説明

エレベータのドア制御装置

【課題】各階床のドア重量を正確に同定することができ、その同定結果を用いて各種制御変数を適切に調整する。
【解決手段】通常パターン出力部20とは別に同定パターン出力部21を設け、同定用の開閉パターンを出力する。この同定用の開閉パターンは、トルクを安定化させることを目的として設定されている。ドア重量同定部23によって、この同定用の開閉パターンでドアが開閉しているときの加速度とトルクとに基づいて当該階床のドア重量を算出し、各階床毎にドア重量記憶部24に記憶する。制御変数調整部25では、このドア重量記憶部24に記憶された各階床のドア重量に基づいてドアの開閉に関わる制御変数を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータのかごドア(乗りかご側のドア)の開閉動作を制御するためのドア制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、エレベータでは、乗りかごの着床に伴いかごドアが乗場ドアと係合することにより、両ドアが連動して開閉する構成になっている。この場合、駆動源であるモータはかごドア側にあり、乗場ドアはかごドアに係合して動くようになっている。したがって、ドアの制御は、モータを有するかごドア側に対して行われる。
【0003】
ここで、エレベータのドア制御装置では、走行中にかごドアが開かないように、戸閉方向に一定の保持トルクを掛けている。また、戸閉時に乗客や物がドアに挟まれたことを過負荷状態として検出し、戸閉動作を停止する機能(これを過負荷検出機能と呼ぶ)を備えているのが一般的である。
【0004】
ところが、エレベータの乗場ドアは各階床で同じであるとは限らず、サイズや意匠等の違いによって重量が異なることがある。このため、過負荷検出や開閉の運動エネルギーを算出するためには、各階床毎にドア重量を正確に把握しておく必要がある。
【0005】
従来、ドア重量を同定(推測)する方法として、例えば特許文献1がある。この特許文献1には、各階床でドアを開閉する毎に制御データを学習し、その学習結果に基づいて各階のドア重量を同定することが開示されている。
【特許文献1】特開2000−159461号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の方法では、各階床で通常の開閉パターンを用いてドアを開閉したときのデータを収集している。このため、ドア重量が大きい場合には、ドア機構部が振動することがあり、そのときにモータのトルクが不安定になるため、ドア重量の同定結果に誤差が生じることがある。
【0007】
例えば、トルクが定常状態よりもオーバシュートしていると、下記(1)式により、実際の重量よりも重く算出されることになる。
【0008】
M=T/A …(1)
Mはドア重量、Tはトルク、Aは加速度である。
【0009】
本発明は上記のような点に鑑みなされたもので、各階床のドア重量を正確に同定することができ、その同定結果を用いて各種制御変数を適切に調整することのできるエレベータのドア制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のエレベータのドア制御装置は、エレベータのドアを開閉駆動するためのドア駆動用モータと、このドア駆動用モータを目標速度で駆動するための速度指令値を発生する速度指令発生手段と、上記ドア駆動モータの実速度を検出する速度検出手段と、上記速度指令発生手段から出力された速度指令値と上記速度検出手段にて検出されたモータ実速度との偏差に基づいて上記ドア駆動用モータに対するトルク指令値を出力する速度制御手段とを備えたエレベータのドア制御装置において、通常の開閉パターンとは別にドア重量の同定用として設定された開閉パターンを出力する同定パターン出力手段と、この同定パターン出力手段によって出力された同定用の開閉パターンで上記ドアが開閉しているときの加速度とトルクとに基づいて当該階床のドア重量を算出するドア重量同定手段と、このドア重量同定手段によって算出されたドア重量を各階床毎に記憶する記憶手段と、この記憶手段に記憶された各階床のドア重量に基づいて上記ドアの開閉に関わる制御変数を調整する制御変数調整手段とを具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、各階床のドア重量を正確に同定することができ、その同定結果を用いて各種制御変数を適切に調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
まず、本発明のエレベータのかごドア制御装置に用いられるかごドアの構成について説明する。
【0014】
図1はそのかごドアの構成を示す図であり、2枚のドアパネルを有する左右中開きタイプのかごドアの構成が示されている。
【0015】
一対のかごドア(ドアパネル)1a,1bは、ベルト2を介して中央中開で左右方向に開閉自在に支持されている。ベルト2は、一対のプーリ3a,3bに巻き掛けられており、一方のプーリ3bの軸にドア駆動用モータ11が連結されている。かごドア1a,1bは、それぞれベルト2の上側、下側に結合され、ドア駆動用モータ11の回転方向に応じて、戸開方向または戸閉方向に移動する。
【0016】
なお、各階の設置された図示せぬ乗場ドアは、乗りかごが着床したときに、かごドア1a,1bに係合して開閉動作する。この場合、乗り場ドアが単独で自閉できるように、重りや巻き取り式の機構を持つ自閉装置が設置されているのが一般的であり、その自閉装置の機構部戸閉力Twが常に発生している。
【0017】
次に、かごドア1a,1bを開閉駆動するためのドア制御装置の構成について説明する。
【0018】
図2は本発明の第1の実施形態に係るエレベータのドア制御装置の構成を示すブロック図である。なお、図中のD1,D2は減算器である。
【0019】
図2に示すように、このドア制御装置には、エレベータ主制御装置10、ドア駆動用モータ11、パルスエンコーダ(PG)12、電力変換部13、電流制御部14、速度制御部15、電流トルク変換部16、モータ速度演算部17、速度指令出力部18が備えられている。
【0020】
エレベータ主制御装置10は、ドア制御を含むエレベータ全体の制御を行うものであり、ここではドア開閉指令OP/CL、通常開閉指令NOR、同定指令IDT、階床データNを出力する。
【0021】
ドア駆動用モータ11は、図1に示したかごドア1a,1bを開閉動作させるためのモータである。パルスエンコーダ12は、このドア駆動用モータ11の回転軸などに取り付けられており、ドア駆動用モータ11の回転速度に応じてパルス信号を出力する。モータ速度演算部17は、パルスエンコーダ12から出力されるパルス信号に基づいてモータ実速度Vmを求め、速度制御系にフィードバックする。
【0022】
速度指令出力部18は、予め設定された目標速度に従って速度指令値Vrefを出力する。速度制御部15は、モータ速度演算部17から出力されるモータ実速度Vmと速度指令出力部18から出力される速度指令値Vrefとの速度偏差信号に基づいて、ドア駆動用モータ11に対するトルク指令値Trefを出力する。
【0023】
一方、電流トルク変換部16は、ドア駆動用モータ11の実電流をトルク電流に変換することにより、そのトルク電流に基づいてモータ実トルクTmを出力する。電流制御部14は、電流トルク変換部16から出力されるモータ実トルクTmと速度制御部15から出力されるトルク指令Trefとが一致するように、電力変換部13への電圧指令を制御する。これにより、電力変換部13からドア駆動用モータ11に対して所要の電力供給がなされて、かごドア1a,1bが目標速度で戸閉方向または戸開方向に移動することになる。
【0024】
ここで、ドア重量を同定するための機能として、通常パターン出力部20、同定パターン出力部21、ドア重量同定部23、ドア重量記憶部24、制御変数調整部25が備えられている。
【0025】
通常パターン出力部20は、通常のドア開閉用として設定されたパターンPAT1を速度指令出力部18に出力する。同定パターン出力部21は、同定時のドア開閉用として特別に設定されたパターンPAT2を速度指令出力部18に出力する。後述するように、この同定用の開閉パターンPAT2は、トルクを安定化させることを目的として設定されたものであり、通常の開閉パターンPAT1と比較して加速度の期間が長く設定されている(図3参照)。
【0026】
ドア重量同定部23は、同定パターン出力部21から出力される開閉パターンPAT2から得られる加速度Aと、速度制御部15から出力されるトルク指令値Trefあるいは電流トルク変換部16から出力されるモータ実トルクTmに基づいてドア重量Mを算出する。ドア重量記憶部24は、このドア重量同定部23によって算出されたドア重量Mを現在の階床数Nと関連付けて記憶する。
【0027】
なお、階床数Nを示すデータは、図示せぬ乗りかごが各階床で着床した際にエレベータ主制御装置10から出力される。以後、任意の階床数Nに対応したドア重量MをM(N)と表記する。
【0028】
制御変数調整部25は、ドア重量記憶部24に記憶されたドア重量M(N)に基づいて、各階床の開閉パターンPAT(N)を調整して通常パターン出力部20に与える。これにより、通常パターン出力部20では、通常運転に切り替わった際に、この開閉パターンPAT(N)を通常の開閉パターンPAT1として速度指令出力部18に出力する。
【0029】
このような構成において、速度指令出力部18は、ドア開閉の速度パターンを生成し、エレベータ主制御装置10からのドア開閉指令OP/CLに基づいて速度指令値Vrefを出力する。
【0030】
ここで、通常のドア開閉時には、エレベータ主制御装置10からの通常開閉指令NORにより、通常パターン出力部20が出力する通常の開閉パターンPAT1(ジャーク、加減速度、速度、モード切換タイミング)を基に速度パターンを生成する。
【0031】
一方、ドア重量の同定モードが設定されると、エレベータ主制御装置10からのドア同定指令IDTにより、同定パターン出力部21が出力する同定用の開閉パターンPAT2を基に速度パターンを生成する。なお、同定モードは、定期点検や何らかのドア異常が発生した場合などに、保守員の操作によりエレベータ主制御装置10に適宜設定されるものとする。
【0032】
図3は開閉パターンとトルクとの関係を示す図であり、図3(a)は通常の開閉パターンPAT1から作成された速度パターン、同図(b)は同定用の開閉パターンPAT2から作成された速度パターンであり、加速度の期間を通常よりも長く制御するように設定されているのが特徴である。これは、加速期間を長くすることで、トルクを安定させることができるからである。
【0033】
また、同図(c)は同定時のトルク波形を示している。なお、このトルク波形は、トルク指令値Trefでも良いし、モータ実トルクTmであっても良い。
【0034】
ドア重量同定部23は、同定パターンでドアが開閉しているときの加速度AとトルクTaからドア重量Mを算出する。そのときの算出式は、以下のようになる。
【0035】
M=(Ta−Tr)/A …(2)
なお、Trは図3の速度パターンの定常走行エリアで得られるトルクであり、具体的には乗場ドアとかごドアが移動するときの摩擦分と乗場ドアの機構的な戸閉力に相当するトルクである。
【0036】
このようにしてドア重量Mが算出されると、ドア重量記憶部24にはエレベータ主制御装置10から出力される階床データNとドア重量同定部23から出力されるドア重量Mにより階床毎のドア重量M(N)が記憶される。
【0037】
ドア重量の同定が完了すると、エレベータ主制御装置10から通常開閉指令NORが出力され、それに伴い、速度指令出力部18は通常開閉時の速度パターンを出力する状態に切り換わる。その際、制御変数調整部25から各階床のドア重量M(N)を考慮した開閉パターンPAT(N)が通常パターン出力部20に出力され、その開閉パターンPAT(N)に基づいてドアの開閉制御が行われる。
【0038】
このように、同定時に加速期間を長くした特殊な開閉パターンを用いてドア駆動用モータ11のトルクを安定化させ、その状態で各階床のドア重量を算出することにより、トルク振動を要因とした同定誤差を軽減することができ、その結果、正確なドア重量を用いて通常時の開閉パターンを適切に調整することができる。
【0039】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0040】
上記第1の実施形態では、速度制御により同定時のトルクを安定化させる構成としたが、第2の実施形態では、トルク制御により同定時のトルクを安定化させる構成としたものである。
【0041】
図4は本発明の第2の実施形態に係るエレベータのドア制御装置の構成を示すブロック図である。なお、上記第1の実施形態における図2の構成と同じ部分には同一符号を付して、その説明を省略するものとする。図中のD3は切替器である。
【0042】
上記第1の実施形態と異なる点は、同定パターン出力部21に代えて同定パターン出力部26が設けられており、同定用の開閉パターンとして、所定の期間だけトルクを一定に制御するためのパターンを出力することである。
【0043】
この同定パターン出力部26は、同定時にトルク一定制御に切り替えるためのトルク指令Ta2を出力する。このトルク指令Ta2が出力されると、切替器D3を介して速度制御部15の出力が切り離され、トルク一定制御に切り替わる(図5参照)。トルク一定制御では、ドア駆動用モータ11のトルクを一定とするような制御が行われる。
【0044】
このような構成において、速度指令出力部18は、ドア開閉の速度パターンを生成し、エレベータ主制御装置10からのドア開閉指令OP/CLに基づいて速度指令値Vrefを出力する。
【0045】
ここで、通常のドア開閉時には、エレベータ主制御装置10からの通常開閉指令NORにより、通常パターン出力部20が出力する通常の開閉パターンPAT1(ジャーク、加減速度、速度、モード切換タイミング)を基に速度パターンを生成する。
【0046】
一方、ドア重量の同定モードが設定されると、エレベータ主制御装置10からのドア同定指令IDTにより、同定パターン出力部26が出力するトルク指令Ta2により通常の速度制御からトルク一定制御に切り替えられる。なお、同定モードは、定期点検や何らかのドア異常が発生した場合などに、保守員の操作によりエレベータ主制御装置10に適宜設定されるものとする。
【0047】
図5に同定時の様子を示す。図5(a)は速度指令値Vref、同図(b)はモータ実速度Vm、同図(c)はトルク指令値Trefである。ドアの開閉時にトルク指令Ta2の出力によってトルク一定制御に切り替えられ、その間のトルクが一定に制御される。
【0048】
ここで、ドア重量同定部23は、同定時にドア開閉しているときのモータ実速度Vmをモータ速度演算部17から取得し、これを微分して加速度Aを求める。この加速度AとトルクTaを用いて、上記(2)式に従ってドア重量Mを算出する。
【0049】
このようにしてドア重量Mが算出されると、ドア重量記憶部24にはエレベータ主制御装置10から出力される階床データNとドア重量同定部23から出力されるドア重量Mにより階床毎のドア重量M(N)が記憶される。
【0050】
ドア重量の同定が完了すると、エレベータ主制御装置10から通常開閉指令NORが出力され、それに伴い、速度指令出力部18は通常開閉時の速度パターンを出力する状態に切り換わる。その際、制御変数調整部25から各階床のドア重量M(N)を考慮した開閉パターンPAT(N)が通常パターン出力部20に出力され、その開閉パターンPAT(N)に基づいてドアの開閉制御が行われる。
【0051】
このように、同定時にトルク制御によりドア駆動用モータ11のトルクを一定期間安定化させた状態で各階床のドア重量を算出することでも、上記第1の実施形態と同様に、トルク振動を要因とした同定誤差を軽減することができ、その結果、正確なドア重量を用いて通常時の開閉パターンを適切に調整することができる。
【0052】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
【0053】
上記第1または第2の実施形態において、同定用の開閉パターンを用いても、何らかの要因でトルクが振動していることも考えられる。そこで、第3の実施形態では、同定時にトルクの振動を検出することにより、同定パターンや速度制御ゲインを変更して再度同定を行うようにしたものである。
【0054】
図6にその構成を示す。
図6は本発明の第3の実施形態に係るエレベータのドア制御装置の構成を示すブロック図である。なお、ここではドア重量の再同定機能に関わる部分のみを示し、ドア重量同定部23、ドア重量記憶部24、制御変数調整部25などの構成については省略するものとする。
【0055】
第3の実施形態において、ドア制御装置にはドア重量再同定部27が備えられる。上記第1の実施形態の同定パターンを用いる場合には、このドア重量再同定部27にトルク指令Trefまたはモータ実トルクTmが入力される。
【0056】
また、図7は再同定時の信号波形を示す図であり、図7(a)同定用の開閉パターンPAT2から作成された速度パターンであり、通常よりも加速期間が長く設定されている。同図(b)は同定時のトルク波形を示している。なお、このトルク波形は、トルク指令値Trefでも良いしモータ実トルクTmであっても良い。
【0057】
このような構成において、ドア重量再同定部27は、トルク指令Trefまたはモータ実トルクTmと、モータ実速度Vmに基づいて、加速期間におけるトルク平均値Tavと同期間における最大振動幅Tppを算出する。
【0058】
ここで、図7に示すように、トルク振幅Tppが予め設定された基準値を超える場合に、ドア重量再同定部27は同定異常と判断し、エレベータ主制御装置10に対して再開閉要求RETRYを出力する。その際、ドア重量再同定部27は、Tpp/Tavの比率に応じて同定パターンの加速度Aを低くしたパターンPAT2’を生成し、これを同定パターン出力部21に与える。あるいは、現行よりも1段階低い速度制御ゲインPIを速度制御部15に出力することでも良い。これにより、前回よりも速度を下げてドアの開閉が行われることになり、その間のトルク振動を軽減することができる。
【0059】
なお、上記第2の実施形態の同定パターンを用いた場合には、図8のような構成になる。
【0060】
すなわち、図8において、ドア重量再同定部27には、同定パターン出力部26から出力されるトルク指令Ta2あるいは電流トルク変換部16から出力されるモータ実トルクTmと、モータ速度演算部17から出力されるモータ実速度Vmが入力される。ドア重量再同定部27は、モータ実速度Vmを微分して加速度Aを求め、その加速度Aから所定期間における平均値Aavと同期間における加速度振動Appを算出する。
【0061】
ここで、加速度振動Appが基準値を超える場合には、ドア重量再同定部27は同定常と判断し、エレベータ主制御装置10に対して再開閉要求を出力する。その際に、ドア重量再同定部27は、App/Aaの比率分に応じて、同定パターン加速度を低くしたトルク指令値Ta2’を算出し、同定パターン出力部26に出力する。
【0062】
このように、同定時のトルク振動が大きい場合に、同定パターンや速度制御ゲインを変更して再度同定を行うことで、よりその結果、正確なドア重量を用いて通常時の開閉パターンを適切に調整することができる。
【0063】
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。
【0064】
第4の実施形態では、上記第1または第2の実施形態で同定したドア重量が実際の実ドア重量と相違していないかをチェックして補正するものである。
【0065】
図9にその構成を示す。
図9は本発明の第4の実施形態に係るエレベータのドア制御装置の構成を示すブロック図である。なお、ここではドア重量の補正機能に関わる部分のみを示し、他の構成については省略するものとする。
【0066】
第4の実施形態では、ドア重量補正部28が備えられている。このドア重量補正部28は、ドア重量同定部23によって同定されたドア重量Mと、エレベータ主制御装置10から出力される実ドア重量Mrefを入力する。実ドア重量Mrefとは、予めドア構造部の大きさや材質等から算出した実際のドア重量のことである。
【0067】
以下に、第4の実施形態の動作を説明する。
ドア駆動用モータ11の電流やトルク特性、電流制御部14、電流トルク変換部16には、それぞれゲイン誤差が含まれる。このため、速度制御部15から出力されるトルク指令Trefに対して実際のモータトルクがずれている可能性がある。このような場合、ドア重量同定部23において、トルクにより同定されたドア重量が実ドア重量に対して誤差を持つことになる。
【0068】
そこで、図9に示すように、ドア重量補正部28にドア重量同定部23から出力されたドア重量Mとエレベータ主制御装置10に予め設定された実ドア重量Mrefを入力する。ドア重量補正部28は、ドア重量Mと実ドア重量Mrefとを比較して、以下のようにして補正ゲインK(補正係数)を算出してドア重量記憶部24に出力する。
【0069】
K=Mref/M …(3)
これにより、ドア重量記憶部24に記憶されたドア重量Kは、上記(3)式にて算出された補正ゲインKで補正されることになる。制御変数調整部25では、その補正後のドア重量Kを用いて制御変数の調整を行う。
【0070】
このように、トルクにより同定されたドア重量と実ドア重量の誤差を補正することで、制御変数の調整精度をさらに上げることができる。
【0071】
なお、各階床毎にドア重量同定部23にて算出されたドア重量Mとそれに対応した実ドア重量Mrefとを比較して補正すると、予め全階床数分の実ドア重量Mrefを算出して持っていなければならない。
【0072】
そこで、別の方法として、ある特定の階床のみ実ドア重量Mrefを予め算出しておき、その実ドア重量Mrefと当該階床のドア重量Mとを比較した結果を他の階床に反映させるようにしても良い。
【0073】
すなわち、図10に示すように、各階床のドア重量MがM1,M2,M3,…と同定されたとする。ここで、特定の階床(例えば1階)のドア重量Mと実ドア重量Mrefとを比較した結果、誤差が生じている場合には、上記(3)式により、その補正ゲインK=Mref/Mにて当該階床を含む全ての階床のドア重量Mを補正する。この場合、特定の階床に対する補正ゲインKをK1とすると、補正後の各階床のドア重量Mは、M1*K1,M2*K1,M3*K1,…となる。
【0074】
このように、ある特定の階床の補正結果を他の階床に反映させることで、実ドア重量Mrefを算出する手間と記憶容量を削減して、すべての階床のドア重量を効率良く補正することができる。
【0075】
なお、上記各実施形態では、同定したドア重量を用いて各階床の開閉パターンを調整する場合を想定して説明したが、そのドア重量を用いて過負荷検出の設定値を調整する場合など、ドア開閉動作に関わる他の制御変数を調整する場合にも適用可能である。
【0076】
要するに、本発明は上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の形態を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を省略してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】図1は本発明の第1の実施形態に係るエレベータのかごドア制御装置に用いられるかごドアの構成を示す図である。
【図2】図2は同実施形態におけるエレベータのドア制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】図3は同実施形態における開閉パターンとトルクとの関係を説明するための図である。
【図4】図4は本発明の第2の実施形態に係るエレベータのドア制御装置の構成を示すブロック図である。
【図5】図5は同実施形態におけるトルク一定制御を説明するための図である。
【図6】図6は本発明の第3の実施形態に係るエレベータのドア制御装置の構成を示すブロック図である。
【図7】図7は同実施形態におけるドア重量の再同定機能の動作を説明するための図である。
【図8】図8は同実施形態におけるドア重量の再同定機能を上記第2の実施形態に適用した場合の構成を示すブロック図である。
【図9】図9は本発明の第4の実施形態に係るエレベータのドア制御装置の構成を示すブロック図である。
【図10】図10は同実施形態における各階床の補正前と補正後のドア重量を比較して示す図である。
【符号の説明】
【0078】
1a,1b…かごドア、2…ベルト、3a,3b…プーリ、11…ドア駆動用モータ、12…パルスエンコーダ、13…電力変換部、14…電流制御部、15…速度制御部、16…電流トルク変換部、17…モータ速度演算部、18…速度指令出力部、20…通常パターン出力部、21…同定パターン出力部、23…ドア重量同定部、24…ドア重量記憶部、25…制御変数調整部、26…同定パターン出力部、27…ドア重量再同定部、28…ドア重量補正部、D1,D2…減算器、D3…切替器、Vref…速度指令値、Tref…トルク指令値、Tm…モータ実トルク、Vm…モータ実速度、M…ドア重量。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータのドアを開閉駆動するためのドア駆動用モータと、
このドア駆動用モータを目標速度で駆動するための速度指令値を発生する速度指令発生手段と、
上記ドア駆動モータの実速度を検出する速度検出手段と、
上記速度指令発生手段から出力された速度指令値と上記速度検出手段にて検出されたモータ実速度との偏差に基づいて上記ドア駆動用モータに対するトルク指令値を出力する速度制御手段とを備えたエレベータのドア制御装置において、
ドア重量の同定時に通常の開閉パターンとは別に設定された同定用の開閉パターンを出力する同定パターン出力手段と、
この同定パターン出力手段によって出力された同定用の開閉パターンで上記ドアが開閉しているときの加速度とトルクとに基づいて当該階床のドア重量を算出するドア重量同定手段と、
このドア重量同定手段によって算出されたドア重量を各階床毎に記憶する記憶手段と、
この記憶手段に記憶された各階床のドア重量に基づいて上記ドアの開閉に関わる制御変数を調整する制御変数調整手段と
を具備したことを特徴とするエレベータのドア制御装置。
【請求項2】
上記同定パターン出力手段は、加速度の期間を通常よりも長く制御するための開閉パターンを同定用として出力することを特徴とする請求項1記載のエレベータのドア制御装置。
【請求項3】
上記同定パターン出力手段は、所定の期間だけトルクを一定に制御するための開閉パターンを同定用として出力することを特徴とする請求項1記載のエレベータのドア制御装置。
【請求項4】
上記同定パターン出力手段によって出力された同定用の開閉パターンで上記ドアが開閉しているときのトルクが予め設定された基準値を超えて振動している場合に、開閉パターンまたは速度制御ゲインを変更して上記ドア重量同定手段による同定動作を再度行う再同定手段をさらに具備したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のエレベータのドア制御装置。
【請求項5】
上記ドア重量同定手段によって算出されたドア重量と予め設定された実際のドア重量とを比較して補正係数を算出し、その補正係数に基づいて当該ドア重量を補正するドア重量補正手段をさらに具備したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のエレベータのドア制御装置。
【請求項6】
上記ドア重量補正手段は、特定の階床のドア重量から算出した補正係数を他の階床のドア重量に適用して補正することを特徴とする請求項5記載のエレベータのドア制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−220997(P2009−220997A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70150(P2008−70150)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】