説明

エレベータのモータカバー

【課題】保守点検作業に際し、作業の困難性、危険性を伴わないエレベータカバーを提供する。
【解決手段】エレベータ装置のマシンルーム9内に設置されたモータを覆うモータカバー16の壁面に設けた作業用窓17と、その作業用窓17に設けた開閉手段18A〜18Dとを備え、保守点検作業時には、前記開閉手段18A〜18Dを開けて保守点検作業を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータのモータを覆うモータカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータを駆動するモータは、昇降路(シャフト)の天井近傍に固定されたマシンビーム上に設置されている。
【0003】
この様子を示したのが、エレベータの概略構成を示した図7で、昇降路1の天井近傍にマシンビーム2が固定されている。
【0004】
このマシンビーム2には、エレベータのかご室3の昇降駆動用滑車4に連結されているロープ5の一端および重り6を吊るすロープ7の一端が固定されている。
【0005】
そして、マシンビーム2の天井側上面8、すなわち、マシンルーム9には、モータ(不図示)、この回転軸に直結するブレーキディスク10およびこのブレーキディスク10と協働するブレーキ(キャリパ)11が、モータカバー12に覆われた状態で固定設置されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、このマシンルーム9は、マシンビーム2と天井との間隙が狭く、人がやっと立てる程度の空間しかないため、モータを保守点検する場合、図7に示したように、かご室3の上部に点検台13を置き、その上に保守点検者14が乗って行なっている。この保守点検作業は、モータを覆っているモータカバー12を外して行わなければならないが、前記したように、マシンルーム9の天井との間の空間が狭いため、モータカバー12の取り外し作業自体が困難であり、また、取り外したモータカバー12を昇降路内に落下させてしまう危険も伴う。 特に、マシンルームレスエレベータの場合にはかかる問題はより深刻となる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、保守点検作業に際してこのような作業の困難性、危険性を伴わないエレベータカバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のエレベータカバーは、エレベータ装置のマシンルーム内に設置されたモータを覆う金属製のモータカバーと、このモータカバーの壁面に設けられた作業用窓と、この作業用窓に設けられた開閉手段とを備え、この開閉手段は、常時は前記作業用窓を閉鎖され、保守点検作業時には開放するように構成されていることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明のエレベータカバーにおいては、前記開閉手段は、前記作業用窓の周囲にヒンジで連結され、上下左右に開閉する複数の扉と、これらの扉のうち対向する2個の扉に固定された互いに異なる極性の第1のマグネット対と、前記作業用窓の周囲のモータカバーの壁面に設けられた第2のマグネット対と、を備えることを特徴とするものである。
【0010】
さらに、本発明のエレベータカバーにおいては、前記開閉手段は、4隅にリングを備えた金網と、前記モータカバーの前記作業用窓の外周4ヶ所に固定されたピンと、からなり、これらのピンに前記リングを係止することにより、前記作業用窓を前記金網で覆うことを特徴とするものである。
【0011】
さらに、本発明のエレベータカバーにおいては、前記開閉手段は、鋼製パイプに伸縮性を有する紐を貫通させてなる複数のロッドと、これらのロッドを、前記紐の両端を前記作業用窓の対向する2辺に沿って前記モータカバーの壁面に固定する手段と、前記作業用窓の4隅の前記モータカバーの壁面に固定されるストッパーと、からなり、前記複数のロッド配列により前記作業用窓を覆うことを特徴とするものである。
【0012】
さらに、本発明のエレベータカバーにおいては、前記開閉手段は、一端に長さ調整ストッパーを備えた紐と、前記作業用窓の対向する2辺に沿って前記モータカバーの壁面に固定された複数のストッパーとからなり、前記紐を、前記複数のストッパーにネット状に懸架することにより、前記作業用窓を覆うことを特徴とするものである。
【0013】
さらに、本発明のエレベータカバーにおいては、エレベータ装置のマシンルーム内に設置されたモータを覆う金属製のモータカバーと、このモータカバーの壁面に設けられた作業用窓と、この作業用窓を開閉可能に設けられたマグネット作業扉とを備え、この作業扉は、前記作業用窓の開放状態においては、金属部品の仮置き場所として機能するように構成されていることを特徴とするものである。
【0014】
さらに、本発明のエレベータカバーにおいては、前記作業扉には、この作業扉が開放状態の間は、エレベータの動作を停止させるように、リミットスイッチが設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、モータ類が設置されているマシンルームの空間が極端に狭小であっても、従来のように、保守点検作業時に、モータカバー全体を外す必要がないため、狭小空間での困難なカバー取り外し作業がなくなり、また、カバーを取り外して落下させる危険性も全くなくなる。したがって、作業の安全性に加え、作業効率も向上し、経済的効果が著しく大きくなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態1に係るモータカバーの図で、(A)は、作業用窓が開閉扉によって閉されている状態を示した正面図、(B)は、作業用窓が開閉扉によって開かれている状態を示した正面図である。
【図2】本発明の実施形態2に係るモータカバーの図で、(A)は、作業用窓が開閉扉によって閉されている状態を示した正面図、(B)は、作業用窓が開閉扉によって開かれている状態を示した正面図である。
【図3】本発明の実施形態3に係るモータカバーの図で、(A)は、鋼製パイプの両端を伸縮性のある紐で結んだロッドの説明図、(B)は、作業用窓が開閉扉によって閉されている状態を示した正面図、(C)は、作業用窓が開閉扉によって開かれている状態を示した正面図である。
【図4】本発明の実施形態4に係るモータカバーの図で、(A)は、作業用窓が開閉扉によって閉されている状態を示した正面図、(B)は、作業用窓が開閉扉によって開かれている状態を示した正面図である。
【図5】本発明の実施形態5に係るモータカバーの図で、作業扉にマグネットトレー効果を持たせた実施形態の側面図である。
【図6】本発明の実施形態5に係るモータカバーの図で、作業用窓枠部にリミットスイッチを取り付けた実施形態の側面図である。
【図7】従来のエレベータの構成を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態につき、図1乃至図6を用いて詳細に説明する。
【0018】
[実施形態1]
本発明の実施形態1に係るモータカバーの実施形態を図1について説明する。
図1は、作業用窓が4枚の三角形の開閉扉によって開閉されている状態を示しており、同図(A)は、作業用窓が開閉扉によって閉されている状態を、また、同図(B)は、作業用窓が開閉扉によって開かれている状態を、それぞれ示している。
【0019】
同図(A)において、マシンベッド15上に設置されているモータカバー16に開口された作業用窓17(同図(B))を開閉する開閉扉18A〜18Dには、その4頂点部19のうちの上下の2頂点部19のそれぞれにマグネット20A、20Cが互いに極性が異なるように貼付されている。すなわち、2頂点部19の一方に貼り付けられたマグネット20Aは例えばN極が先端に配置され、他方に貼付されたマグネット20CはS極が先端に配置され、これらのマグネット20A、20Cが互いに吸引し合うことにより、上下の扉18Aと18Cが閉じた状態に維持される。この場合、左右の開閉扉18B、18Dも上下の開閉扉18Aと18Cとの係合により閉じた状態に維持される。なお、開閉扉18A〜18Dは作業用窓17の各辺に図示しないヒンジにより回動可能に固定されている。
【0020】
そして、作業用窓17の開閉扉18A〜18Dが開いている状態では、上下の開閉扉18Aと18Cはそれぞれに貼付されたマグネット20A、20Cにより金属製のモータカバー16に吸着固定される。他方、左右の開閉扉18B、18Dが開いた状態においては、作業用窓17の左右のモータカバー16壁面に固定されたマグネット20B、20Dに左右の開閉扉18B、18Dが吸着され固定される。
【0021】
したがって、作業員は、開閉扉18A〜18Dに邪魔されることなく、保守点検などのメンテナンス作業を行うことができる。
【0022】
[実施形態2]
本発明の実施形態2に係るモータカバーの実施形態を図2について説明する。
【0023】
図2は、実施形態2に係るモータカバーの実施形態を示す図で、同図(A)は、図1に示した作業用窓17(図2(B))が金網21からなる開閉扉によって閉じられている状態を示している。この金網21はその4隅にリング21A、21B、21C、21Dを備えている。また、作業用窓の4隅のモータカバー壁面には、ピン22A、22B、22C、22Dが固定されている。これらのピン22A、22B、22C、22Dに金網21の対応するリング21A、21B、21C、21Dを係止することにより、作業用窓17は金網21で覆われ、閉じられる。
【0024】
図2(B)は、作業用窓17が開かれている状態を示している。この状態においては、金網21に設けられたリング21B、21Cをピン22B、22Cから外し、リング21A、21Dはピン22A、22Dに係止したままにすることにより、作業用窓17を開く。この状態において、保守点検などのメンテナンス作業が行われる。この場合、右側のピン22B、22Cから外された金網21は左側に寄った状態になっているので、この場合も、作業の邪魔にはならない。
【0025】
なお、リング21A、21Bを作業用窓17の上側のピン22A、22Bから外し、リング21C、21Dを、ピン22C、22Dに係止しておいてもよい。或いは、4つのリングのうちの1つのみを対応するピンに係止したままにし、他のリングを全てピンから外してもよい。
【0026】
[実施形態3]
本発明の実施形態3に係るモータカバーの実施形態を図3について説明する。
【0027】
図3は、開閉扉として鋼製パイプを用いた実施形態で、この開閉扉は、同図(A)のように、鋼製パイプ23に伸縮性を有する紐24を貫通させてなる複数のロッド25と、前記作業用窓17(同図(C))の4隅のモータカバーの壁面に固定された複数のピン状のストッパー26とからなる。複数のロッド25は、それらの紐24の両端が、作業用窓17の対向する上下の2辺に沿って前記モータカバーの壁面に例えばピンなどにより固定されている。複数のロッド25は、作業用窓17の開口部前面を覆うように密接して配列される。すなわち、非作業時には、作業用窓17は、同図(B)のように、複数本のロッド25によって塞がれている。
【0028】
次に、保守点検などのメンテナンス作業時には、同図(C)のように、複数本のロッド25を左右に分けて、ストッパー26に係合し、作業用窓17を開く。
【0029】
この場合も、紐24の伸縮性によって、鋼製パイプ23はストッパー26から外れることはないので、作業の邪魔になることはない。
【0030】
[実施形態4]
本発明の実施形態4に係るモータカバーの実施形態を図4について説明する。
【0031】
図4は、作業用窓の開閉扉が1本の紐で構成されている実施形態で、同図(A)は、作業用窓17が開閉扉によって閉されている状態を、また、同図(B)は、作業用窓が開閉扉によって開かれている状態を、それぞれ示している。
【0032】
同図(A)において、モータカバー16には、複数個のピン27が作業用窓17の上下(図面に対して)部に取り付けられている、そして、このピン27に紐28を交互に係止してネット状に張り巡らせることによって開閉扉が形成され、作業用窓17を覆っている。
【0033】
この場合、紐28の一端(同図では、図面に対して左端)には、紐28の長さ調整用ストッパー29が取り付けられている。ピン27に紐28を係止した状態で、ストッパー29を介して紐28を矢示30方向に引っ張ることにより、紐28を緊張した状態で作業用窓17を隙間なく覆い、ストッパー29を係止状態にすることにより、紐28の長さをこの状態に維持する。
【0034】
保守点検などのメンテナンス作業を行う場合には、ストッパー29を解除して紐28を緩め、同図(B)に示すように、紐28をほぼ中央部から左右に開いて、作業用窓17をあけ、作業を行う。
【0035】
このように、本実施形態のモータカバーが紐28で形成されているので、軽量で、且つ、安価であり、さらに、作業時に取り扱いが簡単である。
【0036】
[実施形態5]
本発明の実施形態5に係るモータカバーを図5について説明する。
【0037】
図5に示すように、マシンビーム31上にボルト32等で固定装着されたモータ(不図示)はモータカバー33で覆われている。モータカバー33の内部には、図面に対して、左側にブレーキ(不図示)、中央部にモータ(不図示)、右側にワイヤー巻き上げ用シーブ(不図示)などが配置されている。
【0038】
そして、前記モータカバー33も、ブレーキ用カバー34とモータ用カバー35、およびシーブカバー36などで区分された構成になっている。
【0039】
また、モータ(不図示)には、クレーンなどで吊り上げるための引っ掛け孔37が取り付けられており、また、ブレーキ用カバー34の左側面は開閉自在の作業扉38が設けられている。
【0040】
そして、この作業扉38の内面はマグネットトレーになっていて、作業時に用いる細かなビスなどを仮置きできる構成になっている。
【0041】
このような構成において、保守点検などのメンテナンス作業時には、作業扉38を開けて作業が行われる。この場合、作業時に用いられる細かなビスやボルトなどを、開いた作業扉38上に仮置きすると、これらの部品は作業扉38の内面に磁力により吸着固定される。このため、これら部品の落下がなくなり、作業時の危険度が大幅に改善されることになる。
【0042】
[実施形態6]
本発明の実施形態5に係るモータカバーを図6について説明する。
【0043】
なお、同図において、図5と同一構成部分には同一符号を付して、その部分の詳細な説明は省略し、以下では、主として、図5と相違する部分についてのみ説明した。
【0044】
図6において、作業扉39の、例えば、作業用窓枠部40にリミットスイッチ41を取り付け、保守点検などのメンテナンス作業時に、作業扉39を開けると、リミットスイッチ41に接続されたモータ制御回路(不図示)が開き、エレベータの動作を停止させる。
【0045】
したがって、作業扉39が開かれて、メンテナンス作業を行っている間は、エレベータの誤動作がないので、作業の安全性が保たれる。
【符号の説明】
【0046】
1 昇降路
2、31 マシンビーム
3 かご室
4 昇降駆動用滑車
5,7 ロープ
6 重り
8 マシンビームの天井側上面
9 マシンルーム
10 ブレーキディスク
11 ブレーキ
12、16、33 モータカバー
13 点検台
14 保守点検者
15 マシンベッド
17 作業用窓
18A〜18D 開閉扉
19 開閉扉の頂点部
20 マグネット
21 金網
22、27 ピン
23 鋼製パイプ
24、28 紐
25 ロッド
26 ストッパー
29 調整用ストッパー
30 矢示
32 ボルト
34 ブレーキ用カバー
35 モータ用カバー
36 シーブカバー
37 引っ掛け孔
38,39 作業扉
40 作業用窓枠部
41 リミットスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータ装置のマシンルーム内に設置されたモータを覆う金属製のモータカバーと、このモータカバーの壁面に設けられた作業用窓と、この作業用窓に設けられた開閉手段とを備え、この開閉手段は、常時は前記作業用窓を閉鎖され、保守点検作業時には開放するように構成されていることを特徴とするエレベータのモータカバー。
【請求項2】
前記開閉手段は、前記作業用窓の周囲にヒンジで連結され、上下左右に開閉する複数の扉と、これらの扉のうち対向する2個の扉に固定された互いに異なる極性の第1のマグネット対と、前記作業用窓の周囲のモータカバーの壁面に設けられた第2のマグネット対と、を備えることを特徴とする請求項1記載のエレベータのモータカバー。
【請求項3】
前記開閉手段は、4隅にリングを備えた金網と、前記モータカバーの前記作業用窓の外周4ヶ所に固定されたピンと、からなり、これらのピンに前記リングを係止することにより、前記作業用窓を前記金網で覆うことを特徴とする請求項1記載のエレベータのモータカバー。
【請求項4】
前記開閉手段は、鋼製パイプに伸縮性を有する紐を貫通させてなる複数のロッドと、これらのロッドを、前記紐の両端を前記作業用窓の対向する2辺に沿って前記モータカバーの壁面に固定する手段と、前記作業用窓の4隅の前記モータカバーの壁面に固定されるストッパーと、からなり、前記複数のロッド配列により前記作業用窓を覆うことを特徴とする請求項1記載のエレベータのモータカバー。
【請求項5】
前記開閉手段は、一端に長さ調整ストッパーを備えた紐と、前記作業用窓の対向する2辺に沿って前記モータカバーの壁面に固定された複数のストッパーとからなり、前記紐を、前記複数のストッパーにネット状に懸架することにより、前記作業用窓を覆うことを特徴とする請求項1記載のエレベータのモータカバー。
【請求項6】
エレベータ装置のマシンルーム内に設置されたモータを覆う金属製のモータカバーと、このモータカバーの壁面に設けられた作業用窓と、この作業用窓を開閉可能に設けられたマグネット作業扉とを備え、この作業扉は、前記作業用窓の開放状態においては、金属部品の仮置き場所として機能するように構成されていることを特徴とするエレベータのモータカバー。
【請求項7】
前記作業扉には、この作業扉が開放状態の間は、エレベータの動作を停止させるように、リミットスイッチが設けられていることを特徴とする請求項6記載のエレベータのモータカバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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