説明

エレベータドアの制御装置

運動エネルギー規制を遵守できる範囲でドア速度を速く、若しくは戸開閉時間を短くするようなドア速度の適正化を図ったエレベータドア制御装置を実現するもので、複数のモータ速度パターンから選択したモータ速度パターンに応じたトルク指令をエレベータドアの駆動手段に出力してエレベータドアの開閉制御を行うエレベータドアの制御装置において、各階床毎のエレベータドアの質量と戸開閉動作時のドア速度情報とに基づいて各階床毎のドア運動エネルギーを計算し、その計算結果に基づいて前記複数のモータ速度パターンのいずれか1つをモータ速度パターンとして各階床毎にそれぞれ選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
この発明は、エレベータドアの制御装置に関し、特に、エレベータ利用者にとって高い安全性と快適性の両立を実現するエレベータドアの制御装置に関するものである。
【背景技術】
エレベータドアは、エレベータとその利用者とのインターフェイス部分にあたるため、利用者に対する安全性と快適性を両立することが要求される。
安全性の問題とは、利用者がエレベータドアに挟まれたり、引き込まれたりする事故での災害をいかに軽減できるかという問題である。この問題に対しては、ドア速度を遅くすることが一つの有効な解決策となる。
一方、快適性の問題とは、エレベータ利用の際の利用者の待ち時間をいかに抑制できるかという問題である。この問題に対しては、利用者を目的階に早く輸送することが有効であるため、ドア速度を速く、若しくは戸開閉時間を短くすることが一つの有効な解決策となる。
以上のように、エレベータドアの制御装置においては、安全性と快適性の問題を両立することが重要な課題であり、このような課題に対し、従来のエレベータドアの制御装置として、ドアの開閉駆動を行うモータのトルク指令(モータ電流指令)の情報を用いて安全性と快適性の両立を図ったものがある(例えば、特許文献1参照)。
安全性については、エレベータドアを駆動するドア駆動用モータのドア速度を制御する速度制御部の出力であるトルク指令の情報を用いて実現している。具体的には、トルク指令と、過負荷検出パターンと呼ばれるドア異常判定用のパターンとを比較し、トルク指令が過負荷検出パターンを超えたときにドア開閉動作異常であると判断するものである。なお、ドア開閉動作異常検出感度を高め、安全性を向上させるために、ここでの過負荷検出パターンを、ドア質量が大きいときはトルク指令が大きくなり、ドア質量が小さいときはトルク指令が小さくなるという関係を利用して複数の過負荷検出パターンの中から選択している。具体的には、ドア質量が大きいときは大きさの大きい過負荷検出パターンを、ドア質量が小さいときは大きさの小さい過負荷検出パターンを選択している。
一方、快適性については、トルク指令(モータ電流指令)の大きさを考慮した適切なモータ速度パターンを、複数のモータ速度パターンの中から一つ選択することにより実現している。具体的には、各階床毎のドア質量とトルク指令の大きさに基づいて、ドア質量が大きいときはトルク指令が大きくなり、ドア質量が小さいときはトルク指令が小さくなるという関係を利用して各階床毎のトルク指令の大きさがほぼ同じになるように複数のモータ速度パターンの中から適切なモータ速度パターンを選択している。
[特許文献1]:特開2000−159461号公報
つまり、従来のエレベータドアの制御装置では、トルク指令の大きさを考慮し、ドア質量が大きいときはドア速度を遅く、ドア質量が小さいときはドア速度を速くするというように、各階床毎のドア質量に応じたモータ速度パターンを選択するものである。しかしながら、以下の理由により、安全性と快適性を両立できるようなドア速度の適正化が実現されていないという問題点があった。
このことを理解するためには、ドアの運動エネルギーという観点からの、安全性と快適性に関する基本的知識が必要となる。
エレベータドアについては、安全性と快適性の観点から、海外法規(例えば、ASME Rule 112.4)では、特に戸閉動作に関し、ドアの運動エネルギーを規制している。ドアの運動エネルギーとは、具体的には、下式(1)に示すように、ドア質量(正確には、ドア単体の質量とドアに機械的に連結されている個々の部材の質量の総和)とドア速度とにより求められる。
運動エネルギー=(1/2)×(ドア質量)×(ドア速度) (1)
そこで、上記海外法規の基準値を満足させるためには、ドア質量に対応させ、ドア速度、すなわちモータ速度を変更する必要がある。
さらに、この運動エネルギーに関する補足説明として、ドア速度は平均速度を示しており、これについても上記海外法規などに明記されている。具体的には、下式(2)により求められる。
平均戸閉速度=(全開から全閉までのドア移動距離)/(走行時間) (2)
また、ここでの走行時間についても規定があり、例えば、中央両開きドアの場合、走行時間は、全開及び全閉のそれぞれから25[mm]を除いた部分を走行するのに要する時間とされている。
なお、この平均速度を用いた運動エネルギー規制の値としては、具体的には、10[Joules]以下とされている。
以上では、通常、戸閉時に関する運動エネルギー規制のみ指摘されているが、戸閉時だけでなく、戸開時についても、値は異なってよいが、同様な運動エネルギーで管理することは、エレベータドアの安全上、有効であると考えられる。このため、以降では、運動エネルギーは、戸開・戸閉時のそれぞれに同様の形で定義できるとして扱う。
また、運動エネルギーを評価する場合のドア速度として、以上では、平均速度を用いる場合の説明をしたが、衝撃的なダメージを考慮した安全性を満足するためには瞬時速度、すなわち最大速度を用いた方が適切であると考える。このため、以降では、前式(1)で示した運動エネルギーのドア速度としては、平均速度ないしは最大速度を用いることができるものとして扱う。ただし、用いる速度によって運動エネルギーの規制値は異なるものである。
次に、この運動エネルギーと、安全性および快適性の関係について明らかにする。安全性の問題においては、利用者がエレベータドアに挟まれたり、引き込まれたりした際の人体が受ける災害の程度がドアの運動エネルギーの大きさに比例することは容易に理解できることから、ドアの運動エネルギーをできるだけ小さくすればよいことが分かる。
一方、快適性の問題においては、エレベータ待ち時間を短く、かつ目的階に早く移動するために、ドア速度を速くする(戸開閉時間を短くする)ことが望まれることから、ドアの運動エネルギーをできるだけ大きくすればよいことになる。
そこで、安全性と快適性は、ともにドアの運動エネルギーにより規定できるものであることが分かると同時に、ここでのドアの運動エネルギー規制を遵守できる範囲で、できるだけドア速度を速く、若しくは戸開閉時間を短くするということが、安全性と快適性の適正化につながることが分かる。
以上のことから、従来のエレベータドアの制御装置では、トルク指令の大きさを考慮しているのみで、ドアの運動エネルギーを計算し、評価するなどの手段を構成要素として有していないため、運動エネルギー規制を遵守できる範囲で、すなわち、運動エネルギー規制を最大限に利用した形で、ドア速度を速く、若しくは戸開閉時間を短くするというドア速度の適正化が実現されておらず、この意味で安全性と快適性の適正化という点で不十分であるという問題点があった。
この発明は、以上のような問題点を解決するためになされたものであり、運動エネルギー規制を遵守できる範囲でドア速度を速く、若しくは戸開閉時間を短くするようなドア速度の適正化を図ったエレベータドアの制御装置を実現することを目的とする。
【発明の開示】
この発明に係るエレベータドアの制御装置は、複数のモータ速度パターンから選択したモータ速度パターンに応じたトルク指令をエレベータドアの駆動手段に出力して前記エレベータドアの開閉制御を行うエレベータドアの制御装置において、各階床毎のエレベータドアの質量に基づいて各階床毎のドアパラメータを計算するドアパラメータ計算手段と、前記ドアパラメータ計算手段による各階床毎のドアパラメータの計算結果に基づいて前記複数のモータ速度パターンのいずれか1つを各階床毎のエレベータドアを開閉制御するモータ速度パターンとして各階床毎にそれぞれ選択する速度パターン選択手段とを備えたものである。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の実施の形態1に係るエレベータドアの制御装置の一例を示す構成図、
図2は、本発明の実施の形態1に係るエレベータドアの制御装置における速度パターン選択手段の動作説明図、
図3は、本発明の実施の形態2に係るエレベータドアの制御装置一例を示す構成図、
図4は、本発明の実施の形態3に係るエレベータドアの制御装置一例を示す構成図、
図5は、本発明の実施の形態4に係るエレベータドア制御装置におけるマップ記憶手段の内容説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1におけるエレベータドアの制御装置一例を示す構成図である。図1に示すように、エレベータドアを駆動するエレベータドア機構部のドア駆動用モータ1のモータ軸にはパルス発生器2が直結されており、このパルス発生器2は、ドア駆動用モータ1の位置を示すパルス情報を発生する。また、電流検出器3は、ドア駆動用モータ1の負荷電流を検出している。なお、ドア駆動用モータ1としては、例えばベクトル制御誘導モータやブラシレスDCモータなどを想定している。
速度指令部4には、所定のモータ速度パターンが複数記憶されており、この複数記憶されたモータ速度パターンに応じた速度指令を出力する。加算部5は、この速度指令部4により出力された速度指令とパルス発生器2から速度変換部を介して得られる実モータ速度(帰還速度)との速度偏差を出力する。速度制御部6は、加算部5により出力された速度偏差に応じたトルク指令として、当該トルク指令に応じたモータ電流指令をドア駆動用モータ1に出力して速度制御を行っている。
より正確には、速度制御部6から出力されたモータ電流指令は、加算部で電流検出器3により検出された実モータ電流との電流偏差がとられ、電流制御部10に対して出力される。電流制御部10は、入力された電流偏差に応じてドア駆動用モータ1を駆動する負荷電流を発生し、モータ1の速度制御を行っている。この速度制御の際、電流制御部10は、パルス発生器2からの位相情報に基づいてベクトル制御を実現している。
また、ドア質量記憶部7には、各階床毎のドア質量が予め記憶されており、運動エネルギー計算手段9は、エレベータドアの各階床毎の質量に基づいて各階床毎のドアパラメータを計算するドアパラメータ計算手段をなすもので、ドア質量記憶部7内の各階床毎のドア質量と平均速度または速度経過値等のドア速度情報とに基づいてドアパラメータとしてのドアの運動エネルギーを計算する。
速度パターン選択手段10は、運動エネルギー計算手段9からの計算結果に応じて速度指令部4に記憶された複数のモータ速度パターンの中から選択したモータ速度パターンを用いて速度指令部4より速度指令を出力させる。なお、図1の破線部内は、通常のエレベータドアの制御装置と同一または相当部分を示している。
以下では、本実施の形態1に係るエレベータドアの制御装置の特徴となるモータ速度パターンの選択に関する動作について説明する。戸開動作と戸閉動作は全く同様な動作として踏まえることができるため、ここでは、戸閉動作の場合のみ説明する。
まず、モータ速度パターン選択に関する基本動作を説明し、続いて、理解を容易にするため、モータ速度パターン選択に関する動作の具体的な一例を紹介する。モータ速度パターン選択に関する基本動作としては、あるモータ速度パターンにより戸閉駆動を行った後に、運動エネルギー計算手段9において、階床情報にしたがってドア質量記憶部7から得たドア質量と平均速度または速度経過値等のドア速度情報とに基づいて各階床毎に運動エネルギーを計算する。
これを複数のモータ速度パターンに対して繰り返すことによって得られた各モータ速度パターンに対する運動エネルギー計算結果について、各階床毎に整理する。具体的には、所望のドア運動エネルギー制限を満足させる各々のモータ速度パターンのうちで、各階床毎に戸開閉時間が最短のモータ速度パターンを、各階床毎のモータ速度パターンとして速度パターン選択手段10において選択するものである。
なお、上記では、速度パターン選択手段10では各階床毎のモータ速度パターンとして各階床毎に戸開閉時間が最短のモータ速度パターンを選択するとしたが、これに限るものではなく、各階床毎のモータ速度パターンとして、例えば、所望のドア運動エネルギー制限を満足させる各々のモータ速度パターンのうちで、最大のドア運動エネルギーを得るモータ速度パターンを選択してもよい。
これにより、各階床毎に、所望のドア運動エネルギー制限を満足するモータ速度パターンを選択することで高い安全性を実現し、さらに、所望のドア運動エネルギー制限を満足する範囲でドア運動エネルギーが大きいモータ速度パターンを選択することで優れた快適性を実現できる。
また、上記ドア運動エネルギー制限としては、必ずしも上限だけでなく下限も含めた条件、すなわち範囲をもったドア運動エネルギーによる選択条件としてもよい。
さらに、運動エネルギー計算に用いるドア速度情報である平均速度は、上述の法規にしたがって式(2)を用いて得るという以外に、ドア速度(速度経過値)を時間積分した値を戸開閉時間で除算した数値結果(近似値)を用いて得ることも可能である。このため、図1では、運動エネルギーを計算する運動エネルギー計算手段9では、ドア速度情報の入力の一つとして、このドア速度情報は平均速度または速度経過値であるとした。
速度パターン選択手段10では、所望のドア運動エネルギー制限を満足するモータ速度パターンのうちで、各階床毎に最も戸開閉時間が最短のモータ速度パターンが複数存在した場合には、最大ドア速度が最も小さいモータ速度パターンを選択して速度指令とする。
次に、図2に示す動作説明図を用いながら、モータ速度パターン選択に関する動作の一例を説明する。ここでは、複数のモータ速度パターンが、すでに戸開閉時間が短い方から長い方へ順序よく並べられているという限定した形で記憶されている速度パターン記憶部を含んだ速度指令部4の場合について、そのモータ速度パターン選択に関する動作を説明する。ただし、ここでの全てのモータ速度パターンは全開から全閉までのドア移動距離が同じとなるモータ速度パターンであるとする。
まず、図2に示すように、初期値のモータ速度パターンを例えば速度パターンBに設定し、戸閉駆動を行い、そのときの運動エネルギーを計算し、運動エネルギー制限を満足するかどうかを確認する。運動エネルギー制限を満たさないときは、エネルギーが大なので速度パターンを速度パターンCに1段(1ランク)下げ、運動エネルギー制限を満たすときは、エネルギーが小なので速度パターンを速度パターンAに1段(1ランク)上げる。
これを繰り返すことにより、運動エネルギー制限が満足するところでモータ速度パターンを確定する。この確定動作を、各階床毎に実施することで、本実施の形態1によるエレベータドアの制御装置が実現できることになる。
ここでの例では、速度指令部4内の速度パターン記憶部において、記憶してある複数のモータ速度パターン(戸閉速度パターン)が、すでに戸開閉時間が短い方から長い方へ順序よく並べられているものとしたので、ドア速度の適正化が容易に実現できる。
なお、上記では戸閉動作について説明を行ったが、戸開動作においても同様にドア速度の適正化を実現できることは言うまでもない。
以上のように、本実施の形態1に係るエレベータドアの制御装置によれば、各階床毎に運動エネルギー規制を遵守できる範囲で最もドア速度を速く、若しくは戸開閉時間を短くするようなドア速度の適正化を実現することができるため、結果としてエレベータ利用者に対する安全性と快適性の両立を実現したエレベータドアの制御装置を提供できる。
また、所望のドア運動エネルギー制限を満足する上記複数のモータ速度パターンのうちで、各階床毎に最も戸開閉時間が短いモータ速度パターンを、各階床毎のモータ速度パターンとして選択した場合には、運動エネルギー規制を遵守できる範囲でドア速度を速く、若しくは戸開閉時間を短くするようなドア速度の適正化が実現できる。
さらに、所望のドア運動エネルギー制限を満足するモータ速度パターンのうちで、各階床毎に最も戸開閉時間が短いモータ速度パターンが複数存在した場合に、最大ドア速度が最も小さいモータ速度パターンを選択することにより、運動エネルギー規制を遵守できる範囲で最もドア速度を速く、若しくは戸開閉時間を短くするようなドア速度の適正化を一意に実現する解を見つけることができる。
実施の形態2.
図3は、この発明の実施の形態2に係るエレベータドアの制御装置一例を示す構成図である。図3において、図1に示す実施の形態1と同一符号は同一もしくは同等の構成を示しているため、その説明を省略する。新たな構成として、ドア/モータ速度変換部8は、速度変換部からの出力である実モータ速度を検出し、実モータ速度をドア速度に変換する。また、ドア質量計算手段11は、ドア/モータ速度変換部8により変換されたドア速度と速度制御部6の出力であるトルク指令とに基づいてドア質量を計算する。
即ち、本実施の形態2に係るエレベータドアの制御装置の構成は、図1に示す実施の形態1に係るエレベータドアの制御装置の構成とほとんど同じであるが、モータ速度からドア速度に変換するドア/モータ速度変換部8と、ドア/モータ速度変換部8から得られたドア速度と速度制御部6の出力であるトルク指令を用いて演算することによりドア質量を計算するドア質量計算手段11の部分が異なる。
そこで、以下では、この異なる部分を中心に説明する。図1に示した実施の形態1に係るエレベータドアの制御装置に係るドア質量記憶部7では、各階床毎のドア質量が予め記憶されているものとしていた。これに対し、図3に示した本実施の形態2に係るエレベータドアの制御装置におけるドア質量記憶部7では、ドア/モータ速度変換部8から得られたドア速度と速度制御部6の出力であるトルク指令とに基づいてドア質量計算手段11により計算されたドア質量が記憶されている。
次に、上記ドア質量計算手段11による各階床毎のドア質量の計算方法について説明する。ここでは、簡単に説明を行うために、ドアタイプとしては、ドア駆動用モータ1のトルクをリンク機構ではなくベルトによってダイレクトにドア部に伝達するドア機構を持つドアタイプを対象とし、このドアの機構構造上の特徴として、電源が落ちた際に、ドアに機械的な戸閉保持力を発生させるように、重りを利用した非線形発生リンクがついているものとする。
ここでのドアタイプは、ドア速度とモータ速度、ドア加速度とモータ加速度がそれぞれ線形関係、すなわち定ゲイン倍の関係になるという特徴を持っている。そこで、以降における説明において、モータ角速度をドア速度に、モータ角加速度をドア加速度に容易に置き換えることができることは明らかである。なお、図3では、ドア質量計算手段11の入力として、ドア速度を用いた構成図を示している。
さて、ここでのドアタイプに対する運動モデルとしては、ドアモータに働く総トルクをT、モータトルク指令をTm、非線形発生リンクによるトルクをT1、一定戸閉トルクをT2、ドア駆動用モータ1から見たドアイナーシャ(ドア単体のほか、プーリー、ドア駆動用モータ1自身などのイナーシャを含む可動部のイナーシャ)をJ、モータ角加速度をa、ドア走行時の走行抵抗(摩擦力)によるトルクをbとしたとき、次式に示す速度粘性項を無視した近似式を仮定することができる。
T=J・a+b (3)
ただし、
T=Tm+T1+T2 (4)
ここで、式(3)、(4)を用いてドアイナーシャJを求めるに当たり、測定によって入手できるデータは、モータ角速度(ドア速度に対応)の差分計算により求めることが可能なモータ加速度aとモータトルク指令Tmであり、非線形発生リンクによるトルクT1、および一定戸閉トルクT2は直接測定することができない。
ただし、非線形発生リンクなどの質量や形状が既知であることを利用してドアの開閉位置情報を与えることによって事前に非線形発生リンクによるトルクT1及び一定戸閉トルクT2は関数計算することで求めておくことが可能である。そこで、事前に求めた非線形発生リンクによるトルクT1及び一定戸閉トルクT2をモータトルク指令Tmに加算してドア総トルクTとし、ドア総トルクTとモータ角加速度aについて最小2乗法を適用することによって階床毎のドアイナーシャJを求め、さらにこのドアイナーシャJからドア質量を計算することができる。
そして、本実施の形態2に係るエレベータドアの制御装置では、上記実施の形態1に係るエレベータドアの制御装置と同様に、このドア質量計算手段11により計算されたドア質量を用いて運動エネルギーが計算され、これに基づき速度パターン選択手段10によって、ドア速度の適正化が実現できるモータ速度パターンが選択される。
以上のように、本実施の形態2に係るエレベータドアの制御装置によれば、運動エネルギーを計算する上で必要となる各階床毎のドア質量を、式(3)に基づいた数値演算処理により自動的に算出することができ、例えば寸法、材質などの構造情報から求めるという膨大な労力が不要となるため、人為的なミスで誤ったドア質量を算出してしまうことを防止することができ、精度の高いドア質量を得ることが可能となるため、精度の高い運動エネルギー計算結果を得ることができる。
したがって、各階床毎に運動エネルギー規制を遵守できる範囲で最もドア速度を速くする(戸開閉時間を短くする)ようなドア速度の適正化を精度良く実現することができ、結果としてエレベータ利用者に対する高い安全性と快適性の両立を実現したエレベータドアの制御装置を提供できる。
実施の形態3.
図4は、この発明の実施の形態3に係るエレベータドアの制御装置の一例を示す構成図である。図4において、図1に示す実施の形態1と同一符号は同一もしくは同等の構成を示しているため、その説明を省略する。新たな構成として、速度制限値計算手段9aは、エレベータドアの各階床毎の質量に基づいて各階床毎のドアパラメータを計算するドアパラメータ計算手段をなすもので、図1における運動エネルギー計算手段9に代わりに設けられて、ドア質量記憶部7からの各階床毎のエレベータドアの質量と式(1)に基づく所定のドア運動エネルギー制限値とに基づいて各階床毎の平均ドア速度の制限値を計算するものである。
本実施の形態3に係るエレベータドアの制御装置では、速度制限値計算手段9aにおいて、階床情報に従う各階床毎のエレベータドアの質量と式(1)に基づく所定のドア運動エネルギー制限値とを用いることによって、各階床毎の平均ドア速度の制限値を予め計算する。なお、この平均ドア速度の制限値は、ドア運動エネルギー制限値を満足する上で必要な平均ドア速度の条件を意味するものである。また、このドア運動エネルギー制限値としては、必ずしも上限だけでなく下限も含めた条件、すなわち一定の範囲をもったドア運動エネルギーによる選択条件としてもよい。
速度パターン選択手段10では、速度制限値計算手段9aからの平均ドア速度の条件となる制限値を用いて、所望のドア運動エネルギー制限を満足させる各々のモータ速度パターンのうちで、これまでと同様に各階床毎に戸開閉時間が最短のモータ速度パターンを各階床毎のモータ速度パターンとして選択し、速度指令部4から速度指令を出力させるものである。
さらに、速度パターン選択手段10では、上記の戸開閉時間が最短のモータ速度パターンが複数存在した場合には、それらのモータ速度パターンのうちで最大ドア速度が最も小さいモータ速度パターンを選択して速度指令を出力させるようにしても良い。
なお、速度パターン選択手段10では各階床毎のモータ速度パターンとして各階床毎に戸開閉時間が最短のモータ速度パターンを選択するとしたが、これに限るものではなく、例えば、平均ドア速度の制限値を満足させる各々のモータ速度パターンのうちで、最大の平均ドア速度を得るモータ速度パターンを選択してもよい。
以上のように、本実施の形態3に係るエレベータドアの制御装置によっても、上記実施の形態1と同様の効果を奏することができる。
実施の形態4.
なお、上記実施の形態1ないし3に係るエレベータドアの制御装置によれば、ドアパラメータ計算手段として運動エネルギー計算手段9または速度制限値計算手段9aを用いてドアパラメータを計算したが、これらの構成に代えて、複数のモータ速度パターンとエレベータドアの質量とを対応付けたマップ(表)を予め記憶したマップ記憶手段を備える構成も考えられる。
図5は、上記マップ記憶手段の一例を示す図である。この図では、4つのモータ速度パターンV1,V2,V3,V4が準備されている場合の例である。図中にある平均速度は、これらの4つのモータ速度パターンを用いた場合の実験ないし計算機シミュレーションで得られたドア速度波形から計算した値である。なお、図5における単位は、平均速度[m/sec]、ドア運動エネルギー[J]、ドア質量[kg]である。
図5より、ドア運動エネルギー制限が指定されたときの各モータ速度パターンとエレベータドアの質量範囲が関係付けられていることが分かる。図5は、例えば、ドア運動エネルギーの制限値が8[J]で指定されている場合(四角枠で囲んだ部分に対応)で説明すると、ドア質量が370kg以下であればモータ速度パターンV1を使用し、370kg〜462kgの範囲であればモータ速度パターンV2を使用し、462kg〜649kgの範囲であればモータ速度パターンV3を使用し、649kg〜665kgの範囲であればモータ速度パターンV4を使用すれば、そのときのドア運動エネルギーは必ず8[J]以下になることを示している。
速度パターン選択手段10は、各階床毎のエレベータドアの質量に基づいて前記マップ記憶手段に予め記憶されたマップから対応するモータ速度パターンを読み取ることで選択し、速度指令部4は、この読み取ったモータ速度パターンによリエレベータドアの開閉制御を行う。このようにマップや表を用いることによっても、ドア運動エネルギー計算手段9や速度制限値計算手段9a等による実際の計算を代用することができる。
なお、上記実施の形態1から実施の形態4に係るエレベータドアの制御装置では、運動エネルギーを計算するドア速度としては、平均速度を用いる場合で説明したが、この他最大速度を用いる場合でも同様の効果を奏することができることは明らかである。
【産業上の利用の可能性】
以上のように、この発明によれば、運動エネルギー規制に係わるドアパラメータを考慮したドア速度の適正化が実現できるようになり、結果として、エレベータ利用者に対する安全性と快適性の両立を実現したエレベータドアの制御装置が提供できる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のモータ速度パターンから選択したモータ速度パターンに応じたトルク指令をエレベータドアの駆動手段に出力して前記エレベータドアの開閉制御を行うエレベータドアの制御装置において、
各階床毎のエレベータドアの質量に基づいて各階床毎のドアパラメータを計算するドアパラメータ計算手段と、
前記ドアパラメータ計算手段による計算結果に基づいて前記複数のモータ速度パターンのいずれか1つを各階床毎のエレベータドアを開閉制御するモータ速度パターンとして各階床毎にそれぞれ選択する速度パターン選択手段と
を備えたことを特徴とするエレベータドアの制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエレベータドアの制御装置において、
前記ドアパラメータ計算手段は、各階床毎のエレベータドアの質量と戸開閉動作時のドア速度情報とに基づいて各階床毎のドア運動エネルギーを計算する運動エネルギー計算手段であり、
前記速度パターン選択手段は、前記運動エネルギー計算手段による各階床毎のドア運動エネルギーの計算結果に基づいて前記複数のモータ速度パターンのいずれか1つを各階床毎のエレベータドアを開閉制御するモータ速度パターンとして各階床毎にそれぞれ選択する
ことを特徴とするエレベータドアの制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のエレベータドアの制御装置において、
前記速度パターン選択手段は、前記運動エネルギー計算手段により計算された複数のドア運動エネルギーのうち所定のドア運動エネルギー制限を満足するモータ速度パターンから前記エレベータドアの開閉時間が最短のモータ速度パターンを選択する
ことを特徴とするエレベータドアの制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のエレベータドアの制御装置において、
前記速度パターン選択手段は、前記エレベータドアの開閉時間が最短のモータ速度パターンが複数存在した場合に、この複数の最短のモータ速度パターンのうち最大ドア速度が最も小さいモータ速度パターンを選択する
ことを特徴とするエレベータドアの制御装置。
【請求項5】
請求項2に記載のエレベータドアの制御装置において、
前記速度パターン選択手段は、前記運動エネルギー計算手段により計算された複数のドア運動エネルギーのうち所定のドア運動エネルギー制限を満足する最大のドア運動エネルギーを得るモータ速度パターンを選択する
ことを特徴とするエレベータドアの制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載のエレベータドアの制御装置において、
前記ドアパラメータ計算手段は、各階床毎のエレベータドアの質量と所定のドア運動エネルギー制限とに基づいて各階床毎の平均ドア速度ないしは最大ドア速度の制限値を計算する速度制限値計算手段であり、
前記速度パターン選択手段は、前記速度制限値計算手段による各階床毎の平均ドア速度ないしは最大ドア速度の制限値の計算結果に基づいて前記複数のモータ速度パターンのいずれか1つを各階床毎のエレベータドアを開閉制御するモータ速度パターンとして各階床毎にそれぞれ選択する
ことを特徴とするエレベータドアの制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載のエレベータドアの制御装置において、
前記速度パターン選択手段は、計算された平均ドア速度ないしは最大ドア速度の制限値を満足するモータ速度パターンから前記エレベータドアの開閉時間が最短のモータ速度パターンを選択する
ことを特徴とするエレベータドアの制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載のエレベータドアの制御装置において、
前記速度パターン選択手段は、前記エレベータドアの開閉時間が最短のモータ速度パターンが複数存在した場合に、この複数の最短のモータ速度パターンのうち最大ドア速度が最も小さいモータ速度パターンを選択する
ことを特徴とするエレベータドアの制御装置。
【請求項9】
請求項1に記載のエレベータドアの制御装置において、
前記ドアパラメータ計算手段に代えて、前記複数のモータ速度パターンと前記エレベータドアの質量とを対応付けたマップを予め記憶したマップ記憶手段を有し、
前記速度パターン選択手段は、各階床毎の前記エレベータドアの質量に基づいて前記マップ記憶手段に予め記憶されたマップから対応するモータ速度パターンを読み取ることでモータ速度パターンを選択し、この読み取ったモータ速度パターンに基づいてエレベータドアの開閉制御を行う
ことを特徴とするエレベータドアの制御装置。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載のエレベータドアの制御装置において、
前記エレベータドアの戸開閉動作時の前記駆動手段のモータ速度と前記トルク指令とに基づいて前記エレベータドアの質量を計算するドア質量計算手段をさらに備えた
ことを特徴とするエレベータドアの制御装置。

【国際公開番号】WO2004/028951
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【発行日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−539503(P2004−539503)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012156
【国際出願日】平成15年9月24日(2003.9.24)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】