説明

エレベーター

【課題】
乗りかごの位置や速度を高精度に検出し、信頼性を高める。
【解決手段】
昇降路1に沿って設置され音響信号を伝播する音響信号伝導体3と、昇降路1に沿って設置され電波信号を受信する漏洩同軸ケーブル7と、乗りかご2に、かつ音響信号伝導体3に近接するように取り付けられ音響信号を検出して電気信号に変換する信号検出器9と、乗りかご2に、かつ漏洩同軸ケーブル7に近接するように取り付けられ漏洩同軸ケーブル7へ電波信号を発信する信号出力アンテナ10と、音響信号伝導体3の一端から音響信号を送出する信号入力器5と、を備え、信号入力器5で呼び出し信号として音響信号を送り出し、信号検出器9で検出して電波信号を信号出力アンテナ10から発信し、漏洩同軸ケーブル7で応答信号として受信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降路を移動する乗りかごの位置と速度を検出し、それに基づき運行制御するエレベーターに関し、特に2本以上の昇降路空間を複数の乗りかごが循環移動する循環式マルチカーエレベーターに好適である。
【背景技術】
【0002】
従来、昇降路に1台の乗りかごを運行するエレベーターは、着床時にドア付近で精度良く位置を検出すれば良く、非常時は調速機により速度超過を検出すれば良かった。そこで、運転中の位置・速度を検出するため、駆動モータの軸にエンコーダを取り付けたり、ロープと駆動プーリの滑り等により位置検出の誤差が累積することを防ぐため昇降路のドア付近に遮へい板を設け、その通過を検出し、エンコーダの位置検出値を遮へい板の位置に合わせて補正したり、することが行われている。
また、乗りかごの走行路に並行させて無端状のガバナロープを張り、機械室側のプーリに巻きかけ調速機を取り付け、乗りかごが定格速度を超えて落下するときに、駆動モータを止め、非常止めを作動させている。
【0003】
さらに、昇降路を複数の乗りかごで共有するマルチカーエレベーターは、乗りかご同士が衝突しないように、それぞれの乗りかごの位置と速度を常に正確に把握して制御する必要がある。そのため、乗りかごに取り付けたローラを昇降路の上下にわたって据え付けてあるガイドレールに押し当て、ローラの回転量を検出すること、乗りかご上から先行する乗りかごに向かって光や電波等を放射し、その反射信号を利用して2台の相対距離を求めること、これらの位置情報を無線通信により機械室にあるエレベーター制御装置に送ること、が知られ、例えば特許文献1に記載されている。
【0004】
さらに、強磁歪性素材のワイヤの中を超音波の音響信号が均一の速度で伝播する特性を利用し、伝搬時間より乗りかごの位置を検出することが知られ、例えば特許文献2に記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平5−286655号公報
【特許文献2】特開2000−221258号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術において、乗りかごの上に検出器を設置する特許文献1に記載のものは、位置や速度の情報を無線により機械室に送るため、無線通信の負担が大きく外乱に対する信頼性の確保が困難であった。また、音響信号伝導体を用い単に、伝搬時間を利用する特許文献2に記載のものは、同一昇降路内で複数の乗りかごの位置,速度を検出することは困難であり、到底、マルチカーエレベーターに用いることができるものではなかった。
【0007】
本発明の目的は、同一昇降路内であっても複数の乗りかごの位置や速度を高精度に検出し、信頼性を高めることにある。また、他の目的は、上下方向のみならず横方向に乗りかごが移動したとしても、機器の干渉が無く安定して位置の把握を可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、昇降路に沿って乗りかごが移動するエレベーターにおいて、前記昇降路に沿って設置され音響信号を伝播する音響信号伝導体と、前記昇降路に沿って設置され電波信号を受信する漏洩同軸ケーブルと、前記乗りかごに、かつ前記音響信号伝導体に近接するように取り付けられ前記音響信号を検出して電気信号に変換する信号検出器と、前記乗りかごに、かつ前記漏洩同軸ケーブルに近接するように取り付けられ前記漏洩同軸ケーブルへ電波信号を発信する信号出力アンテナと、前記音響信号伝導体の一端から音響信号を送出する信号入力器と、を備え、前記信号入力器で呼び出し信号として音響信号を送り出し、前記信号検出器で検出して電波信号を前記信号出力アンテナから発信し、前記漏洩同軸ケーブルで応答信号として受信するものである。
【0009】
また、本発明は、昇降路に沿って乗りかごが移動するエレベーターにおいて、前記昇降路に沿って設置され音響信号を伝播する音響信号伝導体と、前記昇降路に沿って設置され電波信号を受信する漏洩同軸ケーブルと、前記乗りかごに、かつ前記漏洩同軸ケーブルに近接するように取り付けられ前記漏洩同軸ケーブルから電波を受信する信号受信アンテナと、前記乗りかごに、かつ前記音響信号伝導体に近接するように取り付けられ、前記音響信号伝導体へ音響信号を送出する信号出力器と、前記漏洩同軸ケーブルに電波信号を発信する信号発生器と、前記音響信号伝導体の一端に音響信号を検出する信号検出器と、を備え、前記信号発生器で呼び出し信号として電波を発信し、前記信号受信アンテナで検出して音響信号を前記信号出力器から前記音響信号伝導体に応答信号として送出するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、音響信号伝導体と漏洩伝送路を用いて乗りかごの位置や速度を検出することができるので、無線通信の負担が小さく、ロープの切断や滑りに影響されること無く乗りかごの位置を高精度に検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1を参照して、昇降路1の中を上下に移動する乗りかご2の位置を検出することについて説明する。
昇降路1の上下に沿って線状の音響信号伝導体3を設置する。音響信号伝導体3の上端部に制御装置4から発せられる電気信号を音響信号に変換して音響信号伝導体3の中に音響信号を発生させる信号入力器5を配置する。また、音響信号が音響信号伝導体3の端部で反射して外乱とならないように、両端に減衰器6を取り付ける。
さらに、昇降路1の上下にわたって漏洩同軸ケーブル(漏洩伝送路)7を設置する。漏洩同軸ケーブル7は受信アンテナとして機能し、上下に長く延びた昇降路1の全域で電波信号を受信する。受信した電波信号は、増幅器8により増幅し、制御装置4に入力する。
【0012】
乗りかご2に、音響信号伝導体3に僅かな隙間で近接する位置に信号検出器9を取り付ける。信号検出器9は、音響信号伝導体3の中を伝播して届く音響信号を検出して電気信号に変換する。さらに、漏洩同軸ケーブル7に僅かな隙間で近接する位置に信号出力アンテナ10を取り付ける。
【0013】
次に、動作を説明する。
制御装置4は、所定の時間間隔で呼び出し信号を生成し、信号入力器5によって音響信号伝導体3の中に呼び出し信号を送り出す。呼び出し信号は音響信号伝導体3の中を均一の速度で伝播し、乗りかご2の位置に到達する。乗りかご2に取り付けた信号検出器9は、呼び出し信号を検出すると、即座に信号出力アンテナ10より応答信号を発信する。
漏洩同軸ケーブル7は信号出力アンテナ10の近傍で応答信号を受信し、増幅器8で増幅した電気信号を制御装置4に入力する。制御装置4は、呼び出し信号の発生時間と応答信号の受信時間の時間差より、乗りかご2の位置を求める。
【0014】
音響信号伝導体3の信号伝播速度をvw とし、呼び出し信号と応答信号の時間差をΔtとし、信号入力器5や信号検出器9の内部処理時間による既知の遅れ時間をt0 とすると、乗りかご2の位置xcは、xc=vw×(Δt−t0)として求めることができる。なお、応答信号は光速で瞬時に伝わるので、遅れ時間は十分小さく無視できる。
【0015】
また、音響信号伝導体3と漏洩同軸ケーブル7を逆に使っても良い。つまり、増幅器8を信号発生器とし、信号入力器5を信号検出器に置き換えることにより、漏洩同軸ケーブル7を使って呼び出し信号を送り出し、音響信号伝導体3を使って応答信号を検出しても良い。
【0016】
次に、速度検出について説明する。
第1の方法は、呼び出し信号を所定の微小時間間隔Δtで発信して位置x1,x2を求め、微小時間に移動した距離Δx=x2−x1を時間間隔Δtで割って速度を求める。
第2の方法は、呼び出し信号を2つのパルス信号で与える。乗りかご2が静止している時は信号検出器9が検出するパルス間隔は変わらないが、乗りかご2が上方に移動中の時は検出パルス間隔が短くなり、下方に移動中の時はパルス間隔が長くなる。呼び出しのパルス間隔をΔtとし、音響信号伝導体3の信号伝播速度をvw とし、検出したパルス間隔をΔt′とすると、乗りかご2の速度vcは、vc=(vw×Δt)/Δt′−vwとして求めることができる。この方法は、制御装置4と図示しないかご上の制御装置の両方で速度vc を計算することができる。よって、後述の通り乗りかご2自身で異常な速度上昇を検知して非常止めを作動させることができる。
【0017】
第3の方法は、呼び出し信号に正弦波による一定の初期波長を与える。乗りかご2が静止している時は呼び出し検出器9が検出する波長は変わらないが、乗りかご2が上方に移動中の時はドップラ効果により波長が短くなり、下方に移動中の時は波長が長くなる。初期波長をλとし、音響信号伝導体3の信号伝播速度をvw とし、信号検出器9が検出する波長をλ′とすると、乗りかご2の速度vc は、vc=vw×(1−λ′/λ)として求めることができる。この方法は図示しないかご上の制御装置で速度vc を計算することができる。ただし、検出した呼び出し信号と同一波長の応答信号を送信しないと、制御装置4で速度を計算することができない。
【0018】
第4の方法は、検出器9の検出波形を微分して速度を検出する。検出器9の出力波形Eは概正弦波形状であり、速度に応じて波長が変化する。これに従い、出力波形Eの中央部でEが+から−に変化する点の傾きの大きさも速度に応じて変化する。そして、出力波形Eの微分波形E′の最大値は、出力波形Eが+から−に変化する点の傾きを表す。そこで、検出器9に微分回路を付加して最大値を測定することにより、直接速度を検出することができる。
【0019】
図2に漏洩同軸ケーブル7と信号出力アンテナ10の形状を示す。漏洩同軸ケーブル7の漏洩孔11は、片面の狭い範囲に集中させ、アンテナとしての受信範囲を必要最低限に限定する。また、信号出力アンテナ10の形状はU字にして指向性を高め、電波の輻射角度を必要最低限にする。このような形状工夫により、応答信号を制御装置4に確実に伝えることができる。
なお、外乱による通信障害の恐れが無く特別な信号出力アンテナ10が不要の場合は、無線LANでよく用いられている平面型アンテナ等の指向性のあるアンテナを用いても良い。
【0020】
次に、循環式のマルチカーエレベーターに適用した例を説明する。
まず、図3を用いて2本分の昇降路1の中を複数の乗りかご2が循環移動するマルチカーエレベーターの構造を説明する。
上下に複数のプーリ12を円弧状に配置して循環ロープ13を構成し、2組の循環ロープ13F,13Rを乗りかご2の前後に配置する。乗りかご2上部の対角上に2つのロープ締結部14F,14Rを取り付け、乗りかご2を前後の循環ロープ13F,13Rに固定する。図3では、前後の循環ロープ13F,13Rをそれぞれ1本の線で描いているが、実際には複数の循環ロープ13F,13Rで構成する。そして、各乗りかご2をそれぞれ異なる循環ロープ13F,13Rに固定する。本実施例では、循環ロープ13の対向する位置に2つの乗りかご2を固定し、相互に自重を打ち消すようにしている。
上部の駆動プーリ12Uは、前後にずらして配置しており、それぞれ異なる循環ロープ13が巻きかけられている。各駆動プーリ12Uをそれぞれの駆動モータ15で動かすことによって、各循環ロープ13を個別に動かす。その結果、複数の乗りかご2を独立して駆動することができる。
【0021】
昇降路1上部の機械室16には、それぞれの乗りかご2を駆動する複数の駆動モータ
15と、これら駆動モータ15を制御するエレベーター制御装置17がある。
通常の運行制御においては、エレベーター制御装置17はモータ駆動軸や駆動プーリに取り付けたエンコーダにより位置と速度を検出できる。
さらに、非常時も乗りかご2の位置と速度を検出する。つまり、ロープが滑ったり、ロープが切断したりしても常に位置・速度を確実に測定可能とする。そして、乗りかご2間の相対距離と相対速度を監視し、必要があれば駆動モータ15の主ブレーキ18を作動させたり、非常止め装置等を作動させたりする。
エレベーターの駆動モータ15は、電源遮断で作動する電磁式の主ブレーキ18が取り付けてある。平常時は、エレベーター制御装置17は主ブレーキ18の電源をON/OFFしてブレーキを制御するが、非常時は、駆動系の電源供給を遮断することにより、駆動モータ15を確実に停止させて主ブレーキ18を作動させる。
【0022】
循環式マルチカーエレベーターの昇降路1は、左右2本の縦走行路19と、円弧を描いて隣の走行路に横移動する上下の横走行路20に分割できる。特に、縦走行路19で乗りかご2同士が衝突しないように各乗りかご2の位置と速度を測定する必要がある。これに対して、横走行路20は1台の乗りかご2しか入るスペースが無いため、衝突の心配は無い。ただし、この区間で乗りかご2の有無を監視して、乗りかご2がある場合は他の乗りかご2のこの区間への侵入を防止する必要がある。横走行路20とその前後における移動の制約について、詳細は後述する。
【0023】
左右それぞれの縦走行路19L,19Rで乗りかご2の位置を検出するために、音響信号伝導体3は、左右それぞれの縦走行路19L,19Rに必要となる。音響信号伝導体3が横走行路20で乗りかご2と干渉しないように、左縦走行路19Lの左側と右縦走行路19Rの右側に配置する。漏洩同軸ケーブル7も同様に配置する。よって、乗りかご2の左右に信号検出器9と信号出力アンテナ10を配置する必要がある。
【0024】
上下の横走行路20には、近接センサ21を複数配置して、横走行路20における乗りかご2の有無を検出する。近接センサ21を3箇所に配置することにより、横走行路20侵入直後から横走行路20を脱出する直前までの間、横走行路20の全域で乗りかご2を検出できるようにしている。
【0025】
近接センサ21の代わりに、昇降路1側壁に光学式または超音波式の変位センサ22を配置して横方向から乗りかごの位置を検出して横走行路20の乗りかご2の有無を検出しても良い。横走行路20の直前と直後にある乗りかご2を検出できる位置に昇降路の左右側から中心に向けて変位センサ22を配置する。そして、横移動による変位量を検出して、横走行路20における乗りかご2の有無と、その正確な位置,速度を検出する。
【0026】
次に、図5を用いて、各部の位置関係を詳しく説明する。図5は、昇降路1を上から見た断面図で、左右の縦走行路19に乗りかご2がある。
乗りかご2の前後には循環ロープ13F,13Rがあり、乗りかご2が横走行路を通過するときに、循環ロープ13の上をロープ締結部14が通過する。よって、乗りかご2の前後に音響信号伝導体3や漏洩同軸ケーブル7を配置するのは難しい。
【0027】
昇降路1に設置する音響信号伝導体3と乗りかご2に取り付ける信号検出器9は5〜
10mm程度の近距離に配置する必要がある。また、外乱の影響を受けにくくするため、漏洩同軸ケーブル7と信号出力アンテナ10もできるだけ接近させて配置した方が良い。よって、循環ロープ13を挟んで距離を隔てて、乗りかご2の前後に音響信号伝導体3と漏洩同軸ケーブル7を配置することは難しい。
【0028】
乗りかご2の左右側面には、ガイドローラ23が取り付けてあり、ガイドレール24で乗りかご2の左右を支持している。しかし、横走行路では、乗りかご2はガイドレール
24から外れて隣の走行路25に横移動する。よって、左右の走行路25の中間部に、音響信号伝導体3や漏洩同軸ケーブル7を配置するのは難しい。
【0029】
そこで、循環ロープ13,ロープ締結部14,乗りかご2に干渉しないように、左走行路25Lの左側と右走行路25Rの右側に音響信号伝導体3と漏洩同軸ケーブル7を配置する。そして、乗りかご2の左右両側に信号検出器9と信号出力アンテナ10を配置し、左走行路25Lでは左側の機器を使い、右走行路25Rでは右側の機器を使う。
【0030】
乗客の行先階やドアの開閉指示等、かご上制御装置とエレベーター制御装置の一般制御信号は、無線LANを用いて通信する。その際、他の乗りかご2が電波の障害物となるので、アクセスポイントのアンテナにも漏洩同軸ケーブル26を使う。さらに、昇降路1内で電波の反響による干渉を防ぐため、漏洩同軸ケーブルに向けてできるだけ近くに指向性のある平面型アンテナ27を乗りかご2に取り付ける。
【0031】
一般制御信号は、横走行路においても常に通信を維持する必要がある。乗りかご2の前後であれば、横走行路においても距離が離れないようにアンテナを配置できる。しかし、部分的に循環ロープ13が障害物になるので、昇降路1の左右に分割して漏洩同軸ケーブル26を配置し、それぞれに対応する平面型アンテナ27を乗りかご2に配置する。
【0032】
このとき、無線LANの電波が位置・速度検出の漏洩同軸ケーブル7に干渉しないように、2つの漏洩同軸ケーブル7,26は、できるだけ離れた位置に配置する。無線LANの漏洩同軸ケーブル26を乗りかご2の左前と右後に配置することから、左側の位置検出用漏洩同軸ケーブル7Lを後方に、右側の位置検出用漏洩同軸ケーブル7Rを前方に配置している。なお、応答信号と制御信号を確実に分離できる場合は、漏洩同軸ケーブル7,26を共用しても良い。
【0033】
なお、呼び出し信号と応答信号の伝達に音響信号伝導体3と漏洩同軸ケーブル7を逆に使う場合は、増幅器8を信号発生器とし、信号入力器5を信号検出器とし、乗りかご2に取り付ける信号出力アンテナ10を信号受信アンテナとし、信号検出器9を信号出力器とすれば良い。
【0034】
上記例は、左右の機器の切替動作が煩雑で、必要な機器の数も多い。これを考慮して、乗りかごの背面に信号検出器9と信号出力アンテナ10を取り付けた例を図6に示す。
乗りかご2の後方に左側の循環ロープ13Rがあるため、左側縦走行路19Lの音響信号伝導体3Lと漏洩同軸ケーブル7Lは、横走行路20で循環ロープ13Rに干渉しないように配置する。漏洩同軸ケーブル7Lは、曲げることができるので容易に干渉を回避できる。しかし、音響信号伝導体3Lは、曲げない方が良好に測定できるので、全体が循環ロープ13Rの内側に収まるように配置する。ただし、測定範囲を確保するため、音響信号伝導体3Lの減衰器6Lと信号入力器5Lは、縦走行路19Lの外側にはみ出して配置する。さらに、横走行路20で循環ロープ13Rが作るアーチの内側空間を利用して配置する。アーチのスペースを広く使うため、音響信号伝導体3Lはできるだけ右に配置した方が良い。これにより、縦走行路19L全域にわたって音響信号伝導体を張ることができる。
【0035】
図7は、他の実施例の昇降路1を上から見た断面図である。かご2の横移動で信号出力アンテナ10と漏洩同軸ケーブル7が干渉しないように、第2の実施例に比べて間隔を離して配置する。同様に、音響信号伝導体3と信号検出器9の間隔も離して配置する。よって、第2の実施例よりも信号送受信性能が優れた機器が要求される。
【0036】
無線LANの漏洩同軸ケーブル26は、左側走行路25Lの左と、右側走行路25Rの右に配置する。また、乗りかご3の左右に無線LAN用の平面型アンテナ27を取り付ける。横走行路で漏洩同軸ケーブル26と平面型アンテナ27の距離が離れるので、第2の実施例よりも強い電波で通信する必要がある。しかし、位置検出装置の漏洩同軸ケーブル7から十分離れているので位置検出装置に悪影響を与える心配は無い。なお、応答信号と制御信号を確実に分離できる場合は、漏洩同軸ケーブル7,26を共用しても良い。
【0037】
位置・速度検出装置は、呼び出し信号を発信してから、一定時間たっても応答信号が得られない場合、検出した位置・速度が前回の位置・速度に対して著しく離れていて整合性がとれない場合、自身の故障として検出する。
循環ロープ13が切断するなどして、乗りかご2が急速に落下する場合、位置・速度センサにより乗りかご2の落下を検出できるので、最初に駆動モータ15の主ブレーキ18を作動させる。その後、乗りかご2の非常止めを作動させる。
非常止めを作動させるには、乗りかご2自身で速度検出すれば良い。つまり、ロープ切断時は自由落下により速度が急激に増加することから、異常な速度上昇を検出したときに乗りかご2自身の制御装置で判断して非常止めを作動させる。
乗りかご自身で速度を検出しない場合は、乗りかご2に速度変化検出装置を取り付ける。速度変化検出装置は、回転軸にタコジェネレータ等の回転検出器を取り付けたローラで構成し、これをガイドレール24等に接触させる。
【0038】
次に、図8を用いて、横走行路20とその前後の移動について説明する。
図8(a)のように、横走行路20の直前に先行する乗りかご2fが停止中のとき、後続かご2aは、所定の最小かご間隔L以下に近づくことはできない。この間隔Lは、乗りかごが異常な動作をして緊急に止めるときの制動距離に応じて設定すればよい。
【0039】
その後、図8(b)のように、先行かご2fが進みだして横走行路20に侵入した後も、後続かご2aは停止し続ける。その理由は、横走行路20の近くでガイドレール24が無くなる部分があるため、非常止めによる制動特性が不安定になるので、不用意に乗りかご2同士を近づけられないからである。
【0040】
そして、図8(c)のように、先行かご2fが完全に横走行路20から脱出したら、後続かご2aは進むことができる。ただし、先行かご2fが横走行路20の出口付近にあるときは、後続かご2aは横走行路20の直前までしか進むことができない。特に、図8の(d)のように2つの乗りかご2f,2aが左右に並んだときは、先行かご2fも後続かご2aも横走行路20に侵入することはできない。
【0041】
図8(e)に示すように、先行かご2fが動き始めても、後続かご2aは横走行路に侵入することができない。なぜなら、横走行路20に侵入すると横に移動するので、先行かご2fの下部側面に衝突するからである。
【0042】
図8(f)に示すように、先行かご2fが最小かご間隔L以上の高さまで移動したら、後続かご2aは横走行路20に進入することができる。
【0043】
以上の制約を守るため、先に述べた通り近接センサ21を横走行路20の3箇所に配置する。一つは、横走行路20進入直後の乗りかご2を検出する位置に配置し、一つは横走行路20の中心に配置し、一つは横走行路20の終了直前の乗りかご2を検出する位置に配置する。
乗りかご2が横走行路20にあるときは、いずれか1つの近接センサ21が乗りかご2を検出し、後続かご2を近づけないようにする。横走行路20の直前と直後は、縦走行路19なので音響信号伝導体3による位置検出装置により正確な位置を検出する。
よって、図8の(d)のように2つの乗りかご2が左右に並んだ状態を検出することができる。このとき、先行かご2fもしくは後続かご2aが横走行路20に侵入すると、近接センサ21cまたは21aが乗りかご2の進入を検出する。そして、エレベーター制御装置17は、乗りかごを停止させる。
なお、近接センサ21の代わりに変位センサ22を用いる場合、検出距離によって横走行路への進入の有無を判断する。
【0044】
マルチカーエレベーターの場合、複数の乗りかご2を識別する必要がある。また、走行中に乗りかご2のドアが開いたときに非常停止させる必要があるが、機械室側でこれを検出できない。さらに、かご上での保守運転時の非常停止ボタンも、機械室側で検出できない。これらの制御信号は、一般の制御信号よりも信頼性の高い通信手段を用いることが望ましい。よって、応答信号を数ビットのパルス信号にして、乗りかご2を識別するための情報と、緊急時の制御信号を重畳して与える。
【0045】
図9に、パルス信号とその内容について整理する。信号の始まりと終わりを表すため、パルスの両端は必ず1とする。間に挟まれた4ビットにより情報を与える。上位3ビットは、乗りかご2の識別番号を表す。下位1ビットは、駆動モータ電源遮断要求の有無を表す。例えば、走行中に乗りかご2のドアが開いた場合に電源遮断による主ブレーキ18の作動を要求する。
【0046】
このときに、読み取りエラーが生じた場合に対処するためには、乗りかご2自身が速度変化の有無を検出すれば良い。つまり、電源遮断要求信号が正常に機械室16に伝わる場合は、十分な減速度で乗りかご2が減速するのを検出できる。逆に、正常に伝わらなければ、そのような減速を検出しない。このようなときに、乗りかご2自身の判断により、非常止めを作動させることができる。さらに、読み取りエラーが起こり得ない信号で、再度、機械室に非常停止信号を伝えることが望ましい。連続ON信号により、全駆動モータ
15の電源を遮断して主ブレーキ18を作動させる。この信号は、縦走行路19で非常停止ボタンを押したときにも使うことができ、全乗りかご2を停止させる。
【0047】
先に、速度検出方法のうち第3の方法の場合は、検出した呼び出し信号に応じた波長またはパルス幅で応答信号を発信する必要がある。よって、その信号の後にパルス信号を発信する。
【0048】
以上によれば、ドアスイッチ等、乗りかご側から機械室側に制御信号を確実に伝達することができ、昇降路にガバナロープが不要となるので昇降路スペースを節約できる。さらに、乗りかごから垂らす信号ケーブルが不要となるので、高揚程の超高速エレベーター等、長大なケーブルによる質量増加を軽減することができる。
【0049】
また、走行路に複数の乗りかごを有するマルチカーエレベーターに容易に適用することができ、乗りかご側から機械室側に制御信号を伝達することにより、乗りかご同士が衝突しないように運行制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明による一実施の形態を示す側断面図。
【図2】一実施の形態の信号出力アンテナ部を示す斜視図。
【図3】マルチカーエレベーターを示す斜視図。
【図4】本発明による他の実施の形態を示す側断面図。
【図5】他の実施の形態による昇降路の上面から見た断面図。
【図6】さらに他の実施の形態を示す側断面図。
【図7】さらに他の実施の形態による昇降路の上面から見た断面図。
【図8】他の実施の形態による横走行路における動作説明図。
【図9】他の実施の形態による応答信号の種類を示す図。
【符号の説明】
【0051】
1 昇降路
2 乗りかご
3 音響信号伝導体
4 制御装置
5 信号入力器
6 減衰器
7 漏洩同軸ケーブル
8 増幅器
9 信号検出器
10 信号出力アンテナ
11 漏洩孔
12U 駆動プーリ
12L プーリ
13 循環ロープ
14 ロープ締結部
15 駆動モータ
16 機械室
17 エレベーター制御装置
18 主ブレーキ
19 縦走行路
20 横走行路
21 近接センサ
22 変位センサ
23 ガイドローラ
24 ガイドレール
25 走行路
26 漏洩同軸ケーブル(無線LAN用)
27 平面型アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降路に沿って乗りかごが移動するエレベーターにおいて、
前記昇降路に沿って設置され音響信号を伝播する音響信号伝導体と、
前記昇降路に沿って設置され電波信号を受信する漏洩同軸ケーブルと、
前記乗りかごに、かつ前記音響信号伝導体に近接するように取り付けられ前記音響信号を検出して電気信号に変換する信号検出器と、
前記乗りかごに、かつ前記漏洩同軸ケーブルに近接するように取り付けられ前記漏洩同軸ケーブルへ電波信号を発信する信号出力アンテナと、
前記音響信号伝導体の一端から音響信号を送出する信号入力器と、
を備え、前記信号入力器で呼び出し信号として音響信号を送り出し、前記信号検出器で検出して電波信号を前記信号出力アンテナから発信し、前記漏洩同軸ケーブルで応答信号として受信することを特徴とするエレベーター。
【請求項2】
昇降路に沿って乗りかごが移動するエレベーターにおいて、
前記昇降路に沿って設置され音響信号を伝播する音響信号伝導体と、
前記昇降路に沿って設置され電波信号を受信する漏洩同軸ケーブルと、
前記乗りかごに、かつ前記漏洩同軸ケーブルに近接するように取り付けられ前記漏洩同軸ケーブルから電波を受信する信号受信アンテナと、
前記乗りかごに、かつ前記音響信号伝導体に近接するように取り付けられ、前記音響信号伝導体へ音響信号を送出する信号出力器と、
前記漏洩同軸ケーブルに電波信号を発信する信号発生器と、前記音響信号伝導体の一端に音響信号を検出する信号検出器と、
を備え、前記信号発生器で呼び出し信号として電波を発信し、前記信号受信アンテナで検出して音響信号を前記信号出力器から前記音響信号伝導体に応答信号として送出することを特徴とするエレベーター。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のものにおいて、前記呼び出し信号を送り出してから前記応答信号を受信するまでの時間に基づいて前記乗りかごの位置を求めることを特徴とするエレベーター。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のものにおいて、前記呼び出し信号を所定の時間間隔で発信してそれぞれの応答信号を受信するまでの時間に基づいて前記乗りかごの速度を求めることを特徴とするエレベーター。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のものにおいて、前記呼び出し信号を複数のパルス信号で与え、前記信号検出器で検出されるパルス信号のパルス間隔に基づいて前記乗りかごの速度を求めることを特徴とするエレベーター。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のものにおいて、前記呼び出し信号を所定波長の正弦波とし、前記信号検出器で検出される信号の波長に基づいて前記乗りかごの速度を求めることを特徴とするエレベーター。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のものにおいて、前記エレベーターは、前記昇降路の中を複数の前記乗りかごが循環移動するマルチカーエレベーターであることを特徴とするエレベーター。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のものにおいて、前記エレベーターは、左右2本の縦走行路と該縦走行路の上下に各1本の横走行路を有した前記昇降路を複数の前記乗りかごが循環移動するマルチカーエレベーターであり、左側の前記縦走行路の左側に前記音響信号伝導体あるいは漏洩同軸ケーブルのいずれか一方を、右側の前記縦走行路の右側に他方をそれぞれ配置し、前記乗りかごの左側に前記信号検出器あるいは前記信号出力アンテナのいずれか一方を、右側に他方を備えたことを特徴とするエレベーター。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のものにおいて、前記エレベーターは、左右2本の縦走行路と該縦走行路の上下に各1本の横走行路を有した前記昇降路を複数の前記乗りかごが循環移動するマルチカーエレベーターであり、前記横走行路に前記乗りかごの有無を検出する近接センサを配置したことを特徴とするエレベーター。
【請求項10】
請求項1又は2に記載のものにおいて、前記エレベーターは、前記昇降路の中を複数の前記乗りかごが循環移動するマルチカーエレベーターであり、前記応答信号を数ビットのパルス信号とし、前記乗りかごを識別するための情報が重畳されたことを特徴とするエレベーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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