説明

エレベータのドア装置とその制御装置

【課題】各ドアの重量が異なる場合でも、各ドアの開閉動作において高い速度追従性能と振動抑制性能を得ることを目的とする。
【解決手段】
モータの回転軸に負荷を与えるドアのドア重量または前記ドア重量に基づくイナーシャとして設定されるドア情報を記憶するドア情報記憶手段と、前記ドア情報と前記ドアの実際のドア重量または前記実際のドア重量に基づくイナーシャである真値との差を小さくするように、前記ドア情報を補正するドア情報補正手段と、前記ドア情報補正手段が補正した前記ドア情報に基づき、前記速度指令値と前記実速度との差を小さくするように前記モータに対するトルク指令を出力する速度制御手段と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エレベータのドア装置とその制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
同一ビル内の各階床に設置された乗場ドアは、施された意匠の違いなどに起因して、その重量が均一でない場合がある。この場合、各階床に対応するドアをそれぞれ同一の速度指令により開閉しようとしても、比較的重いドアの開閉速度が速度指令値に対して追従しきれず、ドアの開閉による振動や騒音が発生するという問題がある。
【0003】
上記のような問題を解決すべく、特許文献1には、予め記憶した各階床に対応する乗場ドアの重量に基づき、各階床に対応する制御要素を決定し、決定した制御定数に基づき各階床に対応するドアの開閉を制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4-243791号公報(たとえば図1、段落0007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、予め記憶した各階床に対応する乗場ドアの重量と実際の各階床に対応する乗場ドアの重量との間に誤差がある場合、ドアの速度指令値に対する開閉速度の速度追従性能を向上することができないという問題がある。
【0006】
この発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、各ドアの重量が異なる場合でも、各ドアの開閉動作において高い速度追従性と振動抑制性能を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明におけるエレベータのドア制御装置は、エレベータのドアまたは前記ドアを駆動するモータの回転軸の速度指令値を出力する速度指令値出力手段と、前記モータの回転角度に基づき前記ドアまたは前記モータの回転軸の実速度を出力する実速度出力手段と、前記モータの回転軸に負荷を与える前記ドアのドア重量または前記ドア重量に基づくイナーシャとして設定されるドア情報を記憶するドア情報記憶手段と、前記ドア情報と前記ドアの実際のドア重量または前記実際のドア重量に基づくイナーシャである真値との差を小さくするように、前記ドア情報を補正するドア情報補正手段と、前記ドア情報補正手段が補正した前記ドア情報に基づき、前記速度指令値と前記実速度との差を小さくするように前記モータに対するトルク指令を出力する速度制御手段と、前記トルク指令に基づき前記モータを駆動するモータ駆動手段と、を備えた。
【0008】
また、本発明におけるエレベータのドア装置は、エレベータのドアと、前記ドアを駆動するモータと、前記モータの回転角度に基づき前記モータを駆動する上記のドア制御装置と、を備えた
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、ドアまたはモータ回転軸の速度指令値に対する実速度の速度追従性能と外乱によるドアの振動の抑制性能とを向上することができる。よって、ドアの開閉による振動や騒音の発生を抑制することができ、快適なエレベータのドア装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施の形態1におけるエレベータのドア装置を示す図である。
【図2】実施の形態1におけるドア制御装置10を示すブロック図である。
【図3】実施の形態1における実速度Vと速度指令値V*とを示すグラフである。
【図4】実施の形態1における補正部14の処理を示すフローチャートである。
【図5】実施の形態1におけるエレベータのドア装置の効果を示すグラフである。
【図6】実施の形態2におけるドア制御装置10を示すブロック図である。
【図7】実施の形態2における加速度指令値A*と加速度指令値A*とを示すグラフである。
【図8】実施の形態2におけるエレベータのドア装置の効果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0011】
9 モータ
10 ドア制御装置
11 階床データ記憶部
12 速度制御部
13 速度指令値生成部
14 補正部
15 速度演算部
16 電流制御部
17 PWMインバータ
30 かごドア
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
まず、図1と図2を参照して、本発明の実施の形態1におけるエレベータのドア装置の構成を説明する。図1は、実施の形態1におけるエレベータのドア装置を示す図である。図示しないかご出入口の上縁部には、水平方向に桁3が設けられている。桁3には、案内レール4が水平方向に設けられている。かご出入口を開閉する一対のかごドア30は、一対のドアパネル1a、1bと、一対のドアパネル1a、1bの上端に設けられた一対の吊り手2a、2bとを有している。一対の吊り手2a、2bには、レール4に案内されて転動される複数のローラ5が設けられている。
【0013】
桁3には、駆動巻掛車6aと従動巻掛車6bとが一対のかごドア30の開閉方向に互いに間隔をおいて設けられている。駆動巻掛車6aと従動巻掛車6bとには、無端状をなす伝動条体7が巻き掛けられて張設されている。ドア制御装置10は、かごが各階床に停止する毎に、モータ9を駆動するための電流を制御することにより、後述する速度指令値V*に則った一対のかごドア30の開閉を行う。駆動巻掛車6aは、モータ9が駆動することにより回転される。駆動巻掛車6aが回転すると、伝動条体7が循環動作し、従動巻掛車6bが回転される。
【0014】
一対の吊り手2a、2bは、伝動条体7の循環動作により一対のかごドア30が互いに逆方向へ移動するように、一対の連結具8a、8bを介して伝動条体7の上側部分と下側部分に連結されている。なお、かごドア30は、かごが各階床に停止する毎に、図示しない乗場出入口を開閉する図示しない乗場ドアを把持し、その後、乗場ドアと一体的に開閉動作する。
【0015】
図2は、図1のドア制御装置10を示すブロック図である。以降、図2に示す各ブロックの機能について説明する。エンコーダなどのセンサ18は、モータ9の回転軸の回転角度θを検出し、所定時間毎にこの回転角度θを出力する。
【0016】
速度演算部15は、センサ18が出力する回転角度θに基づき、かごドア30の開閉方向の速度である実速度Vを算出し、所定時間毎にこの実速度Vを出力する。
【0017】
速度指令値生成部13は、速度演算部15が出力する実速度Vに基づき、かごドア30が開閉動作を開始してから経過した時間(以降、「開閉動作時間」と呼ぶ。)を算出するとともに、算出した開閉動作時間に基づき、速度指令値V*を出力する。この速度指令値V*は、所定時間毎のかごドア30の開閉方向の速度を指令するものであり、予め設定される値である。このように、速度指令値V*を時間に依存させることにより、かごドア30の開閉動作にかかる時間が無駄に長引くことを抑制することができる。
【0018】
階床データ記憶部11は、各階床に対応するイナーシャJを記憶するとともに、後述する補正部14が出力する各階床に対応する補正係数nに基づき、各階床に対応する補正イナーシャJ=J×nを算出し、これを記憶する。ここで、ある階床に対応するイナーシャJとは、その階床においてモータ9の回転軸に負荷を与えるドア重量を、モータ回転軸換算により変換した値であり、予め設定される値、または図示しないドア重量を推定する手段などにより出力される値である。ここで、ある階床におけるドア重量とは、かごドア30の重量、その階床に設けられた乗り場ドアの重量、およびかごドア30に取り付けられたドア機器の重量の総和である。ドア機器の例としては、図示しない各種センサと、図示しない減速機、駆動巻掛車6a、および従動巻掛車6bなどの回転系機器とがある。
【0019】
そして、記憶されたモータ回転軸のイナーシャ、もしくはドア重量は、後述の速度制御部12に出力される。また、記憶されたイナーシャもしくはドア重量は、速度指令値生成部13に出力してもよい。後述の補正部14において補正係数nに変更が生じることは、ドア重量の推定値が変更されることを意味する。このとき、エレベータのドア駆動では、障害物や乗客にドアパネルが接触した時の衝撃を規定値以下にするための戸閉エネルギーを制限する必要がある。(例えば、米国法規ASME-A17/2.13.4.2、欧州法規EN81.1/7.5.21において戸閉エネルギーの制限が規定されている。)そこで、階床データ記憶部11において補正されたドア重量推定値を速度指令値生成部13に出力することで、速度指令値の大きさやタイミングを変更してもよい。
【0020】
補正部14は、速度演算部15が出力する実速度Vと速度指令値生成部13が出力する速度指令値V*とに基づき、速度指令値V*に対する実速度Vの速度追従性能を向上すべく、各階床に対応する補正係数nを出力する。ある階床に対応する補正係数nは、その階床に対応するイナーシャJとその階床に対応する実際のドア重量を仮にモータ回転軸換算により変換した値(以降、「真値J」と呼ぶ)との間に誤差がある場合に、イナーシャJより真値Jに近い補正イナーシャJを得るために用いられる。以降、図3と図4を参照して、補正部14の処理を説明する。
【0021】
図3は、横軸を時間とし、縦軸を速度とした場合において、実施の形態1におけるかごドア30の開動作における実速度Vと速度指令値V*とを示すグラフである。実速度Vは実線にて、速度指令値V*は点線にて示している。横軸において、tは速度指令値V*におけるかごドア30の開動作の全閉時点であり、tは速度指令値V*におけるかごドア30の開動作の全開時点である。縦軸において、かごドア30が開く方向の速度を正方向とする。また、Vmaxは速度指令値V*の最大値である。
【0022】
図4は、実施の形態1における補正部14の処理を示すフローチャートである。なお、図4に示す処理は、各階床毎に独立して行われる。まず、補正部14は、速度指令値V*の最大値Vmaxを閾値rと決定し、実速度Vの最大値を指標rと決定する(ステップS100)。つぎに、補正部14は、閾値rと指標rを比較し、閾値rと指標rの差が所定値以内であるか否かを判断する(ステップS101)。S101にて、閾値rと指標rの差が所定値以内である場合は、速度指令値V*に対する実速度Vの速度追従性能が良好であると判断し、つぎに、補正部14は、S102へ進む。ここで、S101における「所定値」は、所望の速度追従性能に応じて決定する。
【0023】
S102にて、補正部14は、速度指令値V*に対する実速度Vの速度追従性能を最良にするのに最適な補正係数nを決定する(ステップS102)。ここで、S101にて、閾値rと指標rの差が所定値以内である場合は、S102にて、補正部14は、かかる最適な補正係数nとして、初期値である1を決定する。これは、すなわちイナーシャJが十分真値Jに近いために、補正イナーシャJをイナーシャJと等しくすることを意味する。つぎに、補正部14は、S102にて決定した補正係数nを出力し(ステップS103)、その後、処理を終了する。
【0024】
一方、S101にて、閾値rと指標rの差が所定値を超える場合は、速度指令値V*に対する実速度Vの速度追従性能が良好でないと判断し、つぎに、補正部14は、指標rが閾値rより大きいか否かを判断する(ステップS104)。ここで、(モータ9のトルク)≒(ドア重量をモータ9の回転軸換算などにより変換したイナーシャ)×(速度指令値V*から微分により換算した加速度)という関係が成り立つ。この関係式において、速度指令値V*から換算した加速度を定数として考えると、指標rが閾値rより大きい場合とは、イナーシャJを真値Jより小さく設定していたために、モータ9のトルクが速度指令値V*から換算した加速度を得るために必要な大きさよりも小さく設定された場合に等しい。よって、S104にて、指標rが閾値rより大きい場合、つぎに、補正部14は、イナーシャJより真値Jに近い補正イナーシャJを得るために、補正係数nを初期値である1より所定値だけ大きくした値に設定し、この補正係数nを出力する(ステップS105)。
【0025】
つぎに、補正部14は、再びかごドア30の開動作が行われると、速度指令値V*の最大値Vmaxを閾値rと決定し、実速度Vの最大値を指標rと決定する(ステップS106)。つぎに、補正部14は、指標rが閾値r以下か否かを判断する(ステップS107)。S107にて、指標rが閾値rより大きい場合、補正部14は、S105に戻る。一方、S107にて、指標rが閾値r以下である場合、つぎに、補正部14は、S102へ進む。この場合、S102では、初めて指標rが閾値r以下となった今回のかごドア30の開動作において、S105にて出力した補正係数nを最適なものと決定する。なお、この代わりに、初めて指標rが閾値r以下となる直前回のかごドア30の開動作において、S105にて出力した補正係数nを最適なものと決定してもよい。
【0026】
一方、S104にて、指標rが閾値rより小さい場合とは、上記と同様に考えると、イナーシャJを真値Jより大きく設定していたために、モータ9のトルクが速度指令値V*から換算した加速度を得るために必要な大きさよりも大きく設定された場合に等しい。よって、S104にて、指標rが閾値rより小さい場合、つぎに、補正部14は、イナーシャJより真値Jに近い補正イナーシャJを得るために、補正係数nを初期値である1より所定値だけ小さくした値に設定し、この補正係数nを出力する(ステップS108)。
【0027】
つぎに、補正部14は、再びかごドア30の開動作が行われると、速度指令値V*の最大値Vmaxを閾値rと決定し、実速度Vの最大値を指標rと決定する(ステップS109)。つぎに、補正部14は、指標rが閾値r以上か否かを判断する(ステップS110)。S110にて、指標rが閾値rより小さい場合、補正部14は、S108に戻る。一方、S110にて、指標rが閾値r以上である場合、つぎに、補正部14は、S102へ進む。この場合、S102では、初めて指標rが閾値r以上となった今回のかごドア30の開動作において、S108にて出力した補正係数nを最適なものと決定する。なお、この代わりに、初めて指標rが閾値r以上となる直前回のかごドア30の開動作において、S105にて出力した補正係数nを最適なものと決定してもよい。
【0028】
以上、図3と図4を参照して、かごドア30の開動作における補正部14の処理を説明したが、かごドア30の閉動作における補正部14の処理も同様に行う。ただし、かごドア30の閉動作では、S100、S106、およびS109において、速度指令値V*の最小値の絶対値を閾値rと決定し、実速度Vの最小値の絶対値を指標rと決定するものとする。
【0029】
なお、S105における「所定値」は、その値が小さいほど、速度指令値V*に対する実速度Vの速度追従性能を向上することができる一方で、S102にて最適な補正係数nを決定するまでに行われるかごドア30の開閉動作の回数が増大する。よって、この所定値は、所望の速度追従性能と許容されるかごドア30の開閉動作回数とによって決定する。
【0030】
このように、補正部14は、かごドア30の開閉動作における速度指令値V*と実速度Vの最高速度を速度追従性能の判断基準とするため、容易に判断を行うことができる。また、エレベータを据え付けた後の動作確認の際や保守点検の際に、一旦最適な補正係数nを決定すれば、その後のかごドア30の開閉動作において補正係数nを変更する必要は無いため、かごドア30の開閉動作性能を一定に保つことができる。
【0031】
速度制御部12は、速度指令値生成部13が出力する速度指令値V*、速度演算部15が出力する実速度V、および階床データ記憶部11が記憶する補正イナーシャJに基づき、電流指令値I*を算出し、所定時間毎にこの電流指令値Iを出力する。実際のドア装置には、レール4にゴミが詰まることによる走行抵抗、かごドア30の変形による摩擦ロス、またはかごドア30とドア機器または乗客との接触などの外乱が生じる場合がある。そして、このような外乱は、速度指令値V*と実速度Vとの間の誤差の要因となる。速度制御部12は、実速度Vが速度指令値V*に追従するよう、モータ9の駆動を制御するものである。
【0032】
速度制御部12は、図2の一点鎖線にて示すように、フィードフォワード(Feed−Forward:FF)制御部20とフィードバック(Feed−Back:FB)制御部21とを有する。FF制御部20は、速度指令値V*に対して実速度Vを追従させるために、速度追従性能を設定する手段である。一方、FB制御部21は、外乱によるかごドア30の振動を抑制するために、モータ9の回転軸の指令回転速度と実際の回転速度との間の回転誤差の補正性能、すなわちかごドア30の振動抑制性能を設定する手段である。FF制御部20は、図2の点線にて示すように、第1のFF制御器20aと第2のFF制御器20bとを有する。
【0033】
第1のFF制御器20aは、速度指令値V*を入力とするとともに、伝達関数C(s)=ω/(s+ω)で示される。ωは、目標値に対する出力の応答特性を指定する周波数である。第2のFF制御器20bは、速度指令値V*を入力とするとともに、伝達関数P(s)−1×C(s)で示される。ここで、P(s)は、各階床に対応するドア機器の制御用モデルであり、階床データ記憶部11が記憶する各階床に対応する補正イナーシャJを用いて、P(s)=1/Jsで示される。
【0034】
FB制御部21は、第1のFF制御器20aの出力と実速度Vとの偏差を入力とし、伝達関数C(s)=Ksp+Ksi/sで示される。Kspは比例ゲインであり、Ksp=J×ω/Kで示される。Jは階床データ記憶部11が記憶する補正イナーシャ、ωは目標値に対する出力の回転誤差の補正性能を指定する制御交差周波数、Kはモータ9のトルク特性である。一方、Ksiは積分ゲインであり、Ksi≦Ksp×ω/5を満たすように設定される。
【0035】
速度制御部12が出力する電流指令値I*は、第2のFF制御器の出力とFB制御部21の出力との総和である。
【0036】
このように、速度制御部13は、FF制御器20とFB制御部21とを有することにより、FF制御器20にて行う速度追従性能の設定と、FB制御部21にて行う振動抑制性能とを、独立して行うことができる。
【0037】
また、第2のFF制御器20bとFB制御部21にて、イナーシャJより真値Jに近い補正イナーシャJを用いることにより、第2のFF制御器20bにて設定される速度追従性能とFB制御部21にて設定される振動抑制性能とを向上することができる。これにより、かごドア30の開閉による振動や騒音の発生を抑制することができる。
【0038】
なお、制御対象P(s)とドア機器の制御用モデルP(s)とが一致するとき、目標の応答特性C(s)=P(s)×P(s)-1×C(s)を指定することになる。これは、ドア開閉の加速・最高速・減速といった区間の全てにおいて実速度Vが速度指令値V*に常に追従することを意味する。C(s)=1であるとき、速度指令値V*と実速度Vは等しいことを意味する。
【0039】
電流制御部16は、速度制御部12が出力する電流指令値I*と、電流検出器19から帰還される検出電流値Iとに基づいて、モータ9に供給される電流値を制御する。電流制御部16の出力は、PWMインバータ17を介してモータ9に入力され、かごドア30の開閉動作の駆動力を発生させる。
【0040】
図5は、実施の形態1におけるエレベータのドア装置の効果を示すグラフである。図3と同様、横軸を時間、縦軸を速度とし、実速度Vは実線にて、速度指令値V*は点線にて示している。横軸において、tは速度指令値V*におけるかごドア30の開動作の全閉時点であり、tは速度指令値V*におけるかごドア30の開動作の全開時点である。縦軸において、Vmaxは速度指令値V*の最大値である。イナーシャ値を補正する前における図3と比べると、イナーシャ値を補正した後における図5では、速度指令値V*に対する実速度Vの速度追従性能が大きく向上されていることがわかる。
【0041】
なお、速度演算部15が出力する実速度Vは、かごドア30の開閉方向の速度の代わりに、モータ9の回転軸の回転速度でもよい。また、センサ18が出力する回転角度θを用いる代わりに、モータ9を駆動するための電流の検出値を用いて、モータ9の回転速度を推定するようにしてもよい。
【0042】
また、図4に示す補正部14の処理において、乗客がかごに乗り降りする際にドアパネル1a、1bと接触する可能性が高いようなかごドア30の開閉動作では、安定的に指標rが得られない可能性が高い。よって、この場合は、S105およびS108において、各回の開閉動作毎に補正係数nを変更するのではなく、複数回の開閉動作毎に補正係数nを変更することにより、S102にて高い精度にて最適な補正係数nを決定することができる。
【0043】
なお、速度制御部12は、FF制御部20を有さずにFB制御部21のみを有してもよい。この場合、FB制御部21は、速度指令値V*と実速度との偏差を入力とする。また、速度制御部12が出力する電流指令値I*は、FB制御部21の出力となる。
【0044】
なお、実施の形態1では、イナーシャ値を補正したが、代わりに、ドア重量を補正するようにしてもよい。
【0045】
実施の形態1によれば、速度制御部にて用いるイナーシャ値を、各階床における実際のドア重量をモータ回転軸換算などにより変換した値である真値に、ほぼ一致させることができる。これにより、かごドアまたはモータ回転軸の速度指令値に対する実速度の速度追従性能と外乱によるかごドアの振動の抑制性能とを向上することができる。よって、かごドア30の開閉による振動や騒音の発生を抑制することができ、快適なエレベータのドア装置を提供することができる。
【0046】
実施の形態2.
図6〜図8を参照して、本発明の実施の形態2におけるエレベータのドア装置について説明する。なお、実施の形態2におけるエレベータのドア装置の構成は、ドア制御装置10以外の構成について、図1に示すものと同様である。以降、実施の形態1と異なる部分を中心に説明する。
【0047】
図6は、実施の形態2におけるドア制御装置を示すブロック図である。速度指令値生成部13は、速度演算部15が出力する実速度Vに基づき、速度指令値V*を出力する。
【0048】
以降、速度指令値生成部13の処理を説明する。まず、速度指令値生成部13は、所定時間毎の速度指令値V*を、後述する補正部14に出力する。ここで、所定時間毎の速度指令値V*は、所定時間毎のかごドア30の開閉方向の速度を指令するものであり、予め設定される値である。
【0049】
つぎに、速度指令値生成部13は、所定時間毎の速度指令値V*に基づき、積分により所定位置毎の速度指令値V*を算出する。ここで、所定位置毎の速度指令値V*は、所定位置毎のかごドア30の開閉方向の速度を指令するものである。
【0050】
つぎに、速度指令値生成部13は、速度指令値V*におけるかごドア30の開動作の全閉時点tから最大値Vmaxを出力する時点tmaxまでの間(以降、「加速区間」と呼ぶ)、速度演算部15が出力する実速度Vに基づき、開閉動作時間を積分により算出するとともに、算出した開閉動作時間に基づき、速度指令値V*として速度指令値V*を出力する。このように、速度指令値V*を時間に依存させることにより、加速区間にかかる時間が無駄に長引くことを抑制することができる。
【0051】
つぎに、速度指令値生成部13は、最大値Vmaxを出力する時点tmaxから速度指令値V*におけるかごドア30の開動作の全開時点tまでの間(以降、「減速区間」と呼ぶ)、速度演算部15が出力する実速度Vに基づき、かごドア30の位置を積分により算出するとともに、算出したかごドア30の位置に基づき、速度指令値V*として速度指令値V*を出力する。このように、速度指令値V*を位置に依存させることにより、減速区間において実速度Vが速度指令値V*より大きくなることを抑制することができる。これにより、かごドア30の開動作による振動や騒音を抑制することができる。
【0052】
補正部14は、実施の形態1の図4に示す処理と同様の処理を行う。ただし、S100、S106、S109において、補正部14は、速度指令値生成部13が出力する所定時間毎の速度指令値V*に基づき、所定時間毎の加速度指令値A*を微分により算出するとともに、算出した加速度指令値A*の減速区間における最小値Aminの絶対値を指標rと決定する。また、補正部14は、速度指令値生成部13が減速区間にて出力する所定位置毎の速度指令値V*に基づき、所定位置毎の加速度指令値A*を微分により算出するとともに、算出した加速度指令値A*の減速区間における最小値の絶対値を指標rと決定する。
【0053】
図7は、横軸を時間とし、縦軸を加速度とした場合において、実施の形態2におけるかごドア30の開動作の所定時間毎の加速度指令値A*と所定位置毎の加速度指令値A*とを示すグラフである。図7において、減速区間における加速度指令値A*は、速度指令値生成部13が加速度指令値A*を出力した時の開閉動作時間を横軸の座標として表示されている。所定時間毎の加速度指令値A*は破線にて、所定位置毎の加速度指令値A*は点線にて示している。横軸において、tは加速度指令値A*におけるかごドア30の開動作の全閉時点であり、tは加速度指令値A*におけるかごドア30の開動作の全開時点である。縦軸において、かごドア30が開く方向の加速度を正方向とする。また、Aminは加速度指令値A*の最小値である。
【0054】
ここで、図7における減速区間において、加速度指令値A*と加速度指令値A*とが一致しないのは、速度指令値V*に対する実速度Vの速度追従性能が良好でないことに起因する。すなわち、実施の形態1と同様に、図4のS104にて、指標rが閾値rより大きい場合とは、イナーシャJを真値Jより小さく設定していたために、モータ9のトルクが加速度指令値A*を得るために必要な大きさよりも小さく設定された場合に等しい。一方、図4のS104にて、指標rが閾値rより小さい場合とは、上記と同様に考えると、イナーシャJを真値Jより大きく設定していたために、モータ9のトルクが加速度指令値A*を得るために必要な大きさよりも大きく設定された場合に等しい。
【0055】
以上、図7を参照して、かごドア30の開動作における補正部14の処理を説明したが、かごドア30の閉動作における補正部14の処理も同様に行う。ただし、かごドア30の閉動作では、図4のS100、S106、およびS109において、加速度指令値A*の最大値を閾値rと決定し、加速度指令値A*の最大値を指標rと決定するものとする。
【0056】
なお、実施の形態2では、速度追従性能の判断基準として、所定時間毎の加速度指令値A*と所定位置毎の加速度指令値A*の減速区間における絶対値の最大値を用いたが、これに限られない。すなわち、たとえば、所定時間毎の加速度指令値A*と所定位置毎の加速度指令値A*において、かごドア30が所定位置に達するまでにかかる開閉動作時間などを用いてもよい。
【0057】
また、実施の形態2では、加速区間にて所定時間毎の速度指令値V1*が出力され、減速区間にて所定位置毎の速度指令値V*が出力されるが、これに限られない。すなわち、所定時間毎の速度指令値V1*と所定位置毎の速度指令値V*とは、いかなるかごドア30の位置または開閉動作時間にて切り替わって出力されてもよい。
【0058】
図8は、実施の形態2におけるエレベータのドア装置の効果を示すグラフである。図7と同様、横軸を時間、縦軸を加速度とし、所定時間毎の加速度指令値A*は破線にて、所定位置毎の加速度指令値A*は点線にて示している。横軸において、tは加速度指令値A*におけるかごドア30の開動作の全閉時点であり、tは加速度指令値A*におけるかごドア30の開動作の全開時点である。縦軸において、Aminは加速度指令値A*の最小値である。イナーシャ値を補正する前における図7と比べると、イナーシャ値を補正した後における図8では、加速度指令値A*と加速度指令値A*とがほぼ一致していることがわかる。これは、イナーシャ値を補正することにより、速度指令値V*に対する実速度Vの速度追従性能が大きく向上されたことを意味する。
【0059】
なお、実施の形態2では、イナーシャ値を補正したが、代わりに、ドア重量を補正するようにしてもよい。
【0060】
実施の形態2によれば、実施の形態1の効果に加え、補正部14は、かごドア30の開閉動作における実速度Vを速度追従性能の判断基準として用いる必要が無いため、外乱の影響を受けることなく精度の高い判断を行うことができる。
【0061】
なお、実施の形態1と実施の形態2において、速度指令値生成部13は速度指令値出力手段に相当し、速度演算部15は実速度出力手段に相当し、階床データ記憶部11はドア情報記憶手段に相当し、補正部14はドア情報補正手段に相当し、速度制御部12は速度制御手段に相当し、電流制御部16とPWMインバータ17はモータ駆動手段に相当する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータのドアまたは前記ドアを駆動するモータの回転軸の速度指令値を出力する速度指令値出力手段と、
前記モータの回転角度に基づき前記ドアまたは前記モータの回転軸の実速度を出力する実速度出力手段と、
前記モータの回転軸に負荷を与える前記ドアのドア重量または前記ドア重量に基づくイナーシャとして設定されるドア情報を記憶するドア情報記憶手段と、
前記ドア情報と前記ドアの実際のドア重量または前記実際のドア重量に基づくイナーシャである真値との差を小さくするように、前記ドア情報を補正するドア情報補正手段と、
前記ドア情報補正手段が補正した前記ドア情報に基づき、前記速度指令値と前記実速度との差を小さくするように前記モータに対するトルク指令を出力する速度制御手段と、
前記トルク指令に基づき前記モータを駆動するモータ駆動手段と、
を備えたエレベータのドア制御装置。
【請求項2】
前記ドア情報補正手段は、前記速度指令値と前記実速度との差を小さくするように前記ドア情報を補正することを特徴とする請求項1記載のエレベータのドア制御装置。
【請求項3】
前記ドア情報補正手段は、前記速度指令値の絶対値の最大値と前記実速度の絶対値の最大値との差が所定値より小さくなるまで、前記ドアの各開動作毎または各閉動作毎に、前記ドア情報を補正することを特徴とする請求項2記載のエレベータのドア制御装置。
【請求項4】
前記速度指令値出力手段が出力する前記速度指令値に基づき、所定時間毎の加速度指令値と所定位置毎の加速度指令値とを算出する加速度指令値算出手段とを備え、
前記ドア情報補正手段は、前記所定時間毎の加速度指令値と前記所定位置毎の加速度指令値との差が小さくなるように前記ドア情報を補正することを特徴とする請求項1記載のエレベータのドア制御装置。
【請求項5】
前記ドア情報補正手段は、加速区間または減速区間における、前記所定時間毎の加速度指令値の絶対値の最大値と前記所定位置毎の加速度指令値の絶対値の最大値との差が所定値より小さくなるまで、前記ドアの各開動作毎または各閉動作毎に、前記ドア情報を補正することを特徴とする請求項4記載のエレベータのドア制御装置。
【請求項6】
前記速度制御手段は、前記実速度の前記速度指令値に対する速度追従性能を指定するフィードフォワード制御部と前記ドアの振動抑制性能を指定するフィードバック制御部を備えることを特徴とする請求項1記載のドア制御装置。
【請求項7】
エレベータのドアと、
前記ドアを駆動するモータと、
前記モータの回転角度に基づき前記モータを駆動する請求項1〜6記載のドア制御装置と、
を備えたエレベータのドア装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−140372(P2011−140372A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1159(P2010−1159)
【出願日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】