶接金属の焼入れ性を高めることによって、溶接金属を微細なベイナイト組織とする
(B) エレクトロスラグ溶接用ワイヤにMoを添加して溶接金属の焼入れ性を高めるとともに、Bを添加して溶接金属の粗大な粒界フェライトの生成を抑制することによって、溶接金属を微細なフェライト組織とする
という技術も検討されている。
【0009】
しかし(A)の技術は、高価なNiやMoを多量に添加するので、エレクトロスラグ溶接用ワイヤの製造コストが増大するばかりでなく、溶接金属の強度が過剰に上昇するという問題がある。また(B)の技術は、Bを添加するので、エレクトロスラグ溶接用ワイヤの製造過程で割れが生じやすくなり、エレクトロスラグ溶接用ワイヤの歩留りが低下するという問題がある。
【特許文献1】特許3934863号公報
【特許文献2】特開2005-349466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、鋼製外皮に金属粉末を充填し巻き締めて製造した溶接用ワイヤ(いわゆる巻き締め型コアードワイヤ)をエレクトロスラグ溶接に適用し、良好な靭性を有する溶接金属が得られ、かつ安価なエレクトロスラグ溶接用金属粉末入りワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、高張力鋼板のエレクトロスラグ溶接によって生成される溶接金属の組織と靭性との関係を鋭意調査した。その結果、エレクトロスラグ溶接では溶接金属の冷却速度が遅いので、高張力鋼板のオーステナイト粒界から溶接金属に析出した初析フェライトが粗大に成長し、溶接金属の靭性を低下させることが分かった。したがって溶接金属の靭性を向上するためには、オーステナイト粒界からフェライトが生成するのを抑制する必要がある。
【0012】
そこで本発明者らは、合金元素を金属粉末に含有させてその金属粉末を鋼製外皮に充填する技術に着目し、オーステナイト粒界からのフェライトの生成を抑制できるエレクトロスラグ溶接用金属粉末入りワイヤ(以下、金属粉末入りワイヤという)の成分について検討した。その結果、好適な量のBを金属粉末入りワイヤに含有させることによって、溶接金属のB含有量とN含有量との比率を適正な範囲内に制御することが有効であることが判明した。
【0013】
また、好適な量のTiおよびMgを金属粉末入りワイヤに含有させることによって、溶接金属に酸化物を分散させることが可能である。この酸化物はアシキュラーフェライトの生成核となるので、溶接金属の粒内組織を微細なアシキュラーフェライトとして溶接金属の靭性向上に寄与する。
これらの合金元素を含有する金属粉末入りワイヤを製造する際には、合金元素を金属粉末に含有させ、その金属粉末を鋼製外皮に充填する。そうすれば、金属粉末入りワイヤを安価にかつ歩留り良く製造できる。
【0014】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、鋼製外皮に金属粉末を充填してなるエレクトロスラグ溶接用金属粉末入りワイヤであって、鋼製外皮がその質量に対して質量%でC:0.05%以下,Si:0.2%以下,Mn:0.6%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、エレクトロスラグ溶接用金属粉末入りワイヤがその全質量に対して質量%でC:0.002〜0.15%,Si:0.02〜1.4%,Mn:0.5〜3.0%,Cu:2.0%以下,Ni:3.0%以下,Mo:0.05〜1.5%,Al:0.005〜0.05%,Ti:0.05〜0.4%,B:0.005〜0.020%,N:0.010%以下,O:0.001〜0.015%,Mg:0.001〜0.01%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する金属粉末入りワイヤである。
【0015】
本発明の金属粉末入りワイヤは、前記した組成に加えて、Cr:0.05〜2.5%,V:0.005〜0.5%,Nb:0.005〜0.5%およびREM:0.001〜0.01%の中から選ばれる1種または2種以上を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、エレクトロスラグ溶接にて良好な靭性を有する溶接金属が得られる金属粉末入りワイヤを、安価にかつ歩留り良く製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
まず、本発明のエレクトロスラグ溶接用金属粉末入りワイヤ(すなわち金属粉末入りワイヤ)の鋼製外皮の成分を限定した理由を説明する。なお、各元素の含有量は鋼製外皮の質量に対する比率である。
C:0.05%以下
Cは、鋼製外皮の強度を確保する上で重要な元素である。しかしC含有量が0.05%を超えると、鋼製外皮が硬化して金属粉末入りワイヤの製造過程で矯正が困難になる。そのためエレクトロスラグ溶接を行なうにあたって、金属粉末入りワイヤが曲がったままで非消耗ノズルに供給されるので、金属粉末入りワイヤの安定した供給が困難になるばかりでなく、溶接金属の片溶けが発生する。したがって、Cは0.05%以下とする。
【0018】
Si:0.2%以下
Siは、鋼製外皮の強度を確保する上で重要な元素である。しかしSi含有量が0.2%を超えると、鋼製外皮が硬化して金属粉末入りワイヤの製造過程で矯正が困難になる。そのためエレクトロスラグ溶接を行なうにあたって、金属粉末入りワイヤが曲がったままで非消耗ノズルに供給されるので、金属粉末入りワイヤの安定した供給が困難になるばかりでなく、溶接金属の片溶けが発生する。したがって、Siは0.2%以下とする。
【0019】
Mn:0.6%以下
Mnは、鋼製外皮の強度を確保する上で重要な元素である。しかしMn含有量が0.6%を超えると、鋼製外皮が硬化して金属粉末入りワイヤの製造過程で矯正が困難になる。そのためエレクトロスラグ溶接を行なうにあたって、金属粉末入りワイヤが曲がったままで非消耗ノズルに供給されるので、金属粉末入りワイヤの安定した供給が困難になるばかりでなく、溶接金属の片溶けが発生する。したがって、Mnは0.6%以下とする。
【0020】
上記した鋼製外皮の成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
次に、本発明の金属粉末入りワイヤの成分(すなわち鋼製外皮と金属粉末との総合成分)を限定した理由を説明する。なお、各元素の含有量は金属粉末入りワイヤの全質量に対する比率である。
C:0.002〜0.15%
Cは、溶接金属の強度を高めるとともに焼入れ性を向上させる作用を有する。C含有量が0.002%未満では、これらの効果が得られない。一方、0.15%を超えると、溶接金属の高温割れが発生し易くなり、しかも島状マルテンサイトの生成に起因して溶接金属の靭性が劣下する。したがって、Cは0.002〜0.15%の範囲内とする。
【0021】
Si:0.02〜1.4%
Siは、溶接金属を脱酸する作用を有するとともに、溶融メタルの湯流れ性と溶接金属の強度を向上させる元素である。Si含有量が0.02%未満では、これらの効果が得られない。一方、1.4%を超えると、溶接金属の高温割れが発生し易くなり、しかも島状マルテンサイトの生成に起因して溶接金属の靭性が劣下する。したがって、Siは0.02〜1.4%の範囲内とする。
【0022】
Mn:0.5〜3.0%
Mnは、溶接金属の強度を高めるとともに焼入れ性を向上させる作用を有する。Mn含有量が0.5%未満では、これらの効果が得られない。一方、3.0%を超えると、溶接金属の高温割れが発生し易くなり、しかも上部ベイナイトやマルテンサイトの生成に起因して溶接金属の靭性が劣下する。したがって、Mnは0.5〜3.0%の範囲内とする。好ましくは1.2〜2.5%である。
【0023】
Cu:2.0%以下
Cuは、溶接金属の強度を高めるとともに焼入れ性を向上させる作用を有する。しかしCu含有量が2.0%を超えると、溶接金属の高温割れが発生し易くなり、溶接金属が過剰に硬化して靭性の劣下を招く。したがって、Cuは2.0%以下とする。ただしCuが0.05%未満では、溶接金属の強度や焼入れ性を改善する効果が得られない。そのため、Cuは0.05〜2.0%の範囲内が好ましい。より好ましくは0.05〜1.0%である。
【0024】
Ni:3.0%以下
Niは、溶接金属の強度を高めるとともに焼入れ性を向上させる作用を有する。しかしNi含有量が3.0%を超えると、溶接金属の高温割れが発生し易くなり、しかも上部ベイナイトやマルテンサイトの生成に起因して溶接金属の靭性が劣下する。したがって、Niは3.0%以下とする。ただしNiが0.05%未満では、溶接金属の強度や焼入れ性を改善する効果が得られない。そのため、Niは0.05〜3.0%の範囲内が好ましい。より好ましくは0.05〜2.0%である。
【0025】
Mo:0.05〜1.5%
Moは、溶接金属の強度を高めるとともに焼入れ性を向上させる作用を有する。また、溶融メタルが凝固する際にアシキュラーフェライトの析出を促進して、溶接金属の組織を微細化する作用も有する。Mo含有量が0.05%未満では、これらの効果が得られない。一方、1.5%を超えると、溶接金属の高温割れが発生し易くなり、溶接金属が過剰に硬化して靭性の劣下を招く。したがって、Moは0.05〜1.5%の範囲内とする。好ましくは0.2〜1.5%である。
【0026】
Al:0.005〜0.05%
Alは、溶接金属を脱酸する作用を有する。Al含有量が0.005%未満では、この効果が得られない。溶接金属の脱酸が不十分であれば、溶接金属中のOが増加する。その結果、固溶状態で含有されるべき元素であるSi,Mn,B等が酸化物となり、溶接金属の焼入れ性や靭性が劣化する。一方、0.05%を超えると、溶接金属にAl23が多量に析出する。その結果、アシキュラーフェライトの生成核となるTi酸化物やMg酸化物の生成が阻害される。したがって、Alは0.005〜0.05%の範囲内とする。
【0027】
Ti:0.05〜0.4%
Tiは、溶接金属中で酸化物を形成する作用を有し、その酸化物がアシキュラーフェライトの生成核となる。アシキュラーフェライトの析出を促進すれば、溶接金属の組織が微細化され、靭性が向上する。また、溶接金属中のNをTiNとして固定して、固溶Nによる溶接金属の靭性の劣化を防止する。Ti含有量が0.05%未満では、これらの効果が得られない。つまりエレクトロスラグ溶接では、Ti酸化物が溶融メタルからスラグとして排出され易いので、Ti含有量が0.05%未満ではTi酸化物が十分に生成しない。また、Nを十分に固定できない。一方、0.4%を超えると、溶接金属が過剰に硬化して靭性の劣下を招く。したがって、Tiは0.05〜0.4%の範囲内とする。
【0028】
B:0.005〜0.020%
Bは、溶接金属の強度を高めるとともに焼入れ性を向上させる作用を有する。また、BはTiと同様に溶接金属中のNをTiNとして固定して、固溶Nによる溶接金属の靭性の劣化を防止する。さらに、粗大なフェライトの生成を抑制して、溶接金属の靭性を一層向上させる作用も有する。エレクトロスラグ溶接にてこれらの効果を得るためには、溶接金属中に酸化物や窒化物として固定されない適正な量のフリーBを確保する必要がある。そのため、B含有量を0.005%以上とする。一方、0.020%を超えると、溶接金属が過剰に硬化して靭性の劣下を招く。したがって、Bは0.005〜0.020%の範囲内とする。
【0029】
N:0.010%以下
Nは、溶接金属に固溶して、溶接金属の靭性を劣化させる元素であるから、可能な限り低減することが好ましい。本発明の金属粉末入りワイヤは、Ti,Bを多量に含有するので、NをTiNやBNとして固定し、溶接金属の靭性の劣化を抑制できる。しかし、N含有量が0.010%を超えると、一部がTiNやBNとして固定されるものの、余剰のNが残留して溶接金属の靭性が劣化する。したがって、Nは0.010%以下とする。
【0030】
O:0.001〜0.015%
Oは、TiやMgと結合して酸化物を形成する元素である。そのTi酸化物,Mg酸化物がアシキュラーフェライトの生成核となり、溶接金属の組織の微細化に寄与する。O含有量が0.001%未満では、酸化物が十分に生成されない。一方、0.015%を超えると、一部がTiやMgの酸化物を形成するものの、余剰のOが残留して溶接金属の焼入れ性を劣化させるので靭性の劣化を招く。したがって、Oは0.001〜0.015%の範囲内とする。
【0031】
Mg:0.001〜0.01%
Mgは、溶接金属中で酸化物を形成する作用を有する元素であり、その酸化物が微細なフェライトの生成核となる。微細なフェライトの析出を促進すれば、溶接金属の組織が微細化され、靭性が向上する。エレクトロスラグ溶接では、Mg酸化物が溶融メタルからスラグとして排出され易いので、Mg含有量が0.001%未満ではMg酸化物が十分に生成しない。一方、0.01%を超えると、Mg酸化物が凝集して粗大化するので、微細なフェライトの生成核が減少する。したがって、Mgは0.001〜0.01%の範囲内とする。
【0032】
本発明の金属粉末入りワイヤでは、上記した組成に加えて、Cr:0.05〜2.5%,V:0.005〜0.5%,Nb:0.005〜0.5%およびREM:0.001〜0.01%の中から選ばれる1種または2種以上を含有することが好ましい。
Cr:0.05〜2.5%
Crは、溶接金属の強度を高めるとともに焼入れ性を向上させる作用を有する。エレクトロスラグ溶接でこれらの効果を得るために、Cr含有量を0.05%以上とする。一方、2.5%を超えると、溶接金属の高温割れが発生し易くなり、しかも上部ベイナイトやマルテンサイトの生成に起因して溶接金属の靭性が劣下する。したがって、Crは0.05〜2.5%の範囲内が好ましい。
【0033】
V:0.005〜0.5%
Vは、溶接金属の強度を高めるとともに焼入れ性を向上させる作用を有する。エレクトロスラグ溶接でこれらの効果を得るために、V含有量を0.005%以上とする。一方、0.5%を超えると、溶接金属が過剰に硬化して靭性の劣化を招く。したがって、Vは0.005〜0.5%の範囲内が好ましい。
【0034】
Nb:0.005〜0.5%
Nbは、溶接金属の強度を高めるとともに焼入れ性を向上させる作用を有する。エレクトロスラグ溶接でこれらの効果を得るために、Nb含有量を0.005%以上とする。一方、0.5%を超えると、溶接金属が過剰に硬化して靭性の劣化を招く。したがって、Nbは0.005〜0.5%の範囲内が好ましい。
【0035】
REM:0.001〜0.01%
希土類元素(以下、REMという)は、硫化物を生成することによってSを固定し、Sに起因する溶接金属の靭性の劣化を防止する作用を有する。REM含有量が0.001%未満では、この効果は得られない。一方、0.01%を超えると、溶接金属が過剰に硬化して靭性の劣化を招く。したがって、REMは0.001〜0.01%の範囲内が好ましい。
【0036】
ここでREMとは、周期表の3族に属する元素の総称である。本発明では、使用するREMを特定の元素に限定しないが、原子番号57〜71の元素が好ましく、とりわけCe,La,Nd等の比較的安価で入手しやすい元素が一層好ましい。
上記した金属粉末入りワイヤの成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
【実施例】
【0037】
非消耗ノズルを用いたエレクトロスラグ溶接で、図1に示すような試験体の開先部を溶接した。この試験体はボックス柱を模したものであり、スキンプレート1,ダイアフラム2,裏当金3を組み合わせて開先部6を形成した。試験体の寸法(mm)は図1に示す通りである。なお、使用したスキンプレート1,ダイアフラム2,裏当金3の成分を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
使用したエレクトロスラグ溶接用金属粉末入りワイヤ(すなわち金属粉末入りワイヤ)の直径は1.6mmであった。溶接条件は、溶接電流:380A,溶接電圧:52V,ワイヤ送給速度:8.5m/分,溶接速度:1.35cm/分,溶接入熱:878kJ/cmとした。
金属粉末入りワイヤの鋼製外皮の成分は表2に示す通りである。また、金属粉末入りワイヤの成分(すなわち鋼製外皮と金属粉末との総合成分)は表3に示す通りである。
【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
溶接を行なう際に、金属粉末入りワイヤの送給状況を観察して、一定の速度で円滑に送給されたものを良好とし、曲がり等に起因して送給速度が変動したものを不良として評価した。その結果を表4に示す。
溶接が終了した後、図2に示すように溶接金属4からJIS規格Z2202の規定に準拠した2mmVノッチ試験片を採取し、JIS規格Z2242の規定に準拠してシャルピー衝撃試験を行なった。試験片のノッチ位置は、スキンプレート1の板厚方向で溶接金属4の幅が最大となる部位の溶接金属中心とした。シャルピー衝撃試験は試験温度0℃で3回ずつ行ない、シャルピー吸収エネルギーを測定した。その平均値を表4に示す。
【0043】
【表4】

【0044】
表4から明らかなように、発明例(すなわちワイヤ記号W1〜W9)は、金属粉末入りワイヤの成分および鋼製外皮の成分が適正であるから、金属粉末入りワイヤの送給性が良好であり、かつ溶接金属の靭性も優れていた。
一方、比較例のうちのワイヤ記号W10〜W12は、鋼製外皮の成分が本発明の範囲を外れるので、金属粉末入りワイヤの送給性が不良であった。また、比較例のうちのW13〜W26は、金属粉末入りワイヤの成分が本発明の範囲を外れるので、溶接金属の靭性が劣化した。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】試験体を模式的に示す平面図である。
【図2】シャルピー衝撃試験片の採取位置を模式的に示す平面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 スキンプレート
2 ダイアフラム
3 裏当金
4 溶接金属
5 シャルピー衝撃試験片
6 開先部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製外皮に金属粉末を充填してなるエレクトロスラグ溶接用金属粉末入りワイヤであって、前記鋼製外皮がその質量に対して質量%でC:0.05%以下、Si:0.2%以下、Mn:0.6%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、前記エレクトロスラグ溶接用金属粉末入りワイヤがその全質量に対して質量%でC:0.002〜0.15%、Si:0.02〜1.4%、Mn:0.5〜3.0%、Cu:2.0%以下、Ni:3.0%以下、Mo:0.05〜1.5%、Al:0.005〜0.05%、Ti:0.05〜0.4%、B:0.005〜0.020%、N:0.010%以下、O:0.001〜0.015%、Mg:0.001〜0.01%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とするエレクトロスラグ溶接用金属粉末入りワイヤ。
【請求項2】
前記エレクトロスラグ溶接用金属粉末入りワイヤが、前記組成に加えて、Cr:0.05〜2.5%、V:0.005〜0.5%、Nb:0.005〜0.5%およびREM:0.001〜0.01%の中から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のエレクトロスラグ溶接用金属粉末入りワイヤ。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−195975(P2009−195975A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43129(P2008−43129)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】