説明

エレベータのドア安全装置

【課題】引き込まれによる異物への負荷を軽減しつつ異物の引き込まれを検出するエレベータのドア安全装置を提供する。
【解決手段】戸袋側縦枠3のうち低速スライドドア6と近接対峙する戸袋入口相当部3aおよび低速スライドドア6のうち高速スライドドア5と近接対峙する戸袋入口相当部6aに気体を封入したゴムチューブ9a,9bをそれぞれ上下方向に沿って配設するとともに、ゴムチューブ9a,9bの内圧を検出する圧力センサ10a,10bをそれぞれ設け、戸開動作中にゴムチューブ9aまたはゴムチューブ9bが異物に押圧され、圧力センサ10aまたは圧力センサ10bの出力が設定値を超えたことを条件に戸開動作を停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエレベータのドア安全装置に関し、特に、戸開動作中にエレベータの出入口を開閉するスライドドアとこのスライドドアと重合関係にあって且つ戸開動作時にスライドドアと相対移動する壁体との間に万が一乗客の衣服や手指等の異物が引き込まれたときに戸開動作を停止または減速させる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータの出入口を開閉するスライドドアはドア駆動装置により駆動されて出入口を開閉するが、戸開動作中に例えば戸袋内に万が一異物が引き込まれたときに、スライドドアを減速または停止させて異物のさらなる引き込まれを防止するために様々なドア安全装置が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1に記載の技術は、出入口を形成するゲート状の出入口枠のうち戸袋側の縦枠とスライドドアの表側壁面との間の隙間を閉止するようにして揺動自在なパネル部材を配置するとともに、そのパネル部材の揺動を検出するマイクロスイッチを設けたものであって、戸開動作時に異物が万が一戸袋内へ引き込まれると、パネル部材が異物に押圧されて揺動したことをマイクロスイッチにより検出し、戸開動作を停止させて異物のさらなる引き込まれを防止する。
【0004】
また、スライドドアへの異物の接触を検出する技術として、可撓性の圧電センサを上下方向に沿って配設し、圧電センサの出力信号に基づいてスライドドアへの異物の接触を検出するようにした技術が特許文献2に記載されている。
【特許文献1】特開平9−77440号公報
【特許文献2】特開2004−189431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術では、異物が揺動パネルを戸開方向に押圧すると上記揺動パネルが揺動するようになっているため、異物と揺動パネルとの間に摩擦を生じて異物にかかる負担が大きくなる恐れがあり、好ましくない。
【0006】
また、特許文献2に記載の技術では異物がスライドドアに接触したときに上記圧電センサが変形することで緩衝材として機能するため、その衝撃は緩和されるが、上記圧電センサを異物検出範囲の全域にわたって設置する必要があるため、コスト的に不利となる。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、特に、引き込まれによる異物への負荷をより軽減したエレベータのドア安全装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、ドア駆動装置により駆動されて出入口を左右方向に開閉するスライドドアとそのスライドドアと重合関係にあって且つ戸開動作時にスライドドアと相対移動する壁体との間の隙間に異物が引き込まれた際に、戸開動作を減速または停止させるエレベータのドア安全装置において、上記壁体のうちスライドドアの表側壁面と近接対峙する戸袋入口相当部に流体を封入した可撓性のチューブを上下方向に沿って配設するとともに、上記チューブの内圧を検出する圧力センサを設け、戸開動作中に上記チューブが異物に押圧されて潰れ変形したことによって、上記圧力センサの出力が変動したことをもって、戸開動作を減速または停止させるようにしたことを特徴としている。
【0009】
ここで、上記壁体としては、出入口を構成する縦枠のほか、上記スライドドアを高速スライドドアとする場合に、出入口開閉時に高速スライドドアの変位に連動して高速スライドドアよりも低速で且つ高速スライドドアと同方向に変位する低速スライドドアも含む。
【0010】
より具体的には請求項2に記載のように、上記チューブはその両端が閉塞されていて、戸開動作中に上記チューブが異物に押圧されて潰れ変形したことによって、上記圧力センサの出力が所定の設定値を超えたことを条件に、戸開動作を減速または停止させる。
【0011】
したがって、少なくとも請求項1に記載の発明では、戸開動作中に例えば乗客の手指等の異物が万が一上記隙間に引き込まれた場合には、異物によって上記チューブが押し潰されて変形する。その潰れ変形により上記異物への負荷を軽減するとともに、上記チューブの内圧、すなわち上記流体の圧力が変動することから上記圧力センサの出力が変動して異物の引き込まれが検出されることとなる。
【0012】
より望ましくは、請求項3、4に記載のように、上記壁体の戸袋入口相当部とスライドドアの表側壁面との隙間の幅を狭めるように上記チューブを配置するとともに、上記チューブを出入口のほぼ全高にわたって取り付けると、上記壁体とスライドドアとの間に乗客の手指等の異物が引き込まれるのをより効果的に防止することができる。
【0013】
また、請求項5に記載のように、上記圧力センサが上記チューブの上端部に配置されていることが精密機器である上記圧力センサの破損を防止する上で望ましい。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、異物が万が一戸袋内に引き込まれた際に、上記チューブが潰れ変形して緩衝体として機能するため、引き込まれによる異物への負荷をより軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1〜3は本発明のより具体的な実施の形態としてエレベータのかごに設けられた出入口を示す図であって、図1はその正面図、図2は図1におけるA−A断面図、図3は図1におけるB−B断面図である。
【0016】
図1,2に示すようにエレベータのかごに設けられた出入口1は戸当り側縦枠2および戸袋側縦枠3と各縦枠2,3の上部同士を連結する幕板4とから構成されていて、高速スライドドア5および低速スライドドア6によって開閉される。戸開閉形式はいわゆる二枚片開き式で、図3に示すようにドア制御装置7からの指令に基づいてドア駆動装置8が各スライドドア5,6を駆動し、周知のように各スライドドア5,6が互いに同方向に且つ互いに異なる速度でスライド変位して出入口1を開閉するようになっている。そして、出入口1全開状態にあっては、各スライドドア5,6が戸袋側縦枠3の裏側壁面3b側に形成された戸袋空間内に収納される。すなわち、壁体たる低速スライドドア6は高速スライドドア5と重合関係にあって且つ戸開動作時に高速スライドドア5と相対変位する一方で、壁体たる戸袋側縦枠3は低速スライドドア6と重合関係にあって且つ戸開動作時に低速スライドドア6と相対変位する。その開閉機構上、低速スライドドア6と高速スライドドア5との間および低速スライドドア6と戸袋側縦枠3との間には、各スライドドア5,6の厚さ方向で所定の隙間Gが設けられている。
【0017】
戸袋側縦枠3のうち低速スライドドア6と近接対峙する戸袋入口相当部3aには断面矩形状のゴムチューブ9aが上下方向に沿って配設されている。より詳細には、戸袋側縦枠3の裏側壁面3bのうち戸閉方向側端部にゴムチューブ9aが出入口1のほぼ全高にわたって取り付けられている。そして、ゴムチューブ9aの両端部は閉塞されていて、ゴムチューブ9aの内部に気体が封入されている。
【0018】
また、低速スライドドア6のうち高速スライドドア5と近接対峙する戸袋入口相当部6aにも同様に両端部を閉塞して気体を封入したゴムチューブ9bが上下方向に沿って配設されている。より詳細には、低速スライドドア6の裏側壁面6bのうち戸閉方向側端部にゴムチューブ9bが出入口1のほぼ全高にわたって取り付けられている。
【0019】
さらに、各ゴムチューブ9a,9bはその各スライドドア5,6に対向する面と各スライドドア5,6の表側壁面5c,6cとがなるべく近接するように取り付けられている。すなわち、各ゴムチューブ9a,9bは低速スライドドア6と戸袋側縦枠3との間および低速スライドドア6と高速スライドドア5との間の隙間Gを狭めるようにそれぞれ配置してあって、高速スライドドア5とゴムチューブ9bの間および低速スライドドア6とゴムチューブ9aとの間の隙間Fが隙間Gよりも小さくなっている。
【0020】
なお、低速スライドドア6の戸袋入口相当部6aおよび戸袋側縦枠3の戸袋入口相当部3aをゴムチューブ9a,9bにて形成することも可能である。例えば、低速スライドドア6の戸袋入口相当部6aおよび戸袋側縦枠3の戸袋入口相当部3aに上下方向に沿った溝を形成し、その溝にゴムチューブ9a,9bを設置するようにしてもよい。
【0021】
各ゴムチューブ9a,9bの上端部には各ゴムチューブ9a,9bの内圧、すなわち各ゴムチューブ9a,9bに封入された気体の圧力を検出する圧力センサ10a,10bがそれぞれ取り付けられていて(図2参照)、各圧力センサ10a,10bの感圧部がそれぞれ各ゴムチューブ9a,9bの内部に臨んでいる。各圧力センサ10a,10bは各ゴムチューブ9a,9bの内圧に応じた検出出力をかご上部に設けられたドア制御装置7の比較判定部7aにそれぞれ出力する。
【0022】
以上のように構成したエレベータのドア安全装置では、万が一、低速スライドドア6と戸袋側縦枠3との隙間Gに例えば乗客の手指等の異物が引き込まれる恐れが生じた場合には、その引き込まれの直前に異物がゴムチューブ9aに当接もしくは圧接することになる。この段階で違和感を感じた乗客が直ちに異物をゴムチューブ9aから引き離すことができれば、戸開時の引き込まれは未然に防止できる。
【0023】
ゴムチューブ9aに対する異物の当接もしくは圧接の度合いがさらに大きくなると、ゴムチューブ9a自体が潰れ変形することで緩衝材として機能して異物への負荷を軽減するとともに、ゴムチューブ9aの内圧が高まって比較判定部7aに取り込まれる圧力センサ10aの検出出力が大きくなる。比較判定部7aは予め定められた設定値と圧力センサ10aの検出出力とを比較し、圧力センサ10aの検出出力が設定値を超えた場合に異物検出信号をドア制御装置7のドア制御部7bに出力する。ドア制御部7bは後述するように異物検出信号の有無に応じてドア駆動装置8を作動させて戸開動作を停止または減速させることとなる。なお、高速スライドドア5と低速スライドドア6との隙間Gに異物が引き込まれた場合にも同様であって、比較判定部7aは各圧力センサ10a,10bのうちいずれかの検出出力が設定値を超えた場合に異物検出信号を出力するようになっている。
【0024】
図4は戸開動作時におけるドア制御部7bの制御内容を示すフローチャートである。
【0025】
以下、ドア制御部7bの制御内容の一例について説明する。かごが目的階に到着すると、各スライドドア5,6がドア駆動装置8に駆動されて通常の戸開速度で戸開動作を開始する(ステップS1)。戸開動作中は各ゴムチューブ9a,9bおよび各圧力センサ10a,10bにより常時異物の存在を監視していて(ステップS2〜S4)、異物が万が一戸袋内に引き込まれた場合には、ゴムチューブ9a,9bが異物によって押圧されて潰れ変形することで圧力センサ10a,10bの検出出力が大きくなり、その検出出力が上記設定値を超えると比較判定部7aがドア制御部7bに異物検出信号を出力する。ドア制御部7bは戸開動作中に異物検出信号を取り込むと戸開動作を停止する(ステップS5)。または、戸開速度を減速し、乗客が異物をゴムチューブ9a,9bから引き離すための時間を確保することでも対応できる。
【0026】
その後、ゴムチューブ9a,9bに異物が当接していないこと、すなわちドア制御部7bに対する異物検出信号の出力がないことを確認した上で(ステップS6〜S7)、通常の戸開速度よりも低速で戸開動作して出入口1を全開する(ステップS8〜S11)。なお、低速戸開動作中に再び異物が検出された場合には、ステップS5に戻ることとなる。
【0027】
また、戸開動作中以外の状態でドア制御部7bに異物検出信号が取り込まれた場合にアナウンス等で乗客に対して注意を促がす等の応用も考えられる。
【0028】
したがって、上記のように構成したエレベータのドア安全装置によれば、戸袋内に異物が引き込まれた際に、ゴムチューブ9a,9bが潰れ変形することで緩衝材として機能するため、引き込まれによる異物への負荷を軽減することができる。
【0029】
その上、低速スライドドア6と戸袋側縦枠3との間および低速スライドドア6と高速スライドドア5との間の隙間Gの開口幅がゴムチューブ9a,9bにより狭められ、低速スライドドア6とゴムチューブ9aとの間および高速スライドドア5とゴムチューブ9bとの間の隙間Fは、低速スライドドア6と戸袋側縦枠3との間および低速スライドドア6と高速スライドドア5との間の隙間Gよりも小さく、より効果的に引き込まれの防止を図れる利点がある。
【0030】
さらに、精密機器である各圧力センサ10a,10bを各ゴムチューブ9a,9bの上部にそれぞれ配置することで、台車や乗客の衝突による各圧力センサ10a,10bの破損を防止することができる上に、一般的にドア制御装置7はかごの上部に配置されているため各圧力センサ10a,10bの配線を短くすることができる利点がある。
【0031】
なお、本実施の形態では各ゴムチューブ9a,9bおよび各圧力センサ10a,10bをかご側の出入口1に設けたが、各ゴムチューブ9a,9bおよび各圧力センサ10a,10bを乗場側の出入口に設けることも勿論可能である。また、本発明は戸開閉形式を問わずに適用可能であることは言うまでもない。
【0032】
さらに、本実施の形態では各ゴムチューブ9a,9bに気体を封入するものとしたが、各ゴムチューブ9a,9bに液体を封入することも可能である。その場合には、例えばシリコンオイル等の耐老化性に優れた液体を用いることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の好適な実施の形態を示す図であって、エレベータのかごに設けられた出入口を示す図。
【図2】図1における出入口のA−A断面図。
【図3】図2における出入口のB−B断面図。
【図4】戸開動作時におけるドア制御部の制御内容を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0034】
1…出入口
3…戸袋側縦枠(壁体)
3a…戸袋入口相当部
5…高速スライドドア
6…低速スライドドア(壁体)
6a…戸袋入口相当部
9a…ゴムチューブ
9b…ゴムチューブ
10a…圧力センサ
10b…圧力センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドア駆動装置により駆動されて出入口を左右方向に開閉するスライドドアとそのスライドドアと重合関係にあって且つ戸開動作時にスライドドアと相対移動する壁体との間の隙間に異物が引き込まれた際に、戸開動作を減速または停止させるエレベータのドア安全装置において、
上記壁体のうちスライドドアの表側壁面と近接対峙する戸袋入口相当部に流体を封入した可撓性のチューブを上下方向に沿って配設するとともに、上記チューブの内圧を検出する圧力センサを設け、
戸開動作中に上記チューブが異物に押圧されて潰れ変形したことによって、上記圧力センサの出力が変動したことをもって、戸開動作を減速または停止させるようにしたことを特徴とするエレベータのドア安全装置。
【請求項2】
上記チューブはその両端が閉塞されていて、戸開動作中に上記チューブが異物に押圧されて潰れ変形したことによって、上記圧力センサの出力が所定の設定値を超えたことを条件に、戸開動作を減速または停止させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載のエレベータのドア安全装置。
【請求項3】
上記壁体の戸袋入口相当部とスライドドアの表側壁面との隙間の幅を狭めるように上記チューブを配置したことを特徴とする請求項1または2に記載のエレベータのドア安全装置。
【請求項4】
上記チューブが出入口のほぼ全高にわたって取り付けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のエレベータのドア安全装置。
【請求項5】
上記圧力センサが上記チューブの上端部に配置されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のエレベータのドア安全装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−326664(P2007−326664A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−158082(P2006−158082)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【出願人】(591020353)オーチス エレベータ カンパニー (402)
【氏名又は名称原語表記】OTIS ELEVATOR COMPANY
【Fターム(参考)】